(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、高輝度の青色LEDや白色LEDが開発され、掲示板、フルカラーディスプレーや携帯電話のバックライト等にその用途を広げている。従来、LED等の光電変換素子の封止材料には、無色透明性に優れることからジカルボン酸無水物を硬化剤としたエポキシ樹脂組成物が使用されている。かかる光電変換素子に用いられるエポキシ樹脂の硬化剤として、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の脂環式ジカルボン酸無水物が一般的に使用されており、なかでも常温で液状であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等が取扱いの容易さから主に使用されている。
【0003】
しかしながら上記脂環式ジカルボン酸無水物を硬化剤とした場合、硬化反応性が低く、十分に硬化させるためには、硬化促進剤を添加する必要が生じる。脂環式ジカルボン酸無水物の硬化剤に用いる硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスホニウムブロマイド、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のエチルヘキサン塩及びテトラフェニルホスホニウムブロマイド等が使用されている。
【0004】
光電変換素子の封止材料は、LEDの強い発光エネルギーに高温で長時間暴露されるので、青色LEDや白色LED用途への利用を可能となるためには、長時間の加熱条件下での無色透明性が要求される。しかしながら、脂環式ジカルボン酸無水物の硬化剤との併用として上記のような硬化促進剤を使用すると、長時間加熱により硬化促進剤自身が黄変し封止材の無色透明性が損なわれる。そのため、硬化促進剤の使用はLED等の光電変換素子の封止材料には好ましくない。また、従来の硬化剤は蒸気圧が高く、硬化時に一部が蒸発するため、エポキシ化合物との配合比が目的とした値から外れ、目的とした性能を有する硬化物を得ることが困難である。
【0005】
一方で、光電変換素子の封止や半導体基板の製造に、トランスファー成形が用いられている。
特許文献1には、エポキシ樹脂、硬化剤および硬化促進剤を成分として含有する光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法において、2つの工程を経て粘度調整をしたのち半硬化状のタブレットとしておき、トランスファー成形により半導体素子封止したことが開示されている。
特許文献2には、エポキシ樹脂、硬化剤としてシクロヘキサントリカルボン酸無水物、無機充填材、白色顔料及びカップリング剤を含む熱硬化性光反射用樹脂組成物を用いて、タブレット成型したのち、トランスファー成型により光半導体素子搭載用基板とする方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トランスファー成形においては、エポキシ樹脂、硬化剤等を溶融混合して、加熱し反応をある程度進行させて得られた半硬化物(Bステージ)を粉砕、打錠加工を行ってタブレット化したのち、これをさらに再溶融させてトランスファー成形で金型等に流し込み、熱硬化(後硬化)を進行させて半導体基板や半導体素子を封止する。このため、トランスファー成形のBステージの半硬化物は、(1)室温(25℃)でタブレット形状にするためにある程度反応を進行させること、(2)タブレット形状にしたあと、トランスファー成形するため、再溶融して金型等に流れ込み、さらに熱硬化が進行すること、の2つの要件が必要となる。しかし、従来技術では、上記(1)、(2)の条件を同時に満たすため、Bステージの半硬化物の重合度をコントロールすることが困難であった。
【0008】
特許文献1は、脂環式ジカルボン酸無水物に加えて硬化促進剤を併用していることから、長時間加熱により硬化促進剤自身が黄変し封止材の無色透明性が損なわれるという課題がある。
