特許第6686575号(P6686575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6686575表面被覆アセチルアセトン金属塩とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686575
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】表面被覆アセチルアセトン金属塩とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20200413BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20200413BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20200413BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C08L27/06
   C08K9/04
   C08K5/10
   C08K5/09
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-51396(P2016-51396)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-165842(P2017-165842A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079120
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕市
(72)【発明者】
【氏名】田井 康寛
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−051565(JP,A)
【文献】 特表2001−504157(JP,A)
【文献】 特開平01−299855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
C08K 9/04
C08K 5/09
C08K 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトン金属塩であって、上記アセチルアセトン金属塩がカルシウム塩、マグネシウム塩及び亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種である表面被覆アセチルアセトン金属塩と酸価を有する有機物質を含む塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物。
【請求項2】
前記酸価を有する有機物質が有機酸と酸化ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物。
【請求項3】
前記有機酸がステアリン酸である請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物。
【請求項4】
実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトン金属塩であって、上記アセチルアセトン金属塩がカルシウム塩、マグネシウム塩及び亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種である表面被覆アセチルアセトン金属塩と酸価を有する有機物質を含む塩化ビニル系樹脂組成物であって、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩を塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0.02〜1.0重量部の範囲で含む塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、更に、可塑剤0〜15重量部と炭素数12〜20の飽和脂肪酸0.01〜1.0重量部を含む請求項4に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
炭素数12〜20の飽和脂肪酸がステアリン酸である請求項5に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面被覆アセチルアセトン金属塩とその製造方法に関し、詳しくは、実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスからなる被覆を表面に有して、経時的にも、また、加熱下においても、安定性にすぐれる、塩化ビニル系樹脂組成物のための安定剤、特に、熱安定剤として有用な表面被覆アセチルアセトン金属塩とその製造方法に関する。
【0002】
更に、本発明は、そのような表面被覆アセチルアセトン金属塩を安定剤として含み、経時的にも、また、加熱下においても、安定剤としての性能の劣化のない塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物と、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩を安定剤として含み、経時的にも、また、加熱下においても、安定性にすぐれる塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンマグネシウム、アセチルアセトン亜鉛のようなアセチルアセトン金属塩は、塩素含有樹脂組成物、なかでも、モノマー単位として塩化ビニルを含む塩化ビニル系樹脂組成物のための有効な安定剤として古くより知られている(特許文献1及び2参照)。
【0004】
塩化ビニル系樹脂組成物のための安定剤は、そのような安定剤と共に滑剤や、その他の添加剤からなる粉体や粒状物とした安定剤組成物、所謂ワンパックとして、塩化ビニル系樹脂組成物の製造において用いられることも多い(特許文献2参照)。
【0005】
安定剤として上述したアセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物は、通常、アセチルアセトン金属塩と、必要に応じて、その他の安定剤を、滑剤や、その他の添加剤と共に常温下に混合すれば、粉体として得ることができ、また、それらを混合した後、加熱造粒すれば、粒状物として得ることができる(特許文献2参照)。
【0006】
