(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。
実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率などは、現物と異なる場合がある。具体的な寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0011】
本開示の一態様である負極活物質は、Li
2zSiO
(2+z)(0<z<2)で表されるリチウムシリケート相と、リチウムシリケート相中に分散したシリコン粒子とを備える。さらに、当該負極活物質は、リチウムシリケート相中に分散した、Fe、Pb、Zn、Sn、Cu、Ni及びCrから選択される1種以上の金属又は合金を主成分とする金属粒子を備える。本開示の一態様である負極活物質は、シリコン粒子の表面に形成される自然酸化膜程度のSiO
2を含有していてもよい。なお、自然酸化膜のSiO
2と、従来のSiO
x粒子のSiO
2は性質が大きく異なる。例えば、本開示の一態様である負極活物質のXRD測定により得られるXRDパターンには、2θ=25°にSiO
2のピークが観察されない。これは、自然酸化膜が極めて薄いため、X線が回折しないためであると考えられる。一方、従来のSiO
x粒子のXRDパターンには、2θ=25°にSiO
2のピークが観察される。
【0012】
従来のSiO
xは、SiO
2のマトリクスの中に微小なSi粒子が分散したものであり、充放電時には下記の反応が起こる。
(1)SiO
x(2Si+2SiO
2)+16Li
++16e
-
→3Li
4Si+Li
4SiO
4
Si、2SiO
2について式1を分解すると下記の式になる。
(2)Si+4Li
++4e
- → Li
4Si
(3)2SiO
2+8Li
++8e
- → Li
4Si+Li
4SiO
4
上記のように、式3が不可逆反応であり、Li
4SiO
4の生成が初回充放電効率を低下させる主な要因となっている。
【0013】
本開示の一態様である負極活物質は、シリコン粒子がLi
2zSiO
(2+z)(0<z<2)で表されるリチウムシリケート相に分散したものであり、例えば従来のSiO
xに比べてSiO
2の含有量が大幅に少ない。また、本負極活物質に含有されるSiO
2は自然酸化膜であり、従来のSiO
x粒子のSiO
2と性質が大きく異なる。したがって、当該負極活物質を用いた非水電解質二次電池では、式3の反応が起こり難く、初回充放電効率が向上するものと考えられる。
【0014】
本開示の一態様である負極活物質には、Fe等を主成分とする金属粒子がリチウムシリケート相中に分散しており、当該活物質を用いた非水電解質二次電池は、従来のSiO
xを用いた非水電解質二次電池と比べてサイクル寿命が大幅に改善される。かかるサイクル寿命の改善は、Fe等を主成分とする金属粒子の展性により活物質粒子の崩壊が抑制されたことに起因すると考えられる。当該金属粒子の添加による活物質粒子の崩壊抑制は、少量の添加であっても効果が見られるが、リチウムシリケート相と、シリコン粒子と、金属粒子とで構成される母粒子の総質量に対して0.01質量%以上の添加量とすることが好ましい。
【0015】
実施形態の一例である非水電解質二次電池は、上記負極活物質を含む負極と、正極と、非水溶媒を含む非水電解質とを備える。正極と負極との間には、セパレータを設けることが好適である。非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる電極体と、非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。或いは、巻回型の電極体の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。非水電解質二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0016】
[正極]
正極は、例えば金属箔等からなる正極集電体と、当該集電体上に形成された正極合材層とで構成されることが好適である。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質の他に、導電材及び結着材を含むことが好適である。また、正極活物質の粒子表面は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)等の酸化物、リン酸化合物、ホウ酸化合物等の無機化合物の微粒子で覆われていてもよい。
【0017】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が例示できる。リチウム遷移金属酸化物は、例えばLi
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
yNi
1-yO
2、Li
xCo
yM
1-yO
z、Li
xNi
1-yM
yO
z、Li
xMn
2O
4、Li
xMn
2-yM
yO
4、LiMPO
4、Li
2MPO
