特許第6685998号(P6685998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6685998-ゼオライト膜構造体 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685998
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】ゼオライト膜構造体
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20200413BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20200413BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20200413BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20200413BHJP
   C01B 39/04 20060101ALI20200413BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20200413BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/00
   B01D69/10
   B01D69/12
   C01B39/04
   B32B9/00 A
   B32B9/04
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-509834(P2017-509834)
(86)(22)【出願日】2016年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2016059047
(87)【国際公開番号】WO2016158582
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2018年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-71568(P2015-71568)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木下 直人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏之
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/129625(WO,A1)
【文献】 特開2008−094664(JP,A)
【文献】 特開2005−095851(JP,A)
【文献】 特開2002−253919(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/156579(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/02
B01D 69/00
B01D 69/10
B01D 69/12
B32B 9/00
B32B 19/00
C01B 37/02
C01B 39/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体の表面上に形成されるゼオライト膜と、
前記ゼオライト膜の表面上に形成され、有機無機ハイブリッドシリカ又は炭素によって構成される保護膜と、
を備え
前記保護膜の平均厚みは、44nm以上172nm以下である、
ゼオライト膜構造体。
【請求項2】
前記ゼオライト膜の前記表面における表面粗さRaは、1.74μm以下である、
請求項1に記載のゼオライト膜構造体。
【請求項3】
前記支持体の前記表面における表面粗さRaは、2.13μm以下である、
請求項に記載のゼオライト膜構造体。
【請求項4】
前記ゼオライト膜の前記表面における表面粗さRaは、0.28μm以上である、
請求項1乃至のいずれかに記載のゼオライト膜構造体。
【請求項5】
前記支持体の前記表面における表面粗さRaは、0.29μm以上である、