特許文献2の光反射用樹脂組成物は、無機充填剤や白色剤を含有しているため、べたつきが少なく、室温でタブレットに成形する際に問題は生じないが、無機充填剤や白色顔料が含まれているため、硬化後の透明性が低く、光電変換素子の封止には不適である。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、トランスファー成形の成形加工性に優れる半硬化物の提供を目的にしたものであり、より具体的には原料のエポキシ化合物、硬化剤等をある程度反応させた中間段階(Bステージ)で室温条件でタブレットに加工しやすく、さらにトランスファー成形の後硬化の段階で再溶融が可能でありかつ再溶融時の流動性に優れる、成形性に優れるトランスファー成形の半硬化物の提供を目的とする。さらに最終硬化物の透明性、耐熱性に優れる半硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定のエポキシ化合物と、硬化剤として特定のシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、特定のシクロヘキサンジカルボン酸無水物とを特定の配合比で含み、さらにエポキシ化合物と硬化剤混合物の反応当量比を特定の範囲とした樹脂組成物の半硬化物において、特定の軟化点温度および特定の溶融粘度を有する半硬化物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、下記のとおりである。
[1] 下記式(1)で表されるエポキシ化合物と、下記式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、下記式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸無水物とを含む樹脂組成物の半硬化物であって、前記シクロヘキサントリカルボン酸無水物と前記シクロヘキサンジカルボン酸無水物との質量比が75:25〜85:15であり、前記エポキシ化合物のエポキシ当量(X)に対する、前記シクロヘキサントリカルボン酸無水物の反応性基の当量(Y)と前記シクロヘキサンジカルボン酸無水物の反応性基の当量(Z)との合計当量の比((Y+Z)/X)が0.65〜0.75であり、半硬化物の軟化点温度が50℃以上であり、かつ150℃における溶融粘度が2〜18Pa・sである、半硬化物。
【0012】
【化1】
(式(1)中、l,m,nはそれぞれ独立に1〜3の整数を示す。)
【0013】
[2] 前記エポキシ化合物が下記式(1−1)で表される、[1]に記載の半硬化物。
【化2】
【0014】
[3] 前記シクロヘキサントリカルボン酸無水物が、下記式(2−1)で表されるシス体、及び下記式(2−2)で表されるトランス体の混合物であり、前記シス体と前記トランス体とのモル比(シス体:トランス体)が30:70〜50:50である、[1]又は[2]に記載の半硬化物。
【化3】
【0015】
[4] フィラーを含有しない、[1]〜[3]のいずれかに記載の半硬化物。
[5] 光電子変換素子の封止材用に使用される[1]〜[4]のいずれかに記載の半硬化物。
[6] 上記[1]〜[5]のいずれかに記載の半硬化物をさらに熱硬化させた、最終硬化物。
[7] 全光線透過率が85%以上である、[6]に記載の最終硬化物。
[8] 上記[1]〜[5]のいずれかに記載の半硬化物の製造方法であって、工程1:下記式(1)で表されるエポキシ化合物と、下記式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、下記式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸無水物とを溶融混合して均一な混合物とし、工程2:前記混合物を55〜85℃で、かつ、17〜1.5時間で反応させて樹脂組成物からなる半硬化物を得る、半硬化物の製造方法。
【0016】
【化4】
(式(1)中、l,m,nはそれぞれ独立に1〜3の整数を示す。)
【0017】
[9] 前記工程2において、75〜85℃で、かつ、1.5〜2.4時間で反応させる、[8]に記載の半硬化物の製造方法。
[10] 前記工程2において、65〜74℃で、かつ、3.5〜6.5時間で反応させる、[8]に記載の半硬化物の製造方法。
[11] 前記工程2において、55〜64℃で、かつ、7〜17時間で反応させる、[8]に記載の半硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特定のエポキシ化合物と、硬化剤として特定のシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、特定のシクロヘキサンジカルボン酸無水物とを特定の配合比で含み、さらにエポキシ化合物と硬化剤混合物の反応当量比を特定の範囲とした樹脂組成物の半硬化物において、特定の軟化点温度および特定の溶融粘度を有する半硬化物を使用することで、室温で半硬化物を粉砕する際にべたつきがないため、タブレット成形時の成形性に優れる。さらに本発明の半硬化物は、タブレット成形後のトランスファー成形において再溶融が可能で、かつ再溶融時の流動性に優れ、さらに加熱により後硬化反応を進行させることができる。さらに本発明によれば、本発明に係る樹脂組成物からなる半硬化物の最終硬化物は、透明性、耐熱性に優れることから、LED等の光電変換素子封止用途に好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(半硬化物)
