特許第6685906号(P6685906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685906
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】肝疾患被験者のエネルギー低栄養評価
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/84 20060101AFI20200413BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   G01N33/84 Z
   G01N33/497 A
【請求項の数】15
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-532942(P2016-532942)
(86)(22)【出願日】2015年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2015069511
(87)【国際公開番号】WO2016006601
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2018年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-141751(P2014-141751)
(32)【優先日】2014年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 睦
(72)【発明者】
【氏名】国崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】飛田 和貴
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/030650(WO,A1)
【文献】 特表2002−513911(JP,A)
【文献】 特開2011−026314(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/140660(WO,A1)
【文献】 三輪佳行 ほか,肝硬変と間接熱量計,栄養評価と治療,2003年,Vol. 20, No. 4,p. 47-50
【文献】 羽生大記,肝硬変の病態と糖代謝異常との関連性,CDEJ news Letter,2010年 4月,Vol. 26,p. 10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/84
G01N 33/497
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)及び(B)工程を有する、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定するために、標識CO量の割合を求める方法:
(A)採取された呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程、ここで、該呼気は、同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる標識炭酸ガスを含有する、該生体内から排出された呼気である、及び
(B)前記(A)工程で得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)よりも低い場合に該被験者はエネルギー低栄養に対する栄養療法が必要であるという基準を用いて、前記被験値を前記対照値と比較する工程。
【請求項2】
前記肝疾患被験者が肝硬変被験者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肝疾患被験者が、エネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っていない患者である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記肝疾患被験者が、更に糖尿病を患っている被験者である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記呼気が絶食状態にある肝疾患被験者から採取されたものである、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
同位元素Cが13Cである、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
下記(A’)工程を有する、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養測定するために、標識CO量の割合を求める方法:
(A’)採取された呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程、ここで、該呼気は、同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる標識炭酸ガスを含有する、該生体内から排出された呼気である。
【請求項8】
更に下記(B’)の工程を有する、請求項に記載の方法:
(B’)「呼気に含まれる非標識CO2量または総CO2量に対する標識CO2量の割合」(被験値)健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO2量または総CO2量に対する標識CO2量の割合」(対照値)よりも低い場合に該被験者はエネルギー低栄養状態を示すという基準を用いて、前記被験値を前記対照値と比較する工程。
【請求項9】
前記肝疾患被験者が肝硬変被験者である、請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
前記肝疾患被験者が、エネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っていない患者である、請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記肝疾患被験者が、更に糖尿病を患っている被験者である、請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記呼気が絶食状態にある肝疾患被験者から採取されたものである、請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを含有する組成物の、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定するための使用。
【請求項14】
生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを含有する組成物の、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養を測定するための使用。
【請求項15】
生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを含有する組成物の、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定方法、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する方法、及びこれらの方法に使用する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝硬変患者においては蛋白・エネルギー低栄養(Protein-energy malnutrition: PEM)が生じやすいことが知られている。従来、蛋白低栄養は血清アルブミン値を指標として評価され、その値が3.5g/dl以下の場合に蛋白低栄養状態と判断される(非特許文献1)。また、エネルギー低栄養は間接熱量計を用いた呼吸商を指標として評価され、その値(非蛋白呼吸商)が0.85未満である場合にエネルギー低栄養状態と判断される。肝硬変患者のうち70%が蛋白低栄養状態にあり、62%がエネルギー低栄養状態にあり、50%が蛋白低栄養・エネルギー低栄養が併存する状態にある(PEM)とも報告されている。
【0003】
これらのうちエネルギー低栄養状態にある肝硬変患者は通常の食事を摂っていても、特に食事と食事の間の時間が長くなると一種の飢餓状態に陥ることが知られている。典型的な例は夜間であり、夕食から翌日の朝食までの間隔が長くなると、肝硬変患者は一晩で、健常者が3日間絶食した時と同程度の飢餓状態になるとも言われている。エネルギー低栄養は予後や生活の質(Quality of life)にも大きな影響を与えることから飢餓状態を抑制するための適切な食事療法を行うことが重要であり、例えば就寝前に夜食を軽く摂って肝臓が夜間にエネルギー不足にならないようにする夜食療法(Late Evening Snack:LES)が行われている(非特許文献2)。
【0004】
一方、食事療法、特に夜食療法は食事の回数を増やし、それも就寝前の食事であることからカロリー過多で肥満等になる恐れもある。また、特に患者が糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性、肥満などを患っている場合には、これらの疾患を考慮しながら夜食療法等の実施について検討することがより望ましい。従って、肝硬変患者における食事療法については、肝硬変患者がエネルギー低栄養状態にあるのかどうかを知ることに加えて、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などといった他の疾患の有無等も考慮することが望ましい。
【0005】
エネルギー低栄養は、従来、前述のように間接熱量計を用いた呼吸商を指標として評価され、体内での栄養素の代謝状態を、エネルギー変換時の酸素消費量に対する二酸化炭素排出量の体積比を用いて間接的に評価されている。しかしながら、間接熱量計は高価である、特殊な機器が必要であり実施施設が限られるなど、多くの患者に広く適用されていないのが現状である。また、正確な測定や呼吸商算出の観点等から、間接熱量計による測定は通常2時間以上を要し、そのあいだ患者は横になり安静にしていることが求められる一方で、寝ることは禁じられている。このため、適切な条件下で測定が行われているかどうかを注視するために監視者による監督などが必要であり、患者、監視者の双方に苦痛や負担を与える。また、前述のように間接熱量計による評価は算出された呼吸商に基づく間接的な評価であるため、実際にどの栄養素が燃焼しているのかについて曖昧なところもある。エネルギー低栄養状態の有無や程度が曖昧であると前述の食事療法を適切に行うことが難しくなる。更に、糖尿病といった他の疾患の有無等を考慮しながらエネルギー低栄養状態に対する食事療法を決定する必要がある場合、エネルギー低栄養の評価が難しく手間等をとられるようでは適切な治療が一層妨げられ、また、長時間にわたる複数の検査は患者の負担を大きくする。
【0006】
このため、肝硬変患者、更にはその前段階である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)といった肝疾患患者におけるエネルギー低栄養状態を簡便且つ迅速に把握することは重要であり、更に糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの他の疾患の有無等を考慮しながら、適切な食事療法を実施することも重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本消化器病学会編、肝硬変診療ガイドライン、フローチャート(栄養療法)、p.xix、2010年、南江堂、