上記アセチルアセトン金属塩についても、これを含む安定剤組成物として、例えば、アセチルアセトンカルシウム、ワックス、多価アルコールの飽和脂肪酸のジエステル(例えば、ペンタエリスリトールジステアレート)及びステアリン酸亜鉛からなるものが知られている(特許文献1参照)。
【0007】
このように、アセチルアセトン金属塩は、塩化ビニル系樹脂組成物のための安定剤として有用であるが、一方において、従来、種々の問題を有することが知られている(特許文献3参照)。
【0008】
本発明者らは、アセチルアセトン金属塩及びそれを含む安定剤組成物の性能の改善を目的とした研究の過程において、従来から知られているアセチルアセトン金属塩は経時的に安定剤としての性能が劣化しやすいこと、また、上述したように、アセチルアセトン金属塩と共にその他の成分を混合し、加熱造粒して、粒状物として、安定剤組成物を製造したとき、多くの場合、その際の加熱によって、アセチルアセトン金属塩が分解して、安定剤としての性能が劣化するので、アセチルアセトン金属塩をそのような分解なしに、安定に維持する安定剤組成物を得ることができないこと、更には、従来のアセチルアセトン金属塩やこれを含む安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物を加熱成形したとき、多くの場合、得られる成形品に望ましくない熱着色が生じることを見出した。
【0009】
上述したアセチルアセトン金属塩と共にワックスやステアリン酸亜鉛を含む安定剤組成物も同じ問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−299855号公報
【特許文献2】特開2012−167232号公報
【特許文献3】特表2001−504157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、アセチルアセトン金属塩における上述した問題を解決するために、鋭意、研究した結果、アセチルアセトン金属塩と共に種々の安定剤や、その他の添加剤を含む安定剤組成物中において、また、アセチルアセトン金属塩とその他の種々の添加剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物において、アセチルアセトン金属塩が経時的に又は加熱下に酸価を有する有機物質、代表的には、滑剤としてよく用いられるステアリン酸や酸化ポリエチレンワックス等と反応し、分解して、アセチルアセトンを生成し、その結果として、アセチルアセトン金属塩の安定剤としての性能が劣化することを見出した。
【0012】
そこで、本発明者らは、酸価を実質的にもたない炭化水素ワックスからなる被覆をアセチルアセトン金属塩の表面に形成することによって、それを含む安定剤組成物や塩化ビニル系樹脂組成物中において、アセチルアセトン金属塩が経時的に又は加熱下に上記酸価を有する有機物質と反応し、分解することを防止することができ、かくして、アセチルアセトン金属塩とそれを含む安定剤組成物や塩化ビニル系樹脂組成物が経時的に又は加熱下に安定剤としての性能が劣化する問題を解決して、経時的にも、また、加熱下においても、安定剤としての性能の劣化のないアセチルアセトン金属塩を得ることができることを見出して、本発明に到ったものである。
【0013】
従って、本発明は、実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスからなる被覆を表面に有し、その結果、アセチルアセトン金属塩が酸価を有する有機物質と経時的に又は加熱下に反応し、分解することを防止し、かくして、安定剤としての性能の安定性にすぐれて、塩化ビニル系樹脂組成物のための安定剤として有用な表面被覆アセチルアセトン金属塩とその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、上述したアセチルアセトン金属塩を安定剤として含む塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物を提供することを目的とする。
【0015】
更に、本発明は、上述したアセチルアセトン金属塩を安定剤として含む塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトン金属塩であって、上記アセチルアセトン金属塩がカルシウム塩、マグネシウム塩及び亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種である表面被覆アセチルアセトン金属塩が提供される。
【0017】
本発明によれば、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩は、アセチルアセトン金属塩100重量部に対して、上記炭化水素ワックス量が1〜500重量部の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、本発明によれば、実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスとアセチルアセトン金属塩とからなる混合物を上記炭化水素ワックスの融点以上の温度で加熱下に攪拌した後、得られた混合物を常温に冷却して、上記アセチルアセトン金属塩の表面に上記炭化水素ワックスからなる被覆を形成することからなる表面被覆アセチルアセトン金属塩の製造方法であって、上記アセチルアセトン金属塩がカルシウム塩、マグネシウム塩及び亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種である表面被覆アセチルアセトン金属塩の製造方法が提供される。
【0019】
本発明によれば、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩は、アセチルアセトン金属塩100重量部に対して、上記炭化水素ワックス量が1〜500重量部の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明によれば、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩と酸価を有する有機物質を含む塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物が提供される。
【0021】
更に、本発明によれば、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩0.02〜1.0重量部含む塩化ビニル系樹脂組成物が提供される。
