(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス粉末 25〜99質量%、無機顔料粉末 1〜75質量%、耐火性フィラー粉末0〜40質量%を含有する複合粉末であって、ガラス粉末が、請求項1〜6の何れかに記載のガラス粉末であることを特徴とする複合粉末。
結晶化ガラス基板の表面に絵付層を有する絵付層付き結晶化ガラス基板であって、絵付層がガラス粉末の焼結体であり、且つガラス粉末が請求項1〜6の何れかに記載のガラス粉末であることを特徴とする絵付層付き結晶化ガラス基板。
結晶化ガラス基板の表面に絵付層を有する絵付層付き結晶化ガラス基板であって、絵付層が複合粉末の焼結体であり、且つ複合粉末が請求項7又は8に記載の複合粉末であることを特徴とする絵付層付き結晶化ガラス基板。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のガラス粉末は、低温で軟化流動するため、低温で絵付層を形成することが可能であり、焼成コストを低廉化することができる。しかし、特許文献1に記載のガラス粉末は、熱膨張係数が高いため、絵付層の熱膨張係数を低下させることが困難である。絵付層の熱膨張係数が高いと、絵付層付き結晶化ガラス基板にクラックが発生し易くなる。この傾向は、結晶化ガラス基板の熱膨張係数が低い程、顕在化し易くなる。なお、このクラックは、耐水性、耐酸性等の特性を劣化させるだけでなく、その内部に汚れが滞留して、美観を損ねるという問題も発生させる。更に、絵付層の熱膨張係数が高いと、絵付層に過大な引張応力が入り、外力により絵付層の機械的強度が劣化し易くなる。
【0007】
更に、調理器用トッププレートは、使用時に熱湯、果汁、調味料に曝される。このため、絵付層には、高い耐水性、耐酸性が求められることがある。具体的には、絵付層が調理器用トッププレートの調理面側に配置される場合だけでなく、絵付層が調理面とは反対側に配置される場合であっても、ガス器具等を通すために穴開け加工がなされると、高い耐水性、耐酸性が求められる。これに伴い、ガラス粉末にも高い耐水性、耐酸性が求められる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、低温で軟化流動すると共に、熱膨張係数が低く、しかも耐水性、耐酸性が高いガラス粉末及び複合粉末を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々の検討を行った結果、SiO
2−B
2O
3−ZnO−R
2O(ここで、R
2Oは、Li
2O、Na
2O、K
2O等のアルカリ金属酸化物を指す)系ガラス粉末において、SiO
2とB
2O
3の含有量を低減しつつ、ZnOとR
2Oの成分比率を適正化することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラス粉末は、ガラス組成として、モル%で、SiO
2 45〜60%、B
2O
3 1〜15%未満、ZnO 10〜35%、Li
2O+Na
2O+K
2O 3〜15%、Al
2O
3 0〜10%、BaO 0〜10%を含有し、モル比ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.5〜4であることを特徴とする。ここで、「Li
2O+Na
2O+K
2O」は、Li
2O、Na
2O及びK
2Oの合量を指す。「ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)」は、ZnOの含有量をLi
2O、Na
2O及びK
2Oの合量で割った値を指す。
【0010】
本発明のガラス粉末は、B
2O
3の含有量を15モル%未満、且つモル比ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)を0.5以上に規制している。これにより、耐水性、耐酸性を高めることが可能になる。
【0011】
更に、本発明のガラス粉末は、SiO2の含有量を60モル%以下、ZnOの含有量を10モル%以上、且つモル比ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)を4以下に規制している。これにより、低軟化点と低熱膨張係数を両立し易くなる。
【0012】
第二に、本発明のガラス粉末は、モル比ZnO/B
2O
3が1〜4であることが好ましい。「ZnO/B
2O
3」は、ZnOの含有量をB
2O
3の含有量で割った値を指す。
【0013】
第三に、本発明のガラス粉末は、ガラス組成中のZnOの含有量が18〜28モル%であることが好ましい。
【0014】
第四に、本発明のガラス粉末は、ガラス組成中に実質的にPbOとBi
2O
3を含まないことが好ましい。ここで、「実質的に〜を含まない」とは、明示の成分が不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、明示の成分の含有量が0.1質量%未満の場合を指す。
【0015】
第五に、本発明のガラス粉末は、30〜350℃における平均熱膨張係数が70×10
