【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現状の蓄光製品の性能は、照射停止1h後の残光輝度が500mcd/m2〜1000mcd/m2前後と大きな値になっているのに対し、屋外用途で重要な10h後の輝度値が5mcd/m2〜20mcd/m2という非常に小さな値になっている。この値は暗闇中で1〜2mの距離から人間がかろうじて視認出来るレベルであり、暗闇中で数十mの距離からはっきり視認するためには500mcd/m
2〜1000mcd/m
2レベルが望ましい輝度値である。屋外用途として、照射停止10h後の輝度値が500mcd/m
2〜1000mcd/m
2レベルの蓄光製品の実現が不可能であるのかを調べるため、結晶母体としてSrAl
2O
4、賦活剤としてEuOを、賦活助剤としてDy
2O
3を例にとって蓄光〜発光のメカニズム及びDy
3+トラップの役割を解明する事で、10h後の残光輝度を大きくする改善ポイントを明確にすると共に残光エネルギー理論値Zを求める事とする。
【0010】
蓄光メカニズムや発光メカニズムに関しては、いくつかの蓄光論文や出願特許で説明されているが、以下 改めて蓄光メカニズムと発光メカニズムに関し説明する。
蓄光のメカニズムは、
図1で示すようにSrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
2+(2価のEu)が光(紫外線)エネルギーを吸収し、4f準位にある電子が5d準位に励起され、励起により生じた正孔(ホール)が、価電子帯を移動して賦活助剤として導入したDy
3+トラップに捕獲され蓄光される事になる。この時SrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
3+(3価のEu)では光(紫外線)エネルギーを吸収しても励起電子は発生せず熱消費される。
【0011】
また、5d準位に励起された励起電子はその場に留まらず、かなり早い回遊速度で移動するので、励起電子は移動を繰りかえす内にSrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
3+(3価のEu)という欠陥に捕獲され最終的には熱消費される事になる。上記現象は発光材の濃度消光理論で説明されている現象と同じで、照射光を吸収し励起した電子が移動し、移動途中に結晶内及び結晶粒界の欠陥に捕獲され、発光されず熱消費されるという現象で、回遊速度が速くなればなるほど顕著になる。
従って、殆どのEu
3+(3価のEu)には励起電子が存在する状態になるが、ごく一部のEu
3+(3価のEu)には励起電子が存在しない状態になる。即ち Eu
3+(3価のEu)には励起電子が存在する状態と存在しない状態の二つの状態があり、この事が残光輝度を大きくする最適なEu添加モル濃度が存在する要因であると考えられる。以下最適なEu添加モル濃度がどの程度の濃度であるのか、更に、最適なEu添加モル濃度が何故存在するのか、に関して説明する。
【0012】
まず屋内用途の蓄光材に最適なEu添加モル濃度に関しては、Al
2O
3の添加モル量を100とした時に0.4前後、即ち0.4%前後ではないか、と非特許文献1に記載されている。
次に最適なEu添加モル濃度が何故存在するのか、に関して説明する。
前記回遊速度はSrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEuO濃度の6乗に比例するので、添加するEu濃度を少なくし過ぎると、回遊速度が急激に遅くなるため励起電子が存在しないEu
3+(3価のEu)が増加し、励起電子が存在しないEu
3+(3価のEu)は照射光を吸収し熱消費するため、結果 照射中の熱消費量が増え、結果 蓄光エネルギー量が減り、結果 照射停止直後の初期輝度が小さくなり、結果、10h後の残光輝度が小さくなる。
逆に、添加するEu濃度を多くし過ぎると、回遊速度が急激に速くなるため励起電子が存在しないEu
