【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年11月17日「The 1st International Conference on Spring Technologies予稿集」において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年11月17日「The 1st International Conference on Spring Technologies」において発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トランクリッドがクローズした状態で目標クローズ形状が与えられ、トランクリッドから外されたフリーの状態でフリー形状を求めるトランクリッド用のトーションバーの設計方法であって、
(a) 前記目標クローズ形状における前記トーションバーに生ずる目標トルク、前記目標クローズ形状からオープン形状に至るまでの前記トーションバーの可動端が回転する回転角、ノードの座標で指定される前記目標クローズ形状及び前記トーションバーの線径を含む設計仕様を入力するステップと、
(b) 前記ノードの座標で前記目標クローズ形状を有する中心線モデルを生成するステップと、
(c) 前記目標クローズ形状に対応する前記フリー形状を静力学的及び幾何学的に生成するステップであって、このフリー形状のノードで前記フリー形状の中心線モデルを生成するステップと、
(d) 前記フリー形状の中心線モデルを基に前記オープン形状の中心線モデルを生成し、このオープン形状の中心線モデルを前記回転角だけ回転させて解析クローズ形状の中心線モデルを生成するステップと、
(e) 前記解析クローズ形状における解析トルクと目標トルクとから差トルクを求めるステップと、
(f) 前記解析クローズ形状の中心線モデルと前記目標クローズ形状の中心線モデルとを比較して互いに対応する前記中心線上の点に生ずる差ベクトルを求めるステップと、
(g) 前記差トルクと前記差ベクトルの大きさが両方とも指定公差内に収まっていなければ、前記差トルク及び前記差ベクトルの大きさを減少させるように、前記フリー形状の中心線モデルを変更して(d)に戻り、或いは、前記差トルクと前記差ベクトルの大きさが両方とも指定公差内に収まっていれば、設計を終了するステップと、
を具備しているトーションバーの設計方法をプロセッサに実行させるプログラム。
前記設計を終了するステップ後の前記クローズ形状の中心線モデルを最終モデルに定め、この最終モデルに対応する前記フリー形状の中心線モデルを前記設計されたトーションバーに定める請求項1のトーションバーの設計方法をプロセッサに実行させるプログラム。
前記クローズ形状の中心線最終モデルで前記トランクリッドの開閉に伴う当該中心線最終モデルのオープンからクローズまでの全ストロークの軌跡をシュミュレートし、他の車輌部品との干渉をチェックするステップ、
を更に具備する請求項4のトーションバーの設計方法をプロセッサに実行させるプログラム。
前記クローズ形状の中心線最終モデルが前記他の車輌部品との干渉することに基づいて前記折り曲げ点位置の座標で指定される前記目標クローズ形状を変更するステップと、
を更に具備し、
この変更された目標クローズ形状を基にして前記(b)の前記中心線モデルを生成するステップから前記(f)の前記繰り返すステップを実行する請求項5のトーションバーの設計方法をプロセッサに実行させるプログラム。
前記トランクリッド用のトーションバーの設計方法において、一対のトーションバーの中心線最終モデルで、前記トランクリッドの開閉に伴う当該中心線最終モデルの回動ストロークの軌跡をシュミュレートし、他の車輌部品との干渉をチェックするステップと、
を具備する請求項1のトーションバーの設計方法をプロセッサに実行させるプログラム。
前記一対のトーションバーの中心線最終モデルは、前記一対のトーションバーが夫々固定されていることを前提として、前記トランクリッドの開閉に伴う当該中心線最終モデルの回動ストロークの軌跡をシュミュレートされる請求項8のトーションバーの設計方法をプロセッサに実行させるプログラム。
トランクリッド用のトーションバーの設計方法であって、トランクリッドがクローズした状態で目標クローズ形状が与えられ、トランクリッドから外されたフリーの状態でフリー形状を求める前記トーションバーの設計方法であって、
(a) 前記目標クローズ形状における前記トーションバーに生ずる目標トルク、前記目標クローズ形状から前記オープン形状に至るまでの前記トーションバーの可動端が回転する回転角、折り曲げ点位置の座標で定まる前記目標クローズ形状及び前記トーションバーの線径を含む設計仕様を入力するステップと、
(b) 前記折り曲げ点位置の座標に基づいて前記目標クローズ形状を有する中心線モデルを生成するステップと、
