特許第6686588号(P6686588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686588
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】非接触式歪測定装置及び冷却処理設備
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20200413BHJP
   G01B 21/32 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   G01B11/16 Z
   G01B21/32
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-56099(P2016-56099)
(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公開番号】特開2017-172998(P2017-172998A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(72)【発明者】
【氏名】宇野 聡
(72)【発明者】
【氏名】清水 崇行
【審査官】 仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−262517(JP,A)
【文献】 特開2009−255118(JP,A)
【文献】 特開2006−315294(JP,A)
【文献】 特開2004−219223(JP,A)
【文献】 特開昭59−6327(JP,A)
【文献】 特開2002−90124(JP,A)
【文献】 特開2012−82239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
21/00−21/32
B22D 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の変位を検出する非接触式のセンサと、
箱状を成し、内部に前記センサを位置固定状態にて収容し、該センサと一体で位置移動する熱遮蔽体と、
3次元方向に位置移動可能であり、先端部に前記熱遮蔽体を保持する可動アームと、を備え、
前記熱遮蔽体には前記内部に冷却用ガスを導入する導入口が設けられ
前記可動アームは、前記センサが前記対象物の変位を検出可能な位置に、前記熱遮蔽体を移動させることを特徴とする非接触式歪測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記センサがレーザ式の変位検出センサであって、照射されるレーザ光が波長350〜450nmの青色レーザ光であることを特徴とする非接触式歪測定装置。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、変位検出の際、前記対象物と前記センサとの間に位置する前記熱遮蔽体の第1の壁面に、水冷機構部が設けられていることを特徴とする非接触式歪測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記対象物が金型であることを特徴とする非接触式歪測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記可動アームが前記熱遮蔽体を回転させることを特徴とする非接触式歪測定装置。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載の非接触式歪測定装置と、
前記対象物の表面の温度分布を検知する温度検知手段と、
吐出口から冷却用ガスを吐出させて前記対象物の表面を冷却する冷却手段と、を備え、
3次元方向に位置移動な可動アームの先端部に、前記熱遮蔽体が回転可能に取り付けられ、
更に、変位検出の際に前記対象物と前記センサとの間に位置する前記熱遮蔽体の第1の壁面とは異なる第2の壁面から、前記冷却用ガスが吐出されるように、前記冷却手段の吐出口が形成されており、前記先端部の回転動作により前記熱遮蔽体の前記第1の壁面と前記第2の壁面とが交互に前記対象物の表面に対して対向可能とされていることを特徴とする冷却処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱された対象物を高温状態で歪み測定可能な非接触式歪測定装置及びこれを備えた冷却処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼入れ時の冷却手法の一つとして、加熱室で焼入れ温度まで加熱された金型を加熱室から出してそのまま油冷槽内に入れて焼入れする方法が知られている。
