特許第6685940号(P6685940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NECエナジーデバイス株式会社の特許一覧

特許6685940リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
<>
  • 特許6685940-リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池 図000003
  • 特許6685940-リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685940
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20200413BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20200413BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20200413BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200413BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20200413BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   H01M4/133
   H01M10/0525
   H01M10/0566
   H01M4/36 C
   H01M4/587
   H01M4/62 Z
【請求項の数】22
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-571966(P2016-571966)
(86)(22)【出願日】2016年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2016051509
(87)【国際公開番号】WO2016121585
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2018年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-15519(P2015-15519)
(32)【優先日】2015年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310010081
【氏名又は名称】株式会社エンビジョンAESCエナジーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】武田 幸三
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−067643(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/114095(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/152092(WO,A1)
【文献】 特開2009−205950(JP,A)
【文献】 特開2004−134304(JP,A)
【文献】 特開2005−183287(JP,A)
【文献】 特開2014−186955(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/098962(WO,A1)
【文献】 特開2011−060467(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/002162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質と、微細黒鉛系材料と、導電助材と、結着材を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記微細黒鉛系材料の含有率は、前記導電助材に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にあり、
前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、前記負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さく、1〜15μmの範囲にあり、
前記負極活物質は、その平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50が1.3以下である、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
負極活物質と、微細黒鉛系材料と、導電助材と、結着材を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記微細黒鉛系材料の含有率は、前記導電助材に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にあり、
前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、前記負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さく、1〜15μmの範囲にあり、
前記負極活物質は、その平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50が1.5以下であり、
前記微細黒鉛系材料は、その平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50が1.5より大きい、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
負極活物質と、微細黒鉛系材料と、導電助材と、結着材を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記微細黒鉛系材料の含有率は、前記導電助材に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にあり、
前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、前記負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さく、1〜15μmの範囲にあり、
前記負極活物質に対する前記微細黒鉛系材料の含有率が0.1〜6.0質量%の範囲にある、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記負極活物質に対する前記微細黒鉛系材料の含有率が0.1〜6.0質量%の範囲にある、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
