(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
<1.自動変速装置の全体構成例>
図1を参照して、本実施形態にかかる自動変速装置100の構成例について説明する。
図1は、本実施形態にかかる自動変速装置100の構成例を示すスケルトン図である。
図1において、自動変速装置100は、トルクコンバータ110と、変速機構としてのCVTと、前後進切替機構140と、トランスファクラッチ160とを備え、エンジン10の出力側に連設されている。
【0020】
エンジン10とCVTとの間にはトルクコンバータ110とギヤ列116とが設けられる。エンジン10から出力される駆動力は、トルクコンバータ110及びギヤ列116を介してCVTに伝達される。また、前後進切替機構140は、CVTの出力側に、ギヤ列139を介して設けられる。CVT及びギヤ列139を介して前後進切替機構140に伝達されるエンジン10の駆動力は、回転方向を前進方向又は後退方向に切り替えられて出力軸149に伝達される。
【0021】
トルクコンバータ110は、エンジン10のクランクシャフト11にフロントカバー113を介して連結されるポンプインペラ112と、ポンプインペラ112に対向するとともにタービン軸114に連結されるタービンライナ111とを備える。トルクコンバータ110内には作動油が供給されており、作動油を介して、ポンプインペラ112からタービンライナ111にエンジン10の駆動力が伝達される。また、トルクコンバータ110内には、エンジン10のクランクシャフト11とタービン軸114とを直結するロックアップクラッチ115が設けられている。
【0022】
CVTは、プライマリプーリ120と、セカンダリプーリ130と、プライマリプーリ120とセカンダリプーリ130との間で動力を伝達する動力伝達部材としての駆動ベルト129とを備える。プライマリプーリ120は、プライマリ軸127に連結された固定シーブ121及び可動シーブ123を有する。プライマリプーリ120にはプライマリ室125が設けられ、プライマリ室125内の油圧を調整することによって可動シーブ123の位置が変化し、シーブ幅が変化する。
【0023】
また、セカンダリプーリ130は、セカンダリ軸137に連結された固定シーブ131及び可動シーブ133を有する。セカンダリプーリ130にはセカンダリ室135が設けられ、セカンダリ室135内の油圧を調整することによって可動シーブ133の位置が変化し、シーブ幅が変化する。駆動ベルト129は、プライマリプーリ120及びセカンダリプーリ130に巻き掛けられている。プライマリプーリ120及びセカンダリプーリ130のシーブ幅を変化させて駆動ベルト129の巻き付け径を変化させることによって、プライマリ軸127からセカンダリ軸137に対する無段変速が可能となっている。
【0024】
前後進切替機構140は、プラネタリギヤ141と、前進クラッチ143と、後退ブレーキ145とを備える。前進クラッチ143及び後退ブレーキ145を制御することにより、出力軸149の回転方向が切り替え可能になっている。後退ブレーキ145が開放され前進クラッチ143が締結されることにより、ギヤ列139を介してセカンダリ軸137に接続された入力軸147が出力軸149に対して直結されるため、出力軸149が正転方向に回転し、車両の前進走行が可能となる。また、前進クラッチ143が開放され後退ブレーキ145が締結されることにより、入力軸147がプラネタリギヤ141を介して出力軸149に連結されるため、出力軸149が逆転方向に回転し、車両の後退走行が可能となる。なお、前進クラッチ143及び後退ブレーキ145がともに開放されることにより、前後進切替機構140は出力軸149にエンジン10の動力を伝達しないニュートラル状態になる。
【0025】
出力軸149にはギヤ列150を介して前輪出力軸181が連結されている。前輪出力軸181の端部(図中の左端)には、フロントデファレンシャル機構180を介して前輪(駆動輪)40が連結されている。また、出力軸149にはトランスファクラッチ160を介して後輪出力軸31が連結されている。トランスファクラッチ160は、後輪出力軸31への駆動力の伝達の可否を切り替える。後輪出力軸31には、図示しないプロペラシャフトやリヤデファレンシャル機構を介して後輪(駆動輪)30が連結されている。
【0026】
