(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の銅箔は、樹脂層に埋め込まれてはいるものの、炭素繊維を含む基材の表面に接触しているだけである。このため、銅箔と炭素繊維との接触表面積が十分に確保されておらず、十分な導電性を確保することはできない。
【0006】
ところで、上記特許文献1には、銅箔を繊維強化樹脂板の表面に熱プレスで貼り付けることで、銅箔が表面の樹脂層を押しのけるようにして貼り付けられ、これにより銅箔が下層の炭素繊維と電気的に接触する、と記載されている。ところが、特許文献1には、繊維強化樹脂板のマトリクス樹脂について、エポキシ樹脂である点のみが記載されている。このため、このマトリクス樹脂は、一般的なエポキシ樹脂、つまり熱硬化性樹脂であると考えられる。従って、実際の製造工程では、銅箔を熱プレスしたとしても、銅箔が熱硬化性樹脂で形成された樹脂層を十分に押しのけることは難しく、銅箔と炭素繊維との電気的接触が十分に確保できていない可能性もある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を考慮してなされたものであり、繊維強化樹脂板の表面と内部に含まれる強化繊維との間で十分な導電性を確保することができる筐体用部材、及び該筐体用部材を用いた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様に係る筐体用部材は、導電性を有する強化繊維に熱可塑性樹脂が含浸された基材層の表面に、前記熱可塑性樹脂を含む樹脂層が形成された繊維強化樹脂板と、前記繊維強化樹脂板の表面の一部に設けられた導電性シートと、を備え、前記繊維強化樹脂板の表面の一部には、前記樹脂層を通過して前記基材層までくぼみを形成するようにした凹状部が設けられ、前記導電性シートの少なくとも一部が、前記凹状部の底部と接触した状態で前記基材層に接している。
【0009】
このような構成によれば、繊維強化樹脂板が表面の一部に凹状部を有することにより、導電性シートと基材層に含まれる強化繊維とが大きな接触表面積で電気的に接触する。このため、筐体用部材は、繊維強化樹脂板の表面に設けられた電性シートと基材層の強化繊維との間で十分な導電性を確保することができる。
【0010】
前記基材層は、少なくとも2層以上で形成され、前記凹状部は、少なくとも1層の前記基材層を貫通するように形成され、前記導電性シートの少なくとも一部は、前記貫通された前記基材層の下層に位置する基材層と接した構成としてもよい。そうすると導電性シートが、より広い接触面積で基材層の強化繊維と接触する。
【0011】
前記導電性シートは、前記基材層の表面に接する表層部と、該表層部から前記凹状部の少なくとも一部に沿って延在して該凹状部の底部に至った段差部と、を有する構成としてもよい。
【0012】
前記凹状部の深さは、前記導電性シートの厚みよりも大きい構成としてもよい。そうすると、凹状部がより確実に樹脂層を越えて基材層内に深く入り込むため、強化繊維と導電性シートとの接触表面積を一層大きくできる。
【0013】
前記凹状部の内側で前記導電性シートに重ねて設けられ、前記導電性シートよりも大きな厚みを有する導電性部材を備える構成としてもよい。そうすると、導電性部材が薄い導電性シートに導通した電気を集める集電体として機能するため、繊維強化樹脂板の表面と基材層の強化繊維との間での導電性が一層向上する。
【0014】
前記導電性部材は、金属板又は金属ワッシャであってもよい。そうすると、低コストで高い導電性を得ることができる。
【0015】
本発明の第2態様に係る筐体用部材は、導電性を有する強化繊維に熱可塑性樹脂が含浸された基材層の表面に、前記熱可塑性樹脂を含む樹脂層が形成された繊維強化樹脂板と、前記繊維強化樹脂板の表面の一部に設けられた導電性部材と、を備え、前記繊維強化樹脂板の表面の一部には、前記樹脂層を通過して前記基材層までくぼみを形成するようにした凹状部が設けられ、前記導電性部材が、前記凹状部の底部と接触した状態で前記基材層に接している。
【0016】
このような構成によれば、繊維強化樹脂板が表面の一部に凹状部を有することにより、導電性部材と基材層に含まれる強化繊維とが大きな接触表面積で電気的に接触する。このため、筐体用部材は、繊維強化樹脂板の表面に設けられた導電性部材と基材層の強化繊維との間で十分な導電性が確保される。