記微細黒鉛系材料は、前記負極活物質の粒子に接する粒子、又は前記負極活物質の粒子に接した前記導電助材の粒子に接する粒子を含み、該微細黒鉛系材料の粒子を介して負極活物質粒子間に導電経路が形成されている請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記負極活物質の平均粒子径(D50)であるDaに対する前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)であるDbの比Db/Daが0.2〜0.7の範囲にある、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記負極活物質の平均粒子径(D50)は10〜30μmの範囲にある、請求項1からのいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
前記負極活物質は、その平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50が1.5以下である、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
前記負極活物質は、その平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50が1.3以下である、請求項2又は8に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
前記微細黒鉛系材料は、その平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50が1.5より大きい、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項11】
前記微細黒鉛系材料は、その平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50が1.65以上である、請求項8又は9に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項12】
前記微細黒鉛系材料の比表面積は、45m/g以下である、請求項1から11のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項13】
前記微細黒鉛系材料は、鱗片状粒子からなる、請求項1から12のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項14】
前記微細黒鉛系材料は、人造黒鉛からなる、請求項1から13のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項15】
前記負極活物質に対する前記導電助材の含有率が0.1〜3.0質量%の範囲にある、請求項1から14のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項16】
前記導電助材は、平均粒子径(D50)が10〜100nmの範囲にある非晶質炭素粒子、又はナノカーボン材料からなる、請求項1から15のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項17】
前記負極活物質は、球形化された活物質材料である、請求項1から16のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項18】
前記負極活物質は、その平均粒子円形度が0.6〜1の範囲にある、請求項17に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項19】
前記負極活物質は黒鉛系材料である、請求項1から18のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項20】
前記黒鉛系材料は、天然黒鉛、又は天然黒鉛を非晶質炭素で被覆したものからなる、請求項19に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項21】
負極活物質に対する結着材の含有率が0.5〜30質量%の範囲にある、請求項1から20のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項22】
正極と、請求項1から21のいずれか一項に記載の負極と、非水電解液とを含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、充放電サイクル特性に優れるため、携帯電話やノート型パソコン等の小型のモバイル機器用の電源として広く用いられている。また、近年では、環境問題に対する配慮と省エネルギー化に対する意識の高まりから、電気自動車やハイブリッド電気自動車、電力貯蔵分野といった大容量で長寿命が要求される大型電池に対する需要も高まっている。
【0003】
一般に、リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵放出し得る炭素材料を負極活物質として含む負極と、リチウムイオンを吸蔵放出し得るリチウム複合酸化物を正極活物質として含む正極と、負極と正極とを隔てるセパレータと、非水溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液とで主に構成されている。
【0004】
負極活物質として用いられる炭素材料としては、非晶質炭素や黒鉛が用いられ、特に高エネルギー密度が要求される用途では、一般に黒鉛が用いられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、非水電解質二次電池の負極に用いられる炭素材料として、人造黒鉛粒子と天然黒鉛粒子を50:50〜80:20(質量比)で混合されたものであって、人造黒鉛粒子は、X線回折パターンにおける(002)面の面間隔d002が0.3354〜0.3360nmであり、平均アスペクト比が1〜5であり、天然黒鉛粒子は、X線回折パターンにおける(002)面の面間隔d002が0.3354〜0.3357nmであり、メジアン径(D50)が10〜25μmであり、D50と10%積算径(D10)と90%積算径(D90)の関係が、D90/D50、D50/D10ともに1.6以下であるものが記載されている。このような炭素材料を用いて低温環境下における充電負荷特性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とすることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、非水電解質二次電池の負極として、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な第1の炭素と、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能かあるいは実質的にリチウムイオンを吸蔵しない第2の炭素を含む負極であって、第2の炭素粒子からなる凝集体が第1の炭素の複数の粒子の間隙に主に局在しており、第2の炭素の平均粒子径が第1の炭素の平均粒子径の15%以下であるものが記載されている。このような負極を用いて、充放電サイクルによる合剤層の剥離の防止ができ、高い容量が得られる非水電解質二次電解質を提供することを目的とすることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、黒鉛質粒子(A)及び炭素材(B)を含む非水電解液二次電池用負極材であって、黒鉛質粒子(A)は、X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が3.37Å(0.337nm)以下、平均円形度が0.9以上であり、炭素材(B)は、面間隔(d002)が3.37Å(0.337nm)以下、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおけるラマンR値(1360cm-1付近ピーク強度/1580cm-1付近ピーク強度)が0.18〜0.7、アスペクト比が4以上、平均粒子径(d50)が2〜12μmであり、黒鉛質粒子(A)及び炭素材(B)の総量に対する炭素材(B)の質量割合が0.5〜15質量%であるものが記載されている。このような負極材を用いた非水電解液二次電池は、低い不可逆容量、かつ充放電効率に優れた特性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−026514号公報
