特許第6685685号(P6685685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6685685シェルモールド用フェノール樹脂組成物及びシェルモールド用レジンコーテッドサンド並びにシェルモールド用鋳型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685685
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】シェルモールド用フェノール樹脂組成物及びシェルモールド用レジンコーテッドサンド並びにシェルモールド用鋳型
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/22 20060101AFI20200413BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   B22C1/22 L
   B22C9/02 103B
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-192796(P2015-192796)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-64750(P2017-64750A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】子安 由季
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−095932(JP,A)
【文献】 特開2006−095574(JP,A)
【文献】 特開2006−305628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/10,1/22,9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が1000以下のノボラック型フェノール樹脂と、分子量が300以下の第一のアミド化合物と、ベンゼンカルボン酸類とを、必須成分として含有すると共に、該ノボラック型フェノール樹脂の100質量部に対して、該第一のアミド化合物が、0.1〜7質量部の割合で用いられており、且つ該第一のアミド化合物の使用量と該ベンゼンカルボン酸類の使用量とが、質量比で、1:5〜20:1の割合であることを特徴とするシェルモールド用フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
数平均分子量が1000以下のノボラック型フェノール樹脂と、分子量が300以下の第一のアミド化合物と、分子量が500〜700の第二のアミド化合物と、ベンゼンカルボン酸類とを、必須成分として含有すると共に、該ノボラック型フェノール樹脂の100質量部に対して、該第一のアミド化合物と該第二のアミド化合物とが、合計量で、0.1〜7質量部の割合で用いられており、且つ該第一のアミド化合物及び該第二のアミド化合物の合計使用量と該ベンゼンカルボン酸類の使用量とが、質量比で、1:5〜20:1の割合であることを特徴とするシェルモールド用フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
前記第二のアミド化合物が、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド及びエチレンビスエルカ酸アミドの中から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項に記載のシェルモールド用フェノール樹脂組成物。
【請求項4】
前記第一のアミド化合物が、アセトアミド、アセトアニリド、ニコチン酸アミド、ステアリン酸アミド及びε−カプロラクタムの中から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のシェルモールド用フェノール樹脂組成物。
【請求項5】
前記ベンゼンカルボン酸類が、安息香酸、サリチル酸、パラアミノ安息香酸及びアントラニル酸の中から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のシェルモールド用フェノール樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項のうちの何れか1項に記載のシェルモールド用フェノール樹脂組成物を用いて、耐火性粒子を被覆してなることを特徴とするシェルモールド用レジンコーテッドサンド。
【請求項7】
前記フェノール樹脂組成物が、前記耐火性粒子の100質量部に対して、0.2〜10質量部の割合において用いられていることを特徴とする請求項に記載のシェルモールド用レジンコーテッドサンド。