請求項に記載のゼオライト膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜を備えるゼオライト膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体上に形成されたゼオライト膜を備えるセラミックフィルタは、高分子膜と比較して機械的強度に優れているため、液体混合物や気体混合物から所望の成分を分離又は濃縮するのに好適である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/054794号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ゼオライト膜の耐久性向上には余地が残されている。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、耐久性を向上可能なゼオライト膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るゼオライト膜構造体は、支持体とゼオライト膜と保護膜を備える。ゼオライト膜は、支持体の表面上に形成される。保護膜は、ゼオライト膜の表面上に形成される。保護膜は、有機無機ハイブリッドシリカ又は炭素によって構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐久性を向上可能なゼオライト膜構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ゼオライト膜構造体の断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
(分離膜構造体10の構成)
図1は、分離膜構造体10の構成を示す断面図である。分離膜構造体10は、支持体20とゼオライト膜30と保護膜40とを備える。
【0011】
支持体20は、ゼオライト膜30を支持する。支持体20は、ゼオライト膜30を膜状に形成(結晶化、塗布、あるいは析出)できるような化学的安定性を有する。支持体20は、分離対象である混合流体をゼオライト膜30に供給できるような形状であればよい。支持体20の形状としては、例えばハニカム状、モノリス状、平板状、管状、円筒状、円柱状、及び角柱状などが挙げられる。
【0012】
本実施形態において、支持体20は、基体21と中間層22と表層23を有している。
【0013】
基体21は、多孔質材料によって構成される。多孔質材料としては、例えば、セラミックス焼結体、金属、有機高分子、ガラス、或いはカーボンなどを用いることができる。セラミックス焼結体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが挙げられる。金属としては、アルミニウム、鉄、ブロンズ、銀、ステンレスなどが挙げられる。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0014】
基体21は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。
【0015】
基体21の平均細孔径は、例えば5μm〜25μmとすることができる。基体21の平均細孔径は、水銀ポロシメーターによって測定できる。基体21の気孔率は、例えば25%〜50%とすることができる。基体21を構成する多孔質材料の平均粒径は、例えば5μm〜100μmとすることができる。基体21の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いた断面微構造観察によって測定される30個の測定対象粒子の最大直径を算術平均した値である。
【0016】
中間層22は、基体21の表面21S上に形成される。中間層22は、基体21に用いることのできる上記多孔質材料によって構成できる。中間層22の平均細孔径は、基体21の平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.005μm〜2μmとすることができる。中間層22の平均細孔径は、パームポロメーターによって測定できる。中間層22の気孔率は、例えば20%〜60%とすることができる。中間層22の平均厚みは、例えば30μm〜300μmとすることができる。
【0017】
表層23は、中間層22の表面22S上に形成される。表層23は、基体21に用いることのできる上記多孔質材料によって構成できる。表層23の平均細孔径は、中間層22の平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.001μm〜0.5μmとすることができる。表層23の平均細孔径は、パームポロメーターによって測定できる。表層23の気孔率は、例えば20%〜60%とすることができる。表層23の平均厚みは、例えば1μm〜50μmとすることができる。
【0018】
表層23は、ゼオライト膜30に接触する表面23Sを有する。表面23Sは、支持体20の最表面である。表面23Sの表面粗さRaは、2.13μm以下であることが好ましい。表面23Sの表面粗さRaは、0.29μm以上であることが好ましい。表面23Sの表面粗さRaは、SEMによって取得される25μm長の断面曲線からJIS B 0601に準拠した方法で測定できる。
【0019】
