特許第6685918号(P6685918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6685918フィッシュスティックウォーターから加水分解タンパク質含有量の多い乾燥食品を生産する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685918
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】フィッシュスティックウォーターから加水分解タンパク質含有量の多い乾燥食品を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/40 20060101AFI20200413BHJP
   A23J 3/04 20060101ALI20200413BHJP
   A23L 17/20 20160101ALI20200413BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20200413BHJP
【FI】
   A23L3/40 Z
   A23J3/04 501
   A23L17/20
   A23L17/00 D
   A23L17/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-557046(P2016-557046)
(86)(22)【出願日】2015年8月17日
(65)【公表番号】特表2018-523465(P2018-523465A)
(43)【公表日】2018年8月23日
(86)【国際出願番号】PE2015000015
(87)【国際公開番号】WO2016099298
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】516270843
【氏名又は名称】リバウド ベルナレス,フェルナンド リカルド
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】リバウド ベルナレス,フェルナンド リカルド
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−113044(JP,A)
【文献】 特開平07−227245(JP,A)
【文献】 特表2012−517222(JP,A)
【文献】 特開2011−120484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/36− 3/54
A23L 13/00−17/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシュスティックウォーターから生産され、タンパク質含有量と生物学的利用能が高い乾燥食品を得る方法であって、
(a)一定量のスティックウォーターを提供するステップ、
(b)セジカンター(Sedicanter)又は遠心ディスクであってよい分離機を用い、3000から6000×gの速度で5分間動作させて、スティックウォーターを不溶性固形物と脂肪分から分離するステップ、
(c)精製したスティックウォーターを電気透析器で脱塩するステップであって、塩を含むスティックウォーターが電気透析器の膜の活性部分に達し、直流電圧により、正に荷電した陽イオンは陰極に移動し、陰イオンは陽極系に移動し、これらのイオンはいずれも、イオン交換膜に達したときに膜の特性によりそのイオンが膜を通り抜けられるか弾かれるかが決まり、膜を通過できたイオンは、次の膜が反対に荷電しているため、次のコンパートメントに貯留され、このため、スティックウォーターの流れは伝導率が非常に低くなるまで脱塩回路を通過する一方、同時に、もう一つの回路には蓄積し続ける水の流れ又は薄い塩水があり、電気伝導率の高い濃縮塩水が形成されるステップ、
(d)脱塩したスティックウォーターを加水分解するステップであって、この目的のため、温度を60℃に、NaOHの添加によりpHを7.5から9に調整した調整槽にスティックウォーターをポンプで汲み入れ、この条件下で、スティックウォーターを蒸発プラントで蒸発工程にかけ、前記蒸発プラントは、硫化膜式蒸発器、真空蒸発器、又は他の蒸発手段でよく、タンパク質内部のペプチド結合を加水分解する目的で、この工程の最初から継続して、バクテリア由来のアルカリプロテアーゼを、スティックウォーターのタンパク質含有量の1%の割合で加え、蒸発工程は、使用する蒸発するプラントの種類により30から60分間を要するが、濃縮液が固形物の40から45%、加水分解度18から20%に達したら終了し、次いで、酵素を不活性化させるため、85℃、15分間の最終加熱工程にかけるステップ、
(e)加水分解濃縮液を緩衝タンクに一時貯蔵し、次いで、「スプレードライヤー」にポンプで汲み入れ、固形物含有率が90から95%、含水率が3から5%となるまで脱水し、タンパク質92%、分子量1000ダルトン未満、98%より大きい消化率とするステップ、及び
(f)再水和を避けるため加水分解濃縮液を防湿性軟質バッグで包装するステップ
