(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フレッシュマルテンサイトを得るために、前記製品を、周囲温度まで0.005℃/sを超える冷却速度で冷却するステップを、前記保持ステップの後にさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
前記加熱された鋼出発製品が熱間圧延鋼板であり、および前記鋼製品が鋼板であり、ならびに前記熱間成形ステップが圧延ステップである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
前記加熱された鋼出発製品が加熱された鋼ブランクであり、前記鋼製品が鋼部品であり、および前記加熱された鋼出発製品を提供する前記ステップが、完全オーステナイト組織を得るために、鋼ブランクを、前記鋼の温度AC3よりも高い温度まで加熱するステップを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
前記コーティング層が、加熱前に前記鋼ブランクに施され、および前記コーティング層が、アルミニウムもしくはアルミニウムベースの被覆、または亜鉛もしくは亜鉛ベースの被覆である、請求項13に記載の方法。
前記オーステナイトが、膜または島の形状であり、前記膜または島の最小寸法が0.3μmを下回る値を有し、前記膜または島の最大寸法が2μmを下回る平均値を有する、請求項15から20のいずれか一項に記載の鋼製品。
前記焼戻しマルテンサイトが、前記焼戻しマルテンサイトの表面と比べて、表面割合で0.5%未満の炭化物を含み、および前記炭化物が、50nm未満の平均サイズを有する、請求項15から21のいずれか一項に記載の鋼製品。
【発明の概要】
【0010】
従って、1000MPaを超え、1700MPaまでの降伏強さYS、1300MPaを超え、2000MPaまでの引張強さTS、7%を超える一様伸びUE、10%を超える全伸びTE、18000MPa%を超える引張強さ×全伸び(TS×TE)の積および13000MPa%を超える引張強さ×一様伸び(TS×UE)の積を有する鋼板または鋼部品を製造できることが依然として望ましい。これらの特性は、2009年10月に発行のISO規格ISO 6892−1に従って測定される。測定方法の違いにより、特に使用される試験片のサイズの違いにより、ISO規格による全伸びの値は非常に異なり、特にJIS Z 2201−05規格による全伸びの値よりも低いことが強調されなければならない。
【0011】
この目的のために、本発明は、以下の連続するステップ:
− 380℃から700℃の間に含まれる温度に加熱された鋼出発製品を提供するステップであって、前記加熱された鋼出発製品が、完全な準安定オーステナイト組織を有し、前記加熱された鋼出発製品が、重量パーセントで:
0.15%≦C≦0.40%、
1.5%≦Mn≦4.0%、
0.5%≦Si≦2.5%、
0.005%≦Al≦1.5%
(但し、0.8%≦Si+Al≦2.5%)、
S≦0.05%、
P≦0.1%、
CrおよびMoの中から選ばれる少なくとも1つの元素を以下:
0%≦Cr≦4.0%、
0%≦Mo≦0.5%
および
2.7%≦Mn+Cr+3Mo≦5.7%
のように、
ならびに、場合により:
Nb≦0.1%、
Ti≦0.1%、
Ni≦3.0%、
0.0005%≦B≦0.005%、
0.0005%≦Ca≦0.005%
の中から選ばれる1つまたは幾つかの元素、
を含む組成を有し、
組成の残部が、鉄および精錬に由来する不可避不純物からなるものである、ステップ、
− 前記加熱された鋼出発製品を、0.1から0.7の間の累積ひずみε
bで、前記加熱された鋼出発製品の少なくとも1つの場所において、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップに供し、前記鋼の組織が完全オーステナイト系のままの熱間成形鋼製品を得るステップ、次いで、
− 40%から90%の間のマルテンサイトを含み、残りはオーステナイトである組織を得るために、マルテンサイト臨界冷却速度を上回る冷却速度VR
2で、前記鋼のマルテンサイト開始温度Msよりも低い焼入温度QTまで熱間成形鋼製品を冷却することによって焼入れするステップ、次いで、
− 前記製品を維持するか、または前記製品をQTから470℃の間の保持温度PTまで再加熱し、および前記温度PTで5sから600sの間の時間Ptの間、保持するステップ
を含む、鋼製品の製造方法に関する。
【0012】
本発明の他の有利な態様によれば、本方法は、単独で、または任意の技術的に可能な組み合わせに従って考慮される1つ以上の以下の特徴を含む:
− 本方法は、フレッシュマルテンサイトを得るために、前記保持された製品を、周囲温度まで0.005℃/sを超える冷却速度で冷却するステップをさらに含む;
− 前記加熱された鋼出発製品が熱間圧延鋼板であり、および前記鋼製品が鋼板であり、ならびに前記熱間成形ステップが圧延ステップである;
− 前記加熱された鋼出発製品を提供するステップが:
・完全オーステナイト組織を得るために、請求項1に記載の組成を有する鋼半製品を、前記鋼の温度AC
3よりも高い温度まで加熱するステップと、
・前記加熱された鋼出発製品を得るために、前記鋼半製品を、1よりも大きい累積減少ひずみ(cumulated reduction strain)ε
aで、1200から850℃の間の温度T
2を上回る温度で粗圧延ステップに供するステップを含む;
− 前記加熱された鋼出発製品が、30μm未満の平均オーステナイト結晶粒度を有する;
− 前記出発製品が鋼ブランクであり、前記鋼製品が鋼部品であり、前記加熱された鋼出発製品を提供するステップが、完全オーステナイト組織を得るために、前記鋼ブランクを、前記鋼の温度AC
3よりも高い温度まで加熱するステップを含む;
− 前記鋼ブランクが、1.0mmから4.0mmの間の厚さを有する;
− 前記熱間成形ステップが熱間圧延ステップである;
− 前記熱間成形ステップがホットスタンピングステップである;
− 前記熱間成形ステップがホットスピニングステップである;
− 前記熱間成形ステップがロールフォーミングステップである;
− 前記鋼ブランクが、少なくとも1つのコーティング層を含む;