【非特許文献2】Nakaya, Y.ら、BCAA-enriched snack improves nutritional state of cirrhosis.、Nutrition、Vol.23、p.113-120、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養を簡便且つ迅速に測定する方法、また、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを簡便且つ迅速に判断する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を簡便且つ迅速に決定する方法、更に、これらの方法において使用可能な組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねていたところ、同位元素Cで標識したグルコースを投与し、その後、採取された呼気中の標識炭酸ガス(CO)の挙動、特に、呼気に含まれる炭酸ガスの存在比(非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合)の挙動から、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養を簡便且つ迅速に測定できることを見出した。また、本発明者らは、該測定結果に基づいて、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを簡便且つ迅速に判断でき、また、肝疾患被験者のエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を簡便且つ迅速に決定できることを見出した。更に本発明者らは、該測定結果と、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの他の疾患に関する測定結果とを組み合わせることで、エネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を簡便且つ迅速に、より適切に決定できることを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げるものである。
【0010】
(1)肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定方法
項1−1.下記の(1−a)及び(1−b)工程を有する、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定方法:
(1−a)同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる、標識炭酸ガスを含有する呼気を採取する工程、及び
(1−b)呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程。
項1−2.下記の(1−ab)工程を有する、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定方法:
(1−ab)採取された呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程、ここで、該呼気は、同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる標識炭酸ガスを含有する、該生体内から排出された呼気である。
項1−3.更に下記(1−c)工程を有する、項1−1または項1−2に記載の方法:
(1−c)前記(1−b)または(1−ab)工程において得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)を、健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)と比較し、被験値が対照値よりも低いかどうかを判定する工程。
項1−4.前記肝疾患被験者が肝硬変被験者である、項1−1〜項1−3のいずれかに記載の方法。
項1−5.前記肝疾患被験者が、エネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(例えば糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患っていない患者である、項1−1〜項1−4のいずれかに記載の方法。
項1−6.前記肝疾患被験者が、更に糖尿病を患っている被験者である、項1−1〜項1−4のいずれかに記載の方法。
項1−7.前記呼気が絶食状態にある肝疾患被験者から採取されたものである、項1−1〜1−6のいずれかに記載の方法。
項1−8.同位元素Cが13Cである、項1−1〜1−7のいずれかに記載の方法。
【0011】
(2)肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法
項2−1.下記の(2−a)及び(2−b)工程を有する、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法:
(2−a)生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物を肝疾患被験者に投与して呼気を採取する工程、及び
(2−b)呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程。
項2−2.更に下記(2−c)工程を有する、項2−1に記載の方法:
(2−c)前記(2−b)工程において得られた被験者の「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)を、健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)と比較し、被験値が対照値よりも低い場合に該被験者をエネルギー低栄養状態にあると決定し、被験値が対照値と同等または高い場合に該被験者をエネルギー低栄養状態にないと決定する工程。
項2−3.更に下記(2−d)工程を有する、項2−1または項2−2に記載の方法:
(2−d)前記(2−a)工程に先だって肝疾患被験者から、エネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(例えば糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者を除外するか、または、前記(2−c)においてエネルギー低栄養状態にあると決定された肝疾患被験者から、エネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(例えば糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者を除外する工程。
項2−4.更に下記(2−e)工程を有する、項2−1〜項2−3のいずれかに記載の方法:
(2−e)前記(2−d)工程における除外より前に、肝疾患被験者がエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(例えば糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者であるかどうかを決定する工程。
項2−5.前記肝疾患被験者が肝硬変被験者である、項2−1〜項2−4のいずれかに記載の方法。
項2−6.前記肝疾患被験者が、更に糖尿病を患っている被験者である、項2−1〜2−5のいずれかに記載の方法。
項2−7.絶食状態にある肝疾患被験者を前記(2−a)に供する、項2−1〜2−6のいずれかに記載の方法。
項2−8.同位元素Cが13Cである、項2−1〜2−7のいずれかに記載の方法。
【0012】
(3)肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する方法
項3−1.下記の(3−a)〜(3−c)工程を有する、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する方法:
(3−a)同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる、標識炭酸ガスを含有する呼気を採取する工程、
(3−b)呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程、及び
(3−c)前記(3−b)工程で得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)を、健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)と比較し、被験値が対照値よりも低いかどうかを判定する工程。
項3−2.下記の(3−ab)及び(3−c)工程を有する、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する方法:
(3−ab)採取された呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程、ここで、該呼気は、同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる標識炭酸ガスを含有する、該生体内から排出された呼気である、及び
(3−c)前記(3−ab)工程で得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)を、健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)と比較し、被験値が対照値よりも低いかどうかを判定する工程。
項3−3.更に下記(3−d)工程を有する、項3−1または項3−2に記載の方法:
(3−d)前記(3−a)工程または前記(3−ab)工程に先だって肝疾患被験者からエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者を除外するか、または、前記(3−c)において被験値が対照値よりも低いと判定された肝疾患被験者からエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者を除外する工程。
項3−4.更に下記(3−e)工程を有する、項3−1〜項3−3のいずれかに記載の方法:
(3−e)前記(3−d)工程における除外より前に、肝疾患被験者がエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者であるかどうかを決定する工程。
項3−5.前記肝疾患被験者が肝硬変被験者である、項3−1〜項3−4のいずれかに記載の方法。
項3−6.前記肝疾患被験者が、更に糖尿病を患っている被験者である、項3−1〜項3−5のいずれかに記載の方法。
項3−7.前記呼気が絶食状態にある肝疾患被験者から採取されたものである、項3−1〜3−6のいずれかに記載の方法。
項3−8.同位元素Cが13Cである、項3−1〜3−7のいずれかに記載の方法。
【0013】
(4)エネルギー低栄養測定用組成物
項4−1.生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする、肝疾患被験者に投与されるように用いられるエネルギー低栄養測定用組成物。
項4−2.同位元素が13Cである、項4−1に記載のエネルギー低栄養測定用組成物。.
項4−3.肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかの判断用である、項4−1または4−2に記載の組成物。
項4−4.肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否の決定用である、項4−1〜4−3のいずれかに記載の組成物。
【0014】
(5)標識C-グルコースの使用
項5−1.生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを含有する組成物の、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養を測定するための使用。
項5−2.肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定が前記項1−1〜項1−8のいずれかに記載する方法によって行われる、項5−1に記載の使用。
項5−3.生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを含有する組成物の、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断するための使用。
