特許第6686730号(P6686730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6686730-導電酸化物膜および導電積層膜 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686730
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】導電酸化物膜および導電積層膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20200413BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20200413BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20200413BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C23C14/08 K
   C23C14/08 N
   B32B15/04 Z
   H01B5/14 A
   B32B9/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-123918(P2016-123918)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-226881(P2017-226881A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】歳森 悠人
(72)【発明者】
【氏名】張 守斌
(72)【発明者】
【氏名】塩野 一郎
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−250430(JP,A)
【文献】 特開2010−185127(JP,A)
【文献】 特開2008−231445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B32B 1/00−43/00
H01B 5/00−5/16
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全金属成分元素量に対して、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上を合計で1.0原子%以上16.0原子%以下の量、Snを5.0原子%以上30.0原子%以下の量にて含み、残部がZn及び不可避不純物とされた酸化物からなり、非晶質であることを特徴とする導電酸化物膜。
【請求項2】
さらに、全金属成分元素量に対して、AlとGaのうちの少なくとも1種又は2種を合計で20原子%以下の量にて含有する請求項1に記載の導電酸化物膜。
【請求項3】
Ag又はAg合金からなる金属膜と、この金属膜の片面又は両面に形成された導電酸化物膜と、を備えた導電積層膜であって、
前記導電酸化物膜が、請求項1または請求項2に記載の導電酸化物膜であることを特徴とする導電積層膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電酸化物膜と、その導電酸化物膜と金属膜とを備えた導電積層膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、タッチパネルや太陽電池、有機ELデバイス等の電子デバイスの配線の材料として利用されている。透明導電膜として、Ag又はAg合金からなる金属膜と、この金属膜の片面又は両面に形成された酸化物膜とを備えた導電積層膜が知られている。
【0003】
特許文献1には、Agを含む金属膜と、この金属膜との両面に設けられた非晶質のZn−Sn−O系酸化物膜を含み、Snの含有量が、SnとZnの総和に対して10〜90原子%である透明導電膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4961786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導電膜からなる配線パターンを成形する方法としては、ウエットエッチングが広く利用されている。ウエットエッチングとは、導電膜を所定パターンのマスキング部で保護し、マスキング部で保護されていない導電膜をエッチング液(酸)で溶解し、その後マスキング部をアルカリ処理液で溶解剥離して配線パターンを形成する方法である。このウエットエッチングによって導電積層膜の配線パターンを形成する場合、金属膜と導電酸化物膜とは同じエッチング液を用いて一括して処理できることが好ましい。しかし、導電酸化物膜は、金属膜と比較して一般にエッチング液に溶解しにくい傾向がある。
【0006】
一方、最近では、タッチパネルや太陽電池、有機ELデバイス等の電子デバイスにおいては、配線パターンの微細化(幅狭化)が図られている。このため、マスキング部をアルカリ処理液で溶解剥離する際に導電膜が溶解しないように、導電膜にはより高い耐アルカリ性が求められる。