4F(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)である。これらは、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0018】
導電材は、正極合材層の電気伝導性を高めるために用いられる。導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
結着材は、正極活物質及び導電材間の良好な接触状態を維持し、且つ正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高めるために用いられる。結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が例示できる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩(CMC−Na、CMC−K、CMC-NH
4等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
[負極]
負極は、例えば金属箔等からなる負極集電体と、当該集電体上に形成された負極合材層とで構成されることが好適である。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質の他に、結着材を含むことが好適である。結着剤としては、正極の場合と同様にフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて合材スラリーを調製する場合は、CMC又はその塩(CMC−Na、CMC−K、CMC-NH
4等、また部分中和型の塩であってもよい)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA−Na、PAA−K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることが好ましい。
【0021】
図1に実施形態の一例である負極活物質粒子10の断面図を示す。
図1で例示するように、負極活物質粒子10は、リチウムシリケート相11と、リチウムシリケート相11中に分散したシリコン粒子12と、リチウムシリケート相11中に分散したFe等を主成分とする金属粒子15とを備える。負極活物質粒子10に含まれるSiO
2は、自然酸化膜程度であって、負極活物質粒子10のXRD測定により得られるXRDパターンの2θ=25°にSiO
2のピークが観察されないことが好適である。リチウムシリケート相11と、シリコン粒子12と、金属粒子15とで構成される母粒子13の表面には、導電層14が形成されていることが好適である。
【0022】
母粒子13は、リチウムシリケート相11、シリコン粒子12、及び金属粒子15以外の第3成分を含んでいてもよい。母粒子13に自然酸化膜のSiO
2が含まれる場合、その含有量は、好ましくは10質量%未満、より好ましくは7質量%未満である。なお、シリコン粒子12の粒径が小さいほど表面積が大きくなり、自然酸化膜のSiO
2が多くなる。
【0023】
負極活物質粒子10のシリコン粒子12は、黒鉛等の炭素材料と比べてより多くのリチウムイオンを吸蔵できることから、負極活物質粒子10を負極活物質に適用することで電池の高容量化に寄与する。負極合材層には、負極活物質として負極活物質粒子10のみを単独で用いてもよい。但し、シリコン材料は黒鉛よりも充放電による体積変化が大きいことから、高容量化を図りながらサイクル特性を良好に維持すべく、かかる体積変化が小さな他の活物質を併用してもよい。他の活物質としては、黒鉛等の炭素材料が好ましい。
【0024】
黒鉛には、従来から負極活物質として使用されている黒鉛、例えば鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などを用いることができる。黒鉛を併用する場合、負極活物質粒子10と黒鉛との割合は、質量比で1:99〜30:70が好ましい。負極活物質粒子10と黒鉛の質量比が当該範囲内であれば、高容量化とサイクル特性向上を両立し易くなる。一方、黒鉛に対する負極活物質粒子10の割合が1質量%よりも低い場合は、負極活物質粒子10を添加して高容量化するメリットが小さくなる。
【0025】
リチウムシリケート相11は、Li
2zSiO
(2+z)(0<z<2)で表されるリチウムシリケートからなる。即ち、リチウムシリケート相11を構成するリチウムシリケートには、Li
4SiO
4(Z=2)が含まれない。Li
4SiO
4は、不安定な化合物であり、水と反応してアルカリ性を示すため、Siを変質させて充放電容量の低下を招く。リチウムシリケート相11は、安定性、作製容易性、リチウムイオン導電性等の観点から、Li
2SiO
3(Z=1)又はLi
2Si
2O
5(Z=1/2)を主成分とすることが好適である。Li
2SiO
3又はLi
2Si
2O
5を主成分(最も質量が多い成分)とする場合、当該主成分の含有量はリチウムシリケート相11の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0026】