【0022】
好ましい態様として、本発明によれば、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、更に、可塑剤0〜15重量部と炭素数12〜20の飽和脂肪酸0.01〜1.0重量部を含む塩化ビニル系樹脂組成物が提供される。
【0023】
本発明において、上記炭素数12〜20の飽和脂肪酸は、好ましくは、ステアリン酸である。
【0024】
本発明において、酸価とは、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいい、「実質的に酸価をもたない」とは、3回測定した酸価の平均値が1.4以下であることをいい、「酸価を有する」とは、3回測定した酸価の平均値が1.4を超えることをいうものとする。また、「酸価が0である」とは、3回測定した酸価がいずれも0であることをいう。
【発明の効果】
【0025】
本発明による表面被覆アセチルアセトン金属塩は、実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスからなる被覆を表面に有するので、経時的に又は加熱下に酸価を有する有機物質と反応して、分解することが防止され、その結果、本発明による表面被覆を有するアセチルアセトン金属塩は、例えば、ステアリン酸や酸化ポリエチレンワックスのような酸価を有する物質と共に混合し、又は加熱造粒して、安定剤組成物としても、上記加熱造粒の際に安定剤としての性能の劣化が起こらず、また、その後、経時的な性能の劣化も起こらない。
【0026】
また、本発明の方法によれば、アセチルアセトン金属塩の表面に上記実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスからなる被覆を形成する際に、アセチルアセトン金属塩が酸価を有する有機物質と反応することがないので、アセチルアセトン金属塩の分解なしに、表面被覆を有するアセチルアセトン金属塩を得ることができる。
【0027】
更に、本発明による安定剤組成物や、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩と共に、ステアリン酸や酸化ポリエチレンワックスのような酸価を有する物質を含んでいても、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩は、その表面の炭化水素ワックスからなる被覆によって、上記酸価を有する物質との直接の接触が防止されるので、アセチルアセトン金属塩のアセチルアセトンへの分解が起こらず、安定剤としての性能を維持するので、本発明による安定剤組成物や、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、経時的にも、加熱下においても、安定であって、着色が起こらない。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明による表面被覆アセチルアセトン金属塩は、実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトン金属塩であって、上記アセチルアセトン金属塩がカルシウム塩、マグネシウム塩及び亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種である表面被覆を有するものである。
【0029】
本発明において用いるワックスは、実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスであって、常温で固体であり、融点が165℃以下であり、165℃における粘度が5000mPa・s以下であるものが好ましい。本発明において、常温とは、5〜35℃の範囲の温度をいう。
【0030】
本発明において、上記炭化水素ワックスからなる被覆とは、上記炭化水素ワックスが融解し、アセチルアセトン金属塩の粒子の表面において凝固し、形成した被覆又は被膜をいい、好ましくは、アセチルアセトン金属塩の粒子の表面の全部に連続して形成した被覆又は被膜をいう。
【0031】
アセチルアセトン金属塩の表面に被覆を形成する炭化水素ワックスが酸価を有するときは、アセチルアセトン金属塩が経時的に又は加熱下にアセチルアセトンに分解される結果、アセチルアセトン金属塩が有する安定剤としての性能は、経時的に又は加熱下に劣化する。
【0032】
本発明によれば、アセチルアセトン金属塩の表面に被覆を形成する炭化水素ワックスは酸価が0であるものが特に好ましい。
【0033】
本発明において、好ましく用いることができる実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスとしては、例えば、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等のようなFT(フィッシャー・トロプシュ)ワックスや、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックスを挙げることができ、特に、酸価が0である炭化水素ワックスが好ましい。
【0034】
本発明による表面被覆アセチルアセトン金属塩は、アセチルアセトン金属塩100重量部に対して、上記炭化水素ワックスからなる被覆を1〜500重量部の範囲で有し、好ましくは、3〜500重量部の範囲で有する。
【0035】
このような本発明による表面被覆アセチルアセトン金属塩は、実質的に酸価をもたない炭化水素ワックスとアセチルアセトン金属塩とからなる混合物を上記炭化水素ワックスの融点以上の温度で加熱下に攪拌した後、得られた混合物を常温に冷却して、上記アセチルアセトン金属塩の表面に上記炭化水素ワックスからなる被覆を形成することによって得ることができる。
【0036】
本発明において、上記炭化水素ワックスとアセチルアセトン金属塩とからなる混合物は、好ましくは、上記炭化水素ワックスとアセチルアセトン金属塩のみからなる混合物である。上記混合物は、勿論、酸価を有する有機物質は含まない。
【0037】
本発明によれば、表面被覆アセチルアセトン金属塩は、好ましくは、先ず、アセチルアセトン金属塩を高速攪拌ミキサーに投入し、次いで、炭化水素ワックスを投入し、その炭化水素ワックスの融点以上の適宜の温度に達するまで攪拌し、その後、加熱攪拌を止めて、得られた混合物を常温まで放冷すれば、目的とする表面被覆アセチルアセトン金属塩を得ることができる。この方法による場合、アセチルアセトン金属塩100重量部に対して、炭化水素ワックスは、好ましくは、1〜100重量部の範囲で用いられる。
