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特許6685901限界電流によってレドックスフロー電池の充電状態を求めるための装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685901
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】限界電流によってレドックスフロー電池の充電状態を求めるための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20200413BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20200413BHJP
【FI】
   H01M8/18
   H01M8/04 Z
【請求項の数】45
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-527267(P2016-527267)
(86)(22)【出願日】2014年10月31日
(65)【公表番号】特表2016-535405(P2016-535405A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】US2014063290
(87)【国際公開番号】WO2015066398
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2017年10月2日
(31)【優先権主張番号】61/898,635
(32)【優先日】2013年11月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515024601
【氏名又は名称】ロッキード マーティン エナジー,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】LOCKHEED MARTIN ENERGY, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】キング,エヴァン,アール.
(72)【発明者】
【氏名】ダフィー,キーン
(72)【発明者】
【氏名】モリス−コーエン,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ゴルツ,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】リース,スティーヴン,ワイ.
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−526260(JP,A)
【文献】 特表2000−500571(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/047842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18−8/20
H01M 4/20
G01N 27/26−27/404
G01N 27/414−27/416
G01N 27/42−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を求める方法であって、
(a)第1の静止作用電極及び第1の対電極のそれぞれが前記溶液に接触する表面積を有するように、前記溶液に前記第1の静止作用電極及び第1の対電極を接触させることと、
(b)前記第1の対電極を基準として前記第1の静止作用電極に第1の電位を印加し、第1の定電流を測定することと、
(c)前記第1の対電極を基準として前記第1の静止作用電極に第2の電位を印加し、第2の定電流を測定することと、
を含み、
前記第1及び第2の電流の符号が同一でなく、
前記第1及び第2の電流の絶対値の比が溶液中の前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態の前記比を反映する、方法。
【請求項2】
前記第1の電位が前記レドックス対の平衡電位よりも正の側にあり、前記第2の電位が前記レドックス対の前記平衡電位よりも負の側にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の電位と前記平衡電位との差の大きさ及び前記平衡電位と前記第2の電位との差の大きさがほぼ同じである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の電位がほぼ同じ大きさであるが符号が逆である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶液に接触する、前記第1の静止作用電極の表面積が、前記溶液に接触する、前記第1の対電極の表面積よりも小さい、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を求める方法であって、
(a)前記溶液に第1の静止作用電極及び第1の対電極を接触させることと、
(b)前記溶液に第2の静止作用電極及び第2の対電極を接触させることと、
(c)前記第1の対電極を基準として前記第1の静止作用電極に第1の電位を印加し、前記第1の静止作用電極についての第1の定電流を測定することと、
(d)前記第2の対電極を基準として前記第2の静止作用電極に第2の電位を印加し、前記第2の静止作用電極についての第2の定電流を測定することと、
を含み、
前記第1及び第2の電流が逆の符号を有し、
前記第1及び第2の電流の絶対値の比が溶液中の前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態の前記比を反映し、
前記第1及び第2の静止作用電極並びに前記第1及び第2の対電極のそれぞれは、前記溶液と接触する表面を有し、
(i)前記第1及び第2の電位が同時に印加されることと、
(ii)前記第1及び第2の電位がほぼ同じ大きさであるが符号が逆であることと、
(iii)前記溶液に接触する、前記第1及び第2の静止作用電極の表面積のそれぞれが、前記溶液に接触する、前記第1及び第2の対電極の表面積よりも小さいことと、
(iv)前記溶液に接触する、前記第1及び第2の静止作用電極の各表面積がほぼ同じであることとのうちのいずれか1つである、又は、
(v)前記(i)〜前記(iv)のうち、2つ若しくはそれ以上の組み合わせである、方法。
【請求項7】
前記第1及び第2の電位が同時に印加される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1及び第2の電位がほぼ同じ大きさであるが符号が逆である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶液に接触する、前記第1及び第2の静止作用電極の表面積のそれぞれが、前記溶液に接触する、前記第1及び第2の対電極の表面積よりも小さい、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記溶液に接触する、前記第1及び第2の静止作用電極の各表面積がほぼ同じである、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
溶液中にレドックス対の酸化形態と還元形態を含む少なくとも1つの半電池を有し、前記レドックス対が平衡電位を有する電気化学セルを維持する方法であって、
(a)第1の静止作用電極及び第1の対電極のそれぞれが前記溶液に接触する表面積を有するように、前記溶液に第1の静止作用電極及び第1の対電極を接触させることと、
(b)前記第1の静止作用電極に第1の電位を印加し、第1の定電流を測定することと、
(c)前記第1の静止作用電極に第2の電位を印加し、第2の定電流を測定することと、
を含み、
前記第1及び第2の電流が逆の符号を有し、
前記第1及び第2の電流の絶対値の比が溶液中の前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態の前記比を反映し、更に、
(d)前記第1及び第2の電流の前記絶対値の前記比に応じた度合いで、溶液中の前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態のバランスを変えるように前記溶液を酸化又は還元すること、
を含む、方法。
【請求項12】