項5−4.被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかの判断が、前記項2−1〜項2−8のいずれかに記載する方法によって行われるものである、項5−3に記載する使用。
項5−5.生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを含有する組成物の、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定するための使用。
項5−6.前記エネルギー低栄養に対する栄養療法の要否の決定が、前記項3−1〜項3−8のいずれかに記載する方法によって行われるものである、項5−5に記載する使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、肝疾患被験者のエネルギー低栄養を簡便且つ迅速に測定できる。また、本発明の方法によれば、該測定結果に基づいて、肝疾患被験者のエネルギー低栄養状態について簡便且つ迅速に決定、更に評価できる。特に、本発明によれば、肝疾患被験者の身体的、精神的な苦痛等の問題点を軽減しながら肝疾患被験者のエネルギー低栄養状態について精度高く決定、評価できる。従って、本発明は、従来の呼吸商測定に対する有用な代替方法である。
【0016】
また、本発明の方法によればエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を簡便且つ迅速に、更に精度高く決定できる。また、本発明によれば、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの他の疾患を考慮しながら肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の介入の可否を簡便且つ迅速に、更に精度高く決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、コントロール群及び肝硬変モデル群における、呼吸商及びエネルギー消費の測定結果を示す。
図2図2は、コントロール群及び肝硬変モデル群における、標識C−グルコース呼気試験の結果を示す。
図3図3は、コントロール群及び肝硬変モデル群における、標識C−パルミチン酸呼気試験の結果を示す。
図4図4は呼吸商と標識C−グルコース呼気試験結果の相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(I)標識C−グルコース呼気試験に関連する用語及び解析方法の説明
本発明の方法は、13C−呼気試験などの標識C−呼気試験を用いることを基礎とするものである。従って、本発明の説明に先だって、標識C−呼気試験に関連する用語及びその解析方法について説明する。なお、ここでは本発明で用いる「同位元素C」の一例として13Cを挙げて説明する。
(I−1)δ13C値(‰)
同位体の存在比を表す場合、同一元素の中で最も組成比の高い元素を分母にした同位体比(R)を用いる。従って、炭素13(13C)のR値は、炭素12(12C)を分母とした次式で表される。
【0019】
【数1】
【0020】
Rは非常に小さい数値であるため、直接測定することは困難である。より正確に定量するため、質量分析計を用いる場合には、常に標準物質との比較が行われ、測定結果は、次式で定義されるδ値で表される。
【0021】
【数2】
【0022】
なお、標準ガスとして、石灰石由来の炭酸ガス(PDB)を使用する場合、RSTDは、RPDB=0.0112372となる。
(I−2)Δ13C値(‰)
Δ13C値(‰)は、下式で示すように、試薬投与前のδ13C値(すなわち天然に存在する13Cのδ値)をbackgroundとして、これを、試薬投与後のδ13C値から差し引いた値(Δ13C)を意味する。
【0023】
【数3】
【0024】
(I−3)呼気中の13C濃度(%13C:atom%)
呼気中の13C濃度(%13C:atom%)は下式で定義される。
【0025】
【数4】
【0026】
前記(I−1)で定義した相対値δ13C値を、一般的な濃度の概念である総炭素中の13C含量(%)の形に変換するには、下記の方法を用いることができる。
【0027】
まず、上記式の右辺の分母子を12Cで割り、(式1)に基づいてRに変換すると、下記の通りになる。
【0028】
【数5】
【0029】
このRに、(式2)で求めたRSAMを代入して整理すると、次式となり、δ13C値を用いて13C濃度(%13C)を表すことができる。
【0030】
【数6】
【0031】
(I−4)13C濃度の変化量(Δ%13C)
呼気中の13C濃度(%13C)の変化量(Δ%13C)は、次式で定義されるように、試薬投与t時間後の13C濃度〔(%13C)〕から試薬投与前0時間の13C濃度〔(%13C)〕を差し引いて求められる。
【0032】
【数7】
【0033】
(I−5)Δ13C値(‰)と13C濃度変化量(Δ%13C)との関係
13Cの天然存在比(R)は約0.011であり、標識試薬を投与した場合でも呼気中への増加量はわずかに+0.001〜0.002程度である。そこで、天然存在比R→0とみなすことができ、%13CをRで表した(式4)は、次式で近似することができる。
【0034】
【数8】
【0035】
この近似式を用いて、まずδ13Cの定義である(式2)よりRSAMを求めて上記式のRに代入して整理すると、13C濃度を求める近似(式7)が得られる。
【0036】
【数9】
【0037】
これを(式6)に代入すると、下式(式8)に示すように、Δ13CからΔ%13Cを算出することができる。
【0038】
【数10】
【0039】
(II)エネルギー低栄養測定用組成物
本発明のエネルギー低栄養測定用組成物は、生体内で標識COガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一種で標識されてなるグルコースを有効成分とする。本発明で用いられる標識C−グルコースは、生体内でそのエネルギー低栄養の程度に応じて代謝され、エネルギー低栄養の程度を反映した標識Cを含む炭酸ガスとして呼気に排出される。
【0040】
該組成物においてグルコースを構成する炭素原子の標識に用いられる同位元素としては、特に制限されないが、具体的には13Cや14Cが例示される。このような同位元素は放射性及び非放射性の別を問わないが、安全性の観点から好ましくは非放射性同位元素が例示される。また、同位元素としては好ましくは13Cが例示される。
【0041】
本発明のエネルギー低栄養測定用組成物において使用さる同位元素−標識グルコースは、肝臓での糖代謝経路を経て生成されるCOの少なくとも一部が同位元素で標識されてなるように、標識されてなるものである。例えば、このようなグルコースとしては、グルコースの1〜6位の少なくとも1つの炭素原子が同位元素で標識されてなる化合物、具体的には1−13C標識グルコース、2−13C標識グルコース、3−13C標識グルコースなどを例示することができる。また、このような同位元素−標識グルコースとしてグルコースの1位及び/または6位の炭素原子が同位元素で標識されてなるグルコース、グルコースの2位及び/または5位の炭素原子が同位元素で標識されてなるグルコース、グルコースの3位及び/または4位の炭素原子が同位元素で標識されてなるグルコース、グルコースの1位、2位、3位、4位、5位及び6位の全ての炭素原子が同位元素で標識されてなるものなどを例示することができる。同位元素−標識グルコースとして好ましくは3位及び/または4位の炭素原子が同位元素で標識されてなるグルコース(例えば、3−13C標識グルコース及び/または4−13C標識グルコース)、1〜6位の全ての炭素原子が同位元素で標識されてなるグルコースが例示される。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
グルコースを13Cや14Cなどで同位元素標識する方法は特に制限されず、通常使用される方法が広く採用される(佐々木康人、「5.1安定同位体の臨床診断への応用」、化学の領域 増刊 107、pp.149−163(1975)、南江堂;梶原、RADIOISOTOPES,41,45−48(1992)等)。このような同位元素標識化合物、特に後述の実施例で使用される13C標識−グルコースはいずれも商業的に入手することができ、簡便には市販品を使用することもできる。
【0043】
本発明の組成物は、標識C−グルコースが体内に吸収され、また代謝された後に、標識炭酸ガスとして呼気に排出されるのであるものであればよく、それを満たすものである限り、本発明の組成物は有効成分である標識C−グルコースだけからなるものであってもよく、また、その形態、標識C−グルコース以外の成分、各成分の配合割合、組成物の調製方法等を特に制限するものではない。
【0044】
本発明の組成物の形態は本発明の効果が得られる限り制限されず、例えば経口投与形態であっても非経口投与形態であってもよい。経口投与形態の場合、液剤(シロップ剤を含む)、懸濁剤及び乳剤などの液状形態;錠剤(裸剤、被覆剤を含む)、チュアブル錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤(粉末剤)、細粒剤及び顆粒剤などの固形形態など、任意の経口投与形態を採用することができる。非経口投与形態の場合、例えば注射剤や点滴剤の投与形態(液状、懸濁状または乳液状等)を採用することができる。非侵襲的方法である点では経口投与形態が好ましく例示され、一方で、一層迅速且つ正確な測定を行う点では好ましくは注射投与形態、特に静脈内投与形態が好ましく例示される。
【0045】
本発明を制限するものではないが一例として、本発明の組成物を液体、懸濁液、乳液状等の注射投与形態といった液状形態に調製する場合、組成物は有効成分である標識C−グルコースだけからなるものであってもよく、この場合、実質的には標識C−グルコースを生理食塩水、注射用蒸留水、精製水など任意の溶媒と組み合わせて液状形態に調製すればよい。また、該組成物には、本発明の効果を損なわない限り、他の成分として必要に応じて、通常当業界において用いられる薬学上許容される任意の担体や添加剤といった成分を用いてもよい。これらの一例として、等張化剤(例えば塩化ナトリウムなど)、pH調整剤(例えば塩酸、水酸化ナトリウムなど)、緩衝剤(例えばホウ酸、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)、保存剤(例えば塩化ベンザルコニウムなど)、増粘剤(例えばカルボキシビニルポリマーなど)のような通常用いられる成分を挙げることができる。
【0046】
なお、この場合、本発明の組成物は使用時に前記液状形態を有していればよく、使用時に生理食塩水、注射用蒸留水、精製水などで溶解して用いられる形態、例えば凍結乾燥または噴霧乾燥されてなる製剤などの固形形態を有するものであってもよい。
【0047】
また本発明の組成物を、例えば錠剤、チュアブル錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等の固形形態に調製するにあたっても、形態に応じて各種担体や添加剤といった成分を用いることができる。また、錠剤は、更に必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。また、カプセル剤は常法に従い、有効成分である標識グルコースを必要に応じて各種成分と混合して硬化ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製してもよい。
【0048】
本発明の組成物において担体や添加剤といった任意の成分を用いる場合であっても有効成分として含有する標識C−グルコースの量は特に制限されないが、標識C−グルコースの量は組成物中に1〜99重量%を例示することができ、かかる範囲で適宜調整することができる。
【0049】