しかしながら、大型の金型において高温状態にある金型にこのような急速冷却を直接行うと、各部位の間で、例えば金型の角部と中央部との間で大きな温度差が生じ、熱応力にて金型が大きく歪んだり割れたりしてしまう。
【0003】
このような熱処理時に発生する金型の歪みは、特に600℃以上の高温時における冷却条件による影響が大きいため、焼入れ時の冷却処理の途中で、高温状態にある金型の歪み度合いが確認できることが望ましい。
しかしながら高温状態の金型に接近すればその放射熱により測定装置の破損や劣化が生じ易く、一方で測定対象の金型から離れた状態にあっては測定精度が悪化してしまう。
また、焼入れ時の冷却処理の途中で測定することを考慮すれば、高温の金型は時間とともに温度変化(温度低下)してしまうため、歪み測定は短時間で行う必要がある。
【0004】
尚、下記特許文献1では、角錐の頂部を切り落としたメガフォン形状のセンサフードの内部に非接触式のセンサを収容するとともに、センサフードの上下及び左右方向に延びる形態で防熱カーテンを配置し、熱処理中の高温材料の形状測定を可能とした形状測定装置が開示されている。
しかしながらこの特許文献1に記載のものは、センサフードの先端部に開口が形成されており、センサと測定対象の高温材料との間に放射熱を遮蔽する壁が無い。このため、センサを対象物に接近させて形状測定を行うのが難しく、測定精度の向上に限界があった。
また測定ポイントを移動させる際にセンサ及びセンサフードの移動と連動させて周囲に配された防熱カーテンの巻き取り及び引き出しを行なわなければならず、測定ポイントの数が多いと移動に要する時間が長くなってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−219223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、加熱された高温状態での金型等の対象物の歪み量を、短時間で精度良く測定することが可能な非接触式歪測定装置及び冷却処理設備を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して請求項1は非接触式歪測定装置に関するのもので、対象物の変位を検出する非接触式のセンサと、箱状を成し、内部に前記センサを位置固定状態にて収容し、該センサと一体で位置移動する熱遮蔽体と、3次元方向に位置移動可能であり、先端部に前記熱遮蔽体を保持する可動アームと、を備え、前記熱遮蔽体には前記内部に冷却用ガスを導入する導入口が設けられ、前記可動アームは、前記センサが前記対象物の変位を検出可能な位置に、前記熱遮蔽体を移動させることを特徴とする。
【0009】
請求項のものは、請求項1において、前記センサがレーザ式の変位検出センサであって、照射されるレーザ光が波長350〜450nmの青色レーザ光であることを特徴とする。
【0010】
請求項のものは、請求項1,2の何れかにおいて、変位検出の際、前記対象物と前記センサとの間に位置する前記熱遮蔽体の第1の壁面に、水冷機構部が設けられていることを特徴とする。
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記対象物が金型であることを特徴とする。
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記可動アームが前記熱遮蔽体を回転させることを特徴とする。
【0011】
請求項は冷却処理設備に関するのもので、請求項1〜4の何れかに記載の非接触式歪測定装置と、前記対象物の表面の温度分布を検知する温度検知手段と、吐出口から冷却用ガスを吐出させて前記対象物の表面を冷却する冷却手段と、を備え、3次元方向に位置移動な可動アームの先端部に、前記熱遮蔽体が回転可能に取り付けられ、更に、変位検出の際に前記対象物と前記センサとの間に位置する前記熱遮蔽体の第1の壁面とは異なる第2の壁面から、前記冷却用ガスが吐出されるように、前記冷却手段の吐出口が形成されており、前記先端部の回転動作により前記熱遮蔽体の前記第1の壁面と前記第2の壁面とが交互に前記対象物の表面に対して対向可能とされていることを特徴とする。
【0012】
以上のように本発明の非接触式歪測定装置は、対象物の変位を検出する非接触式のセンサと、箱状を成し、内部にセンサを位置固定状態にて収容し、センサと一体で位置移動する熱遮蔽体と、を備えたものである。