− コーティング層が、加熱前に前記出発製品に施され、および前記コーティング層が、アルミニウムもしくはアルミニウムベースの被覆、または亜鉛もしくは亜鉛ベースの被覆である。
【0013】
また本発明は、重量パーセントで:
0.15%≦C≦0.40%、
1.5%≦Mn≦4.0%、
0.5%≦Si≦2.5%、
0.005%≦Al≦1.5%
(但し、0.8%≦Si+Al≦2.5%)、
S≦0.05%、
P≦0.1%、
CrおよびMoの中から選ばれる少なくとも1つの元素を以下:
0%≦Cr≦4.0%、
0%≦Mo≦0.5%
および
2.7%≦Mn+Cr+3Mo≦5.7%
のように、
ならびに、場合により
Nb≦0.1%
Ti≦0.1%、
Ni≦3.0%
0.0005%≦B≦0.005%
0.0005%≦Ca≦0.005%
の中から選ばれる1つまたは幾つかの元素、
を含む組成を有し、
組成の残部が、鉄および精錬に由来する不可避不純物からなるものであり、
前記鋼製品の少なくとも1つの場所の組織が、以下:
− 少なくとも40%の表面割合を有する、焼戻しマルテンサイトまたは炭化物を含まないマルテンサイトのラス、
− 表面割合が5%から30%の間に含まれる、島または膜の形状の、フレッシュマルテンサイト、および
− 5%から35%の表面割合を有するオーステナイト
からなる鋼製品に関する。
【0014】
本発明の他の有利な態様によれば、鋼製品は、単独で、または任意の技術的に可能な組み合わせに従って考慮される1つ以上の以下の特徴を含む:
− 前記鋼の引張強さTSと前記鋼の一様伸びUEの積が13000MPa%以上である;
− マルテンサイトのラスが、1μm未満の平均サイズを有し、前記マルテンサイトのラスのアスペクト比が2から5の間に含まれる;
− 3を下回るアスペクト比を有する前記フレッシュマルテンサイトの島の最大サイズが3μmを下回る;
− 前オーステナイト結晶粒の平均サイズが30μm未満である;
− 前オーステナイト結晶粒のアスペクト比が1.3よりも大きい;
− 前記オーステナイトが、膜または島の形状であり、前記膜または島の最小寸法が0.3μmを下回る値を有し、前記膜または島の最大寸法が2μmを下回る平均値を有する;
− 前記焼戻しマルテンサイトが、前記焼戻しマルテンサイトの表面と比べて、表面割合で0.5%未満の炭化物を含み、および前記炭化物が、50nm未満の平均サイズを有する;
− 前記鋼製品が鋼板であり、および鋼板全体の組織が以下:
・少なくとも40%の表面割合を有する、焼戻しマルテンサイトまたは炭化物を含まないマルテンサイトのラス、
・表面割合が5%から30%の間に含まれる、島または膜の形状の、フレッシュマルテンサイト、および
・5%から35%の表面割合を有するオーステナイト
からなる;
− 前記鋼製品がホットスタンプ鋼部品であり、および前記ホットスタンプ部品の体積の少なくとも20%の組織が以下:
・少なくとも40%の表面割合を有する、焼戻しマルテンサイトまたは炭化物を含まないマルテンサイトのラス、
・表面割合が5%から30%の間に含まれる、島または膜の形状の、フレッシュマルテンサイト、および
・5%から35%の表面割合を有するオーステナイトからなる;
− 前記鋼製品が、少なくとも1つのコーティング層を含む;
− 前記少なくとも1つのコーティング層が、亜鉛もしくは亜鉛ベースの合金、またはアルミニウムもしくはアルミニウムベースの合金である;
− 前記少なくとも1つのコーティング層が、ホットスタンピングの前に施される。
【0015】
ここで本発明を、制限を導入することなく詳細に説明し、例および添付の図面により例示する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による鋼製品は以下の組成を有する:
− 満足のいく強度を確保し、および残留オーステナイトの安定性を改善するための、0.15%≦C≦0.40%。特に、0.15%未満の炭素含有量では、鋼の焼入性は十分に良好ではなく、利用される製造方法で十分なマルテンサイトが生成されない。Cの含有量が0.40%を超えると、鋼の溶接性が低下する。実際、この鋼板から製造された溶接継手は、靭性が不十分であろう。好ましくは、炭素含有量は0.25%以上である。好ましくは、炭素含有量は0.33%を超えない。
【0018】
− 1.5%≦Mn≦4.0%。マンガンは、Ac
1、Ac
3およびMs温度、即ち、それぞれ、加熱によりオーステナイトが生成し始める温度(Ac
1)、加熱によりオーステナイト変態が完了する温度(Ac
3)および冷却によりオーステナイトからマルテンサイトへの変態が始まる温度(Ms)を下げる。従って、Mnは、Mn中のオーステナイトをさらに化学的に濃縮し、およびオーステナイトの結晶粒度を小さくすることにより、残留オーステナイトの安定性を改善する。オーステナイト結晶粒度の微細化は拡散距離を小さくし、従って、熱処理の冷却サイクルの間に実施することができる温度保持ステップの間、CおよびMnの拡散を固定する。冷却中、700から380℃の温度範囲において、鋼を変形させるのに十分な安定化効果を得るためには、Mn含有量は1.5%未満であってはならない。さらに、Mnの含有量が4%を超えるとき、分離領域が現れ、これは伸びフランジ性に有害であり、本発明の実施の障害となる。好ましくは、Mn含有量は1.8%を超える。好ましくは、Mn含有量は2.5%を超えない。
【0019】
− 0.5%≦Si≦2.5%および0.005%≦Al≦1.5%、さらにケイ素およびアルミニウムの含有量は次の関係を満たす:0.8%≦Si+Al≦2.5%。本発明によれば、SiおよびAlは一緒に以下のとおりの重要な役割を果たす。
【0020】
ケイ素は、平衡変態温度Ae
3未満に冷却すると、セメンタイトの析出を遅らせる。従って、Siの添加は、島状の十分な量の残留オーステナイトを安定化させるのに役立つ。さらに、Siは、固溶体強化をもたらし、部分的なマルテンサイト変態直後に実施される再加熱および保持ステップの結果生じる、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素の再分布の間の炭化物の生成を遅らせる。含有量が高すぎると、表面に酸化ケイ素が生成し、これは鋼の被覆性を損なう。従って、Si含有量は、好ましくは2.5%以下である。
【0021】
