(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シリンダライナの周方向における複数の異なる位置から前記シリンダライナの周方向に向けて燃料を噴射する複数の燃料噴射弁が設けられ、前記低温度領域は、前記燃料噴射弁の数だけ設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリンダ注油装置。
前記シリンダライナは、内面に周方向に沿って複数の第1取付位置が設定されると共に、ピストン移動方向の一方側にずれた内面に前記複数の第1取付位置に対向して周方向に沿って複数の第2取付位置が設定され、前記複数の第1取付位置の全てに前記複数の第1注油部が設けられ、前記複数の第2取付位置の一部に前記複数の第2注油部が設けられることを特徴とする請求項5に記載のシリンダ注油装置。
前記複数の第1注油部は、前記シリンダライナにおける周方向にずれた内面に向けて潤滑油を噴出し、前記複数の第2注油部は、前記シリンダライナの内面に潤滑油を吐出することを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のシリンダ注油装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリンダ注油装置は、シリンダライナとピストンリングとの間の潤滑化を図るだけではなく、ピストンリングの冷却化も図ることができる。内燃機関では、燃焼室に対して燃焼用ガスが供給されると共に燃料が供給されることで、この燃料と燃焼用ガスが燃焼する。燃料は、燃焼室の上方に配置された燃料噴射弁から所定のタイミングで噴射され、周方向に流れる火炎が形成される。そのため、シリンダ注油装置は、シリンダライナのおける周方向の全域に内面に向けてシリンダ油を噴射しているが、シリンダ油の消費量を低減することが望まれている。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、潤滑油の消費量を低減することができるシリンダ注油装置及びクロスヘッド式内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明のシリンダ注油装置は、シリンダライナの内面に複数の注油部が周方向に沿って配置される注油機構が設けられ、周方向に沿って隣接される前記注油部の距離は、最大距離が最小距離の2倍以上に設定される、ことを特徴とするものである。
【0008】
従って、隣接する注油部の最大距離を最小距離の2倍以上に設定することで、シリンダライナの内面に対して適正な量の潤滑油を供給することとなり、全体して潤滑油の消費量を低減することができる。
【0009】
また、本発明のシリンダ注油装置は、シリンダライナの内面に複数の注油部が周方向に沿って配置される注油機構が設けられ、前記注油機構は、前記シリンダライナの内面における温度が、予め設定された所定値より低い低温度領域における前記シリンダライナの内面への注油量を減少させる、ことを特徴とするとするものである。
【0010】
従って、低温度領域におけるシリンダライナの内面への注油量を減少させることで、シリンダライナの内面に対して適正な量の潤滑油を供給することとなり、全体して潤滑油の消費量を低減することができる。
【0011】
本発明のシリンダ注油装置では、前記複数の注油部は、前記低温度領域を除く高温度領域における前記シリンダライナの内面だけに注油するものであり、周方向に沿って隣接される前記注油部の距離は、最大距離が最小距離の2倍以上に設定されることを特徴としている。
【0012】
従って、高温度領域におけるシリンダライナの内面に注油する注油部間の距離が、低温度領域の両側におけるシリンダライナの内面に注油する注油部間の距離の2倍以上に設定されることとなり、注油部の個数を減少して部品コスト及び製造コストを低減することができる。
【0013】
本発明のシリンダ注油装置では、前記シリンダライナの周方向における複数の異なる位置から前記シリンダライナの周方向に向けて燃料を噴射する複数の燃料噴射弁が設けられ、前記低温度領域は、前記燃料噴射弁の数だけ設けられることを特徴としている。
【0014】
従って、燃料噴射弁の個数や位置に応じて低温度領域の形成位置が相違するとから、燃料噴射弁の個数や位置に応じて注油部を最適位置に配置することができる。
【0015】
本発明のシリンダ注油装置では、前記注油機構は、前記シリンダライナの内面に複数の第1注油部が周方向に沿って配置される第1注油機構と、前記シリンダライナの内面における前記複数の第1注油部よりピストン移動方向の一方側に複数の第2注油部が周方向に沿って配置される第2注油機構と、を備え、前記複数の第2注油部は、前記シリンダライナの内面における温度が前記所定値より低い低温度領域における前記シリンダライナの内面への注油量を減少させる、ことを特徴としている。
【0016】
従って、注油機構としてピストン移動方向にずれた第1注油機構及び第2注油機構を設け、複数の第2注油部が低温度領域におけるシリンダライナの内面への注油量を減少させることとなり、シリンダライナの内面に対して適正な量の潤滑油を供給することとなり、全体して潤滑油の消費量を低減することができる。
【0017】
本発明のシリンダ注油装置では、前記シリンダライナは、内面に周方向に沿って複数の第1取付位置が設定されると共に、ピストン移動方向の一方側にずれた内面に前記複数の第1取付位置に対向して周方向に沿って複数の第2取付位置が設定され、前記複数の第1取付位置の全てに前記複数の第1注油部が設けられ、前記複数の第2取付位置の一部に前記複数の第2注油部が設けられることを特徴としている。