また、本発明の効果が得られる限り制限されず、前記担体や添加剤といった任意の成分として、例えば乳糖、白糖、デキストリン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、リン酸二水素カルシウム、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、水、エタノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポピドン、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等、ポリソルベート80、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール、コロイド状ケイ酸、ショ糖脂肪酸類、硬化油、クエン酸、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、酸化鉄、βカロテン、酸化チタン、食用色素、銅クロロフィル、リボフラビン、アスコルビン酸、各種甘味料等が例示される。
【0050】
これらの形態や任意の成分は、当業者が必要に応じて適宜決定すればよい。
【0051】
また、本発明の組成物は、このような製剤形態を有するものに限らず、前記標識C-グルコースを含み、本発明の効果を妨げないものであればよく、前記標識C-グルコースを任意の食品素材と組み合わせて、固形食、流動食または液状食の形態を有するものであってもよい。
【0052】
本発明の組成物は、後述する方法において肝疾患被験者に適用する組成物(投与試薬)として使用される。具体的には、本発明の組成物は、後述する肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定のために用いられる試薬として使用できる。また、本発明の組成物は、後述する肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断するために用いられる試薬としても使用できる。また、本発明の組成物は、後述する肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否の決定のために用いられる試薬としても使用される。これらの方法はいずれも、肝疾患被験者から採取された呼気に含まれる炭酸ガスの存在比(非標識CO量に対する標識CO量の割合、または総CO量に対する標識CO量の割合)を指標として実施することができ、その詳細は後述の通りである。
【0053】
なお、本発明の組成物の適用対象も本発明の効果が得られる限り制限されず、肝疾患を患う被験者(肝疾患被験者)が例示され、より好ましくは肝硬変を患う被験者(肝硬変被験者)が例示され、更に好ましくはエネルギー低栄養を伴う肝硬変被験者が例示される。肝疾患被験者としては、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎など)、アルコール性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、自己免疫性肝炎などの肝硬変の前段階にある被験者や肝硬変被験者が例示される。また、本発明における肝疾患被験者としては、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っている肝疾患被験者であってもよく、このような疾患を患っていない肝疾患被験者であってもよく、後述する方法や食事療法などの点から必要に応じて適用対象を適宜選択、決定すればよい。
【0054】
また、このような被験者(適用対象)としてはヒト、ヒト以外の哺乳動物が挙げられる。ヒト以外の哺乳動物としてはマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ブタ、牛、及び馬などが例示され、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の動物が例示される。
【0055】
本発明の組成物に含有される標識C−グルコース(有効成分)の量は、ケース(例えば被験者の種類、肝疾患被験者の状態、絶食/非絶食の別など)、組成物の形態等に応じて適宜調節設定することができる。例えば、本発明の組成物が経口投与形態または静脈投与形態の場合の目安として、1回あたりの使用量(投与量)が標識C−グルコース(有効成分)の量に換算して、5mg/body〜50g/body、好ましくは10mg/body〜25g/bodyの範囲となるように調製することができる。
【0056】
本発明によれば、エネルギー低栄養を簡便且つ迅速に、更には高精度に測定することができ、更には後述する方法を一層簡便且つ迅速に、更に高精度に実施することができる。
(III)肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定方法
本発明は、次の(1−a)及び(1−b)工程を含有する、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定方法を提供する。すなわち、本発明は、(1−a)同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる、標識炭酸ガスを含有する呼気を採取する工程、及び(1−b)呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程、を有する、エネルギー低栄養の測定方法を提供する。
【0057】
本発明において使用される「同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物」は、前述する本発明のエネルギー低栄養測定用組成物と同様にして説明される。このため、該方法の(1−a)工程は、「前記本発明のエネルギー低栄養測定用組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる、標識炭酸ガスを含有する呼気を採取する工程」と言い換えることもできる。このことから、該「同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物」の形態、標識C−グルコースの含有量、投与量、任意の担体や添加剤といった成分、適用対象等についても、前記エネルギー低栄養測定用組成物と同様に説明される。また、このことから、前述する本発明のエネルギー低栄養測定用組成物は、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養の測定用組成物と言い換えることもできる。
【0058】
本発明において標識C−グルコースは、前述するように肝疾患被験者の生体内で、そのエネルギー低栄養の程度に応じて代謝され、エネルギー低栄養の程度を、すなわち肝臓での代謝の程度を反映した標識Cを含む炭酸ガスとして呼気に排出される。排出される呼気は、従来公知の呼気試験の方法に基づいて当業者が採取すればよい。
【0059】
また、本発明において被験者は、該方法が実施される直前に絶食状態であってもよく非絶食状態であってもよく、絶食状態であることが好ましい。特にヒトにおいては絶食状態であることが好ましい。本発明を制限するものではないが、該方法が実施される直前に肝疾患被験者を絶食状態とする場合、前記(1−a)工程を実施するにあたり、肝疾患被験者に前記組成物を投与する少なくとも2時間以上前、好ましくは少なくとも4時間以上前から絶食であることが例示される。水分は摂取しても良い。該方法が実施される直前に肝疾患被験者を非絶食状態とする場合は通常食を通常通り摂取すればよい。
【0060】
本発明においては、前記(1−a)工程で採取された呼気に含まれる炭酸ガスの存在比(非標識CO量に対する標識CO量の割合、または総CO量に対する標識CO量の割合)を前記(1−b)工程において求める。呼気中の炭酸ガスの存在比を求める手順は従来公知の手順に従い、本発明を制限するものではないが例えば以下のように説明される。なお、ここでは13C−標識グルコースを有効成分とする組成物を用いて(すなわち、測定する標識CO13COの場合)、総CO量に対する13CO量の割合を求める場合を例として説明する。14C−標識グルコースなど他の標識C−グルコースを用いた場合も、以下に基づいて同様に説明される。
【0061】
採取した呼気に含まれる炭酸ガスの存在比(総CO量に対する13CO量の割合)を、下記に記載する方法に従って13C濃度の変化量(Δ%13C)として算出する。
【0062】
具体的には、前記組成物の被験者への投与t時間後に採取された呼気に含まれる総炭素中の13C濃度(呼気中の13C濃度、13C濃度atom%、(%13C))を求める。一方で、前記組成物の被験者への投与前に予め採取された呼気、好ましくは投与前0時間に含まれる総炭素中の13C濃度(呼気中の13C濃度、13C濃度atom%、(%13C))を求める。更に、式6に従って、(%13C)から(%13C)を差し引いて、13C濃度の変化量(Δ%13C(atom%))を求める。
【0063】
【数11】
【0064】
【数12】
【0065】
なお、必要に応じて前記13C濃度の変化量(Δ%13C)は、式5及び式3に基づいて、Δ13C(‰)(δ13C値変化量(‰)またはDOB(‰))に換算してもよい。
【0066】
【数13】
【0067】
【数14】
【0068】
このように、本発明の方法によれば、呼気に含まれる総CO量に対する13CO量の割合を簡便且つ迅速に、また、高精度で求めることができる。また、本発明の方法によれば、該割合に限らず非標識CO量に対する標識CO量の割合などについても従来公知の手順と同様にして、簡便且つ迅速に、また、高精度で求めることができる。
【0069】
なお、呼気試料中に含まれる標識CO、非標識CO、総COの測定、分析は従来公知の手順に基づいて行えばよく、当業者に公知である。例えば標識COの測定、分析は、使用する同位元素が放射性か非放射性かによって異なるが、通常、液体シンチレーションカウンター法、質量分析法、赤外分光分析法、発光分析法、磁気共鳴スペクトル法等といった一般に使用される分析手法を用いて行うことができる。好ましくは測定精度の点から赤外分光分析法及び質量分析法である。
【0070】
前記組成物の肝疾患被験者への投与t時間後とは、前記組成物、すなわち標識C−グルコースを肝疾患被験者に投与してからt時間後を意味する。このことから、該t時間は呼気採取時間tともいえる。呼気採取時間tとしては、本発明の効果が得られる限り制限されないが、被験者への前記標識C−グルコース投与後1分〜120分の間のいずれかの時間が例示され、該範囲内で任意の時間を選択することができる。例えばヒトを対象とする場合、呼気採取時間t(単位:分)としては好ましくは前記標識C−グルコース投与後1〜120分、より好ましくは1〜90分の間のいずれかの時間が例示される。ヒト以外を対象とする場合には、該範囲を参考にして当業者が適宜決定すればよい。
【0071】
また、本発明の効果が得られる限り制限されないが、呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合は、例えば縦軸をΔ標識C(‰)または標識C排出速度(%dose/hr)などとし、横軸を標識C−グルコース投与後の経過時間(呼気採取時間:t)(分)とした、Δ標識C(‰)または標識C排出速度(%dose/hr)などの経時的変化を示すグラフにおいて、その曲線下面積(Area under the curve;AUC)を算出することによって求めてもよい。該割合についてより詳細には、前述の13C−標識グルコースを用いる例に従えば、縦軸をΔ13C(‰)または13C排出速度(%dose/hr)とし、横軸を13C−グルコース投与後の経過時間(呼気採取時間:t)(分)とした、Δ13C(‰)または13C排出速度(%dose/hr)の経時的変化を示すグラフにおいて、その曲線下面積(Area under the curve;AUC)を算出することによって求めてもよい。この場合、縦軸をΔ13C(‰)または13C排出速度(%dose/hr)とし、13C−グルコースを肝疾患被験者に投与してから呼気採取時間t分の間における曲線下面積の算出結果は、[Δ13C(‰)または13C排出速度(%dose/hr)−13C−グルコース投与0分から呼気採取時間tまでの曲線下面積](AUCt−0)として表すことができる。また、縦軸をΔ13C(‰)または13C排出速度(%dose/hr)とし、呼気採取時間t分から呼気採取時間t分の間における曲線下面積の算出結果は、[Δ13C(‰)または13C排出速度(%dose/hr)−呼気採取時間t分から呼気採取時間tまでの曲線下面積](AUCt2−t1)として表すことができる。曲線下面積の算出は、従来公知の算出方法に従って行えばよく、当業者であれば容易に理解できる。また、13C排出速度(%dose/hr)の算出も、従来公知の算出方法に従って行えばよく、当業者であれば容易に理解できる。また、本発明の方法によれば縦軸はこれらに制限されず、本発明の効果が得られる限り当業者が適宜決定すればよい。