アルミニウムは、精錬中に液相で鋼を脱酸するのに非常に効果的な元素である。Al含有量は、液体状態の鋼の十分な脱酸を達成するために、0.005%以上である。さらに、Siと同様、Alは残留オーステナイトを安定化する。介在物の発生を避け、酸化の問題を避け、材料の焼入性を確保するために、Al含有量は1.5%を超えない。
【0022】
オーステナイトの安定化に対するSiおよびAlの効果は類似している。SiおよびAlの含有量が、0.8%≦Si+Al≦2.5%であるようなとき、オーステナイトの満足のいく安定化が得られ、これによって所望のミクロ組織が形成できるようになる。
【0023】
− 硫黄およびリンは、部品の延性および靭性をあまり劣化させないために、低濃度、即ち、S≦0.05%およびP≦0.1%に維持されなければならない。極めて少ない硫黄の実現には費用がかかるため、0.0005%を超える硫黄含有量が経済的な理由から好ましい。同様に、0.0005%を超えるリン含有量が好ましい。
【0024】
本発明による鋼は、モリブデンおよびクロムの中から選ばれる少なくとも1つの元素を含む。CrおよびMoは、オーステナイトの変態を遅らせ、初析フェライトまたはベイナイトの生成を防ぐのに非常に効率的であり、本発明を実施するために使用することができる。特に、これらの元素は、冷却時の等温変態図(時間・温度・変態(TTT)図としても知られる。)に影響を及ぼす:CrおよびMoの添加は、フェライト−パーライト変態域をベイナイト変態域から分離し、フェライト−パーライト変態は、ベイナイト変態よりも高い温度で起こる。従って、これらの変態域は、TTT図において2つの別個の「鼻」として現れ、オーステナイトからフェライト、パーライトおよび/またはベイナイトへの望ましくない変態を引き起こすことなく、これらの2つの鼻の間の冷却時に鋼を変形させる「湾」が開かれている。本発明の組成については、この変形温度範囲は、380から700℃の間に含まれる。この範囲の準安定オーステナイトの熱間成形は、「オースフォーム」として知られている。
【0025】
鋼の組成がCrを含む場合、Cr含有量は4.0%を超えてはならない。実際、この値を超えるとCrの効果は飽和し、Crの含有量を増やしても、有益な効果をもたらすことなく費用がかかるであろう。
【0026】
鋼の組成がMoを含む場合、Moの高いコストのために、Mo含有量は0.5%を超えない。
【0027】
さらに、本発明によれば、Mn、CrおよびMoの含有量は、2.7%≦Mn+Cr+3Mo≦5.7%のようになる。この関係におけるMn、CrおよびMoの係数は、十分な機械的特性を得るためにオーステナイトの変態を防ぎ、硬化をもたらすそれぞれの能力を反映している。
【0028】
本発明による鋼は、場合により、ニオブおよび/またはチタンを含む。
【0029】
Nbが組成物中に存在するとき、Nbの含有量は0.1%を超えるべきでなく、好ましくは0.025%を超えるべきである。Tiが組成物中に存在するとき、Tiの含有量は0.1%を超えるべきでなく、好ましくは0.01%を超えるべきである。
【0030】
これらの量において、Nbは、鋼の焼入性を改善するBとの強い相乗効果を有し、Tiは、BをBNの生成から保護することができる。さらに、NbおよびTiの添加は、焼戻し中のマルテンサイトの軟化に対する抵抗性を高めることができる。
【0031】
NbおよびTiのこの効果は、NbおよびTiの含有量がそれぞれ0.025%および0.01%を超える場合に顕著に表れる。
【0032】
NbおよびTiの含有量は、これらの元素によってもたらされる高温での鋼の硬化を制限するために、それぞれ0.1%を超えず、このことが、熱間圧延力の増加により、薄板の製造を困難にするであろう。
【0033】
場合により、組成物は、3.0%以下の量、好ましくは0.001%を超える量のニッケルを含んでもよい。
【0034】
鋼は、場合により、鋼の焼入性を向上させるために、0.0005%から0.005%の間に含まれる量のホウ素を含んでもよい。実際、オーステナイトの重要な変形は、冷却中のオーステナイトからフェライトへの変態を加速し得る。0.0005%から0.005%の間に含まれる量のBの添加は、この初期のフェライト変態の防止に役立つ。
【0035】
場合により、鋼は、0.0005%から0.005%の間に含まれる量のカルシウムを含んでもよい:OおよびSと組み合わせることによって、Caは、シートの延性悪影響を及ぼす大きなサイズの介在物の生成を避けるのに役立つ。
【0036】
鋼の組成の残りの部分は、鉄および精錬に由来する不純物である。不純物は窒素を含んでもよく、N含有量は0.010%を超えない。
【0037】
本発明による鋼製品の製造方法は、少なくとも40%の表面割合を有する、焼戻しマルテンサイトまたは炭化物を含まないマルテンサイトのラス、表面割合が5%から30%の間に含まれる、島または膜として存在する、フレッシュマルテンサイト、および5%から35%の表面割合を有する残留オーステナイトからなるミクロ組織を、製品の少なくとも1つの場所に有する鋼製品を製造することを目的とする。
【0038】
これらのミクロ組織の特徴は、局所的に厳しい応力に耐えるように、製品の全体に、または一部の場所にのみ存在し得る。後者の場合、これらのミクロ組織の特徴は、有意な強度抵抗を得るために、製品の体積の少なくとも20%に存在しなければならない。
【0039】
以下、製造方法について説明する。本方法は、380℃から700℃の間に含まれる温度に加熱された鋼出発製品を提供するステップを含み、前記加熱された鋼出発製品は、完全オーステナイト組織を有する。この温度範囲および以下の鋼組成を参照すると、このオーステナイト組織は準安定状態にあり、即ち、この加熱された鋼出発製品は、オーステナイトの範囲の加熱ステップと、この後に、オーステナイトが変態する時間がないように十分に高い速度で冷却することによって得られるものと理解される。
【0040】
前記加熱された出発製品は、さらに、重量パーセントで:
0.15%≦C≦0.40%、
1.5%≦Mn≦4.0%、
0.5%≦Si≦2.5%、
0.005%≦Al≦1.5%
(但し、0.8%≦Si+Al≦2.5%)、
S≦0.05%、
P≦0.1%、
CrおよびMoの中から選ばれる少なくとも1つの元素を以下:
0%≦Cr≦4%、
0%≦Mo≦2%
および
2.7%≦Mn+Cr+3Mo≦5.7%
のように、
ならびに、場合により:
Nb≦0.1%、
Ni≦3.0%、
Ti≦0.1%、
