(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁の床版下面又は床版下鋼桁の点検(近接目視検査と触診・打音検査と非破壊検査等を行う点検)は、床版下鋼桁に設けられた検査路を利用し、作業者が点検可能な位置で行っている。しかし、床版張出部下面のように検査路から離れている場合には検査路から点検ができないため、例えば、橋梁点検車両を用いて、床版張出部下面に作業者を移送し、作業者が点検をできるようにしている。すなわち、橋梁点検車両のブームに取り付けられたプラットフォームを、床版上部からフェンスや防音壁を乗り越えて床版下へ差し込み、床版張出部下面に作業領域を確保し、作業者が点検をできるようにしている。ところが、この方法では、三車線道路の中分側張出床版までプラットフォームが届かない。また、橋梁点検車両を床版上面車線上に停止させるため、安全を期するために交通規制などをしなければならず、そのための諸経費が嵩み点検費用が高額となる。
【0003】
また、橋梁点検車両を用いた方法では、橋梁が建設されている周辺環境や橋梁などの構造によって、プラットフォームを床版上部から床版下へ差し込むことができない場合がある。そのような場合には、橋脚の下から作業者が遠方目視検査と撮像検査を行う簡易な点検が行われている。
【0004】
しかし、近年の法改正により遠方目視検査が認可されなくなり、床版張出部下面のような箇所においても、近接目視検査が義務化されたため、近接目視検査と同等の検査方法の開発が急務となっている。
【0005】
関連する技術として、例えば、特許文献1が知られている。その技術によれば、橋梁本体を支持する一対の橋脚それぞれの対向面に着脱自在にガイドレールを取り付け、そのガイドレールに横移動自在のワイヤ架設冶具を取り付けて、それら対向するワイヤ架設冶具を用いて橋梁本体にワイヤを架設する。そして床版下面を撮像する撮像装置を架設したワイヤに沿って移動させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、橋脚にガイドレールを取り付ける際には、予め橋脚にガイドレールを取り付けるための取付金具を橋脚に取り付けなければならないため、ワイヤ架設冶具を用いてワイヤを架設するには、橋脚に大掛かりな工事をしなければならない。そのため高額な工事費用が必要となる。
【0008】
本発明の一側面に係る目的は、床版張出部下面にワイヤを容易に低額で架設できるワイヤ架設冶具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る一つの形態であるワイヤ架設冶具は、本体部、第一の鋼桁取付部、第二の鋼桁取付部、ワイヤ固定部を備える。
第一の鋼桁取付部は、床版下鋼桁を構成する主桁の下フランジの一方の端部に合わせた位置で本体部に固定され、下フランジの一方の端部に固定可能である。
【0010】
第二の鋼桁取付部は、下フランジの他方の端部に合わせた位置で本体部に固定され、下フランジの他方の端部に固定可能である。
ワイヤ固定部は、本体部に沿って移動可能で、床版張出部下面を撮像する撮像装置を移動させるためのワイヤを固定可能である。
【0011】
また、第一の鋼桁取付部及び第二の鋼桁取付部は、下フランジの幅に応じて本体部に沿って移動可能である。また、第一の鋼桁取付部あるいは第二の鋼桁取付部のいずれか一つは、本体部に固定される。
【0012】
複数のワイヤを用いて撮像装置を移動させる場合、複数のワイヤごとにワイヤ固定部を設け、撮像装置が備えるワイヤと係合するワイヤ固定部の位置とに応じて、本体部に沿ってワイヤ固定部それぞれを移動させ、移動させた位置で本体部にワイヤ固定部それぞれが固定される。
【発明の効果】
【0013】
床版張出部下面にワイヤを容易に低額で架設できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
図1は、ワイヤ架設冶具1の一実施例を示すA上面図、B側面図、C下面図である。