3+(3価のEu)が減少し、結果 照射中の熱消費量が減り、結果 蓄光エネルギー量が増え、結果 初期輝度は大きくなるが、照射停止〜10h後の量子効率を悪化させ、特に照射停止から長時間経過した10h後の発光効率(外部量子効率)を非常に悪化させ、結果10h後の残光輝度が小さくなる。
以上の結果より10h後の残光輝度を大きくする最適なEu添加濃度が存在する事になり、非特許文献1の基礎実験結果や他社の特許出願内容等から判断すると現状の蓄光材に於いて、屋内用途に最適なEu添加濃度はAl
2O
3の添加モル量を100とした時に0.3〜0.4前後、即ち0.3%〜0.4%前後で、屋外用途に最適なEu添加濃度は0.2%〜0.3%前後ではないか、と考えられる。
【0013】
照射停止後の発光メカニズムは、
図2で示す様にDy
3+トラップに捕獲された正孔が一定捕獲時間後に熱エネルギーによりDy
3+トラップから解放され、解放された正孔が価電子帯を移動しEu
2+(2価のEu)に存在する励起電子と再結合し発光する事になる。この時、解放された正孔がEu
3+(3価のEu)に存在する励起電子と再結合した場合は発光せずに熱消費される事になる。
従って、EuOが酸化されてEu
3+(3価のEu)の比率が多くなると、発光せずに熱消費される割合が増え量子効率が悪くなる。又、Eu
3+(3価のEu)の比率が同じでも Eu
3+(3価のEu)に存在する励起電子の比率により量子効率が異なる事になる。即ち、濃度消光理論と同じで、Eu
3+(3価のEu)の比率が同じでも添加するEu濃度を多くした方が照射停止後の量子効率は悪化する事になる。
【0014】
最後に、蓄えられた正孔の消費速度に関し、正孔を捕獲していないDy
3+トラップが多数存在すると、
図3で示す様にDy
3+トラップから一定捕獲時間後に解放された正孔が再び別のDy
3+トラップに捕獲される事になるので、蓄えられた正孔の消費速度が遅くなり屋外用途で10h後の輝度向上に有効となる。即ちDy/Eu比率を大きくする程、屋外用途で10h後の輝度向上に有効となる。
ここで、トラップの深さが深い程、正孔が解放されるのに大きな熱エネルギーが必要となり、捕獲から解放されるまでの捕獲時間は長くなる事になる。同じく周囲温度が低い程、捕獲から解放されるまでの捕獲時間は長くなる事になる。
【0015】
以上の結果より、10h後の残光輝度を大きくするには、下記三つの改善が必要という事が判る。
一つ目の改善は、SrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
3+(3価のEu)の比率を限りなく0%に近づけ、固溶されたEu
2+(2価のEu)の比率を限りなく100%に近づけることである。SrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
2+(2価のEu)の比率を限りなく100%に近づけることが出来ると、量子効率が急激に向上し量子効率を改善できると、屋外用途だけでなく 屋内用途の残光輝度も大幅に改善できるので最大の改善点である。
二つ目の改善は、Eu添加モル量を減らすことでDy/Eu比率を大きくすることである。但し、この場合SrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
2+(2価のEu)比率を限りなく100%に近づけるという一つ目の改善をした上で行う必要がある。例えばEu添加濃度を0.3%から0.1%に減らすとDy/Eu比率が3倍になり、10h後の残光輝度が格段に向上する筈であるが、Eu
2+(2価のEu)比率が例えば80%〜85%前後と悪い場合は、Eu添加濃度を0.1%前後にすると、励起電子が存在しないEu
3+(3価のEu)が異常に増え、照射光を大量に熱消費するため、Eu添加濃度0.1%が最適なEu添加濃度にはならない事を認識しておく必要がある。即ち 最適なEu添加モル濃度はSrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
2+(2価のEu)比率で異なった値になる事を認識しておく必要がある。
三つ目の改善は、Dy固溶量そのものを大きくすることでDy/Eu比率を大きくすることである。