ゼオライト膜30は、表層23の表面23S上に形成される。ゼオライト膜30が主成分として含有するゼオライトの骨格構造(型)は特に制限されるものではなく、例えばMFI、LTA、CHA、DDR、MOR、DOH、FAU、OFF/ERI、LTL、FER、BEA、BEC、CON、MSE、MEL、MTW、MEI、MWW、RHO、BOG、SZR、EMT、SOD、AEI、AEL、AEN、AET、AFN、AFO、AFR、AFS、AFT、AFI、AFX、ANA、CAN、GIS、GME、HEU、JBW、KFI、LAU、LEV、MAZ、MER、MFS、MTT、PHI、SFG、TUN、TON、UFI、VET、VFI、VNI及びVSVなどが挙げられる。特に、ゼオライトが結晶化しやすいMFI、DDR、MEL、BEA、CHA、MOR、FAU、LTA、FER、SODが好ましく、化学的安定性が高いMFI、DDR、MEL、BEA、CHAが特に好ましい。
【0020】
本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが好ましくは60重量%以上を占め、より好ましくは70重量%以上を占め、さらに好ましくは90重量%以上を占めることを意味する。
【0021】
ゼオライト膜30は、無機バインダ(シリカやアルミナなど)、有機バインダ(ポリマーなど)及びシリル化剤などを含有していてもよい。
【0022】
ゼオライト膜30におけるSi/Al原子比は特に制限されないが、例えば1.5以上とすることができる。ゼオライト膜30は、Si/Al原子比が200以上のハイシリカゼオライトによって構成されていてもよい。このようなハイシリカゼオライトは、実質的にアルミニウムをほとんどもしくは全く含んでおらず、耐食性が高く、膜欠陥が少ないという特性を有する。ゼオライト膜30におけるSi/Al原子比は、水熱合成に用いる反応溶液や反応条件を制御することによって調整できる。ゼオライト膜30におけるSi/Al原子比は、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)によって測定できる。
【0023】
ゼオライト膜30の平均厚みは特に制限されるものではないが、例えば0.1μm〜10μmとすることができる。ゼオライト膜30を薄くすると透過量が増大する傾向がある。ゼオライト膜30を厚くすると選択性や膜強度が向上する傾向がある。ゼオライト膜30の厚みは水熱合成時間を制御することによって調整できる。
【0024】
ゼオライト膜30は細孔を有する。ゼオライト膜30の平均細孔径は特に制限されるものではなく、分離対象である液体混合物や気体混合物に応じて決定すればよい。ゼオライト膜30の平均細孔径は、例えば構造規定剤やテンプレートの種類やサイズを変更してゼオライトの骨格構造を特定することによって調整できる。ゼオライト膜30の平均細孔径は、例えば0.2nm〜2.0nmとすることができる。ゼオライト膜30の平均細孔径には、長径と短径があってもよい。例えば、DDR型ゼオライト膜の細孔の短径は0.36nmであり長径は0.44nmである。
【0025】
ゼオライト膜30は、保護膜40に接触する表面30Sを有する。表面30Sの表面粗さRaは、特に制限されるものではないが、1.74μm以下であることが好ましい。これにより、後述する保護膜40の剥離強度を向上させることができる。表面30Sの表面粗さRaは、0.28μm以上であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜30と保護膜40の密着性を向上させることができる。表面30Sの表面粗さRaは、SEMによって取得される25μm長の断面曲線からJIS B 0601に準拠した方法で測定できる。
【0026】
保護膜40は、ゼオライト膜30の表面30S上に形成される。保護膜40は、ゼオライト膜30の表面30Sを覆う。これにより、分離対象である液体混合物や気体混合物に含まれる水や水蒸気がゼオライト膜30に直接接触しないようにすることができる。そのため、ゼオライト膜30の一部が水や水蒸気に溶解して欠陥が生じることを抑制できる。
【0027】
保護膜40は、有機無機ハイブリッドシリカ材料又は炭素材料によって構成される。
【0028】
有機無機ハイブリッドシリカ材料は、有機成分と無機成分が化学結合したもの、又は、有機成分と無機成分が混合状態のものである。有機無機ハイブリッドシリカ材料としては、シランカップリング剤、又はアルコキシシランを加水分解及び脱水縮合させたものを用いることができる。より具体的には、構造式(CO)SiC2nSi(CO)(n≧1)のビストリエトキシシリル化合物を加水分解及び縮合させたものを用いることができる。この物質は、有機成分とシリコンを含む無機成分とが化学結合した状態にある。
【0029】
炭素材料としては、周知の分離膜に用いられる材料を用いることができる。分離膜用の材料については、特開2003−286018号公報に詳細が記載されている。
【0030】
このような有機無機ハイブリッドシリカ材料や炭素材料は多孔質の耐水性材料である。そのため、分離対象である液体混合物や気体混合物に含まれる水や水蒸気によって保護膜40自体に欠陥が生じることを抑制することもできる。