前記第1の電位が前記レドックス対の平衡電位よりも正の側にあり、前記第2の電位が前記レドックス対の平衡電位よりも負の側にある、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の電位と前記平衡電位との差の大きさ及び前記平衡電位と前記第2の電位との差の大きさがほぼ同じである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の静止作用電極における前記第1及び第2の電位が前記第1の対電極を基準として印加される、請求項11から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1及び第2の電位がほぼ同じ大きさであるが符号が逆である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶液に接触する、前記第1の静止作用電極の表面積が、前記溶液に接触する、前記第1の対電極の表面積よりも小さい、請求項11から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
溶液中にレドックス対の酸化形態と還元形態を含む少なくとも1つの半電池を有する電気化学セルを維持する方法であって、
(a)第1の静止作用電極及び第1の対電極のそれぞれが前記溶液に接触する表面積を有し、前記溶液に第1の静止作用電極及び第1の対電極を接触させることと、
(b)第2の静止作用電極及び第2の対電極のそれぞれが前記溶液に接触する表面積を有し、前記溶液に第2の静止作用電極及び第2の対電極を接触させることと、
(c)前記第1の対電極を基準として前記第1の静止作用電極に第1の電位を印加し、前記第1の静止作用電極についての第1の定電流を測定することと、
(d)前記第2の対電極を基準として前記第2の静止作用電極に第2の電位を印加し、前記第2の静止作用電極についての第2の定電流を測定することと、
を含み、
前記第1及び第2の電流が逆の符号を有し、
前記第1及び第2の電流の絶対値の比が溶液中の前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態の前記比を反映し、更に、
(e)前記第1及び第2の電流の前記絶対値の前記比に応じた度合いで、溶液中の前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態のバランスを変えるように前記溶液を酸化又は還元すること、
を含む、方法。
【請求項18】
前記第1及び第2の電位が同時に印加される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1及び第2の電位がほぼ同じ大きさであるが符号が逆である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記溶液に接触する、前記第1及び第2の静止作用電極の表面積のそれぞれが、前記溶液に接触する、前記第1及び第2の対電極の各表面積よりも小さい、請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記溶液に接触する、前記第1及び第2の静止作用電極の各表面積がほぼ同じである、請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態の前記比が約5:95から95:5の範囲内である、請求項1から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態の前記比が約20:80から80:20の範囲内である、請求項1から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記レドックス対が、ランタニド及びアクチニド元素を含む2〜16族の金属又はメタロイドを含む、請求項1から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記レドックス対が、Al、As、Ca、Ce、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、Sb、Se、Si、Sn、Ti、V、W、Zn、又はZrを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記レドックス対が、Al、As、Ce、Co、Cr、Cu、Fe、Mn、Mo、Ni、Sb、Se、Si、Sn、Ti、V、W、Zn、又はZrを含む配位化合物を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記レドックス対が可逆レドックス対である、請求項1から26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記溶液が水性溶液である、請求項1から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記溶液が非水性溶液である、請求項1から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記溶液が前記静止作用電極及び対電極に対して動いている、請求項1から29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記溶液に接触する、前記第1及び第2の静止作用電極の表面積が、前記溶液に接触する、それぞれ前記第1及び第2の対電極の表面積の約20%未満である、請求項6から30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記静止作用電極又は対電極の少なくとも1つが炭素の同素体を含む、請求項1から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記炭素の同素体がグラファイト又はダイヤモンドを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記第1又は第2の電流の少なくとも一方について、その電流の不変性は、その変化が1秒間で0.1%未満であることによって特徴づけられる、請求項1から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記第1又は第2の電流の少なくとも一方について、その電流の不変性は、その変化が10秒間で1%未満であることによって特徴づけられる、請求項1から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記溶液が、電気エネルギを発生又は貯蔵する動作状態の電気化学セルの半電池流体ループ内に収容されている、請求項1から35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記動作状態の電気化学セルが動作状態のフロー電池セルである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記第1及び第2の電流の前記絶対値の前記比に応じた度合いで、溶液中の前記レドックス対の前記酸化形態と前記還元形態のバランスを変えるように前記溶液を酸化又は還元することが電気化学的に実行される、請求項11から37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記動作状態のセルの前記半電池流体ループが再平衡サブシステムを更に含み、前記溶液を酸化又は還元することが前記再平衡サブシステムにおいて実行される、請求項36から38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
(a)第1の電解質溶液を収容する流体ループ及び第2の電解質溶液を収容する別個の流体ループと、
(b)第1の静止作用電極及び第1の対電極から成る少なくとも1対の電極であって、各電極対が、独立に前記第1の電解質溶液、又は、前記第1及び第2の電解質溶液の各々と流体接触する、少なくとも1対の電極と、
(c)電源及びセンサを含み、各電極対に関連付けられた制御システムであって、前記第1の対電極を基準として各前記第1の静止作用電極に第1及び第2の電位を印加することができると共に前記電位に関連付けられた第1及び第2の電流を測定することができるように構成された制御システムと、
(d)溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映した、各電極対間の前記第1及び第2の電流の絶対値の比を計算することができるソフトウェアと、
を含む、エネルギ貯蔵システム。