【0017】
前記基材層は、少なくとも2層以上で形成され、前記凹状部は、少なくとも1層の前記基材層を貫通するように形成され、前記導電性部材は、前記貫通された前記基材層の下層に位置する基材層と接した構成としてもよい。そうすると導電性部材が、より広い接触面積で基材層の強化繊維と接触する。
【0018】
前記導電性部材は、金属板、金属ワッシャ又は金属ナットであってもよい。そうすると、低コストで高い導電性を得ることができる。
【0019】
本発明の第3態様に係る電子機器は、上記構成の筐体用部材を用いた筐体を備え、前記筐体は、前記筐体用部材に別の部材を固定した金属ねじと、前記導電性シートとが、電気的に接続されている。従って、筐体用部材を用いた筐体のグランド性能を確保できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の上記態様によれば、繊維強化樹脂板の表面と内部に含まれる強化繊維との間で十分な導電性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る筐体用部材について、この部材を利用した電子機器を例示して好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は、一実施形態に係る筐体用部材10を用いた筐体12を備えた電子機器14の斜視図である。本実施形態では、筐体用部材10を用いた筐体12をノート型PCである電子機器14の本体部16として使用した構成を例示する。電子機器14は、タブレット型PCやスマートフォン等でもよい。
【0024】
図1に示すように、電子機器14は、キーボード装置18を有する本体部16と、液晶ディスプレイ等からなるディスプレイ装置20を有する蓋部22とを備える。電子機器14は、蓋部22を左右のヒンジ24により本体部16に対して回動可能に連結したクラムシェル型である。
【0025】
本体部16は、下カバー12aと上カバー12bとを重ねて連結した扁平箱状の筐体12を備える。下カバー12aは、本体部16の底面及び四周側面を覆うカバー部材であり、本実施形態に係る筐体用部材10によって構成されている。上カバー12bは、本体部16の上面を覆う樹脂製或いは金属製等のカバー部材であり、その大部分にキーボード装置18を露出させる開口部が設けられている。本体部16は、図示しない基板、演算処理装置、ハードディスク装置及びメモリ等の各種電子部品を筐体12内に収納している。
【0026】
次に、筐体用部材10を用いた下カバー12aの具体的な構成例を説明する。
図2は、筐体用部材10で形成した下カバー12aの構成を模式的に示す平面図であり、基板や演算処理装置等が収納される下カバー12aの内面を示した図である。
【0027】
図2に示すように、下カバー12aは、底板26の周縁部に壁部27が起立形成された蓋状のカバー部材である。底板26は、筐体12の底面を形成する。壁部27は、筐体12の四周側面を形成する。本実施形態の下カバー12aは、底板26及び壁部27が筐体用部材10によって形成されている。筐体用部材10は底板26のみに使用し、壁部27は他の樹脂材等によって構成してもよい。
図2中の参照符号28は、ヒンジ24が可動した際の逃げ部となる凹状の切欠き部である。
【0028】
底板26は、各所に孔部30が形成されている。各孔部30は、下カバー12aを上カバー12bに連結するための金属製のねじ32(
図6A〜
図6C参照)が挿通される取付孔である。筐体用部材10は、一部(又は全部)の孔部30に重なる位置や近接する位置にグランド用の導電性シート34及び導電性部材36が設けられている。
【0029】
次に、筐体用部材10の具体的な構成例を説明する。
図3は、
図2中のIII−III線に沿う筐体用部材10の断面構造を模式的に示した断面図である。
図3に示すように、筐体用部材10は、繊維強化樹脂板38と、導電性シート34と、導電性部材36とを有する。
【0030】
繊維強化樹脂板38は、例えば3層構造の基材層38a,38b,38cの表面40,41に樹脂層38d,38eが形成された構成である。基材層38a〜38cは、導電性を有する強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させたプリプレグである。本実施形態の基材層38a〜38cは、強化繊維として炭素繊維を用い、マトリクス樹脂として熱可塑性エポキシ樹脂を用いている。つまり本実施形態の繊維強化樹脂板38は、いわゆるCFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)である。