トルクコンバータ110、プライマリ室125、セカンダリ室135、前進クラッチ143、後退ブレーキ145、及び、トランスファクラッチ160には、オイルポンプ170の駆動により生成される油圧が供給される。オイルポンプ170は、エンジン10のクランクシャフト11に連結された機械式のポンプであって、エンジン10の駆動力を用いて駆動される。オイルポンプ170により圧送される作動油は、バルブユニット172を介して各作動部へと供給される。バルブユニット172には、電磁弁等の制御弁が備えられ、各作動部の作動状態に応じて、各作動部へと供給される作動油の量が制御される。バルブユニット172に備えられた各制御弁は、図示しない制御装置(ロック制御部)により制御される。
【0027】
かかる自動変速装置100は、エンジン10とCVTとの間に、動力伝達経路を切り離し得るクラッチを備えていない。このため、エンジン10の運転中においては、エンジン10から出力される駆動力が、トルクコンバータ110及びギヤ列116を介して、常時CVTのプライマリプーリ120に伝達され得る。
【0028】
上述のように、CVTは、固定シーブ121,131と可動シーブ123,133とによって駆動ベルト129を挟持(クランプ)し、駆動ベルト129を介してプライマリプーリ120とセカンダリプーリ130との間で動力を伝達するものである。作動油の油温が低く、作動油の粘度が大きい状態でエンジン10を始動させた場合には、セカンダリ室135内の作動油の粘度が大きいことによって、セカンダリプーリ130のドラッグトルクが上昇する場合がある。このため、エンジン10からの駆動力によってプライマリプーリ120が回転することに伴って駆動ベルト129が回転するときに、セカンダリプーリ130の回転が阻害され、プライマリプーリ120又はセカンダリプーリ130上で駆動ベルト129の滑りが生じる場合がある。
【0029】
つまり、プライマリプーリ120は、エンジン10の駆動力が直接伝達されるプライマリ軸127の回転により回転する一方、セカンダリプーリ130は、駆動ベルト129を介して伝達される駆動力により回転する。このため、セカンダリプーリ130のドラッグトルクが大きい場合には、駆動ベルト129の回転にセカンダリプーリ130が追従できず、駆動ベルト129の滑りが生じ得る。駆動ベルト129の滑りが生じると、プライマリプーリ120又はセカンダリプーリ130、あるいは、駆動ベルト129が摩耗し、CVTの故障の原因となる。
【0030】
また、作動油の粘度が大きい場合、作動油の油圧が上昇しにくいために、エンジン10の始動後においても、プライマリプーリ120及びセカンダリプーリ130のクランプ圧が確保されにくく、駆動ベルト129の滑りが生じやすくなる。さらに、作動油の粘度が大きい場合、トルクコンバータ110では、ポンプインペラ112の回転によるタービンライナ111の引き摺りトルクも大きくなり得る。この場合には、エンジン10の駆動力がプライマリプーリ120に伝達されやすく、セカンダリプーリ130のドラッグトルクの上昇と相俟って、さらに駆動ベルト129の滑りが生じやすくなる。
【0031】
このため、本実施形態にかかる自動変速装置100は、エンジン10の駆動力によるプライマリプーリ120の回転を阻止する回転阻止機構190を備えている。かかる回転阻止機構190は、例えば、エンジン10の低温始動時に作動して、エンジン10から駆動力が伝達される場合であっても、プライマリプーリ120が回転しないように作用する。
【0032】
<2.回転阻止機構>
次に、本実施形態にかかる自動変速装置100に備えられた回転阻止機構190の構成例について詳細に説明する。
【0033】
(2−1.回転阻止機構の構成例)
図2は、本実施形態にかかる自動変速装置100に備えられた回転阻止機構190の構成例を示す説明図である。本実施形態にかかる回転阻止機構190は、プライマリ軸127をロックして、プライマリプーリ120の回転を阻止するように構成されている。
図2には、回転阻止機構190をプライマリ軸127の径方向から見た図と、回転阻止機構190をCVT側から軸方向に見た図とが示されている。
【0034】
回転阻止機構190は、プライマリ軸127に連結された回転部材としてのロックギヤ191と、可動部としての可動ピストン197と、可動ピストン197を駆動させるアクチュエータ195とを備える。ロックギヤ191は、中心部に開口部193を有し、当該開口部193にプライマリ軸127が挿入されている。例えば、ロックギヤ191は、プライマリ軸127に対してスプライン結合されて固定され、プライマリ軸127と一体回転する。ロックギヤ191は、外周部に、係止部としての凹凸部192を有する。