【請求項41】
各電極対に関連付けられた少なくとも1つの再平衡サブシステムを更に含み、前記再平衡サブシステムが、前記第1の電解質ループ、又は、前記第1及び第2の電解質ループの各々と流体連通し、前記再平衡サブシステムが、各電極対間の前記第1及び第2の電流の前記絶対値の前記計算された比に応じて前記各再平衡サブシステムにおいて1又は複数の前記電解質溶液を酸化又は還元するように前記制御システムによって制御可能である、請求項40に記載のエネルギ貯蔵システム。
【請求項42】
前記第1の電解質溶液がポソライト溶液であり、前記第2の電解質溶液がネゴライト溶液である、請求項40又は41に記載のエネルギ貯蔵システム。
【請求項43】
前記第1の電解質溶液がネゴライト溶液であり、前記第2の電解質溶液がポソライト溶液である、請求項40又は41に記載のエネルギ貯蔵システム。
【請求項44】
請求項1から39のいずれか1項に記載の方法において使用することができる、請求項40から43のいずれか1項に記載のエネルギ貯蔵システム。
【請求項45】
(a)第1の静止作用電極及び第1の対電極から成る少なくとも1対の電極であって、各電極対が独立に電解質溶液と流体接触することができる、少なくとも1対の電極と、
(b)電源及びセンサを含み、各電極対に関連付けられて、前記第1の対電極を基準として各前記第1の静止作用電極に第1及び第2の電位を印加することができると共に前記電位に関連付けられた第1及び第2の電流を測定することができるように構成された制御システムと、
(c)溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映した、各電極対間の前記第1及び第2の電流の絶対値の比を計算することができるソフトウェアと、
を含む、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2013年11月1日に出願された米国特許出願第61/898,635号の優先権の利益を主張する。その内容は引用により全体があらゆる目的のために本願にも含まれるものとする。
【0002】
本発明は、レドックスフロー電池、並びにその内部の電解質の組成を監視するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
フロー電池は電気化学エネルギ貯蔵システムであり、典型的にレドックス活性化合物である電気化学反応物を、ネゴライト(negolyte:負極電解質)及びポソライト(posolyte:正極電解質)の各ループ内に個別に収容され反応セル内を循環する電解液に溶解させ、還元及び酸化反応によって電気エネルギを反応物の化学ポテンシャルエネルギに変換するか又は化学ポテンシャルエネルギから抽出する。特に多数の電気化学セル又はスタックを含み得る大型システムでは、例えば、いつフロー電池が「フル充電(full)」になるか又は「電池切れ(empty)」になるかを実際にこれらの最終状態に至る前に知るために、各電解質の充電状態の監視を可能とすることが重要である。
【0004】
更に、最適な性能を得るため、そのようなシステムの初期状態では、ネゴライト及びポソライトが等モル量のレドックス活性種を含有すると共に、ネゴライトの充電状態及びポソライトの充電状態が同等である。しかしながら、システムがある程度の回数の充電/放電サイクルを繰り返すと、これらの動作中に起こる副反応のためにポソライト及びネゴライトは不平衡となる可能性がある。この副反応としては、例えば過電位条件に反する場合に水から水素又は酸素が発生することがあり、これが不平衡を引き起こし、これに伴って性能が損なわれる。
【0005】
不平衡状態は、電解質を再平衡セルで処理することにより修正することができる。しかしながら、これを実行する前に、システムの充電状態、及び多くの場合には個々の電解質の充電状態も査定する必要がある。フロー電池の充電状態は、未充電活性物質に対する充電活性物質の濃度比を表す方法である。フロー電池電解質の充電状態の監視は、典型的には分光法を用いて又は電位測定によって行われている。分光測定は通常、充分に確立した分光法を使用し、ほとんどの場合は色の変化及び紫外線−可視光分光法による測定に基づいている。電気化学測定は、充電状態を確かめるためのもっと直接的な方法である。これらの方法のほとんどは電解質溶液の電位の測定に基づいており、この電位はネルンストの式によって濃度比に関連付けることができる。このような電位測定には基準電極が必要であるが、これは、長期間にわたって電解質に接触すると電位ドリフト及び「汚れ(fouling)」を生じやすく、設定された標準に対して溶液の絶対電位を得ることが困難になる可能性がある。いくつかの電解質組成では、充電状態と電位との関係がネルンストの式によって正確に記述されない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これらの欠点のいくつかに対処する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
いくつかの実施形態は、溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を求める方法を提供する。各方法は、
(a)第1の静止作用電極(stationary working eletrode)及び対電極のそれぞれが溶液に接触する表面積を有するように、溶液に第1の静止作用電極(以下、単に「第1の作用電極」ということがある。)及び第1の対電極(counter electrode)を接触させることと、
(b)第1の対電極を基準として第1の静止作用電極に第1の電位を印加し、第1の定電流(以下、単に「第1の電流」ということがある。)を測定することと、
(c)第1の対電極を基準として第1の静止作用電極に第2の電位を印加し、第2の定電流(以下、単に「第2の電流」ということがある。)を測定することと、
を含み、
第1及び第2の電流の符号が同一でなく、
第1及び第2の電流の絶対値の比が溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映する。電気化学セル、スタック又はシステムを監視/制御する状況で用いる場合、追加の実施形態には、(d)第1及び第2の電流の絶対値の比に応じた度合いで溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態のバランスを変えるように溶液を酸化又は還元すること、を更に含むものが含まれる。
【0008】
他の実施形態では、単一の対の構成と同じ効果を得るように連携して動作する2対の電極を用いることも可能である。従って、追加の実施形態は、溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を求める方法を提供する。各方法は、
(a)溶液に第1の静止作用電極及び第1の対電極を接触させることと、
(b)溶液に第2の静止作用電極(以下、単に「第2の作用電極」ということがある。)及び第2の対電極を接触させることと、
(c)第1の対電極を基準として第1の静止作用電極に第1の電位を印加し、第1の静止作用電極についての第1の定電流を測定することと、
(d)第2の対電極を基準として第2の静止作用電極に第2の電位を印加し、第2の静止作用電極についての第2の定電流を測定することと、
を含み、
第1及び第2の電流が逆の符号を有し、
第1及び第2の電流の絶対値の比が溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映し、
第1及び第2の静止作用電極並びに第1及び第2の対電極のそれぞれは、溶液と接触する表面を有し、
(i)第1及び第2の電位が同時に印加されることと、
(ii)第1及び第2の電位がほぼ同じ大きさであるが符号が逆であることと、
(iii)前記溶液に接触する、第1及び第2の静止作用電極の表面積のそれぞれが、前記溶液に接触する、第1及び第2の対電極の表面積よりも小さいことと、
(iv)第1及び第2の静止作用電極の各表面積がほぼ同じであることとのうちのいずれか1つである、又は、
(v)前記(i)〜前記(iv)のうち、2つ若しくはそれ以上の組み合わせである。電気化学セルを監視/制御する状況で用いる場合、追加の実施形態には、(e)第1及び第2の電流の絶対値の比に応じた度合いで、溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態のバランスを変えるように溶液を酸化又は還元すること、を更に含むものが含まれる。