【請求項8】
請求項又は請求項に記載のシェルモールド用レジンコーテッドサンドを用いて造型し、加熱硬化させてなることを特徴とするシェルモールド用鋳型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェルモールド用フェノール樹脂組成物及びシェルモールド用レジンコーテッドサンド並びにシェルモールド用鋳型に係り、特に、鋳型強度を有利に高め、更に鋳型全体に亘る安定した強度の向上を実現し得るシェルモールド用樹脂組成物及びそれを用いて得られるレジンコーテッドサンド、並びにそのようなレジンコーテッドサンドを用いて造型してなるシェルモールド用鋳型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シェルモールド法においては、耐火性粒子(鋳物砂)及びフェノール樹脂(バインダー)と共に、更に必要に応じて、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を混練して得られるレジンコーテッドサンド(RCS)を用いて、それを加熱成形せしめ、所望の形状としてなるシェルモールド鋳型が、一般的に使用されて来ている。
【0003】
そして、この種の鋳型においては、その強度を高めるべく、従来から各種の対策が講じられて来ており、例えば、特開2005−95932号公報(特許文献1)においては、ノボラック型フェノール樹脂と芳香族カルボン酸及びアミノ化合物を含有することを特徴とするシェルモールド用フェノール樹脂組成物が提案され、また、そのようなフェノール樹脂組成物を用いて耐火性粒状材料を被覆してなるRCSも、明らかにされている。そして、そのようなフェノール樹脂組成物を用いることによって、ホルムアルデヒドガスの発生が少なく、従って作業環境を改善することが出来ると共に、硬化性が良好で、充分な鋳型強度を有するシェルモールド鋳型を造型することが出来る、とされている。
【0004】
しかしながら、本発明者が検討したところによると、ノボラック型フェノール樹脂に芳香族カルボン酸のみを加えたり、或いは特許文献1に従って、芳香族カルボン酸とアミノ化合物を加えたりしても、曲げ強度において、その上昇は僅かであり、従って鋳型強度の向上が充分ではないことが明らかとなった。また、成型された鋳型の硬化速度も充分ではなく、更に鋳型内部の硬化性にも問題のあることが明らかとなった。更に、アミノ化合物は、その添加量が多くなると、RCSの融着点を低下せしめる問題を惹起することに加えて、アミノ化合物に特有のアミン臭がすることにより、作業環境を悪化せしめる恐れも内在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−95932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、鋳型強度の更なる向上を図ると共に、硬化速度を向上せしめ、また鋳型内部の硬化性を高めることにより、鋳型全体に亘る安定した強度の向上を実現し得るシェルモールド用樹脂組成物及びそれを用いて得られるシェルモールド用RCS並びにそのようなRCSを用いて得られるシェルモールド用鋳型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明者が、上述した如き課題の解決を図るべく、シェルモールド用フェノール樹脂組成物について鋭意検討を重ねたところ、所定のフェノール樹脂に対して、特定分子量のアミド化合物とベンゼンカルボン酸類とを共に配合して、構成されるフェノール樹脂組成物を用いて、シェルモールド用鋳型を造型するようにすることにより、曲げ強度が効果的に高められ得て、高い鋳型強度が実現され得ると共に、硬化速度の向上や鋳型内部の硬化性の向上も有利に実現され得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、上述の如き知見に基づいて完成されたものであって、前記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにて採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載及び図面に開示の発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0009】
(1) 数平均分子量が1000以下のフェノール樹脂と、分子量が300以下の第一の アミド化合物と、ベンゼンカルボン酸類とを、必須成分として含有することを特徴 とするシェルモールド用フェノール樹脂組成物。