【0038】
また、別の方法として、本発明によれば、表面被覆アセチルアセトン金属塩は、先ず、炭化水素ワックスを適宜の容器中に投入し、その融点以上の適宜の温度に加熱して、溶融物とし、次いで、この溶融物中にアセチルアセトン金属塩を投入し、上記温度で加熱攪拌した後、常温まで放冷して固化させ、かくして得られた固化物を粉砕すれば、表面被覆アセチルアセトン金属塩を得ることができる。この方法による場合、特に、限定されるものではないが、通常、アセチルアセトン金属塩100重量部に対して、炭化水素ワックスは、好ましくは、100〜500重量部の範囲で用いられる。
【0039】
炭化水素ワックスとアセチルアセトン金属塩とからなる混合物を上記炭化水素ワックスの融点以上の適宜の温度で加熱下に攪拌する際、通常、上記混合物を上記ワックスの融点以上の適宜の温度になるまで攪拌し、その後、速やかに加熱を止めて、処理後の混合物を常温まで放冷すれば、目的とする表面被覆アセチルアセトン金属塩を得ることができる。しかし、必要に応じて、炭化水素ワックスとアセチルアセトン金属塩とからなる混合物を上記炭化水素ワックスの融点以上の適宜の温度まで加熱下に攪拌した後、適宜の時間にわたって、更に、その温度で攪拌を続け、その後に、加熱を止めて、処理後の混合物を常温まで放冷してもよい。
【0040】
かくして、本発明によれば、上記炭化水素ワックスは、アセチルアセトン金属塩100重量部に対して、通常、1〜500重量部の範囲で用いられ、好ましくは、3〜500重量部の範囲で用いられる。
【0041】
従って、本発明において、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩は、上記金属塩の粒子のそれぞれがその表面に前記炭化水素ワックスからなる被覆を有していてもよく、また、複数の上記金属塩の粒子が前記炭化水素ワックスからなる被覆を共有していてもよい。後者の場合、炭化水素ワックスが複数のアセチルアセトン金属塩の粒子を包含しつつ、融解し、凝固することによって、いわば塊状物として、表面被覆アセチルアセトン金属塩が得られる。このような塊状物は、そのままでも、安定剤として用いることができるが、必要に応じて、粉砕して用いてもよい。
【0042】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物は、上述した表面被覆アセチルアセトン金属塩と酸価を有する有機物質を含むものである。
【0043】
本発明において、上記塩化ビニル系樹脂は、特に、限定されるものではないが、具体例として、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニリトル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−各種ビニルエーテル共重合体等の塩素含有樹脂や、これらのブレンド物、更には、上記とその他の塩素を含まない合成樹脂、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリリレート共重合体、ポリエステル等とのブレンド物や、ブロック共重合体、グラフト共重合体等を挙げることができる。
【0044】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物は、上述した表面被覆アセチルアセトン金属塩と酸価を有する有機物質と共に、必要に応じて、その他の安定剤と適宜の添加剤、例えば、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、充填剤等を含んでいてもよい。また、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物は、上述した表面被覆アセチルアセトン金属塩と酸価を有する有機物質と共に、必要に応じて、上記その他安定剤と添加剤を含んでいてもよい混合物からなる粉体であってもよく、また、上述した表面被覆アセチルアセトン金属塩と酸価を有する有機物質と共に、必要に応じて、上記その他の安定剤と添加剤を含んでいてもよい混合物を加熱造粒し、粒状物としたものであってもよい。
【0045】
上記その他の安定剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の有機酸金属塩や、ジペンタエリスリトールを含む種々の多価アルコールやその有機酸とのエステル、ハイドロタルサイトを挙げることができる。上記有機酸金属塩は滑剤としても用いられる。上記以外の滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸等の有機酸や、種々のワックス類、例えば、酸化ポリエチレンワックスや酸化ポリプロピレンワックスを挙げることができる。ここに、滑剤として用いるワックスは、酸価を有するものであってもよい。
【0046】
酸化防止剤、着色剤、充填剤等の添加剤は、塩化ビニル系樹脂組成物において、通常、用いられるものであれば、特に、制約なしに、従来、知られているものが適宜に用いられる。
【0047】
上記酸価を有する有機物質とは、特に、限定されるものではなく、例えば、ステアリン酸のような有機酸や、また、酸化ポリエチレンワックスのようなワックスを挙げることができる。
【0048】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物用の安定剤組成物は、上述した表面被覆アセチルアセトン金属塩と上述したような酸価を有する有機物質を含む。本発明によれば、アセチルアセトン金属塩は実質的に酸価をもたないワックスからなる被覆を表面に有するので、安定剤組成物が表面被覆アセチルアセトン金属塩と共に、酸価を有する有機物質を含んでいても、その酸価を有する有機物質によって経時的に又は加熱下にアセチルアセトンに分解されることがないので、成形品の製造に際して、加熱によって、安定剤としての性能が劣化することがなく、また、得られる成形品が経時的に着色することもない。
【0049】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、安定剤として、上述した表面被覆アセチルアセトン金属塩を含み、必要に応じて、可塑剤や、上述した滑剤、酸化防止剤、着色剤、充填剤等の種々の添加剤と、更には、上述したようなその他の安定剤を含んでいてもよい。
