特許第6685726号(P6685726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6685726-毛髪処理剤組成物 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685726
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】毛髪処理剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/898 20060101AFI20200413BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20200413BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   A61K8/898
   A61K8/06
   A61Q5/12
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-522762(P2015-522762)
(86)(22)【出願日】2014年6月9日
(86)【国際出願番号】JP2014065189
(87)【国際公開番号】WO2014199936
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2017年5月25日
【審判番号】不服2018-16827(P2018-16827/J1)
【審判請求日】2018年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2013-124332(P2013-124332)
(32)【優先日】2013年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】林 堅
(72)【発明者】
【氏名】野田 賢二
【合議体】
【審判長】 岡崎 美穂
【審判官】 關 政立
【審判官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−63044(JP,A)
【文献】 特開2010−150175(JP,A)
【文献】 特開2012−176996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
CAplus(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(J−DreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモジメチコンのマイクロエマルジョンからなり、前記マイクロエマルジョンが50nm以下の平均乳化粒子径を有する毛髪カルシウム除去剤であって、
前記アモジメチコンが、下記式(I):
【化1】
(式中、Rはメチル基を表し、Rは-(CH)−NH−(CH)NHを表し、p=50〜300の整数、q=1〜10の整数、a=3及びb=2である)
で表される、毛髪カルシウム除去剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛髪処理剤組成物に関する。より詳細には、毛髪に蓄積されたカルシウムイオンを効率的に除去することのできる毛髪処理剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪は、紫外線などの自然環境からの刺激や、パーマネントウェーブ処理、カラーリング処理、脱色処理などの化学処理を受けることにより損傷して「きしみ」や「ぱさつき」を生じる。さらに、損傷により親水化した毛髪に金属イオンが吸着することによって滑らかさが失われ、ごわごわした感触を生ずるとも言われている。即ち、損傷した毛髪をケアする目的でシャンプーやトリートメント処理を施しても、それを洗い流す水中に含まれる金属イオンの影響によって「ごわつき」が助長されてしまうという問題がある。
【0003】
特許文献1には、金属イオンの中でも銅イオンに着目し、銅イオンを選択的にキレートするキレート剤、例えばジアミン−N,N‘−ジポリ酸又はモノアミンモノアミド−N,N’−ジポリ酸を配合した毛髪処理剤が損傷を低減するのに有用であると記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、損傷した毛髪からカルシウム等のアルカリ土類金属を除去し、毛髪の柔らかさを改善するとともに、毛髪の痛みを改善して滑らかな感触を付与する毛髪化粧料が開示され、当該化粧料は、α−ヒドロキシ酸化合物と、没食子酸化合物とを含有し、pHが2〜4であることを特徴としている。
【0005】
特許文献3には、前記α−ヒドロキシ酸化合物をカルシウムキレート剤として配合するとともに(例えば、段落0019)、特定の油剤及び窒素含有変性シリコーンを配合した毛髪化粧料で処理することにより、処理後の毛髪の強度を高め、表面を疎水化して毛髪の摩擦抵抗を低減できると記載されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載された従来技術では、毛髪表面あるいは内部に蓄積された銅イオンやカルシウムイオンがキレート剤を用いて除去されるものの、毛髪に滑らかさを付与するトリートメント効果が得られない。特許文献3では、特定の油剤及び窒素含有変性シリコーンを共配合することにより毛髪に強さと滑らかさを付与しているが、カルシウムイオンを除去するためにはキレート剤(α−ヒドロキシ酸)が必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−525191号公報