(c) 前記目標クローズ形状に対応するフリー形状を静力学的及び幾何学的に生成するステップであって、このフリー形状で特定される折り曲げ点位置で前記フリー形状の中心線モデルを生成するステップと、
(d) 前記フリー形状の中心線モデルを基にオープン形状の中心線モデルを生成し、このオープン形状の中心線モデルを前記回転角だけ回転させて解析クローズ形状の中心線モデルを生成するステップと、
(e) 前記解析クローズ形状における解析トルクと目標トルクとから差トルクを求めるステップと、
(f) 前記解析クローズ形状の中心線モデルと前記目標クローズ形状の中心線モデルとを比較して互いに対応する前記折り曲げ点上に生ずる差ベクトルを求めるステップと、
(g) 前記差トルクと前記差ベクトルの大きさが両方とも指定公差内に収まっていなければ、前記差トルク及び前記差ベクトルの大きさを減少させるように、前記フリー形状の中心線モデルを変更して(d)に戻り、或いは、前記差トルクと前記差ベクトルの大きさが両方とも指定公差内に収まっていれば、設計を終了するステップと、
を具備し、前記中心線上ノードのフィードバックの代わりに、曲げ点位置のみをフリー形状にフィードバックして、曲げ点間を直線化したフリー形状を生成するトーションバーの設計方法をプロセッサに実行させるプログラム。
【背景技術】
【0002】
トランクを備える車輌、例えば、セダンタイプの車輌は、トランクを確保した車体のボディパネルにトラックリッドが開閉可能に取り付けられている。トランクリッドは、ダンパータイプ或いはトーションバータイプの保持機構で支えられ、この保持機構がトランクリッドを開閉するに際して、トランクリッドを上昇させることを補助し、また、開いたままに保持している。
【0003】
トーションバータイプの保持機構は、一対のトーションバーで構成され、一対のトーションバーの固定端は、夫々ボディパネルに設けられた左右のヒンジベースに取り付け固定され、その可動端は、夫々ボディパネルに回動可能に設けられた右ヒンジアーム及び左ヒンジアームに結合されている。
【0004】
この一対のトーションバーは、車体のボディパネル内に、互いの干渉を避ける為に非対称に配置されている。トーションバーは、トランクリッドのフルストロークにおいて、捻られて応力(復元力)を保持したままヒンジベース及びヒンジアーム間に架設され、互いに干渉しないようにある間隔を空けて互いに交差されている。トランクリッドが開かれる際には、捻られたトーションバーからの復元力がヒンジに伝達され、トランクリッドの上昇を補助している。
【0005】
このようなトーションバーは、特定トルクで目標のクローズ(閉じた)形状となるように設計される。トランクリッドトーションバー(TLTB)供給者(サプライヤー)は、車の製造業者から与えられるクローズ(閉じた)トランク位置での折り曲げ点及びトルクを仕様として得て取り付け前のフリー形状のトーションバーを設計している。
【0006】
従来では、トーションバーは、簡単な静力学で得られる復元力を基にしてクローズ(閉じた)トランク位置での形状を基に、幾何学的にフリー形状のトーションバーを設計している。より具体的には、トランクリッドのヒンジ軸の回りに与えられた折り曲げ点を回転させてクローズ(閉じた)トランク位置でのトーションバーの形状から、静力学的且つ幾何学的にトーションバーのフリー形状(無負荷形状)が決定されている。従来の設計方法では、殆どの場合、クローズ位置における変形されたトランクリッドトーションバー(TLTB)形状は、車の製造業者によって指定された特定の形状とは異なり、しばしば、周囲の部品に接触する問題を引き起こしている。従って、試作品の納入後、何度もトーションバーの設計をし直している。
【0007】
従来の設計方法では、トランクリッドトーションバー(TLTB)は、トーションバーの数式に基づいて静的にデザインされ、的確なトルク及びトーションばね定数を見出すことができるが、車の製造業者によって指定されたクローズ形状を実現するフリー形状を精度良く特定することができないとされている。また、従来の設計方法では、設計段階で、トーションバーの変位に伴う全ストロークに亘っての干渉を評価することができないため、トライアンドエラーの試作が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願の発明者らは、上述した特許文献1及び特許文献2(特許文献1の対応米国特許)において、コイルスプリングの設計手法のアルゴリズムを提案している。このコイルスプリングの設計手法は、有限要素法を基にしたリバースエンジニアリング手法を利用し、サスペンション(懸架)コイルスプリングに関して所望の変形形状からフリー形状を決定している。このようなコイルスプリングの設計手法と同様に、トランクリッドトーションバー(TLTB)の設計も同様にリバースエンジニアリング手法を利用する設計方法の提案が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、改良されたトランクリッド用トーションバーの設計方法を提供することにある。