−7/℃以下であることが好ましい。ここで、「30〜350℃における平均熱膨張係数」は、TMA装置で測定した値である。なお、測定試料として、ガラス粉末の圧粉体を750℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを用いることが好ましい。
【0016】
第六に、本発明のガラス粉末は、マクロ型DTA装置で測定した軟化点が550〜740℃であることが好ましい。ここで、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、第四屈曲点の温度を指す。なお、マクロ型DTA装置による測定は、空気中で行い、昇温速度を10℃/分とする。
【0017】
第七に、本発明の複合粉末は、ガラス粉末 25〜99質量%、無機顔料粉末 1〜75質量%、耐火性フィラー粉末 0〜40質量%を含有する複合粉末であって、ガラス粉末が、上記のガラス粉末であることが好ましい。
【0018】
第八に、本発明の複合粉末は、無機顔料粉末がCr−Cu系複合酸化物であることが好ましい。ここで、「〜系複合酸化物」とは、明示の成分を必須成分として含む複合酸化物を指す。
【0019】
第九に、本発明の絵付層付き結晶化ガラス基板は、結晶化ガラス基板の表面に絵付層を有する絵付層付き結晶化ガラス基板であって、絵付層がガラス粉末の焼結体であり、且つガラス粉末が上記のガラス粉末であることが好ましい。
【0020】
第十に、本発明の絵付層付き結晶化ガラス基板は、結晶化ガラス基板の表面に絵付層を有する絵付層付き結晶化ガラス基板であって、絵付層が複合粉末の焼結体であり、且つ複合粉末が上記の複合粉末であることが好ましい。
【0021】
第十一に、本発明の絵付層付き結晶化ガラス基板は、調理器用トッププレートに用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のガラス粉末は、本発明のガラス粉末は、ガラス組成として、モル%で、SiO
2 45〜60%、B
2O
3 1〜15%未満、ZnO 10〜35%、Li
2O+Na
2O+K
2O 3〜15%、Al
2O
3 0〜10%、BaO 0〜10%を含有し、モル比ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.5〜4であることを特徴とする。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示はモル%を指す。
【0023】
SiO
2は、ガラス骨格を形成する成分であり、耐水性、耐酸性を高める成分である。SiO
2の含有量は45〜60%であり、好ましくは47〜58%、48〜57%、49〜56%、特に50〜55%である。SiO
2の含有量が少な過ぎると、耐水性、耐酸性が低下し易くなり、また熱的安定性が不当に低くなり、ガラス粉末が十分に焼結する前に結晶が析出し易くなる。一方、SiO
2の含有量が多過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。
【0024】
B
2O
3は、ガラス骨格を形成する成分であり、また熱膨張係数を上昇させずに、軟化点を低下させる成分である。B
2O
3の含有量は1〜15%未満であり、好ましくは3〜14%、5〜13%、6〜12%、特に7〜11%である。B
2O
3の含有量が少な過ぎると、熱的安定性が不当に低くなり、ガラス粉末が十分に焼結する前に結晶が析出し易くなる。更に軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。一方、B
2O
3の含有量が多過ぎると、耐水性、耐酸性が低下し易くなる。
【0025】
ZnOは、熱膨張係数をあまり上昇させずに、軟化点を低下させる成分である。ZnOの含有量は10〜35%であり、好ましくは12〜32%、14〜30%、16〜28%、18〜27%、19〜26%、特に20〜25%である。ZnOの含有量が少な過ぎると、熱膨張係数が不当に低下したり、軟化点が上昇し易くなる。一方、ZnOの含有量が多過ぎると、耐水性、耐酸性が低下し易くなり、更にZn系結晶が析出し易くなる。
【0026】
Li
2O、Na
2O及びK
2Oは、軟化点を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に上昇し、更に耐水性、耐酸性が低下し易くなる。よって、Li
2O、Na
2O及びK
2Oの合量は3〜15%であり、好ましくは4〜13%未満、5〜12%、6〜11%、特に7〜10%である。Li
2Oの含有量は、好ましくは0〜10%、0.1〜7%、0.5〜6%、1〜5%、特に2〜4%である。Na
2Oの含有量は、好ましくは0〜10%、0.1〜7%、0.5〜6%、1〜5%、特に2〜4%である。K
2Oの含有量は、好ましくは0〜10%、0.1〜7%、0.3〜5%、0.5〜4%、特に1〜3%である。
【0027】
モル比ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)は0.5〜4であり、好ましくは1.5〜3.8、2〜3.6、2.4〜3.4、2.6〜3.2、特に2.8〜3である。モル比ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が小さ過ぎると、耐水性、耐酸性が低下し易くなる。一方、モル比ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が大き過ぎると、軟化点が上昇し易くなる。
