(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685977
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20200413BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20200413BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/06
G01N21/64 E
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-157095(P2017-157095)
(22)【出願日】2017年8月16日
(62)【分割の表示】特願2015-520868(P2015-520868)の分割
【原出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-207781(P2017-207781A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2017年8月16日
(31)【優先権主張番号】102012211943.4
(32)【優先日】2012年7月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506151659
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROSCOPY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】リッペルト、ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】カルクブレナー、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】クレッペ、インゴ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォレシェンスキー、ラルフ
【審査官】
堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−030991(JP,A)
【文献】
特開2006−030992(JP,A)
【文献】
特表2002−521733(JP,A)
【文献】
特開平09−236751(JP,A)
【文献】
特表2000−509842(JP,A)
【文献】
特開2012−073591(JP,A)
【文献】
特開2010−191298(JP,A)
【文献】
特開2008−015074(JP,A)
【文献】
特開2009−282357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡であって、
少なくとも1つの凹部を含む試料担体であって、前記少なくとも1つの凹部は、少なくとも1つの側壁を有し、且つ試料を保持して留めるように構成される、前記試料担体と、
前記試料担体上または前記試料担体に接する位置に配置された光学的方向転換手段と、を備え、
前記光学的方向転換手段は、励起光を方向転換するように構成された少なくとも1つの光学的に有効な面を有し、
前記光学的方向転換手段は、
プリズムの内側として形成された少なくとも1つの光学的に有効な面を備えて前記励起光を全反射するプリズム部材として構成される、顕微鏡。
【請求項2】
前記光学的方向転換手段は、ミラー面として形成された少なくとも1つの光学的に有効な面を備えたミラー部材として構成される、請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項3】
前記少なくとも1つの光学的に有効な面は、複数のマイクロプリズムから組み立てられる、請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記少なくとも1つの光学的に有効な面は、漏斗状に形成され、前記試料を少なくとも部分的に取り囲む、請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記試料担体は、前記光学的方向転換手段を受け取るように形成された開口を有する、請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記光学的方向転換手段は、前記試料担体上または前記顕微鏡の試料台上に置くことができるように形成され、前記試料を漏斗状の光学的に有効な面で取り囲む、請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項7】
前記光学的方向転換手段には、試料の培養時および搬送時のうちの少なくとも一方において、前記光学的方向転換手段を保護するように構成された保護装置が解除可能に装備されている、請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項8】
顕微鏡であって、
少なくとも1つの凹部を含む試料担体であって、前記少なくとも1つの凹部は、少なくとも1つの側壁を有し、且つ試料を保持して留めるように構成される、前記試料担体と、
前記試料担体上または前記試料担体に接する位置に配置された光学的方向転換手段と、を備え、
前記光学的方向転換手段は、励起光を方向転換するように構成された少なくとも1つの光学的に有効な面を有し、
前記少なくとも1つの凹部の少なくとも1つの側壁は、前記少なくとも1つの光学的に有効な面に相当する、顕微鏡。
【請求項9】
前記ミラー面は、前記試料担体の面に対して45°の角度をとる、請求項2に記載の顕微鏡。
【請求項10】
前記少なくとも1つの光学的に有効な面は、前記試料担体の面に対して45°の角度をとる、請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項11】
