(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。ただし、これは例として提示されるものであって、本発明はこれによって制限されない。
【0018】
<方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物>
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、0.1重量%〜10重量%の無機窒化物と、30重量%〜60重量%のコロイドシリカと、30重量%〜60重量%の金属リン酸塩とを含む。
【0019】
これは、方向性電磁鋼板の表面上に絶縁被膜を形成する用途に用いられる組成物であって、本組成物によって形成された絶縁被膜は、磁気変形に起因した振動の減殺に優れた効果を奏する。
【0020】
具体的に、磁気変形に起因した振動は、方向性電磁鋼板の騒音を誘発する主な原因となる。これに関連して、方向性電磁鋼板の騒音特性を改善する方法の一つとして、鋼板に引張応力を付与することによって90°磁区を減少させる方法が知られている。
【0021】
しかし、通常の湿式コーティング方式では、引張応力の付与による騒音改善効果が足りず、厚膜の厚さでコーティングしなければならないので、変圧器の占積率及び効率が悪くなる問題点がある。また、物理的蒸気蒸着法(PVD:Physical Vapor Deposition)及び化学的蒸気蒸着法(CVD:Chemical Vapor Depositionition)の真空蒸着コーティング方式を活用すると高い張力特性を付与し得るが、商業的な生産が困難であるだけでなく、絶縁特性が劣るという問題が指摘されている。
【0022】
これに対し、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、無機窒化物、コロイドシリカ、及び金属リン酸塩を含むことによって上記で指摘された問題を解消することができる。
【0023】
特に、無機窒化物は、熱処理によって分解されて絶縁被膜の内部に微細な気孔を形成させることで、方向性電磁鋼板の騒音特性の改善に大きく寄与し、コロイドシリカ及び金属リン酸塩との混用性に優れるため、磁気変形に起因した騒音誘発及びコーティングの相溶性低下の問題を同時に解消することができる。
【0024】
以下、本実施形態による方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の各成分が含まれる理由を具体的に説明する。
【0025】
まず、無機窒化物は、上述した組成物の形態で鋼板の表面に塗布された後、熱処理する過程で分解されてガスを発生させ、これによって絶縁被膜の内部に微細な気孔を形成する。
【0026】
具体的には、無機窒化物は、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ボロン(B)、タンタル(Ta)、ガリウム(Ga)、カルシウム(Ca)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、ニオビウム(Nb)、ストロンチウム(Sr
2)、及びバリウム(Ba)を含む群から選ばれる少なくとも1種以上の元素の窒化物を含む。
【0027】
これに関連して、下記の化学反応式1〜
7は、無機窒化物の種類による分解反応を例示したものである。
【0028】
[化学反応式1]M−N+2H
2O→M−OH+NH
3↑(M=Ti,Ta,Ca,In,Zr,Nb,Al)
[化学反応式2]Mg
3N
2+H
2O→3Mg(OH)
2+2NH
3↑
[化学反応式3]Ca
3N
2+H
2O→3Ca(OH)
2+2NH
3↑
[化学反応式4]Sr
3N
2+H
2O→3Sr(OH)
2+2NH
3↑
[化学反応式
5]Ba
3N
2+H
2O→3Ba(OH)
2+2NH
3↑
[化学反応式
6]Si
3N
4→3SiO
2+4NH
3↑
[化学反応式
7]Ge
3N
4→3GeO
2+4NH
3↑
[化学反応式
8]2NH
3↑→N
2↑+3H
2↑
【0029】
化学反応式1〜
7に示すように、無機窒化物はアンモニア(NH
3)を発生させる。また、各化学反応式によって発生したアンモニア(NH
3)は、化学反応式
8に示すように、窒素(N
2)及び水素(H
2)ガス(gas)に分解される。
【0030】
これらを参照すると、無機窒化物は分解されて、各種ガス(gas)を発生させるとともに無機水酸化物または酸化物に転換され、絶縁被膜の内部に微細な気孔を形成する。
【0031】
このように絶縁被膜の内部に形成された微細な気孔は、磁気変形エネルギーを熱エネルギーに変換させて振動増幅を抑制するので、方向性電磁鋼板の騒音改善に効果的である。
【0032】
また、コロイドシリカ及び金属リン酸塩との混用性に優れるので、大量生産にも有利である。
【0033】
一方、コロイドシリカは、絶縁被膜に張力を付与する役割を果たし、金属リン酸塩は、鋼板及び絶縁被膜の界面に接着力を付与する役割を果たすため、これらの物質も絶縁被膜組成物に含まれる必要がある。
【0034】
本実施形態による方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の無機窒化物、コロイドシリカ、及び金属リン酸塩の各含有量を限定する理由は、次の通りである。
【0035】
方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の無機窒化物の含有量が0.1重量%未満で低すぎる場合、絶縁被膜内の気孔が十分に形成されず、磁気変形に起因した振動を減殺する騒音特性が低下する。一方、その含有量が10重量%を超える場合、熱処理過程において絶縁被膜を剥離させる程の過剰のガスを発生させ、これによって表面粗さが粗くなる問題が発生する。
