(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685598
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】電流センサー
(51)【国際特許分類】
G01R 15/20 20060101AFI20200413BHJP
【FI】
G01R15/20 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-85296(P2016-85296)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-194376(P2017-194376A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】500330566
【氏名又は名称】メトロ車両株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593180402
【氏名又は名称】東洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴之
【審査官】
永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−140368(JP,U)
【文献】
特開2002−122627(JP,A)
【文献】
特開2014−199251(JP,A)
【文献】
特開2014−10012(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0082356(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/20
G01R 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流検出対象である導線の外周に巻き回される鉄芯と、
先端部分に磁気センサーを有する近接センサーと、
前記近接センサーを収容する筐体と、を有し、
前記近接センサーは、該近接センサーの先端部分が前記筐体の表面に露出する状態で、前記筐体内部で固定され、
前記鉄芯は、磁束誘導用鉄芯と検知用鉄芯とから構成され、
前記磁束誘導用鉄芯の一端は、当該磁束誘導用鉄芯が前記導線の外周に巻き回された状態の時に、前記筐体に固定され、
前記検知用鉄芯の一端は、あらかじめ前記近接センサーの前記先端部分に接触した状態で固定され、
前記磁束誘導用鉄芯の他端と前記検知用鉄芯の他端とがボルトにより接合される、
電流センサー。
【請求項2】
前記検知用鉄芯の前記一端の幅は、当該検知用鉄芯の前記他端の幅よりも狭い、
請求項1に記載の電流センサー。
【請求項3】
前記鉄芯には、パーマロイが用いられる、
請求項1または請求項2に記載の電流センサー。
【請求項4】
前記電流センサーは、前記近接センサーと前記鉄芯を複数有することを特徴とする、
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の電流センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電流センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、磁気を応用して電流の有無を検出することは一般に行われていた。例えば特許文献1に示されるように、磁性体コアと磁電変換素子とを備えた電流センサーがある。磁性体コアは、両端がギャップ部を介して対向し、中空部の周囲を囲んで一連に形成された概ねリング状の磁性体である。磁性体の中空部は、被検出電流が通過する電線を通す空間である
【0003】
また、磁電変換素子は、磁性体コアのギャップ部に配置され、中空部を貫通して配置されたバスバーを流れる電流に応じて変化する磁束を検出し、磁束の検出信号を電気信号として出力する素子である。磁電変換素子としては、通常、ホール素子が採用される。
【0004】
磁気方式の電流センサーにおいて、磁性体コアのギャップ部の幅、即ち、磁性体コアの両端面の間隔が広すぎると、電流センサーの測定感度が低下する。そのため、磁性体コアに設けられるギャップ部の間隔を極力狭くして、電流センサーの測定感度の低下を避けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−219221公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来からある電流センサーは、磁性体コア等の寸法や重量が大きい点が問題であった。また屋外での使用を想定していないため、センサーの構造を屋外での使用に耐えうるものにしようとすると、更に寸法や質量が増加する問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点に係る電流センサーは、ホール素子を用いた磁気センサーと、磁気収集用鉄芯と、磁気センサーを収容する筐体とを有する。鉄芯は、電流計測対象の導線の周囲に巻回され、その両端は筐体の異なる場所に固定された構成をとることで、電流センサーは導線に固定される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一観点に係る電流センサーは、上記構成を採ることにより、コンパクトで屋外の使用を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電流センサーを、電流測定対象の電線に取り付けた状態の斜視図である。