【0011】
この発明によれば、トランクリッドがクローズした状態で目標クローズ(閉じた)形状が与えられ
、トランクリッドから外されたフリーの状態でフリー形状を求めるトランクリッド用のトーションバーの設計方法であって、
(a) 前記目標クローズ形状における前記トーションバーに
生ずる目標トルク、前記目標クローズ形状からオープン形状に至るまでの前記トーションバーの可動端が回転する回転角、
ノードの座標で指定される前記目標クローズ形状及び前記トーションバーの線径を含む設計仕様を入力するステップと、
(b)
前記ノードの座標で前記目標クローズ形状を有する中心線モデルを生成するステップと、
(c) 前記目標クローズ形状に対応する前記フリー形状を静力学的及び幾何学的に生成するステップであって、このフリー形状のノードで
前記フリー形状の中心線モデルを生成するステップと、
(d)
前記フリー形状の中心線モデルを基に前記オープン形状の中心線モデルを生成し、このオープン形状の中心線モデルを前記回転角だけ回転させて解析クローズ形状の中心線モデルを生成するステップと、
(e) 前記解析クローズ形状における解析トルクと目標トルクとから差トルクを求めるステップと、
(f) 前記解析クローズ形状の中心線モデルと前記目標クローズ形状の中心線モデルとを比較して互いに対応する前記中心線上の点に生ずる差ベクトルを求めるステップと、
(g) 前記差トルクと前記差ベクトルの大きさが両方とも指定公差内に収まっていなければ、前記差トルク及び前記差ベクトルの
大きさを減少させるように、前記フリー形状の中心線モデルを変更して
(d)に戻り、或いは、前記差トルクと前記差ベクトルの大きさが両方とも指定公差内に収まっていれば、設計を終了するステップと、
を具備しているトーションバーの設計方法
をプロセッサに実行させるプログラムが提供される。
また、この発明によれば、トランクリッド用のトーションバーの設計方法であって、トランクリッドがクローズした状態で目標クローズ形状が与えられ、トランクリッドから外されたフリーの状態でフリー形状を求める前記トーションバーの設計方法であって、
(a) 前記目標クローズ形状における前記トーションバーに生ずる目標トルク、前記目標クローズ形状から前記オープン形状に至るまでの前記トーションバーの可動端が回転する回転角、折り曲げ点位置の座標で定まる前記目標クローズ形状及び前記トーションバーの線径を含む設計仕様を入力するステップと、
(b) 前記折り曲げ点位置の座標に基づいて前記目標クローズ形状を有する中心線モデルを生成するステップと、
(c) 前記目標クローズ形状に対応するフリー形状を静力学的及び幾何学的に生成するステップであって、このフリー形状で特定される折り曲げ点位置で前記フリー形状の中心線モデルを生成するステップと、
(d) 前記フリー形状の中心線モデルを基にオープン形状の中心線モデルを生成し、このオープン形状の中心線モデルを前記回転角だけ回転させて解析クローズ形状の中心線モデルを生成するステップと、
(e) 前記解析クローズ形状における解析トルクと目標トルクとから差トルクを求めるステップと、
(f) 前記解析クローズ形状の中心線モデルと前記目標クローズ形状の中心線モデルとを比較して互いに対応する前記折り曲げ点上に生ずる差ベクトルを求めるステップと、
(g) 前記差トルクと前記差ベクトルの大きさが両方とも指定公差内に収まっていなければ、前記差トルク及び前記差ベクトルの大きさを減少させるように、前記フリー形状の中心線モデルを変更して(d)に戻り、或いは、前記差トルクと前記差ベクトルの大きさが両方とも指定公差内に収まっていれば、設計を終了するステップと、
を具備し、前記中心線上ノードのフィードバックの代わりに、曲げ点位置のみをフリー形状にフィードバックして、曲げ点間を直線化したフリー形状を生成するトーションバーの設計方法をプロセッサに実行させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リバースエンジニアリング手法を利用するトランクリッドトーションバー(TLTB)の設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る改良されたトランクリッド用トーションバーの設計方法に従って設計されたトーションバーで構成される保持機構が組み込まれたトランク内構造を概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示されるトランクの上下を逆転してその内の構造を概略的に示す斜視図である。