【特許文献2】特開2012−014838号公報
【特許文献3】特開2012−084519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、黒鉛系負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、サイクル特性のさらなる改善が求められている。
【0010】
本発明の目的は、サイクル特性が改善されたリチウムイオン二次電池及びこれに好適な負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、負極活物質と、微細黒鉛系材料と、導電助材と、結着材を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記微細黒鉛系材料の含有率は、前記導電助材に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にあり、
前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、前記負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さく、1〜15μmの範囲にある、リチウムイオン二次電池用負極を提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、負極活物質と、微細黒鉛系材料と、導電助材と、結着材を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記微細黒鉛系材料は、前記負極活物質の粒子に接する粒子、又は前記負極活物質の粒子に接した前記導電助材の粒子に接する粒子を含み、該微細黒鉛系材料の粒子を介して負極活物質粒子間に導電経路が形成され、
前記微細黒鉛系材料の含有量は、前記導電助材に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にあり、
前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、前記負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さく、1〜15μmの範囲にある、リチウムイオン二次電池用負極が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、正極と上記の負極と非水電解液とを含むリチウムイオン二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、サイクル特性が改善されたリチウムイオン二次電池及びこれに好適な負極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態による負極内の粒子の分布状態(放電による活物質の収縮時の状態)を説明するための模式図である(図1(a)は関連技術による負極の場合を示し、図1(b)は本実施形態による負極の場合を示す)。
図2】本発明の実施形態によるリチウムイオン二次電池の一例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
本発明の実施形態による負極は、負極活物質と、微細黒鉛系材料と、導電助材と、結着材を含む。この微細黒鉛系材料は、負極活物質の粒子に接する粒子、又は負極活物質の粒子に接した導電助材の粒子に接する粒子を含み、その微細黒鉛系材料の粒子(以下「微細黒鉛系粒子」ともいう)を介して負極活物質粒子間に導電経路が形成できる。
【0018】
この負極における微細黒鉛系材料の含有量は、導電助材に対して等量から10倍量(質量比)の範囲にあり、この微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さいことが好ましく、さらに1〜15μmの範囲にあることが好ましい。
【0019】
この負極は集電体を含むことができ、この集電体上に負極活物質と微細黒鉛系材料と導電助材と結着材を含む負極活物質層を形成することができる。
【0020】
本発明の実施形態による負極を用いることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上することができる。これは、負極活物質の粒子に対して適度なサイズの微細黒鉛系粒子を適量添加することで、微細黒鉛系粒子が負極活物質粒子間の導電経路の形成および保持に関与し、充放電サイクルにおける負極活物質粒子間の導電経路の切れが抑制され、導電経路が保持されやすくなるためと考えられる。
【0021】
また、充放電サイクルにおける導電経路の確保のためにはそれに応じた多くの導電助材が必要であるが、微細黒鉛系材料を添加することにより、導電助材の量を抑えることができ、その結果、導電助材(特に表面積が大きいものや表面に官能基を有するもの)に起因する電解液分解によるガス発生を抑えることができ、また導電助材の多量添加に起因する剥離強度や容量の低下も防止できる。さらに、微細黒鉛系材料は容量を有するため、添加による容量低下を抑えることができる。また、微細黒鉛系材料は導電性に優れるため、低抵抗の導電パスを形成でき、サイクル特性向上に寄与することができる。
【0022】
カーボンブラックやケッチェンブラック等の導電助材(特に1次粒子径が数十ナノオーダーの導電助材)は、凝集性が高く、負極活物質粒子間に均一に分散させることが困難であり、導電経路のネットワークにムラが生じやすい。このような微細な導電助材粒子で形成された導電経路は、サイクル初期の導電性は有効ではあるが、充放電サイクルが繰り返されるに従って、例えば負極活物質の体積変化(膨張、収縮)に起因して、導電経路の切れが生じやすく、急激な抵抗上昇、容量低下が発生する場合がある。さらに、導電助材の微粒子が負極活物質粒子間の隙間を埋めてしまい、電解液の流路も切断される場合があった。これに対して、微細黒鉛系粒子は、その粒径が比較的大きいため、分散性に優れ、導電経路のネットワークのムラが抑えられ、負極活物質粒子間の隙間の充填も抑えることができる。結果、充放電サイクル中に導電経路や電解液流路の切れが起きにくくなり、抵抗上昇や容量劣化を抑えることができる。
【0023】
また、導電経路を構成する微細黒鉛系粒子にもSEI膜が形成され、均一に分散した微細黒鉛系粒子のSEI膜がリチウムイオンの移動経路としても機能でき、特性向上に寄与できると考えられる。
【0024】