0.0005%≦B≦0.005%、
0.0005%≦Ca≦0.005%
の中から選ばれる1つまたは幾つかの元素、
を含む組成を有し、
組成の残部が、鉄および精錬に由来する不回避不純物からなるものである。
【0041】
前記加熱された出発製品は、例えば、半製品またはブランクである。
【0042】
半製品は、熱間圧延ステップに供されているが、厚さは、この段階では、所望の最終厚さよりも厚いシートと定義される。
【0043】
ブランクは、鋼板またはコイルを、製造される製品の所望の最終形状に関連する形態に切断した産物と定義される。
【0044】
本発明によれば、加熱された出発製品は、0.1から0.7の間の累積ひずみで、出発製品の少なくとも1つの場所において、700℃から380℃の間に含まれる温度での熱間成形ステップに供され、鋼の組織は完全オーステナイト系のままであり、即ち、オースフォームが実施される。
【0045】
熱間成形ステップは、1つまたは幾つかの連続する段階で実施されてもよい。製品の形状および局所的な応力モードのために、製品のある場所と別の場所で変形モードが異なることがあるため、等価累積ひずみε
bは、製品のそれぞれの場所で
【0046】
【数1】
(式中、ε
1およびε
2は、変形のすべての段階で累積される主ひずみである。)と定義される。
【0047】
熱間圧延により熱間成形が実施される場合、累積ひずみε
bは、熱間圧延前の最初のシート厚さt
iおよび熱間圧延後の最後のシート厚さt
fから、
【0049】
これらの条件では、再結晶化が起こらない塑性変形したオーステナイト組織が得られる。
【0050】
熱間成形ステップは、熱間成形ステップの間のオーステナイトの微細化を可能にし、変形したオーステナイトの再結晶を避け、およびオーステナイトの変態を避けるために、いずれも380℃から700℃の間に含まれるT
3からT
3’の間(例えば550℃から450℃の間)の温度で行われる。特に、鋼の組成のために、この熱間成形ステップの間のフェライト、パーライトおよび/またはベイナイトの生成が避けられる。
【0051】
実際、上に開示の通り、Mnは残留オーステナイトの安定性を改善する。
【0052】
さらに、CrおよびMoは、フェライト−パーライト変態域をベイナイト変態域から分離することにより、オーステナイトの変態を遅らせ、および初析フェライトまたはベイナイトの生成を防ぐ。従って、これらの変態域は、等温変態図(時間・温度・変態(TTT)図としても知られる。)において2つの別個の「鼻」として現れ、従って、フェライト、パーライトおよび/またはベイナイトを生成することなく、これらの2つの鼻の間の冷却時に鋼を変形させる「窓」を開く。従って、熱間成形ステップ(「オースフォーム」)は、好ましくは、この窓内の温度で実施される。
【0053】
熱間成形ステップは、このような熱間成形ステップに供していない鋼と比べて、引張強さTSおよび鋼の降伏強さYSの向上につながる。特に、熱間成形ステップは、少なくとも150MPaの引張強さの増加ΔTSおよび少なくとも150MPaの降伏強さの増加ΔYSにつながる。
【0054】
この時点で、熱間成形製品は、変形したオーステナイトからなる組織を有し、オーステナイトの変形率は0.1から0.7の間に含まれ、オーステナイト結晶粒の平均サイズは30μm未満、好ましくは10μm未満である。
【0055】
本発明によれば、次いで、40%から90%の間のマルテンサイトを含み、残りの部分はオーステナイトである組織を得るために、熱間成形製品は、マルテンサイト臨界冷却速度を超える冷却速度VR
2で、鋼のマルテンサイト開始温度Msよりも低い焼入温度QTまで冷却することによって焼入れされる。
【0056】
有意な量、即ち、5%から35%の間の残留オーステナイトを含む最終組織を有することが望ましいため、温度QTは低すぎてはならず、および所望の量の残留オーステナイトに従って、どのような場合でも、鋼の変態温度Mf、即ち、マルテンサイト変態が完了する温度よりも高く選ばれなければならない。さらに具体的には、各鋼の化学組成について、所望の残留オーステナイト含有量を実現する最適な焼入温度QTopを求めることが可能である。当業者は、この理論的な焼入温度QTopを求める方法を知っている。
【0057】
より微細な変形したオーステナイト結晶粒からマルテンサイト変態が生じるという理由で、マルテンサイトのラスの微細化は、以下で説明するように、従来技術よりも高い。
【0058】
上に示した範囲に従う組成物について、組織が間違いなく確実に40%から90%の間のマルテンサイトを含むために、焼入温度QTは、好ましくはMs−20℃未満であり、好ましくは100℃から350℃の間に含まれる。
【0059】
さらに冷却することなく、ミクロ組織がこの時点で実質的に残留オーステナイトおよびマルテンサイトからなる製品は、次いで、直ちに維持されるか、またはQTから470℃の間に含まれる保持温度PTまで再加熱される。
【0060】
例えば、製品は、Msよりも高い保持温度PTまで再加熱される。
【0061】
次に、製品は、温度PTで時間Ptの間維持され、Ptは5sから600sの間に含まれる。
【0062】
この保持ステップの間、炭素がマルテンサイトとオーステナイトの間で分配し、即ち、マルテンサイトからオーステナイトへ拡散し、これは、有意な量のベイナイトおよび/または炭化物が現れることなく、マルテンサイトの延性の改善およびオーステナイトの炭素含有量の増加につながる。濃縮したオーステナイトは、最終製品に対してTRIP(「変態誘起塑性」)効果を得ることを可能にする。
【0063】
分配の程度は、保持ステップの時間と共に大きくなる。従って、保持時間Ptは、できるだけ完全な分配がもたらされるよう十分長く選ばれる。保持時間Ptは、炭素におけるオーステナイトの濃縮を最適化するために、5sより長く、好ましくは20sより長くなければならない。
【0064】
しかし、時間が長すぎると、オーステナイトの分解およびマルテンサイトの過度の分配が起こり、従って、機械的特性が低下する可能性がある。従って、フェライトの生成をできるだけ避けるために、時間は制限される。従って、保持時間Ptは、600s未満であるべきである。製品は、最後に、5%から30%のフレッシュマルテンサイトを生成し、および5%から35%の残留オーステナイトの表面割合を有するのに必要な冷却速度で周囲温度まで冷却される。好ましくは、冷却速度は、0.005℃/sを超えるべきである。