リチウムシリケート相11は、微細な粒子の集合により構成されることが好適である。リチウムシリケート相11は、例えばシリコン粒子12よりもさらに微細な粒子から構成される。負極活物質粒子10のXRDパターンでは、例えばSiの(111)のピークの強度が、リチウムシリケートの(111)のピークの強度よりも大きい。
【0027】
充放電後の負極活物質粒子10には、Li
4SiO
4が含まれないことが好適である。負極活物質粒子10の出発原料には、自然酸化膜程度のSiO
2が含まれるだけなので、初回充放電において、上述した式(3)の反応が起こり難く、不可逆反応物であるLi
4SiO
4が生成し難い。
【0028】
シリコン粒子12は、リチウムシリケート相11中に略均一に分散していることが好適である。負極活物質粒子10(母粒子13)は、例えばリチウムシリケートのマトリックス中に微細なシリコン粒子12が分散した海島構造を有し、任意の断面においてシリコン粒子12が一部の領域に偏在することなく略均一に点在している。母粒子13におけるシリコン粒子12(Si)の含有量は、高容量化及びサイクル特性の向上等の観点から、母粒子13の総質量に対して20質量%〜95質量%であることが好ましく、35質量%〜75質量%がより好ましい。Siの含有量が低すぎると、例えば充放電容量が低下し、またリチウムイオンの拡散不良により負荷特性が低下する。Siの含有量が高すぎると、例えばSiの一部がリチウムシリケートで覆われず露出して電解液が接触し、サイクル特性が低下する。
【0029】
シリコン粒子12の平均粒径は、例えば充放電前において500nm以下であり、200nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。充放電後においては、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。シリコン粒子12を微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなり電極構造の崩壊を抑制し易くなる。シリコン粒子12の平均粒径は、負極活物質粒子10の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより測定され、具体的には100個のシリコン粒子12の最長径を平均して求められる。
【0030】
金属粒子15は、鉄(Fe)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zn)、錫(Sn)、及び銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びクロム(Cr)から選択される1種以上の金属又は合金を主成分(金属粒子15を構成する金属又は合金において最も質量が多い成分)とする粒子であって、シリコン粒子12に比べて充放電に伴う体積変化が小さく展性に優れる粒子である。金属粒子15は、充放電に伴う母粒子13の体積変化を緩和し、母粒子13の崩壊を抑制する役割を果たす。金属粒子15は、Fe、Pb、及びCuから選択される1種以上の金属又は合金を主成分とすることが好ましく、Feを主成分とすることが特に好ましい。
【0031】
金属粒子15の主成分がFeである場合、Feの含有量は金属粒子15の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。金属粒子15を構成する金属又は合金は、Feのみ(約100質量%)であってもよく、またPb、Zn、Sn、Cu、C、Cr、Ni、Mo、Nb、Mn等を含有する鉄合金(例えば、ステンレス鋼)であってもよい。
【0032】
金属粒子15は、シリコン粒子12と同様に、リチウムシリケート相11中に略均一に分散していることが好適である。母粒子13は、例えばリチウムシリケートのマトリックス中に微細な金属粒子15が分散した海島構造を有し、任意の断面において金属粒子15が一部の領域に偏在することなく略均一に点在している。母粒子13における金属粒子15の含有量は、母粒子13の総質量に対して0.01質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜15質量%がより好ましく、1質量%〜10質量%が特に好ましい。金属粒子15の含有量が当該範囲内であれば、母粒子13の崩壊を抑制してサイクル寿命を改善できると共に高容量化を図ることができる。
【0033】
さらに、金属粒子15を構成する金属又は合金は、Si及びリチウムシリケートの少なくとも一方と合金化していることが好適である。詳しくは後述するように、金属粒子15は、シリコン粒子12及びリチウムシリケート相11を構成するリチウムシリケートと共に熱処理されることで、Si及びリチウムシリケートの少なくとも一方と合金化する。換言すると、金属粒子15の構成材料は、Si及びリチウムシリケートの少なくとも一方を含有する合金である。金属粒子15を構成する金属又は合金は、少なくともリチウムシリケート相11のリチウムシリケートと合金化していることが好ましく、Si及びリチウムシリケートと合金化していてもよい。かかる合金化によって、例えば金属粒子15とリチウムシリケート相11の密着性が強固になり、充放電に伴う母粒子13の崩壊を抑制し易くなる。なお、金属粒子15を構成する金属又は合金とSi及びリチウムシリケートの少なくとも一方とが合金化していることは、エネルギー分散型X線分光分析(EDS)を用いて確認することができる。
