【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例を比較例と共に挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0055】
以下において、ワックスの融点と粘度は以下のようにして測定した。
ワックスの融点
DSC(示差走査熱量計)を用いて、窒素雰囲気下に試料ワックス昇温速度10℃/分で昇温して測定した。
ワックスの粘度
容量200mLのステンレスビーカーに試料ワックスを投入し、165℃まで加熱して、その温度でB型粘度計を用いて測定した。
【0056】
ワックスの酸価
試料ワックスの酸価は以下の方法で測定した。
(1)試料2gを三角フラスコに精秤する。
(2)三角フラスコ中の上記試料ワックスにトルエン:エタノール=3:1(容量比)の混合液を100mL加える。試料によっては、試料が溶解する別の溶剤を用いてもよい。
(3)試料が完全に溶解するまでヒートスターラーで撹拌しながら加熱する。
(4)溶解後、指示薬(フェノールフタレイン)を2、3滴加え、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で滴定する。
(5)薄いピンク色が30秒間続いた時を終点とする。
(6)同様に空試験を行い、試料の滴定量(mL)から差し引いた。
【0057】
試料ワックスの酸価は下記式によって求めることができる。
【0058】
A=56.11(KOHのモル質量)×D×0.1×f/C
【0059】
A:酸価(mgKOH/g)
D:エタノール性水酸化カリウム溶液の使用量(mL)
f:水酸化カリウムのファクター
C:試料採取量(g)
【0060】
実施例1
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度(165℃における粘度、以下、同じ。)200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記ワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0061】
実施例2
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリプロピレンワックス(三洋化成工業(株)製ビスコール330P、酸価0、融点148℃、粘度4500mPa・s)を0.4Kg投入し、150℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリプロピレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0062】
実施例3
アセチルアセトンマグネシウム(堺化学工業(株)製)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(ハネウェル社製A−C6A、酸価0、融点100℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンマグネシウムを得た。
【0063】
実施例4
アセチルアセトン亜鉛(堺化学工業(株)製)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、パラフィンワックス(日本精蝋(株)製ルバックス2191、酸価0、融点80℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記、パラフィンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトン亜鉛を得た。
【0064】
実施例5
アセチルアセトンカルシウム(ロティア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kg、低分子量ポリプロピレンワックス(三洋化成工業(株)製ビスコール550P、酸価0、融点148℃、粘度200mPa・s)0.4Kgを投入し、150℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記、ポリエチレンワックスとポリプロピレンワックスとからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0065】
実施例6
低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度200mPa・s以下)5Kgをステンレス製タンクに投入し、150℃まで加熱して、溶融物を得た。この後、上記溶融物にアセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)1Kgを投入し、30分間撹拌混合した後、25℃まで放冷して固化させた。得られた固化物をアトマイザーにて粉砕して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0066】
実施例7
アセチルアセトンマグネシウム(堺化学工業(株)製)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、マイクロクリスタリンワックス(日本精蝋(株)製Hi−Mic−2095、酸価0、融点101℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱し、その後、25℃まで放冷して、マイクロクリスタリンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンマグネシウムを得た。
【0067】
実施例8
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(三井化学(株)製ハイワックス220MP、酸価1.26、融点100℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱し、その後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0068】
実施例9
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度200mPa・s以下)0.2Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱し、その後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0069】
比較例1
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、ステアリン酸(酸価200、融点69℃)0.4Kgとヘキサン4Kg投入した。混合物を65℃に達するまで撹拌加熱した後、350hPaの圧力下にて、65℃で1時間減圧乾燥を行い、更に、15hPaの圧力下にて65℃で1時間減圧乾燥した。その後、25℃まで放冷して、ステアリン酸からなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0070】
比較例2
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、ステアリルアルコール(花王(株)製カルコール8098、酸価0、融点59℃)0.4Kgとヘキサン4Kgを投入し、60℃に達するまで撹拌加熱した後、330hPaの圧力下にて、60℃で1時間減圧乾燥を行い、更に、10hPaの圧力下にて60℃で1時間減圧乾燥した。その後、25℃まで放冷して、ステアリルアルコールからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0071】
比較例3
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、シリコーンオイル(東芝シリコーン(株)製KF−96)0.1Kgを投入し、100℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、シリコーンオイルからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0072】