【0065】
焼入ステップおよび保持ステップは、「焼入および分配」(「Q−P」)ステップと定義される。
【0066】
こうして得られる鋼製品は、熱間成形ステップに供した場所において、少なくとも40%の表面割合を有する、焼戻しマルテンサイトまたは炭化物を含まないマルテンサイトのラス、表面割合が5%から30%の間に含まれる、島または膜の形状の、フレッシュマルテンサイト、および5%から35%の表面割合を有する残留オーステナイトからなるミクロ組織によって特徴づけられる。
【0067】
マルテンサイトのラスは非常に薄い。好ましくは、EBSDによって特徴づけられるこれらのマルテンサイトのラスは、最大でも1μmの平均サイズを有する。
【0068】
さらに、これらのマルテンサイトのラスの平均アスペクト比は、好ましくは、2から5の間に含まれる。
【0069】
これらの特徴は、例えば、電子後方散乱回折(「EBSD」)装置に結合された、電界放出電子銃(「FEG−SEM」)を備える走査電子顕微鏡を用いて、1200倍を超える倍率でミクロ組織を観察することによって確認される。2つの隣接するラスは、これらの配向のずれが5°以上のとき、別個のラスと定義される。次いで、個々のラスの形態が、当業者に既知の従来のソフトウェアを用いる画像解析によって決定される。こうして、各ラスの最大寸法l
max、最小寸法l
minおよびアスペクト比
【0070】
【数3】
が決定される。この決定は、少なくとも1000個のラスのサンプルで行われる。このサンプルについて次いで決定される平均アスペクト比
【0071】
【数4】
は、好ましくは、2から5の間に含まれる。
【0072】
焼戻しマルテンサイトおよびマルテンサイトのラスは、前記焼戻しマルテンサイトおよびラスの表面と比べて、表面割合で0.5%未満の炭化物を含む。これらの炭化物は、50nm未満の平均サイズを有する。
【0073】
3を下回るアスペクト比を有するフレッシュマルテンサイトの島の最も大きい寸法は3μmを下回る。
【0074】
残留オーステナイトは、延性の向上に特に必要である。上記の通り、残留オーステナイトは、0.1から0.7の間に含まれる変形率で変形される。
【0075】
好ましくは、残留オーステナイトは、膜または島の形状である。これらの膜または島の最小寸法は、0.3μmを下回る値を有し、これらの膜または島の最大寸法は、2μmを下回る平均値を有する。残留オーステナイトの微細化は、変形時、広範囲のひずみにわたって残留オーステナイトがマルテンサイトに変態するように、残留オーステナイトの安定性を改善する。また、残留オーステナイトは、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素の分配によっても安定化される。
【0076】
冷却時の変態直前のオーステナイトの平均サイズである、前オーステナイト結晶粒の平均サイズ、即ち、この場合には、熱間成形ステップまでのオーステナイトの平均サイズは、30μm未満、好ましくは10μm未満である。さらに、前オーステナイト結晶粒のアスペクト比は1.3よりも大きい。
【0077】
このアスペクト比を決定するために、当業者に既知の適した方法、例えば、ピクリン酸エッチング試薬を用いるエッチングにより、前オーステナイト結晶粒を最終製品上に露出させる。前オーステナイト結晶粒は、光学顕微鏡または走査電子顕微鏡で観察される。次いで、前オーステナイト結晶粒のアスペクト比が、当業者に既知の従来のソフトウェアを用いる画像解析によって決定される。少なくとも300個の結晶粒のサンプルにおいて、前オーステナイト結晶粒の最大寸法および最小寸法が決定され、結晶粒のアスペクト比が、最大寸法と最小寸法の間の比として決定される。サンプルについて得られる値の平均として次いで決定されるアスペクト比は1.3よりも大きい。
【0078】
この製造方法では、1000MPaを超え、1700MPaまでの降伏強さYS、および1300MPaを超え、2000MPaまでの引張強さTSを、少なくとも7%の一様伸びUEおよび少なくとも10%の全伸びTEと共に有する高強度鋼製品を得ることが可能であり、積TS×TEは18000MPa%を超え、積TS×UEは13000MPa%を超える。
【0079】
実際、たとえ、温度QTまでの焼入とこの後の温度PTでの保持ステップが、引張強さTSの低下につながり得る、鋼のミクロ組織におけるマルテンサイトの表面割合の低下につながったとしても、この処理は、構造の精密化によりマルテンサイトの延性を向上し、炭化物の析出物を確実になくし、炭素に富むオーステナイトの生成につながり、従って、この処理は、降伏強さYS、引張強さTSならびに一様伸びおよび全伸びの向上につながる。
【0080】
本発明の第1の実施形態によれば、製造方法は、鋼板を製造するために実施される。
【0081】
この第1の実施形態によれば、加熱された出発製品は、本発明による組成を有する熱間圧延鋼板であり、熱間成形ステップは熱間圧延ステップである。
【0082】
完全オーステナイト組織を有する加熱された出発製品を提供するステップは、本発明による組成を有する半製品を提供するステップと、完全オーステナイト組織を得るために、半製品を、鋼の温度AC
3よりも高い温度T
1まで加熱するステップと、前記熱間圧延鋼板を得るために、半製品に、1よりも大きい累積減少ひずみε
aで、粗圧延ステップに供するステップとを含む。
【0083】
半製品は、本発明による組成を有する鋼を鋳造することによって得られる。鋳造は、鋼塊または厚さ約200mmの連続鋳造スラブの形態で行われてもよい。また、鋳造は、厚さ数十ミリメートル、例えば50mmから80mmの間の薄いスラブを得るために行われてもよい。
【0084】
半製品は、完全オーステナイト化を可能にするために、十分な時間t
1の間、1050から1250℃の間に含まれる温度T
1まで加熱することにより、完全オーステナイト化に供される。従って、温度T
1は、加熱時にフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度AC
3を上回る。従って、この加熱は、鋼の完全オーステナイト化、および出発製品中に存在することがあるNb炭窒化物の溶解につながる。さらに、温度T
1は、A
r3を上回るこの後の粗圧延ステップの実施を可能にするために、十分高い。