【
図3】実施の形態に係るトランクリッド用トーションバーの設計方法を実現するCAEのアルゴリズムであって、コンピュータ(図示せず)上で実行される有限要素解析(FEA)を利用したCAEのアルゴリズムを示すブロック図である。
【
図4】実施の形態に係るトランクリッド用トーションバーの設計方法を説明するためのヒンジ軸回りのトーションバーの中心線モデルを示す概略図である。
【
図5】
図4に示す中心線モデルの折り曲げ点及び補間点での線径断面を示す局所座標系を概念的に示す概略図である。
【
図6A】
図4に示すトーションバーにけるトルクの調整を説明する為の概念を示す概略図である。
【
図6B】
図6Aに示すトーションバーの可動端におけるトルク調整を拡大示す概略図である。
【
図7】車輌メーカーから提供される設計仕様及びこの設計仕様に基づいて静力学で求められたトーションバーの径を示すテーブルである。
【
図8】車輌メーカーから提供される設計仕様に含まれるクローズ形状における目標折り曲げ点の半径及び座標を示すテーブルである。
【
図9】実施の形態に係るトランクリッド用左トーションバーの設計方法において解析に基づき繰り返し得られる差ベクトルが収束される様子を示すグラフである。
【
図10】実施の形態に係るトランクリッド用右トーションバーの設計方法において解析に基づき差ベクトルが許容値内に収束される様子を示すグラフである。
【
図11】実施の形態に係るトランクリッド用左及び右トーションバーの設計方法で解析されて繰り返し得られるクローズ形状におけるトルクが目標トルクに収束される様子を示すグラフである。
【
図12】この実施の形態に従って設計されたフリー形状を有するトーションバー18R及び従来の設計手法で設計された初期のフリー形状を有するトーションバーを概略的に比較して示す斜視図である。
【
図13】
図3の処理で再度与えられる変更設計仕様に含まれるクローズ形状における目標折り曲げ点の座標を示すテーブルである。
【
図14】変形実施の形態に係るトランクリッド用トーションバーの設計方法において製造の容易性を実現する直線的なフリー形状への変更を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係るトランクリッド用トーションバーの設計方法ついて、詳細に説明する。
【0015】
図1は、実施の形態に係る改良されたトランクリッド用トーションバーの設計方法に従って設計されたトーションバーで構成される保持機構が組み込まれたトランク内構造を概略的に示している。また、
図2は、
図1に示されるトランクの天地を逆転してその内の構造を概略的に示している。より詳細には、
図2は、車輌リア側のトランクルームの上部構造を地面の側から保持機構を眺めた斜視図として上下逆さまに描かれている。
【0016】
セダンタイプの車輌では、リア側にトランクルームが設けられ、このトランクルームは、車体10に設けたパネル12によって車室内と区分されている。
図1に示されるパネル12には、種々の車輌部品14、例えば、車室内に向けられているスピーカーが取り付けられている。この車輌部品14を避けるように、保持機構16を構成する左右のトーションバー18L、18Rが配置されている。
図1に示される保持機構16のトーションバー18L、18Rは、トランクルームを定めるカバー(図示せず)で覆われている。
図1及び
図2においては、カバーは、保持機構16を露出させて明示する為に除去されている。
【0017】
トランクリッド8を開閉するヒンジアーム20L、20Rの一端は、車体10のボディパネルに固定されたヒンジベース24L、24Rに回動自在に連結されている。また、ヒンジアーム20L、20Rは、湾曲された湾曲部(グースネック部)21L、21Rから直線状部22L、22Rが直線状に延出されている。この直線状部22L、22Rには、トランクリッド8がマウントされている。
図1においては、ヒンジアーム20L、20Rは、矢印27で示されるようにヒンジ軸(図示せず)の回りに回転されてトランクリッド8が開放される。この
図1及び
図2においては、トランクリッド8が閉められた(クローズされた)際のトランクリッド8、ヒンジアーム20L、20R等が実線で示され、トランクリッドが開かれた(オープンされた)際のトランクリッド8、ヒンジアーム20L、20Rが破線で示されている。
【0018】
左トーションバー18Lの一端は、固定端15Lとして、右ヒンジベース24Rに設けた係合部(図示されない)に引っ掛け固定され、その他端は、移動端17Lとして左ヒンジアーム20Lの湾曲部(グースネック)21Lに連結される。また、右トーションバー18Rの一端は、固定端15Rとして左ヒンジベース24Lに引っ掛け固定され、その他端は、移動端17Rとして右ヒンジアーム20Rの湾曲部(グースネック)21Rに連結される。これらトーションバー18R、18Lは、固定端15R、15L及び移動端17R、17L間で捻られて、車体のボディパネル内で互いに干渉することを避けるべく非対称配置で互いに交差するように配置される。