【0018】
従って、注油部の個数を減少して部品コスト、製造コスト、メンテナンスコストを低減することができる。
【0019】
本発明のシリンダ注油装置では、前記第2注油機構は、前記第1注油機構よりピストン移動方向の圧縮側に配置されることを特徴としている。
【0020】
従って、シリンダライナの内面温度に応じた量の潤滑油を適正に供給することができる。
【0021】
本発明のシリンダ注油装置では、前記複数の第1注油部は、前記シリンダライナにおける周方向にずれた内面に向けて潤滑油を噴出し、前記複数の第2注油部は、前記シリンダライナの内面に潤滑油を吐出することを特徴としている。
【0022】
従って、シリンダライナの内面温度に応じた量の潤滑油を適正に供給することができる。
【0023】
また、本発明のクロスヘッド式内燃機関は、前記シリンダ注油装置が設けられることを特徴とするものである。
【0024】
従って、低温度領域におけるシリンダライナの内面への注油量を減少させることで、シリンダライナの内面に対して適正な量の潤滑油を供給することとなり、全体して潤滑油の消費量を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシリンダ注油装置及びクロスヘッド式内燃機関によれば、シリンダライナの内面における温度が低い低温度領域におけるシリンダライナの内面への注油量を減少させるので、潤滑油の消費量を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るシリンダ注油装置及びクロスヘッド式内燃機関の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0028】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態のディーゼルエンジンを表す概略図である。
【0029】
本実施形態にて、
図1に示すように、ディーゼルエンジン10は、例えば、船舶推進用の主機として用いられ、2ストローク1サイクルのユニフロー掃気方式のクロスヘッド式内燃機関である。このディーゼルエンジン10は、下方に位置する台板11と、台板11上に設けられる架構12と、架構12上に設けられるシリンダジャケット13とを備えている。この台板11と架構12とシリンダジャケット13は、上下方向に延在する複数のタイボルト(連結部材)14及びナット15により一体に締結されて固定されている。
【0030】
シリンダライナ16は、シリンダジャケット13内に配置され、上部にシリンダカバー17が固定されて空間部を区画しており、この空間部内にピストン18が上下に往復動自在に設けられる。また、シリンダカバー17は、排気弁20が設けられており、排気弁20は、動弁装置21により開閉可能となっている。排気弁20は、シリンダライナ16、シリンダカバー17及びピストン18と共に燃焼室19を形成する。排気弁20は、燃焼室19と排気管22とを開閉するものである。
【0031】
そのため、燃焼室19に対して、図示しない燃料噴射ポンプから供給された燃料(例えば、低質油、天然ガス、または、その混合燃料など)と、図示しない圧縮機により圧縮された燃焼用ガス(例えば、空気、EGRガス、または、その混合ガスなど)が供給されることで、燃焼室19で燃料と燃焼用ガスが燃焼する。そして、この燃焼で発生したエネルギによりピストン18がピストン軸方向に往復動する。このとき、動弁装置21により排気弁20が作動して燃焼室19が開放されると、燃焼によって生じた排ガスが排気管22に押し出される一方、図示しない掃気ポートから燃焼用ガスが燃焼室19に導入される。
【0032】
ピストン18は、下端部にピストン棒23の上端部が連結されている。台板11は、クランクケースを構成しており、クランクシャフト24が軸受25により回転自在に支持されている。このクランクシャフト24は、クランク26を介して連接棒27の下端部が回動自在に連結されている。架構12は、ピストン軸方向に沿って設けられるガイド板28が幅方向に間隔を空けて一対をなすように配置されている。クロスヘッド29は、ピストン棒23の下端部に接続されるクロスヘッドピンとクランクシャフト24に連接される連接棒27の上端部に接続されるクロスヘッド軸受とが、クロスヘッドピンの下半部においてそれぞれ回動自在に連結される。このクロスヘッド29は、一対のガイド板28の間に配置され、この一対のガイド板28に沿って移動自在に支持されている。
【0033】
そのため、ピストン18がピストン軸方向に沿って往復移動すると、ピストン18と共にピストン棒23がピストン軸方向に沿って往復移動することにより、クロスヘッド29がガイド板28に沿ってピストン軸方向に沿って往復移動する。これにより、クロスヘッド29のクロスヘッドピンは、クロスヘッド軸受を介して連接棒27に回転駆動力を加える。この回転駆動力により、連接棒27の下端部に接続されるクランク26がクランク運動し、クランクシャフト24を回転させる。
【0034】
図2は、ディーゼルエンジンの要部を表す概略図である。
【0035】
図2に示すように、シリンダライナ16は、下部に設けられた複数の掃気ポート31を介して掃気トランク32が連結されると共に、上部に設けられた排気管22を介して排気マニホールド33が連結されている。掃気トランク32は、吸気管(図示略)を介して空気が供給可能となっている。シリンダカバー17は、上部に排ガスを排気管22に排出する排気弁20が設けられている。また、シリンダカバー17は、燃焼室19に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)34が設けられている。