本発明の半硬化物は、下記式(1)で表されるエポキシ化合物と、下記式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、下記式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸無水物とを含む樹脂組成物の半硬化物であって、シクロヘキサントリカルボン酸無水物とシクロヘキサンジカルボン酸無水物との質量比が75:25〜85:15であり、エポキシ化合物のエポキシ当量(X)に対する、シクロヘキサントリカルボン酸無水物の反応性基の当量(Y)とシクロヘキサンジカルボン酸無水物の反応性基の当量(Z)との合計当量の比((Y+Z)/X)が0.65〜0.75であり、半硬化物の軟化点温度が50℃以上であり、かつ150℃における溶融粘度が2〜18Pa・sである。
【0020】
【化5】
(式(1)中、l,m,nはそれぞれ独立に1〜3の整数を示す。)
【0021】
前述したように、トランスファー成形においては、エポキシ樹脂、硬化剤等の反応をある程度進行させてBステージ化し、得られた半硬化物を室温(例えば25℃)で粉砕、打錠加工を行ってタブレット化したのち、これをさらに加熱して再溶融することでトランスファー成形を行い、加熱により後硬化反応を進行させて半導体基板や半導体素子を封止する。このため、トランスファー成形のBステージの半硬化物は、(1)タブレット形状にするために、ある程度反応を進行させてそれを室温で粉砕処理できること、(2)タブレットを再溶融して金型等に流し込むトランスファー成形し、さらに熱硬化させて後硬化が進行すること、が必要となる。しかし、従来は上記(1)、(2)両方の条件を満たすため、Bステージの半硬化物の硬化度をコントロールすることが困難であった。
さらに、Bステージの半硬化物をタブレット形状とするために、室温(例えば25℃)で半硬化物の塊を粉状に粉砕して打錠成形するが、この際にべたつきが発生しないことが必要となる。
なお、本発明において、「半硬化物」とは、エポキシ樹脂、硬化剤等の硬化反応をある程度進行させた段階の溶融組成物であり、タブレット成形に供する段階の樹脂組成物をいう。
さらに本発明において、半硬化物を再溶融させてさらに加熱し後硬化させたものを「最終硬化物」という。
【0022】
本発明の半硬化物は、後述する特定の樹脂組成物から構成されるBステージの半硬化物であり、軟化点温度が50℃以上であり、かつ150℃における溶融粘度が2〜18Pa・sであることを特徴とする。本発明の特定の樹脂組成物からなる半硬化物は、特定の軟化点温度であり、かつ特定の溶融粘度を有することで、タブレット成形時の成形加工性と、トランスファー成形時の成形性を兼ね備えることができる。
【0023】
(半硬化物の軟化点温度)
本発明の特定の樹脂組成物からなる半硬化物の軟化点温度は50℃以上である。半硬化物の軟化点温度が50℃未満である場合、本発明の半硬化物をタブレット成形するために、室温(0〜35℃、例えば、25℃)で粉砕する際にべたつきが発生するため、タブレット成形性が低下する。
なお、粉砕の方法としては、半硬化物の塊をメノウ製の乳鉢と乳棒により粉状に粉砕する方法が挙げられる。
【0024】
本発明の半硬化物の軟化点温度は、好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上である。半硬化物の軟化点温度が65℃以上であれば、タブレット成形時のべたつきが発生しないだけでなく、さらにブロッキングも発生しないため、さらにタブレット成形性に優れるものとなる。
本発明の半硬化物の軟化点温度の上限値は特に制限はないが125℃以下が好ましく、より好ましくは95℃以下である。本発明の半硬化物の軟化点温度が125℃より大きい場合、溶融粘度が高くなり、後硬化後の最終硬化物の透明性が劣ることがある。
なお、軟化点温度の測定は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0025】
(半硬化物の溶融粘度)
本発明の特定の樹脂組成物からなる半硬化物は、150℃における溶融粘度が2〜18Pa・sである。半硬化物の溶融粘度が2Pa・s未満である場合、トランスファー成形で、半硬化物を再溶融させた際の流動性が悪く成形加工性に劣る。また、溶融粘度が18Pa・sを超える場合、後硬化後の最終硬化物の透明性が劣る。
なお、本発明の特定の樹脂組成物からなる半硬化物の150℃における溶融粘度は、本発明の半硬化物の硬化反応の進行度を示している。本発明において、半硬化物の溶融粘度を特定の数値範囲とすることで、Bステージの半硬化物はタブレット成形性に優れる上に、さらにトランスファー成形時に半硬化物が再溶融し、さらに溶融した樹脂組成物の流動性が適切なものとなるため成形加工性に優れたものとなる。