【0031】
炭素繊維は、複数本を引き揃えることによって整列させたものである。例えば、外層の基材層38a,38cの炭素繊維の配列方向は同一であり、中層の基材層38bの炭素繊維の配列方向は基材層38a,38cの配列方向と直交している。繊維強化樹脂板38を構成する基材層の積層数や積層順は適宜変更可能である。
【0032】
マトリクス樹脂を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば熱可塑性エポキシ樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)等のスチレン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、熱可塑性フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、さらにはポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体及び2種類以上のブレンド、ポリマーアロイ等が挙げられる。
【0033】
エポキシ樹脂は、一般に熱硬化性樹脂の代表的な材料であるが、特殊な触媒によって硬化後に特異的に熱可塑性を示す熱可塑性エポキシ樹脂が提供されており、高い耐衝撃性や強靭性を有する。そこで、本実施形態の基材層38a〜38cは、炭素繊維に熱可塑性エポキシ樹脂を含浸させた構成を用いた。
【0034】
樹脂層38d,38eは、基材層38a〜38cの成形時にその表面40,41に浸み出したマトリクス樹脂によって形成された薄い層である。樹脂層38d,38eは、マトリクス樹脂で形成され、強化繊維を含んでいないため、導電性を有していない。
【0035】
繊維強化樹脂板38は、表面42の一部に凹状部43を有する。凹状部43は、表面42から樹脂層38d及び基材層38aを貫通し、その下層の基材層38bまで到達するくぼみを形成している。すなわち、凹状部43は、その内周壁部43aが樹脂層38dから基材層38bまで延在し、その底部43bが基材層38bに設けられている。本実施形態の場合、凹状部43は、内側に円柱状の空間を形成した形状である。凹状部43の形状や大きさ、深さ、配置は適宜減変更可能である。
【0036】
導電性シート34は、高い導電性を有する金属箔等であり、例えば銅箔やアルミニウム箔等である。本実施形態では銅箔を用いている。導電性シート34は、繊維強化樹脂板38の表面42の一部に設けられ、一部が凹状部43に入り込んでいる。導電性シート34は、表層部34aと、段差部34bとを有する。
【0037】
表層部34aは、樹脂層38dに埋め込まれた状態で基材層38aの表面40上に配設されている。これにより表層部34aは、基材層38aの表面40にある強化繊維と電気的に且つ物理的に接触している。段差部34bは、凹状部43内に入り込んでいる。段差部34bは、凹状部43の内周壁部43aに沿って延在した外周部34cと、凹状部43の底部43bに沿って設けられた底部34dとを有する。外周部34cは、繊維強化樹脂板38の内周壁部43aに接しており、底部34dは、繊維強化樹脂板38の底部43bに接している。この際、凹状部43の深さdは、導電性シート34の厚みt1よりも大きい。これにより凹状部43内に入り込んだ段差部34bは、その外周部34cが基材層38a,38bの強化繊維と電気的に且つ物理的に接触し、その底部34dが基材層38bの強化繊維と電気的に且つ物理的に接触している。従って、導電性シート34は、大きな表面積で基材層38a,38bの強化繊維である炭素繊維と電気的に接触している。凹状部43は、基材層38bには到達せずに基材層38aまでくぼんだ構成でもよいし、基材層38cまで到達した構成でもよい。導電性シート34及び段差部34bの形状や大きさ、配置は適宜減変更可能である。例えば導電性シート34が、凹状部43の内径よりも小さい幅を有する場合、段差部34bは凹状部43の内周壁部43aの一部のみと、底部43bの一部のみとに接触する構成でもよい。