【0036】
そのため、ピストン18が下死点(
図2の実線位置)に移動すると、掃気ポート31が開くことで、掃気トランク32の空気が掃気ポート31から燃焼室19に導入され、ピストン18が上昇すると、掃気ポート31と燃焼室19の導通がピストン18により遮断される。さらに、排気弁20により排気管22も閉じることによって、燃焼室19内の空気が圧縮される。ピストン18が上死点(
図2の二点鎖線位置)まで移動すると、燃焼室19の圧力が所定の圧縮圧力になり、インジェクタ34が燃料を噴射する。すると、燃焼室19内で空気と燃料が混合して燃焼し、燃焼エネルギによりピストン18が下降する。このとき、排気弁20により排気管22が開くことで、燃焼室19の排ガス(燃焼ガス)が排気管22に排出される。
【0037】
図3は、第1実施形態のシリンダ注油装置を表す概略図、
図4は、シリンダ注油装置における下段の注油位置を表す概略図、
図5は、シリンダ注油装置における上段の注油位置を表す概略図、
図6は、シリンダ注油装置における上下段の注油位置を表す概略図である。なお、
図4から
図6にて、矢印Xは、クランク軸方向を示している。
【0038】
第1実施形態のシリンダ注油装置において、
図3に示すように、ピストン18は、円柱形状をなし、下端部にピストン棒23の上端部が連結されている。また、ピストン18は、外周部に複数(本実施形態では、4個)のピストンリング18a,18b,18c,18dがピストン18の移動方向(以下、ピストン移動方向)に沿って固定されている。このピストン18は、円筒形状をなすシリンダライナ16内に配置され、軸心方向に沿って往復動自在に設けられており、シリンダライナ16内におけるピストン18より上方に燃焼室19が形成されている。
【0039】
シリンダライナ16は、上部にシリンダ注油装置40が設けられている。シリンダ注油装置40は、第1注油機構41と第2注油機構51が設けられ、第1注油機構41が下段側に配置され、第2注油機構51が上段側に配置されている。即ち、第2注油機構51は、第1注油機構41よりピストン移動方向における圧縮側に配置されている。言い換えると、第1注油機構41は、第2注油機構51よりピストン移動方向におけるピストン棒23側に配置されている。
【0040】
第1注油機構41は、第1注油孔(第1注油部)42が周方向に沿って複数設けられている。各第1注油孔42は、ピストン移動方向に直交するシリンダライナ16の径方向に沿って貫通して形成されている。各第1注油孔42は、基端部がシリンダライナ16の外面に形成された注油ポート43にそれぞれ連通し、先端部がシリンダライナ16の内面に開口してそれぞれ吐出口44が形成されている。なお、第1注油孔42は、ピストン移動方向に直交するシリンダライナ16の径方向に沿って貫通して形成せずに、シリンダライナ16の外面側から内面側に向けて先端部がピストン移動方向におけるピストン18側に位置するように傾斜した第1注油孔42Aとしてもよい。
【0041】
第2注油機構51は、第2注油孔(注油部、第2注油部)52が周方向に沿って複数設けられている。各第2注油孔52は、ピストン移動方向に直交するシリンダライナ16の径方向に沿って貫通して形成されている。各第2注油孔52は、基端部がシリンダライナ16の外面に形成された注油ポート53にそれぞれ連通し、先端部がシリンダライナ16の内面に開口してそれぞれ吐出口54が形成されている。
【0042】
注油器61は、第1流路45により各第1注油孔42の注油ポート43にそれぞれ連結されている。第1流路45は、基端部が注油器61に連結され、中途部に設けられた分岐部46で複数に分岐され、各先端部が各注油ポート43に連結されている。
【0043】
また、注油器61は、第2流路55により各第2注油孔52の注油ポート53にそれぞれ連結されている。第2流路55は、基端部が注油器61に連結され、中途部に設けられた分岐部56で複数に分岐され、各先端部が各注油ポート53に連結されている。注油器61は、ディーゼルエンジン10の回転と同期して駆動し、シリンダ油(潤滑油)を第1流路45により各第1注油孔42に供給すると共に、第2流路55により各第2注油孔52に供給する。このとき、注油器61は、シリンダ油の供給量がディーゼルエンジン10の回転数に比例して供給する。
【0044】
第1注油機構41は、SIP(Swirl Injection Principle)方式により各第1注油孔42から注油するものである。SIP方式の第1注油機構41は、ピストン18の上昇行程中にシリンダ油を噴霧し、掃気スワールを利用して予め設定されたシリンダライナ16の内面に向けて油膜を分布させる。そのため、各第1注油孔42は、吐出口がノズル構造をなしている。
【0045】
第2注油機構51は、蓄圧方式であり、第2流路55における注油ポート53と分岐部56との間に蓄油器62が連結されると共に、第2流路55における注油ポート53と蓄油器62の連結部との間に逆止弁63と設けられている。蓄油器62は、シリンダ62aとピストン62bとばね62cとからなり、ばね62cの弾性力は、蓄油器62内部の蓄圧室62dの圧力がピストン18の下方空間の圧力よりも高く、注油器61からの送油圧力よりも低くなるように設定されている。
【0046】
そのため、ピストン18が上昇行程にあるとき、注油器61のシリンダ油が各流路45,55を通して同じタイミングで各注油機構41,51へ送出される。そして、第1注油機構41は、ピストンリング18aが各第1注油孔42に到達するよりも早いタイミングで、各第1注油孔42からシリンダライナ16の内面に向けて直接シリンダ油を噴射する。各第1注油孔42から噴射されたシリンダ油は、掃気スワールに乗ってシリンダライナ16内を螺旋状に流れ、シリンダライナ16の内面へ付着する。