【
図4】電流センサーを背面から見た時の斜視図である。
【
図5】カバーを除去した状態の電流センサーの背面図である。
【
図6】カバーを除去した状態の電流センサーを上面から見た図である。
【
図7】近接センサーを除去した状態のセンサー収容筐体を左面から見た図である。
【
図8】カバーを除去した状態の電流センサーを左面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施例の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
以下に説明する実施例において、電流センサーを構成する各構成物(部品)を説明する際、各部品に付された参照番号を用いて説明を行う。なお、“a”や“b”等のsuffixが付された参照番号が用いられることがある。suffixが異なり参照番号が同一の部品は、同じ種類の部品であることを意味する。また、同種の部品に共通の事項を説明する場合、suffixを略した参照番号を用いて部品を特定することがある。
【0012】
図1は、本実施例に係る電流センサー1を、電流測定対象の電線6に取り付けた状態を示す斜視図である。
図2は、電流センサー1を
図1の矢印Aの方向(上面)から見た図で、
図3は電流センサー1を、電線6の取り付けられる面(前面)から見た時の図である。
【0013】
電流センサー1は、センサー収容筐体2、2本の鉄芯3(3a,3b)、取付け用バンド(タイラップ)4を備える。6は電流センサー1による電流測定対象の電線で、例えば鉄道における架線である。センサー収容筐体2は直方体形状の箱で、近接センサー41を紫外線などから保護し、また鉄芯3を取り付けるための筐体である。またセンサー収容筐体2は、タイラップ4の取り付け部10を有する。
【0014】
電流センサー1により電線6に流れる電流の測定を行う場合、タイラップ4を用いて電流センサー1を電線6に取り付ける。
図3に示されているように、取付け部10は2つの穴(11a,11b)を有し、電線6の外周に巻き付けられたタイラップはこの2つの穴(11a,11b)に通されることで、電線6を電流センサー1に固定する。さらに、鉄芯3a,3bの一端をそれぞれボルト7a,7b(7bは
図1では非図示)でセンサー収容筐体2に固定し、鉄芯3a,3bを電線6の外周に巻き回し、また鉄芯3a,3bのもう一端は、それぞれボルト8a,8bでセンサー収容筐体2に固定してから、測定を行う。
【0015】
鉄芯3a,3bは電線6に巻き回される必要があるため、その長さは電線6の外周よりも長い必要がある。また電線6に巻き回すための曲げ加工が容易になるよう、鉄芯3a,3bにはあまり厚みのないもの(一例として厚さ0.5mm程度のもの)が用いられる。なお本実施例では、電線6のうち表面に絶縁体の被覆が施されている場所に鉄芯3a,3bを巻きつける。
【0016】
本明細書では、センサー収容筐体2の各面のうち、電線6に向かい合い、ボルト7a,7bが取り付けられる面を前面と呼び、前面に対向する面のことを背面と呼ぶ。また、ボルト8,9の取り付けられる面を左面と呼ぶこととする。
【0017】
図4は、本実施例に係る電流センサー1を、センサー収容筐体2の背面から見た時の斜視図である。センサー収容筐体2の背面部分は、取り外し可能なカバー21となっており、カバー21はボルト22によって、センサー収容筐体2に固定される。
【0018】
図5は、カバー21を除去した状態の電流センサー1を背面から見た図である。
図6は、カバー21を除去した状態の電流センサー1を上面から見た図である。また
図7は、近接センサー41(41a,41b)を除去した状態でセンサー収容筐体2を左面から見た図である。
【0019】
センサー収容筐体2は、フレーム23とセンサー固定部24から構成される。フレーム23の前面には、タイラップの取付け部10が取り付けられ、背面にはセンサー固定部24が取り付けられている。センサー収容筐体2内には、2つの近接センサー41(41a,41b)が収容される。
【0020】
本実施例に係る電流センサー1で用いられる近接センサー41は、円筒形状のもので、センサー固定部24の取り付け穴241(241a,241b)の位置に固定される。近接センサー41の表面のうちセンサー固定部24に取り付けられる部分には、ねじ山が形成されており、近接センサー41は2つのナット25によって、センサー固定部24に固定される。近接センサー41は、その上端部分がちょうどセンサー収容筐体2の側表面に位置するように、センサー収容筐体2に取り付けられる。
【0021】
なお本実施例では、近接センサー41の右側の、鉄芯3と接する部分を、近接センサー41の「上端」と呼び、そして近接センサーの左側の、リード線42の接続されている部分のことを、近接センサー41の「下端」と呼ぶ。
【0022】
近接センサー41は、近接センサー41の上端部分に磁気センサーを有する。磁気センサーは一例として、ホール素子等の磁電変換素子を用いたセンサーである。磁気センサーは、その垂直方向(
図6に記載の矢印Bの方向)に発生した磁束を検出する。そのため本実施例における電流センサー1では、近接センサー41の上端部分に位置する鉄芯3を、近接センサー41に対して直交するように配置して、磁気センサーに対して垂直に磁界が加わるようにしている。
【0023】
電線6に電流が流れると、電線6の周りに磁束が発生する。発生した磁束は鉄芯3(3a,3b)を通って磁気センサー付近に導かれる。磁気センサーを通過した磁束はセンサー収容筐体2の下端の方へ導かれる。そのため磁束が磁気センサーを通過する際、磁気センサーを直交する形で通過することになる。