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの食用として直接又は間接に消費できる、加水分解タンパク質含有量の多い乾燥食品をスティックウォーターから得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚粉の製造過程において、原料(生のアンチョビー)を加熱し、次いで圧搾工程にかけてプレスウォーターを得、プレスウォーターから懸濁物と脂肪分(魚油)を遠心分離すると、最後にスティックウォーター又はフィッシュスティックウォーターと呼ばれる液体が残る。また、魚又は頭足類(以後、魚と呼ぶ)の缶詰又は冷凍もしくは保存加工品の製造過程で得られる煮汁の液体成分をスティックウォーターということもある。フィッシュスティックウォーターは主に、多量の水溶性タンパク質、不溶性固形物、ビタミン類、ミネラル類(塩を含む)、及び処理した魚の種類により価の異なる微量の脂肪分を含む。スティックウォーターの生産量は、原料成分と適切な加熱・処理工程に基本的に依存し、魚粉の場合で20から70%である。スティックウォーター中の固形物の総量は、原料、鮮度、使用可能な遠心分離機の機種に基本的に依存し、通常4から9%の範囲、脂肪分は0.3から1.0%の範囲である。塩分含有量も様々だが、魚粉製造工程の場合、通常1%(w/w)以上である。
【0003】
スティックウォーターの用途はいかなるものであろうか。
【0004】
魚粉の製造時には、濃縮工程における稼働条件と使用する添加物によるが、通常、スティックウォーターは、固形分6〜9%であったものが濃縮工程を経て最終的に35〜45%にまで濃縮される。この濃縮液は魚粉製造工程に組み入れられ、25%程度の生産量の増加をもたらす。したがって、スティックウォーター回収は、環境面の課題解決に資するばかりでなく、経済的な利益も大きい。あるいは、濃縮したスティックウォーターを直接スプレードライして水分量5%程度まで乾燥させ、CHI専用食品用の高い生物価を持つ重要な添加物として用いることもできる。一般に、濃縮したスティックウォーターは、誘引性、免疫刺激、生体エネルギーといった生化学プロセスに関わる一連のヌクレオチド及び遺伝物質などの成分、さらに、最近の研究によれば、一般に魚粉に由来する未知の成長因子が見つかるとされる遊離アミノ酸、ビタミン類やミネラル類を提供する。
【0005】
他方、缶詰・冷凍食品産業での加工工程から得られるスティックウォーターは、通常、排水処理システムから得られるもので、通常、高酸化脂肪と沈殿物であり、これを脱水工程にかけることにより非常に低品質の魚粉が回収される。
【0006】
ではスティックウォーターの使用に伴う問題は何か。
【0007】
環境的、経済的観点からはスティックウォーターの活用が望まれるものの、スティックウォーターの濃縮工程においては、中に含まれる水溶性タンパク質が濃縮されるのみならず、塩を含む、他の固体成分も濃縮される。この濃縮液を魚粉に加えると、利用者が定めた基準(3.5%)をしばしば超える濃度まで塩が加えられ、最終製品の質を損なう。処理された原料の質によっては、魚粉に添加されるスティックウォーター濃縮液は、ヒスタミン等の生体アミン及び魚粉の質を大きく損なう揮発性窒素塩基等の分解物を含むことがある。スティックウォーター濃縮液を直接乾燥させる場合はさらに問題が大きく、最終製品の塩分濃度が15%(乾燥ベース)にも達し、タンパク質含有量は相対的に低くなり(
67%)、他の原料を用いたタンパク質濃縮物のタンパク質含有量が80%以上であることと比較して、製品の競争力が損なわれる。
【0008】
一般的に、スティックウォーターの現在の利用法では、魚粉製造工程の副次的原料として用いれば製品の品質を損ね、他方、独立した消費財とするには、製造工程で塩分が濃縮されタンパク質含有率が低下することから、スティックウォーターは主要なタンパク源として充分に活用されない。
【0009】
フィッシュスティックウォーターから塩を除く(脱塩する)技術はあるのだろうか。
【0010】
現在の水産業においては、スティックウォータープラントは蒸発器であるから、スティックウォーター中の化合物は濃縮され、得られた濃縮液中の塩分含有率は増加することになりがちである。つまり、スティックウォーターから塩分を除去するための方法や技術は適用されていない。
【0011】
加水分解スティックウォータータンパク製造の専売技術はあるのか、そして我々の提案との違いは何か。
【0012】
「水産タンパク加水分解物加工品、製造工程、応用」に関する特許(ES 2 311 990 T3)は、スティックウォーター等の副産物を一般に含む原料及び魚類、甲殻類から水産タンパク質を得ることを開示している。その方法は、濾過操作(限外濾過及びナノ濾過)によりタンパク質を得るもので、セラミック膜を用いた限外濾過の後、より小さな塩及び生体アミン成分をナノ濾過により除去する。
【0013】
この点で、上記特許と我々の提案には多くの違いがある。
【0014】
上記登録特許に記載の手法(請求項6)は、我々の提案とは異なり、スティックウォーターを酵素加水分解せず、濾過操作(限外濾過及びナノ濾過)を行うのみである。
【0015】