【0038】
導電性部材36は、導電性シート34に比べて大きな体積を持ったバルク状物体で、その全部又は一部が金属で形成され、導電性を有する。導電性部材36は、例えば円環状の金属板であり、凹状部43の内側に埋め込まれ、凹状部43の内周壁部43a及び底部43bと接触している。これにより導電性部材36は、基材層38a,38bの強化繊維と接している。
図3に示す構成例の導電性部材36は、銅、アルミニウム、ステンレス等の金属で形成されたワッシャである。導電性部材36の厚みt2は、導電性シート34の厚みt1よりも大きい。導電性部材36は、樹脂板の表面に金属メッキ等で導電性を付与した構成等でもよい。
【0039】
以上より、本実施形態の筐体用部材10では、繊維強化樹脂板38の表面42に凹状部43が設けられ、この凹状部43に導電性シート34の一部が入り込んでいることにより、導電性シート34と繊維強化樹脂板38の基材層38a,38bとが大きな接触表面積で電気的に接触している。すなわち、筐体用部材10は、その表面42の大部分が樹脂層38dで覆われているため導電性を持たないが、導電性シート34を設けた部分が内部の基材層38a等に含まれる炭素繊維との間で高い導電性を有する。そして、筐体用部材10は、導電性シート34と電気的に接続された基材層38a,38bの炭素繊維がその外形全域に渡って延在している。このため、筐体用部材10は、ねじ32で他の部材、例えば上カバー12bと連結されることで、高いグランド性能を発揮する。また、筐体用部材10は、凹状部43に埋め込まれた導電性部材36が薄い導電性シート34に導通した電気を集める集電体として機能する。このため、この導電性部材36とねじ32とを電気的に接続することで、筐体12のグランド性能が一層向上する。
【0040】
次に、筐体用部材10の製造方法の一例を説明する。
図4は、
図3に示す筐体用部材10の製造方法を模式的に示す断面図である。
【0041】
図4に示すように、先ず、一方の金型部品46の表面に導電性シート34及び導電性部材36を配置し、他方の金型部品47の表面に繊維強化樹脂板38を配置する。この際、繊維強化樹脂板38は、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させて硬化させた板材の状態でよい。
【0042】
続いて、繊維強化樹脂板38のマトリクス樹脂を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上の熱を金型部品46,47間に加えつつ、繊維強化樹脂板38と導電性シート34及び導電性部材36とを金型部品46,47間でプレスする。そうすると、導電性シート34及び導電性部材36が、溶融した樹脂層38d及び溶融した基材層38a,38bのマトリクス樹脂を押しのけつつ全体が圧縮される。その結果、
図3に示す断面構造を持った筐体用部材10が成形される。
【0043】
このように、当該筐体用部材10は、繊維強化樹脂板38に熱可塑性樹脂を用いている。このため、当該筐体用部材10は、硬化した繊維強化樹脂板38を金型部品46,47からなる金型装置を用いて再溶融させつつ、繊維強化樹脂板38に凹状部43を形成し、これにより導電性シート34及び導電性部材36が樹脂層38dを越えて基材層38a,38bまで入り込む。このため、簡素な製造工程で筐体用部材10を製造でき、製造効率が向上する。すなわち、熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂に用いた繊維強化樹脂板では、マトリクス樹脂の再溶融ができない。このため、熱硬化性樹脂を用いて
図3に示すような筐体用部材10を製造する場合は、繊維強化樹脂板38の硬化工程と、凹状部43の形成工程と、導電性シート34及び導電性部材36の設置工程とを同時に実施する必要があり、相当な手間がかかることになる。
【0044】
本実施形態の筐体用部材10は、繊維強化樹脂板38に熱可塑性樹脂を用いているため、下カバー12aの壁部27の成形工程と、導電性シート34及び導電性部材36の設置工程とを同時に行うこともできる。
【0045】
筐体用部材10を成形して下カバー12aを形成する際は、先ず、