前記少なくとも1つの光学的に有効な面は、前記試料担体の面に対して平均45°の角度をとる、請求項3に記載の顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の顕微鏡は、台平面中の台表面を備えた試料台を含み、この台表面は光軸Zに対して0とは異なる角度をとる。試料台上には試料担体が配置されていて、この試料担体は、好ましくは意図しない変位に対して固定されていて、この試料担体上には試料が取り付けられている。この顕微鏡は、さらに励起光光路を有し、これを介して試料が励起光で照射され、また、この顕微鏡は検出光光路を有し、これを介して試料から来る検出光を検出手段に向ける。この検出手段は、例えばカメラ、画素アレイまたは画像データ検出に適したこれ以外の記録機器を含む。画像検出部には、通常、画像データを評価する評価ユニットも接続されている。顕微鏡は、さらに、光軸Zに沿って配置された対物レンズを含み、この対物レンズにより励起光が試料台の方向へ向けられ、かつ、試料から来る検出光が検出手段の方向へ向けられる。顕微鏡中の分光手段を用いて、励起光と検出光とは分けられることができ、その結果、これらの光は様々な光路へと分けられる。最後に、この顕微鏡は、励起光から光シートないし疑似光シート(すなわち、点状または線形の光線で走査することにより発生させられる光シート)を発生させる手段と、試料を光シートで照射する手段とを含み、この光シートは、光軸Zに対して0とは異なる角度をとる平面中にある。
【0003】
生物学的な試料を検査するために、0とは異なる角度で光軸と交差する平面である光シートで試料を照射することは、最近数年より重要性を増している。この光シートは、通常、大概顕微鏡対物レンズの光軸に相当する検出方向に対して直角の角度をとる。この技術は、SPIM(選択的/単一平面照明顕微鏡法、selective/single−plane illumination microscopy)とも称される。SPIM技術は、少し以前から蛍光顕微鏡法中にも取り入れられ、その場合、LSFM(光シート蛍光顕微鏡法、light sheet fluorescence microscopy)とも称される。これ以外の確立された方法、例えば共焦点レーザスキャン顕微鏡法または2光子顕微鏡法などとは異なり、このLSFM技術には複数の優れた特性がある。広域での検出が可能であるので、より広い試料範囲を検出しうる。確かに、解像度は、共焦点レーザスキャン顕微鏡法および2光子顕微鏡法の場合に比してわずかに低いが、LSFM技術では、より分厚い試料を分析しうる。さらに、この方法では、試料に対する光の負荷および色落ちは、最小限となるが、この理由は、試料が薄い光シートによってのみ照射されるからである。さらに、LSFM方法を用いれば、特別なコストなしに、光学的な断面を作ることができ、この断面から3次元画像を再構成することができる。
【0004】
SPIMまたはLFSM用に適している市販の顕微鏡は、現在までのところ限定的にしか提供されていず、その結果、通常、個々の研究グループで独自のものを創作し開発している。しかし、基本的な原理はいずれのシステムでも同じである。光シート蛍光顕微鏡法用に光シートを発生させるためには、通常レーザを利用する。光シートは、特別な光学的部材、例えば円柱レンズを用いて形成され、この光シートは照射用対物レンズにより試料に向けられる。この際、光シートは実際には完全に平坦ではなく、その厚さは、有限であり、かつ、照射用対物レンズの焦点において最も薄く、縁に向かって厚くなる。通常、焦点すなわち光シートの最も薄い領域は、試料室の中央に置かれる。このために、試料室は、光学的に透過性を有する材料から構成されていて、上方に開口を有し、この開口を通って試料が室に入れられ、また室から再び取り除かれることができる。試料室は、例えばゲルで充填されていることができ、試料室中に生きていない試料材料が取り付けられているか、または、試料室は、生きた細胞材料を維持するのに適した液体で充填されていることができる。
【0005】
試料室、検出光路および照射光路をこのように互いに対して関連づけて配置することにより、構造が複雑になりすぎ、そのサイズが大きくなりすぎる。この点が、SPIM技術用の市販で入手可能な顕微鏡がまだ存在しない理由の1つである。とりわけ、現在までに、この方法を既存の顕微鏡システムに統合する市販の方策は存在しない。広域で行われてならない蛍光励起については、さらなる境界条件が守られるべきである。
【0006】
従来技術では、SPIM技術を蛍光顕微鏡法に関して有利に採用する、または、機器が全体として必要とする空間を、特別な技術解決方法により小さくすることを取り扱った一連のシステムおよび方法が公知である。
【0007】
特許文献1中には、光電活性化および非活性化(PALM方法、光活性化局在性顕微鏡法、photoactivated light micrsocopy)にも蛍光励起にも適している装置が記載されている。光シートの発生は、この場合、特別な光学的手段により行われるが、この光学的手段は、通常、検出方向および検出用対物レンズに対して垂直方向で配置されている。
【0008】
非特許文献1中には、生きた試料をベッセルビームから形成された光シートで照射する方法が記載されていて、この光シートは、その光線方向での伸張に比して特に薄くなっている。励起および検出は、互いに対して90°の角度で配置された2つの対物レンズを介して行われ、これらの対物レンズは、部分的に液体で充填された試料室により取り囲まれている。この双方の対物レンズに加えて、この場合、第3の正立観察用対物レンズが設けられていて、この第3の正立観察用対物レンズにより試料の概観が得られ、その光軸は、これ以外の2つの対物レンズの光軸と1点で交差し、これらの光軸に対して45°ないし135°の角度をとる。
【0009】