しかしながら、特許文献1に記載されている透明導電膜では、酸によるエッチング性と耐アルカリ性とをバランスよく向上させることは難しい。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、耐アルカリ性、酸によるエッチング性、そして耐湿性に優れた導電酸化物膜と、この導電酸化物膜と金属膜と含み、ウエットエッチングによって導電酸化物膜と金属膜とを一括して処理できる積層膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の導電酸化物膜は、全金属成分元素量に対して、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上を合計で1.0原子%以上20.0原子%以下の量、Snを5.0原子%以上30.0原子%以下の量にて含み、残部がZn及び不可避不純物とされた酸化物からなり、非晶質であることを特徴としている。
【0009】
本発明の導電酸化物膜は、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上を合計で1.0原子%以上の量にて含むとされているので、酸によるエッチング性を低下させずに、耐アルカリ性を向上させることができる。また、Y,La,Nd,Biの合計含有量が、20.0原子%以下とされているので、導電性を確保することができる。
【0010】
さらに、Snを5.0原子%以上の量にて含むので、耐湿性に優れたものとなる。また、Snの含有量が30.0原子%以下とされているので、酸によるエッチング性に優れたものとなる。
【0011】
本発明の導電酸化物膜は、非晶質である。
この場合、導電酸化物膜には粒界が存在しないので、外気中の水が粒界を介して膜内部に侵入することがない。このため、耐湿性に優れたものとなると考えられる。
【0012】
本発明の導電酸化物膜においては、全金属成分元素量に対して、AlとGaのうちの少なくとも1種又は2種を合計で10原子%以下の量にて含有していてもよい。
この場合、AlとGaは酸化亜鉛のドーパントとして作用するので、導電酸化物膜の導電性が向上する。また、AlとGaの含有量が10原子%以下とされているので、導電酸化物膜が結晶膜となることを抑制できる。
【0013】
本発明の導電積層膜は、Ag又はAg合金からなる金属膜と、この金属膜の片面又は両面に形成された導電酸化物膜と、を備えた導電積層膜であって、前記導電酸化物膜が、上記本発明の導電酸化物膜であることを特徴とする。
【0014】
本発明の導電酸化物膜によれば、導電酸化物膜として、上記本発明の導電酸化物膜を用いるので、比抵抗が低く、酸によるエッチング性、耐アルカリ性および耐湿性が優れたものとなる。また、導電酸化物膜の酸によるエッチング性が優れているので、金属膜と導電酸化物膜とは同じエッチング液を用いて一括して処理できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐アルカリ性、酸によるエッチング性、そして耐湿性に優れた導電酸化物膜と、この導電酸化物膜と金属膜と含み、ウエットエッチングによって導電酸化物膜と金属膜とを一括して処理できる積層膜を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態である導電積層膜の断面説明図である。
図2】本発明の他の実施形態である導電積層膜の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態である導電酸化物膜および導電積層膜について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である導電積層膜の断面図である。本実施形態である導電積層膜10は、例えば液晶や有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイや、タッチパネル等の電子デバイスの配線膜として用いられるものである。
【0019】
本実施形態である導電積層膜10は、図1に示すように、基板21の上に成膜された金属膜11と、この金属膜11の上に成膜された導電酸化物膜12と、を備えている。
ここで、基板21は、特に限定されるものではないが、フラットパネルディスプレイやタッチパネル等においては、ガラス、樹脂フィルム等からなるものが用いられている。
【0020】
金属膜11は、AgまたはAg合金で構成されており、本実施形態では、Agの含有量が80原子%以上のAgまたはAg合金で構成されている。
また、金属膜11の厚さAは、5nm≦A≦500nmの範囲内に設定されている。
【0021】
導電酸化物膜12は、全金属成分元素量に対して、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上を合計で1.0原子%以上20.0原子%以下の量、Snを5.0原子%以上30.0原子%以下の量にて含み、残部がZn及び不可避不純物とされた酸化物からなる。導電酸化物膜12は非晶質膜であることが好ましい。また、導電酸化物膜12は、全金属成分元素量に対して、AlとGaのうちの少なくとも1種又は2種を合計で20原子%以下の量にて含有していてもよい。
導電酸化物膜12の厚さBは、5nm≦B≦100nmの範囲内に設定されている。
【0022】
以下に、本実施形態である導電積層膜10の導電酸化物膜12を構成する酸化物における金属成分元素の含有割合、導電酸化物膜12の結晶性、金属膜11のAg含有量及び厚さ、導電酸化物膜12の厚さを上述のように規定した理由について説明する。
【0023】
(Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上)
Y,La,Nd,Biといった元素は、導電酸化物膜12の耐アルカリ性を向上させる作用効果を有する元素であることから、これらの元素を添加することにより、エッチング工程で使用したマスキング部をアルカリ処理液で剥離する際に、導電酸化物膜12が劣化することを抑制できる。
ここで、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上の合計含有量が1.0原子%未満の場合には、導電酸化物膜12の耐アルカリ性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上の合計含有量が20.0原子%を超える場合には、導電酸化物膜12の電気抵抗が上昇し、導電性を確保できなくなるおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上の合計含有量を、1.0原子%以上20.0原子%以下の範囲内に設定している。なお、導電積層膜10(導電酸化物膜12)の耐アルカリ性を十分に確保するためには、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上の合計含有量の下限を2.0原子%以上とすることが好ましく、4.0原子%以上とすることがさらに好ましい。また、導電酸化物膜12の導電性を確実に維持するためには、Y,La,Nd,Biのうちの少なくとも1種又は2種以上の合計含有量の上限を16.0原子%以下とすることが好ましく、12.0原子%以下とすることがさらに好ましい。
【0024】
(Sn)
Snは、導電酸化物膜12のバリア性に寄与し、金属膜に対する保護性能を向上させることで熱湿環境下での導電積層膜の特性劣化の抑制に対して効果を及ぼす元素であり、また、上記元素群Y,La,Nd,Biとの相乗効果により導電酸化物膜12の耐アルカリ性を更に向上させる効果も有する。
ここで、Snの添加量が5.0原子%未満の場合には、導電積層膜10の熱湿環境下における特性劣化の抑制が十分にできなくなるおそれがあり、また導電酸化物膜12の耐アルカリ性を十分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、Snの添加量が30.0原子%を超える場合には、リン酸、硝酸、酢酸の混酸といったAg・Ag合金用のエッチング液によってエッチングができなくなり、積層膜が一括でエッチングできなくなるおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、Snの含有量を、5.0原子%以上30.0原子%以下の範囲内に設定している。なお、導電積層膜10の熱湿環境下での導電積層膜の特性劣化の抑制及び耐アルカリ性を十分に確保するためには、Snの添加量の下限を6.0原子%以上とすることが好ましく、8.0原子%以上とすることがさらに好ましい。また、導電積層膜を確実に一括でエッチングするためには、Snの添加量の上限を25.0原子%以下とすることが好ましく、20.0原子%以下とすることがさらに好ましい。
【0025】
(Al,Gaのうちの少なくとも1種又は2種)
Al及びGaは、酸化亜鉛(ZnO)のドーパントとして作用し、電気抵抗を下げる効果を有する元素であることから、これらの元素を添加することにより、導電酸化物膜12の導電性を確保することが可能となる。
ここでAl,Gaのうちの少なくとも1種又は2種の合計含有量が50原子%を超える場合には、導電酸化物膜12の結晶性が増加し、金属膜11との界面の均一性が低下し、導電積層膜10の耐環境性が低下してしまうおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、Al,Gaのうちの少なくとも1種又は2種の合計含有量を、20原子%以下の範囲内に設定している。なお、導電酸化物膜12の導電性を確実に向上させるためには、Al,Gaのうちの少なくとも1種又は2種の合計含有量の下限を0.1原子%以上とすることが好ましく、1.0原子%以上とすることがより好ましく、1.5原子%以上とすることがさらに好ましい。また、導電積層膜10の耐環境性をさらに向上させるためには、Al,Gaのうちの少なくとも1種又は2種の合計含有量の上限を5.0原子%以下とすることが好ましく、3.0原子%以下とすることがより好ましく、2.5原子%以下とすることがさらに好ましい。
【0026】
(導電酸化物膜12の結晶性)
結晶性は、導電酸化物膜12のバリア性に寄与し、金属膜に対する保護性能を向上させることで熱湿環境下での導電積層膜の特性劣化の抑制に対して効果を及ぼす。導電酸化物膜12が粒界を有する結晶膜であると、粒界が存在することになり、粒界を介して大気中の水や酸素などのガスが拡散浸入して、耐湿性が低下するおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、導電酸化物膜12は結晶を有しない非晶質膜であることが好ましい。
【0027】
(金属膜11の厚さ)