【0050】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、本発明による表面被覆アセチルアセトン金属塩を、塩化ビニル系樹脂100重量部について、0.02〜1.0重量部の範囲、好ましくは、0.1〜0.5重量部の範囲で含むことによって、すぐれた安定性、特に、熱安定性を有する。
【0051】
更に、本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部について、可塑剤0〜15重量部と炭素数12〜20の飽和脂肪酸、特に、好ましくは、ステアリン酸を0.01〜1.0重量部含む。
【0052】
上記可塑剤としては、従来、塩化ビニル系樹脂組成物に用いられているもの、例えば、フタレート系可塑剤、アジペート系可塑剤、ホスフェート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を含め、いずれも適宜に用いられる。
【0053】
本発明による塩化ビニル系樹脂組成物は、安定剤として、表面被覆アセチルアセトン金属塩を含むので、その他の成分として、特に、酸価を有する炭素数12〜20の飽和脂肪酸を含んでいても、その成形に際して、加熱によっても、表面被覆アセチルアセトン金属塩に安定剤としての性能の低下がなく、また、安定剤としての表面被覆アセチルアセトン金属塩は経時的に性能の劣化を生じないので、得られた成形品も、その製造に際して、また、経時的にも着色を生じない。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例を比較例と共に挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0055】
以下において、ワックスの融点と粘度は以下のようにして測定した。
ワックスの融点
DSC(示差走査熱量計)を用いて、窒素雰囲気下に試料ワックス昇温速度10℃/分で昇温して測定した。
ワックスの粘度
容量200mLのステンレスビーカーに試料ワックスを投入し、165℃まで加熱して、その温度でB型粘度計を用いて測定した。
【0056】
ワックスの酸価
試料ワックスの酸価は以下の方法で測定した。
(1)試料2gを三角フラスコに精秤する。
(2)三角フラスコ中の上記試料ワックスにトルエン:エタノール=3:1(容量比)の混合液を100mL加える。試料によっては、試料が溶解する別の溶剤を用いてもよい。
(3)試料が完全に溶解するまでヒートスターラーで撹拌しながら加熱する。
(4)溶解後、指示薬(フェノールフタレイン)を2、3滴加え、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で滴定する。
(5)薄いピンク色が30秒間続いた時を終点とする。
(6)同様に空試験を行い、試料の滴定量(mL)から差し引いた。
【0057】
試料ワックスの酸価は下記式によって求めることができる。
【0058】
A=56.11(KOHのモル質量)×D×0.1×f/C
【0059】
A:酸価(mgKOH/g)
D:エタノール性水酸化カリウム溶液の使用量(mL)
f:水酸化カリウムのファクター
C:試料採取量(g)
【0060】
実施例1
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度(165℃における粘度、以下、同じ。)200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記ワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0061】
実施例2
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリプロピレンワックス(三洋化成工業(株)製ビスコール330P、酸価0、融点148℃、粘度4500mPa・s)を0.4Kg投入し、150℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリプロピレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0062】
実施例3
アセチルアセトンマグネシウム(堺化学工業(株)製)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(ハネウェル社製A−C6A、酸価0、融点100℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンマグネシウムを得た。
【0063】
実施例4
アセチルアセトン亜鉛(堺化学工業(株)製)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、パラフィンワックス(日本精蝋(株)製ルバックス2191、酸価0、融点80℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記、パラフィンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトン亜鉛を得た。
【0064】
実施例5
アセチルアセトンカルシウム(ロティア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kg、低分子量ポリプロピレンワックス(三洋化成工業(株)製ビスコール550P、酸価0、融点148℃、粘度200mPa・s)0.4Kgを投入し、150℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記、ポリエチレンワックスとポリプロピレンワックスとからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0065】
実施例6
低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度200mPa・s以下)5Kgをステンレス製タンクに投入し、150℃まで加熱して、溶融物を得た。この後、上記溶融物にアセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)1Kgを投入し、30分間撹拌混合した後、25℃まで放冷して固化させた。得られた固化物をアトマイザーにて粉砕して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0066】
実施例7