非特許文献2中では、走査ミラーを用いた「疑似光シート」の発生が、蛍光顕微鏡での適用と関連づけて、かつ、コントラスト最適化のために構造化された照射を発生させるために記載されている。この場合「疑似」と付け加えることにより、励起光線が、瞬間的な撮影中ではなく、検出時間に相当するある期間に渡って、光シートとして認識されることが表現される。
【0010】
非特許文献3中では、照射光が2つの光路に分けられ、そのうちの1方が、検出方向に沿った通常の試料の照射のために機能し、他方が検出方向に対して垂直である光シートで試料を照射するために機能するシステムが記載されている。この光線は、それぞれ各対物レンズからファイバーを介して、試料の方向で、組み合わせられた結合分離片へと向けられ、ここで、双方の光線は、相応の結合分離部材を介して試料へ向けられる。この場合、光シートの結合を分離するために、プリズム部材が設けられていて、このプリズム部材が、光路を検出方向から90°偏向させる。
【0011】
非特許文献4に記載された方法においても、光シートの発生は、ファイバーを介して行われ、この場合には、このファイバーは、保持部によって直接検出用対物レンズないしその保持部に固定されている。圧電部材を用いて、このファイバーは検出用対物レンズの光軸に沿って変位し、このようにして検出用対物レンズの最も前にあるレンズへの光シートの距離は変更可能で、その結果、原理的には光学的断面が生成可能となる。
【0012】
非特許文献5中には、とりわけ小さい試料の分析にも適している倒立顕微鏡法用の装置が記載されている。
特許文献2中には、特別な対物レンズシステムが記載されているが、この対物レンズシステムでは、観察用対物レンズの外側の縁部において、例えば小さい開口数を有する結像ミラーを介して光シートの反射が行われる。対物レンズを取り囲む結像ミラーは、機械的には、可能な限り均質な解像度を達成するために、対物レンズの1部分であり、反射光学系は例えばリング状に構成されていることができる。
【0013】
非特許文献6中には、試料が同様に光シートで照射される装置が記載されているが、しかし、この場合、照射と検出とは、同じ対物レンズで行われる。したがって、励起ないし検出用対物レンズの光軸に対して、光シートの平面は、この光軸に対して90°の角度をとるのではなく、より小さい角度例えば60°をとる。この特別な構成のゆえに、照射および検出用に、対物レンズのそれぞれ互いに対向する小さい領域のみが用いられることができるが、この理由は、こうしない場合、光シート平面に対して垂直である平面で検出を行うことができないからである。
【0014】
これに類似する構造は、非特許文献7中にも記載される。この場合も、光シートを用いた検出および照射用に同じ対物レンズを用い、光シートは、検出用対物レンズの光軸に対して、明らかに90°未満の角度で傾斜している。第2の顕微鏡を用いて、試料の中間画像が生成されるが、この中間画像は、第3の顕微鏡を介してカメラ上で結像し、第3の顕微鏡の対物レンズの光軸は、第2の顕微鏡の対物レンズの光軸に対して0とは異なる角度をとる。同時に、照射光の照射が第2顕微鏡を介して行われ、中間画像中では、したがって照射光はすでに光シートを形成する。光シート平面と第3の顕微鏡の対物レンズの光軸とは、互いに対して90°の角度をとる。
【0015】
しかし、上述した装置のいずれも、容易にかつ問題なく既存の顕微鏡中に統合することはできない。せいぜい倒立顕微鏡法の領域中で、ティー エイ プランションら(T. A. Planchon et al.)が記載した装置が採用されうるにすぎないが、これは、対象物担体ないし試料台の上方で、2つの対物レンズを含む相応の照射および検出モジュールが配置され、この2つの対物レンズの光軸が互いに対して90°の角度をとることにより行われる。しかし、この装置も非常にかさ高で、追加的な光学系があるがゆえに非常に高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2008 009 216 A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2004 034 957 A1号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】トーマス エイ プランションら(Thomas A. Planchon et al.),“Rapid three−dimensional isotropic imaging of living cells using Bessel−beam plane illumination”, Nature Methodsオンライン,2011年3月4日発行の記事(doi:10.1038/nmeth.1586)
【非特許文献2】フィリップ ヨット ケラーら(Phillipp J. Keller et al.),“Fast, high−contrast imaging of animal development with scanned light sheet−based structured−illumination microscopy”, Nature Methodsオンライン,2010年7月4日発行の記事(doi:10.1038/nmeth.1476)
【非特許文献3】クリストフ ヨット エンゲルブレヒトら(Christoph J. Engelbrecht et al.),“Miniaturized selective plane illumination microscopy (mini SPIM) for endoscopic highcontrast fluorescence imaging”,2010年,Optics Letters,2010年4月28日発行の記事(doi: 10.1364/OL.35.001413)
【非特許文献4】テレンス エフ ホールカンプら(Terrence F. Holekamp et al.),“Fast Three−Dimensional Fluorescence Imaging of Activitiy in Neural Populations by Objective Coupled Planar Illumination Microscopy”,Neuron, Bd. 57,2008年発行 p661−672