【0035】
可動ピストン197は、凹凸部192に向けて進退動可能に構成されている。可動ピストン197を駆動するアクチュエータ195は、例えば、電磁ソレノイドを用いて構成され、図示しない制御装置により制御される。アクチュエータ195は、例えば、通電状態で可動ピストン197をロックギヤ191の凹凸部192に向けて前進させる。このとき、可動ピストン197は、ロックギヤ191の凹凸部192に入り込んだ状態で保持され、凹凸部192は可動ピストン197に係止される。一方、アクチュエータ195は、非通電状態で可動ピストン197を後退させた状態で保持させる。このとき、可動ピストン197は、ロックギヤ191の凹凸部192には入り込まない状態で保持され、可動ピストン197による凹凸部192の係止が解除される。
【0036】
ロックギヤ191の凹凸部192が可動ピストン197に係止されることにより、トルクコンバータ110及びギヤ列116を介して、エンジン10の駆動力がプライマリ軸127に伝達され得る場合であっても、ロックギヤ191及びプライマリ軸127が回転しないように保持される。これにより、プライマリプーリ120の回転が阻止される。したがって、駆動ベルト129及びセカンダリプーリ130も回転することがなく、プライマリプーリ120又はセカンダリプーリ130上での駆動ベルト129の滑りが生じることを防ぐことができる。
【0037】
プライマリ軸127の回転が阻止されている状態では、ギヤ列116を介してプライマリ軸127に連結されたトルクコンバータ110のタービン軸114も回転できなくなるため、トルクコンバータ110では、ポンプインペラ112が空転状態になる。したがって、回転阻止機構190によってプライマリプーリ120が回転しないように保持された場合であっても、自動変速装置100の故障が発生するおそれがない。
【0038】
ロックギヤ191の凹凸部192の形状は、可動ピストン197が入り込む凹部があれば、特に限定されない。
図2に示したロックギヤ191の例では、凹凸部192は、可動ピストン197の直径よりも若干大きい幅の凹部を有しているが、凹部の幅がさらに大きくてもよい。また、
図2に示したロックギヤ191の例では、ロックギヤ191の外周部の全周に亘って凹凸部192が設けられているが、外周部の一部に凹部が設けられていてもよい。
【0039】
また、
図3に示すように、ロックギヤ191の凹凸部192のうちの各凸部192aの軸方向幅(厚さ)が、隣り合う凹部192bに向かって薄くなってもよい。凸部192aがこのように構成されることにより、可動ピストン197を凹凸部192に向けて前進させたときに、可動ピストン197が凸部192aに接触した場合であっても、ロックギヤ191の回転に伴って可動ピストン197を確実に凹部192b内に入り込ませることができる。
【0040】
可動部が係止される係止部は、ロックギヤ191の凹凸部192のようにギヤの歯によって構成されていなくてもよい。例えば、係止部は、回転部材の周面又は端面(軸方向の端面)に設けられた凹部であってもよい。この他、係止部は、進退動する可動部が入り込んで係止可能な形態であれば、特に限定されない。
【0041】
また、ロックギヤ191は、プライマリ軸127ではなく、タービン軸114に連結されてもよい。タービン軸114に連結されたロックギヤ191の凹凸部192を可動ピストン197に係止させて、タービン軸114が回転しないよう保持させることによっても、プライマリ軸127及びプライマリプーリ120の回転が阻止され得る。あるいは、独立したロックギヤ191を備える代わりに、プライマリプーリ120の固定シーブ121又は可動シーブ123に係止部を設け、当該係止部に向けて進退動可能な可動部を備えてもよい。これにより、プライマリプーリ120が直接係止され、プライマリプーリ120の回転が阻止される。この他、係止部は、トルクコンバータ110の出力側からプライマリプーリ120に至る動力伝達経路のいずれの位置に設けられてもよい
【0042】
また、アクチュエータ195は、電磁ソレノイドに限られず、電歪式のアクチュエータであってもよく、あるいは、これ以外のアクチュエータであってもよい。
【0043】
(2−2.回転阻止機構の制御方法の例)