【0034】
金属粒子15の平均粒径は、シリコン粒子12の平均粒径よりも小さく、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。金属粒子15の粒径が大き過ぎると、例えば粒子数が減少してリチウムシリケート等との密着性が低下する。金属粒子15の粒径は、充放電の前後において殆ど変化しないことが好適である。シリコン粒子12よりも小粒径の金属粒子15を添加することにより、母粒子13の崩壊を抑制し易くなる。金属粒子15の平均粒径は、シリコン粒子12の場合と同様に、負極活物質粒子10の断面をSEM又はTEMを用いて観察することにより測定され、具体的には100個の金属粒子15の最長径を平均して求められる。
【0035】
負極活物質粒子10の平均粒径は、高容量化及びサイクル特性の向上等の観点から、1〜15μmが好ましく、4〜10μmがより好ましい。ここで、負極活物質粒子10の平均粒径とは、一次粒子の粒径であって、レーザー回折散乱法(例えば、HORIBA製「LA−750」を用いて)で測定される粒度分布において体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。負極活物質粒子10の平均粒径が小さくなり過ぎると、表面積が大きくなるため、電解質との反応量が増大して容量が低下する傾向にある。一方、平均粒径が大きくなり過ぎると、充放電による体積変化量が大きくなるため、サイクル特性が低下する傾向にある。なお、負極活物質粒子10(母粒子13)の表面には、導電層14を形成することが好ましいが、導電層14の厚みは薄いため、負極活物質粒子10の平均粒径に影響しない(負極活物質粒子10の粒径≒母粒子13の粒径)。
【0036】
母粒子13は、例えば下記の工程1〜3を経て作製される。
(1)いずれも平均粒径が数μm〜数十μm程度に粉砕された、Si粉末、リチウムシリケート粉末、Fe等を主成分とする金属粉末を所定の質量比で混合して混合物を作製する。
(2)次に、ボールミルを用いて上記混合物を粉砕し微粒子化する。なお、それぞれの原料粉末を微粒子化してから、混合物を作製することも可能である。
(3)粉砕された混合物を、例えば不活性雰囲気中、600〜1000℃で熱処理する。当該熱処理では、ホットプレスのように圧力を印加して上記混合物の燒結体を作製してもよい。Li
2zSiO
(2+z)(0<z<2)で表されるリチウムシリケートは、上記温度範囲で安定であり、Siと反応しないので容量が低下することはない。また、ボールミルを使用せず、Siナノ粒子及びリチウムシリケートナノ粒子を合成し、これらを混合して熱処理を行うことで母粒子13を作製することも可能である。
【0037】
負極活物質粒子10は、シリコン粒子12及び金属粒子15を包むリチウムシリケート相11よりも導電性の高い材料から構成される導電層14を粒子表面に有することが好適である。導電層14を構成する導電材料としては、電気化学的に安定なものが好ましく、炭素材料、金属、及び金属化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。当該炭素材料には、正極合材層の導電材と同様に、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、及びこれらの2種以上の混合物などを用いることができる。当該金属には、負極の電位範囲で安定な銅、ニッケル、及びこれらの合金などを用いることができる。当該金属化合物としては、銅化合物、ニッケル化合物等が例示できる(金属又は金属化合物の層は、例えば無電解めっきにより母粒子13の表面に形成できる)。中でも、炭素材料を用いることが特に好ましい。
【0038】
母粒子13の表面を炭素被覆する方法としては、アセチレン、メタン等を用いたCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂等を母粒子13と混合し、熱処理を行う方法などが例示できる。また、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を結着材を用いて母粒子13の表面に固着させることで炭素被覆層を形成してもよい。
【0039】
導電層14は、母粒子13の表面の略全域を覆って形成されることが好適である。導電層14の厚みは、導電性の確保と母粒子13へのリチウムイオンの拡散性を考慮して、1〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましい。導電層14の厚みが薄くなり過ぎると、導電性が低下し、また母粒子13を均一に被覆することが難しくなる。一方、導電層14の厚みが厚くなり過ぎると、母粒子13へのリチウムイオンの拡散が阻害されて容量が低下する傾向にある。導電層14の厚みは、SEM又はTEM等を用いた粒子の断面観察により計測できる。
【0040】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0041】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0042】