図1に示すワイヤ架設冶具1は、本体部1a、鋼桁取付部2(第一の鋼桁取付部:本体固定部2a、レール支持部2b、レール取付部2c1、レール取付部2c2、挟持部2d(締付部2d1、受付部2d2))、鋼桁取付部3(第二の鋼桁取付部:本体固定部3a、レール支持部3b、レール取付部3c1、レール取付部3c2、挟持部3d(締付部3d1、受付部3d2))、レール4(長ネジ4a1、長ネジ4a2、ナット4b1、ナット4b2、ナット4b3、ナット4b4)、ワイヤ固定部5(保持部5a1、保持部5a2、連結部5b1、連結部5b2、連結部5b3、連結部5b4、ワイヤ固定部5c1、ワイヤ固定部5c2)、ワイヤ固定部6(保持部6a1、保持部6a2、連結部6b1、連結部6b2、連結部6b3、連結部6b4、ワイヤ固定部6c1、ワイヤ固定部6c2)を備える。
【0016】
ワイヤ架設冶具1は、
図2A、
図2Bに示す床版張出部下面21aの下にワイヤを架設するための冶具で、床版下鋼桁22の主桁23の下フランジ23bに、着脱自在に取り付けることができる。
【0017】
ここで、
図2Aは、橋梁20の一実施例を示す断面図である。
図2Aは、橋梁をY方向から見た断面図である。
図2Bは、
図2Aの橋梁20をZ1方向から見た図であって、床版下面21b又は床版下鋼桁22の下面を示す図である。つまり、
図2Bは、床版下面21b又は床版下鋼桁22を下から見上げたような図ある。また、橋梁20は、床版21(床版張出部下面21a)、床版下鋼桁22(主桁23(上フランジ23a、下フランジ23b)、対傾構24(床版下面側対傾構24a、対傾構24b、橋脚側対傾構24c)、ガセットプレート25、検査路26、横構27、橋脚28などの部材により構築されている。X、Y、Zの座標は、各図の相対関係を示すための座標である。Xが道路の幅方向、Yが道路の進行方向、Zが鉛直方向(下方向が重力方向)に相当する。
【0018】
続いて、ワイヤ架設冶具1を用いて床版張出部下面21aの下にワイヤを架設する場合、
図2Bに示すように二つのワイヤ架設冶具1を対向させ、ワイヤ架設冶具1それぞれを床版下鋼桁22の主桁23の下フランジ23bに取り付け、床版張出部下面21aの下にワイヤ架設冶具1を配置し、ワイヤ架設冶具1にワイヤ40、ワイヤ41を取り付ける。
【0019】
また、
図2Bに示すように床版21の長手方向に架設されたワイヤ40、41には、床版張出部下面21aを撮像するためのワイヤ40、41を移動可能な撮像装置30が係合され、ワイヤ40、41に沿って移動させることができる。なお、撮像装置30には、ワイヤ40、41と係合させるためのワイヤ係合部30a、ワイヤ係合部30b、ワイヤ係合部30c、ワイヤ係合部30dが備えられている。
【0020】
ここで、
図2Bの撮像装置30は、作業者の操作する操作装置から送信される撮像指示を受信すると床版張出部下面21aの撮像を実施する。ワイヤ40、41の撮像装置30の移動は、撮像装置30に取り付けた不図示の牽引ワイヤをウインチなどで床版21のY方向(長手方向)に牽引するか、あるいは、操作装置から送信される移動指示に基づいて撮像装置30がワイヤ40、41に沿って自走させてもよい。
【0021】
ワイヤ架設冶具1の構成について説明をする。
本体部1aは、例えば
図1に示すような四角柱の棒形状の部材で、一方側に鋼桁取付部2と鋼桁取付部3とレール4とが配置され、他方側にワイヤ固定部5とワイヤ固定部6とが配置されている。また、本体部1aは、鋼桁取付部2又は鋼桁取付部3により、下フランジ23bに取り付けられると、ワイヤ固定部5及びワイヤ固定部6が配置されている他方側が床版張出部下面21aの下に配置される。すなわち、本体部1aの長手方向の長さは、少なくともフランジ23bのX方向の幅より長い。なお、本体部1aは、ワイヤ40、41を架設した際の所定張力に耐えられ、かつ作業者が持ち運べる重量でなければならないため、例えば、炭素繊維強化プラスチックなどの軽量の複合材料を用いることが考えられる。更に、本体部1aは中空であってもよい。なお、本体部1aの形状は四角柱の棒形状に限らず、柱状であってもよい。
【0022】
鋼桁取付部2は、本体固定部2a、レール支持部2b、レール取付部2c1、2c2、挟持部2dを備える。鋼桁取付部2は、
図2Bに示すように下フランジ23bのX方向の一方の端部23b1に合わせた位置で本体部1aに固定され、下フランジ23bの一方の端部23b1に固定可能である。
【0023】
本体固定部2aは、本体部1aの形状に沿った筒形状の部材で、本体部1aに固定されている。また、本体固定部2aの上部には、レール支持部2b及び挟持部2dが固定されている。なお、本体固定部2aの形状は筒形状に限らず、筒形状の一部が開口していてもよい。