【0036】
また、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の金属リン酸塩の含有量が30重量%未満の場合、組成物の接着力が低下して絶縁被膜の張力及び密着性が低下する。一方、その含有量が60重量%を超えると、むしろ絶縁特性が低下する。
【0037】
さらに、コロイドシリカの含有量が30重量%未満の場合、組成物の被膜張力が低下して鉄損の改善率が低下する。一方、その含有量が60重量%を超える場合、方向性電磁鋼板に組成物を塗布し、熱処理した後の密着性が低下する。
【0038】
このような問題点を考慮して、本実施形態による方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、0.1重量%〜10重量%の無機窒化物と、30重量%〜60重量%のコロイドシリカと、30重量%〜60重量%の金属リン酸塩とを含むものに限定する。
【0039】
一方、コロイドシリカの粒径は、2nm〜100nmである。コロイドシリカの粒径が2nm未満の場合、比表面積が増加し、組成物の安定性が低下して大量生産が難しくなる問題が発生し、100nm超の場合、表面粗さが粗くなり、表面欠陥が発生するので、上述した範囲に限定する。
【0040】
具体的に、コロイドシリカは、粒径2nm以上50nm以下のナノ粒子からなり、互いに異なる平均粒径からなる二種類以上のコロイドシリカからなる。
【0041】
金属リン酸塩は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アンチモン(Sb)、錫(Sn)、鉛(Pb)、及びビスマス(Bi)を含む群から選ばれる少なくとも1種以上の金属のリン酸塩を含む。具体的に、第1リン酸アルミニウム、第1リン酸マグネシウム、または第1リン酸カルシウムの単独あるいはこれらの中から選ばれる少なくとも二つ以上が混合された形態である。
【0042】
より具体的に、金属リン酸塩は、金属水酸化物及びリン酸(H
3PO
4)の化学的な反応による化合物からなり、金属水酸化物は、Ba(OH)
2、Co(OH)
2、Ni(OH)
2、Al(OH)
3、Mg(OH)
2、Zn(OH)
2、及びCa(OH)
2を含む群から選択された少なくとも1種以上である。
【0043】
金属水酸化物の金属原子は、リン酸のリンと置換反応して単一結合、二重結合、または三重結合を形成してなるものであり、未反応フリーリン酸(H
3PO
4)の量が35%以下である化合物からなる。
【0044】
金属リン酸塩は、金属水酸化物及びリン酸(H
3PO
4)の化学的な反応による化合物からなり、リン酸に対する金属水酸化物の重量比率は、1:100〜70:100で表される。
【0045】
仮に70:100の重量比率を超えて金属水酸化物が過剰に含まれる場合、化学的な反応が完結されず、沈殿物が生じる問題が発生し、1:100の重量比率未満で金属水酸化物が少量含まれる場合、耐食性が劣るという問題が発生するため、上述のように範囲を限定する。
【0046】
本実施形態による方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、クロム酸化物をさらに含む。具体的に、本組成物(つまり、0.1重量%〜10重量%の無機窒化物と、30重量%〜60重量%のコロイドシリカと、30重量%〜60重量%の金属リン酸塩とを含む組成物)100重量部に対して0.1重量部〜7重量部のクロム酸化物がさらに含まれ、この範囲で上記組成物の耐食性が発現する。
【0047】
ただし、7重量部超の場合は急激な粘度増加により組成物の安定性が確保されず、0.1重量部未満の少ない含有量では組成物の耐食性の発現が不充分である問題がある。
【0048】
これとは独立して、本実施形態による方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、ホウ酸をさらに含む。具体的に、本組成物(つまり、0.1重量%〜10重量%の無機窒化物と、30重量%〜60重量%のコロイドシリカと、30重量%〜60重量%の金属リン酸塩とを含む組成物)100重量部に対して0.1重量部〜4重量部のホウ酸がさらに含まれ、この範囲で上記組成物によって形成された被膜の密着性が向上する。
【0049】
ただし、4重量部超の場合はホウ酸が本組成物内の金属リン酸塩と反応して沈殿物が生成される。一方、0.1重量部未満の場合、本組成物を方向性電磁鋼板に塗布した後に熱処理すると、絶縁被膜に亀裂が発生して密着性が劣化する問題が発生する。
【0050】
<方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成方法>
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成方法は、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を準備する段階と、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を方向性電磁鋼板の表面に塗布する段階と、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物が塗布された方向性電磁鋼板を熱処理する段階と、を含み、方向性電磁鋼板は、ケイ素(Si)を2.5重量%〜4.5重量%及びアンチモン(Sb)を0.01重量%〜0.08重量%含有し、錫(Sn)を0.02重量%〜0.08重量%、ビスマス(Bi)を0.01重量%〜0.04重量%、クロム(Cr)を0.01重量%〜0.30重量%、酸可溶性アルミニウム(Al)を0.02重量%〜0.04重量%、マンガン(Mn)を0.05重量%〜0.20重量%、炭素(C)を0.02重量%〜0.08重量%、及び硫黄(S)を0.001重量%〜0.005重量%含み、窒素(N)を10ppm〜50ppm含み、残部はFe及びその他の不可避的不純物からなり、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、0.1重量%〜10重量%の無機窒化物、30重量%〜60重量%のコロイドシリカ、及び30重量%〜60重量%の金属リン酸塩を含む。