(2) 前記第一のアミド化合物が、アセトアミド、アセトアニリド、ニコチン酸アミド 、ステアリン酸アミド及びε−カプロラクタムの中から選ばれる少なくとも一つの 化合物であることを特徴とする前記態様(1)に記載のシェルモールド用フェノー ル樹脂組成物。
(3) 分子量が500〜700の第二のアミド化合物を、更に含有することを特徴とす る前記態様(1)又は前記態様(2)に記載のシェルモールド用フェノール樹脂組 成物。
(4) 前記第二のアミド化合物が、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスス テアリン酸アミド及びエチレンビスエルカ酸アミドの中から選ばれる少なくとも一 つの化合物であることを特徴とする前記態様(3)に記載のシェルモールド用フェ ノール樹脂組成物。
(5) 前記ベンゼンカルボン酸類が、安息香酸、サリチル酸、パラアミノ安息香酸及び アントラニル酸の中から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする 前記態様(1)乃至前記態様(4)の何れか1つに記載のシェルモールド用フェノ ール樹脂組成物。
(6) 前記フェノール樹脂の100質量部に対して、前記アミド化合物が、総量で、0 .1〜7質量部の割合で用いられていることを特徴とする前記態様(1)乃至前記 態様(5)の何れか1つに記載のシェルモールド用フェノール樹脂組成物。
(7) 前記アミド化合物の総量と前記ベンゼンカルボン酸類の使用量とが、質量比で、 1:5〜20:1の割合であることを特徴とする前記態様(1)乃至前記態様(6 )の何れか1つに記載のシェルモールド用フェノール樹脂組成物。
(8) 前記態様(1)乃至前記態様(7)のうちの何れか1つに記載のシェルモールド 用フェノール樹脂組成物を用いて、耐火性粒子を被覆してなることを特徴とするシ ェルモールド用レジンコーテッドサンド。
(9) 前記フェノール樹脂組成物が、前記耐火性粒子の100質量部に対して、0.2 〜10質量部の割合において用いられていることを特徴とする前記態様(8)に記 載のシェルモールド用レジンコーテッドサンド。
(10) 前記態様(8)又は前記態様(9)に記載のシェルモールド用レジンコーテッ ドサンドを用いて造型し、加熱硬化させてなることを特徴とするシェルモールド用 鋳型。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明に従うシェルモールド用フェノール樹脂組成物にあっては、分子量が300以下のアミド化合物とベンゼンカルボン酸類とが組み合わされて、所定のフェノール樹脂に配合せしめられて、構成されてなるものであるところから、それからなる被覆層を所定の耐火性粒子の表面に形成せしめて、シェルモールド用RCSを構成し、そしてこのRCSを用いてシェルモールド鋳型を造型することにより、それらアミド化合物とベンゼンカルボン酸類の存在による相乗作用によって、得られる鋳型の鋳型強度が、より一層高められ得ることとなるのであり、また得られる鋳型の硬化速度も、効果的に向上せしめられ、更に、鋳型内部の硬化性も有利に向上せしめられ得ることにより、鋳型の内部から外部に亘って安定した強度の向上が実現され得たのである。しかも、従来の如く、アミノ化合物を配合するものではないところから、アミン臭も生じることがなく、作業環境の改善にも寄与し得ることとなったのである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ところで、本発明に従うシェルモールド用フェノール樹脂組成物を構成するフェノール樹脂は、酸性触媒及び/又は塩基性触媒の存在下において、フェノール類とアルデヒド類とを反応させることにより得られる固体状乃至は液体状(例えば、ワニス状或いはエマルジョン等)の縮合生成物であって、所定の硬化剤乃至は硬化触媒の存在下又は非存在下において加熱することにより、熱硬化性を発現するフェノール樹脂である。
【0012】
具体的には、そのようなフェノール樹脂としては、例えば、フェノールを原料とした、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂の他に、変性用原料、例えばビスフェノールA又はビスフェノールA精製残渣を一部又は全部使用した変性ノボラック型フェノール樹脂、フェノール類及びナフトール類とアルデヒド類とを反応せしめてなるナフトール変性フェノール樹脂等を挙げることが出来るが、これに限定されるものではなく、公知の各種のフェノール樹脂を用いることが出来る。なお、それらフェノール樹脂の中でも、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂との混合物、ナフトール変性フェノール樹脂が、好適に用いられることとなる。なお、ここで用いられるフェノール樹脂は、環境上の問題等から、その遊離フェノール量が2.0質量%以下となるように調製されることが望ましく、特に、1.0質量%以下となるように調製されることが好ましい。