【0024】
レール支持部2bは、長ネジ4a1を取り付けるためのレール取付部2c1及び長ネジ4a2を取り付けるためのレール取付部2c2を支持する。
レール取付部2c1は長ネジ4a1の一方側を固定する。例えば、本体部1aの長手方向にレール取付部2c1に空けられた嵌合孔に、長ネジ4a1の一方側を通し、レール取付部2c1の両側からボルトで締め付けることで長ネジ4a1を固定する。
【0025】
レール取付部2c2は長ネジ4a2の一方側を固定する。例えば、本体部1aの長手方向にレール取付部2c2に空けられた嵌合孔に、長ネジ4a2の一方側を通し、レール取付部2c2の両側からボルトで締め付けることで長ネジ4a2を固定する。
【0026】
挟持部2dは、下フランジ23bを締付部2d1と受付部2d2とで挟んで取り付ける。挟持部2dは、例えば、シャコ万力などである。
鋼桁取付部3は、本体固定部3a、レール支持部3b、レール取付部3c1、3c2、挟持部3dを備える。鋼桁取付部3は、
図2Bに示すように下フランジ23bのX方向の他方の端部23b2に合わせた位置で本体部1aに固定され、下フランジ23bの他方の端部23b2に固定可能である。
【0027】
本体固定部3aは、本体部1aの形状に沿った筒形状の部材で、本体部1aに沿って長手方向に移動可能で、下フランジ23bの幅に合わせて本体部1aに固定される。また、本体固定部3aの上部には、レール支持部3b及び挟持部3dが固定されている。
【0028】
レール支持部3bは、長ネジ4a1を取り付けるためのレール取付部3c1及び長ネジ4a2を取り付けるためのレール取付部3c2を支持する。
レール取付部3c1は長ネジ4a1の他方側を固定する。例えば、本体部1aの長手方向にレール取付部3c1に空けられた嵌合孔に、長ネジ4a1の他方側を通し、レール取付部3c1の両側からナット4b1、4b2で締め付けることで長ネジ4a1を固定する。
【0029】
レール取付部3c2は長ネジ4a2の他方側を固定する。例えば、本体部1aの長手方向にレール取付部3c2に空けられた嵌合孔に、長ネジ4a2の他方側を通し、レール取付部3c2の両側からナット4b3、4b4で締め付けることで長ネジ4a2を固定する。なお、ナット4b1、4b2は、鋼桁取付部3を下フランジ23bの幅に合わせて移動したのち、レール取付部3c1を両側から挟んで鋼桁取付部3を固定する。ナット4b3、4b4は、鋼桁取付部3を下フランジ23bの幅に合わせて移動したのち、レール取付部3c2を両側から挟んで鋼桁取付部3を固定する。
【0030】
挟持部3dは、下フランジ23bに締付部3d1と受付部3d2とで挟んで取り付ける。挟持部3dは、例えば、シャコ万力などである。
なお、上記では鋼桁取付部3のみが本体部1aに沿って移動可能としたが、鋼桁取付部2についても、本体固定部2aを本体部1aに沿って長手方向に移動可能とし、下フランジ23bの幅に合わせて本体部1aに固定できるようにしてもよい。
【0031】
ワイヤ固定部5は、保持部5a1、5a2、連結部5b1、5b2、5b3、5b4、ワイヤ固定部5c1、5c2を備える。ワイヤ固定部5は、本体部1aに沿って長手方向に移動可能で、所定位置で本体部1aに固定できる。また、ワイヤ固定部5は、床版張出部下面21aを撮像する撮像装置30を移動させるためのワイヤ40を固定可能である。
【0032】
保持部5a1及び保持部5a2は、本体部1aを両側面から挟み、連結部5b1、5b2、5b3、5b4により固定することで、ワイヤ固定部5を本体部1aに接続させる。
保持部5a1は、ワイヤ40と接続するためのワイヤ固定部5c1を備える。また、保持部5a2はワイヤと接続するためのワイヤ固定部5c2を備える。
【0033】
ワイヤ固定部6は、保持部6a1、6a2、連結部6b1、6b2、6b3、6b4、ワイヤ固定部6c1、6c2を備える。ワイヤ固定部6は、本体部1aに沿って長手方向に移動可能で、所定位置で本体部1aに固定できる。また、ワイヤ固定部6は、床版張出部下面21aを撮像する撮像装置30を移動させるためのワイヤ41を固定可能である。
【0034】
保持部6a1及び保持部6a2は、本体部1aを両側面から挟み、連結部6b1、6b2、6b3、6b4により固定することで、ワイヤ固定部6を本体部1aに接続させる。