かかる本発明の非接触式歪測定装置によれば、センサが熱遮蔽体に位置固定され、センサと熱遮蔽体とが一体構造をなしているため、従来の熱遮蔽部を備えた形状測定装置のように、センサ移動の際にこれと連動して熱遮蔽部を移動又は変形させる機構を別途設けておく必要がなく。本発明によれば、センサと、熱遮蔽手段としての箱状の熱遮蔽体と、の両方を1つの移動手段で同時に位置移動させることが可能となるため、従来の形状測定装置と比較して高速で位置移動させることが可能である。
また本発明は、センサを箱状の熱遮蔽体の内部に収容するとともに、熱遮蔽体に冷却用ガスの導入口を設けたもので、本発明ではこの熱遮蔽体により、高温状態の対象物から発せられる放射熱からセンサを保護するとともに、内部に導入する冷却用ガスにより熱遮蔽体及びセンサの温度が上昇するのを防止することができるため、従来の形状測定装置に比べ、より高温の対象物に接近することが可能となり、測定精度を高めた状態で歪み量の測定を行うことができる。
【0013】
本発明ではまた、変位検出の際、対象物とセンサとの間に位置する熱遮蔽体の第1の壁面に水冷機構部を設けておくことができる。変位検出の際、対象物とセンサとの間に位置する熱遮蔽体の第1の壁面は高温の対象物から放射熱を最も強く受けるため、この第1の壁面に水冷機構部を設けて、第1の壁面の温度上昇を抑制することが内部のセンサの温度上昇の防止に有効である。
【0014】
本発明ではまた、センサをレーザ式の変位検出センサとして、照射されるレーザ光を波長350〜450nmの青色レーザ光とすることができる。焼入れ温度まで加熱された高温状態の対象物表面の歪み量を測定する際に、センサから照射されるレーザ光が赤色だと、対象物自体の赤熱の影響を受け易く、測定精度悪化の要因となる。これに対し波長が350〜450nmの青色レーザ光を用いることで測定対象物自体の赤熱の影響を排除して精度良く歪み量を測定することが可能である。
【0015】
発明では、3次元方向に位置移動可能な可動アームの先端部に熱遮蔽体を保持されておく。本発明では、対象物の歪み量を精度良く測定するためセンサを対象物に接近させる必要がある。しかしながら焼入れ温度まで加熱された対象物は、1000℃又はそれ以上の高温となる場合もある。そこで本発明に従って可動アームの先端部に熱遮蔽体を保持させた構成としておけば、極めて高温となる対象物に接近する部位を可動アームの先端部及びそこに取り付けられた熱遮蔽体に限定することができ、十分な耐熱性を備えていない駆動機構等を対象物から離した配置とすることができる。
【0016】
次に本発明の冷却処理設備、本発明の非接触式歪測定装置に加えて、更に対象物の表面の温度分布を検知する温度検知手段と、吐出口から冷却用ガスを吐出させて対象物の表面を冷却する冷却手段と、を備えて、検知した対象物の表面の温度分布に基づいて対象物の特定部位に対して冷却用ガスを吐出させて局所冷却する機能を備えたものである。
更に本発明の冷却処理設備では、3次元方向に位置移動な可動アームの先端部に、熱遮蔽体を回転可能に取り付けるとともに、変位検出の際に対象物とセンサとの間に位置する熱遮蔽体の第1の壁面とは異なる第2の壁面から、冷却用ガスが吐出されるように、冷却手段の吐出口を形成したことを特徴としたもので、先端部の回転動作により、熱遮蔽体の第1の壁面を対象物の表面に対向させて行う歪み測定動作と、熱遮蔽体の第2の壁面を対象物の表面に対向させて行う局所冷却動作と、を切り替えて実施することができる。
この本発明の冷却処理設備によれば、先端部の回転動作により簡便に歪み測定動作と、局所冷却動作とを切り替えることができるため、焼入れ時の冷却過程において対象物の歪み度合いを簡便に短時間で確認するのに好適である。
【発明の効果】
【0017】
以上のような本発明によれば、加熱された高温状態での金型等の対象物の歪み量を短時間で精度良く測定することが可能な非接触式歪測定装置及び冷却処理設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の冷却処理設備の全体構成を示した図である。
図2図1の可動アームの先端部を拡大して示した図である。
図3図2の可動アームの先端部を回転させた場合の前後の状態を示した図である。
図4】歪み測定に用いるレーザ光の色と、測定精度との関係を示した図である。
図5】同実施形態の冷却動作を説明するための図である。