図5Aに示すように、コアとなる一方の金型部品46の凸部46aの表面に導電性シート34及び導電性部材36を配置し、キャビティとなる金型部品47の空洞部47aの上に繊維強化樹脂板38を配置する。この際、繊維強化樹脂板38は、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させて硬化させた板材の状態でよい。
【0046】
続いて、繊維強化樹脂板38のマトリクス樹脂を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上の熱を加えつつ、金型部品46,47間で繊維強化樹脂板38と導電性シート34及び導電性部材36とをプレスする。そうすると、導電性シート34及び導電性部材36を配置した部分では、
図3に示す断面構造が形成される。さらに、空洞部47aの縁部に沿った部分では、繊維強化樹脂板38の縁部が変形し、
図5Bに示すように底板26から起立した壁部27が形成される。
【0047】
このように、本実施形態の筐体用部材10は、導電性シート34及び導電性部材36を繊維強化樹脂板38に設置する工程と、壁部27の成形工程とを同時に行うことができる。このため、当該筐体用部材10を用いることで下カバー12a(筐体12)の製造効率が一層向上する。
【0048】
次に、筐体用部材10で構成した下カバー12aの上カバー12bに対する連結構造の一例を説明する。
図6A〜
図6Cは、
図2中のVIA−VIA線〜VIC−VIC線に沿う位置での下カバー12aと上カバー12bの連結構造を模式的に示した断面図である。
【0049】
図6Aに示すように、下カバー12aと上カバー12bとを締結するねじ32は、下カバー12aの孔部30から導電性部材36の孔部36aを挿通させ、上カバー12bのねじ孔48に螺合させてもよい。これにより、集電体として機能する導電性部材36が、ねじ32と直接的に接触するため、筐体12として使用した際の筐体用部材10のグランド性能が一層向上する。
【0050】
図6Bに示すように、ねじ32は、下カバー12aの孔部30から導電性シート34を貫通させ、上カバー12bのねじ孔48に螺合させてもよい。これにより、スペース等の問題で導電性部材36の孔部36aにねじ32を挿通させることが困難な場合であっても、筐体用部材10のグランド性能を十分に確保できる。
【0051】
図6Cに示すように、ねじ32は、下カバー12aの孔部30から導電ライン50を貫通させ、上カバー12bのねじ孔48に螺合させてもよい。導電ライン50は、例えば導電テープであり、導電性シート34及び導電性部材36の表面から繊維強化樹脂板38の表面42まで延在するように貼り付けられている。これにより、スペース等の問題で導電性部材36の孔部36a及び導電性シート34にねじ32を挿通させることが困難な場合であっても、筐体用部材10のグランド性能を十分に確保できる。
【0052】
図7は、第1変形例に係る筐体用部材10Aの断面構造を模式的に示した断面図である。
図7に示すように、筐体用部材10Aは、
図3に示す筐体用部材10から導電性部材36を省略した構成である。筐体用部材10Aの凹状部43は、例えば
図4に示す金型部品46の表面に凹状部43の形状に合わせた凸部を設けて形成してもよいし、
図3に示す筐体用部材10から導電性部材36を除去して形成してもよい。この筐体用部材10Aでは、導電性部材36による集電効果はない。しかしながら、筐体用部材10Aにおいても、導電性シート34が凹状部43を介して基材層38a,38bと大きな接触表面積で電気的に接触しているため、十分な導電性を確保することができる。この筐体用部材10Aにおいても、導電性シート34が凹状部43の内径よりも小さい幅を有するリボン形状等である場合、段差部34bは凹状部43の内周壁部43aの一部のみと、底部43bの一部のみとに接触する構成でもよい。この場合、段差部34bは、その内側のくぼみ部分が繊維強化樹脂板38を構成する樹脂材料等で埋められた構成であってもよい。
【0053】
図8は、第2変形例に係る筐体用部材10Bの断面構造を模式的に示した断面図である。
図8に示すように、筐体用部材10Bは、
図3に示す筐体用部材10から導電性シート34を省略した構成である。この筐体用部材10Bでは、導電性部材36が基材層38aまで埋め込まれている。このため、導電性部材36は、基材層38aと大きな接触表面積で電気的に接触しているため、十分な導電性を確保することができる。導電性部材36は、基材層38b,38cまで到達していてもよい。