【0072】
このように曲線下面積を用いる場合であっても、前述同様に呼気採取時間tとしては、前記標識C−グルコース投与後1分〜120分の間のから選択される時間が例示される。例えばヒトを対象とする場合、呼気採取時間tとして好ましくは前記標識C−グルコース投与後1〜120分、より好ましくは1〜90分の間のいずれかの時間が例示され、当業者がこれらの時間に基づいて適宜設定すればよい。また、ヒト以外を対象とする場合には該範囲を参考にして当業者が適宜決定すればよい。
【0073】
なお、このことから本発明は、採取された呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程(ここで、該呼気は、同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる標識炭酸ガスを含有する、該生体内から排出された呼気である)を提供するものともいえ、これを(1−ab)工程という。
【0074】
これらの工程によって、本発明の方法によれば、呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を簡便且つ迅速に、また、高精度で求めることができる。
【0075】
また、本発明のエネルギー低栄養の測定方法は、更に次の(1−c)工程を含有していてもよい。すなわち、本発明は更に、前記(1−b)工程または前記(1−ab)で得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)と、更に健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)とを比較することによって、これに基づいて被験値が対照値よりも低いかどうかを判定する工程をしていてもよい。該(1−c)工程においては、このようにして得られた被験値と対照値とを比較し、被験値が対照値よりも低い場合に被験値のほうが「低い」と判定され、被験値が対照値よりも高いか同等である場合にはそうでない、すなわち被験値が「高いか同等」と判定される。
【0076】
なお、健常者について対照値を求める場合は、被験値の算出に採用した呼気採取時間tと同じ時間tが用いられ、同様の手順で算出すればよく、また、対照値として該手順により得られる算出値か、該算出値と同等と判断できる値が例示される。また、健常者として前述と同様にヒト、ヒト以外の哺乳動物が挙げられ、少なくともエネルギー低栄養状態にない被験者を意味する。また、エネルギー低栄養状態は特に肝硬変において認められ得る一種の症状であることから、本発明において健常者として好ましくはエネルギー低栄養状態になく、更に肝硬変に関して健常である被験者が例示され、より好ましくは肝硬変を発症しておらず且つ肝硬変を発症する前状態にもない被験者(非肝疾患被験者)が例示される。更に、健常者としてエネルギー低栄養の測定、すなわち前記割合の算出、更には判定に悪影響を及ぼす疾患がなく、また該疾患の前状態にもない健常である被験者が特に好ましく例示される。
【0077】
このような本発明の方法によれば、呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を簡便且つ迅速に、また、高精度で求めることができ、得られた被験値が対照値よりも低いかどうかを簡便且つ迅速に、また、高精度に判定できる。また、このような本発明の方法によれば、対照値に対する被験値の高低の程度を知ることができ、該程度に基づいてエネルギー低栄養状態の程度を更に知ることができる。
【0078】
また、本発明の効果が得られる限り制限するものではないが、肝疾患被験者の拘束や身体的また精神的な苦痛などを一層軽減する観点から、本発明の方法として、例えばヒトを対象とする場合、肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(1−a)工程が120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示される。また、本発明を制限するものではないが、更に迅速にエネルギー低栄養を測定する観点から、本発明の方法として、肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(1−a)及び(1−b)工程または前記(1−ab)が120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示され、一層迅速にエネルギー低栄養を測定する観点から、本発明において肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(1−a)、(1−b)及び(1−c)工程または前記(1−ab)及び(1−c)工程が120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示される。該時間(所要時間)は、肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記工程の終了までに要する、各工程の所要時間の合計であり、各工程は連続的でも非連続的でもよい。ヒト以外を対象とする場合には該範囲を参考にして当業者が適宜決定すればよい。
【0079】
このような本発明によれば前記算出値や判定に基づいて、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養を簡便且つ迅速に、更に高精度に測定することができる。また、本発明によれば前記算出値や判定を指標として、更に肝疾患被験者のエネルギー低栄養状態を評価できる。更に、前記(1−c)工程において被験値が対照値よりも低いと判定される場合には該結果はエネルギー低栄養状態を示すと決定でき、被験値が対照値よりも高いか同等であると判定される場合には該結果はエネルギー低栄養状態にないと決定することができる。このように、本発明によれば、更に肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態にあるかどうかを簡便且つ迅速に、また、精度高く決定することができる。
【0080】
このように、本発明によれば、同位標識C−グルコースによる呼気試験を行うだけで、エネルギー低栄養について簡便且つ迅速、更に高精度に測定、評価できる。このことから、本発明によれば、従来の間接熱量計を用いる方法における問題点、例えば高価である、特殊な機器が必要であり実施施設が限られ多くの患者に広く適用されていない、操作が煩雑である、患者には横になり安静が求められるが寝ることは禁じられている、監視が必要である、間接的で曖昧な評価であるなどといった問題点を軽減、解消することができる。すなわち、本発明の方法は、同位標識C−グルコースを用いた呼気試験による、従来の呼吸商測定に対する有用な代替方法を提供する。
【0081】
また、本発明の方法はこのように簡便且つ迅速、更に高精度に実施できることから、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性といった他の疾患に関する測定、評価も直ちに実施でき、従って、本発明は、従来よりも簡便且つ迅速に、他の疾患の有無の把握とエネルギー低栄養の測定を可能にする。また、本発明の方法は、肝疾患被験者が糖尿病といった他の疾患を患っている場合であってもエネルギー低栄養の測定を簡便且つ迅速、更に高精度に実施できる。また、このことから、本発明は、エネルギー低栄養に対する適切且つ迅速な食事療法の実施を可能にし、エネルギー低栄養に対する予後や生活の質の向上に寄与する。また、本発明はエネルギー低栄養状態に対する治療効果や進行の程度のモニタリングのためにも容易に使用できる。
(IV)肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法
前述の通り、本発明によれば前述するエネルギー低栄養の測定方法によって得られた算出値や判定等に基づいて、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態を示すかどうかを決定できる。このことから、本発明は更に肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法を提供する。
【0082】
具体的には、本発明は更に次の(2−a)及び(2−b)の工程を有する、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法、すなわち、(2−a)生体内で標識炭酸ガスに変換されて呼気中に排出される同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物を肝疾患被験者に投与して呼気を採取する工程、及び(2−b)呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程、を有する、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法を提供する。
【0083】
該(2−a)及び(2−b)の工程に記載される肝疾患被験者、呼気の採取、呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合、組成物、その形態、標識C−グルコース、任意の担体や添加剤といった成分、これらの含有量、投与量、投与方法、適用対象等の説明、また、これらの工程の実施に関しては、前述の(1−a)、(1−b)の工程と同様に説明され、当業者であれば前述の説明に基づいて該(2−a)及び(2−b)の工程を容易に理解でき、実施できる。また、このことから、前述のエネルギー低栄養測定用組成物は、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるか否かの判断用組成物と言い換えることもできる。
【0084】
また、前述と同様に、本発明において被験者は、該方法が実施される直前に絶食状態であってもよく非絶食状態であってもよく、絶食状態であることが好ましい。絶食状態とする場合についても非絶食状態とする場合についても、前述と同様に説明される。
【0085】
また、本発明は更に次の(2−c)工程を有する、被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法を提供する。すなわち、本発明は(2−c)前記(2−b)工程で得られた被験者の「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)を、健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)と比較し、被験値が対照値よりも低い場合に該被験者をエネルギー低栄養状態にあると決定し、被験値が対照値と同等または高い場合に該被験者をエネルギー低栄養状態にないと決定する工程を有する、被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを判断する方法を提供する。
【0086】
該(2−c)工程においても被験値、対照値、健常者、これらを比較する手順については前述の(1−c)工程と同様に説明され、当業者であれば前述の説明に基づいて該(2−c)工程を容易に理解でき、実施できる。そして、(2−c)工程において被験値と対象値を比較することによって、被験値が対照値よりも低い場合には、該被験者をエネルギー低栄養状態にあると決定され、被験値が対照値と同等または高い場合に該被験者をエネルギー低栄養状態にないと決定される。
【0087】
このように、本発明によれば被験者がエネルギー低栄養状態にあるかどうかを簡便且つ迅速に、更に精度高く決定することができる。また、このような本発明によれば、対照値に対する被験値の高低の程度を知ることができ、該程度に基づいてエネルギー低栄養状態の程度を更に知ることができる。
【0088】