【0028】
Al
2O
3は、耐水性、耐酸性を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。よって、Al
2O
3の含有量は0〜10%であり、好ましくは0.1〜8%、2〜7%、2〜6%、特に3〜5%である。
【0029】
BaOは、熱的安定性を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に上昇し易くなる。よって、BaOの含有量は0〜10%であり、好ましくは0.1〜7%、1〜5%、特に2〜4%である。
【0030】
モル比ZnO/B
2O
3は、好ましくは1〜4、1.5〜3.7、1.7〜3.5、1.9〜3.3、特に2〜3である。モル比ZnO/B
2O
3が上記範囲外になると、低軟化点と低熱膨張係数を両立し難くなる。
【0031】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分を導入してもよい。
【0032】
MgO、CaO及びSrOは、熱的安定性を高める成分である。MgOの含有量は、好ましくは0〜7%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%である。CaOの含有量は、好ましくは0〜7%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%である。SrOの含有量は、好ましくは0〜7%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%である。MgO、CaO及びSrOの含有量が多過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。
【0033】
TiO
2とZrO
2は、耐水性、耐酸性を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。更に熱的安定性が不当に低くなり、ガラス粉末が十分に焼結する前に結晶が析出し易くなる。TiO
2の含有量は、好ましくは0〜15%、0〜10%、0〜5%、0〜1%、特に0〜0.1%である。ZrO
2の含有量は、好ましくは0〜15%、0〜10%、0〜5%、0〜1%、特に0〜0.1%である。
【0034】
CuOは、ガラスを黒色に着色させるための成分である。CuOの含有量は、好ましくは0〜7%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%である。CuOの含有量が多過ぎると、熱的安定性が不当に低くなり、ガラス粉末が十分に焼結する前に結晶が析出し易くなる。
【0035】
上記成分以外にも、必要に応じて、他の成分を例えば15%、10%、5%、特に1%まで導入することができる。具体的には、Cr
2O
3、MnO、SnO
2、CeO
2、P
2O
5、La
2O
3、Nd
2O
3、Co
2O
3、F、Cl等を合量又は個別に、例えば15%、10%、5%、特に1%まで導入することができる。
【0036】
なお、環境的観点から、実質的にPbOを含有させないことが好ましく、実質的にBi
2O
3も含有させないことが好ましい。
【0037】
ガラス粉末の平均粒子径D
50は15μm以下、0.5〜10μm、特に0.7〜5μmが好ましい。ガラス粉末の粒度が大き過ぎると、スクリーン印刷性が低下し易くなり、また絵付層の色調が不均一になり易い。ここで、「平均粒子径D
50」とは、レーザー回折装置で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【0038】
マクロ型DTA装置で測定したガラス粉末の軟化点は、好ましくは550〜740℃、600〜720℃、630〜700℃、特に650〜690℃である。軟化点が高過ぎると、焼成温度を低下させることが困難になる。焼成温度が高いと、焼成コストが上昇し、また無機顔料粉末の発色性が低下する。一方、軟化点が低過ぎると、他の特性、特に耐水性、耐酸性が低下し易くなる。
【0039】
本発明の複合粉末は、少なくともガラス粉末と無機顔料粉末を含み、必要に応じて、耐火性フィラー粉末等を含む。ガラス粉末は、無機顔料粉末を分散させた状態で、結晶化ガラス基板に固着させるための成分である。無機顔料粉末は、黒色等に着色させて、装飾性を高めるための成分である。耐火性フィラー粉末は、任意成分であり、機械的強度を高める成分であり、また熱膨張係数を調整するための成分である。なお、上記以外にも、発色性を高めるために、Cu粉末等の金属粉末を添加してもよい。
【0040】
本発明の複合粉末は、ガラス粉末 45〜99質量%、無機顔料粉末 1〜55質量%、耐火性フィラー粉末 0〜40質量%を含有することが好ましい。
【0041】