図6】冷却速度と、金型の焼入れ状態及び最大歪み量の関係を示した図である。
図7】冷却処理途中に行う歪み量測定の結果の一例を示した図である。
図8】本発明の他の実施形態の要部を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。図1は、本実施形態の冷却処理設備10の全体構成を示した図である。図1において、12は被処理物としての金型で、図示を省略した加熱室にて焼入れ温度にまで加熱された後にクレーン等によってセット治具14上に載置される。20は後述する局所冷却用のノズル22が取り付けられたロボット、24は金型12の前方に位置し、金型12表面の温度分布を検知する温度検知手段としての赤外線カメラである。
またこの冷却処理設備10では、図1(A)中左側に圧縮エアを生成・貯留するための一連の装置であるコンプレッサ26、ドライヤ27、エアタンク28を有している。更にこの冷却処理設備10では、設備の動作制御を行う制御部30を有している。
【0020】
金型12は、工具鋼(SKD61)から成り、幅600mm×高さ600mm×厚み150mmで、凹凸を有する意匠面12aと、この意匠面12aとは反対側に位置する平坦な背面12bを備えており、本例では背面12bを前方(ロボット20及び赤外線カメラ24が配されている側)に向けた状態で、金型12がセット治具14上に載置されている。
尚、金型12に用いられる鋼種は特に限定されるものではなく、焼入れ性に優れた特殊鋼を適宜採用することが可能である。また金型のサイズについても特に限定されるものではないが、焼入れ時の冷却過程で温度差(冷却速度のばらつき)が生じ易い重量150kg以上のものにおいて、本発明は特に有効である。
【0021】
赤外線カメラ24は、金型12の背面12b全体が検知範囲に含まれるようにその位置が設定されており、金型12の(詳しくは背面12bの)表面の温度分布を検知するとともに、金型12表面の最高温度部位を特定し、且つ、最高温度部位の温度を検知する。そして赤外線カメラ24による温度検知の結果は制御部30へと送られる。制御部30は、その検知結果に基づいて金型12に対する冷却条件を制御する。
【0022】
ロボット20は、架台32上に固定された基部34と、そこから延びる可動アーム36とを有している。可動アーム36は回転又は屈曲する複数の関節部を有し、可動アーム36の先端部38は図1中2点鎖線で示す可動範囲内を上下、左右、及び前後方向に、即ち3次元方向に移動可能とされている。そしてその先端部38には金型12を局所冷却するためのノズル22が取り付けられている。
尚、焼入れ温度にまで加熱された直後の金型12は非常に高温となる。本例では金型12からの放射熱の影響がロボット20全体に及ぶのを防止するため、金型12の正面からずれた位置にロボット20が設置されている。
【0023】
図2は可動アーム36の先端部38を拡大して示した図である。同図で示すように先端部38は、関節軸Pを中心に可動アーム36の根元側に対し回転可能に連結されている。
そして先端部38の、関節軸Pとは反対側に位置する取付部材40には、箱状の熱遮蔽体42が取付ボルト44により取付固定されている。
【0024】
熱遮蔽体42は、可動アーム36側の取付部材40に直接固定される板状の被固定部42aと、この被固定部42aに直交する状態で固定されている平板状の基体42bと、基体42b上の一方の面を覆うように基体42bに固定された蓋体42cと、を備え、全体として上下、左右、及び前後の各方向に熱遮蔽用の壁が形成された箱形状を成している。熱遮蔽体42は、金型12から可動アーム36の先端部38に向かって放射される熱を遮蔽して、内部に収納されているセンサ等を保護する。
【0025】
46は、金型12の表面の歪みを測定するために用いるレーザ式の変位検出センサで、熱遮蔽体42の内部に収納された状態で、断面T字状のブラケット47を介して基体42bの内面に固定されている。図2(A)及び(B)で示すように、センサ46は、関節軸Pから最も離間した(図中左側の)位置、即ち金型12の表面に対して最も接近可能な位置にある熱遮蔽体42の第1の壁面48の近傍に配設されている。第1の壁面48には開口51が形成され、そこに耐熱ガラス52が嵌め込まれており、センサ46の発光部46aから発せらせた変位検出用のレーザ光は開口51を通じて外部に向けて出射され、対象物である金型12表面にて反射した後、同じく開口51を通じて、受光部46bにて受光される。受光された反射光は受光部46b内の光位置検出素子上で結像され、その結像位置に基づいて、金型12表面までの高さ方向の変位量が計測される。