エネルギー低栄養に対する代表的な処置としては食事療法、特に分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids:BCAA)製剤を投与する療法や、就寝前に軽い夜食を摂取して肝臓が夜間にエネルギー不足にならないようにする夜食療法(Late Evening Snack:LES)が例示され、これらの食事療法の詳細は公知あり、当業者が適宜設定すればよい。一方で、このような食事療法は食事の回数を増やし、特に夜食療法は就寝前の食事であることからカロリー過多で肥満になる恐れもある。また、被験者が糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの前記食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患うような場合には、これらの疾患を考慮しながら食事療法、特に夜食療法の実施等について検討する必要がある。
【0089】
このことから、エネルギー低栄養に対する代表的な処置である食事療法を行うにあたっては、エネルギー低栄養状態にあると判断された肝疾患被験者が糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っているかどうかを把握することが好ましい。
【0090】
例えば、食事療法によって症状を悪化させる恐れがないという観点からは、エネルギー低栄養状態にあると判断された肝疾患被験者が糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っていないことが好ましい。そこで、この観点から本発明は更に(2−d)の工程、すなわち、(2−d)前記(2−a)工程に先だって肝疾患被験者から、エネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(例えば糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者を除外するか、または、前記(2−c)において被験値が対照値よりも低くエネルギー低栄養状態にあると決定された肝疾患被験者から、エネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(例えば糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者を除外する工程を含有してもよい。
【0091】
また、本発明は更に(2−e)工程、すなわち、(2−e)前記(2−d)工程における除外より前に、肝疾患被験者がエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(例えば糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者であるかどうかを決定する工程、を含有していてもよい。
【0092】
前記被験者が食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っていないかどうかについては、従来公知または慣用の診断方法や、その基準に基づいて判断すればよい。これらの方法は、当業者であれば容易に理解できる。
【0093】
例えば糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性については血糖値、グルコース負荷試験、HbA1c(ヘモグロビンA1c)、HOMA−R(homeostasis model assessment ratio)、などの診断が例示される。本発明を制限するものではないが、例えば従来公知の目安に従えば、空腹時の血糖値が126mg/dl以上、75g経口グルコース負荷試験における2時間後の血糖値が200mg/dl以上、またはHbA1cが6.5%以上の場合などには糖尿病であると判断される。また、例えば空腹時の血糖値が110〜126未満mg/dl、75g経口グルコース負荷試験における2時間後の血糖値が140〜200未満mg/dlの場合などには境界型糖尿病であると判断される。また、例えば空腹時の血糖値が110mg/dl未満、75g経口グルコース負荷試験における2時間後の血糖値が140mg/dl未満の場合などには糖尿病ではないと判断される。また、例えば従来公知の目安に従えば、空腹時のインスリン値と空腹時の血糖値から算出されるHOMA−Rが1.6以下であればインスリン抵抗性ではなく、1.75より高い、更には2.5より高い値であればインスリン抵抗性ありと判断され、また、空腹時の血糖値とあわせて判断されることもある。
【0094】
このように、本発明の方法は、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っていない肝疾患被験者に対して好ましく適用できる。
【0095】
また、本発明の方法は、糖尿病といった食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っている肝疾患被験者に対しても好ましく適用できる。より詳細に一例を説明すると、肝疾患、特に肝硬変と、糖尿病とを併発している被験者においては、本発明の方法において、肝疾患のみを患っている場合よりも被験値が対照値を更に下回る場合がある。このことから本発明の方法は糖尿病を併発している肝疾患被験者にも好ましく適用でき、対照値に対して被験値が一層低い場合には、これに基づいて、糖尿病を併発していてもエネルギー低栄養による食事療法を優先すべきであるかどうかについて、簡便且つ迅速に、更に高精度に決定することができる。肝疾患被験者が糖尿病などの食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っているかどうかについては、前述の(2−e)工程に示されるように、肝疾患被験者がエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患う被験者であるかどうかを決定する工程を更に実施することによって知ることができる。
【0096】
このように本発明においては、エネルギー低栄養に関して、従来の間接熱量計を用いて測定される際の問題点、例えば高価である、特殊な機器が必要であり実施施設が限られ多くの患者に広く適用されていない、操作が煩雑である、患者には横になり安静が求められるが寝ることは禁じられている、監視が必要である、間接的で曖昧な評価であるなどといった問題点を軽減、解消することができる。そして、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態にあるかどうかを簡便且つ迅速に、更に精度高く決定することができる。このため、本発明の実施に伴い、更に糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性といった他の疾患に関する測定、評価も直ちに実施することができる。特に、本発明によれば前述の通り従来の呼吸商の代用ができ、また、一連の診断の中で糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性といった疾患を除外しながら、あるいは、これらの疾患との関係を考慮しながら、エネルギー低栄養の有無、程度、適切な食事療法について決定することができる。
【0097】
本発明を制限するものではないが、肝疾患被験者の拘束や身体的また精神的な苦痛などを一層軽減する観点から、本発明として、例えばヒトを対象とする場合、好ましくは肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(2−a)工程が120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示される。また、本発明を制限するものではないが、更に迅速に肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態にあるかどうかを決定する観点から、本発明として、より好ましくは肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(2−a)及び(2−b)工程が120分以内、更に好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示され、特に好ましくは肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(2−a)、(2−b)及び(2−c)工程が120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが更に好ましく例示される。また、本発明として、これらの工程に加えて更に(2−d)工程を実施する場合であっても、特に好ましくは120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示される。更に、本発明として、これらの工程に加えて更に(2−e)工程を実施する場合であっても、特に好ましくは120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示される。該時間(所要時間)は、肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記工程の終了までに要する、各工程毎の時間の合計であり、各工程は連続的でも非連続的でもよい。ヒト以外を対象とする場合には該範囲を参考にして当業者が適宜決定すればよい。
【0098】
このような本発明の方法によれば、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態であるかどうかを簡便且つ迅速に、更に精度高く判断することができる。従って、本発明によれば、従来の間接熱量計といった手段によってエネルギー低栄養状態について評価する問題点、例えば高価である、特殊な機器が必要であり実施施設が限られる、操作が煩雑である、間接的で曖昧な評価である、患者や監視者等の精神的、身体的な苦痛がある、多くの患者に広く適用できないなどといった問題点を軽減、解消することができ、本発明は従来の呼吸商の有用な代替手段として利用できる。
【0099】
そして、前述の通り、肝疾患被験者がエネルギー低栄養状態にあると決定される場合には、これに基づいて栄養療法が必要であると決定され、更にこれに基づいてエネルギー低栄養状態に対する適切な治療を検討、実施できる。また、エネルギー低栄養状態にないと決定される場合には、例えばこれに基づいてエネルギー低栄養に対する栄養療法が不要であると決定される。また、本発明は、エネルギー低栄養状態に対する治療効果や進行の程度のモニタリングのために容易に使用できる。
【0100】
また、本発明においては、このように従来の間接熱量計を用いて呼吸商が測定される際の問題が大きく軽減されていることから、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性といった他の疾患に関する測定、評価も直ちに実施できる。従って、本発明によれば、エネルギー低栄養の状態とともに他の疾患の有無についても従来よりも簡便且つ迅速に把握することができる。また、本発明の方法は、肝疾患被験者が糖尿病といった他の疾患を患っている場合であってもエネルギー低栄養であるかどうかを簡便且つ迅速、更に高精度に判断することができる。このように、本発明はエネルギー低栄養に対する一層適切な食事療法の実施を可能にし、エネルギー低栄養に対する予後や生活の質の向上に寄与する。
(V)肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する方法
前述の通り、本発明によれば前記算出値や判定等に基づいて、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定できる。このことから本発明は、次の(3−a)〜(3−c)の工程を有する、肝疾患被験者におけるエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する方法を提供する。
【0101】