アセチルアセトンマグネシウム(堺化学工業(株)製)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、マイクロクリスタリンワックス(日本精蝋(株)製Hi−Mic−2095、酸価0、融点101℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱し、その後、25℃まで放冷して、マイクロクリスタリンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンマグネシウムを得た。
【0067】
実施例8
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(三井化学(株)製ハイワックス220MP、酸価1.26、融点100℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱し、その後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0068】
実施例9
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度200mPa・s以下)0.2Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱し、その後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0069】
比較例1
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、ステアリン酸(酸価200、融点69℃)0.4Kgとヘキサン4Kg投入した。混合物を65℃に達するまで撹拌加熱した後、350hPaの圧力下にて、65℃で1時間減圧乾燥を行い、更に、15hPaの圧力下にて65℃で1時間減圧乾燥した。その後、25℃まで放冷して、ステアリン酸からなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0070】
比較例2
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、ステアリルアルコール(花王(株)製カルコール8098、酸価0、融点59℃)0.4Kgとヘキサン4Kgを投入し、60℃に達するまで撹拌加熱した後、330hPaの圧力下にて、60℃で1時間減圧乾燥を行い、更に、10hPaの圧力下にて60℃で1時間減圧乾燥した。その後、25℃まで放冷して、ステアリルアルコールからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0071】
比較例3
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、シリコーンオイル(東芝シリコーン(株)製KF−96)0.1Kgを投入し、100℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、シリコーンオイルからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0072】
比較例4
表面被覆を施さないアセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)を比較例4によるアセチルアセトンカルシウムとする。
【0073】
比較例5
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(日本精蝋(株)製FT−115、酸価0、融点110℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、40℃に達するまで撹拌した後、25℃まで放冷して、アセチルアセトンカルシウムと上記低分子量ポリエチレンワックスとの混合物を得た。
【0074】
比較例6
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kg20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、低分子量ポリエチレンワックス(三井化学(株)製ハイワックス4202E、酸価17、融点100℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0075】
比較例7
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、エステルワックス(エメリーオレオケミカル社製ロキシオール2899、酸価0.7、融点65℃、粘度200mPa・s以下)を0.4kgを投入し、120℃に達するまで撹拌加熱した後、25℃まで放冷して、上記エステルワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0076】
比較例8
工業用ステアリン酸448g(花王(株)製精製ステアリン酸550V、ステアリン酸及びパルミチン酸それぞれ約50重量%、融点58℃)(1.7モル)とパラフィンワックス(日本精蝋(株)製ルバックス2191、酸価0、融点80℃、粘度200mPa・s以下)300gを融解させながら、130℃まで加熱した後、上記溶融物を撹拌しながら、これに酸化亜鉛69g(0.85モル、ステアリン酸の1/2モル)を加え、酸化亜鉛が溶解するまで溶融物を減圧下(20hPa)、140℃で30分間撹拌した。
【0077】
得られた溶融物を110℃に冷却した後、アセチルアセトンカルシウム555g(アセチルアセトンカルシウム100重量部に対してパラフィンワックス54重量部に相当する量)を加え、30分間撹拌した後、得られた混合物を25℃まで冷却し、アドマイザーにて粉砕して、ステアリン酸亜鉛とパラフィンワックスからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0078】
比較例9
アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、次いで、ペンタエリスリトールジステアレート(日本油脂(株)製ユニスターH−476D、酸価1以下、融点53℃、粘度200mPa・s以下)0.4Kgを投入し、80℃に達するまで撹拌加熱した、25℃まで放冷して、ペンタエリスリトールジステアレートからなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0079】
比較例10
ステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製SZ−P、酸価1未満、融点125℃)2Kgをステンレス製タンクに投入し、140℃まで加熱して、溶融物を得た。その後、上記溶融物に対して、アセチルアセトンカルシウム(ロディア社製ロディアスタブX77)1Kgを投入し、30分間撹拌混合した後、25℃まで冷却して、固化させた。この後、得られた固形物をアトマイザーにて粉砕して、ステアリン酸亜鉛からなる被覆を表面に有するアセチルアセトンカルシウムを得た。
【0080】
以上のようにして得られた上記実施例及び比較例の表面被覆した又は表面被覆なしのアセチルアセトン金属塩をそれぞれ安定剤として含む安定剤組成物を調製し、これを塩化ビニル樹脂に配合し、ロールシートとプレスシートに成形して、得られた各シートの着色の度合いを目視にて調べて、上記表面被覆アセチルアセトン金属塩の安定剤としての性能を下記の試験によって調べた。
【0081】
試験方法1(加熱粒状化による性能変化の試験)
下記の組成物を調製した。
【0082】
【表1】
【0083】
上記実施例及び比較例において得られた表面被覆した又は表面被覆なしのアセチルアセトン金属塩(試料)それぞれ0.5Kgと上記組成物4.4Kgを20L容量の高速撹拌ミキサーに投入し、80℃まで撹拌加熱した後、25℃まで放冷し、かくして、加熱粒状化してなる粒子状安定剤組成物を得た。
【0084】
塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に上記粒子状安定剤組成物2重量部を配合し、得られた塩化ビニル系樹脂組成物を180℃で8インチロールにて5分間混練してロールシートを得た。このロールシートについて、配合した表面被覆した又は表面被覆なしの表面被覆アセチルアセトン金属塩の安定剤としての熱着色防止効果を目視で評価した。
【0085】
更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得た。このプレスシートについても、配合した表面被覆した又は表面被覆なしのアセチルアセトン金属塩の安定剤としての熱着色防止効果を目視で評価した。併せて、上記粒子状安定剤組成物の臭気についても評価した。
【0086】
結果を表2及び表3に示す。得られたロールシートとプレスシートの熱着色の評価は次の基準によった。シートに着色が認められないときを○とし、シートにやや着色が認められるが、許容できる範囲であるときを△とし、シートに顕著に着色が認められるときを×とした。また、安定剤組成物の臭気の評価は次の基準によった。臭気が認められないときを○、臭気が幾分、認められるが、許容できる範囲であるときを△とし、臭気が著しいときを×とした。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
実施例8による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物を除いて、本発明の実施例による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、その製造に際して、熱着色は認められなかった。
【0090】
実施例8による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物からのロールシートとプレスシートには、僅かに熱着色が認められるが、実用上、許容し得る範囲内にある。
【0091】
実施例による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物はいずれも、臭気は認められなかった。
【0092】
比較例4は、アセチルアセトンカルシウムに表面被覆を形成することなく、それ自体を前記組成物と共に加熱粒状化して粒子状安定剤組成物としたものであり、それを塩化ビニル樹脂に配合し、得られた塩化ビニル系樹脂組成物をロールシートとプレスシートに成形して、その熱着色を調べた。従って、上記アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられ、かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0093】
比較例1は、アセチルアセトンカルシウムにステアリン酸からなる表面被覆を形成したものである。このようにステアリン酸にて表面被覆したアセチルアセトンカルシウムは、表面被覆する際に加熱下にそのステアリン酸によって、また、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられる。かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0094】
比較例2による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは酸価0のステアリルアルコールからなる被覆を表面に有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって、加熱下にアセチルアセトンカルシウム粒子表面のステアリルアルコールからなる被覆が一部、溶解、除去されるので、アセチルアセトンカルシウムが分解し、その結果、安定剤としての性能が劣化して、得られるロールシートには熱着色が認められ、プレスシートには著しい熱着色が認められた。
【0095】
比較例3による表面被覆アセチルアセトンカルシウムはシリコーンオイルからなる被覆を表面に有する。理由は必ずしも明らかではないが、上記表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、加熱下にステアリン酸に接触したとき、ステアリン酸によるアセチルアセトン金属塩の分解を防止することができないとみられる。
【0096】
比較例5は、アセチルアセトンカルシウムを酸価0の炭化水素ワックスとその融点よりも低い温度にて単純に混合して得られた混合物である。このようなアセチルアセトンカルシウムは、その表面に炭化水素ワックスが融解凝固して形成された被覆をもっていない。かくして、比較例4の場合と同じく、上記混合物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物は、シートへの成形に際して、上記アセチルアセトンカルシウムが安定剤として機能せず、得られたロールシートとプレスシートはいずれも熱着色が著しい。
【0097】