【0047】
一方、ピストン18の上昇行程にて、このピストン18により燃焼室19の空気が強く圧縮されていることから、燃焼室19の圧力は、注油器61から第2流路55に吐出されるシリンダ油の注油圧力より高い。そのため、第2注油機構51は、注油器61から第2流路55に吐出されたシリンダ油が蓄油器62で蓄圧される。そして、ピストン18が更に上昇してピストンリング18aが各第2注油孔52を通過した後、この各第2油孔52の近傍の燃焼室19の圧力は、ピストン18より下方の空間の圧力とほぼ同等となる。すると、蓄油器62で蓄圧されたシリンダ油は、蓄油室62d内部の圧力によって各第2注油孔52からシリンダライナ16の内面に吐出される。
【0048】
その後、ピストン18が下降行程となり、ピストンリング18aが各第1注油孔52を通過すると、各第2注油孔52に燃焼ガスの高い圧力が作用するため、蓄油室62dからの注油が一時的に中断される。そして、ピストン18が更に下降して燃焼ガスの圧力が低下すると、再び蓄圧室62d内に残留していたシリンダ油が各第2注油孔52からシリンダライナ16の内面に吐出される。注油されたシリンダ油は、ピストン18の上昇または下降に伴ってシリンダライナ16の内面の上方または下方へ押し拡げられる。
【0049】
ここで、第1実施形態のシリンダ注油装置において、シリンダ注油装置40を構成する第1注油機構41と第2注油機構51について詳細に説明する。
【0050】
第1注油機構41において、
図4及び
図6に示すように、第1注油孔42は、10個の第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jがシリンダライナ16の内面16aに周方向に沿って設けられている。この場合、シリンダライナ16の中心Oに対して10個の取付位置(取付角度)A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10が設定されており、各第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jは、全ての取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10に設けられている。
【0051】
第2注油機構51において、
図5及び
図6に示すように、第1注油孔52は、6個の第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jがシリンダライナ16の内面16aに周方向に沿って設けられている。この場合、シリンダライナ16の中心Oに対して10個の取付位置(取付角度)A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10が設定されており、各第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jは、取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10の一部、つまり、取付位置A2,A3,A7,A8を除く6個の取付位置A1,A4,A5,A6,A9,A10に設けられている。
【0052】
即ち、第2注油機構51は、複数の第2注油部52a,52d,52e,52f,52i,52jが、シリンダライナ16の内面16aにおける熱流速(温度)が、予め設定された所定値より低い低温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aへの注油量を減少させるようにしている。
【0053】
図5に示すように、インジェクタ34は、シリンダカバー17(
図2参照)に設けられており、本実施形態では、2個のインジェクタ34a,34bがシリンダライナ16の周方向に均等間隔で配置されている。各インジェクタ34a,34bは、シリンダライナ16の周方向における複数の異なる位置、つまり、取付位置A1,A10間と取付位置A5,A6間からシリンダライナ16の周方向(
図5にて、時計回り方向)に向けて燃料F1,F2を噴射する、すると、各インジェクタ34a,34bから噴射された各燃料F1,F2は、掃気スワールに乗ってシリンダライナ16内を所定角度だけ螺旋状に流れた後に拡散して点火され、火炎F11,F12が形成される。そのため、シリンダライナ16は、形成された火炎F11,F12の近傍の内面16aが熱流速(温度)の高い高温度領域であり、火炎F11,F12が形成されていない内面16aが熱流速(温度)の低い低温度領域となる。この低温度領域は、インジェクタ34a,34bの数だけ設けられる。
【0054】
図6に示すように、シリンダライナ16の内面16aにおける熱流束を計測してみると、シリンダ油付着部S1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8,S9,S10のうち、一部のシリンダ油付着部S2,S3,S4,S7,S8,S9の領域で高い高温度領域となり、残りのシリンダ油付着部S1,S5,S6,S10の領域で低い低温度領域となっている。ここで、
図6の上段の熱流束H2は、ピストン18が上死点位置にあるときのピストンリング18aの位置での熱流束であり、
図6の下段の熱流束H1は、ピストン18が上死点位置にあるときのピストンリング18dの位置での熱流束である。
【0055】