【0051】
これは、上述したものと同じ組成の方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を使用し、方向性電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成する方法に該当する。
【0052】
つまり、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を準備する段階は、上述したものと同じ組成を満足する組成物を製造する段階に該当するため、以下では、これを除いた各段階について詳しく説明する。
【0053】
まず、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を方向性電磁鋼板の表面に塗布する段階において、方向性電磁鋼板の一方の表面当り1g/m
2〜7g/m
2の範囲で方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を塗布する。
【0054】
ただし、7g/m
2超の場合、占積率が低下して最終的に得られた方向性電磁鋼板で変圧器を製造すると、変圧器の特性が劣化する問題が発生する。一方、1g/m
2未満の少量を塗布する場合、絶縁被膜によって発現する絶縁特性が劣るという問題がある。
【0055】
次に、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物が塗布された方向性電磁鋼板を熱処理する段階は、熱処理によって方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物が乾燥され、方向性電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成する段階である。
【0056】
方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物が塗布された方向性電磁鋼板を熱処理する段階は、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の無機窒化物が無機酸化物または水酸化物に転換する段階を含む。
【0057】
具体的に、無機窒化物は上述したものと同様に、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ボロン(B)、タンタル(Ta)、ガリウム(Ga)、カルシウム(Ca)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、ニオビウム(Nb)、ストロンチウム(Sr
2)、及びバリウム(Ba)を含む群から選ばれる少なくとも1種以上の元素の窒化物を含む。
【0058】
無機窒化物は、熱処理によって分解され、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ボロン(B)、タンタル(Ta)、ガリウム(Ga)、カルシウム(Ca)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、ニオビウム(Nb)、ストロンチウム(Sr
2)、及びバリウム(Ba)を含む群から選ばれる少なくとも1種以上の元素の酸化物または水酸化物に転換されるとともに、その種類によって、アンモニア(NH
3)、窒素(N
2)及び/または水素(H
2)ガス(gas)を発生させて絶縁被膜の内部に微細な気孔を形成し、この時の反応は化学反応式1〜
7に例示したとおりである。
【0059】
つまり、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の無機窒化物が、無機酸化物または水酸化物に転換される段階において、ガス(gas)が発生し、このガス(gas)によって内部に気孔を含む絶縁被膜が形成される。
【0060】
具体的に、気孔の直径は、1nm〜500nmである。1nm未満の場合は騒音効果が微々となり、500nm超の場合は密着性が劣化する。
【0061】
また、絶縁被膜全体の体積(100体積%)に対して、気孔は0.05体積%〜10体積%含まれる。0.05体積%未満の場合は騒音効果が微々となり、10体積%超の場合は密着性が劣化する。
【0062】
方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物が塗布された方向性電磁鋼板を熱処理する段階は、250℃〜950℃の温度範囲で行われる。ただし、950℃超の場合は、絶縁被膜にまだら模様の欠陥が発見され、250℃未満の場合は、乾燥が不充分に行われるだけでなく、絶縁被膜の特性を確保することが難しい問題がある。
【0063】
方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物が塗布された方向性電磁鋼板を熱処理する段階は、30秒〜70秒間行われる。
【0064】
一方、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内のコロイドシリカは、熱処理によってコロイド状態でないシリカとなり、無機酸化物または水酸化物は全て無機酸化物になる。
【0065】