金属膜11の厚さAが5nm未満の場合には、導電積層膜10としての導電性を確保できなくなるおそれがある。一方、金属膜11の厚さAが500nmを超える場合には、金属膜11の表面粗さが粗くなり、導電酸化物膜12によって金属膜11を保護することが困難となり、耐環境性が低下するおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、金属膜11の厚さAを、5nm以上500nm以下の範囲内に規定している。なお、導電積層膜10における導電性を確実に確保するためには、金属膜11の厚さAの下限を8nm以上とすることが好ましく、20nm以上とすることがさらに好ましい。また、金属膜11の表面粗さを平滑として導電積層膜10の耐環境性を確実に向上させるためには、金属膜11の厚さAの上限を200nm以下とすることが好ましく、100nm以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
(導電酸化物膜12の厚さ)
導電酸化物膜12の厚さBが5nm未満の場合には、金属膜11を十分に保護することができず、耐環境性を確保できなくなるおそれがある。一方、導電酸化物膜12の厚さBが100nmを超える場合には、導電酸化物膜12のエッチング速度が遅いため、導電積層膜10を一括してエッチング処理して配線パターンを形成する際に、生産効率が低下してしまうおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、導電酸化物膜12の厚さBを、5nm以上100nm以下の範囲内に規定している。なお、導電積層膜10における耐環境性を確実に確保するためには、導電酸化物膜12の厚さBの下限を10nm以上とすることが好ましく、20nm以上とすることがさらに好ましい。また、導電積層膜10全体のエッチング速度を確保するためには、導電酸化物膜12の厚さBの上限を80nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがさらに好ましい。
【0029】
(導電積層膜10の成膜方法)
次に、本実施形態である導電積層膜10の製造方法について説明する。
まず、DC(直流)スパッタにより、基板21の上に金属膜11を成膜する。スパッタリングターゲットとしては、Ag又はAg合金からなるスパッタリングターゲットを用いることができる。
【0030】
金属膜11を成膜後、DC(直流)スパッタにより、金属膜11の上に導電酸化物膜12を成膜する。スパッタリングターゲットとしては、導電酸化物膜12と同様の組成の酸化物で構成されているものを用いることができる。
以上のようにして、導電積層膜10が形成される。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、金属膜の片面に導電酸化物膜を成膜した構造を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、金属膜の両面に酸化物を成膜したものであってもよい。具体的には、図2に示すように、金属膜111の一面側および他面側に、それぞれ導電酸化物膜112A,112Bを形成した導電積層膜110であってもよい。この場合、耐環境性をさらに向上させることができる。金属膜111の基板121側とは反対側の面(図2おいて上面)に形成された導電酸化物膜112Aは、膜厚が5nm以上100nm以下の範囲内にあることが好ましい。一方、金属膜111と基板121との間に形成された導電酸化物膜112Bは、膜厚が厚くなりすぎると、エッチング処理の際に導電酸化物膜112Bを溶解させるための時間が長くなり、金属膜111のオーバーエッチングが発生するおそれがある。このため、導電酸化物膜112Bの厚さは、5nm以上50nm以下の範囲内にあることが好ましい。なお、導電酸化物膜112Aと導電酸化物膜112Bとは、互いに異なる組成の酸化物で構成してもよい。
さらに、金属膜と導電酸化物膜とを4層以上、任意の数だけ積層してもよい。
【0032】
さらに、本実施形態では、金属膜におけるAg含有量を80原子%以上に規定したもので説明したが、これに限定されることはなく、導電積層膜に対する要求特性によっては、金属膜におけるAg含有量は80原子%未満であってもよい。
【0033】
また、本実施形態では、金属膜の厚さを5nm以上500nm以下、導電酸化物膜の厚さを5nm以上100nm以下に規定したものとして説明したが、これに限定されることはなく、導電積層膜に対する要求特性によっては、金属膜の厚さ及び導電酸化物膜の厚さが上述の範囲内から外れていてもよい。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0035】
(スパッタリングターゲット)
原料粉末として、酸化亜鉛(ZnO:純度99.9mass%、粒径D50=1μm)、酸化スズ(SnO:99.9mass%、粒径D50=16μm)、酸化イットリウム(Y:純度:99.9mass%、粒径D50=2μm)、酸化ランタン(La:純度99.99mass%、粒径D50=10μm)、酸化ネオジウム(Nd:99.9mass%、粒径D50=7μm)、酸化ビスマス(Bi:99.9mass%、粒径D50=21μm)、酸化アルミニウム(Al:純度99.9mass%、粒径D50=0.2μm)、酸化ガリウム(Ga:純度99.9mass%、粒径D50=2μm)の各粉末を準備し、スパッタリングターゲットの金属元素の含有割合が表1に記載のものとなるように、これらの酸化物を選択して秤量した。

【0036】
秤量した原料粉末を、質量比で原料粉末の3倍のジルコニアボールとともにポリ容器に装入し、ボールミル装置によって16時間湿式混合し、混合粉末を得た。このとき、溶媒としてアルコールを用いた。