【0016】
次に残光エネルギー理論値Zを求める。
Φ20タイプ測定サンプル中の蓄光材重量を2.8grとすると、1m
2当たりの蓄光材重量は2.8gr÷(π/4×0.02
2)=8918gr/m
2となる。蓄光材の材料組成をSr
0.993Al
2O
4Eu
0.0025Dy
0.003として 8918gr/m
2の蓄光材中のEuO重量を求めると、Sr
0.993Al
2O
4Eu
0.0025Dy
0.003 の分子量は0.993SrO+Al2O3+0.0025EuO+0.0015Dy2O3=0.993×103.62+102+0.0025×168+0.0015×373=205.87gr/molとなるので、1m2あたりのEuO重量は、8918 gr/m
2×(0.0025×168/205.87)=18.19gr/m
2となる。
【0017】
18.19gr/m
2のEuO中のEuO数を求めると EuOの分子量が168なので18.19÷168×(6×10
23)=6.50×10
22個/m
2となる。但し、実際にはEu
2O
3還元率が100%になる事はないので、EuO数は6.50×10
22個/m
2より小さな値となる。
【0018】
Eu
2O
3還元率が100%と仮定して、前記6.50×10
22個/m2のEu
2+(2価のEu)が光(紫外線)エネルギーを吸収し、4f準位にある電子が5d準位に励起され、再結合時に520nm波長の光を発生するとして 理論的に発光可能なエネルギーZを求めると、520nm波長に於ける電子1個のエネルギーは1240/520nm×(1.602×10
−19)=3.82×10
−19J/個 であるので、Z=(6.50×10
22個/m
2)×(3.82×10
−19J/個)=24816J/m
2となる。
【0019】
但し、実際にはEu
2O
3還元率が100%になったと仮定しても、6.50×10
22個/m
2のEu
2+(2価のEu)が 全て励起される訳でないので、実際に発光可能なエネルギーZは24816J/m
2より小さな値となる。EuO還元率が100%と仮定し、且つ6.50×10
22個/m
2のEu
2+(2価のEu)の全てが励起されたと仮定し、Z=24816J/m
2の値をlm・sec/m
2の単位系に変換すると、520nm波長の標準比視感度は0.66となるので、520nm波長では1J=0.66×683lm・secとなり、Z=24816×0.66×683lm・sec/m
2=11、186、556lm・sec/m
2=3107lm/m2×1hとなる。
【0020】
次に、Z=3107lm/m
2×1hの値をcd/m
2×1hの単位系に変換すると、表面及び裏面の両方から光を取り出す場合は2πで割るが、今回の様に表面だけから光を取り出す場合はπで割る事になるので、Z=3107×(1/π)cd/m
2×1h=989cd/m
2×1hとなる。
【0021】
但し、EuO還元率が100%と仮定し、且つ6.50×10
22個/m
2のEu
2+(2価のEu)が100%励起されたと仮定しても、光取り出し効率が100%になる事はないので、実際には989cd/m
2×1hより小さな値となる。
【0022】
以上の結果より、残光エネルギー理論値Zは989cd/m
2×1h=989000mcd/m
2×1hという大きな値になり、989000mcd/m
2×1hの内、僅か10%でも光エネルギーとして活用出来れば2000mcd/m
2の輝度であれば、50時間光り続けられるエネルギー量を潜在的に有するという事が判明した。従って屋外用途で10h後の残光輝度を500mcd/m
2〜1000mcd/m
2レベルにする事は充分に可能であるという結論になる。
【0023】
以上の結果で分かるように、10h後の残光輝度を500mcd/m
2〜1000mcd/m
2レベルに大きくする最大の課題は、SrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
3+(3価のEu)の比率を限りなく0%に近づけ固溶されたEu
2+(2価のEu)の比率を限りなく100%に近づける事で量子効率を大きくする事である。