ガラス粉末の含有量は、好ましくは25〜99質量%、30〜99質量%、35〜90質量%、40〜85質量%、45〜80質量%、特に50〜75質量%である。ガラス粉末の含有量が少な過ぎると、絵付層と結晶化ガラス基板の固着性が低下し易くなる。なお、ガラス粉末の含有量が多過ぎると、無機顔料粉末が相対的に少なくなり、絵付層の装飾性が低下し易くなる。
【0042】
無機顔料粉末の含有量は、好ましくは1〜75質量%、1〜70質量%、10〜65質量%、15〜60質量%、20〜55質量%、特に25〜50質量%である。無機顔料粉末の含有量が少な過ぎると、装飾性が低下し易くなる。一方、無機顔料粉末の含有量が多過ぎると、ガラス粉末が相対的に少なくなり、絵付層と結晶化ガラス基板の固着性が低下し易くなる。更に無機顔料粉末の含有量が多過ぎると、絵付層の表面平滑性が低下して、絵付層の耐水性、耐酸性が低下し易くなる。
【0043】
無機顔料粉末は、種々の材料が使用可能であり、例えばNiO(緑色)、MnO
2(黒色)、CoO(黒色)、Fe
2O
3(茶褐色)、Cr
2O
3(緑色)、TiO
2(白色)等の着色酸化物、Cr−Al系スピネル(ピンク色)、Sn−Sb−V系ルチル(グレー色)、Ti−Sb−Ni系ルチル(黄色)、Zr−V系バデライト(黄色)等の酸化物、Co−Zn−Al系スピネル(青色)、Zn−Fe−Cr系スピネル(茶色)、Cr−Cu−Mn系スピネル等の複合酸化物、Ca−Cr−Si系ガーネット(ビクトリアグリーン色)、Ca−Sn−Si−Cr系スフェイン(ピンク色)、Zr−Si−Fe系ジルコン(サーモンピンク色)、Co−Zn−Si系ウイレマイト(紺青色)、Co−Si系カンラン石(紺青色)等のケイ酸塩があり、これらは所望の色を得るように、上記の割合で混合することができる。また、上記無機顔料粉末の他に、例えば、絵付層の隠蔽性及び耐磨耗性を向上させるために、ZrSiO
4やタルク等を適量混合させてもよい。
【0044】
無機顔料粉末の平均粒子径D
50は9μm以下、特に0.5〜4μmが好ましい。無機顔料粉末の最大粒子径D
maxは10μm以下、特に2〜8μmが好ましい。無機顔料粉末の粒度が大き過ぎると、スクリーン印刷性が低下し易くなり、また絵付層の発色性が低下し易くなる。なお、「最大粒子径D
max」とは、レーザー回折装置で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0045】
耐火性フィラー粉末の含有量は、好ましくは0〜40質量%、0〜20質量%、0〜15質量%、0〜10質量%、0〜5質量%、0〜1質量%、特に0〜0.1質量%未満である。耐火性フィラー粉末の含有量が多過ぎると、絵付層と結晶化ガラス基板の固着性が低下し易くなる。
【0046】
耐火性フィラー粉末として、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズ、ムライト、シリカ、β−ユークリプタイト、β−スポジュメン、β−石英固溶体、リン酸タングステン酸ジルコニウム等が使用可能である。
【0047】
本発明のガラス粉末は、ビークルと混合して、ガラス粉末ペーストとして使用に供される。また、本発明の複合粉末は、ビークルと混合して、複合粉末ペーストとして使用に供される。ビークルは、主に溶媒と樹脂で構成される。溶媒は、樹脂を溶解させつつ、複合粉末を均一に分散させる目的で添加される。樹脂は、ペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。
【0048】
樹脂として、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、エチルセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0049】
溶媒として、パインオイル、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0050】
粉末ペーストは、例えば、複合粉末とビークルとを混合した後、3本ロールミルで均一に混練することにより作製される。
【0051】
粉末ペーストは、スクリーン印刷機等の塗布機を用いて結晶化ガラス基板上に塗布された後、乾燥工程、焼成工程に供される。これにより、結晶化ガラス基板の表面に絵付層を形成することができる。乾燥工程の条件は、70〜150℃で10〜60分間が一般的である。焼成工程は、樹脂を分解揮発させると共に、ガラス粉末を焼結させて、結晶化ガラス基板の表面に絵付層を固着させる工程である。焼成工程の条件は、650〜850℃で5〜30分間が一般的である。焼成工程で焼成温度が低い程、生産効率が向上するが、その一方で焼成温度が低過ぎると、絵付層と結晶化ガラス基板の固着性が低下する。
【0052】
本発明の絵付層付き結晶化ガラス基板は、結晶化ガラス基板の表面に絵付層を有する絵付層付き結晶化ガラス基板であって、絵付層がガラス粉末の焼結体であり、且つガラス粉末が上記のガラス粉末であることが好ましい。また本発明の絵付層付き結晶化ガラス基板は、結晶化ガラス基板の表面に絵付層を有する絵付層付き結晶化ガラス基板であって、絵付層が複合粉末の焼結体であり、且つ複合粉末が上記の複合粉末であることが好ましい。本発明の絵付層付き結晶化ガラス基板は、本発明のガラス粉末の技術的特徴と本発明の複合粉末の技術的特徴とを含むが、その内容は記載済みであるため、便宜上、その説明を省略する。