図4は、回転阻止機構190のアクチュエータ195の駆動制御を行う制御装置(ロック制御部)200の構成例を示している。ロック制御部200は、例えば、自動変速装置100の制御を行うトランスミッション制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の一つの機能として構成されてもよい。この場合、トランスミッションECUは、例えば、マイクロコンピュータを備えて構成され、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって各種の演算処理を実行し、ロック制御部200としての機能を実現し得る。
【0044】
ロック制御部200は、例えば、油温センサ202、油圧センサ204、及び、シフト位置センサ206によって検出される情報を取得可能に構成される。油温センサ202は、自動変速装置100の油圧回路内に設けられて、作動油の油温Toを検出する。油圧センサ204は、自動変速装置100の油圧回路内に設けられて、作動油の油圧Poを検出する。例えば、油圧センサ204は、自動変速装置100の各作動部へと作動油が分配される位置よりも上流側に設けられて、油圧(ライン圧)Poを検出してもよい。シフト位置センサ206は、運転者によって操作されるシフトレバーの位置を検出する。
【0045】
この他、ロック制御部200は、外気温Te、アクセルペダルの操作量Acc、ブレーキペダルの操作量Brk、及び、エンジン10のイグニッションスイッチのオンオフの情報を取得可能になっている。外気温Teは、車両に設置された外気温センサによって検出され得る。アクセルペダルの操作量Acc、及び、ブレーキペダルの操作量Brkは、アクセルペダル及びブレーキペダルに設けられたセンサにより検出され得る。ロック制御部200は、これらの各情報を直接取得してもよいし、他の制御装置との間で通信を行うことによって取得してもよい。
【0046】
ロック制御部200は、エンジン10の低温始動時に、アクチュエータ195を駆動して、可動ピストン197をロックギヤ191の凹凸部192に向けて前進させ、係止させる。例えば、ロック制御部200は、エンジン10のイグニッションスイッチがオンにされたときに、外気温Teが所定の閾値Te_th未満であり、又は、油温Toが所定の閾値To_th未満である場合には、可動ピストン197を前進させる。これにより、回転阻止機構190によってプライマリプーリ120の回転が阻止され、駆動ベルト129の滑りが生じないようにされる。外気温Teの閾値Te_th、又は、油温Toの閾値To_thは、例えば0℃に設定されるが、これに限られない。
【0047】
また、ロック制御部200は、プライマリプーリ120の回転を阻止させた状態において、作動油の油圧Poが所定の閾値Po_thに到達し、かつ、作動油の油温Toが所定の閾値To_thに到達したときに、アクチュエータ195を駆動して、可動ピストン197を後退させる。つまり、作動油の油圧Poが十分に上昇し、作動油の粘度も小さくなって、セカンダリプーリ130のドラッグトルクが小さくなる状態で、ロック制御部200は、プライマリプーリ120の回転の阻止を解除させる。油圧Poの閾値Po_thは、各作動部に供給される油圧が十分な値となるように、あらかじめ設定される。また、油温Toの閾値To_thは、低温始動時に用いる閾値の値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
なお、作動油の油温Toが所定の閾値To_thに到達したか否かの条件に代えて、エンジン10の始動後経過時間が所定の閾値に到達したか否かが条件とされてもよい。始動後経過時間の閾値は、油温Toが閾値To_thに到達し得る時間としてあらかじめ設定される。この場合、始動時の外気温Te又は油温Toに応じて、始動後経過時間の閾値が異なっていてもよい。例えば、始動時の外気温Te又は油温Toが低いほど、始動後経過時間の閾値が長くされてもよい。
【0049】
また、ロック制御部200は、作動油の油圧Poが閾値Po_thに到達し、かつ、作動油の油温Toが閾値To_thに到達する前であっても、運転者による車両の走行意思が検出された時には、プライマリプーリ120の回転の阻止を解除させてもよい。例えば、ロック制御部200は、シフトレバーの位置がパーキング(P)又はニュートラル(N)の位置にある期間、可動ピストン197を前進させた状態で保持させてもよい。つまり、シフトレバーの位置がドライブ(D)又はリバース(R)の位置に変化した場合には、運転者が車両を走行させる意思があると推定できることから、ロック制御部200は、アクチュエータ195を駆動して、可動ピストン197を後退させ、ロックギヤ191の係止を解除させる。これにより、エンジン10の駆動力がプライマリプーリ120に伝達され得る状態になって、運転者の走行意思を反映させることができる。