【0024】
磁気センサーが磁束を検出すると(つまり磁束が磁気センサーを通過すると)、磁気センサーに電圧が発生する。近接センサー41はその発生した電圧を検出信号としてリード線42に出力する。センサー収容筐体2の下端付近には、鉄芯3がボルト7(7a,7b)で固定されているため、磁気センサーを通過した磁束は鉄芯3へと導かれる。
【0025】
なお、電流センサー1が2つの近接センサー41(41a,41b)を備えている理由は、耐障害性を高めるためである。たとえば一方の近接センサー41が故障して、磁界を検出できなくなった場合でも、もう一方の近接センサー41が正常であれば、検出信号を出力することができる。
【0026】
電線6に電流が流れることで発生する磁束を近接センサー41に効率良く導くために、鉄芯3(3a,3b)には高透磁率の金属、たとえばパーマロイが用いられる。本実施例に係る電流センサー1は、電線6に20A(アンペア)〜3000Aという広い範囲の電流が流れる環境に用いられることを想定したものである。そのため鉄芯3には、小さな電流が電線6に流れた時でも電流検知を可能にするために透磁率が高いこと、かつ大電流が電線6に流れた後、鉄芯3に残る磁束(残留磁束)が殆どないこと、が求められる。たとえば鉄芯3に純鉄を用いた場合、透磁率は高いが、大電流を流した後に残留磁束が保持されてしまうため、それ以降の電流の検知ができなくなる。
【0027】
本願発明者は、鉄芯3に用いるべき素材として何種類かの金属を用いて、電流検知性能と残留磁束の調査を行った。その結果、ニッケル含有率78%のパーマロイが高透磁率を維持しつつ、残留磁束も少ないという事を発見した。さらにパーマロイを水素雰囲気中で焼きなまし処理することで、残留磁束をほぼ0にすることができることを発見した。
【0028】
また、本実施例に係る電流センサー1は、屋外で用いられ、かつ鉄芯3を電線に巻きつけることで設置されなければならない。そのため鉄芯3は、屋外で使用しても錆が生じにくく、かつ電線6への巻き付けを容易にするために変形させやすい(可撓性があり曲げ加工が容易である)素材であることが求められる。パーマロイは錆が生じにくく曲げ加工も容易である点でも、鉄芯3としての用途に適しているため、本実施例に係る電流センサー1では、鉄芯3に、水素雰囲気中で焼きなまし処理を施したパーマロイを用いている。
【0029】
図8は、カバー21を除去した状態の電流センサー1の左面の構造を表している。また
図9は、鉄芯3a,3bの構造を表した図である。鉄芯3は検知用鉄芯32と磁束誘導用鉄芯31の2つで構成される。検知用鉄芯32と磁束誘導用鉄芯31の材質はいずれも同じである。また、磁束誘導用鉄芯31aと31bの形状は同じである。そして検知用鉄芯32aと32bは、上下対称の形状である。磁束誘導用鉄芯31には、ボルト8を通すための穴311が設けられ、また検知用鉄芯32には、ボルト8を通すための穴322(322a,322b)とボルト9を通すための穴321(321a,321b)の、2つの穴が設けられている。
【0030】
電流センサー1を電線6に取り付ける際に、鉄芯3(検知用鉄芯32)の位置がずれて、磁気センサーから離れると、適切に磁束を検出できなくなる。そのため、検知用鉄芯32の左端が近接センサー41の上端に接触した状態が保たれるように、検知用鉄芯32はあらかじめ(電流センサー1を電線6に取り付ける前の段階において)、ボルト9によってセンサー収容筐体2に固定されている。また検知用鉄芯32をセンサー収容筐体2に固定する際、検知用鉄芯32の上にプレート12bを重ねてから、ボルト9で検知用鉄芯32をセンサー収容筐体2に固定する。電流センサー1を電線6に取り付ける際には、磁束誘導用鉄芯31を検知用鉄芯32の上に重ね、さらにその上にプレート12bを重ねてから、ボルト8で磁束誘導用鉄芯31を固定する。
【0031】
また、電線6で発生した磁束を確実に検知するために、磁束誘導用鉄芯31と検知用鉄芯32はある程度の幅を持ったものが用いられる。一例として磁束誘導用鉄芯31と検知用鉄芯32の幅は15mmである。そして鉄芯3に流れる磁束を適切に磁気センサーに導くため、検知用鉄芯32は、先端、つまり磁気センサーに接する部分に近づくにつれ、幅が狭くなるような形状をとる。検知用鉄芯32の、磁気センサーに接する部分の幅は、一例として5mmである。これにより、鉄芯(磁束誘導用鉄芯31)に流れる磁束を集約し、磁束が確実に磁気センサーに導かれるようにしている。
【0032】
以上が本発明の一実施形態の説明である。本実施形態に係る電流センサー1は、上で説明したような構造をとっているため、例えば電線が既に施設に設置済みの状態にあっても、電流センサー1を容易に取り付けることができ、屋外での使用も可能である。なお、ここで説明した電流センサーの構造は、本発明の説明のための例示であって、本発明の範囲をこの実施例にのみ限定する趣旨ではなく、種々の変形を加えることも可能である。たとえばタイラップを用いずに、鉄芯3a,3bを電流検出対象の電線6に巻きつけることで、電流センサーを電線に固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1:電流センサー
2:センサー収容筐体
3a,3b:鉄芯
4:取付け用バンド(タイラップ)
5:電線管
6:電線
7a,7b,8a,8b,9a,9b:ボルト
21:カバー
22:ボルト
23:フレーム
24:センサー固定部
41a,41b:近接センサー
42:リード線