一方、本実施形態による方向性電磁鋼板は、ケイ素(Si)を2.5重量%〜4.5重量%及びアンチモン(Sb)を0.01重量%〜0.08重量%含有して、錫(Sn)を0.02重量%〜0.08重量%、ビスマス(Bi)を0.01重量%〜0.04重量%、クロム(Cr)を0.01重量%〜0.30重量%、酸可溶性アルミニウム(Al)を0.02重量%〜0.04重量%、マンガン(Mn)を0.05重量%〜0.20重量%、炭素(C)を0.02重量%〜0.08重量%、及び硫黄(S)を0.001重量%〜0.005重量%含み、窒素(N)を10ppm〜50ppm含み、残部はFe及びその他の不可避的不純物からなり、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、0.1重量%〜10重量%の無機窒化物、30重量%〜60重量%のコロイドシリカ、及び30〜60重量%の金属リン酸塩を含むものとして、当業界で通常知られている方法によって製造される。
【0066】
具体的には、方向性電磁鋼板と同じ組成の鋼スラブを準備する段階と、鋼スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を脱炭焼鈍する段階と、脱炭焼鈍された鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布して最終焼鈍する段階とによって、方向性電磁鋼板が製造される。
【0067】
より具体的に、方向性電磁鋼板内の各成分の含有量を限定する理由は、次のとおりである。
【0068】
ケイ素(Si):2.5重量%〜4.5重量%
Siは、鋼の比抵抗を増加させて鉄損を減少させる役割を果たすが、Siの含有量が2.5重量%未満の場合、鋼の比抵抗が小さくなり、鉄損特性が劣化し、高温焼鈍時の相変態区間が存在して2次再結晶が不安定になるので好ましくなく、4.5重量%超の場合、脆性が大きくなり冷間圧延が難しくなる。したがって、方向性電磁鋼板内のSiの含有量は、2.5重量%〜4.5重量%に限定する。
【0069】
アンチモン(Sb):0.01重量%〜0.08重量%
Sbは、{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進する元素であって、その含有量が0.01重量%未満の場合、ゴス結晶粒生成促進剤として十分な効果が期待できず、0.08重量%超の場合、表面に偏析されて同時脱炭及び窒化反応を抑制し、1次結晶粒の大きさが不均一になる。したがって、方向性電磁鋼板内のSb含有量は、0.01重量%〜0.08重量%に限定する。
【0070】
錫(Sn):0.02重量%〜0.08重量%
Snは、{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進する元素であって、その含有量が0.02重量%未満の場合、ゴス結晶粒生成促進剤として十分な効果が期待できず、0.08重量%超の場合、表面に偏析されて同時脱炭及び窒化反応を抑制し、1次結晶粒の大きさが不均一になる。したがって、方向性電磁鋼板内のSn含有量は、0.02重量%〜0.08重量%に限定する。
【0071】
ビスマス(Bi):0.01重量%〜0.04重量%
Biは、結晶粒系偏析元素であって、結晶粒系の移動を妨害する元素であるため、結晶粒成長抑制剤として{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進し、2次再結晶が旨く発達できるようにするため、結晶粒成長の抑制力補強において重要な元素である。仮に、Bi含有量が0.01重量%未満の場合、その効果が低下し、0.04重量%超の場合、結晶粒系の偏析がひどく起きて鋼板の脆性が大きくなり、圧延時の破断が発生する。 したがって、方向性電磁鋼板内のBiの含有量は、0.01重量%〜0.04重量%に限定する。
【0072】
クロム(Cr):0.01重量%〜0.30重量%
Crは、{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進する元素であって、その含有量が0.01重量%未満の場合は、ゴス結晶粒生成促進剤として十分な効果が期待できず、0.30重量%超の場合は、表面に偏析されて酸化層形成を促進し、表面不良が発生する。したがって、方向性電磁鋼板内のCr含有量は、0.01重量%〜0.30重量%に限定する。
【0073】
酸可溶性アルミニウム(Al):0.02重量%〜0.04重量%
Alは、最終的にAlN、(Al,Si)N、(Al,Si,Mn)N形態の窒化物になり抑制剤として作用する成分であって、その含有量が0.02%以下である場合は、抑制剤として十分な効果が期待できず、高すぎる場合は、Al系統の窒化物が過度に粗大に析出、成長するので抑制剤としての効果が足りない。したがって、方向性電磁鋼板内の酸可溶性Alの含有量を0.02重量%〜0.04重量%に限定する。
【0074】
マンガン(Mn):0.05重量%〜0.20重量%
Mnは、Siと同様に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果があり、Siとともに窒化処理によって導入される窒素と反応して(Al,Si,Mn)Nの析出物を形成することで、1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすことにおいて重要な元素である。しかし、0.20重量%以上添加時には熱延途中にオーステナイト相変態を促進するので、1次再結晶粒の大きさを減少させて2次再結晶を不安定にする。したがって、Mnは0.20重量%以下にする。また、Mnは、オーステナイト形成元素であって、熱延再加熱時にオーステナイト分率を高めて析出物の高容量を多くして再析出時の析出物の微細化とMnSの形成による1次再結晶粒が過大になり過ぎないようにする効果があるので、0.05重量%以上含む必要がある。したがって、方向性電磁鋼板内のMnは、0.05重量%〜0.20重量%に限定する。