【0024】
10h後の残光輝度が500mcd/m
2〜1000mcd/m
2レベルという大きな蓄光材を製造する上で最大の課題であるSrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
2+(2価のEu)の比率を限りなく100%に近づける事に対する従来技術の問題点について述べる。従来技術では、賦活剤としてEuOではなくEu
2O
3を使用し、H
2ガス中やカーボン雰囲気中で結晶母体と一緒に焼結・還元を行っている。
【0025】
全世界で生産されている蓄光材の殆どは中国で生産されており、中国での生産方式は2重坩堝に入れた蓄光原料をトンネル炉で10時間前後加熱するという大量生産に優れたトンネル炉方式が用いられている。
【0026】
実際に生産されている2重坩堝を用いたトンネル炉方式の一例を下記説明する。
先ず、使用する2重坩堝に入れる蓄光原料としては、発光中心となる賦活剤としてEu
2O
3を使用し、賦活助剤としてDy
2O
3を使用し、母材としてSrCO
3とAl
2O
3の混合材料を使用し、フラックス剤としてB
2O
3等を使用している。
前記4つの蓄光原料をプラスチック製の大型混合容器に入れ、蓋を閉めた後、大型混合容器を数時間回転させる事で攪拌混合させる。
その後、前記混合材料を例えば内径Φ70mm×深さ133mmの小型坩堝内に充填し、その後蓋を閉め、更に前記小型坩堝を例えば内径Φ93mm×深さ180mmの中型坩堝内に収め、前記小型坩堝と前記中型坩堝の隙間に活性炭を充填し、その後蓋を閉め、その後トンネル炉で10時間前後加熱処理する。
【0027】
充填した前記活性炭の役割は2つあり、一つ目の役割はトンネル炉内で外部の空気(酸素)が小型坩堝内に侵入するのを防ぐ役割である。即ち、中型坩堝内に侵入した酸素を活性炭がC+1/2O
2→COと反応する事でO
2を消費する役割である。
二つ目の役割は、トンネル炉加熱中に活性炭から発生したカーボン蒸気が小型坩堝内に侵入し、小型坩堝内を還元状態にする事でEu
2O
3自身を還元すると共に、母材であるSrAl
2O
4に酸素欠陥を発生させる事で母材結晶内に溶け込んだEu
2O
3の一部を還元する役割である。従って、例えば、大型坩堝を追加して3重坩堝にしても役割は2重坩堝と同じである。
【0028】
前記のトンネル炉方式の欠点は二つあり、一つ目の欠点は加熱温度が1400℃〜1500℃前後と低く、且つ加熱時間が不足しているため、小型坩堝内に侵入するカーボン蒸気総量が不足して、Eu
2O
3の一部しかEuOへ還元出来ない結果、SrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
2+(2価のEu)の比率が非常に低い事である。二つ目の欠点は加熱温度が1400℃〜1500℃前後と低く、且つ加熱終了後の冷却が緩やかであるためDy固溶量も極めて小さい事である。
但し Dy
3+(3価のDy)は非常に固溶しにくい材料であるため、Dy
2O
3を賦活助剤として使用する限り欠点2の大きな改善は難しい。
【0029】
ここで屋内用途の場合は20分〜60分後の残光輝度を大きくするだけで良いので、Dy固溶量が現状レベルでも大きな問題はない。又、屋外用途の場合でも、SrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
2+(2価のEu)の比率を限りなく100%に近づけ、且つ、Eu添加モル濃度を0.1%前後まで減らす事でDy/Eu比率を大きくすれば、相対的にDy固溶量を増やしたことと同じ効果があり10h後の残光輝度を大幅に大きく出来るので、一つ目の欠点だけを改善すれば良い事になる。
一つ目の欠点の対策としてEu
2O
3を使用せず、Eu
2O
3を加熱還元して作製したEuO材料、或いはEu金属材料、或いは 前記Eu金属とカーボン粉末の混合材料、或いは 前記Eu金属とカーボン粉末とEuO材料の混合材料を使用する対策が考えられるが、SrAl
2O
4の結晶母体に固溶されたEu