【0013】
そして、かかる本発明において用いられるフェノール樹脂は、高い鋳型強度を実現し、またRCSにおける樹脂剥離の有効な阻止を図る上において、更には添加成分との相溶性を良くするために、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)分析で得られる数平均分子量が1000以下である必要があり、中でも800以下、より好ましくは700以下の数平均分子量のものが、好適に用いられることとなる。この数平均分子量が1000を超えるようになると、添加物との相溶性の低下等の問題が惹起され、鋳型強度等の特性が低下するようになる。なお、かかる数平均分子量の下限は、一般に、400程度とされ、その数平均分子量が小さくなり過ぎると、RCSにおいて造型時の充填性が損なわれて、得られる鋳型において充分な強度が確保され得ない恐れがある。
【0014】
また、本発明にあっては、上記したフェノール樹脂の中でも、特に、低膨張性フェノール樹脂が有利に用いられることとなる。ここで、低膨脹性樹脂とは、以下の如き特性を有するものである。即ち、鋳物砂としてのフラタリー珪砂と、この鋳物砂に対して1.5質量%の割合のテスト樹脂とを用い、それらを混練して調製されるRCSを加熱硬化せしめて、直径30mm×高さ50mmの円柱状のテストピースを作製した後、1000℃の温度の雰囲気に調整された炉中で、かかるテストピースを加熱した時の60秒後の熱膨脹率が、前記したテスト樹脂に代えて、数平均分子量が600〜800のノボラック型フェノール樹脂を用いて、同様に作製されたテストピースの熱膨脹率に対して、0.95以下、換言すれば(テスト樹脂テストピース/数平均分子量600〜800のノボラック型フェノール樹脂テストピース)熱膨脹比が、0.95以下の範囲にあるとき、かかるテスト樹脂を、低膨脹性樹脂と定義する。なお、ノボラック型フェノール樹脂の数平均分子量が600〜800の範囲であれば、熱膨脹率に大きな差はなく、この範囲のノボラック型フェノール樹脂を適宜に基準として、低膨脹性樹脂の定義に用いることが出来る。
【0015】
そして、そのような低膨脹性フェノール樹脂としては、前記した変性ノボラック型フェノール樹脂を挙げることが出来るが、特に、ビスフェノールA又はビスフェノールA精製残査を用いた変性ノボラック型フェノール樹脂が、有利に用いられることとなる。なお、かかるビスフェノール変性のノボラック型フェノール樹脂における好ましいビスフェノールの配合量としては、原料のフェノールとビスフェノールの合計量に対して、10質量%以上が好ましく、特に40質量%以上がより好ましく、これによって、低膨脹性フェノール樹脂を有利に得ることが出来る。
【0016】
さらに、本発明にあっては、かくの如きフェノール樹脂に対して、第一のアミド化合物として、分子量が300以下であるアミド化合物が配合せしめられるのである。このようなアミド化合物は、ベンゼンカルボン酸類と併用することにより、フェノール樹脂組成物の溶融粘度を有利に低下せしめ得ると共に、可塑性をより向上せしめ得る特徴を発揮し、また接着点の架橋密度を効果的に高め得て、鋳型強度をより一層向上させ得る特徴を発揮するものである。そして、このような特徴を発揮させる上において、第一のアミド化合物は、その分子量が300以下、具体的には45〜300である必要があり、特に、59〜200の分子量を有するものが、好適に用いられることとなる。このようなアミド化合物の配合によって、フェノール樹脂組成物の溶融粘度を低下せしめ、可塑性を向上させることにより、RCS同士の接触部分におけるフェノール樹脂組成物による結合の強度が、有利に発揮せしめられ得るところから、鋳型の強度をより向上させ得ると共に、RCSの樹脂剥離、換言すればRCSにおける未硬化の被覆樹脂層の剥離を、効果的に防止することが出来るのである。なお、そのようなアミド化合物は、その融点にも考慮をはらうことが望ましく、一般に、樹脂又はRCSのブロック性の観点から、40℃以上の融点を有するものであることが望ましく、中でも、80℃以上の融点を有するアミド化合物が有利に用いられることとなる。
【0017】
ところで、かかる本発明で用いられる、分子量が300以下の第一のアミド化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ε−カプロラクタム、アセト酢酸o−トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p−トルイダイド、アセト酢酸m−キシリダイド、アセト酢酸o−アニシダイド等を挙げることが出来、これらの中でも、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ε−カプロラクタムの中から少なくとも一つの化合物が選択されて、有利に用いられることとなる。なお、これら例示のアミド化合物は、何れも、40℃以上の融点を有するものである。