半硬化物の150℃における溶融粘度の下限値は、好ましくは3Pa・s以上であり、さらに好ましくは、5Pa・s以上である。また、半硬化物の150℃における溶融粘度の上限値は、好ましくは15Pa・s以下であり、好ましくは10Pa以下である。
なお、溶融粘度の測定は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0026】
(エポキシ化合物)
本発明の樹脂組成物からなる半硬化物は、原料として一般式(1)で表されるエポキシ化合物を使用する。
【化6】
【0027】
一般式(1)中、l、m、nはそれぞれ独立に1〜3の整数を表す。l、m、nは同じ整数でも異なる整数でもよいが、同じ整数であることが好ましい。また、l、m、nの数値は、好ましくは、1〜2であり、とくに好ましくは1である。
式(1)で表されたエポキシ化合物としては、下記式(1−1)で表される化合物であることが好ましい。当該化合物であれば硬化後の透明性に優れる半硬化物が得られやすい。
【0029】
本発明の半硬化物に使用するエポキシ化合物は、透明性の観点から式(1)で表されるエポキシ化合物のみを使用することが望ましいが、本発明の効果を妨げない範囲で他のエポキシ化合物を使用してもよい。その他のエポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ヒダントインエポキシ樹脂やグリコールウリル型エポキシ樹脂などの含窒素環エポキシ樹脂、水添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、低吸水率硬化体タイプの主流であるビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロ環型エポキシ樹脂、トリシクロデカン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0030】
(硬化剤)
本発明の樹脂組成物からなる半硬化物は、硬化剤として式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸無水物を、その質量比が75:25〜85:15で併用することを特徴とする。本発明において、硬化剤として上記トリカルボン酸無水物とジカルボン酸無水物を特定の配合比で併用することにより、原料のエポキシ樹脂、硬化剤等を溶融混合してBステージ化して半硬化物とする際に、硬化促進剤を配合せずに適度な重合速度に調整することができ、さらにBステージの半硬化物の重合度を制御しやすくなる。
従来、光電変換素子の封止材料用途に使用される硬化剤としては、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸やヘキサヒドロ無水フタル酸およびその混合物等のジカルボン酸無水物が使用されてきた。しかし、硬化剤としてジカルボン酸無水物のみを使用した場合、重合速度調整のために硬化促進剤を添加する必要があり、その結果硬化物が長時間高温にさらされると、黄変し無色透明性が損なわれるという問題点があった。
これに対して、本願では、硬化剤としてシクロヘキサントリカルボン酸無水物とシクロヘキサンジカルボン酸無水物を併用することで、硬化促進剤を配合せずに適度な重合速度に調整することができるため、Bステージの半硬化物の重合度を制御しやすくなる。さらに最終硬化物の透明性も優れたものとなる。
【0032】
式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸無水物(1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物)は、単体では、下記式(2−1)で表されるcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物(以下、「シス体」ということがある)、及び下記式(2−2)で表される固体のtras,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物(以下、「トランス体」ということがある)の2種の異性体が存在する。
【0034】
本発明では、式(2)で表される硬化剤のシス体/トランス体のモル比(シス体:トランス体)を30:70〜50:50とすることが好ましく、35:65〜45:55とすることがより好ましい。シス体/トランス体のモル比を当該数値範囲とすることで、シクロヘキサントリカルボン酸無水物は液体状態を安定に保つことができる。さらに液体状態のシクロヘキサントリカルボン酸無水物はエポキシ化合物と均一に混合することが可能となるため、エポキシ化合物等との原料混合から半硬化物までの前硬化反応を、55〜85℃程度の比較的穏やかな条件で進めることが可能となる。