負極活物質粒子間の導電経路の形成において、負極活物質の粒子に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に直接接してもよいし、負極に含まれている導電性粒子(例えば導電助材粒子や他の微細黒鉛系粒子)を介して負極活物質の他の粒子に電気的に接続する導電経路が形成されていてもよい。例えば、負極活物質の粒子に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に接した導電助材の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接することができる。また、負極活物質の粒子に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に接した他の微細黒鉛系粒子に接してもよい。
【0025】
また、負極活物質粒子間の導電経路の形成において、負極活物質の粒子に接した導電助材の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に直接接してもよいし、負極に含まれている導電性材料の粒子(例えば導電助材粒子や他の微細黒鉛系粒子)を介して負極活物質の他の粒子に電気的に接続する導電経路が形成されていてもよい。例えば、負極活物質の粒子に接した導電助材の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に接した導電助材の他の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接することができる。また、負極活物質の粒子に接した導電助材の粒子(一次粒子又は二次粒子)に接する微細黒鉛系粒子は、負極活物質の他の粒子に接した他の微細黒鉛系粒子に接してもよい。
【0026】
図1は、充放電サイクルを繰り返した後の放電時(活物質収縮時)の負極内の粒子の分布状態を説明するための模式図であり、図1(a)は微細黒鉛系材料が無添加の場合、図1(b)は微細黒鉛系材料が添加された場合を示す。図中の符号11は負極活物質粒子、符号12は導電助材粒子、符号13は微細黒鉛系粒子を示す。図1(a)においては、充放電サイクル後の放電時の活物質収縮により、導電経路が切断されているのに対して、図1(b)においては、微細黒鉛系粒子13を介して矢印に沿った導電経路が保持されていることが示されている。図中では、微細黒鉛系粒子が負極活物質粒子に直接接触しているが、負極活物質粒子に接触している導電助材粒子やその二次粒子に接触していてもよい。
【0027】
以下に、本発明の実施形態による負極及びリチウムイオン二次電池についてさらに詳細に説明する。
【0028】
(負極活物質)
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な負極用の活物質材料であれば特に限定されないが、黒鉛系材料、非晶質炭素(例えば易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素)等の炭素系活物質材料を好適に用いることができる。この炭素系活物質材料としては、リチウムイオン二次電池の負極活物質として通常使用されるものを用いて調製することができる。黒鉛系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛を用いることができ、材料コストの観点から安価な天然黒鉛が好ましい。非晶質炭素としては、例えば、石炭ピッチコークス、石油ピッチコークス、アセチレンピッチコークス等を熱処理して得られるものが挙げられる。
【0029】
負極活物質として黒鉛系材料、特に天然黒鉛を用いる場合、この黒鉛系材料を非晶質炭素で被覆することができる。非晶質炭素で黒鉛系材料の粒子の表面を被覆する方法は、通常の方法に従って行うことができる。例えば、粒子表面にタールピッチ等の有機物を付着させ熱処理する方法や、ベンゼン、キシレン等の縮合炭化水素等の有機物を用いた化学気相成長法(CVD法)やスパッタ法(例えばイオンビームスパッタ法)、真空蒸着法、プラズマ法、イオンプレーティング法等の成膜法を用いることができる。黒鉛系材料の粒子が非晶質炭素で被覆されていることにより、黒鉛系材料の粒子と電解液との副反応を抑制でき、充放電効率が向上し、反応容量を増大することができ、また黒鉛系材料の粒子の硬度を高くすることができる。
【0030】
負極活物質の平均粒子径は、充放電効率や入出力特性等の観点から、2〜40μmの範囲内にあることが好ましく、5〜30μmの範囲内にあることがより好ましく、10〜30μmの範囲内にあることがさらに好ましい。ここで、平均粒子径は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径(メジアン径:D50)を意味する。
【0031】
負極活物質のBET比表面積(窒素吸着法による77Kでの測定に基づく)は、充放電効率や入出力特性の観点から、0.3〜10m2/gの範囲内にあることが好ましく、0.5〜10m2/gの範囲内がより好ましく、0.5〜7.0m2/gの範囲内がさらに好ましい。
【0032】
負極活物質のメジアン径D50に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50は1.5以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。負極活物質の粒度分布がシャープであると、均質な負極を形成でき、得られた二次電池の充放電特性を向上することができる。
【0033】
ここで、粒子径D90は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値90%での粒子径を意味し、メジアン径D50は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径を意味する。
【0034】
負極活物質の粒子は、球形化された(非鱗片状)粒子が好ましく、その平均粒子円形度が0.6〜1の範囲にあることが好ましく、0.86〜1の範囲がより好ましく、0.90〜1の範囲がさらに好ましく、0.93〜1の範囲が特に好ましい。球形化処理は通常の方法で行うことができる。このような負極活物質粒子は、原料コストを抑えながら高容量化を図る観点から、球形化された天然黒鉛粒子が好ましく、一般に入手できる球形化処理された天然黒鉛材料を用いることができる。
【0035】
粒子円形度は、粒子像を平面上に投影した場合において、粒子投影像と同一の面積を有する相当円の周囲長lと、粒子投影像の周囲長Lとの比:l/Lで与えられる。
【0036】
平均粒子円形度は、市販の電子顕微鏡(例えば、(株)日立製作所製の走査式電子顕微鏡、商品名:S−2500)を用いて次のようにして測定できる。まず、電子顕微鏡により粒子(粉末)の倍率1000倍の像を観察し、その像の平面上への投影像の周囲長Lを求める。そして、観察された粒子の投影像と同一面積を有する相当円の周囲長lを求める。周囲長lと粒子投影像の周囲長Lとの比:l/Lを任意の50個の粒子に対して求め、その平均値を平均粒子円形度とする。なお、このような測定は、フロー式粒子像分析装置を用いて実施することもできる。例えば、ホソカワミクロン(株)販売の粉体測定装置(商品名:FPIA−1000)を用いて粒子円形度を測定しても、ほぼ同じ値が得られる。
【0037】
負極活物質の円形度が高いと、負極活物質粒子間に空隙ができやすく、微細黒鉛系材料が均一に分散配置されやすくなり、サイクル特性の向上に寄与できる。また粒子間の空隙の形成により電解液が流れやすくなり、出力特性の向上に寄与できる。また、負極活物質として天然黒鉛を用いた場合、天然黒鉛は人造黒鉛に比べて電極作成時のプレスにより特定の配向を有しやすいが、球形化により配向がランダムになり、出力特性の向上に寄与できる。