【0018】
また、本発明にあっては、上記した第一のアミド化合物と共に、分子量が500〜700のアミド化合物(第二のアミド化合物)を組み合わせて、フェノール樹脂に配合せしめることが、より有利に採用される。この第一のアミド化合物と併用される第二のアミド化合物は、分子量が500〜700である必要があるが、特に、500〜600の分子量のものが、好適に用いられることとなる。このような第二のアミド化合物は、そのワックス効果により、フェノール樹脂の界面活性を向上させ、その表面張力の低下を効果的に惹起して、RCSの流動性を向上させ、鋳物砂(耐火性粒子)の充填性が向上することで、鋳型の強度を効果的に向上させるものである。
【0019】
なお、そのような第一のアミド化合物と併用される第二のアミド化合物としては、分子量が500〜700のアミド化合物であれば、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等を挙げることが出来、それらの中でも、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドの中から少なくとも1つの化合物を選択して、用いることが望ましい。
【0020】
そして、かくの如き第一及び第二のアミド化合物は、それらの可塑化効果の観点から、それらの合計配合量(総量)において、フェノール樹脂の100質量部に対して、0.1〜7質量部、好ましくは1〜5質量部、より好ましくは1〜3質量部の範囲内において、用いられることが望ましい。また、第一のアミド化合物(A1)と第二のアミド化合物(A2)とは、適宜の配合割合において、用いられることとなるが、一般に、A1:A2=5:1〜1:5、好ましくは3:1〜1:1程度の割合において用いられ、中でも、第一のアミド化合物は、第二のアミド化合物よりも多い割合において用いられることが望ましい。
【0021】
さらに、本発明にあっては、上述の如き第一のアミド化合物又は第一のアミド化合物及び第二のアミド化合物と共に、ベンゼンカルボン酸類が、必須成分として、前記したフェノール樹脂に配合せしめられて、本発明に従うシェルモールド用フェノール樹脂組成物が調製されることとなる。このようなベンゼンカルボン酸類は、上記したアミド化合物との併用によって、鋳型の硬化速度の向上や鋳型強度の維持に有利に寄与し得るのである。なお、そのようなベンゼンカルボン酸類としては、特に限定されるものではなく、公知のものが適宜に選択されて、用いられることとなるが、一般に、安息香酸、サリチル酸、パラアミノ安息香酸、アントラニル酸、フタル酸、テレフタル酸等を挙げることが出来、これらの中でも、安息香酸、サリチル酸、パラアミノ安息香酸、アントラニル酸の中から選ばれる少なくとも一つの化合物が、有利に用いられることとなる。また、そのようなベンゼンカルボン酸類は、単独で用いられ、或いはそれらの2種以上組み合わされて、用いられることとなるのである。
【0022】
そして、かかるベンゼンカルボン酸類の配合量(B)としては、第一アミド化合物の配合量(A1)と第二のアミド化合物の配合量(A2)の合計量であるアミド化合物の総量(A)に対して、質量比で、A:B=1:5〜20:1、好ましくは1:3〜12:1、より好ましくは1:3〜8:1の範囲内において、適宜に選択されることとなる。中でも、Aの配合量をBの配合量よりも多くすることが有利に採用される。なお、ベンゼンカルボン酸類の配合量が多くなり過ぎると、RCSの融着点が低下してしまい、RCSのブロックが発生し易くなる問題があり、またアミド化合物の配合量が多くなり過ぎると、鋳型造型時に発生する煙の量が作業環境を悪化させる等の問題を惹起するようになる。
【0023】
このように、本発明にあっては、上述の如く、所定のフェノール樹脂と特定のアミド化合物とベンゼンカルボン酸類とを必須成分として、シェルモールド用フェノール樹脂組成物を構成するものであるが、また、必要に応じて、鋳型の物性改善等を目的として、従来より一般的に用いられている各種の添加剤も、適宜に配合して用いられることとなる。例えば、造型される鋳型強度の改善等を目的として慣用されているシランカップリング剤、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシランやγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を配合せしめることも可能であり、その場合において、シランカップリング剤は、フェノール樹脂の100質量部に対して、0.01〜5質量部程度の割合において用いられることとなる。また、本発明の目的を損なわない範囲において、例えば、エポキシ系化合物、メラミン系化合物、尿素樹脂、ポリアミド樹脂等を、単独で又は2種以上を組み合わせて、混合乃至は反応させて、用いることも可能である。更に、レゾール型フェノール樹脂、離型剤、消臭剤、ベンガラ等も、適宜に配合することも可能である。