【0050】
運転者の走行意思の検出方法としては、あらゆる方法が考えられる。例えば、ロック制御部200は、シフトレバーの位置がドライブ(D)又はリバース(R)の位置にあるとしても、ブレーキペダルが踏み込まれている場合には、プライマリプーリ120の回転の阻止を維持させてもよい。
【0051】
図5は、ロック制御部200により実行される制御処理の例を示すフローチャートである。まず、ステップS10において、ロック制御部200は、エンジン10のイグニッションスイッチ(IGスイッチ)がオフからオンにされたか否かを判別する。イグニッションスイッチがオフの間(S10:No)、ロック制御部200は、ステップS10の判別処理を繰り返す。一方、イグニッションスイッチがオフからオンにされた場合(S10:Yes)、ロック制御部200は、ステップS12に進み、エンジン10の低温始動時であるか否かを判別する。例えば、ロック制御部200は、外気温Teが所定の閾値Te_th未満であるか否か、又は、作動油の油温Toが所定の閾値To_th未満であるか否かを判別する。
【0052】
エンジン10の低温始動時でない場合(S12:No)、ロック制御部200は、ステップS18に進み、回転阻止機構190をオフにしたままで本ルーチンを終了させる。これにより、エンジン10の駆動力によりプライマリプーリ120は回転し、CVTを介して駆動輪30,40へと駆動力を伝達させることができる。
【0053】
一方、エンジン10の低温始動時である場合(S12:Yes)、ロック制御部200は、ステップS14に進み、回転阻止機構190を駆動させて、プライマリプーリ120の回転を阻止させる。具体的には、ロック制御部200は、アクチュエータ195を駆動して、可動ピストン197を前進させ、ロックギヤ191の凹凸部192に係止させる。これにより、エンジン10の運転状態においても、プライマリプーリ120の回転が阻止され、プライマリプーリ120又はセカンダリプーリ130上で駆動ベルト129の滑りが生じることを防ぐことができる。
【0054】
次いで、ロック制御部200は、ステップS16に進み、プライマリプーリ120の回転阻止を解除させる条件が成立したか否かを判別する。例えば、ロック制御部200は、作動油の油圧Poが所定の閾値Po_thに到達し、かつ、作動油の油温Toが所定の閾値To_thに到達したときに、プライマリプーリ120の回転阻止を解除させてもよい。あるいは、ロック制御部200は、作動油の油圧Poが所定の閾値Po_thに到達し、かつ、エンジン10の始動時からの始動後経過時間が所定の閾値に到達したときに、プライマリプーリ120の回転阻止を解除させてもよい。
【0055】
また、ロック制御部200は、作動油の油圧Po及び油温Toの条件が成立しない場合であっても、運転者による車両の走行意思が検出されたときに、プライマリプーリ120の回転阻止を解除させてもよい。例えば、ロック制御部200は、シフトレバーの位置がドライブ(D)又はリバース(R)の位置に変化した場合に、プライマリプーリ120の回転阻止を解除させてもよい。ロック制御部200は、シフトレバーの位置と併せて、アクセルペダルの操作量Accやブレーキペダルの操作量Brkの情報に基づいて、プライマリプーリ120の回転阻止を解除させてもよい。これにより、運転者が車両を走行させたい場合には、当該走行意思を反映させることができる。
【0056】
プライマリプーリ120の回転阻止を解除させる条件が成立していない場合(S16:No)、ロック制御部200は、ステップS16の判別を繰り返す。一方、プライマリプーリ120の回転阻止を解除させる条件が成立した場合(S16:Yes)、ロック制御部200は、ステップS18に進み、回転阻止機構190をオフにする。具体的に、ロック制御部200は、アクチュエータ195を非通電状態にして、可動ピストン197を後退させ、ロックギヤ191の凹凸部192への係止を解除させる。これにより、エンジン10の駆動力によりプライマリプーリ120は回転し、CVTを介して駆動輪30,40へと駆動力を伝達させることができる。
【0057】
