(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685796
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20200413BHJP
C04B 7/345 20060101ALI20200413BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20200413BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20200413BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20200413BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B7/345
C04B7/02
C04B22/10
C04B22/08 A
C04B24/06
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-68598(P2016-68598)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-178680(P2017-178680A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】中崎 豪士
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】河野 恒平
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷村 充
【審査官】
田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5867939(JP,B1)
【文献】
国際公開第2013/054833(WO,A1)
【文献】
特開2011−051010(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/029935(WO,A1)
【文献】
特開2010−110802(JP,A)
【文献】
特開平09−122829(JP,A)
【文献】
特開2004−352950(JP,A)
【文献】
特開2013−244503(JP,A)
【文献】
特開2014−161891(JP,A)
【文献】
特開平07−232941(JP,A)
【文献】
特開2005−162566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00 − 1/26
B22C 9/00 − 9/30
C04B 2/00 − 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸リチウムを除く炭酸アルカリ金属塩、ケイ酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、および乳酸アルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上の添加剤とセメントクリンカー粉末の合計を100質量%として、該添加剤を3〜5質量%含む粘結材100質量部に対し、砂を200〜400質量部含有する、結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物。
【請求項2】
前記砂が、珪砂、オリビン砂、および人工砂から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物。
【請求項3】
前記結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物が鋳物砂である、請求項1または2に記載の結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合材噴射方式付加製造装置に用いるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、溶融した金属を鋳型に注入して鋳物を作製する伝統的な金属加工法である。この鋳造に用いる自硬性鋳型は、使用する粘結材に応じて有機系と無機系があり、このうち無機系は、主に水ガラス系とセメント系がある。ただし、セメント系自硬性鋳型は、鋳込み温度によっては、含まれる石膏が熱分解してガスが発生する場合がある。また、この鋳型の作製では、模型や木型の試作が前工程として必須であるが、この前工程には時間とコストがかかる。
そこで、ガスが発生することなく、また、該前工程を経ることなく、鋳型を作製できる手段が望まれる。
【0003】
特許文献1に記載のガス吸収材料は、鋳造時に、鋳型に含まれる有機成分の熱分解によって生じるガスを吸収する材料であって、吸水性かつ耐熱性のある粉粒体に液体のガス吸収剤を吸着させて成形したものである。該ガス吸収材料は、鋳型内に含ませて用いる。しかし、セメント系自硬性鋳型に発生するガスは、主に、硫黄酸化物であり、有機成分の熱分解によって生じるガスを吸収する前記ガス吸収材料では、効果が低いと思われる。
【0004】
ところで、最近、付加製造装置が、迅速かつ精密な造形手段として注目されている。この付加製造装置のうち、例えば、粉末積層成形装置は、粉末を平面の上に敷き詰め、該粉末に水性バインダを噴射して粉末を固化し、該固化物を垂直方向に順次積層して造形する装置である。この装置の特徴は、3次元CAD等で作成した立体造形のデータを多数の水平面に分割し、これらの水平面の形状を順次積層して、成形体を作製する点にある。
そこで、前記付加製造装置を用いて鋳型を作製できれば、前記の前工程は不要になるから、作業時間とコストの削減に資することが期待される。
【0005】
特許文献2は、結合材噴射法(粉末積層成形法)に適した粉末材料を提案している。該材料は、珪砂、オリビン砂、人工砂等の耐火砂に速硬性セメントを粘結材として所定の量配合して混練したもので、これに水性バインダを加えて固化・積層して成形体を作製する。