3+(3価のEu)の比率を極限の1%前後まで改善するには不十分である事を以下に説明する。
【0030】
蓄光材作製工程中に於いて、EuO、或いはEu金属を酸化させる酸化物質としては「CO
2」「H
2O」「O
2」等が存在する。
「CO
2」はSrCO
3とAl
2O
3が反応しSrAl
2O
4母材に変化する時に発生し、その発生量は膨大な量になるため、坩堝内に投入したEuO材料、或いはEu金属材料の殆どをEu
2O
3材料に酸化させる事になる。
「H
2O」はSrAl
2O
4母材に吸着している「H
2O」が離脱する時に発生し、 その吸着量は膨大な量になるため、坩堝内に投入したEuO材料、或いはEu金属材料の多くをEu
2O
3材料に酸化させる事になる。
SrAl
2O
4母材は主成分である「Al
2O
3」が「H
2O」を吸着して「水酸化アルミ」に変化する事から判る様に、空気中の水分を非常に吸着し易い材料で、「SrAl
2O
4」を母材とする蓄光材を空気中に放置しておくと、「H
2O」を吸着して蓄光性能が激しく劣化する事は広く知られている。同じく、EuO材料も空気中の水分を非常に吸着し易い材料である事が広く知られている。
【0031】
具体的に、材料組成のEu添加モル量を0.25%、Dy添加モル量を0.5%即ち、材料組成をSr
0.99Al
2O
4Eu
0.0025Dy
0.005とした時に発生する「CO
2」の計算例を下記する。
<計算例1> 原料としてSrCO
3を使用する場合
0.99SrCO3 + Al2O3 + 0.0025Dy2O3 + 0.0025EuO
0.99×147.62+1.0×102.00+0.0025×373.00+0.0025×168.00 =
146.14gr + 102gr + 0.933gr + 0.42gr = 249.493gr
↓
<計算例2> 原料としてSrOを使用する場合
0.99SrO + Al2O3 + 0.0025Dy2O3 + 0.0025EuO
0.99×103.62+1.0×102.00+0.0025×373.00+0.0025×168.00 =
102.58gr + 102gr + 0.933gr + 0.42gr = 205.933gr
↓
Φ20mmの蓄光材重量を2.8grとし、1m
2当たりの蓄光材重量G1を求めると、G1=2.8gr÷(π/4×2
2)=8918(gr/m2)となり、1m
2当たりのEuOの重量G2を求めると、G2=8918gr×(0.42÷205.933)=18.19(gr/m2)となり、1m
2当たりのEuOの数量を求めると18.19(gr/m2)÷168×6×10
23(ケ/gr)=6.50×10
22(ケ/m2)となり、1gr当たりのEuOの数量を求めると、6.50×10
22(ケ/m2)÷8918(gr/m2)=7.285×10
18(ケ/gr)となる。
↓
材料組成をSr
0.99Al
2O
4Eu
0.0025Dy
0.005としてフラックス剤を除くEuO、Dy
2O
3、SrCO
3、Al
2O
3の重量合計700grを、例えば内径Φ70mm×深さ133mmの小型坩堝内に注入した時に小型坩堝内に存在するEuOの数量N1を求めると N1=700gr×205.933gr/249.493gr×7.285×10
18(ケ/gr)=42.092×10
20ケとなる。この時、小型坩堝内に存在するSrCO
3から発生するCO
2の数量N2を求めると、N2=700gr×0.99×44gr/249.493gr÷44gr×6×10
23=16665.798×10
20ケとなる。
【0032】
発生したCO
2がEuO+1/2CO
2→1/2Eu
2O
3+1/2COの反応式でEuOを酸化させると仮定すると、N2/N1×2倍=約792倍程度となるので、投入したEuO材料の殆どを酸化させる事になり、EuO材料を使用した意味がなくなる。
同じく、発生したCO
2がEu+3/2CO
2→1/2Eu
2O
3+3/2COの反応式でEu金属を酸化させると仮定すると、N2/N1×2/3倍=約264倍程度となるので 投入したEu金属材料の殆どを酸化させる事になり、Eu金属材料を使用した意味がなくなる。