【0038】
負極活物質と微細黒鉛系材料と導電助材は、公知の混合方法で混合することができる。必要に応じて、所望の効果を損なわない範囲で他の活物質材料を混合してもよい。
【0039】
負極活物質として黒鉛系材料を用いる場合、負極活物質全体(微細黒鉛系材料は含まない)に対する黒鉛系材料の含有量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。負極活物質は黒鉛系材料のみで構成できる。
【0040】
(微細黒鉛系材料)
微細黒鉛系材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛系材料を用いることができる。黒鉛系材料としては、リチウムイオン二次電池の負極活物質として通常使用されるものを用いて調製することができる。
【0041】
微細黒鉛系材料は、適度な黒鉛化度を有しながら不純物が少なく電気抵抗が低く、サイクル特性等の電池性能の向上に有利な観点から、人造黒鉛が好ましい。一般に入手できる通常の人造黒鉛を適用することができる。
人造黒鉛の物性は、原料の種類、製造時の焼成温度、雰囲気ガスの種類や圧力等に依存し、これらの製造条件を調整することにより、所望の微細黒鉛系材料を得ることができる。例えばコークス(石油系コークス、石炭系コークス等)、ピッチ(石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コールタールピッチ等)等の易黒鉛化性炭素を2000〜3000℃、好ましくは2500℃以上の高温で熱処理して黒鉛化した人造黒鉛が挙げられる。2種以上の易黒鉛化炭素を用いて黒鉛化したものも挙げられる。
【0042】
また、ベンゼンやキシレン等の炭化水素をCVD法(化学気相成長法)により熱分解し、天然黒鉛又は人造黒鉛からなる基材の表面に蒸着させ、非晶質炭素で被覆されたものを用いることができる。
【0043】
微細黒鉛系材料の含有量は、導電助材に対して等量から10倍量(質量比)の範囲に設定できる。十分な添加効果を得る点から、微細黒鉛系材料の含有量は導電助材に対して等量以上が好ましく、1.5倍量以上がより好ましく、2倍量以上がさらに好ましい。ガス発生や剥離強度低下を抑える点から、10倍量以下が好ましく、8倍量以下がより好ましく、7倍量以下がさらに好ましい。
【0044】
負極活物質に対する微細黒鉛系材料の含有率は0.1〜6.0質量%の範囲にあることが好ましい。負極活物質に対する微細黒鉛系材料の含有率は、十分な添加効果を得る観点から0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、ガス発生や剥離強度低下を抑える点から6.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下がさらに好ましい。なお、「負極活物質に対する微細黒鉛系材料の含有率」(質量%)は、微細黒鉛系材料の質量をA、負極活物質の質量をBとすると、100×A/Bで求められる。
【0045】
この微細黒鉛系材料の平均粒子径(メジアン径D50)は、負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)より小さいことが好ましく、さらに1〜15μmの範囲にあることが好ましい。
【0046】
微細黒鉛系材料のメジアン粒子径が適度に小さいことにより、単位重量あたりの粒子数が増加するため、少量の添加で接触点が増加し、導電経路の形成に有利な効果を得ることができる。また、微細黒鉛系材料の粒子が負極活物質の粒子より小さいことにより、負極活物質の粒子間や間隙に微細黒鉛系材料の粒子が配置されやすくなり、導電経路の形成に有利な効果を得ることができる。さらに、剥離強度への影響を小さくすることができる。
【0047】
このような観点から、微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)は、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また、微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)は負極活物質の平均粒子径(D50)より小さいことが好ましく、負極活物質の平均粒子径(D50)であるDaに対する前記微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)であるDbの比Db/Daが0.7以下がより好ましく、0.67以下がさらに好ましい。
【0048】
一方、微細黒鉛系材料の粒子径が小さくなりすぎると、比表面積が増大して電解液分解によるガス発生が生じやすくなったり、充放電サイクル時の導電経路が切れやすくなったりするため、微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)は、1μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、微細黒鉛系材料のBET比表面積(窒素吸着法による77Kでの測定に基づく)は、45m2/g以下が好ましく、20m2/g以下がより好ましく、Db/Daは0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。十分な接触点を形成する観点から、微細黒鉛系材料のBET比表面積は、1m2/gより大きいことが好ましく、4m2/g以上がより好ましい。
【0049】
導電助材が粒子状の場合、微細黒鉛系材料の粒子径は導電助材の粒子径より大きいことが好ましい。導電助材が繊維状の場合、微細黒鉛系材料の粒子径は導電助材の平均直径より大きいことが好ましい。充放電サイクルの結果、放電時において負極活物質の収縮により負極活物質粒子間の隙間が大きくなり、微細な導電助材による導電経路が切れる状態となっても、比較的大きなサイズを有する微細黒鉛系材料の存在によって導電経路を保持することが可能になる。
【0050】
微細黒鉛系材料の平均粒子径(D50)に対する累積分布における累積90%の粒子径(D90)の比D90/D50は1.5より大きいことが好ましく、1.65以上がより好ましい。比較的シャープな粒度分布を有する負極活物質に、比較的小粒子径でブロードな粒度分布を有する微細黒鉛系材料を添加することにより、充填率を向上でき、高い密度の混合物が得ることができる。
【0051】
ここで、D90は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値90%での粒子径を意味し、D50は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径(メジアン径)を意味する。
【0052】
微細黒鉛系材料の粒子は、負極活物質の粒子より平均粒子円形度が低いことが好ましく、その平均粒子円形度が0.86未満であることが好ましく、0.85以下であることがより好ましく、0.80以下であることがさらに好ましい。例えば、平均粒子円形度が0.5以上0.86未満の黒鉛粒子、または平均粒子円形度が0.6〜0.85の範囲にある黒鉛粒子を用いることができる。例えば、鱗片状粒子を好適に用いることができる。
【0053】