【非特許文献5】ヨルグ ゲー リッターら(Joerg G. Ritter et al.),“Light Sheet Microscopy for Single Molecule Tracking in Living Tissue”, PLoS ONE5(7),2010年1月発行,e11639
【非特許文献6】シー ダンズビー(C. Dunsb),“Optically sectioned imaging by oblique plane microscopy”,Optics Express 16(25),2008年発行の記事,p.20306−20316
【非特許文献7】スニル クマールら(Sunil Kumar et al.),“High−speed 2D and 3D fluorescence microscopy of cardiac myocytes”,Optics Express−19(15),2011年発行,p13839−13847
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、とりわけ蛍光分光法を用いた小さい試料の検査に関して、冒頭で述べた様式の顕微鏡を、既存の顕微鏡中にSPIM技術を統合することを容易にするように、さらに発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、冒頭で述べた様式の顕微鏡において、試料を照射する手段が少なくとも1つの光学的方向転換手段を含み、少なくとも1つの光学的方向転換手段は、試料担体上または試料担体に接する位置に配置されていて、かつ、対物レンズから来る励起光を、少なくとも1つの光学的に有効な面を用いて、光シートの平面に方向転換するように構成されていることによって達成される。従来、2つの異なる対物レンズを照射と検出とのために使用する際には、方向転換手段は全く設けられていない、ないし対物レンズに配置されていなかったが、少なくとも1つの光学的な方向転換手段を試料担体に接する位置またはこの上に配置することにより、一方では光シートの照射を、光路中で試料の前にある最後の光学的部材としての照射用および検出用対物レンズから切り離し、その結果、対物レンズの全開口を介した検出が可能になり、他方では、この切り離しにより、光シート光路用に特別な保持部または光線誘導部を設けなくても、通常の顕微鏡対物レンズを可能な限り用いることができるようになる。試料担体に接する位置またはこの上に配置するとは、少なくとも1つの光学的方向転換手段が試料担体上に解除可能にまたは継続的に固定されていることができるということを意味するが、圧力ばめまたは形状締結結合を設けなくても、単に試料担体上に少なくとも1つの光学的方向転換手段を置くこともできる。この少なくとも1つの光学的方向転換手段は、試料担体と一体的に製造されていることも可能である。少なくとも1つの光学的方向転換手段を試料担体上に配置することにより、照射と検出とのために共通の対物レンズを用いることもでき、その場合でも光シートまたは疑似光シートを発生させることもできる。この光シートまたは疑似光シートは、顕微鏡対物レンズ(これを通って、励起光が試料上に導かれ、ないし検出光が試料から導かれる)の光軸すなわち検出方向に対して、0度とは異なる角度をとるが、この角度は通常は直角である。このために、少なくとも1つの光学的に有効な面が相応に配向されていて、顕微鏡中の相応の調整手段、例えば揺れ板を介して、補正が行われうる。
【0020】
例えば、この光学的方向転換手段は、ミラー部材として構成されていることができ、このミラー部材は、ミラー面として形成された少なくとも1つの光学的に有効な面を備えていることができ、この少なくとも1つのミラー面は、光軸に対して、好ましくは45°の角度をとる。顕微鏡対物レンズから来る照射光は、試料中の例えば所定の蛍光色素分子を蛍光に励起しうるが、この際、この照射光はミラー面に向けられ、ここで試料の方向に反射し、反射後に光シートが実質的にXY平面中で形成されるように、光学的部材が励起光光路中で配置されていなければならない。これは、円柱レンズなどのアナモルフィック光学的部材の使用により行われうるが、このアナモルフィック光学的部材は、光路中の相応の箇所に、少なくとも1つの光学的方向転換手段と組み合わされて配置されていることができる。しかし、特に有利な場合には、顕微鏡は、レーザスキャン顕微鏡として形成されていて、この場合、光シートは、この顕微鏡において存在する点走査用の走査手段により疑似光シートとして発生可能である。例えばスキャナミラーなどの走査手段の移動により、光線が迅速に連続して線形で、試料全体に渡って導かれ、その結果、効果的に、ないし、時間的および空間的手段中で、光シートの形状が生じる。
【0021】
少なくとも1つの光学的方向転換手段がミラー部材として構成されている場合に、対物レンズが試料の上方に(すなわち、試料担体を備えた試料台の上方にも)配置されている顕微鏡にとっては特に適している一方で、ある別の変形例では、少なくとも1つの光学的方向転換手段は、プリズム部材として構成されていて、このプリズム部材は、プリズムの内側として形成された光学的に有効な面を備えていて、この光学的に有効な面は、光軸Zに対して好ましくは45°の角度をとる。この変形例は、励起と検出とが試料台の下方で行われる倒立顕微鏡三脚を使用する場合に特に適しているが、もちろん、これ以外の三脚を用いることもできる。この場合、下方から来る光を透過させるように、少なくとも1つの光学的方向転換手段は、台中に統合され、ないし台に接して配置される。プリズムの代わりに中空空間分光器を用いることもでき、この場合も、光学的に有効な面は、再び鏡面仕上げされている。光射出面を介して、その後光は試料へと導かれる。
【0022】