図6は、ロック制御部200による制御が実行された場合のタイミングチャートを示す。作動油の油温Toが低い状態で、時刻t1において、イグニッションスイッチがオフからオンにされ、エンジン10が始動されたとする。この場合、油温Toが閾値To_thよりも低いために、ロック制御部200は、回転阻止機構190をオンにする。つまり、ロック制御部200は、アクチュエータ195を駆動して、可動ピストン197をロックギヤ191の凹凸部192に向けて前進させ、凹凸部192を可動ピストン197に係止させる。これにより、エンジン10が運転状態であってもプライマリプーリ120は回転しないため、作動油の粘度が大きいことによる駆動ベルト129の滑りが防止される。
【0058】
その後、時間の経過に伴って、作動油の油温To及び油圧Poが上昇し、時刻t2において、作動油の油圧Poが閾値Po_th以上であり、かつ、作動油の油温Toが閾値To_th以上である条件が成立したときに、ロック制御部200は、回転阻止機構190をオフにする。つまり、ロック制御部200は、アクチュエータ195への通電を停止し、可動ピストン197を後退させ、凹凸部192の可動ピストン197への係止を解除させる。これにより、プライマリプーリ120の回転阻止が解除され、エンジン10の駆動力が駆動輪30,40に伝達され得る状態となる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態にかかる自動変速装置100は、エンジン10の運転状態において、プライマリプーリ120の回転を阻止する回転阻止機構190を備えている。かかる回転阻止機構190は、凹凸部192からなる係止部を有するロックギヤ191と、凹凸部192に向けて進退移動可能な可動ピストン197と、可動ピストン197を進退動させるアクチュエータ195とにより構成されている。したがって、比較的簡易な構成で、トルクコンバータ110からCVTに至る動力伝達経路を遮断することなく、プライマリプーリ120の回転を阻止することができる。
【0060】
これにより、エンジン10の低温始動時等、油温が低く作動油の粘度が大きい状態でCVTが駆動され、セカンダリプーリ130のドラッグトルクの増加によってプライマリプーリ120又はセカンダリプーリ130上で駆動ベルト129の滑りが生じることを防ぐことができる。また、エンジン10の低温始動時等、油温が低く作動油の粘度が大きい状態でCVTが駆動され、プライマリプーリ120又はセカンダリプーリ130のクランプ圧が不十分となることによって、駆動ベルト129の滑りが生じることを防ぐことができる。
【0061】
かかる回転阻止機構190は、油圧回路を含むクラッチ手段を用いる場合に比べて、コストを抑えることができるとともに、質量も低減させることができる。また、係る回転阻止機構190は、大きな油圧を利用することがないため、エンジン10の駆動力を抑制可能になって、燃費を低減させることができる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば、上記実施形態では、可動ピストン197が、プライマリ軸127の軸方向側からロックギヤ191の凹凸部192に向けて入り込むように構成されていたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、ロックギヤ191の径方向外側にアクチュエータ195及び可動ピストン197が配置されて、ロックギヤ191の径方向側から凹凸部192に向けて可動ピストン197が進入するように構成されてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、ロックギヤ191と、アクチュエータ195と、可動ピストン197とにより回転阻止機構190が構成され、ロック制御部200によりアクチュエータ195が制御されていたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、運転者により操作されるシフトレバーの動きに連動して可動ピストンが係止部に係止され、又は、係止が解除される機械式の回転阻止機構であってもよい。具体的には、シフトレバーに対して可動ピストンがリンク構造を介して連結され、シフトレバーがパーキング(P)の位置にあるときに可動ピストンが係止部に係止される一方、シフトレバーがパーキング(P)以外の位置に変化した時には可動ピストンの係止部への係止が解除されるように、回転阻止機構が構成されてもよい。この場合、可動ピストンは、シフトレバーではなく、パーキングブレーキの動きに連動してもよい。