【0085】
次いで、半製品を、1200℃から850℃の間に含まれる温度において、A
r3を上回る最終圧延温度T
2で粗圧延に供し、従って、鋼組織は、この段階で完全オーステナイト系のままである。
【0086】
粗圧延の累積ひずみε
aは1を超える。粗圧延前の半製品の厚さをt
i、粗圧延完了後の半製品の厚さをt
fとすると、ε
aは、次式により計算される:
【0087】
【数5】
こうして得られる平均オーステナイト結晶粒度は30μm未満である。この段階で、この平均オーステナイト結晶粒度は、鋼試験片を粗圧延ステップ後に直接焼入れする試験によって測定することができる。次いで、サンプルを圧延方向に平行な方向に沿って切断し、切断面を得る。切断面は研磨され、前オーステナイト結晶粒界を露出させる当業者に既知の試薬、例えばBechet−Beaujard試薬を用いてエッチングされる。
【0088】
次いで、熱間圧延板は、オーステナイト変態を避けるために、2℃/sを超える冷却速度VR
1で、380℃から700℃の間に含まれる温度T
3まで冷却される。
【0089】
次いで、熱間圧延板は、0.1から0.7の間に含まれる累積減少ひずみε
bで、最終熱間圧延ステップに供される。最終熱間圧延は、380℃から700℃の間の温度範囲で実施される。
【0090】
こうして得られる熱間圧延鋼板は、オーステナイト結晶粒度が30μmを下回り、好ましくは10μmを下回る、依然としてオーステナイトからなる組織を有する。従って、熱間圧延板は、オースフォームに供される。
【0091】
次いで、熱間圧延鋼板は、マルテンサイト臨界冷却速度を超える冷却速度VR
2で、焼入温度QTまで冷却され、これによって、残りは未変態オーステナイトである、40%から90%の間に含まれるマルテンサイトの表面割合を得る。温度QTは、好ましくはMs−20℃を下回り、Mfを上回り、例えば100℃から350℃の間に含まれる。さらに冷却することなく、シートは、次いで、直ちに温度QTで維持されるか、または温度QTから、QTから470℃の間に含まれる保持温度PTまで再加熱され、5sから600sの間に含まれる時間Ptの間、温度PTで維持される。この保持ステップの間、炭化物を生じることなく、炭素がマルテンサイトとオーステナイトの間で分配し、即ち、マルテンサイトからオーステナイトへ拡散する。分配の程度は、保持ステップの時間と共に大きくなる。従って、時間は、できるだけ完全な分配がもたらされるよう十分に長く選ばれる。しかし、時間が長すぎると、オーステナイトの分解およびマルテンサイトの過度の分配が起こり、従って、機械的特性が低下する可能性がある。従って、フェライトの生成をできるだけ避けるために、時間は制限される。最後に、5%から30%のフレッシュマルテンサイトを得るために、および5%から35%の残留オーステナイトの表面割合を得るために、シートは、0.005℃/sを超える冷却速度で周囲温度まで冷却される。
【0092】
本発明の第2の実施形態によれば、製造方法は、鋼部品を製造するために実施される。
【0093】
この第2の実施形態によれば、出発製品は、本発明による組成を有する鋼ブランクである。
【0094】
加熱された出発製品を提供するステップは、本発明による組成を有する鋼ブランクを提供するステップと、完全オーステナイト組織を得るために、鋼ブランクを、鋼の温度AC
3よりも高い温度まで加熱するステップとを含む。
【0095】
鋼ブランクは、例えば、1.0mmから4.0mmの間の厚さを有する。
【0096】
この鋼ブランクは、鋼板またはコイルを、製造される部品の所望の最終形状に関連する形状に切断することによって得られる。
【0097】
この鋼ブランクは、コーティングされていなくても、場合によりプレコーティングされていてもよい。プレコーティングは、アルミニウムでも、またはアルミニウムベースの合金でもよい。後者の場合、プレコーティングは、重量で5%から11%のSi、2%から4%のFe、場合により15ppmから30ppmのCaを含み、残りの部分は、Alおよび精錬に由来する不純物からなるSi−Al合金浴に板を浸すことによって得られてもよい。
【0098】
また、プレコーティングは亜鉛でも、または亜鉛ベースの合金でもよい。プレコーティングは、連続溶融亜鉛めっきまたはガルバニーリングにより得られてもよい。
【0099】
完全オーステナイト組織を得るために、鋼ブランクは、まず、鋼の温度Ac3を上回る温度T
1、好ましくは900℃から950℃の間まで、例えば、2℃/sを超える加熱速度で加熱される。ブランクは、ブランク内で均一温度を得るために、温度T
1で維持される。1.0mmから4.0mmの間に含まれるブランクの厚さに応じて、温度T
1での保持時間は、3分から10分である。
【0100】
好ましくはオーブン内で実施されるこの加熱ステップは、鋼の完全オーステナイト化をもたらす。
【0101】
次いで、加熱された鋼ブランクはオーブンから取り出され、熱間成形装置、例えばホットスタンピングプレスに移され、オーステナイト変態を避けるために、2℃/sを超える冷却速度VR
1で、380℃から700℃の間に含まれる温度T
3まで冷却される。ブランクの移動は、ブランクを温度T
3まで冷却する前または後に行われてもよい。どのような場合でも、この移動は、オーステナイトの変態を避けるために十分速くなければならない。次いで、鋼ブランクは、熱間成形ステップの間のオーステナイトの硬化を可能にし、変形したオーステナイトの再結晶を避け、およびオーステナイトの変態を避けるために、380℃から700℃の間に含まれる、例えば450℃から550℃の間に含まれる温度範囲で熱間成形ステップに供される。従って、この熱間成形ステップは、オースフォームにより実施される。
【0102】
変形は、熱間圧延、またはプレス内のホットスタンピング、ロールフォーミングまたはホットスピニングなどの方法により実施されてもよい。
【0103】
熱間成形ステップは、1つまたは幾つかの段階で行われてもよい。ブランクは、ブランクの少なくとも1つの場所において、0.1から0.7の間に含まれるひずみε
bで変形される。
【0104】
1つの実施形態によれば、変形モードは、ブランク全体で累積ひずみε
bが0.1から0.7の間に含まれるように選ばれる。
【0105】