【0075】
炭素(C):0.02重量%〜0.08重量%
Cは、方向性電磁鋼板の磁気的特性の向上に大きく役に立たない成分であるため、できるたけ除去することが好ましい。しかし、圧延過程では一定の水準以上含まれている場合、鋼のオーステナイト変態を促進して熱間圧延時の熱間圧延組織を微細化させ、均一な微細組織の形成を助ける効果があるので、Cは、方向性電磁鋼板内に0.02重量%以上含まれることが好ましい。しかし、含有量が過多である場合、粗大な炭化物が生成されて脱炭時の除去が困難であるため、0.08重量%以下に限定する。
【0076】
硫黄(S):0.001重量%〜0.005重量%
Sは、0.005%以上含有される場合、熱間圧延スラブ加熱時に再固溶されて微細に析出するので、1次再結晶粒の大きさを減少させ、2次再結晶の開始温度を低くして磁性を劣化させる。また、最終焼鈍工程の2次亀裂区間で固溶状態のSを除去するのに多くの時間がかかるため、方向性電磁鋼板の生産性を落とす。一方、S含有量が0.005%以下で低い場合は、冷間圧延前の初期結晶粒の大きさが粗大になる効果があるため、1次再結晶工程において変形バンドで核生成される{110}<001>方位を有する結晶粒の数が増加する。したがって、2次再結晶粒の大きさを減少させて最終製品の磁性を向上させるので、Sは0.005%以下に定める。また、SはMnSを形成して1次再結晶粒の大きさにある程度影響を与えるため、0.001重量%以上含むことが好ましい。したがって、方向性電磁鋼板内のSは、0.001重量%〜0.005重量%に限定する。
【0077】
窒素(N):10ppm〜50ppm
Nは、Alなどと反応して結晶粒を微細化させる元素である。これらの元素が適切に分布する場合は、上述したとおり、冷間圧延以降の組織を適切に微細にして適切な1次再結晶粒度の確保に役立つが、含有量が過多の場合、1次再結晶粒が過度に微細化され、その結果、微細な結晶粒によって2次再結晶時の結晶粒成長を招く駆動力が大きくなり、好ましくない方位の結晶粒まで成長する。また、N含有量が過多の場合、最終焼鈍過程において除去にも多くの時間がかかるため好ましくない。したがって、窒素含有量の上限は、50ppmとし、スラブ再加熱時に固溶される窒素の含有量が10ppm以上にならなければならないため、窒素含有量の下限は10ppmに限定する。
【0078】
<絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板>
本発明の一実施形態による絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板は、方向性電磁鋼板と、方向性電磁鋼板の表面に位置する絶縁被膜とを含み、方向性電磁鋼板は、ケイ素(Si)を2.5重量%〜4.5重量%及びアンチモン(Sb)を0.01重量%〜0.08重量%含有し、錫(Sn)を0.02重量%〜0.08重量%、ビスマス(Bi)を0.01重量%〜0.04重量%、クロム(Cr)を0.01重量%〜0.30重量%、酸可溶性アルミニウム(Al)を0.02重量%〜0.04重量%、マンガン(Mn)を0.05重量%〜0.20重量%、炭素(C)を0.02重量%〜0.08重量%、及び硫黄(S)を0.001重量%〜0.005重量%含み、窒素(N)を10ppm〜50ppm含み、残部はFe及びその他の不可避的不純物からなり、絶縁被膜は、0.1重量%〜10重量%の無機酸化物、30重量%〜60重量%のシリカ、及び30重量%〜60重量%の金属リン酸塩を含むことを特徴とする。
【0079】
この方向性電磁鋼板は、絶縁被膜によって効果的に騒音が低減されるだけでなく、被膜張力、密着性、耐食性、及び光沢においてすべて優れた方向性電磁鋼板に該当する。
【0080】
絶縁被膜については詳しく上述したので、これに対する説明は省略する。
【0081】
なお、絶縁被膜の厚さは、0.2μm〜4μmである。0.2μm未満の場合、絶縁性が不良であるため、変圧器の製作が困難であり、4μm超の場合、占積率が低下して変圧器の効率が低下する。
【0082】
以下、本発明の好ましい実施例及び評価例について説明する。しかし、下記の実施例は、本発明の好ましい一実施例であって、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0083】
<実施例1>
(1)方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物の製造
下記の表1に示す発明例1〜18の組成を満足する方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物をそれぞれ製造した。
【0084】
具体的に、表1の発明例1〜18は、金属リン酸塩としてリン酸マグネシウム(Mg
3(PO
4)
2)を使用し、これをコロイドシリカ(平均粒径:7μm)と1:1の重量比率(記載順は、リン酸マグネシウム:コロイドシリカ)で混合した後、それぞれの無機窒化物を投入して常温で攪拌した。
【0085】
(2)方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成
実施例1に示す各方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を使用し、方向性電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成した。
【0086】