【0009】
本発明はエネルギ貯蔵システムも教示する。各システムは、
(a)第1の電解質溶液を収容する流体ループ及び第2の電解質溶液を収容する別個の流体ループと、
(b)第1の静止作用電極及び第1の対電極から成る少なくとも1対の電極であって、各電極対が独立に第1の電解質溶液と又は第1及び第2の電解質溶液の各々と流体接触する、少なくとも1対の電極と、
(c)電源及びセンサを含み、各電極対に関連付けられた任意選択的な制御システムであって、第1の対電極を基準として各第1の作用電極に第1及び第2の電位を印加することができると共にこの電位に関連付けられた第1及び第2の電流を測定することができるように構成された任意選択的な制御システムと、
(d)溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映した、各電極対間の第1及び第2の電流の絶対値の比を計算することができる任意選択的なソフトウェアと、
を含む。このようなエネルギシステムは、各電極対に関連付けられた少なくとも1つの再平衡サブシステムを更に含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本出願は、添付図面と関連付けて読むことによって更に理解される。主題を例示する目的で、主題の例示的な実施形態を図面に示す。しかしながら、ここに開示する主題は、開示する具体的な方法、デバイス、及びシステムに限定されない。更に、図面は必ずしも一定の縮尺通りに描かれているわけではない。
【0011】
図1】充電状態測定装置を組み込んだレドックスフロー電池の概略図を示す。
図2】本明細書に記載する1つの電極構成を示す。
図3】実施例1に記載するような、ガラス状炭素電極を用いた20モル%Fe3+/80モル%Fe2+での1Mのヘキサシアニド鉄の酸化及び還元について、各電流の関係を時間の関数として示す。
図4】実施例1に記載するような、ガラス状炭素電極を用いた60モル%Fe3+/40モル%Fe2+での1Mのヘキサシアニド鉄の酸化及び還元について、各電流の関係を時間の関数として示す。
図5】実施例1に記載するような、ガラス状炭素電極を用いた95モル%Fe3+/5モル%Fe2+での1Mのヘキサシアニド鉄の酸化及び還元について、各電流の関係を時間の関数として示す。
図6】実施例2に記載するような、ガラス状炭素電極を用いた36モル%Fe3+/64モル%Fe2+での0.92Mのヘキサシアニド鉄の酸化及び還元について、各電流の関係を時間の関数として示す。
図7】実施例2に記載するような、ガラス状炭素電極を用いた53.4モル%Fe3+/46.6モル%Fe2+での0.92Mのヘキサシアニド鉄の酸化及び還元について、各電流の関係を時間の関数として示す。
図8】実施例2に記載するような、ガラス状炭素電極を用いた76.8モル%Fe3+/23.2モル%Fe2+での0.92Mのヘキサシアニド鉄の酸化及び還元について、各電流の関係を時間の関数として示す。
図9】実施例2に記載するような、ガラス状炭素電極を用いた100モル%Fe3+/0モル%Fe2+での0.92Mのヘキサシアニド鉄の酸化及び還元について、各電流の関係を時間の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、レドックスフロー電池、並びにその内部の電解質(ポソライト又はネゴライト又はその双方)の組成を監視するための方法及び装置に関する。具体的には、本発明は、実質的に、第1の静止作用電極と第1の対電極(又は2対の作用電極及び対電極)によって、レドックス対の酸化形態と還元形態の比、従って電解質の充電状態を測定するための方法及び用途に関する。本発明の方法は、1組の電極間の限界電流の使用に基づいており、電位を測定又は制御するために基準電極を必要としない。レドックスフロー電池(又は他の電気化学デバイス)のための制御及び監視システムの一部として、充電及び放電サイクルのフィードバック、及び動作中に起こり得る充電状態の低下又は不平衡のインジケータとして用いる場合、本発明はこれにより、電気化学デバイスの最適な性能を得るために比又は充電状態の調整を可能とする。
【0013】
本発明は、全てが本開示の一部を形成する添付の図面及び実施例に関連付けて以下の記載を参照することによって、更に容易に理解することができる。本発明が本明細書に記載及び/又は図示する具体的な製品、方法、条件、又はパラメータに限定されないこと、並びに本明細書で用いる用語は一例としてのみ特定の実施形態を記載するためのものであって特許請求される発明を限定することは意図していないことは理解されよう。同様に、特に明記しない限り、改良のための可能な機構又は動作のモード又は理由についての記載は例示のみを意図しており、本明細書における本発明は、そのような改良のための提案する機構又は動作のモード又は理由の正確さ又は不正確さによって制約を受けない。本文書全体を通して、記載は、組成及びこの組成を作製及び使用する方法に言及することが認識される。すなわち、本開示がシステムもしくは装置又はシステムもしくは装置を作製もしくは使用する方法に関連付けられた特徴又は実施形態を記載及び/又は特許請求する場合、そのような記載及び/又は特許請求は、これらの特徴又は実施形態をこれらの状況の各々における実施形態(すなわちシステム、装置、及び使用方法)に拡張することを意図していることは認められよう。
【0014】
本開示において、文脈上明らかに他の意味を示す場合を除いて、単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、及び「the(その)」には複数の言及も含まれ、特定の数値に対する言及は少なくともその特定の値を含む。このため、例えば「1つの材料」は、当業者に既知のそのような材料及びその均等物等の少なくとも1つに対する言及である。
【0015】
ある値が「約」という記述語の使用により近似値として明示される場合、その特定の値が別の実施形態を形成することは理解されよう。一般に、「約」という言葉の使用は、開示される主題が達成しようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値を示し、それが用いられる具体的な文脈の中でその機能に基づいて解釈される。当業者はこれを通常ルーチンとして解釈することができる。場合によっては、特定の値に用いられる有効桁数が、「約」という言葉の範囲を決定する1つの非限定的な方法となり得る。他の場合には、一連の値での段階的な変化を用いて、各値について「約」という言葉に使用できる対象範囲を決定することができる。存在する場合、全ての範囲は包括的であり組み合わせ可能である。すなわち、ある範囲内に示した値に対する言及はその範囲内の全ての値を含む。
【0016】
明確さのために本明細書では別個の実施形態に分けて記載する本発明のいくつかの特徴は、組み合わせて単一の実施形態で提供され得ることは認められよう。すなわち、明らかに両立できないか又は具体的に除外される場合を除いて、個々の実施形態は他のいずれかの実施形態(複数の実施形態)と両立可能であると考えられ、そのような組み合わせは別の実施形態であると見なされる。逆に、簡潔さのために単一の実施形態の文脈で記載する本発明の様々な特徴は、別個に又はいずれかのもっと小さい組み合わせ(sub−combination)で提供され得る。最後に、ある実施形態を一連のステップの一部として又はもっと一般的な構造の一部として記載する場合があるが、前記の各ステップはそれ自体が他のものと組み合わせ可能な別個の実施形態であると見なすことも可能である。
【0017】
リストが提示される場合、特に明記しない限り、そのリストの各要素及びそのリストの全ての組み合わせが別個の実施形態であることは理解されよう。例えば「A、B、又はC」と提示される実施形態のリストは、「A」、「B」、「C」、「AもしくはB」、「AもしくはC」、「BもしくはC」、又は「A、B、もしくはC」という実施形態を含むものとして解釈される。
【0018】
以下の記載は、本発明(複数の発明)を理解するのに有用であると考えられる。第1原則から開始すると、フロー電池における電解質は、電子を貯蔵することができる活性物質から成る。この活性物質は充電状態と放電(又は未充電)状態の双方で存在する。活性物質が全て放電された場合、電解質は0%の充電状態であると言われ、逆に活性物質が全て充電状態にある場合、充電状態(SOC)は100%である。中間の充電状態(0%<SOC<100%)では、充電活性物質及び放電活性物質の双方が非ゼロの濃度である。このような電解質に接触している電極に電流を流すと、電極の電位に応じて活性物質の分子が充電又は放電する。有限面積の電極では、限界電流密度(ilimiting)は、電気化学プロセスが消費している種の濃度に比例する。