【0019】
左右のトーションバー18L、18Rで構成される保持機構では、トランクリッド8が閉じている際に左右のトーションバー18L、18Rにねじり応力が与えられて反力としての復元力が与えられたままに固定される。従って、トランクリッド8が閉じている状態では、左右のトーションバー18L、18Rから、復元力が移動端側の湾曲部(グースネック)21R,21Lに印加される。
【0020】
トーションバー18L、18Rから与えられる復元力は、ヒンジアーム20R、20L及びトランクリッド8の質量があるトランク角度において均衡されるように、意図的に設計されている。ここで、ある角度とは、トランクリッドがわずかに開いた状態であり、トランクリッド8の鍵が外された際には、トランクリッド8がわずかに開いた状態で停止させることができる。トランクリッド8が最大角で解放された際にあっても、このトーションバー18L、18Rに与えられたねじり応力で、トランクリッドに外力が与えられても、トーションバー18の復元力で容易にトランクリッドが閉じるように回動することが阻止される。
【0021】
トーションバー18L、18Rは、
図2に示すように、トランクリッド8がクローズした状態で、あるクローズ形状(閉じた形状)を有している。また、トーションバー18L、18Rは、トランクリッドが最も開いた状態でオープン形状(開いた形状)を有している。更に、ヒンジアーム20L、20Rから外されて無負荷の状態で、あるフリー形状(無負荷形状)を有している。トーションバー18L、18Rは、クローズ形状に限らず、オープン形状からクローズ形状までの全ストロークにおいて車両部品14を含む他の部品と干渉しないように設計されることが要求されている。
【0022】
このようなトーションバー18L、18Rは、有限要素解析(FEA)を利用したCAE(Computer Aided Engineering)によって設計される。
図3には、コンピュータ(図示せず)のプロセッサ上でプログラムによって実行される有限要素解析(FEA)を利用したCAEのアルゴリズムが示されている。このアルゴリズムは、単に有限要素解析(FEA)を利用するに留まらず、特許文献1及び2に開示されたコイルばねの設計方法と同様に、有限要素解析(FEA)に基づくリバースエンジニアリング方法を利用してトーションバー18L、18Rのフリー形状が設計される。
【0023】
トーションバー18L、18Rのフリー形状の設計に際しては、トーションバー18L、18Rの納入先である車輌の製造業者からトーションバー18L、18Rの設計仕様がトランクリッド8の境界条件として指定される。この仕様には、クローズ形状におけるトーションバー18L、18Rの要求トルク、トーションバー18L、18Rのトーションばね定数並びにトーションバー18L、18Rのクローズ形状が指定される。ここで、トーションバー18L、18Rのトーションばね定数は、トランクリッド8を開く際のトランクリッド8の開口速度、車輌が斜面で停止した状態や強風状態など、広範な状況においてトランクリッドを開いたままに保つ保持力等を制御するに重要な要素であり、このような観点から要求仕様として指定される。また、トーションバー18L、18Rの目標クローズ形状は、折り曲げ点(ノード)の位置を指定することで、
図4に示すように、目標とするクローズ形状が目標中心線モデル32として指定される。トーションバー18L、18Rの目標中心線モデル32は、
図4に示すように略直線状の直線部と隣接する直線部を繋ぐ曲線部とを含み、折り曲げ点(ノード)は、隣接する直線部が交差する点として定められ、この折り曲げ点の座標情報を含むトーションバーに関する折り曲げ情報を基にして中心線モデル32の曲線部上の折り曲げ点に対応する特有の点42nが特定される。
【0024】
図3に示されるCAEの設計では、設計が開始されると(ブロックB2)、CAEプロセスのプリ処理としてコンピュータに上述した設計仕様が入力される。ブロックB4では、
【数1】
【0025】
また、トーションバー18L、18Rのフリー形状における折り曲げ点(ノード)の位置が計算される(ブロックB8)。さらに、折り曲げ点位置間の補間点(ノード)45nの位置を用いる実施形態では、特有の点42に加えて補間点(ノード)位置45nも計算されるようにしてもよい(ブロックB8)。このブロックB8では、従来の設計手法に基づく静力学によって、折り曲げ点(ノード)位置が求められ、ブロック10で折り曲げ点の位置から中心線ノード44n、45nが特定されて初期フリー形状が初期中心線モデルとして決定される。より具体的には、フリー形状を有する初期中心線モデルは、クローズ(閉じた)トランク位置での目標形状のモデル32を基に静力学的並びに幾何学的に決定される。この形状決定に際しては、例えば、単純に目標形状モデルをヒンジ軸36の回りに回転して初期フリー形状を決定しても良い。そして、この初期フリー形状の折り曲げ点の位置に基づいて、