第1注油機構41にて、各第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jから噴射されたシリンダ油は、スワールによりシリンダライナ16の周方向及び軸方向に拡散する。そのため、各第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jから噴射されたシリンダ油は、シリンダライナ16の内面16aにおける斜め上方にずれた位置に噴射され、内面16aにシリンダ油付着部S1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8,S9,S10が形成される。本実施形態では、各第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jとシリンダ油付着部S1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8,S9,S10とは、シリンダライナ16の周方向に取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10の2個分だけずれている。
【0056】
一方、第2抽気機構51にて、各第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jから噴射されたシリンダ油は、そのままシリンダライナ16の内面16aに吐出されて付着する。即ち、各第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jから噴射されたシリンダ油は、シリンダ油付着部S1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8,S9,S10のうちの一部のシリンダ油付着部S2,S3,S4,S7,S8,S9だけに付着する。
【0057】
即ち、第1注油機構41の各第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jは、全てのシリンダ油付着部S1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8,S9,S10にシリンダ油を供給するが、第2抽気機構51の各第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jは、一部のシリンダ油付着部S2,S3,S4,S7,S8,S9だけにシリンダ油を供給する。その結果、高温度領域であるシリンダ油付着部S2,S3,S4,S7,S8,S9に多くのシリンダ油が供給され、低温度領域であるシリンダ油付着部S1,S5,S6,S10に少ないシリンダ油が供給されることとなる。
【0058】
そのため、第2抽気機構51は、高温度領域に対応する6個の取付位置A1,A4,A5,A6,A9,A10に各第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jが配置され、低温度領域に対応する4個の取付位置A2,A3,A7,A8に第2注油孔52b,52c,52g,52hが配置されていない。
【0059】
ここで、周方向に隣接する第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jの周方向における最大距離は、周方向に隣接する第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jの周方向の最小距離の2倍以上に設定されている。即ち、高温度領域に配置された第2注油孔52i,52j,52a間の距離または第2注油孔52d,52e,52f間の距離に対して、低温度領域を跨ぐように配置された第2注油孔52a,52d間の距離または第2注油孔52f,52i間の距離が2倍以上に設定されている。
【0060】
このように第1実施形態のシリンダ注油装置にあっては、シリンダライナ16の内面16aに複数の第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jが周方向に沿って配置される第2注油機構51を設け、第2注油機構51は、シリンダライナ16の内面16aにおける温度が予め設定された所定値より低い低温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aへの注油量を減少させる。
【0061】
従って、低温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aへの注油量を減少させることで、シリンダライナ16の内面16aに対して適正な量の潤滑油を供給することとなり、全体して潤滑油の消費量を低減することができる。
【0062】
第1実施形態のシリンダ注油装置では、複数の第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jは、低温度領域を除く高温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aだけに注油するものであり、周方向に隣接する第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jの最大距離は、周方向に隣接する第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jの最小距離の2倍以上に設定される。従って、第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jの個数を減少して部品コスト、製造コスト、メンテナンスコストを低減することができる。
【0063】