すなわち、本発明は、(3−a)同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる、標識炭酸ガスを含有する呼気を採取する工程、(3−b)呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程、及び(3−c)前記(3−b)工程で得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)を、健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)と比較し、被験値が対照値よりも低いかどうかを判定する工程、を有する、エネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する方法を提供する。
【0102】
該(3−a)〜(3−c)の工程に記載される肝疾患被験者、呼気の採取、呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合、組成物、その形態、標識C−グルコース、任意の担体や添加剤といった成分、これらの含有量、投与量、投与方法、適用対象等の説明、また、これらの工程の実施に関しては、前述の(1−a)〜(1−c)の工程と同様に説明され、当業者であれば前述の説明に基づいて該(3−a)〜(3−c)の工程を容易に理解でき、実施できる。また、このことから、前述のエネルギー低栄養測定用組成物は、エネルギー低栄養に対する栄養療法の要否決定用組成物と言い換えることもできる。
【0103】
また、このことから本発明は、採取された呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合を求める工程(ここで、該呼気は、同位元素Cの少なくとも一つで標識されてなるグルコースを有効成分とする組成物が肝疾患被験者の生体内で変換されて生じる標識炭酸ガスを含有する、該生体内から排出された呼気である)を提供するものともいえ、これを(3−ab)工程といい、次いで(3−c)前記(3−ab)工程で得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(被験値)を、健常者について得られた「呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する標識CO量の割合」(対照値)と比較し、被験値が対照値よりも低いかどうかを判定する工程、を有する、エネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する方法を提供するともいう。
【0104】
本発明によれば前記算出値や判定に基づいて、エネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定できる。ここで被験値が対照値よりも低い場合には、エネルギー低栄養に対する栄養療法が必要であると決定され、被験値が対照値よりも高いか同等である場合にはエネルギー低栄養に対する栄養療法が不要であると決定される。このことから、本発明はエネルギー低栄養に対する栄養療法の介入の可否を決定するものともいえる。
【0105】
このように、本発明によれば被験者に対する栄養療法の要否を簡便且つ迅速に、更に精度高く決定することができ、該決定に基づいて、エネルギー低栄養状態に対する適切な治療を検討、実施することができる。また、このことから、本発明はエネルギー低栄養状態に対する治療効果や進行の程度をモニタリングするものともいえ、また、本発明において食事療法の要否決定には、食事療法における食事内容、摂食量、摂食時間、摂食間隔、食事療法を止めるタイミングの決定等も包含される。
【0106】
本発明において被験者は、該方法が実施される直前に絶食状態であってもよく非絶食状態であってもよく、絶食状態であることが好ましい。絶食状態とする場合についても非絶食状態とする場合についても前述と同様に説明される。
【0107】
また、前述のようにエネルギー低栄養に対する代表的な処置としては食事療法、特に分岐鎖アミノ酸製剤を投与する療法や、就寝前に軽い夜食を摂取して肝臓が夜間にエネルギー不足にならないようにする夜食療法が例示される。その一方で、このような食事療法を行うにあたっては、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの前記食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患の有無を考慮しながら食事療法、特に夜食療法の実施等について検討することも重要である。
【0108】
この観点から、エネルギー低栄養に対する代表的な処置である食事療法を行うにあたっては、被験値が対照値よりも低いと判定された肝疾患被験者が糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っているかどうかを把握することが好ましい。
【0109】
例えば、前述と同様に、食事療法によって症状を悪化させる恐れがないという観点からは、被験値が対照値よりも低いと判定された肝疾患被験者が糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っていないことが好ましい。そこで、この観点から本発明は好ましくは、(3−d)工程として、前記(3−a)工程または前記(3−ab)工程に先だって肝疾患被験者からエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者を除外するか、または、前記(3−c)において被験値が対照値よりも低いと判定された肝疾患被験者から、エネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者を除外する工程を含有する。これによって、一層適切に肝疾患被験者に対する食事療法の介入の可否を決定できる。
【0110】
また、本発明は更に次の(3−e)工程、すなわち、(3−e)前記(3−d)工程における除外より前に、肝疾患被験者がエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患(糖尿病、境界型糖尿病及びインスリン抵抗性からなる群より選択される少なくとも一種の疾患)を患う被験者であるかどうかを決定する工程、を含有していてもよい。前記被験者が食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っていないかどうかについては、従来公知または慣用の診断方法、その基準に基づいて判断すればよく、前述と同様に説明される。
【0111】
このように、本発明の方法は、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性などの食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っていない肝疾患被験者に対して好ましく適用できる。
【0112】
また、本発明の方法は、糖尿病といった食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っている肝疾患被験者に対しても好ましく適用できる。この点についてより詳細に一例を説明すると、前述と同様に、肝疾患、特に肝硬変と、糖尿病とを併発している被験者においては、本発明の方法によって、肝疾患のみを患っている場合よりも被験値が対照値を更に下回る場合がある。このことから本発明の方法は糖尿病を併発している肝疾患被験者にも好ましく適用でき、対照値に対して被験値が一層低い場合には、これに基づいて、糖尿病を併発していてもエネルギー低栄養による食事療法を優先すべきであるかどうかについて、簡便且つ迅速に、更に高精度に決定することができる。肝疾患被験者が食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患っているかどうかについては、前述の(3−e)工程に示されるように、肝疾患被験者がエネルギー低栄養に対する食事療法によって症状が悪化する恐れのある疾患を患う被験者であるかどうかを決定する工程を更に実施することによって知ることができる。
【0113】
このように本発明においては、エネルギー低栄養に関して、従来の間接熱量計を用いて測定される際の問題点、例えば高価である、特殊な機器が必要であり実施施設が限られ多くの患者に広く適用されていない、操作が煩雑である、患者には横になり安静が求められるが寝ることは禁じられている、監視が必要である、間接的で曖昧な評価であるなどといった問題点が大きく軽減されており、肝疾患被験者において、エネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を簡便且つ迅速に、更に精度高く決定することができる。このため、本発明の実施に伴い、更に糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性といった他の疾患に関する測定、評価も直ちに実施でき、エネルギー低栄養に対する栄養療法の介入の可否を簡便且つ迅速に、更に精度高く決定することができる。特に、本発明によれば従来の呼吸商の代用ができ、また、一連の診断の中で糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性といった疾患を除外しながら、あるいは、これらの疾患との関係を考慮しながら、エネルギー低栄養に対する栄養療法の要否、適切な食事療法について決定することができる。
【0114】
本発明を制限するものではないが、肝疾患被験者の拘束や身体的また精神的な苦痛などの問題点を一層軽減する観点から、本発明として、例えばヒトを対象とする場合、好ましくは肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(3−a)工程が120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示される。また、本発明を制限するものではないが、更に迅速に肝疾患被験者においてエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する観点から、本発明として、肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(3−a)及び(3−b)工程または前記(3−ab)工程が120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示され、一層迅速に疾患被験者においてエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否を決定する観点から、さらに好ましくは肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記(3−a)、(3−b)及び(3−c)工程または前記(3−ab)及び(3−c)工程が120分以内、より好ましくは1〜90分以内に実施されるものが例示される。また、本発明としてこれらの工程に加えて更に(3−d)工程を実施する場合であっても、120分以内、より好ましくは1〜90以内分に実施されるものが例示される。更に、本発明としてこれらの工程に加えて更に(3−e)工程を実施する場合であっても、120分以内、より好ましくは1〜90以内分に実施されるものが例示される。該時間(所要時間)は、肝疾患被験者に標識C−グルコースが投与されてから前記工程の終了までに要する、各工程毎の時間の合計であり、各工程は連続的でも非連続的でもよい。ヒト以外を対象とする場合にも例えば該範囲を参考にして当業者が適宜決定すればよい。
【0115】
このように、本発明によれば、肝疾患被験者においてエネルギー低栄養に対する栄養療法の要否の決定を簡便且つ迅速、更に高精度に実施することができる。従って、本発明によれば、従来の間接熱量計といった手段によってエネルギー低栄養を評価する問題点、例えば高価である、特殊な機器が必要であり実施施設が限られる、操作が煩雑である、間接的で曖昧な評価である、患者や監視者等の精神的、身体的な苦痛がある、多くの患者に広く適用できないなどといった問題点を軽減、解消することができ、本発明は従来の呼吸商の有用な代替手段として利用できる。そして、前述の通り、肝疾患被験者においてエネルギー低栄養状態に対する食事療法が必要であると判断される場合には、これに基づいてエネルギー低栄養状態に対する適切な食事療法や治療を検討、実施できる。また、エネルギー低栄養状態に対する食事療法が不要であると判断される場合には、例えばこれに基づいてエネルギー低栄養に対する栄養療法は特に行わなくても良いと決定できる。また、このことから、本発明はエネルギー低栄養状態に対する治療効果や進行の程度のモニタリングのためにも容易に使用でき、また、本発明において食事療法の要否決定には、食事療法における食事内容、摂食量、摂食時間、摂食間隔、食事療法を止めるタイミングの決定等も包含される。