上記エーテル類の例としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0043】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0044】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF
4、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiSCN、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、Li(P(C
2O
4)F
4)、LiPF
6-x(C
nF
2n+1)
x(1<x<6,nは1又は2)、LiB
10Cl
10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li
2B
4O
7、Li(B(C
2O
4)F
2)等のホウ酸塩類、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(C
1F
2l+1SO
2)(C
mF
2m+1SO
2){l,mは1以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF
6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8〜1.8molとすることが好ましい。
【0045】
[セパレータ]
セパレータには、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
[負極活物質の作製]
不活性雰囲気中で、Si粉末(3N、10μm粉砕品)、Li
2SiO
3粉末(10μm粉砕品)、及びFe粉末(10μm粉砕品)を、41.5:57.5:1の質量比で混合し、遊星ボールミル(フリッチュ製、P−5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填した。当該ポットにSUS製ボール(直径20mm)を24個入れてフタを閉め、200rpmで50時間粉砕処理した。その後、不活性雰囲気中で粉末を取り出し、不活性雰囲気・800℃×4時間の条件で熱処理を行った。熱処理した粉末(以下、母粒子という)を粉砕し、40μmのメッシュに通した後、石炭ピッチ(JFEケミカル製、MCP250)と混合して、不活性雰囲気・800℃で熱処理することにより、母粒子の表面を炭素で被覆して導電層を形成した。炭素の被覆量は、母粒子及び導電層を含む粒子の総質量に対して約5質量%である。その後、篩を用いて平均粒径を5μmに調整することにより負極活物質A1を得た。
【0048】
[負極活物質の分析]
負極活物質A1の断面をTEMで観察した結果、Si粒子の平均粒径は50nm未満、Fe粒子の平均粒径は30nm未満であった。
図2は、負極活物質A1の粒子断面のSEM画像を示す。負極活物質A1の粒子断面をSEMで観察した結果、Li
2SiO
3からなるマトリックス中にSi粒子及びFe粒子が略均一に分散していることが確認された。負極活物質A1のXRDパターンには、Si、Li
2SiO
3に由来するピークが確認された。なお、Fe粒子の含有量は、ICP発光分析により測定することができる。また、2θ=25°にSiO
2のピークは観察されなかった。負極活物質A1をSi−NMRで測定した結果、SiO
2の含有量は7質量%未満(検出下限値以下)であった。
【0049】
[負極の作製]
次に、負極活物質A1及びポリアクリロニトリル(PAN)を、95:5の質量比で混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(シンキー製、あわとり練太郎)を用いて攪拌して、負極合材スラリーを調製した。そして、銅箔の片面に負極合材層の1m
2当りの質量が25gとなるように当該スラリーを塗布し、大気中、105℃で塗膜を乾燥した後、圧延することにより負極を作製した。負極合材層の充填密度は、1.50g/cm
3とした。
【0050】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、3:7の体積比で混合した混合溶媒に、LiPF
6を濃度が1.0mol/Lとなるように添加して非水電解液を調製した。
【0051】
[非水電解質二次電池の作製]
不活性雰囲気中で、Niタブを取り付けた上記負極及びリチウム金属箔を、ポリエチレン製セパレータを介して対向配置させることにより電極体とした。当該電極体をアルミニウムラミネートフィルムで構成される電池外装体内に入れ、非水電解液を電池外装体内に注入し、電池外装体を封止して、電池T1を作製した。
【0052】
<実施例2>
Si粉末、Li
2SiO
3粉末、及びFe粉末の混合比率(質量比)を、42:57.9:0.1に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質A2及び電池T2を作製した。
【0053】