負極活物質の粒子として、球形化された粒子(非鱗片状の粒子)を用い、微細黒鉛系材料の粒子として、負極活物質粒子より円形度の低い粒子(例えば鱗片状の粒子)を用いる(好ましくは、さらに混合比率、粒度分布等を上記の通りに制御する)ことにより、負極活物質粒子間に微細黒鉛系粒子が均一に分散して埋まることができ、負極活物質粒子及び微細黒鉛系粒子を高密度に充填することが可能になる。その結果、電解液が十分に浸透しながら、粒子間の接点が十分に形成され、導電経路の切れが防止されるため、サイクル時の抵抗上昇が抑えられ、容量が低下しにくくなる。
【0054】
(導電助材)
導電助材としては、リチウムイオン二次電池の導電助材として通常使用される炭素材料を用いることができ、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック等の導電性の非晶質炭素;カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の導電性のナノカーボン材料が挙げられる。導電助材としては、使用される非晶質炭素としては、導電性が高く、黒鉛化度が低いもの(例えばR値:ID/IGが0.18以上0.7以下のもの)が使用できる。IDはラマンスペクトルの1300〜1400cm-1付近のDバンドのピーク強度であり、IGはラマンスペクトルの1500〜1600cm-1付近のGバンドのピーク強度である。
【0055】
負極活物質に対する導電助材の含有率は0.1〜3.0質量%の範囲にあることが好ましい。負極活物質に対する導電助材の含有率は、十分な導電経路を形成する観点から0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、導電助材の過剰な添加に起因する電解液分解によるガス発生や剥離強度の低下、容量の低下を抑える点から3.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。なお、「負極活物質に対する導電助材の含有率」(質量%)は、導電助材の質量をA、負極活物質の質量をBとすると、100×A/Bで求められる。
【0056】
導電助材の平均粒子径(一次粒子径)は10〜100nmの範囲にあることが好ましい。導電助材の平均粒子径(一次粒子径)は、導電助材の過度な凝集を抑えて負極中に均一に分散させる観点から10nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、十分な数の接触点が形成でき、良好な導電経路を形成する観点から100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。導電助材が繊維状の場合は、平均直径が2〜200nm、平均繊維長が0.1〜20μmのものが挙げられる。
【0057】
ここで、導電助材の平均粒子径は、メジアン径(D50)であり、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径を意味する。
【0058】
(負極の作製方法)
本発明の実施形態によるリチウムイオン二次電池用負極としては、例えば、負極集電体上に、上述の負極活物質と微細黒鉛系材料と導電助材とさらに結着材を含む負極活物質層を設けたものを用いることができる。
【0059】
負極の作製は、一般的なスラリー塗布法で形成することができる。例えば、負極活物質、微細黒鉛系材料、結着材および溶媒を含むスラリーを調製し、これを負極集電体上に塗布し、乾燥し、必要に応じて加圧することで、負極集電体上に負極活物質層が設けられた負極を得ることができる。負極スラリーの塗布方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、ディップコーティング法が挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を集電体として形成して、負極を得ることもできる。
【0060】
負極用の結着材としては、特に制限されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムが挙げられる。スラリー溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や水を用いることができる。水を溶媒として用いる場合、さらに増粘剤として、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコールを用いることができる。
【0061】
この負極用の結着材の含有率は、トレードオフの関係にある結着力とエネルギー密度の観点から、負極活物質に対する含有率として0.5〜30質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜25質量%の範囲がより好ましく、1〜20質量%の範囲がさらに好ましい。
【0062】
負極集電体としては、特に制限されるものではないが、電気化学的な安定性から、銅、ニッケル、ステンレス、モリブデン、タングステン、タンタルおよびこれらの2種以上を含む合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0063】
(リチウムイオン二次電池)
本発明の実施形態によるリチウムイオン二次電池は、上記負極と正極と電解質を含む。
正極は、例えば、正極活物質、結着材及び溶媒(さらに必要により導電助材)を含むスラリーを調製し、これを正極集電体上に塗布し、乾燥し、必要に応じて加圧することにより、正極集電体上に正極活物質層を形成することにより作製できる。正極作製時に用いるスラリー溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることができる。
【0064】
正極活物質としては、特に制限されるものではないが、例えば、層状岩塩型構造又はスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物や、オリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムなどを用いることができる。リチウム複合酸化物としては、マンガン酸リチウム(LiMn24);コバルト酸リチウム(LiCoO2);ニッケル酸リチウム(LiNiO2);これらのリチウム化合物のマンガン、コバルト、ニッケルの部分の少なくとも一部をアルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛など他の金属元素で置換したもの;マンガン酸リチウムのマンガンの一部を少なくともニッケルで置換したニッケル置換マンガン酸リチウム;ニッケル酸リチウムのニッケルの一部を少なくともコバルトで置換したコバルト置換ニッケル酸リチウム;ニッケル置換マンガン酸リチウムのマンガンの一部を他の金属(例えばアルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛の少なくとも一種)で置換したもの;コバルト置換ニッケル酸リチウムのニッケルの一部を他の金属元素(例えばアルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛、マンガンの少なくとも一種)で置換したものが挙げられる。これらのリチウム複合酸化物は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
正極活物質の比表面積(窒素吸着法による77Kでの測定に基づくBET比表面積)は、0.01〜10m2/gの範囲にあることが好ましく、0.1〜3m2/gの範囲がより好ましい。比表面積が大きいほど結着材が多く必要になり、電極の容量密度の点で不利になり、比表面積が小さすぎると電解液と活物質間のイオン伝導性が低下する場合がある。