【0031】
保護膜40の平均厚みは、30nm〜300nmとすることができる。保護膜40の平均厚みは、172nm以下であることが好ましい。これにより、後述する乾燥及び焼成工程において保護膜40やゼオライト膜30にクラックが発生することを抑制できる。保護膜40の平均厚みは、44nm以上であることが好ましい。これにより、保護膜40の耐久性をより向上させることができる。
【0032】
本実施形態において、各膜の「平均厚み」とは、TEM(Transmission Electron Microscope)を用いた断面微構造観察によって測定される任意の10箇所の厚みの算術平均値である。
【0033】
(分離膜構造体の製造方法)
以下、分離膜構造体10の製造方法について説明する。
【0034】
まず、押出成形法、プレス成形法や鋳込み成形法などによって、所望の形状の基体21の成形体を形成する。次に、基体21の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して基体21を形成する。
【0035】
次に、所望の粒径のセラミックス原料を用いて調製した中間層用スラリーを基体21の表面21Sに成膜することによって中間層22の成形体を形成する。次に、中間層22の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して中間層22を形成する。
【0036】
次に、所望の粒径のセラミックス原料を用いて調製した表層用スラリーを中間層22の表面22Sに成膜することによって表層23の成形体を形成する。次に、表層23の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して表層23を形成する。
【0037】
次に、流下法やディップ法などによって、ゼオライト種結晶をアルコールに分散させた種付け用スラリーを表層23の表面23Sに塗布する。
【0038】
次に、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水などを含む原料溶液が入った耐圧容器にゼオライト種結晶が付着した支持体20を浸漬させる。原料溶液には有機テンプレートが含まれていてもよい。
【0039】
次に、耐圧容器を乾燥器に入れ、100〜200℃で1〜240時間ほど加熱(水熱合成)することによって、ゼオライト種結晶を膜状に結晶成長させる。
【0040】
次に、ゼオライト膜30が形成された支持体20を洗浄して、80〜100℃で乾燥させる。その後、原料溶液中に有機テンプレートが含まれていた場合には、支持体20を電気炉に入れて大気中で加熱(400〜800℃、1〜200時間)することによって有機テンプレートを燃焼除去する。
【0041】
次に、ゼオライト膜30の表面30Sに保護膜40を形成する。以下においては、保護膜40として有機無機ハイブリッドシリカ膜を形成する手法について説明する。
【0042】
まず、シランカップリング剤又はアルコキシシランの加水分解や脱水縮合などにより得られる有機無機ハイブリッドシリカをアルコールなどの溶媒に分解させてゾルを作製する。
【0043】
次に、ゾルをゼオライト膜30の表面30Sに塗布した後、通風して乾燥させる。この際の風速は、5.0m/s以上10m/s以下であることが好ましく、6.0m/s以上9.0m/s以下であることがより好ましい。これにより、常温で好適な乾燥を行うことができる。また、風温度は、10℃以上80℃以下であることが好ましい。これにより、膜面にクラックなどが発生することを抑えつつ迅速に乾燥させることができる。また、風露点は、送風温度より低いことが好ましく、例えば−70℃以上70℃以下とすることができる。露点温度を低下させるには、例えば吸着剤が強力に結合されたハニカム構造の除湿ロータで湿分を吸着させればよい。このように、ゾルを送風乾燥することによって、一様なゾルの塗膜を形成することができる。また、ゾルを自然乾燥する場合に比べて、塗膜厚の均一化、塗膜の迅速な乾燥、及び結露の抑制を図ることができる。
【0044】
次に、還元雰囲気において300℃〜350℃で乾燥したゾルを加熱して有機無機ハイブリッドシリカ膜を形成する。
【0045】
(他の実施形態)
上記実施形態において、支持体20は、基体21と中間層22と表層23を有することとしたが、中間層22と表層23の一方又は両方を有していなくてもよい。
【0046】
支持体20が表層23を有していない場合、ゼオライト膜30は中間層22の表面22S上に形成される。この場合、表面22Sの表面粗さRaは、2.13μm以下であることが好ましく、0.29μm以上であることが好ましい。
【0047】
支持体20が中間層22と表層23の両方を有していない場合、ゼオライト膜30は基体21の表面21S上に形成される。この場合、表面21Sの表面粗さRaは、2.13μm以下であることが好ましく、0.29μm以上であることが好ましい。