【特許文献2】特開2005−179198号公報
【特許文献3】特開2011−84584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来技術の現状に鑑み、本発明は、キレート剤を含まなくてもカルシウムイオン等の多価金属イオンを有効に除去することができ、なおかつ毛髪に対するトリートメント効果も発揮する毛髪処理剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決すべく、本発明者等は鋭意研究を行った結果、アモジメチコンのマイクロエマルジョンを含む組成物で処理することにより、キレート剤を配合しなくてもカルシウムイオンを有効に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、アモジメチコンのマイクロエマルジョンを含む、毛髪からカルシウムを除去するための毛髪処理剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の毛髪処理剤組成物は、キレート剤を含まなくても、損傷した毛髪に蓄積されたカルシウムイオン等の多価金属イオンを有効に除去することができ、なおかつ毛髪に対するトリートメント効果も発揮する。本発明の毛髪処理剤組成物で処理した毛髪は、シャンプー処理を施した後であっても毛髪表面が疎水性のまま維持されており、滑らかで柔らかな感触が持続する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において毛髪処理剤組成物を適用する前(未処理)及び適用した後(処理)の毛髪中のカルシウム濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の毛髪処理剤組成物は、アモジメチコンのマイクロエマルジョンを含むことを特徴とする。
本明細書におけるアモジメチコンのマイクロエマルジョンとは、アモジメチコンを水性媒体中に分散させた水中油型の乳化物であり、その平均乳化粒子径が約1〜約50nmのものをいう。
【0014】
本発明で使用されるアモジメチコンは、表示名称(INCI名)がアモジメチコンであるアミノ基含有シリコーン化合物であり、例えば、下記式(I):
【化1】
(式中、Rはメチル基又は水酸基を表し、Rは-(CH)-NH-(CH)NHを表し、p=50〜300の整数、q=1〜10の整数、a及びbは同一でも異なっていてもよく、1〜10の整数である)
で表される化合物が好ましく用いられる。
【0015】
上記式(I)で表されるアモジメチコンの中でも、Rが全てメチル基であり、R基におけるaが3、bが2である化合物が特に好ましい。
【0016】
本発明におけるアモジメチコンのマイクロエマルジョンは、上記のようなアモジメチコンを分散相、水性媒体を連続相とするマイクロエマルジョンである。当該マイクロエマルジョンは、イオン性(アニオン性、カチオン性又は両性)あるいはノニオン性の界面活性剤、グリセリン等の多価アルコールや増粘剤といった乳化安定剤、pH調整剤などの成分を含んでいてもよい。
【0017】
マイクロエマルジョンに含まれるアモジメチコンの量は、安定なマイクロエマルジョンが形成される量であれば特に限定されるものではないが、例えば1〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは10〜20質量%程度である。
例えば、BY22−079(東レダウコーニング社製)は、14質量%のアモジメチコン、9.4質量%の非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレン分岐アルキル(C12〜14)エーテルを含む水中油型マイクロエマルジョンであり、本発明において特に好ましく使用できる。
【0018】
本発明の毛髪処理剤組成物は、前記アモジメチコンのマイクロエマルジョンを含んでいれば、毛髪からカルシウムイオンを有効に除去することができる。
毛髪処理剤組成物におけるアモジメチコンのマイクロエマルジョンの配合量は、特に限定されるものではないが、アモジメチコンの実分として、通常は、組成物全体に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%程度とする。アモジメチコンの配合量が0.01質量%未満であると、実用的な時間内にカルシウムイオン除去効果が十分に得られない場合があり、5質量%を超えて配合すると、毛髪に重い感触やべたつきを生ずる場合がある。
【0019】
本発明の毛髪処理剤組成物は、アモジメチコンのマイクロエマルジョンに加えて、他の任意成分を本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。
配合され得る任意成分としては、特に限定されないが、例えば、高級アルコール、炭化水素油、エステル油、シリコーン油等の油分、保湿剤、イオン性の高分子、非イオン性の高分子、イオン性の界面活性剤、非イオン性の界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、色剤等を挙げることができる。