本例ではセンサ46、熱遮蔽体42及びこれらを移動可能に保持している可動アーム36により非接触式の歪測定装置11が構成されている。
【0026】
本例では、センサ46を用いて、焼入れ温度まで加熱された高温状態の金型12の表面の変位量(歪み量)を測定するため、センサ46から出射されるレーザ光が赤色だと、金型12自体の赤熱の影響を受け易い。従って本例のセンサ46では、波長が350〜450nmの青色レーザ光を用いている。
【0027】
図4は、レーザ式変位センサ46から出射されるレーザ光が赤色の場合(同図(B))及び青色(波長が350〜450nm)の場合(同図(C))での測定精度を示した図である。これら図4(B)及び(C)で示した測定結果は、図4(A)で示す300mm×300mm×300mmのブロック13の中心付近に10mm×10mm×高さ1mmの段差を作成し、このブロック13を800℃に加熱した状態でその段差を測定した結果である。詳しくはこの1mmの段差を10回測定し、10回の平均値及び平均値との差が一番大きい測定値を誤差棒としてプロットしたものである。測定はブロック13とセンサ46との測定距離を逐次変化させながら行っている。
【0028】
図4(B)で示すように赤色レーザの場合、ブロック13の赤熱の影響を受け、1mmの段差をまともに測定することができない。一方、青色レーザの場合は、図4(C)で示すように測定距離(ブロック13とセンサ46との距離)が近いほど正確に段差を測定できている。金型の歪み測定では、繰り返し精度0.2mm以内であることが必要とされる。図4で示した結果によれば青色レーザであれば測定距離を500mm以下とすることで、繰り返し精度0.2mm以内、即ち段差1mmに対し、±0.1mmの誤差範囲以内で測定することが可能であることが分かる。
【0029】
但し金型12は非常な高温であるため、測定距離(図3(A)のL)を500mm以下とすると熱遮蔽体42内部のセンサ46の温度が動作保証範囲を超える場合がある。このため本例では、図2で示すように熱遮蔽体42の被固定部42aに、熱遮蔽体42の内部に冷却用の圧縮エアを導入するための導入口54が設けられている。この導入口54を通じて、図示を省略する流量調節バルブを介してエアタンク28と連結された配管55の先端が、熱遮蔽体42の内部に挿入されており、本例では制御部30の制御に基づいて導入口54からエアタンク28内の圧縮エアが熱遮蔽体42の内部に供給される。尚、基体42bには排気口58が外部と連通する状態で形成されており、熱遮蔽体42の内部に導入された圧縮エアは排気口58を通じて外部に排出される。
このように本例では、圧縮エアが熱遮蔽体42の内部を流通する構成とすることで、センサ46が高温(具体的には50℃以上)になるのを防止している。尚、後述するように歪み測定の際にセンサ46と金型12との間に位置して遮熱を行う第1の壁面48に水冷機構部を設けることで、センサ46が高温になるのを防止することも可能である。
【0030】
一方、金型12を局所冷却するためのノズル22は、図2(A)で示すように熱遮蔽体42の被固定部42aの内側にブラケット60を介して取付固定されており、その先端の吐出口22aは、熱遮蔽体42内のセンサ46が近接配置されている第1の壁面48とは異なる第2の壁面49から外方に向けて突出している。
このノズル22は、図示を省略する流量調節バルブを介してエアタンク28と連結されており、制御部30の制御に基づいてノズル22の吐出口22aからは、金型12を局所冷却のための冷却用ガスとして、圧縮エアが吐出される。
【0031】
以上のように本例では、熱遮蔽体42の第1の壁面48とは異なる第2の壁面49から、冷却用ガスが吐出されるようにノズル22の吐出口22aが設けられており、先端部38を関節軸P周りに回転させることで、歪み測定と局所冷却との切替を行なう。即ち、金型12の歪み測定を行う場合には図3(A)で示すように、熱遮蔽体42の第1の壁面48を金型12の表面に対向させる。また金型12の局所冷却を行う場合には図3(B)で示すように熱遮蔽体42の第2の壁面49を金型12の表面に対向させる。
【0032】
以下に本実施形態の冷却処理設備10を用いて冷却処理を行った場合の動作を具体的に説明する。尚、この例では、SKD61から成り、幅600mm×高さ600mm×厚み150mmの金型12における最高温度部位、即ち最遅冷却部位での冷却速度が10℃/minとなるように冷却処理を行うものとする。