【0048】
上記実施形態では、ゼオライト種結晶を用いてゼオライト膜30を形成することとしたが、ゼオライト種結晶を用いずにゼオライト膜30を形成してもよい。
【実施例】
【0049】
以下、ゼオライト膜構造体の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0050】
(サンプルNo.1〜8、13の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1に係るゼオライト膜構造体を作製した。
【0051】
まず、平均粒径50μmのアルミナ粒子100質量部に対して無機結合材20質量部を添加し、さらに、水、分散剤及び増粘剤を加えて混練することによって坏土を作製した。
【0052】
次に、坏土を押出成形することによって、複数の貫通孔が形成されたモノリス状の基体の成形体を形成した。そして、基体の成形体を焼成(1250℃、1時間)した。
【0053】
次に、平均粒径50μmのアルミナとチタニアにPVA(有機バインダ)を添加して中間層用スラリーを調製し、濾過法によって各貫通孔の内表面に中間層の成形体を形成した。そして、中間層の成形体を焼成(1250℃、2時間)して中間層を形成した。以上により支持体が完成した。
【0054】
次に、平均粒径0.3μm〜0.6μm(表1参照)のアルミナを用いて表層用スラリーを調製し、濾過法又は流下法(表1参照)によって各中間層の内表面に表層の成形体を形成した。濾過法を用いたサンプルでは、アルミナにPVA(有機バインダ)を添加して表層用スラリーを調製した。表層の表面粗さRaを表1に示すように調整するために、添加するPVA(有機バインダ)の量をサンプルごとに調整した。流下法を用いたサンプルではアルミナにPVA(有機バインダ)を添加せずに表層用スラリーを調製した。この流下法の方が濾過法より表層が滑らかに形成される。表層の表面粗さRaを表1に示すように調整するために、ボールミルによって表面層用スラリーを解こうする時間をサンプルごとに変更した。そして、表層の成形体を焼成して表層を形成した。
【0055】
次に、国際公開第2010/090049A1に記載の方法に基づいて作製したDDR型ゼオライト粉末を粉砕したものを核として用いてDDR型ゼオライト種結晶(以下、種結晶という。)を作製した。
【0056】
次に、種結晶を水に分散させた分散液をエタノール中に滴下しながら攪拌することによって種付け用スラリーを作製した。
【0057】
次に、縦置きにした支持体の上方に配置した広口ロートに種付け用スラリーを注ぎ、広口ロートの出口から流出する種付け用スラリーを支持体の各貫通孔に流し込んだ。そして、各貫通孔に室温の空気を通風して種付け用スラリーを乾燥させた。
【0058】
次に、シリカ分散液に1−アダマンタンアミンを溶解したエチレンジアミン溶液を加えて攪拌し、攪拌後の溶液にイオン交換水を加えて希釈して膜形成用原料溶液を調製した。
【0059】
次に、フッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器に種結晶が付着した支持体を配置して、調合した膜形成用原料溶液を入れて加熱(水熱合成)した。これにより、支持体の貫通孔の内表面に1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜を形成した。
【0060】
次に、1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜が形成された支持体を加熱して1−アダマンタンアミンを燃焼除去した。
【0061】
次に、BTESE(ビストリエトキシシリル化合物:構造式(CO)SiC2nSi(CO)(n≧1):Gelest社製)11.34gとエタノール29.53gとを、水温を3℃に保ちながら混合攪拌した(A)。水3.02gに硝酸0.56gを添加した(B)。AにBを滴下し、60℃で3時間攪拌した(C)。Cにエタノールを加え、固形分0.12質量%〜0.36質量%(表1参照)となるよう調整して保護膜原料ゾルを得た。
【0062】
次に、種付け用スラリーの塗布工程と同じように、保護膜原料ゾルをDDR型ゼオライト膜の内側に流し込んだ。そして、各貫通孔に23℃の空気(露点:−21℃)を風速7.5m/sで30分間通風して保護膜原料ゾルを乾燥させた。
【0063】
次に、乾燥させた保護膜原料ゾルをN雰囲気において350℃で1時間焼成することによって有機無機ハイブリッドシリカ膜を形成した。
【0064】
(サンプルNo.9〜12の作製)
まず、サンプルNo.1〜8と同じ工程にて支持体とDDR型ゼオライト膜を作製した。
【0065】
次に、フェノール樹脂(ベルパールS899:エア・ウォーター社製)4.00gとエタノール196.00gとを混合攪拌した。そして、これにエタノールを加えて固形分0.12質量%〜0.36質量%(表1参照)となるよう調整して、保護膜原料ゾルを得た。