【0019】
例えば50%SOCの活性物質が0Vの平衡電位を有し、電極が+100mVに保たれた場合、放電活性物質は充電活性物質に変換され、この酸化の電流を電極において測定することができる。活性物質の量及び濃度が大きいと仮定すると、SOCに著しい変化は起こらず、電圧が短時間保持された後に電流は一定値に近付く。この限界電流密度(ilim、単位電極表面積当たりの電流)は、放電活性物質(消費される種)のバルク濃度(C)、放電活性物質の拡散係数(D)、拡散層の厚さ(δ)、及び反応中に輸送される電子の数(n)に依存し、以下の式に従う。
【0020】
【数1】
【0021】
このため、拡散係数及び拡散層の厚さが既知であるならば、電気化学対の酸化又は還元の遷移中の限界電流を測定することによって、充電活性物質又は放電活性物質の濃度を直接求めることができる。実際には、D及びδを正確に求めることは簡単ではないので、本発明は、酸化及び還元プロセス中の限界電流の比を測定することによって放電活性物質に対する充電活性物質の濃度比を求める方法を用いている。
【0022】
可逆電気化学対では、充電分子種と放電分子種との間の構造的又は化学的な変化はごくわずかである(準可逆電気化学対又は可逆性の低い電気化学対についても同一の原理が作用するが、これに伴うエラーが増大する。いくつかの用途では、このエラー増大は許容可能であるか又は修正可能であり得るので、これらのシステムでも本発明を用いることができる)。これが意味するのは、酸化プロセス(ox)又は還元プロセス(red)において、拡散係数及び拡散層の厚さが双方のプロセスで同様である、すなわちDox≒Dredかつδox≒δredであるということである。ファラデー定数と電子数は不変であり、以下の式が成り立つ。
【0023】
【数2】
【0024】
ここで、Aは、1(理想的な場合)であるか、又は他の方法で実験的に求められる拡散係数又は拡散層の差を考慮に入れるための補正定数のいずれかであり得る。Coxは、酸化形態の活性物質の濃度(還元時に消費される)であり、Credは、還元形態の活性物質の濃度(酸化時に消費される)である。濃度(又は限界電流)の比は、容易に百分率としてのSOCに変換することができる。
【0025】
【数3】
【0026】
この手法は明らかに簡単であるにもかかわらず、これらの関係は電気化学の当業者によって認識されたりフロー電池システムに適用されたりしていないようである。
【0027】
実際には、上記の式は理想的な場合を表すので、電流の比はもっと経験的な方法で充電状態に関連付ける必要があり得る。多くの電極セットを用いる場合、作用電極の表面積は同等でないように選択されることがあり、この場合、電流の比と電流密度の比は同等でない(Iox/Ired≠iox/ired)。更に、酸化種及び還元種の拡散係数及び拡散層の厚さは、類似しているが同等ではない。いくつかの実施形態では、電位ホールド(potential hold)を、酸化ホールドとE1/2との差及び還元ホールドとE1/2との差が同じ大きさでないように選択し、拡散特性に変化がなくても(Dox=Dred及びδox=δox)比例定数Aが1とは大きく異なるようにしてもよい。
【0028】
これらのファクタは、充電状態の範囲において限界電流技法を較正することで考慮に入れることができる。例えば、特定の動作モード(表面積、電位の大きさ等)での酸化電流及び還元電流を多数のSOCで測定する。充電状態は、分光法又は電荷カウント等の別の技法によって別個に測定することができる。次いで、電流比Iox/Iredを、比例定数(すなわち上記の式におけるA)によって又はもっと複雑な式によって別個の方法から求めたCox/Credに関連付けることができる。あるいは、そのような補正を行わずにIox/Iredを「生の(row)」SOCに即座に変換し、次いで「生の」SOCを別個に測定したSOCに関連付けて、適切な補正係数又は式を与えることも可能である。
【0029】
酸化又は還元のいずれかのプロセスの限界電流は、簡単な3電極実験(作用、対、及び基準)によって測定することができる。例えば電解質対のE1/2がAg/Agに対して0Vである場合、作用電極をAg/Agに対して+100mVに保持し、時間に対して電流を測定することができる。短時間の後、電流は、限界酸化電流Ilim,oxを規定する一定値の近くに達する。この実験をAg/Agに対して−100mVで繰り返すことで、限界還元電流Ilim,redを規定する。各実験で同一の電極を用いた場合、表面積は同一であるため、電流比は電流密度比と同等であり、この電流密度比から濃度比が求められる。
【0030】
しかしながら、同様の情報を得るために基準電極は必要ない。第3の基準電極を用いない場合、第1の作用電極における第1及び第2の電位は一般に第1の対電極を基準として印加される。すなわち電位は、対電極で測定される溶液電位を基準として保持される。この状況では、電解質対は溶液電位に対して0Vの電位を有し、作用電極は、その溶液電位に対して正又は負の電位のいずれか(例えば酸化では+100mV、又は還元では−100mV)に保持することができる。繰り返すが、限界電流は、一定になったら又は一定に近くなったら測定することができる。
【0031】
この背景を踏まえて、本発明の多くの実施形態の少なくともいくつかを挙げることができる。
【0032】
いくつかの実施形態は、溶液中のレドックス対の酸化形態及び還元形態の比を求める方法を提供する。各方法は、
(a)溶液に第1の静止作用電極及び第1の対電極を接触させることと、
(b)第1の作用電極に第1の電位を印加し、第1の定電流を測定することと、
(c)第1の作用電極に第2の電位を印加し、第2の定電流を測定することと、
を含み、
第1及び第2の電流の符号が同一でなく、
上記の式に従い、第1及び第2の電流の絶対値の比が溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映する。この比をそのまま用いて、様々な間隔をあけて又はリアルタイムで電気化学セルを監視して、上記のシステムからの電流の入力又は出力をいつ調整するべきか知ることができる。あるいは、このような方法を個別に電気化学セルのポソライト又はネゴライトの双方に適用した場合、電解質の一方又は双方を再平衡させる必要性を明らかにするための基礎として、これらの比の比較を用いることも可能である。例えば追加の実施形態は、この段落ですでに記載したステップを含み、更に(d)第1及び第2の電流の絶対値の比に応じた度合いで溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態のバランスを変えるように溶液を酸化又は還元すること、を含むものを含む。これらの実施形態は、電気化学セル、スタック、又はシステムを維持する状況において用いることができる。
【0033】
溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を求める方法として記載されるか、又は電気化学セル、スタック、もしくはシステムを維持する方法として記載されるかにかかわらず、第1の静止作用電極及び第1の対電極を利用したこれらの方法のいくつかにおいて、これらの方法は、第3の(基準)電極が存在しないか又は存在する場合のいずれかで実行され得る。すなわち、基準又は第3の電極の使用は必ずしも必要ではない。
【0034】
これらの方法は、第1の電位がレドックス対の平衡電位よりも正の側にあるように、かつ第2の電位がレドックス対の平衡電位よりも負の側にあるように実行され得る。他の、重複することがある実施形態では、第1の電位と平衡電位との差の大きさ、及び平衡電位と第2の電位との差の大きさは、ほぼ同じである。これらの方法は、必須ではないが、第1及び第2の電位の大きさがほぼ同じで符号が反対であるように実行可能である。本明細書で電位差に関連して用いる場合、「ほぼ同じ」という言葉は、2つの値の差がそれらの平均値に対して約20%未満であることを示す意図がある。実際には、現実的にできる限りユーザはほぼ同一の大きさを達成しようとする可能性があるが、追加的に、この差は2つの電位の平均値に対して25%未満、15%未満、10%未満、又は5%未満である。
【0035】