ある別の構成では、光学的に有効な面は、複数のマイクロプリズムから組み立てられていることもでき、この場合、これらのマイクロプリズムは、好ましくは、光軸Zに対して平均で45°の角度をとる。この場合および上述の場合、この角度は、調整手段を介して光シートの伝搬方向が検出方向に対して実質的に確実に垂直である限り、45°ではないことも可能である。原理的には、角度が0と異なれば十分であり、この際、45°の角度は特に容易に配向でき、通常さらなる調整手段が必要ではないという点で利点である。マイクロプリズムから組み立てられた光学的に有効な面の使用は、(さもなければ液体がミラー面を汚染しうるような)周囲環境が液体である場合に利点であり、この汚染はマイクロプリズムにより防がれ、反射されるべき面が、周囲環境である液体または試料と接触することが阻止される。
【0023】
光学的に有効な面が光軸Zに対して45°の角度をとる好適な構成は、とりわけ励起光がビーム状で光軸に対して平行に、光学的方向転換手段の光学的に有効な面中にないしその方向に導かれる場合に提供されるが、これは、励起光の開口数を可能な限り最大にすることができるので有利である。この場合通常1つの光学的に有効な面があれば十分である。しかし、この光線誘導は必ず必要というわけではなく、励起光光線は0とは異なる角度でも光学的に有効な面に当たりうる。とりわけ光学的に有効な面を形成するためにプリズムまたはマイクロプリズムを使用する場合に、全反射の原理を利用することもでき、このために、光軸に対して45°の角度をとる光学的に有効な面を使用する場合に、0とは異なる角度で入射する励起光の光線を用いることができるが、または、しかし、より平坦な角度で光線を方向転換させるために機能する2つ以上の光学的に有効な面を備えた光学的方向転換手段を用いることもできる。
【0024】
倒立顕微鏡法にも適しているのは、光学的に有効な面が漏斗状で試料を取り囲むように形成されている光学的方向転換手段である。例えば、この場合、鏡面仕上げされた内側面を備えた円錐台形状の小さな帽子状部材を用いることができる、この小さな帽子状部材は、使い捨て品として形成可能であり、これにより、試料が十分小さい場合に、この試料を完全に取り囲むことができるという利点が得られる、その結果、試料はさらに生理学的に有効な液体中に入れることができ、その生体機能を保持する。この小さな帽子状部材は、これに加えて試料担体上または試料台上に、比較的容易に移動させることができ、または、特別な操作装置を用いて、3次元空間中で目標に合わせて動かすことができる。この操作装置は、すでに最初の段階で用いることができ、これにより小さな帽子状部材を所望の方向から試料上に置くことができる。
【0025】
ある別の構成では、少なくとも1つの光学的方向転換手段は、試料担体に接する位置に配置されるが、これは、光学的方向転換手段が漏斗状の凹部としてこの試料担体中に直接統合されていることにより行われる。この場合、照射光は、漏斗の側壁で方向転換される。上方から観察するために、有利な場合には、この側壁は鏡面仕上げされていて、倒立顕微鏡法用には、この側壁はプリズム面の機能も担う。
【0026】
個々の細胞または細胞結合のサイズの多くの小さな試料の検査には、試料担体上に、好ましくはグリッド形態の複数の光学的方向転換手段が配置されている場合に有利である。この配置は、例えば漏斗状の凹部用にも、ミラー部材またはプリズム部材用にも可能である。試料担体は、例えば、いわゆるマルチウェルプレート、すなわち複数のグリッド形状に配置された凹部を備えたマイクロタイタープレートとして構成されていることができる。この凹部は、例えば漏斗状でもありえ、したがって光学的方向転換手段を形成することができる。
【0027】
光学的方向転換手段は、凹部中に置かれる前に凹部中に入れることができ、または、試料を置いた後で、そこに小さな帽子状または蓋状の物を上に置くことにより、凹部をその中の試料と共に閉じ込めることもできる。
【0028】
さらなるある構成では、少なくとも1つの光学的方向転換手段は、試料担体に対して、好ましくは光軸に沿って相対的に下方から試料担体の対応する開口中に挿入可能である。この開口は予め存在するには及ばず、光学的方向転換手段を用いてのみ試料担体中に挿入することができる。例えば、試料担体には打ち抜き点からなるグリッドが設けられていることができ、この打ち抜き点において、方向転換手段により開口が打ち抜かれうる。試料および/または方向転換手段の様式に応じて、1つの開口のみが打ち抜かれるか、または、複数の開口が打ち抜かれる。同様に、少なくとも1つの方向転換手段は上方からも挿入することもでき、または、側面から斜め方向に、また上述の操作装置を用いて設けることも可能である。
【0029】
さらに、少なくとも1つの光学的方向転換手段には、とりわけ搬送時に光学的に有効な面を保護する保護装置が解除可能に装備されていることもできる。試料は長期間に渡って観察されるべきである場合、または、試料が細胞培養物として置かれていて、自然にまたは人工的に加速させて初めて育てねばならない場合、この保護装置は、方向転換手段上でもそのままにしておくことができ、ないしこのプロセス用に別途装着されうる。例えば方向転換手段上に置かれる単純な片側固定蓋や、除去可能な膜などでもありえる。解除可能な結合は、クリップチャックを介しても行うことができ、その結果、保護装置が確実に保持されていて、液体が光学的に有効な面の領域に侵入することが防がれる。
【0030】
光シートを調整するために、光路中には、上述したように、好ましくは調整手段が配置されている。この調整手段は例えば揺れ板を含みうる。光シート厚を変化させるために、励起光光路中には別個のズーム光学系が配されていることができる。光シートの焦点を光軸Zに対して相対的に可変的に位置付けるために、さらに、励起光光路中に、好ましくはさらにコリメーション光学系が配置されている。
【0031】