【0020】
本発明の毛髪処理剤組成物においては、マイクロエマルジョン形態のアモジメチコンが単独で毛髪からのカルシウムイオン除去効果を発揮するので、特許文献1〜3に記載されているようなキレート剤を含んでいなくてもよい。しかしながら、特許文献2、3でキレート剤として使用されているα−ヒドロキシ酸は、クエン酸等の化粧料で汎用されているpH調整剤を含んでいる。従って、本発明の組成物は、クエン酸等のα−ヒドロキシ酸をpH調整剤として含有する場合もある。なお、本発明の組成物のpHは弱酸性又は中性から弱アルカリ性とするのが好ましく、pH値で表すと4〜8、好ましくは6〜8程度である。
【0021】
本発明の毛髪処理剤組成物は、パーマネントウェーブ処理やカラーリング処理によって損傷した毛髪に蓄積されたカルシウムイオンを効率的に除去することができる。従って、本発明の毛髪処理剤組成物は、前記のような化学処理等によって損傷を受けた毛髪に適用されるコンディショナーやトリートメントといった形態で提供するのが好ましい。
【0022】
本発明の毛髪処理剤組成物は、パーマネントウェーブ処理のような化学処理が施される美容室、美容院、ヘアサロン等において使用するのに特に適している。
即ち、本発明は、サロン等において、シャンプー処理及びタオルドライさせた毛髪に、アモジメチコンを含む毛髪処理剤組成物を適用して所定時間放置することを含む、毛髪からカルシウムを除去する毛髪処理方法も提供する。放置した後、当該毛髪処理剤組成物は洗い流しても流さなくてもよい。
【0023】
前記毛髪処理方法において、毛髪処理剤組成物を適用した毛髪を放置する時間は、少なくとも30分、好ましくは1時間程度である。しかしながら、毛髪処理剤組成物を適用した毛髪を加温することにより、放置する時間を短縮することが可能である。加温する温度は、少なくとも50℃、好ましくは60℃以上とする。加温することにより放置時間が約1/3に短縮される。
【実施例】
【0024】
以下、具体例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
なお、以下の実施例等における配合量は特記しない限り質量%である。
【0025】
(実施例1)
アモジメチコン(実分)を0.1質量%含む水中油型マイクロエマルジョンからなる毛髪処理剤組成物を調製し、当該組成物を脱色及びパーマネントウェーブ処理してシャンプー洗浄した毛髪に適用した。
所定時間経過後、毛髪に含まれるカルシウム濃度を測定した。具体的には、毛髪を50%塩酸で90℃、1時間処理してカルシウムを抽出し、ICP発光分析法(Simultaneous Mode)にてカルシウム濃度を測定した。
【0026】
本発明の毛髪処理剤組成物を適用する前及び適用して放置した後の毛髪中のカルシウム濃度の変化を図1のグラフに示す。
図1から明らかなように、本発明の毛髪処理剤組成物を適用することにより、毛髪中のカルシウムが除去された。なお、放置している間に毛髪を60℃に加温することにより、カルシウム低下効速度が3倍に促進された。
【0027】
(実施例2)
下記表1に示す組成の試料(残部は水)を調製した。脱色及びパーマネント処理を施して損傷を与え感触の悪化した毛髪の束に各試料を適用し、ドライヤーで乾燥させた後の感触を評価した。
評価は専門パネルにより実施し、以下の基準に基づいて評価した。
[評価基準]
×(1):ざらついた悪い感触
△(2):ややざらついているが感触は改善された
○(3):感触が良好
△(4):やや重いが感触は改善された
×(5):べたつきがあり感触が悪い
【0028】
【表1】
【0029】
図1及び表1に示した結果から、アモジメチコンのマイクロエマルジョンを含む組成物で処理することにより、毛髪中のカルシウムを除去できるのみならず、毛髪の感触を改善することができることが確認された。このような感触改善効果は一般的な金属イオンキレート剤であるEDTAや特許文献2及び3で使用されている乳酸では得られない効果である。
【0030】
(実施例3)
シリコーンの種類又は乳化粒子径による効果の相違を確認した。
下記表2に示すジメチコン又はアモジメチコンを同量(1質量%)の実分で含有するエマルジョン又はマイクロエマルジョンの試料を調製した。
脱色及びパーマネント処理を施して損傷を与えた毛髪の束に各試料を適用し、適用前及び適用後における毛髪中のカルシウム濃度を実施例1の要領で測定した。
【0031】
【表2】
【0032】
その結果、シリコーンとしてジメチコンを配合したエマルジョン及びマイクロエマルジョン(試料A〜C)及びアモジメチコンを配合したエマルジョン(試料D、E)に比較して、アモジメチコンを配合したマイクロエマルジョン(試料F)は、毛髪からのカルシウム除去効果が格段に優れていた。
また、各試料で処理した後の毛髪表面の接触角を測定したところ、いずれも表面が疎水化されていたが、更にシャンプー処理を施した後に測定した結果、アモジメチコンを配合したマイクロエマルジョン(試料F)で処理した毛髪以外は、接触角が小さくなり親水化されたのに対し、試料Fで処理した毛髪はシャンプー処理後でも疎水化された表面が保持されており、滑らかで柔らかい感触が得られることが確認された。
図1