【0066】
正極活物質の平均粒子径は、電解液との反応性やレート特性等の観点から、例えば0.1〜50μmの範囲にあることが好ましく、1〜30μmの範囲がより好ましく、5〜25μmの範囲がより好ましい。ここで、平均粒子径は、レーザー回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径(メジアン径:D50)を意味する。
【0067】
正極用の結着材としては、特に制限されるものではないが、負極用結着材と同様のものを用いることができる。中でも、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。正極用の結着材の含有量は、トレードオフの関係にある結着力とエネルギー密度の観点から、正極活物質100質量部に対して1〜25質量部の範囲にあることが好ましく、2〜20質量部の範囲がより好ましく、2〜10質量部の範囲がさらに好ましい。ポリフッ化ビニリデン(PVdF)以外の結着材としては、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミドが挙げられる。
【0068】
正極集電体としては、特に制限されるものではないが、電気化学的な安定性の観点から、例えば、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼(SUS)、その他のバルブメタル、又はそれらの合金を用いることができる。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。特にアルミニウム箔を好適に用いることができる。
【0069】
正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電助材を添加してもよい。導電助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子が挙げられる。
【0070】
電解質としては、1種又は2種以上の非水溶媒に、リチウム塩を溶解させた非水系電解液を用いることができる。非水溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル;γ−ブチロラクトンなどのγ−ラクトン;1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテルが挙げられる。その他、非水溶媒として、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ジオキソラン誘導体、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性有機溶媒を用いることもできる。
【0071】
非水溶媒に溶解させるリチウム塩としては、特に制限されるものではないが、例えばLiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiN(CF3SO22、リチウムビスオキサラトボレートが挙げられる。これらのリチウム塩は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。また、非水系電解質としてポリマー成分を含んでもよい。
【0072】
電解液中には、負極表面に良質なSEI(Solid Electrolyte Interface)膜を形成し、安定的に維持させるために、添加剤として電極保護膜形成剤を加えてもよい。SEI膜には、電解液の反応性(分解)を抑制する効果、及びリチウムイオンの挿入・脱離に伴う脱溶媒和を促進し、負極活物質の物理的な構造劣化を抑制する効果などがある。このような良質なSEI膜の形成、維持のための電極保護膜形成剤としては、例えば、スルホ基を有する化合物;フルオロエチレンカーボネート等のフッ素化炭酸エステル;ビニレンカーボネート等の不飽和環状炭酸エステル;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン等のスルトン化合物(環状モノスルホン酸エステル);プロピレンメタンジスルホネート等の環状ジスルホン酸エステルが挙げられる。電極保護膜形成剤を添加剤として電解液中に含む場合、添加剤の電解液中の含有量は、十分な添加効果を得る点から0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、電解液の粘性や抵抗の増加等の低下を抑える点から10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0073】
正極と負極との間にはセパレータを設けることができる。このセパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリイミド等からなる多孔性フィルムや織布、不織布を用いることができる。
【0074】
電池形状としては、円筒形、角形、コイン型、ボタン型、ラミネート型が挙げられる。ラミネート型の場合、正極、セパレータ、負極および電解質を収容する外装体としてラミネートフィルムを用いることが好ましい。このラミネートフィルムは、樹脂基材と、金属箔層、熱融着層(シーラント)を含む。この樹脂基材としては、ポリエステルやナイロンが挙げられ、この金属箔層としては、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン箔が挙げられる。熱溶着層の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性高分子材料が挙げられる。また、樹脂基材層や金属箔層はそれぞれ1層に限定されるものではなく2層以上であってもよい。汎用性やコストの観点から、アルミニウムラミネートフィルムが好ましい。
【0075】
正極と負極とこれらの間に配置されたセパレータは、ラミネートフィルム等からなる外装容器に収容され、電解液が注入され、封止される。複数の電極対が積層された電極群が収容された構造とすることもできる。
【0076】
本発明の実施形態によるリチウムイオン二次電池の一例(ラミネート型)の断面図を図2に示す。図2に示すように、本例のリチウムイオン二次電池は、アルミニウム箔等の金属からなる正極集電体3と、その上に設けられた正極活物質を含有する正極活物質層1とからなる正極、及び銅箔等の金属からなる負極集電体4と、その上に設けられた負極活物質を含有する負極活物質層2とからなる負極を有する。正極および負極は、正極活物質層1と負極活物質層2とが対向するように、不織布やポリプロピレン微多孔膜などからなるセパレータ5を介して積層されている。この電極対は、アルミニウムラミネートフィルムからなる外装体6、7で形成された容器内に収容されている。正極集電体3には正極タブ9が接続けられ、負極集電体4には負極タブ8が接続され、これらのタブは容器の外に引き出されている。容器内には電解液が注入され封止される。複数の電極対が積層された電極群が容器内に収容された構造とすることもできる。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