第1実施形態のシリンダ注油装置では、シリンダライナ16の周方向における複数の異なる位置からシリンダライナ16の周方向に向けて燃料を噴射する複数のインジェクタ34a,34bを設け、低温度領域は、インジェクタ34a,34bの数だけ設けられる。従って、インジェクタ34a,34bの個数や位置に応じて低温度領域の形成位置が相違するとから、インジェクタ34a,34bの個数や位置に応じて第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jを最適位置に配置することができる。
【0064】
第1実施形態のシリンダ注油装置では、シリンダ注油装置40として、シリンダライナ16の内面16aに複数の第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jが周方向に配置される第1注油機構41と、シリンダライナ16の内面16aにおける複数の第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jよりピストン移動方向の一方側に複数の第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jが周方向に配置される第2注油機構51を設け、複数の第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jは、低温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aへの注油量を減少させる。従って、シリンダライナ16の内面16aに対して適正な量の潤滑油を供給することとなり、全体して潤滑油の消費量を低減することができる。
【0065】
第1実施形態のシリンダ注油装置では、シリンダライナ16は、内面16aに周方向に複数の第1取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10が設定されると共に、ピストン移動方向の一方側にずれた内面16aに複数の第1取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10に対向して周方向に複数の第2取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10が設定され、複数の第1取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10の全てに複数の第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42jを設け、一部の第2取付位置A1,A4,A5,A6,A9,A10に第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jを設けている。従って、第2注油孔の個数を減少して部品コスト及び製造コストを低減することができる。
【0066】
また、第1実施形態のクロスヘッド式内燃機関にあっては、低温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aへの注油量を減少させることで、シリンダライナ16の内面16aに対して適正な量の潤滑油を供給することとなり、全体して潤滑油の消費量を低減することができる。
【0067】
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態のシリンダ注油装置における下段の注油位置を表す概略図、
図8は、シリンダ注油装置における上段の注油位置を表す概略図である。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0068】
第2実施形態のシリンダ注油装置において、
図7に示すように、第1注油機構の第1注油孔は、12個の第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42j,42k,42mがシリンダライナ16の内面16aに周方向に設けられている。この場合、シリンダライナ16の中心Oに対して12個の取付位置(取付角度)A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10,A11,A12が設定されており、各第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42j,42k,42mは、全ての取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10,A11,A12に設けられている。
【0069】
図8に示すように、第2注油機構の第1注油孔は、6個の第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jがシリンダライナ16の内面16aに周方向に設けられている。この場合、シリンダライナ16の中心Oに対して12個の取付位置(取付角度)A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10,A11,A12が設定されており、各第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jは、取付位置A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9,A10,A11,A12の一部、つまり、取付位置A3,A4,A7,A8,A11,A12を除く6個の取付位置A1,A2,A5,A6,A9,A10に設けられている。
【0070】
即ち、第2注油機構は、複数の第2注油部52a,52d,52e,52f,52i,52jが、シリンダライナ16の内面16aにおける熱流速(温度)が、予め設定された所定値より低い低温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aへの注油量を減少させるようにしている。