しかし、結合材噴射法で作製した成形体は、空隙が多くなり易いため、強度が低く破損し易い。
また、特許文献3に記載の造形用材料は、骨材と当該骨材を結着させるバインダーの粉状前駆体とが混合された、粉末固着積層法における造形用材料であって、前記骨材は70重量%以上であり、前記粉状前駆体はセメント等である。しかし、セメントは石膏を含むため、前記造形用材料はガスの発生を抑制できないから、鋳物製品の美観への影響が懸念されるところ、該文献は美観について記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−213895
【特許文献2】特開2011−51010号公報
【特許文献3】特開2010−110802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、結合材噴射方式付加製造装置に用いるための、強度がより高いセメント組成物を提供すること、さらには、高耐熱で鋳造時のガスの発生が少なく鋳型に好適なセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の化学成分を特定量含むセメント組成物は、付加製造装置を用いた造形が可能で、これまでよりも強度と耐熱性が高く、かつ鋳造に用いた場合、鋳造時のガスの発生が少ないことを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記の構成を有するセメント組成物である。
【0009】
[1]
炭酸リチウムを除く炭酸アルカリ金属塩、ケイ酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、および乳酸アルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上の添加剤とセメントクリンカー粉末の合計を100質量%として、該添加剤を3〜
5質量%含む粘結材100質量部に対し、砂を
200〜400質量部含有する、結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物。
[2]前記砂が、珪砂、オリビン砂、および人工砂から選ばれる1種以上である、前記[1
]に記載の結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物。
[3]前記結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物が鋳物砂である、
前記[1
]または[2]に記載の結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセメント組成物は、結合材噴射方式付加製造装置を用いて造形した場合、より強度が高いので破損することが少ない。また、高耐熱性であり、鋳造に用いた場合、鋳造時のガスの発生が少なく、表面が平滑で美観性が高い鋳物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物を用いて作製した、鋳型の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、前記のとおり、炭酸アルカリ金属塩、ケイ酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、および乳酸アルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上の添加剤とセメントクリンカー粉末の合計を100質量%として、該添加剤を3〜10質量%含む粘結材100質量部に対し、砂を100〜400質量部含有する、結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物等である。
以下、本発明について、粘結材および砂等に分けて、詳細に説明する。
【0013】
1.粘結材
該粘結材は、炭酸アルカリ金属塩、ケイ酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、および乳酸アルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上の添加剤と、セメントクリンカー粉末を含むものである。次に、炭酸アルカリ金属塩、ケイ酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、および乳酸アルカリ土類金属塩とセメントクリンカー粉末について説明する。
(1)添加剤
該添加剤は、炭酸アルカリ金属塩、ケイ酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、および乳酸アルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上である。該炭酸アルカリ金属塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸リチウムから選ばれる1種以上が挙げられる。該ケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、およびケイ酸リチウムから選ばれる1種以上が挙げられる。該乳酸アルカリ金属塩は、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、および乳酸リチウムから選ばれる1種以上が挙げられる。また、該乳酸アルカリ土類金属塩は、乳酸カルシウム、および乳酸マグネシウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
前記粘結材中の添加剤の含有率は、添加剤とセメントクリンカー粉末の合計を100質量%として、3〜10質量%である。該値が、該範囲内であれば、迅速な造形のための速硬性と取扱い可能な強度を確保できる。なお、該値は、好ましくは4〜9質量%、より好ましくは5〜8質量%である。添加剤は、付加製造装置から供給される水に溶解して用いることもできる。
【0014】
(2)セメントクリンカー粉末