図4に示すように初期フリー形状の中心線モデル34が生成される(ブロックB10)。
【0026】
CAEプロセスにおける解析処理では、ブロック12においては、ブロックB6で入力された目標折り曲げ点の位置に基づいて、
図4に示すように目標クローズ形状におけるトーションバー18L、18Rの目標中心線モデル32が生成される。目標中心線モデル32では、目標折り曲げ位置及び目標折り曲げ位置間に補間された点43nの位置が定められる。ここで、目標中心線モデル32の特有の点42nは、初期中心線モデル34の特有点44nに対応し、目標中心線モデル32の補間点43nは、初期中心線モデル34の補間点45nに対応している。
【0027】
形状調整及びブロックB14のトルク調整を施したフリー形状の中心線モデル34は、トランクリッド8のヒンジ軸38の周りに角θだけ回転させる境界条件にてFEA計算され(ブロックB16)、クローズ形状の第1中心線モデル36が求まる。フリー形状(中心線モデル34)からクローズ形状(第1中心線モデル36)への変換は、フリー形状からオープン形状への変換(トランクリッドへの取り付け)に際して可動端側に角Δθだけ捻られる形状の変化及びオープン形状からクローズ形状の角θで回転されて生ずる形状変化を含んでいる。
【数2】
【0028】
FEAによって算出されたクローズ(閉じた)形状の中心線モデル36は、フリー中心線モデル34上の特有の点44n及び補間点(ノード)45nに対応する特有の点46n及び解析補間点(ノード)47nを有している。クローズ中心線モデル36上の特有の点46n及び解析補間点(ノード)47nは、フリー中心線モデル34のFEA処理に基づく回転及び変形によって求められる。この第1回目のFEA処理に基づいて求められた第1のクローズ中心モデルは、目標クローズ(閉じた)形状の中心線モデル32に一致せず、特有の点(ノード)46n及び解析補間点(ノード)47nは、目標クローズ(閉じた)中心モデル32上の特有の点42n及び補間点43nに一致せず、
図4に示すように、特有の点(ノード)46n及び解析補間点(ノード)47n及び特有の点(ノード)46n及び補間点(ノード)47n間に差ベクトル52、53が生ずる。この差ベクトル52、53は、求められたクローズ(閉じた)中心線モデルと目標クローズ(閉じた)中心線モデルとの相違に基づいて生じている。従って、差ベクトル52、53の値ΔSが一定の許容値(ε
S)より大きければ(ブロックB18)、
図4に示すように矢印56、58で示されるように差ベクトル52、53が所定の向きに変換されて、フリー中心線モデル34にフィードバックされ、修正された中心線モデル40に変更される。即ち、中心線モデル34は、差ベクトル52、53で修正されて特有の点48n及び補間点(ノード)49nを有する修正された中心線モデル40に修正される。
【0029】
また、FEAの解析処理において、解析クローズ(閉じた)形状のモデルで生ずる解析トルクが求められる(ブロックB16)。この解析トルクと目標トルクとの差異の値ΔTがやはり一定の許容値(ε
T)より大きければ(ブロックB20)、フリーの中心線モデル40にフィードバックされて中心線モデル40の形状が修正されてトルクが調整される(ブロックB14)。
【0030】
ブロックB14からブロックB20に至るフィードバックが繰り返されると差ベクトル52、53が減少され、また、トルクの差異の値ΔTが減少されて設計クローズ形状が許容できる目標クローズ形状に近づけられる。ここで、差ベクトル52、53の大きさΔSが一定の許容値(ε
S)内に収まり、また、トルクの差異の値ΔTがやはり一定の許容値(ε
T)内に収まる場合には、設計クローズ形状が許容できる目標クローズ形状に近づいたとしてCAEプロセスにおけるポスト処理としての干渉チェックが実施される(ブロック22)。干渉チェックでは、CAD上にオープン形状とクローズ形状を含む、複数トランク角度におけるトーションバー18L、18Rの解析変形形状が描かれ、全トランク角度において周りの部品と干渉していないかがチェックされる。(ブロックB24)。トーションバー18L、18Rと部品との干渉が生ずる場合には、最適なフリー形状モデルを求めることができない虞がある。従って、設計者は、全ての要求を充足する物理的な解決がないとして、目標形状のモデルの変更を車両メーカーに求め、変更した目標形状に基づいてブロックB6からブロック24に至る処理を再び実施することとなる。ブロックB24にて、干渉が生じないことが判明した場合には、最適なフリー形状モデル40が設計されたとして処理が終了される(ブロックB26)。