比較例4
表面被覆を施さないアセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)を比較例4によるアセチルアセトンカルシウムとする。
【0073】
比較例5
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、40℃に達するまで撹拌した後、25℃まで放冷して、アセチルアセトンカルシウムと上記低分子量ポリエチレンワックスとの混合物を得た。
【0074】
比較例6
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kg20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(三井化学(株)製ハイワックス4202E、酸価17、融点100℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0075】
比較例7
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、エステルワックス(エメリーオレオケミカル社製ロキシオール2899、酸価0.7、融点65℃、粘度200mPa・s以下)を0.4kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記エステルワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0076】
比較例8
工業用ステアリン酸448g(花王(株)製精製ステアリン酸550V、ステアリン酸及びパルミチン酸それぞれ約50重量%、融点58℃)(1.7モル)とパラフィンワックス(日本精蝋(株)製ルバックス2191、酸価0、融点80℃、粘度200mPa・s以下)300gを融解させながら、130℃まで加熱した後、上記溶融物を撹拌しながら、これに酸化亜鉛69g(0.85モル、ステアリン酸の1/2モル)を加え、酸化亜鉛が溶解するまで溶融物を減圧下(20hPa)、140℃で30分間撹拌した。
【0077】
得られた溶融物を110℃に冷却した後、アセチルアセトンカルシウム555g(アセチルアセトンカルシウム100重量部に対してパラフィンワックス54重量部に相当する量)を加え、30分間撹拌した後、得られた混合物を25℃まで冷却し、アドマイザーにて粉砕して、ステアリン酸亜鉛とパラフィンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0078】
比較例9
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、ペンタエリスリトールジステアレート(日本油脂(株)製ユニスターH−476D、酸価1以下、融点53℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、80℃に達するまで撹拌加熱した、25℃まで放冷して、ペンタエリスリトールジステアレートからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0079】
比較例10
ステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製SZ−P、酸価1未満、融点125℃)2Kgをステンレス製タンクに投入し、140℃まで加熱して、溶融物を得た。その後、上記溶融物に対して、アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)1Kgを投入し、30分間撹拌混合した後、25℃まで冷却して、固化させた。この後、得られた固形物をアトマイザーにて粉砕して、ステアリン酸亜鉛からなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0080】
以上のようにして得られた上記実施例及び比較例の表面被覆した又は表面被覆なしのアセチルアセトン金属塩をそれぞれ安定剤として含む安定剤組成物を調製し、これを塩化ビニル樹脂に配合し、ロールシートとプレスシートに成形して、得られた各シートの着色の度合いを目視にて調べて、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩の安定剤としての性能を下記の試験によって調べた。
【0081】
試験方法1(加熱粒状化による性能変化の試験)
下記の組成物を調製した。
【0082】
【表1】
【0083】
上記実施例及び比較例において得られた表面被覆した又は表面被覆なしのアセチルアセトン金属塩(試料)それぞれ0.5Kgと上記組成物4.4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、80℃まで撹拌加熱した後、25℃まで放冷し、かくして、加熱粒状化してなる粒子状安定剤組成物を得た。
【0084】
塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に上記粒子状安定剤組成物2重量部を配合し、得られた塩化ビニル系樹脂組成物を180℃で8インチロールにて5分間混練してロールシートを得た。このロールシートについて、配合した表面被覆した又は表面被覆なしの表面被覆アセチルアセトン金属塩の安定剤としての熱着色防止効果を目視で評価した。
【0085】
更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得た。このプレスシートについても、配合した表面被覆した又は表面被覆なしのアセチルアセトン金属塩の安定剤としての熱着色防止効果を目視で評価した。併せて、上記粒子状安定剤組成物の臭気についても評価した。
【0086】
結果を表2及び表3に示す。得られたロールシートとプレスシートの熱着色の評価は次の基準によった。シートに着色が認められないときを○とし、シートにやや着色が認められるが、許容できる範囲であるときを△とし、シートに顕著に着色が認められるときを×とした。また、安定剤組成物の臭気の評価は次の基準によった。臭気が認められないときを○、臭気が幾分、認められるが、許容できる範囲であるときを△とし、臭気が著しいときを×とした。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
実施例8による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物を除いて、本発明の実施例による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、その製造に際して、熱着色は認められなかった。
【0090】
実施例8による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物からのロールシートとプレスシートには、僅かに熱着色が認められるが、実用上、許容し得る範囲内にある。
【0091】
実施例による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物はいずれも、臭気は認められなかった。
【0092】
比較例4は、アセチルアセトンカルシウムに表面被覆を形成することなく、それ自体を前記組成物と共に加熱粒状化して粒子状安定剤組成物としたものであり、それを塩化ビニル樹脂に配合し、得られた塩化ビニル系樹脂組成物をロールシートとプレスシートに成形して、その熱着色を調べた。従って、上記アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられ、かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0093】
比較例1は、アセチルアセトンカルシウムにステアリン酸からなる表面被覆を形成したものである。このようにステアリン酸にて表面被覆したアセチルアセトンカルシウムは、表面被覆する際に加熱下にそのステアリン酸によって、また、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられる。かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0094】