【0116】
また、本発明においては、このように従来の間接熱量計を用いて呼吸商が測定される際の問題が大きく軽減されていることから、エネルギー低栄養の状態とともに他の疾患の有無についても従来よりも簡便且つ迅速に把握することを可能にする。また、本発明の方法は、肝疾患被験者が糖尿病といった他の疾患を患っている場合であってもエネルギー低栄養に対する食事療法の要否を簡便且つ迅速、更に高精度に知ることができる。このように、本発明はエネルギー低栄養に対する食事療法の介入の可否判断をより容易にし、また、一層適切な食事療法の実施を可能にし、エネルギー低栄養に対する予後や生活の質の向上に寄与する。
【0117】
なお、後述する実施例ではパルミチン酸呼気試験も実施しており、該試験方法、評価方法、また、パルミチン酸を含有する組成物、該組成物の被験者への投与等に関しては、グルコースをパルミチン酸に変更した以外は、前述の標識グルコースを用いた場合と実質的に同様にして説明される。そして、パルミチン酸呼気試験において被験値に対して対照値が高いということは、被験者は健常者よりも脂質代謝が低下していることを示す。また、パルミチン酸だけでなく、炭素数12〜38の脂肪酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を使用してもよい。
【0118】
炭素数12〜38の脂肪酸には、炭素数12〜18未満の中鎖脂肪酸、炭素数18〜24未満の長鎖脂肪酸、炭素数24〜28の極長脂肪酸、炭素数29〜38のウルトラロング脂肪酸が含まれる。好ましくは炭素数12〜28の中鎖、長鎖、及び極長の脂肪酸であり、より好ましくは炭素数12〜24未満の中鎖及び長鎖脂肪酸である。具体的にはラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、及びアラキジン酸等の飽和脂肪酸;パルミトレイン酸(C16)、オレイン酸(C18)、バクセン酸(C18)、及びネルボン酸(C24)等の二重結合を一つ有する不飽和脂肪酸;リノール酸(C18)や8,11−イサコジエン酸等の二重結合を二つ有する不飽和脂肪酸;リノレン酸(C18)やアラキドン酸(C20)等の二重結合を三以上有する不飽和脂肪酸が例示される。これらの脂肪酸として、好ましくは飽和脂肪酸、及び二重結合を一つ有する不飽和脂肪酸であり、更に好ましくはラウリン酸(C12)、ステアリン酸(C18)、パルミチン酸(C16)、及びオレイン酸(C18)であり、特に好ましくはステアリン酸(C18)及びパルミチン酸(C16)が例示される。
【0119】
これらの脂肪酸の塩としては、生体に投与可能な、いわゆる薬学的に許容される塩であればよく、具体的にはナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類金属塩を例示することができるが、好ましくはアルカリ金属塩であり、特に好ましくはナトリウム塩が例示される。
【0120】
また、脂肪酸を構成する炭素原子の標識に用いられる同位元素としては、特に制限はされないが、具体的には13C、及び14Cを例示することができる。かかる同位元素は放射性及び非放射性の別を問わないが、安全性の観点から好ましく非放射性同位元素である。かかる同位元素としては好適に13Cが例示される。
【0121】
同位体元素−標識脂肪酸は、脂質代謝経路(脂肪酸代謝経路)を経て生成されるCOの少なくとも一部が同位元素で標識されてなるように、標識されてなるものである。例えば、このような同位体元素−標識脂肪酸としては、脂肪酸の1位の炭素原子が同位元素で標識されてなる化合物、具体的には、1−13C標識脂肪酸を例示できる。また脂肪酸の少なくとも1つの炭素原子が同位体で標識されていればよく、1位の炭素原子以外に、他の炭素原子のいずれか1以上、または全ての炭素原子が同位元素で標識されてなるものであってもよい。脂肪酸等の化合物を13Cや14Cなどの同位体で標識する方法は、特に制限されず、前述と同様に通常使用される方法が広く採用される。これらの同位体元素−標識脂肪酸やそれらの塩はいずれも商業的に入手することができ、簡便にはかかる市販品を使用することもできる。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
参考例:呼吸商及びエネルギー消費の測定
(1)実験方法
雄性SD系ラット(10週齢、各n=3)にCCl4(オリーブ油:CCl4 = 1:1)を2mL/kg、2回/週、12週間、背部皮下投与し、肝硬変モデルラットを作成した。生体ガス分析装置(商品名Oxymax、コロンバス社製)を用いて、その使用手順に従って、無処置ラット(コントロール群)及び肝硬変モデルラット(肝硬変モデル群)の呼吸商とエネルギー消費を測定、算出した。
【0123】
また、無処置ラット及び肝硬変モデルラットのいずれも、後述の図1に示すように試験開始日の19:00から3日目昼間の13:00まで非絶食期とし、3日目昼間13:00から4日目昼間13:00まで絶食期とした。非絶食期には飼料として動物用飼料(商品名CRF-1、オリエンタル酵母社製)を自由摂取させた。また、夜間は暗所とし、昼間は明所とした。なお、本試験においてラットにおける非絶食期(昼間)は、肝機能等の相違に基づけばヒトにおける絶食期に相当する。
(2)実験結果
呼吸商及びエネルギー消費の平均値(n=2)をグラフ化したものを図1に示す。図中、それぞれ呼吸商、エネルギー消費の時間推移を示す。
【0124】
呼吸商について、コントロール群では、非絶食期には、活動量の多い夜間、活動量が低下する昼間ともに呼吸商は0.9〜0.95付近を推移した。一方、肝硬変モデル群では、非絶食期においてコントロール群より低い値で呼吸商が推移し、特に昼間での低下が顕著であった。絶食期には、コントロール群、肝硬変モデル群ともに呼吸商は0.7〜0.75付近という更に低値を示した。
【0125】
エネルギー消費について、コントロール群、肝硬変モデル群ともに非絶食、絶食にかかわらず夜間上昇し、昼間低下し、また、常に肝硬変モデルのエネルギー消費量はコントロール群に比べて低値を示した。このように、ヒトと異なりラットは夜行性動物であり、エネルギー消費の結果から、ラットは夜間活動し(高エネルギー状態)、昼間は安静状態(低エネルギー状態)にあることが確認された。また、肝硬変モデル群は、コントロール群に比べて、低エネルギー状態であることも確認された。
試験例1:呼気試験によるエネルギー低栄養の測定
(1)13C-グルコース含有組成物の調製
U-13C-グルコース(MW:186、CIL社製)を生理食塩水に50μmol/mlとなるよう溶解して、13C-グルコース含有組成物を調製した。
(2)13C-パルミチン酸含有組成物の調製
1-13C-パルミチン酸ナトリウム(MW:186、CIL社製)を、含水エタノールに500μmol/mlとなるように約80℃で溶解し、これにあらかじめ37℃に温めておいた20%BSAを入れて攪拌混合して1-13C-パルミチン酸ナトリウム濃度が20μmol/2mlになるように溶解し、13C-パルミチン酸含有組成物を調製した。
(3)グルコース呼気試験の実験方法
前述の参考例で作製した肝硬変モデルラット及び無処置ラットに、調製した13C-グルコース含有組成物を1ml/kgとなるよう静脈内投与した(n=3)。該投与は、非絶食期1日目の13:00(A)及び20:00(B)、絶食期の13:00(C)の3回実施し、13C-グルコース含有組成物投与前(0分)と投与後120分までの各時点での呼気を採取し、呼気分析用質量分析計(商品名ABCA、サーコン社製)を用いてΔ13C(‰)について測定、算出した。
(4)パルミチン酸呼気試験の実験方法
前述の参考例で作製した肝硬変モデルラット及び無処置ラットに、調製した13C-パルミチン酸含有組成物を2ml/kgとなるよう静脈内投与した(n=3)。該投与は、非絶食期1日目の13:00(A)絶食期の13:00(B)の2回実施し、13C-パルミチン酸含有組成物投与前(0分)と投与後120分までの各時点での呼気を採取し、呼気分析用質量分析計(商品名ABCA、サーコン社製)を用いてΔ13C(‰)について測定、算出した。
(5)実験結果
グルコース呼気試験の実験結果を図2−A〜Cに示す。図中、各グラフの縦軸はΔ13C(‰)、横軸は13C-グルコース含有組成物投与前(0分)からの測定時間を示す。非絶食期、コントロール群の呼気反応(Δ13C(‰)値)は昼間、夜間において大きな差は認められなかったが、肝硬変モデル群では昼間における呼気反応の低下が顕著であった。一方、絶食期においては両群ともに呼気反応は低下し同様な推移を示した。
【0126】
一方、パルミチン酸呼気試験の実験結果を図3のA及びBに示す。図中、各グラフの縦軸はΔ13C(‰)、横軸は13C-パルミチン酸含有組成物投与前(0分)からの測定時間を示す。非絶食期、絶食期ともにコントロール群と肝硬変モデル群において両群ともに呼気反応は同様な推移を示した。
試験例2:呼気試験による測定と呼吸商との相関
前記参考例及び試験例1の結果に基づいて、呼吸商とグルコース呼気試験との相関関係を図4に示す。
【0127】
具体的には、前記参考例及び試験例1から分かるように、呼吸商に関して、非絶食期のコントロール群では昼夜問わず呼吸商0.9〜0.95付近を推移したが、非絶食期の肝硬変モデル群ではコントロール群より低い値で推移し、特に昼間に低下が顕著であった。一方、絶食期では両群ともに呼吸商0.7〜0.75付近で推移した。グルコース呼気試験に関しても、非絶食期のコントロール群では昼夜大きな差は認められなかったが、非絶食期の肝硬変モデル群では昼間に呼気反応Δ13C(‰)の低下が顕著であった。絶食期においては両群ともに呼気反応は低下し同様な推移を示した。一方、パルミチン酸呼気試験に関しては、非絶食期、絶食期ともにコントロール群と肝硬変モデル群で同様な推移を示した。このことから、参考例で測定した呼吸商と、試験例1のうちグルコース呼気試験で得られた値から算出した13C-グルコース含有組成物投与0分〜60分における曲線下面積(AUC60)を比較した。これらの相関関係を図4に示す。
【0128】
図4から明らかなように、呼吸商とグルコース呼気試験結果との間にはR2=0.9301の高い直線性が得られ、すなわち高い相関関係が認められた。呼吸商は、従来、肝硬変患者がエネルギー低栄養状態にあるかどうかを調べるために用いられており、この結果から、グルコース呼気試験を用いることによっても、肝硬変患者がエネルギー低栄養状態にあるかどうかを知ることができることが分かった。特に、呼吸商の測定には、例えば高価である、特殊な機器が必要であり実施施設が限られ多くの患者に広く適用されていない、操作が煩雑である、患者には横になり安静が求められるが寝ることは禁じられている、監視が必要である、間接的で曖昧な評価であるなどといった問題があるが、グルコース呼気試験によって簡便且つ迅速に、また、身体的苦痛等の問題を非常に軽減しながら、呼吸商と高い相関関係を伴って、肝硬変患者のエネルギー低栄養状態を把握できることが分かった。更に、このようにグルコース呼気試験によって糖代謝の程度、すなわちエネルギー低栄養状態について直接的に且つ正確に把握できるので、エネルギー低栄養に対する食事療法等を一層適切に計画、実施できるようになることが分かった。
【0129】
また、非絶食期の呼吸商の結果から、コントロール群では糖をエネルギー源として利用しているのに対して肝硬変モデル群では主に脂質がエネルギー源であることが予想された。しかしながら、前記試験例1に示すように、パルミチン酸呼気試験では脂質代謝の亢進が確認されなかったことから、肝硬変モデル群における呼吸商の低値の要因は糖代謝の低下に基づくものと考えられた。そして、前述の通り呼吸商とグルコース呼気試験との間で高い相関関係が認められたことから、従来の呼吸商に代えて、グルコース呼気試験を用いれば簡便、迅速且つ高精度に、また、従来の呼吸商算出における問題を大きく軽減しながら、肝疾患患者のエネルギー低栄養状態を把握できることが確認された。
図1
図2
図3
図4