【0071】
本実施形態では、3個のインジェクタ34a,34b,34cがシリンダライナ16の周方向に均等間隔で配置されている。各インジェクタ34a,34b,34cは、シリンダライナ16の周方向における複数の異なる位置、つまり、取付位置A1,A5,A9からシリンダライナ16の周方向(
図8にて、時計回り方向)に向けて燃料F1,F2,F3を噴射する、すると、各インジェクタ34a,34b,34cから噴射された各燃料F1,F2,F3は、掃気スワールに乗ってシリンダライナ16内を所定角度だけ螺旋状に流れた後に拡散して点火され、火炎F11,F12,F13が形成される。そのため、シリンダライナ16は、形成された火炎F11,F12,F13の近傍の内面16aが熱流速(温度)の高い高温度領域であり、火炎F11,F12,F13形成されていない内面16aが熱流速(温度)の低い低温度領域となる。この低温度領域は、インジェクタ34a,34b,34cの数だけ設けられる。
【0072】
第1抽気機構の各第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42j,42k,42mは、全てのシリンダ油付着部にシリンダ油を供給するが、第2抽気機構の各第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jは、一部のシリンダ油付着部だけにシリンダ油を供給する。その結果、高温度領域であるシリンダ油付着部に多くのシリンダ油が供給され、低温度領域であるシリンダ油付着部に少ないシリンダ油が供給されることとなる。
【0073】
そのため、第2抽気機構は、高温度領域に対応する6個の取付位置A1,A2,A5,A6,A9,A10に各第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jが配置され、低温度領域に対応する6個の取付位置A3,A4,A7,A8,A11,A12に第2注油孔が配置されていない。
【0074】
ここで、周方向に隣接する第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jの周方向における最大距離は、周方向に隣接する第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jの周方向の最小距離の2倍以上に設定されている。即ち、高温度領域に配置された第2注油孔52a,52b間の距離または第2注油孔52e,52f間の距離または第2注油孔52i,52j間の距離に対して、低温度領域を跨ぐように配置された第2注油孔52b,52e間の距離または第2注油孔52f,52i間の距離または第2注油孔52j,52a間の距離が2倍以上に設定されている。
【0075】
このように第2実施形態のシリンダ注油装置にあっては、注油機構として、シリンダライナ16の内面16aに複数の第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42j,42k,42mが周方向に配置される第1注油機構と、シリンダライナ16の内面16aにおける複数の第1注油孔42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,42h,42i,42j,42k,42mよりピストン移動方向の一方側に複数の第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jが周方向に配置される第2注油機構を設け、複数の第2注油孔52a,52d,52e,52f,52i,52jは、低温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aへの注油量を減少させる。
【0076】
従って、低温度領域におけるシリンダライナ16の内面16aへの注油量を減少させることで、シリンダライナ16の内面16aに対して適正な量の潤滑油を供給することとなり、全体して潤滑油の消費量を低減することができる。
【0077】
なお、上述した実施形態では、第1注油機構41をSIP方式とし、第2注油機構51を蓄圧方式としたが、第1注油機構41を蓄圧方式とし、第2注油機構51をSIP方式としてもよい。また、各注油機構41,51は、SIP方式や蓄圧方式に限らず、例えば、蓄圧されたシリンダ油を、電磁弁を用いて開閉時間制御をしながら注油する電子制御式(ECL:Electronically Controlled Lubricating System)を適用してもよい。また、シリンダ油は、ピストンが上段注油孔を通過するタイミングで、上段注油孔からピストンリングに注油されてもよい。さらに、タイミング注油の場合、シリンダ油は、ピストンが上段注油孔を通過する前に、上段注油孔からシリンダライナの内面に注油されてもよい。
【0078】
また、上述した実施形態では、上段側の第2注油機構51をシリンダライナ16の周方向に不均等配置したが、下段側の第1注油機構41をシリンダライナ16の周方向に不均等配置してもよい。また、第2注油機構51は、シリンダライナ16における周方向にずれた内面16aに向けてシリンダ油を噴出したが、第1注油機構41のように、シリンダライナ16の内面16aに吐出させてもよい。
【0079】
また、上述した実施形態では、シリンダ注油装置40として第1注油機構41と第2注油機構51を設けたが、一つの注油機構だけとしてもよい。また、注油孔(注油部)の個数やインジェクタ(燃料噴射弁)の個数は、実施形態に限定されるものではない。