具体的に、絶縁被膜を形成するために、ケイ素(Si)を3.4重量%、アンチモン(Sb)を0.05重量%、錫(Sn)を0.06重量%、ビスマス(Bi)を0.02重量%、クロム(Cr)を0.10重量%、酸可溶性アルミニウム(Al)を0.03重量%、マンガン(Mn)を0.07重量%、炭素(C)を0.05重量%、及び硫黄(S)を0.002重量%含み、窒素(N)を30ppm含み、残部はFe及びその他の不純物からなる方向性電磁鋼板の一方の表面に、実施例1の方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を4.5g/m
2になるように塗布した後、860℃の温度条件で55秒間それぞれ熱処理した。
【0087】
これにより、それぞれの絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板を収得した。
【0088】
一方、方向性電磁鋼板は、下記の工程により最終焼鈍まで終えた状態の鋼板(それぞれ、厚さ:0.23mm、横:60mm、縦:300mm)である。
− 方向性電磁鋼板と同じ組成の鋼スラブを1150℃で220分間加熱した後、2.3mmの厚さで熱間圧延して熱延板を製造した。
− 熱延板を1120℃まで加熱した後、再び温度を930℃にして80秒間維持した後、水で急冷して酸洗した後、0.23mmの厚さに冷間圧延して冷延板を製造した。
− 冷延板を880℃に維持した炉(Furnace)の中に投入した後、露点温度及び酸化能を調節し、水素、窒素、及びアンモニアの混合気体雰囲気で同時脱炭浸窒及び1次再結晶焼鈍を同時に行い、脱炭焼鈍された鋼板を製造した。
− その後、MgOが主成分である焼鈍分離剤に蒸溜水を混合してスラリーを製造し、ロール(Roll)を用いてスラリーを上記の脱炭焼鈍された鋼板に塗布した後、最終焼鈍した。
− 最終焼鈍時の1次亀裂温度は700℃、2次亀裂温度は1200℃とし、昇温区間の速度は15℃/hrとした。また、1200℃までは窒素25体積%及び水素75体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃に達した後には100体積%の水素気体雰囲気で15時間維持した後、炉冷(furnace cooling)を行った。
【0089】
<実施例1の試験例>:密着性、磁気特性、及び騒音特性の評価
実施例1に対して、無機窒化物の種類及びその含有量に応じた密着性、磁気特性、及び騒音特性をそれぞれ評価した。これと比較できるように、表1の比較例1〜3の各組成物に対しても、実施例1と同様の方式で方向性電磁鋼板をそれぞれ製造し、密着性、磁気特性、及び騒音特性をそれぞれ評価し、その結果も表1に示した。
【0090】
具体的に、それぞれの評価条件は、次のとおりである。
− 密着性:曲げ試験は5mmφ〜100mmφの円弧にコーティング鋼板を接して曲げたとき被膜剥離がない最小の円弧直径を評価する。
− 磁気特性:一般に電磁鋼板の磁気特性は、通常W17/50とB8を代表値として用い、表1においてもこれを評価した。
【0091】
具体的に、W17/50は、周波数50Hzの磁場を1.7Teslaまで交流で磁化させた時に現れる電力損失を測定したものである。ここで、Teslaは、単位面積当たり磁束(flux)を意味する磁束密度の単位である。
【0092】
また、B8は電磁鋼板周囲を巻き取った巻線に800A/m大きさの電流量を流した時、電磁鋼板に流れる磁束密度値を測定したものである。
【0093】
− 騒音特性:一般に、騒音特性は国際規格IEC61672−1に従い、音圧(空気の圧力)を時間領域から取得し、周波数応答データに変換した後、これを可聴帯域の応答性(A−加重デシベル、A−weighted decibels)を反映して可聴帯域の騒音[dBA]として評価する。
【0094】
ただし、本発明の実施例において選択した騒音評価方法は、国際規格IEC61672−1と同様に評価し、音圧の代わりに電磁鋼板の震え(振動)データを取得して騒音換算値[dBA]として評価した。具体的に、電磁鋼板の震えは、周波数50Hzの磁場を1.7Teslaまで交流で磁化させた時、レーザドップラー方式を活用して非接触式で時間に応じて振動パターンを測定した。
【0096】
表1を参照すると、発明例1〜18は、比較例1に比べて騒音特性に優れることが確認でき、これは、比較例1とは異なり無機窒化物が含まれた方向性電磁鋼板用組成物の使用に起因していることが分かる。
【0097】
具体的に、発明例1〜18において、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ボロン(B)、タンタル(Ta)、ガリウム(Ga)、カルシウム(Ca)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、ニオビウム(Nb)、ストロンチウム(Sr
2)、及びバリウム(Ba)を含む群から選ばれる少なくとも1種以上の元素の窒化物は、熱処理によって分解され、絶縁被膜の内部に微細な気孔を形成させたことを把握することができる。
【0098】
この時の気孔度は、絶縁被膜全体の体積(100体積%)を基準に、0.05体積%〜10体積%であることが確認され、これは磁気変形エネルギーを熱エネルギーに変換させて振動増幅を抑制し、結果的に方向性電磁鋼板の騒音改善に効果的であることが分かる。
【0099】
一方、比較例2及び比較例3は、発明例1と同一の無機窒化物であるMg
3N
2を使用したが、発明例1より騒音特性が劣ることが明らかになった。これにより、方向性電磁鋼板の騒音特性を改善するためには、無機窒化物の含有量が適切に制御された方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を製造する必要があると判断される。
【0100】
<実施例2>