保持部6a1は、ワイヤ41と接続するためのワイヤ固定部6c1を備える。また、保持部6a2はワイヤと接続するためのワイヤ固定部6c2を備える。
【0035】
ワイヤ40、41の架設方法について説明する。
(1)撮像装置30が備えるワイヤ係合部30a、30b、30c、30dそれぞれの位置に応じて、本体部1aに沿ってワイヤ固定部5及びワイヤ固定部6それぞれを移動させ、移動させた位置でワイヤ固定部5及びワイヤ固定部6それぞれを本体部1aに固定させる。例えば、撮像装置30のワイヤ係合部30a(30b)とワイヤ係合部30c(30d)との幅に応じて、ワイヤ固定部5とワイヤ固定部6とを本体部1aの適切な位置に固定する。
(2)ワイヤ固定部5c1あるいはワイヤ固定部5c2にワイヤ40を接続し、ワイヤ固定部6c1あるいはワイヤ固定部6c2にワイヤ41を接続する。
(3)ワイヤ架設冶具1を対向させて設置する。鋼桁取付部2と鋼桁取付部3との幅を下フランジ23bの幅に合わせて固定し、その後本体部1aと下フランジ23bとを固定する。すなわち、下フランジ23bの一方の端部23b1に合わせた位置で、鋼桁取付部2を本体部1aに固定し、その後鋼桁取付部2を下フランジ23bの一方の端部23b1に固定する。また、下フランジ23bの他方の端部23b2に合わせた位置で、鋼桁取付部3を本体部1aに固定し、その後鋼桁取付部3を下フランジ23bの一方の端部23b2に固定する。
【0036】
ただし、(1)から(3)の順番は上記に限定されるものではない。
(4)対向させたワイヤ架設冶具1それぞれの取り付けが完了すると、ワイヤ40、41に接続されている不図示のレバーブロック(登録商標)などにより、ワイヤ40、41をY方向に引っ張り所定張力にして固定する。所定張力とは、撮像装置30がワイヤ40、41を安定して移動可能な張力である。
【0037】
続いて、ワイヤ40、41の架設が完了したのち、ワイヤ40に撮像装置30のワイヤ係合部30a、30bを係合させ、ワイヤ41に撮像装置30のワイヤ係合部30c、30dを係合させる。
【0038】
撮像装置30の撮像方法について説明する。
図3は、ワイヤ架設冶具1の設置方法の一実施例を示す図である。
図3に示すように牽引ワイヤ42を本体部1aに取り付けた滑車部43に係合させ、その牽引ワイヤ42で撮像装置30を牽引して、床版張出部下面21aの撮像する箇所に移動させる。続いて、撮像装置30の上部に備えられているカメラあるいはビデオカメラなどを用いて床版張出部下面21aを撮像する。撮像を完了すると、撮像装置30は撮像した画像情報を操作装置に送信する。ここで、カメラあるいはビデオカメラの性能は、撮像して生成される画像情報を用いれば、作業者が近接目視検査を行った場合と同等の精度で目視検査ができる撮像性能を有している。操作装置は、撮像装置30と通信可能な情報処理装置又は情報処理端末で、例えば、パーソナルコンピュータ、携帯用端末(スマートフォン、タブレット)などが考えられる。
【0039】
このようにワイヤ架設冶具1を用いることで、作業者は簡単に下フランジ23bに本体部1aを取り付けとることができるとともに、ワイヤ40、41を架設することができるので、従来のように橋梁点検車両を床版上面車線上に停止させることがないため、交通規制などの必要がなくなり、工事費用及び点検費用を低額に抑えることができる。
【0040】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
また、上記ではワイヤ40、41を用いて撮像装置30を移動させる場合、すなわち複数のワイヤを用いて撮像装置を移動させる場合について説明をしたが、一本のワイヤに係合され、そのワイヤを移動可能な撮像装置を用いる場合にも、ワイヤ架設冶具1を適用することができる。
【0041】
なお、本体部1aは、本体部1aの中心付近で折畳可能な構造としてもよい。又は、本体部1aを二つの部材に分け、第一の部材には鋼桁取付部2と鋼桁取付部3とを設け、第二の部材にはワイヤ固定部5とワイヤ固定部6とを設け、利用する場合に第一の部材と第二の部材とを接続して組立可能な構造にしてもよい。その結果、本体部1aを短くすることができるため、作業者はワイヤ架設冶具1を持ち運びしやすくなるので、作業効率を向上させることができる。