比較例6による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、表面に酸価を有する低分子量ポリエチレンワックスからなる被覆を有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、表面被覆する際に加熱下にその低分子量ポリエチレンワックスによって、また、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられる。かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0098】
比較例7による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、表面に実質的に酸価をもたないエステルワックスからなる被覆を有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられる。かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0099】
比較例8による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、ステアリン酸亜鉛と炭化水素ワックスを含む溶融物にアセチルアセトンカルシウムを加えて、アセチルアセトンカルシウムの表面にステアリン酸亜鉛と炭化水素ワックスとからなる被覆を有せしめたものである。ここに用いたステアリン酸亜鉛と炭化水素ワックスはいずれも、実質的に酸価をもたない。しかし、このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、加熱下に前記組成物が含むステアリン酸によって、上記表面被覆のうち、ステアリン酸亜鉛からなる被覆がステアリン酸中に溶解し、結果として、アセチルアセトンカルシウムの一部がアセチルアセトンに分解するので、得られるロールシートとプレスシートはいずれも着色を生じたものとみられる。
【0100】
比較例9による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、表面に実質的に酸価をもたない多価アルコールのステアリン酸エステルからなる被覆を有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、前記組成物が含むステアリン酸によって大部分がアセチルアセトンに分解されたものとみられる。かくして、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0101】
比較例10による表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、実質的に酸価をもたないステアリン酸亜鉛からなる被覆を表面に有せしめたものである。このような表面被覆アセチルアセトンカルシウムは、前記組成物と共に加熱粒状化して、粒子状安定剤組成物とした際に、加熱下において、上記被覆がステアリン酸によって溶解除去されるので、アセチルアセトンカルシウムは容易にアセチルアセトンに分解し、かくして、安定剤としての機能が劣化したものとみられ、従って、このようにアセチルアセトンを含み、安定剤としての性能が劣化した安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートはいずれも、熱着色の著しいものであった。
【0102】
また、比較例1〜10による表面被覆アセチルアセトン金属塩を含む安定剤組成物のいずれにおいても、アセチルアセトン金属塩とステアリン酸との反応によって生成した遊離アセチルアセトンの刺激臭が確認された。
【0103】
評価方法2(単純混合による経時変化試験)
上記実施例及び比較例において得られた表面被覆アセチルアセトン金属塩(試料)0.5Kgと前記組成物の4.4Kgを20L容量のコニカルミキサーに投入し、室温(30℃)にて混合して、混合物としての安定剤組成物を得た。
【0104】
上記安定剤組成物をその製造の直後にその一部の2重量部をとり、これを塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に加え、得られた塩化ビニル系樹脂組成物を180℃で8インチロールにて5分間混練してシートを得た。このロールシートについて、上記安定剤組成物による着色防止効果を目視で評価した。更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得、このプレスシートについても、上記安定剤組成物による着色防止効果を目視で評価した。
【0105】
また、上記安定剤組成物の一部をポリエチレン袋に入れ、30℃で1か月間保管した後、その2重量部をとり、これを塩化ビニル樹脂(信越化学工業(株)製TK−1000)100重量部に加え、得られた塩化ビニル系樹脂組成物を180℃で8インチロールにて5分間混練してシートを得た。このロールシートについて、上記安定剤組成物による着色防止効果を目視で評価した。更に、上記ロールシートを190℃で5分間プレスしてプレスシートを得た。このプレスシートについても、上記安定剤組成物による着色防止効果を目視で評価した。
【0106】
結果を表4及び表5に示す。製造直後の安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートの着色はそれぞれロールシートの着色(1)とプレスシートの着色(1)として示し、製造後、30℃で1か月間保管した安定剤組成物を配合した塩化ビニル系樹脂組成物から得られたロールシートとプレスシートの着色はそれぞれロールシートの着色(2)とプレスシートの着色(2)として示す。シートの着色の評価の基準は前記と同じである。
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
実施例1〜7及び実施例9による製造直後及び製造後1か月保管した後の安定剤組成物を含む塩化ビニル系樹脂組成物配合物はいずれも、熱着色なしにロールシートとプレスシートを与えた。実施例8による安定剤組成物安定剤は、製造直後と製造後1か月保管した後のものもいずれも、前述した理由によって、やや着色したロールシートとプレスシートを与えたが、熱着色の程度はいずれも、実用上、許容し得る範囲内である。
【0110】
しかし、比較例1〜10による安定剤組成物は、製造直後と製造後1か月保管した後のものもいずれも、著しく熱着色したロールシートとプレスシートを与えた。