【0031】
図4を参照して説明した、差ベクトル52、53のフリー形状の中心線モデル34へのフィードバックについて、
図5を参照してより詳細に説明する。
図4では、グローバル座標系における差ベクトル52、53のフィードバックが示されるのに対して、
図5は、トーションバー8の断面における局所座標系を利用して差ベクトル52、53のフィードバック処理を説明する為の概念図である。局所座標系は、
図5に示されるように中心線モデル上の各ノード(中心点)を中心に定められている。立体的な網目(メッシュ)モデルが作られると、各ノードの周囲には、トーションバーの線断面上における座標点(P1、P2、P3...Pn)が割り当てられる。X軸は、特有の中心ノードから表面の座標点(P1)への方向と定義されている。Z軸は、常に中心線に沿って定められている。グローバル座標系における各特有の中心ノードでの形状差ベクトルは、初めに対応する変形形状の局所座標系での表現に変換される。そして、このベクトルが局所座標系におけるフリー形状の特有の中心ノードに付加されてフリー形状の中心線モデルの形状が変更される。
【0032】
尚、上述した形状のフィードバックは、固定端或いは可動端のいずれにも与えられないことに注意されたい。
【0033】
図5に示す局所座標系では、中心線モデル36における中心線上の曲げ部中心点46n及び中心線上の直線部上の点47nでの線径断面が示され、各点におけるトーションバー8の断面外周には、X及びY局所座標で指定される表面座標点(P1、P2、P3...Pn)が設けられている。解析された中心線モデル36と目標中心線モデル32との間には、すでに説明したようにトーションバーの回転偏差に伴う差ベクトル52、53が生ずる。この差ベクトル52、53は、グローバル座標系では、例えば、特有の点46n及び補間点47nから特有の点42n及び補間点43nに向かうベクトルとして与えられる。各中心点ノード46n、47nにおける差ベクトル52、53を
図5に示すクローズ形状局所座標系で表現し、フリー形状の対応する各中心点44n、45nにフリー形状局所座標系で単純に加算してやればよい。フリー中心線モデル34は、解析過程でねじり変形されて解析された中心線モデル36に変形される。
【0034】
ブロックB14では、クローズ時のトルク仕様を満たすために、フリー形状の固定端15R,15Lと移動端17R,17Lの相対角度が調整される。フリー形状の中心線モデル34では、無荷重で定められるに対して、
図6A及び
図6Bに示すようにフリー形状の中心線モデル34の可動端17L(17R)の側が設置軸52の回りにΔθだけねじられてトルクが与えられてオープン形状の中心線モデル(図示せず)に変形される。ここで、設置軸52は、ヒンジ軸38に平行な可動端17L(17R)の設置基準軸として定められる。
【0035】
設計サンプルの実施例
提案された設計アルゴリズムの検証に用いられた各トーションバー18L,18Rの仕様が
図7の表1及び
図8の表2に示されている。表1は、設計仕様として、クローズ形状におけるトーションバー18L,18Rのトルク及びヒンジ軸38の回りの全ストローク角が与えられる。表1に示されるトーションバーの直径は、従来の設計方法に基づいて仕様から静力学によって求められる。
【0036】
また、
図8の表2には、設計の目標とされる目標クローズ形状を有する左右のトーションバー18L,18Rのグローバル座標系における折り曲げ点の座標(x、y、z)が示されている。設計されるトーションバー18L,18Rには、折り曲げ点に指標(インデックス)が与えられ、この指標(インデックス)は、可動端(17L、17R)で始まって固定端(15L、15R)に昇順で与えられている。指標(インデックス)#1〜#3及び指標(インデックス)#9〜#14は、夫々保持固定具に接続された可動端(17L、17R)及び固定端を示している。
図4を参照して説明したフリー形状へのフィードバックは、これらの可動端(17L、17R)及び固定端(15L、15R)には適用されず、可動端(17L、17R)及び固定端(15L、15R)間の指標(インデックス)#4〜#8で示される折り曲げ点から計算される中心線上の点44nに適用される。
【0037】
図9及び
図10には、実施の形態に係るトランクリッド用左及び右トーションバーの設計方法で、解析に基づき繰り返し得られる差ベクトルが許容値内に収束される様子を示している。
図9及び
図10の縦軸は、差ベクトルの大きさを示し、横軸は、クローズ形状モデルの中心線に沿った位置をノード番号で示している。差ベクトルのフィードバックは、解析ループIte.1〜Ite.9(Iteration 1〜Iteration 9)で示されるように9回に亘って繰り返しフリー形状にフィードバックされている。
図9及び