作用電極及び対電極は、必須ではないが通常は異なるサイズに形成される。例えば、第1の作用電極及び対電極はそれぞれ溶液に接触する表面積を有し、作用電極の前記表面積が対電極の前記表面よりも小さい。このような構成は、作用電極による電流の制限を促進する。いずれかの特定の理論の正確さ又は不正確さに束縛されるものではないが、もしも対電極が(作用電極に比べて)小さくなると、電流は作用電極でなく対電極で制限され、電流の符号は依然として電位の符号によって設定されるが、電流の大きさはこの場合、作用電極で生じる反応の反対方向である対電極での反応によって制御されると考えられる。この差が認められる限り、これに関して計算を調整することも可能である(すなわち、このような状況では作用電極と対電極の役割が逆転している)。より大きいサイズ比を用いると、双方の電極における効果の混乱又は寄与が回避される。いくつかの好適な実施形態では、第1の作用電極の表面積は第1の対電極の約20%未満、更に好ましくは約1%から10%の範囲内であり、追加の実施形態では、第1の作用電極の前記表面積は第1の対電極の前記表面積約5%、10%、20%、30%、40%、又は50%から、約90%、80%、70%、60%、又は50%とすることができる。
【0036】
他の実施形態では、単一の対の構成と同じ効果を得るように連携して動作する2対の電極を用いることも可能である。すなわち、いくつかの実施形態は、溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を求める方法を提供する。各方法は、
(a)溶液に第1の静止作用電極及び第1の対電極を接触させることと、
(b)溶液に第2の静止作用電極及び第2の対電極を接触させることと、
(c)第1の対電極を基準として第1の作用電極に第1の電位を印加し、第1の作用電極についての第1の定電流を測定することと、
(d)第2の対電極を基準として第2の作用電極に第2の電位を印加し、第2の作用電極についての第2の定電流を測定することと、
を含み、
第1及び第2の電流が逆の符号を有し、
第1及び第2の電流の絶対値の比が溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映する。単一の電極対の構成と同様に、この比をそのまま用いて、様々な間隔をあけて又はリアルタイムで電気化学セルを監視して、上記のシステムからの電流の入力又は出力をいつ調整するべきか知ることができる。あるいは、このような方法を個別に電気化学セルのポソライト又はネゴライトの双方に適用した場合、電解質の一方又は双方を再平衡させる必要性を明らかにするための基礎として、これらの比の比較を用いることも可能である。例えば追加の実施形態は、この段落ですでに記載したステップを含み、更に(e)第1及び第2の電流の絶対値の比に応じた度合いで、溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態のバランスを変えるように溶液を酸化又は還元すること、を含むものを含む。これらの実施形態は、電気化学セル、スタック、又はシステムを維持する状況においても用いることができる。これらの2対電極構成の場合、第1及び第2の電位は同一の時点で(同時に)又は時間をずらして各電極対に印加される。
【0037】
溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を求める方法として記載されるか、又は電気化学セル、スタック、又はシステムを維持する方法として記載されるかにかかわらず、2対の静止作用電極及び対電極を利用したこれらの方法のいくつかは、第3の(基準)電極が存在しないか又は存在する場合のいずれかで実行され得る。すなわち、基準又は第3の電極の使用は必ずしも必要ではない。第3の基準電極を用いない場合、第1の作用電極における第1及び第2の電位は一般に各対電極を基準として印加される。
【0038】
「2対(twin pair)」又は「整合させた対(matched pair)」の静止作用電極及び対電極という言葉は、各電極が必ず同一もしくは相補的なサイズであること、又は第1の作用電極が第1の対電極と共にしか作用しないこと及び第2の作用電極が第2の対電極としか作用しないことを表す意図はないが、実際は、これらの条件のいずれも真であり得る。これらの言葉は、2セットの同様のサイズの電極が存在し使用されることを表す意図があり、あるいは、異なるサイズの電極のセットを用いる場合は、この差を認識して計算において調整することが必要であり得る。しかしながら、いわゆる2対の電極を用いる好適な実施形態では、各対の作用電極及び対電極は空間的に近くに位置決めするが、各対はクロス電流(cross current)を防ぐため空間的に離して位置決めする。一方の対に正の極性を与えて酸化限界電流を測定し、一方の対に負の極性を与えて還元限界電流を測定する。
【0039】
そのようなデバイスは各電極対を適切な電位に保持し、各ループを通る電流を測定する。限界電流の比は、直接表示するか又は記録することができ、作用電極の表面積が等しいか又はほぼ等しいならば限界又は定電流密度の比と同等であるか又は実質的に同等であり、更には濃度比と同等である(又は濃度比に比例する)。電極表面積が経時的に変化することに起因する問題は、(電極の汚れによる)表面積の変化が双方の電極で等しく起こるように還元プロセスを測定する対と酸化プロセスを測定する対を定期的に切り換えることで軽減可能である。また、本発明は、各対の電極を一定の電位に保持し、これによって流れる電流を測定するための簡単なポテンショスタットとして機能することができるデバイスや、他のユーザ入力に基づいて電流比を計算し、これを濃度又は充電状態に変換するための簡単なアルゴリズムに拡張される。
【0040】
第1及び第2の作用電極と第1及び第2の対電極の各々が溶液に接触する表面を有する特定の実施形態では、第1及び第2の作用電極の表面積の各々を第1及び第2の対電極の各面積よりも小さくして、電流応答が作用電極の限界(一定)電流密度のみで決定されるか又は主としてこれによって決定されるようにすることができる。他の、重複することがある実施形態では、第1及び第2の作用電極の各表面積はほぼ同一であり、第1及び第2の対電極の各々はほぼ同一である。この文脈において「ほぼ同一」という言葉は、面積が相互に約10%以内であることを示す。実際には、おそらく2つの同様のサイズ(例えば同じ型番)の作用電極が製造されたままの状態で用いられる。サイズの大幅な変動は大きなエラー源となるので、当業者は、電極の上述の面積について面積の差が製造業者の仕様に近いか又は仕様内である電極を選ぶと考えられる。
【0041】
単一の電極対の構成においてと同様に、作用電極及び対電極の相対的な表面積の構成は、特定の好適な実施形態において、第1及び第2の作用電極の表面積の各々が第1及び第2の対電極の表面積の約20%未満、更に好ましくは約1%から約10%の範囲内であるようにすればよい。追加の実施形態では、作用電極の表面積は対応する対電極の約5%、10%、20%、30%、40%、又は50%から、約90%、80%、70%、60%、又は50%とすることができる。
【0042】
単一の対のシステムと同様に、2対の電極を使用する方法は、第1の電位がレドックス対の平衡電位よりも正の側にあるように、かつ第2の電位がレドックス対の平衡電位よりも負の側にあるように実行され得る。他の、重複することがある実施形態では、第1の電位と平衡電位との差の大きさ及び平衡電位と第2の電位との差の大きさは、ほぼ同じである。これらの方法は、必須ではないが、第1及び第2の電位がほぼ同じ大きさであるが符号が反対であるように実行可能である。
【0043】
1対の電極システムを用いるか2対の電極システムを用いるかにはかかわらず、追加の個々の実施形態では、レドックス対の酸化形態と還元形態の比は、約1:99、5:95、10:90、15:85、20:80、25:75、30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、65:35、70:30、75:25、80:20、85:15、90:10、95:5、又は約99:1である。好適な実施形態では、レドックス対の酸化形態と還元形態の比は約20:80から約80:20の範囲内である。
【0044】