さらに実質的に異なる点として、上記特許はセラミック膜限外濾過によりスティックウォーターから塩を除去し、次いでナノ濾過により塩と生体アミンを除去する。本発明は、電気透析のみを用い、塩化ナトリウムを構成するイオンを効率的に除去するが、従来の濾過法は用いない。
【0016】
最後になるが、さらに別の違いもある。濾過法では低分子量のタンパク成分が濾過膜を通過してしまい、水、及び、塩、匂い、味等の不要な成分とともに失われる。そのため、重要な生物学的、技術的機能を持つタンパク質成分が失われ成果が減じられる。
【0017】
これと異なり、本発明の手法では、まず電気負荷によりスティックウォーターを脱塩(電気透析)するが、この場合、タンパク質成分は電気透析膜の孔より大きいため除去されず、最大の収量と高品質が確保できる。次いで、加水分解によりタンパク質成分の分子量を下げることができ、これにより望ましい機能性を与え、最高の成果を得ることができる。
【発明の概要】
【0018】
これらの課題を解決するため、本発明により、フィッシュスティックウォーターから得た加水分解タンパク質を多く含む食品を得る新しい方法が提供される。まず、スティックウォーター中に残留している固形物と脂肪を分離し、次いで電気透析を用いた選択的塩除去法により脱塩するが、濾過を行わないためタンパク質成分の損失が避けられ、質、量ともに良好なタンパク質成分の濃縮が行われる。次いで、温度を調節し、NaOHを加えて
pHを調整した調整槽に、脱塩したスティックウォーターをポンプで汲み入れる。成果が最大となるような機能性が得られるよう、酵素加水分解工程によりタンパク質成分の分子量を下げる。こうして得られた生成物を次に蒸発プラントでの蒸発工程にかける。蒸発工程終了後、加水分解物濃縮液を緩衝タンクに保存し、次いでスプレードライ工程にかける。最後に乾燥品を包装する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】フィッシュスティックウォーターから加水分解タンパク質を多く含む食品を得る方法の実施に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、フィッシュスティックウォーターから加水分解タンパク質を多く含む食品を得る方法を詳細に説明する。
【0021】
本発明による工程は以下のステップからなる。
【0022】
1.新鮮な魚のスティックウォーターを不溶性固形物と脂肪分を分離する工程にかける。分離機はセジカンター(Sedicanter)又は遠心ディスクであってもよく、3000から6000×gの速度で5分間動作させる。この工程はスティックウォーター中に含まれる不純物を除去するためであり、これにより、この後の物理的分離又は濃縮の操作の際に不純物が干渉するのを防ぐ。
【0023】
2.処理後の液体――精製したスティックウォーターからなる――を陰イオン交換膜・陽イオン交換膜を交互に配置しスペーサーで区切ったスタックが2回路を形成する既存の電気透析機にかけ、一方では定量のスティックウォーターが脱塩され(回路1)、同時に、これとは別のコンパートメントには薄い塩水の一定の流れができ(回路2)、上記膜を通過できる塩イオン(ナトリウムと塩素)を追加的に受け取る。この工程の駆動力は、電極板内部のスタックの両端にある陽極・陰極間の直流電流である。
【0024】
塩分含有量が当初のレベルにあるスティックウォーターが膜の活性部分に到達すると、直流電圧により、正に荷電した陽イオン(Na)は陰極に移動し、陰イオン(Cl)は陽極系に移動する。これらのイオンはいずれも、イオン交換膜に達したときに膜の特性によりそのイオンが膜を通り抜けられるか弾かれるかが決まる。膜を通過できたイオンは、次の膜が反対に荷電しているため、次のコンパートメントに貯留される。このため、スティックウォーターの流れは脱塩回路を通過する一方、同時に別の回路には塩を蓄積する水の流れがあり、濃縮塩水が形成される。
【0025】
3.脱塩後のスティックウォーターは、温度を60℃に、NaOHの添加によりpHを7.5から9に調整した調整槽にポンプで汲み入れ、この条件下で、蒸発プラント――これは、硫化膜式蒸発器、真空蒸発器、又は他の蒸発手段でよい――で蒸発工程にかける。タンパク質内部のペプチド結合を加水分解する目的で、この工程の最初から継続して、バクテリア(Bacillus licheniformis)由来のアルカリプロテアーゼ(エンドペプチダーゼ)を、スティックウォーターのタンパク質含有量の1%の割合で加える。蒸発工程は、使用する蒸発するプラントの種類により30から60分間を要するが、濃縮液が固形物の40から45%に達したら終了し、次いで、酵素を不活性化させるため、85℃、15分間の最終加熱工程にかける。
【0026】
4.蒸発工程の後、加水分解濃縮液は18から20%の加水分解度で緩衝タンクに一時貯蔵し、次いで、「スプレードライヤー」にポンプで汲み入れ、固形物含有率が90から95%、含水率が3から5%となるまで脱水する。
【0027】
5.最後に、乾燥した製品――タンパク質92%、分子量1000ダルトン未満、消化率は98%より大きい――は再水和を避けるため防湿性軟質バッグで包装する。
図1