<実施例3>
Si粉末、Li
2SiO
3粉末、及びFe粉末の混合比率(質量比)を、40:55:5に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質A3及び電池T3を作製した。
【0054】
<実施例4>
Si粉末、Li
2SiO
3粉末、及びFe粉末の混合比率(質量比)を、38:53:9に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質A4及び電池T4を作製した。
【0055】
<実施例5>
Si粉末、Li
2SiO
3粉末、及びFe粉末の混合比率(質量比)を、36.5:50.5:13に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質A5及び電池T5を作製した。
【0056】
<実施例6>
Si粉末、Li
2SiO
3粉末、及びFe粉末の混合比率(質量比)を、35:50:15に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質A6及び電池T6を作製した。
【0057】
<比較例1>
上記ボールミルを用いて、Si粉末(3N、10μm粉砕品)及びLi
2SiO
3粉末(10μm粉砕品)を、それぞれ不活性雰囲気で50時間粉砕した後、50:50の質量比で混合し、熱処理をせず、混合状態のまま負極活物質B1として用いた。また、実施例1と同様の方法で電池R1を作製した。負極活物質B1では、Si粒子の表面にLi
2SiO
3粒子が付着しているものの、Li
2SiO
3のマトリックス(連続相)が形成されていない。即ち、Li
2SiO
3相中にSi粒子が分散した単一粒子構造を有さない。
【0058】
<比較例2>
Fe粉末を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で電池R2を作製した。
【0059】
<比較例3>
5質量%の炭素で被覆されたSiO
x(x=0.97、平均粒径5μm)を負極活物質として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で電池R3を作製した。
【0060】
実施例1〜6及び比較例1〜3の各電池について、以下の方法で初回充放電効率の評価を行った。評価結果は、表1に示した。
【0061】
[初回充放電効率の評価]
・充電
0.2Itの電流で電圧が0Vになるまで定電流充電を行い、その後0.05Itの電流で電圧が0Vになるまで定電流充電を行った。
・放電
0.2Itの電流で電圧が1.0Vになるまで定電流放電を行った。
・休止
上記充電と上記放電との間の休止期間は10分とした。
1サイクル目の充電容量に対する放電容量の割合を、初回充放電効率とした。
初回充放電効率(%)
=1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量×100
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例の電池T1〜T6はいずれも、比較例の電池R1及びR3に比べて良好な初回充放電効率を有する。即ち、Li
2SiO
3又はLi
2Si
2O
5のマトリックス中にSi粒子が分散した単一粒子を負極活物質に用いることで、初回充放電効率が向上する。
【0064】
<実施例7>
[正極の作製]
コバルト酸リチウムと、アセチレンブラック(電気化学工業社製、HS100)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、95:2.5:2.5の質量比で混合した。当該混合物に分散媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極合材スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔上に正極合材スラリーを塗布し、乾燥させた後、圧延ローラにより圧延して、アルミニウム箔の両面に密度が3.6g/cm
3の正極合材層が形成され
た正極を作製した。
【0065】
[負極の作製]
実施例1で用いた負極活物質A1と、黒鉛とを、5:95の質量比で混合したものを負極活物質A7(負極活物質A1:5質量%)として用いた。負極活物質A7と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)と、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)とを、97.5:1.0:1.5の質量比で混合し、水を添加した。これを混合機(プライミクス製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極合材スラリーを調製した。次に、銅箔上に負極合材層の1m
2当りの質量が190gとなるように当該スラリー
を塗布し、大気中、105℃で塗膜を乾燥し、圧延して、銅箔の両面に密度が1.6g/cm
3の負極合材層が形成された負極を作製した。
【0066】
[非水電解質二次電池の作製]