該セメントクリンカー粉末のクリンカーは、普通ポルトランドセメントクリンカー、早強ポルトランドセメントクリンカー、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー、低熱ポルトランドセメントクリンカー、白色ポルトランドセメントクリンカー、エコセメントクリンカー、アリナイトセメントクリンカー、アーウィンクリンカー、カルシウムフルオロアルミネートクリンカー、およびモノカルシウムアルミネートクリンカーから選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、強度の観点から、普通ポルトランドセメントクリンカー、早強ポルトランドセメントクリンカー、アーウィンクリンカー、カルシウムフルオロアルミネートクリンカー、またはモノカルシウムアルミネートクリンカーが好ましい。
また、前記粘結材中のセメントクリンカー粉末の含有率は、添加剤とセメントクリンカー粉末の合計を100質量%として、90〜97質量%である。該値が該範囲内であれば、強度発現性が高い。なお、該値は、好ましくは91〜96質量%、より好ましくは92〜95質量%である。
また、該セメントクリンカー粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2000〜6000cm
2/gである。該値が該範囲内にあれば、セメント組成物の強度発現性は充分に高い。なお、該値は、より好ましくは3000〜5000cm
2/g、さらに好ましくは4000〜5000cm
2/gである。
なお、前記粘結材は、必須成分である前記添加剤とセメントクリンカー粉末のほかに、強度発現性の調整材等として、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、および石灰石粉末等の任意成分を含んでもよい。
【0015】
2.砂
該砂は、耐火砂であれば、特に制限されず、珪砂、オリビン砂、および人工砂から選ばれる1種以上が挙げられる。また、該砂の配合量は、前記粘結材100質量部に対し、100〜400質量部である。該値が該範囲であれば、耐火性と強度発現性を確保できる。なお、該配合量は、前記粘結材100質量部に対し、好ましくは150〜350質量部、より好ましくは200〜300質量部、さらに好ましくは200〜250質量部である。
【0016】
3.その他
本発明の結合材噴射方式付加製造装置用セメント組成物を造形に用いる場合、水/粘結材(質量比)は、強度の観点から、好ましくは0.01〜0.1、より好ましくは0.02〜0.09、さらに好ましくは0.03〜0.08である。
また、成形体の養生方法は、気中養生、または、気中養生後に続けて水中養生する方法が採用できる。気中および水中の温度は、特に制限されないが、養生のし易さから、好ましくは10〜50℃でよい。気中養生時間は、十分な強度発現と生産効率の観点から、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは1〜4時間、さらに好ましくは2〜4時間である。また、水中養生時間は、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上、さらに好ましくは20時間以上である。
本発明のセメント組成物を用いて作製した成形体は、耐熱性が高いことから鋳物等に好適である。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用した材料
(1)添加剤
(i)炭酸ナトリウム(試薬1級、関東化学社製)
(ii)炭酸リチウム(試薬1級、関東化学社製)
(iii)ケイ酸ナトリウム(試薬1級、関東化学社製)
(iv)乳酸カルシウム(試薬1級、関東化学社製)
(2)セメントクリンカー粉末
(i)普通ポルトランドセメントクリンカー粉末(略号:NPCC)
ブレーン比表面積:4000cm
2/g
(ii)超速硬セメントクリンカー粉末(略号:SHCC)
スーパージェットセメント(登録商標、小野田ケミコ社製)の構成成分であるアーウィンおよびビーライト含有クリンカーを粉砕して使用した。
ブレーン比表面積:5300cm
2/g
(3)細骨材
珪砂8号(東北硅砂社製)、密度2.61g/cm
3
(4)水
水道水
【0018】
2.セメント組成物、鋳型、およびモルタル供試体の作製
表1に掲載の配合に従い、前記の添加剤、セメントクリンカー粉末、および細骨材を、ビニル袋に入れて振盪してセメント組成物を作製した。
次に、該セメント組成物と、結合材噴射式粉末積層造形装置(付加製造装置 商品名:ZPrinter310 Zコーポレーション社製)を用いて、結合材噴射法により、寸法が縦10mm、横16mm、および長さ80mmのモルタル供試体と、
図1に示す階段状の鋳型を作製した。
なお、前記装置による鋳型の成形方法は、所定の位置を選択して、ノズルから一定量の水を噴出して、セメント組成物を固化する方法であり、水/粘結材は質量比で0.05である。
【0019】
3.モルタル供試体の曲げ強度の測定
次に、前記モルタル供試体を、表1に示す養生パターン(20℃の気中で3時間養生、または20℃の気中で3時間養生した後、さらに20℃の水中で21時間養生)で養生した後、曲げ強度試験機 MODEL-2257(アイコーエンジニアリング社製)を用いて3点曲げ試験を行い、前記モルタル供試体の曲げ強度を測定した。その結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1は、3時間の気中養生、および、3時間の気中養生後さらに水中で21時間水中養生した場合のいずれも、比較例1に比べて曲げ強度が高い。一方、炭酸ナトリウムが含まれない粘結材を用いた比較例1では、3時間の気中養生では水中への運搬時や寸法測定時に破損する場合があった。実施例2〜5についても、3時間の気中養生を行った後の曲げ強度は、添加剤を含まない比較例2に比べて高い。ちなみに、3時間の気中養生で要求される曲げ強度は、0.1MPa以上である。
【0020】
4.鋳物の作製
さらに、前記鋳型に溶融した鋳鉄を流し込み、鋳物を作製した。
いずれの実施例も鋳込み時にガスが発生せず、表面が平滑な鋳物を作製できた。
【0021】
【表1】