図1で示すように先ず、金型12は図示を省略した加熱室にて焼入れ温度にまで加熱された後にクレーン等によってセット治具14上に載置される。
そして金型12は大気中で放冷される。これとともに赤外線カメラ24が金型12表面の温度分布を検知する。そしてその温度分布の検知結果に基づいて金型12表面の最高温度部位が特定される。制御部30は最高温度部位の位置情報(X,Y座標)をロボット20に出力する。
【0033】
ロボット20は、図3(B)で示すように、可動アーム36の先端部38に取り付けられたノズル22の吐出口22aを、特定された最高温度部位のポイントGに位置移動させる。そして最高温度部位のポイントGの上方Lの距離(ここでは300mm)から冷却用の圧縮エアを最高温度部位に向けて吹き付け、最高温度部位(若しくは最高温度部位及びその周辺部)を局所的に冷却する。
【0034】
この例では、最高温度部位が600℃になるまでこの冷却動作を継続させる。図5の1点鎖線で示すように、制御部30は、冷却動作を開始してからの予定表面温度の推移、即ち冷却速度(本例では10℃/min)が予め設定されており、赤外線カメラ24の監視により随時特定される最高温度部位にノズル22の吐出口22aを位置移動させながら、その最高温度部位での検知温度と予定表面温度との差分に基づいて、冷却条件を制御する。
詳しくは、最高温度部位の検知温度が図5に示した予定表面温度を上回っている場合には局部冷却用の圧縮エアの量を増加させ、検知温度が予定表面温度を下回っている場合には局部冷却用の圧縮エアの量を減少させる。このようにすることで冷却処理の対象となった背面12bにおける最高温度部位を、予定していた冷却速度若しくはこれに近似する冷却速度で冷却することができる。
尚、最高温度部位の検知温度が600℃を下回った以降についても予め設定された予定表面温度の推移と一致するように引き続き冷却処理を行うことも可能である。また場合によっては最高温度部位の検知温度が600℃以下の所定温度となった時点で、油冷に切り替えて引き続き冷却処理を行うことも可能である。
【0035】
図6は金型模擬試験片のブロック(SKD61、幅600mm×高さ600mm×厚み150mm)を用いて、1000℃〜500℃の間、図5で示すように一定の冷却速度となるように最高温度部位の局所冷却を行い、冷却処理完了後に模擬試験片の焼入れ状態及び最大歪みについて評価した結果を示した図である。尚、冷却ガスは大気を使用し、ノズル吐出口の高さLは金型表面から300mmとした。
【0036】
ここで焼入れ状態については、冷却処理完了後に模擬試験片の表面の所定箇所における硬度を調査して所定硬度(HRC48以上)が得られているか否かで評価した。
最大歪みについては、冷却処理完了後に模擬試験片の表面の、周辺部2箇所及び中央部1箇所の所定位置について高さ方向の変位を測定し、周辺部両端を結んだ線を基準線とした場合の高さ方向の変位量を最大歪み量として評価した。
【0037】
同図によれば、冷却速度が9℃/min未満だと焼入れ不良が生じている。一方、冷却速度9℃/min以上であれば正常な焼入れが行われているが、冷却速度が速くなると最大歪み量が大きくなっている。この結果から金型模擬試験片における好適な冷却速度、即ち焼入れ不良が生じることなく且つ最大歪み量0.05mm以内となるような冷却速度は9〜15℃/minであることが分かる。本例では、このようにして得られた好適な冷却速度を基に、予め制御部30に予定表面温度の推移を設定して、最高温度部位の検知温度がかかる予定表面温度の推移と一致するように冷却条件の制御を行うことで、焼入れ不良及び歪みの発生を良好に防止することが可能である。
【0038】
また本実施形態の冷却処理設備では、冷却処理中に局所冷却を行なっている面の歪み度合いを確認することが可能である。
本例では、熱遮蔽体42の、変位検出用のレーザ光を出射させる第1の壁面48とは90°異なる第2の壁面49から局所冷却用の圧縮エアが吐出されるように、ノズル22の吐出口22aが設けられており、先端部38を関節軸P周りに90°回転させることで、局所冷却を行う状態と歪み量を測定する状態とを切替ることができる。
【0039】
歪み量を測定する場合、図3(A)に示す熱遮蔽体42の第1の壁面48を、測定対象物である金型12の表面に対して対向させた状態で、歪み量を測定したいポイント(X、Y座標)までセンサ46を移動させ、金型12表面上の指定された測定ポイントにおいて、金型12表面までの距離を測定する。そしてセンサ46の位置情報及びセンサ46で測定した金型12表面までの距離情報に基づいて、金型12の表面の高さ方向の変位、即ち歪み量を測定することができる。図7は冷却処理途中の800℃の時点で、センサ46を金型12の背面12bに沿って水平方向に移動させ、直線上に位置する複数の測定ポイントについて変位を検出した結果を示した図である。