【0024】
ところで、本発明に従うシェルモールド用RCSを製造するに際しては、所定の耐火性粒子(鋳物砂)に対して、上述せる如きシェルモールド用フェノール樹脂組成物が、混練せしめられることとなる。なお、そこにおいて、本発明に従うRCS中のシェルモールド用フェノール樹脂組成物の配合量は、使用する樹脂の種類や要求される鋳型の強度等を考慮して決定されるものであるため、一義的に規定され得るものではないが、一般的には、耐火性粒子の100質量部に対して、0.2〜10質量部程度の範囲内であり、好ましくは0.5〜8質量部、更に好ましくは0.5〜5質量部の範囲内である。
【0025】
また、そのようなシェルモールド用フェノール樹脂組成物に混練せしめられる耐火性骨材に関して、その種類は、本発明にあっては、特に限定されるものではない。かかる耐火性骨材は、鋳型の基材を為すものであるところから、鋳造に耐え得る耐火性と鋳型形成(造型)に適した粒径を有する無機粒子であれば、従来からシェルモールド法に用いられて来た公知の無機粒子が、何れも用いられ得るものである。そして、そのような耐火性骨材としては、例えば、一般的によく用いられているケイ砂の他にも、オリビンサンドやジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド等の特殊砂、フェロクロム系スラグやフェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系粒子、ナイガイセラビーズ(商品名、伊藤忠セラテック株式会社)のようなムライト系人工粒子、或いはこれらを鋳造後に回収・再生した再生粒子等が挙げられ、これらが単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いられることとなる。
【0026】
そして、そのようなシェルモールド用RCSを製造するに際して、その製造方法は、特に限定されるものではなく、ドライホットコート法やセミホットコート法、コールドコート法、粉末溶剤法等の、従来から公知の方法が何れも採用され得るところであるが、本発明にあっては、特に、ワールミキサーやスピードミキサー等の混練機内で、予熱された耐火性骨材とシェルモールド用樹脂組成物とを混練した後、ヘキサメチレンテトラミン(硬化剤)水溶液を加えて、送風冷却した後、塊状内容物を粒状に崩壊させ、次いでステアリン酸カルシウム(滑剤)を加えて、乾態のRCSを得る、所謂ドライホットコート法の採用が、推奨される。
【0027】
さらに、上述せる如きシェルモールド用RCSを用いて、所定の鋳型を造型するに際して、その加熱造型方法としては、特に限定されるものではなく、従来から公知の手法が、何れも、有利に用いられ得ることとなる。例えば、上述せる如きRCSを、目的とする鋳型を与える所望の形状空間を有する、150℃〜300℃に加熱された成形型内に、重力落下方式や吹込み方式等によって充填し、硬化させた後、かかる成形型から、硬化した鋳型を抜型して、所望の鋳造用鋳型を得ることが出来るのである。そして、そのようにして得られた鋳型にあっては、上述したような優れた効果が、有利に発揮せしめられ得ることとなるのである。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0029】
なお、以下の記載において、「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ、「質量部」及び「質量%」を意味するものである。また、製造されたシェルモールド用RCSの各特性は、以下の試験法に従って測定したものである。
【0030】
(1)数平均分子量(Mn)の測定
東ソー株式会社製ゲル濾過クロマトグラフSC−8010シリーズ・ビルドアップシステム(カラム:G1000HXL+G2000HXL、検出器:UV254nm、キャリヤ:テトラヒドロフラン1mL/分、カラム温度:38℃)を用いたGPC測定により、標準ポリスチレン換算の数値として求めたものである。
【0031】
(2)曲げ強度の測定
それぞれのRCSを用いて、JIS−K−6910に準拠して、JIS式テストピース(10mm×10mm×60mm、焼成条件:250℃×60秒間)を作製し、その得られたJIS式テストピースについて、JACT試験法:SM−1に準じて、その曲げ強度(kgf/cm2 )を測定した。この曲げ強度が高い程、鋳型が高強度となることを示している。