負極活物質として高円形度の球形化された天然黒鉛(平均粒子径(D50)15μm)を用意し、微細黒鉛系材料として鱗片状の人造黒鉛(平均粒子径(D50)10μm)を用意した。前述の測定方法により、この天然黒鉛の平均粒子円形度は0.86以上であり、鱗片状の微細黒鉛系材料の平均粒子円形度より高いことを確認した。また、市販のレーザ回折・散乱方式粒子径分布測定装置を用いて、負極活物質(天然黒鉛)のD90/D50は1.3以下であり、微細黒鉛系材料(鱗片状人造黒鉛)のD90/D50は1.65以上であることを確認した。導電助材として、平均粒子径(D50)100nm以下の微細粒子(カーボンブラック)を用意した。
微細黒鉛系材料の添加量は、負極活物質に対して2.0質量%(導電助材に対する質量比:約6.7)とした。導電助材の添加量は、負極活物質に対して0.3質量%とした。
【0078】
負極活物質(天然黒鉛)へ微細黒鉛系材料(鱗片状人造黒鉛)と導電助材を表1に示す質量比率で混合し、この混合物とカルボキシルメチルセルロース(増粘剤)の1.0wt%水溶液とを混合してスラリーを調製した。これにスチレン−ブタジエン共重合体(結着材)を混合した。結着材の添加率は、負極活物質に対して2.0質量%とした。なお、表1中の微細黒鉛系材料および導電助材の添加量は、負極活物質に対する質量比率(質量%)である。
【0079】
このスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗工し、塗布膜を乾燥させた。その後、塗布膜(負極塗布膜)の密度が1.5g/cm3になるようロールプレスし、33×45mmの負極シートを得た。
【0080】
Li(Li0.1Mn1.9)O4とLiNi0.85Co0.152を質量比75:25で混合した混合酸化物(正極活物質)と、ポリフッ化ビニデン(結着材)を、N−メチル−2‐ピロリドンに分散させてスラリーを調製した。このスラリーをアルミニウム箔の両面に塗工し、塗布膜を乾燥させた。その後、塗布膜(正極塗布膜)の密度が3.0g/cm3になるようにロールプレスし、30×40mmの正極シートを得た。
【0081】
厚さ25μmの多孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータを介して正極塗布膜と負極塗布膜が対向するように、正極シートの両側に負極シートを重ね合わせた。正極用の引き出し電極、負極用の引き出し電極を設けた後、この積層体をラミネートフィルムで包み、電解液を注入し、封止した。
【0082】
電解液としては、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積比3:7(EC:DEC)で混合したものに、電解質塩としてリチウム塩(LiPF6)を濃度1.0mol/Lとなるように溶解し、添加剤として環状ジスルホン酸エステル(プロピレンメタンジスルホネート)を濃度2.0質量%となるように添加したものを用いた。
【0083】
以上のようにして作製したリチウムイオン二次電池について、充放電サイクル試験(Cycle−Rate:1C、温度:45℃、上限電圧:4.2V、下限電圧:3.0V)を行い、400サイクル後の容量維持率を求めた。結果を表1に示す。
【0084】
また、保存特性試験として、作製した電池をSOC=100%、60℃で保存し、8週間後の接触抵抗上昇率を求めた(保存前の基準:100%)。結果を表1に示す。ここで、SOCは、下記式で示される電池の充電状態(state of charge)を意味する。
【0085】
SOC=100×残容量(Ah)/満充電容量(Ah)
【0086】
(比較例1)
微細黒鉛系材料を添加しなかった以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池について実施例1と同じ条件で充放電サイクル試験及び保存特性試験を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例2)
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.34(NCM523)を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池について実施例1と同じ条件で充放電サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例3)
微細黒鉛系材料の添加量を1.0質量%にした以外は実施例2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池について実施例1と同じ条件で充放電サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(比較例2)
微細黒鉛系材料を添加しなかった以外は、実施例2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池について実施例1と同じ条件で充放電サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例3)
微細黒鉛系材料として平均粒径(D50)が18μmのものを用いた以外は、実施例2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池について実施例1と同じ条件で充放電サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例4)
微細黒鉛系材料を添加せず、導電助材の添加量を2.3質量%に増やした以外は、実施例2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池について充放電を行ったところ、電池内でのガス発生量が大きく、充放電サイクル試験後の容量維持率は求めなかった。
【0092】
【表1】
【0093】
表1が示すように、実施例1と比較例1の対比から、負極活物質と微細黒鉛系材料と導電助材を含む特定の負極を用いることにより、微細黒鉛系材料を添加しない場合に比べてサイクル特性が向上し、また保存特性が向上する(8週間後の接触抵抗上昇率を抑制できる)ことがわかる。また、実施例2、3と比較例2の対比から、負極活物質と微細黒鉛系材料と導電助材を含む特定の負極を用いることにより、微細黒鉛系材料を添加しない場合に比べてサイクル特性が向上することがわかる。さらに、実施例2と比較例3の対比から、微細黒鉛系材料の粒径が大きいと、サイクル特性の向上効果が低いことがわかる。
【0094】
また、比較例4のように、微細黒鉛系材料を添加するかわりに導電助材の添加量を増やすと、ガス発生量が大きくなる問題が起きることがわかる。
【0095】
実施例2と比較例4を対比すると、微細黒鉛系材料と導電助材の添加量の合計が同じであるが、微細黒鉛系材料を多く含む実施例2は、微細黒鉛系材料を含まない比較例4に対して、初期充電でのガス発生率が抑えられている。
【0096】
なお、表1中のガス発生率は、比較例2のガス発生量を基準(100%)にした相対値(%)を示す。ガス発生量はアルキメデス法により求めた。
【0097】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0098】
この出願は、2015年1月29日に出願された日本出願特願2015−15519を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0099】
1 正極活物質層
2 負極活物質層
3 正極集電体
4 負極集電体
5 セパレータ
6 ラミネート外装体
7 ラミネート外装体
8 負極タブ
9 正極タブ
11 負極活物質粒子
12 導電助材粒子
13 微細黒鉛系粒子
図1
図2