顕微鏡がレーザスキャン顕微鏡として点走査用に形成されている場合、光シートの検出方向Zに沿った軸方向での変位は、試料担体の位置を走査方向に対して垂直に変位させることにより行われうる。このようにして試料の様々な平面が走査されることができ、3次元画像評価用の画像スタックが生成されうる。同じ作用が、さらなる走査手段を用いて、例えばさらなる走査ミラーを用いて、照射光線の位置を、上述の走査方向に対して垂直に変更することにより達成されうる。当然様々な操作モードで、走査手段を1つのみ使用することも考えられうる。
【0032】
上述のおよび以下にさらに説明する特徴は、提示した組み合わせ中のみで採用可能なのではなく、本発明の枠を離れることなく、これ以外の組み合わせ中または独立的に採用可能であると理解される。
【0033】
以下に、本発明を、例えば、本発明の特徴も開示している添付の図面に基づいて、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】光シートで照射を行う顕微鏡の全構造を示す原理図。
【
図2a-2b】どのように、ズーム光学系を用いて照射用絞り開口が設定されうるかを示した図。
【
図4a-4d】試料担体および/または光学的方向転換手段の様々な構成を示した図。
【
図5a-5c】全反射の原理で働く光学的方向転換手段の様々な構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
まず、
図1中で、顕微鏡の基本的な構造を示すが、この顕微鏡を用いて、試料1は、検出方向2に対して垂直の方向の光シートで照射されうる。この種の顕微鏡は、台平面中の台表面を備えた通常の試料台を含み、この台平面は、検出方向に相当する光軸Zに対して垂直である。台平面は、光軸Zに対して0とは異なるこれ以外の角度もとりうる。台表面上には、試料1を備えた試料担体3が取り付けられている。試料担体3とは、この場合、SPIM検査において頻繁に用いられる試料チャンバではなく、通常の顕微鏡の試料台上に、正立または倒立顕微鏡検査法用に取り付けないし固定されうる担体である。市場で一般的に入手可能な試料担体でもありえる。
【0036】
この顕微鏡では、励起光光路4(これを介して試料1が励起光で照射される)と、検出光光路5(これを介して試料1から来る検出光が検出手段に向けられる)が利用可能である。図示した例では、検出手段は、例えば、強度を登録するためのCCDまたはCMOSチップを備えた通常のデジタルカメラ6を含む。励起光光路4を介して、例えば試料1中に存在する蛍光色素分子が、蛍光に励起されることができ、この蛍光は、その後検出光光路5を介して検出される。この顕微鏡は、さらに、光軸に沿って配置された対物レンズ7を含み、このレンズを通って、励起光が試料台ないし試料担体3の方向へ向けられ、かつ試料1から来る検出光が検出手段の方向へ向けられる。励起光と検出光とを分けるために、顕微鏡はさらに分光手段、この場合は分光器8を含み、これは、例えば偏波光分光器としてまたは2色性ミラーとして実施されていることができる。
【0037】
最後に、この顕微鏡は、励起光から光シートを発生させる手段、および、試料1をこの光シートで照射する手段も含み、この光シートは、光軸Zに対して0とは異なる角度をとる平面中にある。励起光自身はレーザ9に由来し、これは、狭帯域もしくは広帯域または同調可能なレーザでありえ、これにより、とりわけ試料中に存在する蛍光色素分子を励起させることができる。単一光子方法も多光子方法も、また、その組み合わせも考えられうる。複数のレーザを組み合わせることも可能である。
【0038】
図示した例では、顕微鏡は、レーザスキャン顕微鏡として形成されている。光シートを発生させる手段は、したがって試料を走査する走査手段を含み、この場合、これはスキャナミラー10および11として実施されていて、これを用いて、スキャン顕微鏡としての作動中に、試料をX方向とY方向とで走査するように点状の光線が屈折することができる。この例では、基本的には、線形走査が実現可能であるスキャナミラー10で十分である。しかし、双方のミラー10、11を組み合わせて採用し、双方の走査方向を利用することができ、これにより光線を2次元に位置付けることができる場合、有利である。このようにして、スタック画像撮影も容易に実現しうる。これに加えて走査線の方向づけ、およびしたがって疑似光シート(Quasi-Lichtblatt)の方向づけを自由に選択することもでき、これを双方のスキャナミラー10、11を組み合わせて移動させることからも行うことができる。走査速度が高速であることにより、効果的に、すなわち時間的および空間的手段中で、光シートが発生させられる。スキャン顕微鏡を用いる代わりに、光シートの発生手段を、静的光シートを発生させるように構成することも可能であるが、この場合、この光シートの発生手段は、例えば円柱レンズを含む。
【0039】
図示した例では、励起光光路中にさらなる分光器12が含まれている。この場合、この分光器は、任意選択的に追加的に共焦点検出を可能にするために機能し、このために、この分光器12には、ピンホール13とさらなる検出器14とが後ろに接続されている。例えば分光器8とスキャナミラー10および11とを相応に制御することにより、共焦点検出とSPIM方法との間を切り換えうる。結像レンズ15および16は、励起光光路4および検出光光路5中で光線を形成するのに機能する。
【0040】
励起光光路4中のコリメーション光学系17を用いて、光シートの焦点を軸方向で位置付け可能、すなわち光シートの平面中で光軸Zに対して相対的に位置付け可能である。このコリメーション光学系17は、ズーム光学系18により補足または置き換えられうる。このコリメーション光学系を用いて、瞳照射を変化させることができ、したがって、光シート厚と光シートの発散とに影響を与えることができる。これは、
図2aおよび2b中で、2つの異なる照射について図示している。
【0041】