【0032】
(3)ベンド(500gf)量の測定
JACT試験法:SM−3の撓み試験法に準拠して、それぞれのRCSを用いて得られた各試験片(180mm×40mm×5mm、焼成条件:250℃×40秒間)に対して、その中央部に、500gfの荷重を加えて、1分間放置した後の、試験片中央部の歪み量(mm)をダイヤルゲージで読み取り、その値を、ベンド(500gf)量とした。このベンド量(撓み量)は、鋳型造型直後のハンドリング性及び鋳型硬化速度を示す目安指標であり、このベンド量が小さい程、鋳型の硬化速度が速く、ハンドリング性が良くなることを意味している。
【0033】
(4)硬化層厚の測定
それぞれのRCSを用いて、直径:50mm×高さ:50mmの円柱状テストピース(焼成条件:260℃×60秒間)を作製し、かかるテストピースの中心部分(高さ:25mm部位)で切断した。そして、その切断したテストピースをアセトンに浸し、未硬化部分を除去した後、室温にて静置乾燥させた。その乾燥後、テストピース内部の硬化層の厚みを測定した。この硬化層厚が厚い程、鋳型の内部硬化が進んでいることを示しており、鋳型の強度が安定することを意味している。
【0034】
−フェノール樹脂Aの製造−
ガラス製反応フラスコ内に、フェノールの1000部を収容し、更に、47%ホルムアルデヒド水溶液の414部、触媒としての蓚酸の3.5部を添加した後、加熱・攪拌混合下に縮合・濃縮を行うことにより、遊離フェノール量が0.5%のフェノール樹脂Aを得た。この得られたフェノール樹脂Aの数平均分子量(Mn)は、685であった。
【0035】
−フェノール樹脂Bの製造−
ガラス製反応フラスコ内に、フェノールの1000部を収容し、更に、47%ホルムアルデヒド水溶液の492部、触媒としての蓚酸の3.5部を添加した後、加熱・攪拌混合下に縮合・濃縮を行うことにより、遊離フェノール量が3%のフェノール樹脂Bを得た。この得られたフェノール樹脂Bの数平均分子量(Mn)は、758であった。
【0036】
−フェノール樹脂Cの製造−
ガラス製反応フラスコ内に、フェノールの1000部を収容し、更に、47%ホルムアルデヒド水溶液の535部、触媒としての蓚酸の3.5部を添加した後、加熱・攪拌混合下に縮合・濃縮を行うことにより、遊離フェノール量が2.5%のフェノール樹脂Cを得た。この得られたフェノール樹脂Cの数平均分子量(Mn)は、875であった。
【0037】
−フェノール樹脂Dの製造−
ガラス製反応フラスコ内に、フェノールの1000部を収容し、更に、47%ホルムアルデヒド水溶液の549部、触媒としての蓚酸の3.5部を添加した後、加熱・攪拌混合下に縮合・濃縮を行うことにより、遊離フェノール量が1%のフェノール樹脂Dを得た。この得られたフェノール樹脂Dの数平均分子量(Mn)は、1100であった。
【0038】
−実施例1−
上記で得られたフェノール樹脂Bの100部に、ニコチン酸アミド2部、エチレンビスステアリン酸アミド1部、安息香酸1.5部、及びγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.8部を加熱溶融混合し、樹脂組成物を得た。
【0039】
その後、スピードミキサー内に、温度:約140℃に余熱した、フラタリーサンドの7000部と、上記で得られた樹脂組成物の105部とを収容して、50秒間の混練を行なった後、水105部にヘキサメチレンテトラミン15.8部を溶かした溶液を添加して、20秒間混合した後、塊状物が崩壊するまで送風し、次いで、ステアリン酸カルシウムの7部を添加した後、10秒間混合して取り出すことにより、シェルモールド用鋳型材料を得た。
【0040】
−実施例2〜4−
実施例1において、安息香酸を、サリチル酸、パラアミノ安息香酸又はアントラニル酸に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0041】
−実施例5−
実施例1において、ニコチン酸アミドをε−カプロラクタムに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0042】
−実施例6−
実施例5において、安息香酸をパラアミノ安息香酸に変えたこと以外は、実施例5と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0043】
−実施例7−
実施例1において、ニコチン酸アミドをアセトアミドに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0044】
−実施例8−
実施例7において、安息香酸をパラアミノ安息香酸に変えたこと以外は、実施例7と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0045】
−実施例9−