これらの方法は、ある範囲のレドックス対及び電解質に対応できるという有用性の点で柔軟性がある。これらのレドックス対は、ランタニド及びアクチニド元素を含む2〜16族の金属又はメタロイドを含むものであり、例えば、レドックス対がAl、As、Ca、Ce、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、Sb、Se、Si、Sn、Ti、V、W、Zn、又はZr、その配位化合物を含み、水性又は非水性の電解質溶液を用いたものである。更に、これらの方法は流動電解質又は静的電解質において有用である。それらの場合、限界電流に達するために、印加電圧が適切なものであること、又は作用電極(複数の作用電極)の周りの局所的な流れが充分に小さいことが極めて好ましい。
【0045】
上述した理由のため、これらの方法は可逆レドックス対と共に用いるのに特に適しているが、準可逆対と共に使用することも可能である。
【0046】
更に、これらの方法は電極材料の選択において柔軟性があるが、特定の好適な実施形態では、作用電極又は対電極の少なくとも一方は、ドーピング形態の炭素を含む、更に好ましくはグラファイト又はダイヤモンドを含む炭素の同素体を含む。
【0047】
第1及び第2の定電流に関連付けて方法について説明した。この定電流は電流対時間のグラフの解析から計算することができる。好適な実施形態では、「定電流」という言葉は、第1及び第2の電位のそれぞれを長時間(例えば1分間)印加した後に確立する安定した限界電流のことである。しかしながら明確さのために、第1又は第2の電流の少なくとも一方の不変性を、1秒間の変化が0.1%未満であること又は10秒間の変化が1%未満であることとして特徴付けることができる。他の実施形態では、電流の不変性は、1、2、5、10、20、又は60秒間で5%、2%、1%、0.5%、又は0.1%未満のことであり得る。明らかに、より長い時間で変化が小さい方が、より安定した有用な結果を表す可能性が高い。
【0048】
これらの方法は、レドックス対の個々の酸化形態及び還元形態を定量化する必要がない用途において、例えばレドックス対の絶対濃度が固定されていてこれらの形態の比のみが変化する場合に有用であるので、これらの方法は、電気エネルギを発生又は貯蔵する動作状態の(operating)電気化学セル(例えば動作状態のフロー電池セル又はループ)の半電池(half−cell)流体ループ内に溶液が収容されたフロー電池システムにおける使用に特に適している。第1及び第2の電流の絶対値の比に応じた度合いで溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態のバランスを変えるように溶液を酸化又は還元することを含むものとして上述した方法においては、追加の実施形態で、これを電気化学的に実行する。他の実施形態では、これを化学的酸化剤又は化学的還元剤の添加によって達成することができる。電気化学的に実行される場合、例えばネゴライトの充電状態及びポソライトの充電状態が相互に異なるか又は所望の状態とは異なる場合に、溶液の酸化又は還元を再平衡サブシステムにおいて実行可能である。他の実施形態では、エネルギの貯蔵又は取得を推進するため、速度、ステップ時間、停止時間、及び他の動作特性の制御装置として充電状態モニタを用いることができる。この場合、電気化学的な方法はメインフロー電池セル、スタック、又はシステムによって実行され得る。
【0049】
ここまで、溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を求める方法又は電気化学システムにおいてバランスを維持する方法に関連付けて本発明を説明してきたが、他の実施形態がこれらの方法の利用において有用なシステム及び関連した特徴を含むことは認められよう。すなわち、特定の他の実施形態はエネルギ貯蔵システムを提供する。各システムは、
(a)第1の電解質溶液を収容する流体ループ及び第2の電解質溶液を収容する別個の流体ループと、
(b)第1の静止作用電極及び第1の対電極から成る少なくとも1対の電極であって、各電極対が独立に第1の電解質溶液と又は第1及び第2の電解質溶液の各々と流体接触する、少なくとも1対の電極と、を含む。これらの電解質溶液及び電極は、上述の方法について説明した特徴及び構成のいずれかを含み得る。
【0050】
他の実施形態で提供されるエネルギ貯蔵システムは、
(c)電源及びセンサを含み、各電極対に関連付けられた制御システムであって、第1の対電極を基準として各第1の作用電極に第1及び第2の電位を印加することができると共にこの電位に関連付けられた第1及び第2の電流を測定することができるように構成された制御システムを更に含む。
【0051】
更に別の実施形態で提供されるエネルギ貯蔵システムは、
(d)溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映した、各電極対間の第1及び第2の電流の絶対値の比を計算することができるソフトウェアを更に含む。
【0052】
追加の実施形態では、エネルギ貯蔵システムは、各電極対に関連付けられた少なくとも1つの再平衡サブシステムを更に含む。この再平衡サブシステムは、第1の電解質ループと又は第1及び第2の電解質ループの各々と流体連通し、再平衡サブシステムは、各電極対間の第1及び第2の電流の絶対値の計算された比に応じて各再平衡サブシステムにおいて電解質溶液(複数の電解質溶液)を酸化又は還元するように制御システムによって制御可能である。
【0053】
実施形態のいずれか1つにおいて、第1の電解質溶液はポソライト溶液であり、第2の電解質溶液はネゴライト溶液であり得る。他の実施形態では、電解質の種類は逆であり、第1の電解質溶液がネゴライト溶液であると共に第2の電解質溶液がポソライト溶液である。
【0054】
より広義には、デバイスはエネルギ貯蔵/放出システムに限定されず、いくつかの実施形態で提供されるデバイスの各々は、
(a)第1の静止作用電極及び第1の対電極から成る少なくとも1対の電極であって、各電極対が独立に電解質溶液と流体接触することができる、少なくとも1対の電極と、
(b)電源及びセンサを含み、各電極対に関連付けられて、第1の対電極を基準として各第1の作用電極に第1及び第2の電位を印加することができると共にこの電位に関連付けられた第1及び第2の電流を測定することができるように構成された制御システムと、
(c)溶液中のレドックス対の酸化形態と還元形態の比を反映した、各電極対間の第1及び第2の電流の絶対値の比を計算することができるソフトウェアと、
を含む。
【0055】
用語
本明細書全体を通して、用語には当業者に理解されるような通常の意味が与えられる。しかしながら、誤解を避けるため、いくつかの用語の意味を具体的に定義又は明確化する。
【0056】
本明細書において用いる場合、「レドックス対」という言葉は、電気化学の当業者によって一般的に認識される用語であり、所与のレドックス反応の種の酸化された形態(電子受容体)及び還元された形態(電子供与体)のことである。Fe(CN)3+/Fe(CN)4+の対は、レドックス対の1つの非限定的な例である。同様に、「レドックス活性金属イオン」という言葉は、使用条件下でその金属の酸化状態が変化することを表すためのものである。本明細書において用いる場合、「レドックス対」という言葉は有機材料又は無機材料の対のことを示し得る。本明細書に記載する場合、無機材料は、「金属リガンド配位化合物」又は単に「配位化合物」を含むことができ、これらも電気化学及び無機化学の当業者には既知である。(金属リガンド)配位化合物は、原子、分子、又はイオンに結合した金属イオンを含み得る。結合した原子又は分子のことを「リガンド」と称する。いくつかの非限定的な実施形態では、リガンドは、C、H、N、及び/又はOの原子を含む分子を含み得る。換言すると、リガンドは有機分子又はイオンを含み得る。本発明のいくつかの実施形態では、配位化合物は、水、水酸化物、又はハライド(F、Cl、Br、I)でない少なくとも1つのリガンドを含むが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。追加的な実施形態は、2013年7月23日に出願された米国特許出願第13/948,497号に記載された金属リガンド配位化合物を含む。この出願は、少なくとも配位化合物の教示について、引用によりその全体が本願にも含まれるものとする。
【0057】