【0053】
結晶化ガラス基板は、主結晶としてβ−石英固溶体が析出していることが好ましい。このようにすれば、加熱耐久性、耐熱衝撃性を高めることができる。
【0054】
結晶化ガラス基板の熱膨張係数は、−10×10
−7〜30×10
−7/℃、特に−5×10
−7〜10×10
−7/℃が好ましい。結晶化ガラス基板の熱膨張係数を0×10
−7に近づけると、結晶化ガラス基板の加熱耐久性、耐熱衝撃性が向上する。その結果、使用時に急加熱、急冷却による熱衝撃が加わる調理器用トッププレートに好適となる。なお、調理器としては、電磁調理器、電気調理器、ガス調理器等がある。
【0055】
絵付層の厚みは1〜30μm、2〜15μm、特に5〜12μmが好ましい。絵付層の厚みが小さ過ぎると、絵付の模様が不明確になる虞がある。一方、絵付層の厚みが厚過ぎると、絵付の模様にクラックが発生する虞がある。
【0056】
調理器用トッププレートの調理面側に絵付層を配置する場合、絵付層は、規則的なドット状の模様であることが好ましい。
【0057】
調理器用トッププレートの調理面側とは反対側に絵付層を配置する場合、絵付層は、模様ではなく、必要な部分の全面に形成されることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0059】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜9)及び比較例(試料No.10)を示している。
【0060】
【表1】
【0061】
まず表中に記載のガラス組成になるように、原料を調合し、均一に混合し、ガラスバッチを得た後、ガラスバッチを白金坩堝に入れて、1500℃で3時間溶融した。その後、溶融ガラスをフィルム状に成形した。続いて、得られたガラスフィルムをボールミルにて粉砕した後、空気分級して、平均粒子径D
50が2.5μmのガラス粉末を得た。
【0062】
各ガラス粉末について、マクロ型DTA装置を用いて、軟化点を測定した。ここで、測定は、空気中で行い、昇温速度を10℃/分とした。
【0063】
ガラス粉末の熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜350℃の温度範囲で測定した値である。ここで、測定試料として、ガラス粉末の圧粉体を750℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを用いた。
【0064】
以下のようにしてガラス粉末の耐水性を評価した。すなわち、ガラス粉末の圧粉体を750℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを測定試料とし、90℃の水に2時間浸漬した時に、外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が認められたものを「×」として評価した。
【0065】
次に、ガラス粉末と無機顔料粉末を表中に記載の割合(合計100質量%)で混合し、複合粉末を得た。ここで、無機顔料粉末として、Cr−Cu−Mn系複合酸化物(平均粒径D
50が1.5μm、最大粒径D
maxが4.0μm)を用いた。
【0066】
更に、得られたガラス粉末又は複合粉末とビークルを混合後、3本ロールミルで均一に混練し、粉末ペーストを得た。なお、ビークルとして、エチルセルロースをα−テルピネオールに溶解させたものを用い、モル比で複合粉末/ビークルを2〜3に調整した。
【0067】
続いて、粉末ペーストを10cm角の透明結晶化ガラス基板(日本電気硝子株式会社製N−0、主結晶:β−石英固溶体)の片面全体にスクリーン印刷した後、120℃で20分間乾燥した上で、750℃の電気炉に投入して、10分間焼成し、室温まで自然冷却することにより、厚み10μmの絵付層付き透明結晶化ガラス基板を得た。
【0068】
クラックの有無は、絵付層付き透明結晶化ガラス基板を観察して、クラックが認められなかったものを「○」、クラックが認められたものを「×」として評価した。
【0069】
絵付層の耐水性は、90℃の水に24時間浸漬した時に、絵付層に外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が僅かに認められたものを「△」、外観変化が明確に認められたものを「×」として評価した。
【0070】
絵付層の耐酸性は、40℃の0.1質量%HCl水溶液に1時間浸漬した時に、絵付層に外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が僅かに認められたものを「△」、外観変化が明確に認められたものを「×」として評価した。
【0071】
表1から明らかなように、試料No.1〜9は、軟化点と熱膨張係数が低く、耐水性、耐酸性の評価が良好であった。一方、試料No.10は、B
2O
3の含有量が過剰であり、且つモル比ZnO/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が小さ過ぎるため、耐水性、耐酸性の評価が不良であり、ZnOの含有量が過少であるため、軟化点が高かった。