実施例1において、ニコチン酸アミドをアセトアニリドに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0046】
−実施例10−
実施例9において、安息香酸をパラアミノ安息香酸に変えたこと以外は、実施例9と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0047】
−実施例11−
実施例1において、ニコチン酸アミドをステアリン酸アミドに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0048】
−実施例12−
実施例1において、安息香酸を3部としたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0049】
−実施例13−
実施例1において、エチレンビスステアリン酸アミドを配合しないこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0050】
−実施例14−
実施例3において、エチレンビスステアリン酸アミドを配合しないこと以外は、実施例3と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0051】
−実施例15−
実施例1において、フェノール樹脂Bをフェノール樹脂Aに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0052】
−実施例16−
実施例1において、フェノール樹脂Bをフェノール樹脂Cに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、フラタリーサンドの7000部に対して、その得られた樹脂組成物の126部を配合して混練を行なったこと以外は、実施例1と同様にして、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0053】
−比較例1−
実施例1において、安息香酸を配合しないこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0054】
−比較例2−
実施例7において、安息香酸を配合しないこと以外は、実施例7と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0055】
−比較例3−
比較例1において、ニコチン酸アミドを配合しないこと以外は、比較例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0056】
−比較例4−
比較例1において、エチレンビスステアリン酸アミドを配合しないこと以外は、比較例1と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0057】
−比較例5−
比較例4において、ニコチン酸アミド3部としたこと以外は、比較例4と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0058】
−比較例6−
比較例4において、パラトルエンスルホン酸1.5部をさらに添加したこと以外は、比較例4と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0059】
−比較例7−
実施例16において、フェノール樹脂Cをフェノール樹脂Dに変えたこと以外は、実施例16と同様にして、樹脂組成物を得た後、シェルモールド用鋳型材料を作製した。
【0060】
かくして得られた実施例1〜16及び比較例1〜7に係る各種のシェルモールド用鋳型材料について、それぞれ、その曲げ強度、ベンド(500gf)量、及び硬化層厚の測定を行い、その得られた結果を、下記表1〜表3に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
かかる表1〜表3の結果の対比から明らかなように、実施例1〜実施例16に係る本発明に従うフェノール樹脂組成物及びそれから得られたシェルモールド用鋳型材料(RCS)にあっては、何れも、曲げ強度の向上、ベンド量の低減、及び硬化層厚の増大において、優れた特徴を発揮していることが認められる。これに対して、比較例1〜比較例7において得られたフェノール樹脂組成物やシェルモールド用鋳型材料(RCS)にあっては、ベンゼンカルボン酸類が添加されていなかったり、或いは所定のアミド化合物が添加されていなかったり、或いは数平均分子量の大きなフェノール樹脂が用いられていたりするために、充分な曲げ強度を実現することが出来ず、またベンド量が大きくなったり、或いは硬化層厚が薄く、テストピース内部の硬化層の厚みを充分に確保することが困難であることが明らかとなった。