図10に示される実施例では、全9回のフィードバックで差ベクトルが許容値、例えば、0.5mm内に収束されている。
【0038】
図11は、実施の形態に係るトランクリッド用左及び右トーションバーの設計方法で解析されて繰り返し得られる左及び右トーションバーのクローズ形状で生ずるトルクが目標トルクに収束される様子を示している。
図11において、縦軸は、繰り返し設計されるクローズ形状のトルクであり、横軸は、クローズ形状モデルの中心線に沿った位置をノード番号で示している。
図11に示されるように、繰り返しのフィードバックで解析トルクを目標トルクに近づけることができることを理解することができる。
【0039】
以上のように、この実施の形態によれば、目標クローズ形状を取ることができるフリー形状を設計することができる。
【0040】
図12には、1実施例として、実線で、この実施の形態に従って設計されたフリー形状を有するトーションバー18R及び破線で、従来の設計手法で設計された初期のフリー形状を有する右のトーションバー18Rが比較して示されている。この両者間には、例えば、最大で53.9mmもの差異が生じているが、既に述べたように解析されたクローズ形状と目標クローズ形状との差ベクトルを繰り返しフリー形状にフィードバックすることによって、解析されたクローズ形状を目標クローズ形状に略一致させることができるフリー形状を設計することができる。
【0041】
目標クローズ形状の変更
実施例では、
図9から
図11に示されるように繰り返しのフィードバックで9回目の解析ループIte.9における解析クローズ形状が目標クローズに略一致させることができた。しかし、ブロックB24を参照して説明したように、トーションバー18L、18Rの全ストロークに亘る干渉チェックで部品との干渉が生ずる場合には、
図13のテーブルに示すように目標とするクローズ形状が変更される。
【0042】
図13に示すテーブルでは、
図8に示すテーブル2に可動端(17L、17R)及び固定端(15L、15R)間に新たに折り曲げ点48nを加えて、指標(インデックス)#4〜#8に代えて新たな指標(インデックス)#4〜#9を設定している。新たな指標(インデックス)#4〜#9の座標に従って、新たな目標とするクローズ形状が定められる。この新たなクローズ形状を基にして再度ブロックB6からブロック24に至る処理を再び実施し、最適なフリー形状モデル40が設計される。目標クローズ形状の変更では、新たな折り曲げ点を追加せずに、既存の折り曲げ点座標を変更して新しい目標クローズ形状を定めても良い。
【0043】
製造を考慮したフリー形状の設計
この実施の形態に係る方法によって設計されたフリー形状は、
図12及び
図14に示されるように、折り曲げ点48nの間で湾曲されるように設計される傾向がある。一般的な汎用曲げ機タイプの製造装置(図示せず)では、直線的なワイヤから製造されるトーションバー18L,18Rに設計通りの湾曲したフリー形状の形態を与えることが難しい場合がある。すなわち、この一般的な汎用曲げ機タイプの製造装置は、曲げピンに直線的なワイヤが係止されて折り曲げられ、設計されたフリー形状のトーションバー18L,18Rを製造する。従って、
図14に示すように、折り曲げ点48nの間に湾曲が与えられているフリー形状のトーションバー18L,18Rを製造することが難しい。
【0044】
従って、この実施の形態の方法では、製造を考慮して、解析クローズ形状から折り曲げ点を抽出し、その折り曲げ点と目標クローズ形状の折り曲げ点との差ベクトルのみを、フリー形状へ反映させる。前述した中心線上の全ノード位置における差ベクトルのフィードバックを行わないため、生成されたフリー形状の曲げ点間は常に直線となる。
【0045】
クリップで締結されたトーションバー
2つのトランクリッドトーションバーがその中心点の近くで互いに接触することから、こすれ合うノイズ或いは接触ノイズが生ずる。このような事態を避けるべく、しばしば、トランクリッドトーションバーは、交差点で互いにクリップ(図示せず)され、或いは、車輌構造に固定される。クリップで固定されたトーションバー18L、18Rの設計アルゴリズムでは、フリー形状の中心線モデルを作成するに際してクリップ締結箇所が特定され、
図3に示すブロックB10からブロックB16の過程で、このフリー形状の中心線モデルが制約を受けて回転されることを前提として解析される。また、
図3に示すブロックB24における両トーションバー18L、18Rの移動がクリップで締結されていることを前提とした全ストロークに亘って回りの部品との干渉していないかがチェックされる。
【0046】
以上のように、仕様を満足する目標クローズ形状に変形されるフリー形状を有するトーションバーを簡便な方法によって設計することができるトランクリッド用トーションバーの設計方法を提供することができる。