さらに、光路中に追加的に少なくとも1つの別個の光線形成部材24を配置することができる。これは、例えば位相変調部材として、または、空間光変調器(spatial light modulator、SLM)として構成することができる。この種の光線形成部材を用いて、様々な形態の光線、例えばベッセルビームを、光シート発生のために設定しうる。光線形成部材24として、例えば平行光線パターンを設定すべき場合には、デジタル・マイクロミラー・デバイス(digital micromirror device、DMD)ベースの光学系を採用しうる。
【0042】
レーザスキャン顕微鏡を使用する場合には、光シートを発生させるために、第2のスキャナミラー11を用いることができ、走査線の位置を光軸Zに対して相対的に変動させることができ、その結果、光学的な方向転換手段を用いて光シートをZ方向に沿って変位させることができ、その結果、試料を複数の層で走査することができる。このようにして得られたデータから、試料の3次元画像が再構成されうる。試料のZ方向での走査は、例として
図3で概略図示されている。
【0043】
試料を照射する手段は、とりわけ少なくとも1つの光学的方向転換手段を含むが、これは試料担体3上またはこれに接する位置に配置され、対物レンズ7から来る励起光を、少なくとも1つの光学的に有効な面を用いて、光シートの平面に方向転換するように構成されている。好ましくは、励起光を光学的に有効な面において、光軸Zに対して直角の角度をとる平面にある光シートに方向転換するように、少なくとも1つの光学的方向転換手段は構成されている。この場合、すなわち、対物レンズ7の全開口領域を検出用に用いることができるが、この理由は、検出方向Zが各位置において光シート平面に対して垂直であるからである。
【0044】
図1で図示した例では、少なくとも1つの光学的方向転換手段がミラー部材19として形成されていて、光学的に有効な面はミラー面20として形成されている。検出方向Zに対して垂直である光シートを発生させるために、ミラー部材19の少なくとも1つのミラー面20は、この場合、光軸Zに対して45°の角度をとる。光線誘導に応じて、これ以外の角度を用いることも可能である。ミラー部材19は、この場合、平坦なミラー面で形成されている。スキャナミラー10、11などの少なくとも2つの走査手段を使用する場合には、ミラー部材19は、原理的には光軸に対して回転対称で例えば円錐台の形状または試料担体中の凹部の形状で方向づけられていることも可能であるが、この理由は、少なくとも2つの組み合わせた走査ミラーを使用することにより、光シートの位置を相応に設定することができるからである。揺れ板などの追加的な調整手段を用いて、調整検出方向Zに対して垂直である平面中における光シートの位置の調整を手配することができる。ミラー部材19は、単に試料担体3上に置くこともできるが、試料担体3と、継続的または解除可能に連結されていることもできる。この場合、市場で一般的に入手可能な試料担体3を用いうる。すでにミラー部材19が設けられている特別な試料担体を一体的に製造することも、考えられうる変形例である。ミラー面は、例えば蒸着により生成することも可能である。
【0045】
倒立顕微鏡については、プリズム部材として構成された光学的な方向転換手段が特に適しているが、この場合、光学的に有効な面は、プリズムの内側面として形成されている。光学的に有効な面は、複数のマイクロプリズムから組み立てられていることも可能で、その結果、反射されるべきないし屈折されるべき表面は直接正接せず、その結果、例えば中に試料が置かれた溶液による汚染が、阻止される。
【0046】
この場合、光学的方向転換手段の構成は、ミラー部材19としての形成またはプリズム部材としての形成に限定されていない。
図4a〜
図4dでは、例として光学的方向転換手段の実現に関する様々な可能性が示されている。
【0047】
例えば、少なくとも1つの光学的方向転換手段の光学的に有効な面は、試料を漏斗状に取り囲むように形成されていることができる。この種の例を
図4aに示すが、この場合、光学的方向転換手段は、上方から台上に置くことができるように形成されていて、例えば漏斗状の光学的に有効な面を有し、試料を取り囲む構造形態を有するものである。光学的方向転換手段は、この場合、小さな帽子状部材(Hutchen)21の形態を有する。この種の光学的方向転換手段は、とりわけ倒立顕微鏡に適しているが、この小さな帽子21の内側側壁は、例えば鏡面仕上げされていて、または部分的にミラーが張られていて、この種の漏斗状の構造の利点は、試料台上の所望の箇所に、すなわち、試料がある場所であればどこにでも置くことができるという点である。この点は、非常に小さい試料の場合の個々の細胞構造においてとりわけ有利である。これに続いて、これに応じた顕微鏡ないし励起光の配向が行われる。漏斗状の構造は、上方で開いていることもでき、複数の側壁を含むことができる、または、単一の側壁で、例えば丸い側壁を含むこともできる。漏斗状の構造が複数の平坦な側壁を含む場合は、このうちの1つの側壁のみが鏡面仕上げされていなくてはならない。他方で、真に回転対称の漏斗形状である場合には、円形スキャンという意味合いで、例えばスキャナミラー10および11を組み合わせて動かすことによって得られる検出平面中の疑似光シートも考えられうる。
【0048】
小さな帽子状部材21のミラー面が試料担体3の表面に対して45°の角度をとらない場合には、とりわけ小さな帽子状部材が柔軟性のある材料から形成されている場合には、光シートが光軸Zに対して垂直に配向されていない、ないし試料担体3の表面に対して平行になっていない結果となる。この場合、調整手段、例えば揺れ板またはミラーを設けることが有利であり、これらによって、鏡面仕上げされている面への励起光の入射角度を変化させて、光シートを平行にすることができる。
【0049】