(1)方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物の製造
下記の表2に示す発明例A1〜A7の組成を満足する方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物をそれぞれ製造した。
【0101】
具体的に、表2の発明例A1〜A7は、リン酸アルミニウム及びリン酸マグネシウムが1:1の重量比率(記載順は、リン酸アルミニウム:リン酸マグネシウム)で混合した金属リン酸塩を使用し、ここにコロイドシリカ(平均粒径:20nm)及びそれぞれの無機窒化物を投入して常温で攪拌した。
【0102】
(2)方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成
実施例2に示す各方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を使用し、方向性電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成した。
【0103】
具体的に、絶縁被膜を形成するために、ケイ素(Si)を3.2重量%、アンチモン(Sb)を0.04重量%、錫(Sn)を0.07重量%、ビスマス(Bi)を0.03重量%、クロム(Cr)を0.15重量%、酸可溶性アルミニウム(Al)を0.02重量%、マンガン(Mn)を0.9重量%、炭素(C)を0.06重量%、及び硫黄(S)を0.002重量%含み、窒素(N)を30ppm含み、残部はFe及びその他の不純物からなる方向性電磁鋼板の一方の表面に、実施例2の方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を3.5g/m
2になるように塗布した後、840℃の温度条件で65秒間それぞれ熱処理した。
【0104】
これにより、それぞれの絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板を収得した。
【0105】
一方、方向性電磁鋼板は、下記の工程により最終焼鈍まで終えた状態の鋼板(それぞれ、厚さ:0.27mm、横:300mm、縦:60mm)である。
− 方向性電磁鋼板と同じ組成の鋼スラブを1250℃で105分間加熱した後、2.6mmの厚さで熱間圧延して熱延板を製造した。
− 熱延板を1100℃まで加熱した後、再び温度を920℃にして80秒間維持した後、水で急冷して酸洗した後、0.27mmの厚さに冷間圧延して冷延板を製造した。
− 冷延板を875℃に維持した炉(Furnace)の中に投入した後、露点温度及び酸化能を調節し、水素、窒素、及びアンモニアの混合気体雰囲気で同時脱炭浸窒を及び1次再結晶焼鈍を同時に行い、脱炭焼鈍された鋼板を製造した。
− その後、MgOが主成分である焼鈍分離剤に蒸溜水を混合してスラリーを製造し、ロール(Roll)を用いてスラリーを上記脱炭焼鈍された鋼板に塗布した後、最終焼鈍した。
− 最終焼鈍時の1次亀裂温度は740℃、2次亀裂温度は1200℃とし、昇温区間の速度は25℃/hrとした。また、1200℃までは窒素50体積%及び水素50体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃に達した後には水素気体雰囲気で8時間維持した後、炉冷(furnace cooling)を行った。
【0106】
<実施例2の試験例>:表面品質、絶縁性、及び騒音特性の評価
実施例2に対して、無機窒化物の含有量に応じた表面品質、絶縁性、及び騒音特性をそれぞれ評価した。これと比較できるように、表2の比較例A0、及び比較例A1〜A5の各組成物に対しても、実施例2と同様の方式で方向性電磁鋼板をそれぞれ製造し、表面品質、絶縁性、及び騒音特性をそれぞれ評価し、その結果も表2に示した。
【0107】
具体的に、それぞれの評価条件は、次のとおりである。
− 表面品質:35℃で、各絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板を塩化ナトリウム(NaCl)水溶液(全体重量を100重量%基準とする時、塩化ナトリウムは5重量%)に投入し、8時間放置してサビの発生有無を評価した。
【0108】
具体的に、各絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板において、一方の表面の面積を100面積%とする時、サビの発生面積が5面積%以下の場合「優秀」で表わし、20面積%以下の場合「良好」で表わし、20〜50面積%の場合「若干不良」で表わし、50面積%以上の場合は「不良」で表わした。
【0109】
− 絶縁性:ASTMA717国際規格に従い、Franklin測定器を用いて絶縁被膜の上部に対する絶縁性を測定した
− 騒音特性:実施例1に対する試験例と同様の方式で評価した。
【0111】
表2を参照すると、比較例A0よりも発明例A1〜A7の表面品質が大体優れており、絶縁性及び騒音特性が非常に改善されたことが確認できる。これは、比較例A0とは異なり、無機窒化物であるマグネシウムナイトライド(Magnesium nitride、Mg
3N
2)が含まれた方向性電磁鋼板用組成物の使用に起因していることが分かる。
【0112】
具体的には、発明例A1〜A7のマグネシウムナイトライドは、先の実施例1の試験例で把握したとおり、熱処理によって分解されて微細な気孔を形成するが、効果的に騒音特性を改善するためには方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の含有量を適切に制御する必要があると判断される。
【0113】