場合により、変形は、特に高い機械的特性が望まれる、最も応力を受けている場所に対応する、ブランクの幾つかの特定の場所でのみ、この条件が満たされるように行われる。こうして変形されたブランクの場所は、最終部品において有意な機械的特性の向上が得られるために、ブランクの体積の少なくとも20%を占める。
【0106】
この実施形態によれば、部品のある場所と別の場所で異なる機械的特性を有する製品が得られる。
【0107】
こうして得られる鋼部品は、熱間成形ステップに供される場所において、オーステナイト結晶粒度が30μmを下回り、好ましくは10μmを下回る、オーステナイトからなる組織を有する。
【0108】
次いで、こうして得られる鋼部品は、40%から90%の間に含まれるマルテンサイトであり、残りはオーステナイトである表面割合を得るために、マルテンサイト臨界冷却速度を上回る冷却速度VR
2で、焼入温度QTまで、好ましくは、例えば100℃から350℃の間に含まれるMs−20℃未満まで冷却される。
【0109】
次いで、鋼部品は、QTから470℃の間に含まれる保持温度PTまで再加熱されるか、または維持され、5sから600sの間に含まれる時間Ptの間、温度PTで維持される。
【0110】
最後に、5%から30%のフレッシュマルテンサイトを得るために、および5%から35%の残留オーステナイトを有するために、部品は、0.005℃/sを超える冷却速度で周囲温度まで冷却される。
【実施例】
【0111】
例として、および比較のために、表Iに報告する組成を有する鋼でできたシート(板)を、さまざまな製造方法により製造した。
【0112】
【表1】
【0113】
第1の一連のシート(表IIおよび表IIIの試験1から7)を、第1の本発明の実施形態に従って、上述の組成を有する半製品を温度T
1で時間t
1の間加熱し、次いで、加熱した半製品を、2の累積減少ひずみで、1200℃から850℃の間の温度T
2の粗圧延に供することにより製造した。
【0114】
次いで、シートを、20℃/sを超える冷却速度VR
1で温度T
3まで冷却し、次いで、前記温度T
3で開始し、温度T
3’で終了する最終熱間圧延ステップに、累積減少ひずみε
bで供した。
【0115】
次いで、シートを温度QTまで冷却し、次いで、直ちに保持温度PTまで再加熱し、時間Ptの間温度PTで維持した(下表IIの試験3から6)。
【0116】
最後に、シートを、0.1℃/sを超える冷却速度で周囲温度まで冷却した。
【0117】
第2の一連のシート(表IIおよび表IIIの試験8から14)を第2の実施形態に従って製造した。
【0118】
所与の組成を有する鋼ブランク、この場合、厚さ3mmを有する鋼板を、2℃/sを上回る加熱速度で温度T
1まで加熱し、温度T
1で時間t
1の間維持した。
【0119】
次いで、加熱した鋼ブランクを、2℃/sを超える冷却速度VR
1で温度T
3まで冷却し、次いで、前記温度T
3で開始し、温度T
3’で終了する熱間成形ステップに、累積減少ひずみε
bで供した。本発明の条件において、熱間成形シートは、この熱間成形ステップ後も依然として完全オーステナイト系であった。
【0120】
次いで、シートを温度QTまで冷却し、次いで、保持温度PTまで再加熱し、温度PTで時間Ptの間維持した。
【0121】
最後に、シートを、0.1℃/sを超える冷却速度で周囲温度まで冷却した。
【0122】
比較のために、第3の一連のシートを、本発明によらない製造工程により製造した(表IIおよび表IIIの試験15から18)。
【0123】
試験15および17の製造方法は、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップを含まないという点で、第1および第2の一連の例に用いた製造方法とは異なる。
【0124】
試験16および18の製造方法は、シートを、保持ステップなしで、即ち、「焼入および分配」ステップなしで、最終圧延ステップの直後に周囲温度まで冷却したという点で、第1および第2の一連の例に用いた製造方法とは異なる。
【0125】
第1、第2および第3の一連のシートの製造パラメータを表IIに報告し、得られた組織および機械的特性を表IIIに報告する。
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
例1から13による鋼のミクロ組織は、40%を超える焼戻しマルテンサイトまたは炭化物を含まないフェライトのラス、5から30%のフレッシュマルテンサイトの島または膜および5から35%の間のオーステナイトを含む。例1から13による鋼のミクロ組織は、マルテンサイトのラスが1μm未満の平均サイズを有し、マルテンサイトのラスのアスペクト比が2から5の間に含まれるようなものである。さらに、前オーステナイト結晶粒のアスペクト比は、例1から13において1.3よりも大きい。
【0129】
これらの例は、1000MPaから1700MPaの間に含まれる降伏応力YS、1300MPaから2000MPaの間に含まれる引張強さTS、7%を超える一様伸び、10%を超える全伸び、18000MPa%を超える積(引張強さ×全伸び)および13000MPa%を超える積(引張強さ×一様伸び)を有する。
【0130】
試験11、17および18は同じ組成を有する。試験11は、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップと保持ステップの両方を含む、本発明による製造方法によって得られ、一方、試験17は、700℃から380℃の間に含まれる温度のいかなる熱間成形ステップも含まない製造方法によって得られ、試験18は、マルテンサイト中に炭素を分配させるいかなる保持ステップも含まない製造方法によって得られた。
【0131】
言い換えれば:
− 本発明による試験11は、オースフォームおよび「焼入および分配」ステップを含む;
− 本発明によらない試験17は、「焼入および分配」ステップのみを含み、オースフォームを含まない;
− 本発明によらない試験18は、オースフォームステップのみを含み、「焼入および分配」ステップを含まない。
【0132】
図1、
図2および
図3は、それぞれ試験11、17および18の組織の比較を示す。これらの図において、オーステナイト(A)は完全に薄灰色または白色の領域として見え、フレッシュマルテンサイト(M)は薄灰色の領域として見え、焼戻しマルテンサイト(Mt)は、炭化物を表す小さい白色粒子あり、またはなしの濃灰色の領域として見える。MAは、オーステナイト/マルテンサイトの島を指す。