漏斗状の構造を試料担体3の平坦な表面上に置く代わりに、試料担体3が、好ましくは漏斗状に構成されている少なくとも1つの凹部を有することも可能である。この凹部の形状の変形例としては、漏斗状の構造について上述した内容と類似の点が該当する。この種の凹部には、少なくとも1つの側壁が含まれ、この少なくとも1つの側壁が光学的に有効な面に相当する。倒立観察のためには、この光学的に有効な面は、試料担体3を通る光を導くプリズム面の機能を担う。試料の上方から照射および検出がされる場合には、側壁が鏡面仕上げされていることができる。この際、小さな帽子状部材は凹部と同様、様々な断面形状を有しうる、例えば円形または正方形に形成することが可能である。漏斗状の凹部を備えた試料担体は、個々の細胞の成長を検査するのにとりわけ適しているが、この理由は、この試料担体が比較的狭い空間、すなわち、漏斗状の凹部に限定的に留まるからである。あるいは、またはこれに補足して、例えばグリッド形状の複数の光学的方向転換手段を試料担体3上に配置することも可能である。この種の変形例を
図4bに示すが、ここでは、プリズム部材22および23の形態の複数の光学的方向転換手段が配置されていて、これらの方向転換手段の間に、粘性を有する試料1がある。プリズム部材22は不活性で、プリズム部材23(これには、X印が記されている)のみが活性を有し、すなわち照射され、このプリズム部材23を用いて、光シートが発生し、このプリズム部材23に隣接する試料が検査される。この光学的方向転換手段は、予め試料担体3上に配置されているには及ばず、
図4c中に図示された構成では、光学的方向転換手段(この場合もミラー部材19として形成されている)が、試料担体に対して、光軸に沿って、相対的に下から試料担体の対応する開口中に挿入可能である。この点は、垂直の矢印によって示唆されている。この場合、試料担体3において篩構造が設けられていることができるが、光学的方向転換手段用の開口は、挿入時に初めてこの方向転換手段自身により打ち抜かれることも考えられうる。
【0050】
最後に、
図4d中では、プリズム部材23の使用を示しているが、この場合、光学的に有効な面はマイクロプリズムから形成される。このようにして、反射表面は周囲の液体と直接接触することはなく、表面が汚染されることはない。
【0051】
マイクロプリズムとしての光学的に有効な面を備えた少なくとも1つの光学的方向転換手段のさらなる構成を
図5a〜5cに示している。
図4bおよび
図4d中で示した光学的方向転換手段22、23がマイクロプリズムを有し、その面が鏡面仕上げされている一方で、
図5a〜5c中で示したシステムでは、この種の鏡面仕上げは省かれうるが、この理由は、この場合、全反射の原理が利用されるからであり、これは、相応の境界条件が満たされている限り、面の鏡面仕上げと等価的に作用する。この際、光学的に有効な面が必ずしもマイクロプリズムとして構成されているには及ばず、平坦な面を用いて全反射を発生させるのに必要な条件を設定しうる。
【0052】
試料とりわけ細胞は、主に水溶液中で検査され、その結果、鏡面仕上げされている面にとって有利な構成では、光学的に有効な面が、光軸Zに対して45°の角度をとる光学的方向転換手段の使用が、屈折率の比の割合(水の屈折率は1.33で、かつガラスまたはプラスチックの屈折率は例えば1.52である)のために容易に行われえない。むしろ、水/ガラスの境界面における全反射を利用するためには、この角度は約60°でなければならない。
図5a〜5cでは、このような条件下で、全反射の原理で働く光学的方向転換手段がどのように形成されうるかについて、3つの可能性が示されている。
【0053】
図5aは、光学的に有効な面が光軸Zに対して平均45°の角度をとるプリズム部材25を示すが、このマイクロプリズムないし光学的に有効な面は、鏡面仕上げされていない。励起光光線は、この場合、上述の例のように、光軸に対して平行に光学的な方向転換手段中に入らず、光軸に対して0とは異なる角度をとり、その結果、光学的に有効な面において全反射についての条件が満たされている。
【0054】
しかし、
図5aに示された実施形態では、励起光の開口数は、垂直の光入射を行う構成に対して影響をうける。したがって、
図5bでは、これとは異なる実施形態を示すが、この実施形態では、光入射はなお垂直に行われることができ、しかし、この際には、特別に構成されたプリズム部材26(この場合、方向転換はより平坦な角度の元で行われ、複数の光学的に有効な面が設けられている)を用いなければならない。
【0055】
最後に、
図5cで示した構成では、励起光光線は、この場合も光軸Zに対して0とは異なる角度でプリズム部材27中に向けられる。マイクロプリズム上にある第1の光学的に有効な面では、励起光が全反射され、第2の光学的に有効な面で屈折し、その結果、最終的な効果としてこの場合も、光軸Zに対してほぼ直角の角度をとる光シートが発生させられる。
【0056】
上述の装置では、光シートを発生させかつ検出を行うために、1つの同じ対物レンズが用いられるが、これは、既存の顕微鏡中に統合するための本質的な前提条件である。光学的方向転換手段を対物レンズ7から切り離し、試料担体3に結合することにより、これに加えて、コスト高にならずに、検出方向Zに対して垂直である平面中にある光シートを発生させうる。この光学的方向転換手段の構成は、とりわけ個々の細胞のサイズの非常に小さいおよび最も小さい試料の分析が可能になるので、有利である。レーザスキャン方法、PALM方法または多くのこれ以外の方法との組み合わせも可能である。試料担体3を台平面中または光シートの走査平面中で変位させることにより、Z方向での様々な断面から試料の画像スタックを容易に生成しうる。
【符号の説明】
【0057】
1 試料
2 検出装置
3 試料担体
4 励起光光路
5 検出光光路
6 カメラ
7 対物レンズ
8 分光器
9 レーザ
10,11 スキャナミラー
12 分光器
13 ピンホール
14 検出器
15,16 結像レンズ
17 コリメーション光学系
18 ズーム光学系
19 ミラー部材
20 ミラー面
21 小さな帽子状部材
22 不活性プリズム部材
23 活性プリズム部材
24 光線形成部材