つまり、比較例A1及びA2と、発明例A1〜A7とを比較すると、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の0.1重量%〜10重量%の無機窒化物が含まれることが適切であると評価される。
【0114】
より具体的に、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の無機窒化物の含有量が上述した範囲に達しない比較例A1の場合、絶縁被膜内の気孔度が低くなり、この範囲を超える比較例A2の場合、熱処理過程で発生する過量の気体によって気孔度が高まり、絶縁被膜の表面品質及び絶縁性が低くなる問題があると見られる。
【0115】
さらに、比較例A1〜A5と、発明例A1〜A7とを比較すると、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の0.1重量%〜10重量%の無機窒化物が含まれる場合でも、コロイドシリカは30重量%〜60重量%含まれ、金属リン酸塩は30重量%〜60重量%含まれることが適切であると評価される。
【0116】
より具体的に、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内のコロイドシリカの含有量が60重量%を超える比較例A2、A3及びA5の場合、密着性が低下し、30重量%未満の比較例A4の場合は絶縁性が低くなる問題があると見られる。
【0117】
また、方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物内の金属リン酸塩の含有量が60重量%を超える比較例A1及びA4の場合、絶縁性が低くなり、30重量%未満の比較例A2及びA5の場合は密着性が低下する問題があると見られる。
【0118】
このような結果を考慮する時、0.1重量%〜10重量%の無機窒化物と、30重量%〜60重量%のコロイドシリカと、30重量%〜60重量%の金属リン酸塩とを含む方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物が適切であると判断され、これを使用して絶縁被膜を形成した方向性電磁鋼板は、騒音特性だけでなく、密着性及び絶縁性も優れて発現される。
【0119】
<試験例>:250kVA変圧器の占積率及び騒音特性の評価
実施例2で製造された発明例A3の組成物を用いて、方向性電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成させた。この時の絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板に、レーザ磁区微細化処理を行った後、250kVA変圧器を製作した。これと比較できるように、比較例A0に対しても別途の250kVA変圧器を製作した。
【0120】
これら250kVA変圧器に対して設計磁束密度に応じて50Hz条件で磁気特性及び騒音特性を評価した結果を
図1及び表3に示した。
【0121】
具体的に、それぞれの絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板を製造するために、ケイ素(Si)を3.4重量%、アンチモン(Sb)を0.02重量%、錫(Sn)を0.06重量%、ビスマス(Bi)を0.03重量%、クロム(Cr)を0.17重量%、酸可溶性アルミニウム(Al)を0.03重量%、マンガン(Mn)を0.11重量%、炭素(C)を0.06重量%、及び硫黄(S)を0.002重量%含み、窒素(N)を32ppm含み、残部はFe及びその他の不純物からなる方向性電磁鋼板の一方の表面に、発明例A3または比較例A0の方向性電磁鋼板用絶縁被膜組成物を3.5/m
2になるように塗布した後、840℃の温度条件で65秒間それぞれ熱処理を行った。
【0122】
これにより、それぞれの絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板を収得できた。
【0123】
一方、方向性電磁鋼板は、下記の工程により最終焼鈍まで終えた状態の鋼板(それぞれ、厚さ:0.27mm、横:300mm、縦:60mm)である。
− 方向性電磁鋼板と同じ組成の鋼スラブを1230℃で120分間加熱した後、2.5mmの厚さで熱間圧延して熱延板を製造した。
− 熱延板を1120℃まで加熱した後、再び温度を950℃にし、80秒間維持した後、水で急冷して酸洗した後、0.27mmの厚さに冷間圧延して冷延板を製造した。
− 冷延板を865℃に維持した炉(Furnace)の中に投入した後、露点温度及び酸化能を調節し、水素、窒素、及びアンモニアの混合気体雰囲気で同時脱炭浸窒及び1次再結晶焼鈍を同時に行い、脱炭焼鈍された鋼板を製造した。
− その後、MgOが主成分である焼鈍分離剤に蒸溜水を混合してスラリーを製造し、ロール(Roll)を用いてスラリーを上記脱炭焼鈍された鋼板に塗布した後、最終焼鈍した。
− 最終焼鈍時の1次亀裂温度は700℃、2次亀裂温度は1200℃とし、昇温区間の速度は50℃/hrとした。また、1200℃までは窒素25体積%及び水素75体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃に達した後には水素気体雰囲気で14時間維持した後、炉冷(furnace cooling)を行った。
【0125】
図1及び表3を参照すると、実際250kVA変圧器の製作時、比較例A0よりも発明例A3の騒音特性がより優れていることが分かる。
【0126】
本発明は、上記実施形態に限定されず、多様な形態で製造され、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに、他の具体的な形態で実施可能である。したがって、以上に記載した実施形態はすべての面で例示的なものであり、本発明を限定的するものではない。