特に明記しない限り、「水性」という言葉は、溶剤の総重量に対して少なくとも約98重量%の水を含む溶剤系のことである。いくつかの用途では、例えば水の流動性の範囲を拡大する可溶性、混和性、又は部分的に混和性(界面活性剤で乳化されるか又は他のもの)のコソルベント(co−solvent)も有効に併用することができる(例えばアルコール/グリコール)。特定される場合、追加の独立した実施形態は、「水性」溶剤系が全溶剤に対して少なくとも約55重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約75重量%、少なくとも約80%、少なくとも約85重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、又は少なくとも約98重量%の水を含有するものを含む。いくつかの状況では、水性溶剤は実質的に水のみから成り、コソルベント又は他の種はほぼ存在しないか又は全く存在しない場合がある。溶剤系は、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、又は少なくとも約98重量%の水を含むことができ、いくつかの実施形態ではコソルベント又は他の種を含まない場合がある。特に明記しない限り、「非水性」という言葉は、10重量%未満の水を含み、一般に少なくとも1つの有機溶剤を含む溶剤系のことである。追加の独立した実施形態は、「非水性」溶剤系が、全溶剤に対して50重量%未満、40重量%未満、30重量%未満、20重量%未満、10%未満、5重量%未満、又は2重量%未満の水を含有するものを含む。
【0058】
水性電解質は、レドックス活性物質の他に、追加の緩衝剤、支持電解質、粘度調整剤、湿潤剤等を含み得る。
【0059】
本明細書において用いる場合、「負極」及び「正極」という言葉は、充電及び放電サイクルの双方においてそれらが動作する実際の電位とは無関係に、負極が正極に比べて負の電位で(またその逆で)動作するか又は動作することが設計もしくは意図されるように、相対的に規定された電極である。負極は、可逆水素電極に対して負の電位で実際に動作するか又は動作することが設計もしくは意図される場合があり、そうでない場合もある。本明細書に記載するように、負極は第1の水性電解質に関連付けられ、正極は第2の電解質に関連付けられている。
【0060】
本明細書において用いる場合、「ネゴライト」及び「ポソライト」という言葉は、それぞれ負極及び正極に関連付けられた電解質のことである。
【0061】
本明細書において用いる場合、特に明記しない限り、「実質的な可逆対」という言葉は、平坦なガラス状炭素ディスク電極を含み100mV/sで記録を行う実験施設内の(ex−situ)装置を用いて、サイクリックボルタンメトリーで測定した場合に、アノードピークとカソードピークとの電圧差が約0.3V未満であるレドックス対のことである。しかしながら追加の実施形態では、この言葉は、同一の試験条件下で、アノードピークとカソードピークとの電圧差が約0.2V未満、約0.1V未満、約0.075V未満、又は約0.059V未満であるレドックス対も指す場合がある。「準可逆対」という言葉は、アノードピークとカソードピークとの対応する電圧差が0.3Vから約1Vまでの範囲内であるレドックス対のことである。
【0062】
「スタック」又は「セルスタック」又は「電気化学セルスタック」という言葉は、電気的に接続されている個別の電気化学セルの集合のことである。セルは電気的に直列又は並列に接続することができる。セルは流体接続されている場合もそうでない場合もある。
【0063】
「充電状態(SOC)」という言葉は、電気化学、エネルギ貯蔵、及び電池の当業者には充分に理解されている。SOCは、以下の式によって、電極における酸化種に対する還元種の濃度比(Xred/Xox)から求められる。
【0064】
【数4】
【0065】
理想的な場合、A=1である。例えば個別の半電池の場合、Xred=XoxであってXred/Xox=1である場合、半電池のSOCは50%であり、半電池の電位は標準的なネルンストの値(standard Nernstian value)E°に等しい。電極表面における濃度比がXred/Xox=0.25又はXred/Xox=0.75である場合、半電池のSOCはそれぞれ25%及び75%である。セル全体のSOCは個々の半電池のSOCによって決まり、いくつかの実施形態では、SOCは正極及び負極の双方について同一である。
【0066】
実施例
以下の実施例は、本開示内に記載する概念のいくつかを例示するために与えられる。各実施例は、組成、調製及び使用の方法について特定の個別の実施形態を与えると見なされるが、どの実施例も本明細書に記載するもっと一般的な実施形態を限定するものとは見なされない。
【0067】
実施例1:レドックス対の鉄(III)ヘキサシアニド/鉄(II)ヘキサシアニドの3つのサンプルを、酸化種(Fe3+)対還元種(Fe2+)の比を3つ別個にして調製した。適切なモル比の20%Fe3+/80%Fe2+、60%Fe3+/40%Fe2+、及び95%Fe3+/5%Fe2+に、カリウム塩KFe(CN)及びKFe(CN)を溶解することで、サンプルを調製した。各サンプルの鉄の総濃度は1.0Mであった。それぞれの場合で、各溶液の充電状態(SOC)をFe3+種の百分率として定義した。
【0068】
表面積が0.071cmの0.3cm直径のガラス状炭素ディスク作用電極(Bioanalytical Systems, Inc.)と、表面積が約5cmの0.4cmガラス状炭素ロッド(Alfa Aesar)を、各溶液に接触させて配置し、ポテンショスタットに接続した。ガラス状炭素ロッドを対電極及び基準電極の兼用として接続した。
【0069】
各サンプルについて、作用電極の電位を+0.1Vに設定し、300秒保持し、その間に電流(Ilim,ox)を記録した。次いで電位を−0.1Vに設定し、300秒保持し、その間に電流(Ilim,red)を記録した。測定値は溶液を撹拌せずに取得した。得られた電流を図3図4、及び図5のグラフに示す。各ホールドについて、300秒での電流を定電流であると見なした。負の電位ホールドで電流に存在する振動は、ポテンショスタットの限界のためであると考えられ、電極又は電解質における限界電流挙動に固有のものではない。表1に、測定した定電流、電流の比、及び得られたSOC(又は%Fe3+)をまとめる。SOCは以下を用いて計算した。係数Aは1であると見なす。
【0070】
【数5】
【0071】
【表1】
【0072】
実施例2:レドックス対の鉄(III)ヘキサシアニド/鉄(II)ヘキサシアニドの4つのさらなるサンプルを実施例1で説明したように調製した。モル比は36.0%Fe3+/64.0%Fe2+、53.4%Fe3+/46.6.%Fe2+、76.8%Fe3+/23.2%Fe2+、及び100%Fe3+/0.00%Fe2+とした。各サンプルの鉄の総濃度は0.92Mであった。この場合も、各溶液の充電状態(SOC)をFe3+種の百分率として定義する。
【0073】
表面積が0.071cmの0.3cm直径のガラス状炭素ディスク作用電極(Bioanalytical Systems, Inc.)と、表面積が約5cmの0.4cmガラス状炭素ロッド(Alfa Aesar)を、各溶液に接触させて配置し、ポテンショスタットに接続した。ガラス状炭素ロッドを対電極及び基準電極の兼用として接続した。
【0074】
これらの場合、作用電極の電位を+0.2Vに設定し、60秒保持し、その間に電流(Ilim,ox)を記録した。次いで電位を−0.2Vに設定し、60秒保持し、その間に電流(Ilim,red)を記録した。測定値は溶液を撹拌せずに取得した。得られた電流を図6図7図8、及び図9のグラフに示す。各ホールドについて、60秒での電流を定電流であると見なした。表2に、測定した定電流、電流の比、及び得られたSOC(又は%Fe3+)をまとめる。SOCは以下を用いて計算した。係数Aは1であると見なす。
【0075】
【数6】
【0076】
【表2】
【0077】
これらの教示に照らし合わせて本発明の多数の変更及び変形が可能であること、それらが全て本明細書により考慮されることは当業者によって認められよう。例えば、本明細書に記載した実施形態に加えて、本発明は、本明細書に挙げた本発明の特徴と、本発明の特徴を補足する従来技術の引用文献のものとの組み合わせから得られる発明を想定し特許請求する。同様に、記載した材料、特徴、又は物品(article)のいかなるものも他のいずれかの材料、特徴、又は物品と組み合わせて使用可能であり、そのような組み合わせが本発明の範囲内にあると見なされることは認められよう。
【0078】
本文書において引用又は記載した各特許、特許出願、及び公報の開示は、引用により各々が全体的にあらゆる目的のために本願にも含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9