得られた混合粉末を乾燥後に造粒し、保持温度900℃、保持時間3時間、圧力350kgf/cmの条件で真空雰囲気(5Pa以下)においてホットプレス(HP)を行い、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体を機械加工することにより、直径152.4mm×厚さ6mmとされた本発明例及び比較例のスパッタリングターゲットを製造した。なお、表1に示すスパッタリングターゲットの組成は、スパッタリングターゲットから採取した測定試料を用いてICP法によって測定した。ただし、本発明例3、6、12は、本発明の発明例ではなく、参考例である。
【0037】
【表1】
【0038】
(導電酸化物膜の組成)
本発明例及び比較例のスパッタリングターゲットを用いて、Si基板上に1000mmの厚さで導電酸化物膜を成膜した。導電酸化物膜は、マグネトロンスパッタ装置に、はんだ付けしたスパッタリングターゲットを取り付け、1×10−4Paまで排気した後、Arガス圧0.5Pa、直流電力密度2.0W/cm、ターゲット基板間距離60mmの条件で、DC(直流)スパッタを行って成膜した。
得られた導電酸化物膜をガラス基板から剥がし、これをICP分析することで、導電酸化物膜の組成を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0039】
(導電酸化物膜の結晶性)
本発明例及び比較例のスパッタリングターゲットを用いて、ガラス基板(無アルカリガラス:コーニング社製EagleXG)の上に、300mmの厚さで導電酸化物膜を成膜した。得られた導電酸化物膜について、X線回折パターンを測定した。測定したX線回折パターンにおいて、明確な回折ピークが見られたものを結晶膜とし、明確な回折ピークが見られなかったものを非結晶膜と評価した。その評価結果を表2に示す。
【0040】
(導電積層膜の形成)
ガラス基板(無アルカリガラス:コーニング社製EagleXG)の上に、導電酸化物膜45nm/Ag膜10nm/導電酸化物膜45nmの構造の導電積層膜を形成した。なお、導電酸化物膜及び金属膜の厚みは、断面TEM観察によって確認した。
【0041】
ここで、導電酸化物膜の成膜条件は、Arガス圧0.6Pa、直流電力密度2.0W/cm2、ターゲット基板間距離60mmの条件として、スパッタガスに酸素を1〜6体積%含有させた。
Ag膜の成膜条件は、Arガス圧0.6Pa、直流電力密度1.0W/cm、ターゲット基板間距離60mmの条件とした。
【0042】
得られた積層膜について、比抵抗、耐アルカリ性、酸によるエッチング性および耐湿性を以下のようにして評価した。
【0043】
(比抵抗)
三菱化学製抵抗測定器ロレスタGPを用いて、四探針法を用いて積層膜の膜抵抗を測定した。そして、下記の式により比抵抗値を算出した。評価結果を表に示す。
(積層膜の比抵抗値)=(積層膜のシート抵抗)×(積層膜の膜厚)
【0044】
(酸によるエッチング性)
導電積層膜を40℃に加熱した関東化学製エッチング液SEA−2:リン酸・硝酸・酢酸に浸漬し、エッチングを行った。目視観察によって導電積層膜の溶解の有無を確認した。さらに、浸漬後の導電積層膜の抵抗値及び光学特性を測定することで、導電積層膜の溶解の有無を確認した。
浸漬後3分以内に溶解したものを○、10分以内に溶解したものを△、10分で溶解しなかったものを×と評価した。評価結果を表3に示す。
【0045】
(耐アルカリ性)
導電積層膜を、40℃の5質量%NaOH水溶液中に10分間浸漬し、浸漬後の導電積層膜の外観を目視で確認した。NaOH水溶液に浸漬する前の導電積層膜と比較して、外観が変化していなかったものを○、変化していたものを×と評価した。評価結果を表3に示す。
【0046】
(耐湿性)
導電積層膜を、70℃、湿度90%の雰囲気中に1週間静置した。静置後の導電積層膜の外観観察を目視で行い、変色や斑点の有無を確認した。変色や斑点が無かったものを○、有ったものを×と評価した。評価結果を表3に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
Y,La,Nd,Biの合計含有量が1.0原子%未満された比較例1、3、5、7においては、NaOH水溶液浸漬後に外観に変化が認められており、耐アルカリ性が不十分であった。また、Y,La,Nd,Biの合計含有量が20原子%を超える比較例2、4、6、8においては、抵抗値が高すぎて測定できなかった。
【0050】
Snの含有量が5.0原子%未満とされた比較例9においては、結晶膜となっており、また、高湿環境下に1週間静置したに変色や斑点が認められており、耐湿性が不十分であった。また、Snの含有量が30原子%を超える比較例10においては、10分以内に酸によるエッチングができなかった。
【0051】
これに対して、本発明例1〜23においては、比抵抗が低く、酸によるエッチング性、耐アルカリ性および耐湿性のいずれにおいても優れていることが確認された。
特に、Al及びGaを本発明の範囲で含む本発明例16〜21は、AlとGaを含まない本発明例2と比較して比抵抗値が小さくなっていることが確認された。
【符号の説明】
【0052】
10、110 導電積層膜
11、111 金属膜
12、112A、112B 導電酸化物膜
21、121 基板
図1
図2