【0133】
試験11の組織(
図1に示した。)と試験17の組織(
図2に示した。)の比較は、本発明による700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップとQTから470℃の間の温度PTの保持ステップとの組み合わせが、保持ステップは含むが700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップは含まない方法よりもはるかに微細で、より均質な組織をもたらすことを示す。
【0134】
図3に示した試験18の組織は、実質的にフレッシュマルテンサイトを含む。この結果は、マルテンサイト中に炭素を分配させる保持ステップなしで、オーステナイトが、冷却時に、ほぼ完全にフレッシュマルテンサイトに変態することを示す。
【0135】
組織におけるこれらの違いがシートの機械的特性に与える影響は、試験3、9、15および16の機械的特性の比較によって強調される。
【0136】
試験11、17および18と同様に、試験3、9、15および16も同じ組成を有し、さまざまな製造方法によって得られた。
【0137】
試験3および9は、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップと保持ステップの両方を含む、本発明による製造方法によって得られた。試験3および9はいずれも、100MPaを超える降伏強さ、1600MPaを超える引張強さ、7%を超える一様伸び、10%を超える全伸び、および18000MPa%を超える引張強さ×全伸びの積を有する。
【0138】
一方、試験15は、380℃から700℃の間に含まれる温度のいかなる熱間成形ステップも含まない製造方法によって得られた。試験15は良好な伸び特性を有するが、1600MPaよりもはるかに低い不十分な引張強さを有し、従って、これの引張強さ×全伸びの積は18000MPa%未満であり、これの引張強さ×一様伸びの積は13000MPa%未満である。特に、試験15の製造中に380℃から700℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップがないために、試験15のミクロ組織には、1μm未満の平均サイズおよび2から5の間のアスペクト比を有するマルテンサイトのラスがない。
【0139】
さらに、マルテンサイト中に炭素を分配させるいかなる保持ステップも含まない製造方法によって得られたが、高い降伏強さおよび引張強さを有する試験16は、一様伸びおよび全伸びが不十分であり、従って、これの引張強さ×全伸びの積は18000MPa%よりもはるかに低く、これの引張強さ×一様伸びの積は13000MPa%よりもはるかに低い。
【0140】
これらの例は、驚いたことに、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップと保持ステップの両方を施すと、380℃から700℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップまたは保持ステップによって得られる平均伸びと強度よりも、よりよい延性特性と強度特性の対につながることを示す。
【0141】
この効果を
図4、
図5および
図6に示す。
【0142】
図4は、試験3、9、15および16の全伸びTEを、これらの引張強さTSに対して表すグラフである。本発明の領域は、L1(TS=1300MPa)、L2(TS=2000MPa)、L3(TE=10%)およびL4(TS×TE=18000MPa%)の線で区切られている。
【0143】
図4は、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップと保持ステップの両方を含む、本発明による製造方法によって得られた全伸び/引張強さの対が、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間圧延ステップのみを含む製造方法によって得られる全伸び/引張強さの対(試験15)および保持ステップのみを含む製造方法によって得られる全伸び/引張強さ(試験16)よりもはるかによいことを示す。この中間の全伸び/降伏強さを
図4に線I1で示した。
【0144】
さらに、これらの結果は、驚いたことに、本発明による方法が18000MPa%を超える引張強さ×全伸びの積をもたらす一方、このような高い値は線I1沿いでは得られないことを示す。
【0145】
図5は、試験3、9、15および16の一様伸びUEを、これらの降伏強さYSに対して表すグラフである。本発明の領域は、L5(YS=1000MPa)、L6(YS=1700MPa)およびL7(UE=7%)の線で区切られている。
【0146】
図4と同様に、
図5は、本発明による製造方法によって得られる一様伸びおよび降伏強さが、保持ステップのみを含む製造方法によって得られる一様伸び/降伏強さ(試験16)よりもはるかによいことを示す。
【0147】
図6は、試験3、9、15および16の一様伸びUEを、これらの引張強さTSに対して表すグラフである。本発明の領域は、L8(TS=1300MPa)、L9(TS=2000MPa)、L10(UE=7%)およびL11(TS×UE=13000MPa%)の線で区切られている。
【0148】
図6は、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間成形ステップと保持ステップの両方を含む、本発明による製造方法によって得られた一様伸び/引張強さの対が、700℃から380℃の間に含まれる温度の熱間圧延ステップのみを含む製造方法によって得られる全伸び/引張強さの対(試験15)および保持ステップのみを含む製造方法によって得られる全伸び/引張強さ(試験16)よりもはるかによいことを示す。この中間の一様伸び/降伏強さを
図6に線I2で示した。
【0149】
さらに、これらの結果は、驚いたことに、本発明による方法が13000MPa%を超える引張強さ×一様伸びの積をもたらす一方、このような高い値は線I2沿いでは得られないことを示す。
【0150】
従って、製造されるシートまたは部品は、フロントレールまたはリアレール、ピラー、バンパービームなどの自動車部品を製造するために使用することができる。