上記各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介してタブが取り付けられた正極及び負極を渦巻き状に巻回することにより巻回電極体を作製した。当該電極体をアルミニウムラミネートシートで構成される外装体に挿入して、105℃で2時間真空乾燥した後、上記非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して電池T7を作製した。この電池の設計容量は800mAhである。
【0067】
<実施例8>
負極活物質A1のFe粉末(10μm粉砕品)に代えてCu粉末(10μm粉砕品)を添加した負極活物質A8を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で電池T8を作製した。
【0068】
<実施例9>
負極活物質A1のFe粉末(10μm粉砕品)に代えてPb粉末(10μm粉砕品)を添加した負極活物質A9を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で電池T9を作製した。
【0069】
<実施例10>
負極活物質A1の代わりに負極活物質A2を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で電池T10を作製した。
【0070】
<実施例11>
負極活物質A1の代わりに負極活物質A3を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で電池T11を作製した。
【0071】
<実施例12>
負極活物質A1の代わりに負極活物質A4を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で電池T12を作製した。
【0072】
<実施例13>
負極活物質A1の代わりに負極活物質A5を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で電池T13を作製した。
【0073】
<実施例14>
負極活物質A1の代わりに負極活物質A6を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で電池T14を作製した。
【0074】
<比較例4>
負極活物質A1の代わりに負極活物質B2を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で電池R4を作製した。
【0075】
実施例7〜14及び比較例4の各電池について、以下の方法で初回充放電効率の評価、100サイクル後の負極活物質粒子の外観評価、及びサイクル寿命の評価を行った。評価結果は、表2に示した。
【0076】
[初回充放電効率の評価]
・充電
1It(800mA)の電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後4.2Vの定電圧で電流が1/20It(40mA)になるまで定電圧充電した。
・放電
1It(800mA)の電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。
・休止
上記充電と上記放電との間の休止期間は10分とした。
上記充放電条件で各電池について初回充放電効率を測定した。
【0077】
[100サイクル後の負極活物質粒子の外観評価(粒子崩壊の確認)]
100サイクルの充放電を行った電池を不活性雰囲気下で分解した。分解した電池から負極を取り出し、不活性雰囲気下でクロスセクションポリッシャー(日本電子製)を用いて負極活物質断面を露出させ、当該断面をSEMで観察して粒子崩壊の有無を確認した。粒子断面において、元々1つの粒子が2個以上の微粒子に割れている状態を粒子崩壊と定義した。
【0078】
[サイクル寿命の評価]
上記充放電条件で各電池についてサイクル試験を行った。1サイクル目の放電容量の80%に達するまでのサイクル数を測定し、サイクル寿命とした。なお、各電池のサイクル寿命は、電池R4のサイクル寿命を100とした指数である。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示すように、実施例の電池T7〜T14はいずれも、金属粒子を含有しない負極活物質を用いた比較例の電池R4と比べてサイクル寿命が大幅に向上しており、5質量%以上のFe粒子を添加することで(電池T11〜T14)、特に優れたサイクル特性が得られた。なお、Cu粒子、Pb粒子を含有する負極活物質を用いた場合にも、サイクル寿命の向上が確認された。
【0081】
電池R4に用いた負極活物質は100サイクル後における粒子の崩壊が激しかったが、電池T7〜T14に用いた負極活物質は100サイクル後においても粒子の崩壊が殆ど確認されなかった。比較例の負極活物質は、Li
2SiO
3又はLi
2Si
2O
5のマトリックス中にSi粒子が分散した単一粒子であるが、充放電サイクルに伴いSi粒子の膨張応力による歪みが蓄積して活物質粒子が崩壊したものと考えられる。一方、上記単一粒子に金属粒子が添加された実施例の負極活物質では、金属粒子により活物質粒子の体積変化が緩和されると共に活物質粒子の密着性が向上し、活物質粒子の崩壊が抑制されたと推測される。