【0066】
次に、種付け用スラリーの塗布工程と同じように、保護膜原料ゾルをDDR型ゼオライト膜の内側に流し込んだ。そして、各貫通孔に23℃の空気(露点:−21℃)を風速7.5m/sで30分間通風して保護膜原料ゾルを乾燥させた。
【0067】
次に、乾燥させた保護膜原料ゾルをN雰囲気において500℃で1時間焼成することによって炭素膜を形成した。
【0068】
(サンプルNo.14の作製)
サンプルNo.1〜8と同じ工程にて支持体及びDDR型ゼオライト膜を作製し、DDR型ゼオライト膜を覆う保護膜は形成しなかった。
【0069】
(表層の表面粗さRaの測定)
各サンプルについて、表層の表面の断面をSEMで観察することによって、DDR型ゼオライト膜と接触する表面の表面粗さRaを25μm長の断面曲線からJIS B 0601に準拠した方法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0070】
(DDR型ゼオライト分離膜の表面粗さRaの測定)
各サンプルについて、DDR型ゼオライト膜の表面の断面をSEMで観察することによって、保護膜と接触する表面の表面粗さRaを25μm長の断面曲線からJIS B 0601に準拠した方法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0071】
(保護膜の平均厚み)
サンプルNo.1〜13について、保護膜の断面をTEMで観察することによって、任意の10箇所の厚みの算術平均値を算出した。算出結果を表1に示す。
【0072】
(水透過量と分離係数の測定)
各サンプルについて、90℃の水と酢酸の混合液(各液の重量比を95:5とした。)をセル内に供給しながら、セルの透過側の圧力を50torrにした時に膜を透過する蒸気を液体Nトラップで回収した。
【0073】
5時間経過後に回収した透過液の組成を中和滴定にて分析することによって水透過量と酢酸濃度を算出し、(透過水濃度/透過酢酸濃度)/(供給水濃度/供給酢酸濃度)の式に基づいて分離係数(α5)を算出した。5時間経過後における水透過量と分離係数を表1に示す。
【0074】
また、500時間経過後に回収した透過液の組成を中和滴定にて分析することによって水透過量と酢酸濃度を算出し、(透過水濃度/透過酢酸濃度)/(供給水濃度/供給酢酸濃度)の式に基づいて分離係数(α500)を算出した。そして、5時間経過後における分離係数(α5)に対する500時間経過後における分離係数(α500)の維持率(α500/α5)を算出した。500時間経過後における分離係数の維持率を表1に示す。
【0075】
(保護膜の剥離強度)
サンプルNo.1〜13について、保護膜とゼオライト膜の密着力を測定するために、保護膜の剥離強度試験を行った。具体的には、スタッドプル剥離強度測定型の薄膜密着強度測定器(フォトテクニカ社製、商品名ロミュラス)を用いて評価した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、ゼオライト膜を保護膜によって覆ったサンプルNo.1〜13では、保護膜を形成しなかったサンプルNo.14に比べて分離係数の維持率(α500/α5)を向上させることができた。従って、ゼオライト膜上に保護膜を形成することによってゼオライト膜構造体の耐久性を向上させられることが確認された。
【0078】
また、保護膜の平均厚みを172nm以下としたサンプルNo.1〜7,9〜11,13では、保護膜の平均厚みが172nmよりも大きなサンプルNo.8,12に比べて5時間経過後における分離係数(α5)を向上させることができた。これは、保護膜の厚みを抑えることにより、乾燥及び焼成工程における保護膜のクラックを抑制できたためである。
【0079】
また、保護膜の平均厚みを44nm以上としたサンプルNo.1〜6,8〜13では、保護膜の平均厚みが44nm未満のサンプルNo.7に比べて分離係数の維持率(α500/α5)を向上させることができた。これは、保護膜の厚みを十分確保することにより、長時間使用時における保護膜の剥がれを抑制できたためである。
【0080】
また、表層の表面粗さRaを2.13μm以下とすることによってゼオライト膜の表面粗さRaを1.74μm以下としたサンプルNo.1〜12では、ゼオライト膜の表面粗さRaを1.96μmとしたサンプルNo.13に比べて剥離強度を向上させることができた。これは、表面粗さRaを小さくすることで保護層の厚みが均一となり、保護層の残留応力を低減できたためである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、ゼオライト膜構造体の耐久性を向上させることができるため、分離膜分野において有用である。
【符号の説明】
【0082】
10 ゼオライト膜構造体
20 支持体
21 基体
22 中間層
23 表層
30 ゼオライト膜
40 保護膜
図1