比較例2による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは酸価0のステアリルアルコールからなる被覆を表面に有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって、加熱下にアセチルアセトンカルシウム粒子表面のステアリルアルコールからなる被覆が一部、溶解、除去されるので、アセチルアセトンカルシウムが分解し、その結果、安定剤としての性能が劣化して、得られるロールシートには熱着色が認められ、プレスシートには著しい熱着色が認められた。
【0095】
比較例3による表面被覆アセチルアセトンカルシウムはシリコーンオイルからなる被覆を表面に有する。理由は必ずしも明らかではないが、上記表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、加熱下にステアリン酸に接触したとき、ステアリン酸によるアセチルアセトン金属塩の分解を防止することができないとみられる。
【0096】
比較例5は、アセチルアセトンカルシウムを酸価0の炭化水素ワックスとその融点よりも低い温度にて単純に混合して得られた混合物である。このようなアセチルアセトンカルシウムは、その表面に炭化水素ワックスが融解凝固して形成された被覆をもっていない。かくして、比較例4の場合と同じく、上記混合物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物は、シートへの成形に際して、上記アセチルアセトンカルシウムが安定剤として機能せず、得られたロールシートとプレスシートはいずれも熱着色が著しい。
【0097】
比較例6による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、表面に酸価を有する低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、表面被覆する際に加熱下にその低分子量ポリエチレンワックスによって、また、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられる。かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0098】
比較例7による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、表面に実質的に酸価をもたないエステルワックスからなる被覆を有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられる。かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0099】
比較例8による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、ステアリン酸亜鉛と炭化水素ワックスを含む溶融物にアセチルアセトンカルシウムを加えて、アセチルアセトンカルシウムの表面にステアリン酸亜鉛と炭化水素ワックスとからなる被覆を有せしめたものである。ここに用いたステアリン酸亜鉛と炭化水素ワックスはいずれも、実質的に酸価をもたない。しかし、このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、加熱下に前記組成物が含むステアリン酸によって、上記表面被覆のうち、ステアリン酸亜鉛からなる被覆がステアリン酸中に溶解し、結果として、アセチルアセトンカルシウムの一部がアセチルアセトンに分解するので、得られるロールシートとプレスシートはいずれも着色を生じたものとみられる。
【0100】
比較例9による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、表面に実質的に酸価をもたない多価アルコールのステアリン酸エステルからなる被覆を有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられる。かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0101】
比較例10による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、実質的に酸価をもたないステアリン酸亜鉛からなる被覆を表面に有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、加熱下において、上記被覆がステアリン酸によって溶解除去されるので、アセチルアセトンカルシウムは容易にアセチルアセトンに分解し、かくして、安定剤としての機能が劣化したものとみられ、従って、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0102】
また、比較例1〜10による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物のいずれにおいても、アセチルアセトン金属塩とステアリン酸との反応によって生成した遊離アセチルアセトンの刺激臭が確認された。
【0103】
評価方法2(単純混合による経時変化試験)
上記実施例及び比較例において得られた表面被覆アセチルアセトン金属塩(試料)0.5Kgと前記組成物の4.4Kgを20L容量のコニカルミキサーに投入し、室温(30℃)にて混合して、混合物としての安定剤組成物を得た。
【0104】
上記安定剤組成物をその製造の直後にその一部の2重量部をとり、これを塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に加え、得られた塩化ビニル系樹脂組成物を180℃で8インチロールにて5分間混練してシートを得た。このロールシートについて、上記安定剤組成物による着色防止効果を目視で評価した。更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得、このプレスシートについても、上記安定剤組成物による着色防止効果を目視で評価した。
【0105】
また、上記安定剤組成物の一部をポリエチレン袋に入れ、30℃で1か月間保管した後、その2重量部をとり、これを塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に加え、得られた塩化ビニル系樹脂組成物を180℃で8インチロールにて5分間混練してシートを得た。このロールシートについて、上記安定剤組成物による着色防止効果を目視で評価した。更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得た。このプレスシートについても、上記安定剤組成物による着色防止効果を目視で評価した。
【0106】
結果を表4及び表5に示す。製造直後の安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートの着色はそれぞれロールシートの着色(1)とプレスシートの着色(1)として示し、製造後、30℃で1か月間保管した安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートの着色はそれぞれロールシートの着色(2)とプレスシートの着色(2)として示す。シートの着色の評価の基準は前記と同じである。
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
実施例1〜7及び実施例9による製造直後及び製造後1か月保管した後の安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物配合物はいずれも、熱着色なしにロールシートとプレスシートを与えた。実施例8による安定剤組成物安定剤は、製造直後と製造後1か月保管した後のものもいずれも、前述した理由によって、やや着色したロールシートとプレスシートを与えたが、熱着色の程度はいずれも、実用上、許容し得る範囲内である。
【0110】
しかし、比較例1〜10による安定剤組成物は、製造直後と製造後1か月保管した後のものもいずれも、著しく熱着色したロールシートとプレスシートを与えた。