【0033】
次に、材料組成をSr
0.99Al
2O
4Eu
0.0025Dy
0.005とした時に発生する「H
2O」の計算例を下記する。
<計算例2> 原料としてSrOを使用する場合
0.99SrO + Al2O3 + 0.0025Dy2O3 + 0.0025EuO
0.99×103.62+1.0×102.00+0.0025×373.00+0.0025×168.00 =
102.58gr + 102gr + 0.933gr + 0.42gr = 205.933gr
↓
Φ20mmの蓄光材重量を2.8grとし 1m
2当たりの蓄光材重量G1を求めると、G1=2.8gr÷(π/4×2
2)=8918(gr/m2)となり、1m
2当たりのEuOの重量G2を求めると、G2=8918gr×(0.42÷205.933)=18.19(gr/m2)となり、1m
2当たりのEuOの数量を求めると18.19(gr/m2)÷168×6×10
23(ケ/gr)=6.50×10
22(ケ/m2)となり、1gr当たりのEuOの数量を求めると、6.50×10
22(ケ/m2)÷8918(gr/m2)=7.285×10
18(ケ/gr)となる。
↓
材料組成をSr
0.99Al
2O
4Eu
0.0025Dy
0.005としてフラックス剤を除くEuO、Dy
2O
3、SrCO
3、Al
2O
3の重量合計700grを、内径Φ70mm×深さ133mmの小型坩堝内に注入した時に小型坩堝内に存在するEuOの数量N1を求めると N1=700gr×205.933gr/249.493gr×7.285×10
18(ケ/gr)=42.092×10
20ケとなる。
【0034】
この時、小型坩堝内に存在するSrAl
2O
4母材に吸着しているH
2O量N3を求めると、SrAl
2O
4母材1gr中に1×10
20ケのH
2O分子が吸着されているとして計算すると、N3=700gr×1×10
20(ケ/gr)=700×10
20ケとなる。ここで小型坩堝内に存在する母材に吸着しているH
2OがEuO+1/2H
2O→1/2Eu
2O
3+1/2H
2の反応式でEuOを酸化させると仮定すると、N3/N1×2倍=約33.3倍となり投入したEuOの大部分が酸化される危険性がある。但し、実際には発生したH
2Oの内1/20程度しかEuOに吸着されず 残りは小型坩堝から逃げ出すので、N3/N1×2倍×1/20=約1.67倍程度になると考えられる。
同じく、発生したH
2OがEu+3/2H
2O→1/2Eu
2O
3+H
2の反応式でEu金属を酸化させると仮定すると、N3/N1×2/3倍×1/10=約0.55倍程度となるので、投入したEu金属材料の多くが酸化される危険性がある。
尚、SrAl
2O
4母材1grへのH
2O分子吸着量は、母材の粒子径や空気中への放置時間や空気中の湿度条件などで大きく変化し、最悪のケースではSrAl
2O
4+3H
2O→2Al(OH)
3+SrOという反応になり、この場合のSrAl
2O
4母材1gr中のH
2O分子吸着量は88×10
20ケという値になるので、上記計算ではSrAl
2O
4母材1gr中のH
2O分子量を1×10
20ケとした。
【0035】
次に、小型坩堝内に存在するO
2の数量N4を求めると、N4=(0.5L−0.2L)÷22.4L×6×10
23(ケ/gr)×21%=16.875×10
20ケとなる。ここで小型坩堝内に存在するO
2がEuO+1/4O
2→1/2Eu
2O
3の反応式でEuO材料を酸化させると仮定すると、N4/N1×4倍=約1.6倍程度となる。同じく、発生したO
2がEu+3/4O
2→1/2Eu
2O
3の反応式でEu金属材料を酸化させると仮定するとN4/N1×4/3倍=約0.5倍程度となる。
【0036】
以上の結果よりEu
2O
3の替わりにEuO材料、或いはEu金属材料等を使用しても、「CO
2」の発生を防止する対策を行うだけでは不十分で、SrAl
2O
4母材から発生する「H
2O」及び小型坩堝内に存在する「O
2」によりEu
2O
3に酸化される危険性があるため 更なる対策が必要となる。