【0040】
このように本例では、冷却処理中に、金型表面の温度分布情報に加えて、金型表面の歪みの状態を検出することができるため、歪みの状態に応じて冷却条件を変更することも可能である。尚、歪み量測定中は局所冷却が中断されることになるが、本例では局所冷却状態と歪み量測定状態とを短時間で切替ることができるので、冷却処理途中に歪み量測定を行うことで局所冷却が中断される時間帯を短くすることができる。
【0041】
以上のような本実施形態の歪測定装置11は、センサ46が熱遮蔽体42に位置固定され、センサ46と熱遮蔽体42とが一体構造をなしているため、これらを可動アーム36で同時に位置移動させることができ、移動動作の高速化を図ることができる。
また本実施形態では、箱状の熱遮蔽体42により、高温状態の金型12から発せられる放射熱からセンサ46を保護するとともに、内部に導入する冷却用ガスにより熱遮蔽体42及びセンサ46の温度が上昇するのを防止することができるため、従来の形状測定装置に比べて高温の金型12に対してより接近することが可能となり、測定精度を高めた状態で歪み量の測定を行うことができる。
【0042】
本実施形態ではまた、センサ46をレーザ式の変位検出センサとして、照射されるレーザ光を波長350〜450nmの青色レーザ光としているため、高温の金型12の歪み量を測定する場合であっても金型12自体の赤熱の影響を排除して精度良く歪み量を測定することが可能である。
【0043】
また本実施形態では、3次元方向に位置移動可能な可動アーム36の先端部38に熱遮蔽体42を保持させた構成とすることで、極めて高温となる金型12に接近する部位を可動アーム36の先端部38及びそこに取り付けられた熱遮蔽体42に限定することができ、十分な耐熱性を備えていないロボット20の駆動機構等を金型12から離した配置とすることができる。
【0044】
また本実施形態の冷却処理装置10は、歪測定装置11に加えて、更に金型12の表面の温度分布を検知する赤外線センサ24と、吐出口22aから冷却用ガスを吐出させて金型12の表面を冷却するノズル22と、を備えて、検知した金型12の表面の温度分布に基づいて金型12の特定部位に対して冷却用ガスを吐出させて局所冷却する機能を備えている。
更に冷却処理装置10では、3次元方向に位置移動な可動アーム36の先端部38の回転動作により、熱遮蔽体42の第1の壁面48を金型12の表面に対向させて行う歪み測定動作と、熱遮蔽体の第2の壁面49を金型12の表面に対向させて行う局所冷却動作と、を切り替えて実施することができるため、焼入れ時の冷却過程において金型12の歪み度合いを簡便に短時間で確認することができる。
【0045】
図8は、本発明の他の実施形態の要部を拡大して示した図である。
この実施形態は、変位検出の際に金型12とセンサ46との間に位置する熱遮蔽体42の第1の壁面48に水冷機構部64を設けたものである。
水冷機構部64は、第1の壁面48に接して取り付けられ、内部に冷却水を流通させる本体部65と、冷却水を本体部65の内部に導入する導入管66と、冷却水を本体部65の内部から排出する排出管67とを備えている。尚、69及び70はセンサ46から発せられたレーザ光及び金型表面で反射した反射光を通過させるための開口である。
変位検出の際、金型12とセンサ46との間に位置する熱遮蔽体42の第1の壁面48は高温の金型12から放射熱を最も強く受けるため、この第1の壁面48に水冷機構部64を設けて、第1の壁面48の温度上昇を抑制することで内部に収容されているセンサ46の温度上昇を防止することができる。
【0046】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 冷却処理設備
11 歪測定装置
12 金型(対象物)
20 ロボット
22 ノズル(冷却手段)
22a 吐出口
24 赤外線カメラ(温度検知手段)
30 制御部
36 可動アーム
38 先端部
42 熱遮蔽体
46 変位検出センサ
48 第1の壁面
49 第2の壁面
54 導入口
64 水冷機構部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8