【0054】
次に、筐体用部材10,10A,10Bの抵抗値を測定した実験の結果を説明する。
図9は、各構成の筐体用部材10,10A〜10Cで測定された抵抗値及びその評価結果を示す表である。
【0055】
図9中の実施例1は、
図3に示す筐体用部材10の実験結果である。実施例1では、導電性シート34として厚みt1が0.05(mm)の銅箔を用い、導電性部材36として厚みt2が0.1又は0.2(mm)、直径が5(mm)、孔部36aの内径が2(mm)のステンレス製ワッシャを用いた。実施例2は、
図7に示す筐体用部材10Aの実験結果である。実施例2では、導電性シート34として厚みt1が0.05(mm)の銅箔を用いた。実施例3,4は、
図8に示す筐体用部材10Bの実験結果である。実施例3では、導電性部材36として厚みt2が0.1(mm)、直径が5(mm)、孔部36aの内径が2(mm)のステンレス製ワッシャを用いた。実施例4では、導電性部材36として厚みt2が0.2(mm)、直径が5(mm)、孔部36aの内径が2(mm)のステンレス製ワッシャを用いた。なお、繊維強化樹脂板38の積層厚みは、例えば0.4(mm)程度である。
【0056】
図9中の参考例1は、
図10に示す筐体用部材10Cの実験結果である。この筐体用部材10Cは、
図3に示す筐体用部材10から凹状部43及び導電性部材36を省略した構成である。つまり筐体用部材10Cの導電性シート34は、樹脂層38dのみに埋め込まれて基材層38aの表面40に接触しているだけであり、上記特許文献1の構成と類似した構成である。参考例1では、導電性シート34として厚みt1が0.05(mm)の銅箔を用いた。
【0057】
実験は、導電性シート34又は導電性部材36と、基材層38a〜38cとの間の抵抗値をテスターで測定して行った。その結果、
図9に示すように、実施例1,2では、極めて小さな抵抗値3〜5,8〜10(Ω)が測定され、導電性シート34又は導電性部材36と炭素繊維との間での高い導電性が示された。このため、実施例1,2の構成である上記筐体用部材10,10Aの導電性が最も良好であることが分かった。なお、実施例1の方が実施例2よりも抵抗値が小さい理由としては、導電性部材36が集電体として機能したこと、導電性部材36が凹状部43内に配置された導電性シート34の段差部34bをその周囲の基材層38a,38bに押圧し、両者の密着状態をより高める部材として機能したこと、等が考えられる。次に、実施例3,4では、ある程度大きな抵抗値100,50(Ω)が測定された。このため、実施例3,4の構成である上記筐体用部材10Bは、その搭載される筐体12や電子機器14の仕様によっては十分なグランド性能を発揮できることが分かった。一方、参考例1では、抵抗値は測定不能な状態なほどに大きな値を示し、例えばMΩオーダーの抵抗値であった。このため、参考例1の構成は、電子機器14の筐体12に用いても十分なグランド性能が期待できないことが分かった。
【0058】
図11は、第3変形例に係る筐体用部材10Dの断面構造を模式的に示した断面図である。
図11に示すように、筐体用部材10Dは、
図8に示す筐体用部材10Bの導電性部材36を構造の異なる導電性部材52に変更した構成である。導電性部材52は、金属製のインサートナットであり、その外周面に形成されたねじ溝52aが樹脂層38d及び基材層38a,38bに嵌合している。このため、筐体用部材10Dでは、導電性部材52の基材層38a,38bに対する接触表面積を大幅に拡大することができる。
【0059】
図12は、第4変形例に係る筐体用部材10Eの断面構造を模式的に示した断面図である。
図12に示すように、筐体用部材10Eは、
図3に示す筐体用部材10の導電性部材36を構造の異なる導電性部材54に変更した構成である。導電性部材54は、銅、アルミニウム、ステンレス等の金属板である。なお、導電性部材54は、
図8に示す筐体用部材10Bの導電性部材36に代えて用いてもよい。
【0060】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0061】
例えば、上記実施形態では、筐体用部材10等)を電子機器14を構成する本体部16の筐体12として用いた構成を例示したが、筐体用部材10等は蓋部22に用いてもよい。