【0035】
シクロヘキサントリカルボン酸無水物のシス体とトランス体とのモル比の調整は、固体もしくは液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を180〜300℃に溶融あるいは加温して調整することができる。具体的には、国際公開2005/049597号のパンフレットの記載を参酌でき、この内容は本願明細書に組み込まれる。
また、シス体及びトランス体の立体構造の同定とモル比は、実施例に記載の方法でHPLCによりそれぞれを分取し、さらに分取した各成分をNMR測定することにより求めることができる。
【0036】
本発明の半硬化物の硬化剤として使用するシクロヘキサンジカルボン酸無水物としては、式(3)で表されるヘキサヒドロ無水フタル酸が使用される。
【0037】
本発明の半硬化物に使用される硬化剤としては、式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸と式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸を併用するが、本発明の効果を妨げない範囲で他の硬化剤を添加してもよい。他の硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸、無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤が挙げられる。
【0038】
エポキシ化合物のエポキシ当量(X)に対する、シクロヘキサントリカルボン酸無水物の反応性基の当量(Y)とシクロヘキサンジカルボン酸無水物の反応性基の当量(Z)との合計当量の比((Y+Z)/X)(以下、配合当量比ということがある)は0.65〜0.75であり、0.68〜0.72であることが好ましい。配合当量比が0.65未満では、本発明の半硬化物を後硬化させた最終硬化物の耐熱性が低下してしまう。配合当量比が0.75を超えると、エポキシ樹脂化合物と硬化剤の反応速度が高くなり、適度な半硬化状態で反応を停止させることが困難になってしまう。
【0039】
また、半硬化物を構成する樹脂組成物には、透明性を低下させるフィラー(例えば、不透明フィラー)を含有しないことが好ましい。不透明フィラーとしては、タルク、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、無機中空粒子等の白色顔料が例示される。かかるフィラーを含有しないことで、本発明の半硬化物を後硬化させた最終硬化物は良好な透明性を発揮させることができる。
【0040】
また、本発明の半硬化物を構成する樹脂組成物には、透過性を低下させない限り、シリカ、無機充填剤、劣化防止剤、変性剤、シランカップリング剤、脱泡剤、無機粒子、レベリング剤、離型剤等を適宜配合してもよい。
【0041】
(半硬化物の製造方法)
次に、本発明の半硬化物の製造方法の一例について述べる。本発明の半硬化物は、以下に述べる材料を使用し、以下の方法で製造されることが好ましいが、これに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0042】
本発明の半硬化物の製造方法は、既述の式(1)で表されるエポキシ化合物と、硬化剤として、既述の式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、既述の式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸無水物との混合物とを反応させて、硬化反応をある程度進行させた半硬化物(Bステージ)とする。
【0043】
本発明の半硬化物の製造方法の一例としては、
工程1:下記式(1)で表されるエポキシ化合物と、下記式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、下記式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸無水物とを溶融混合して均一な混合物とし、
工程2:前記混合物を55〜85℃で、かつ、17〜1.5時間で反応させて樹脂組成物からなる半硬化物を得る。
【0044】
(工程1:エポキシ化合物と硬化剤の混合)
まず、式(1)で表されるエポキシ化合物を90〜150℃で加熱して溶融させる。その後、溶融したエポキシ化合物をいったん70〜90℃まで放冷することが好ましい。エポキシ化合物を当該温度に冷却することで、その後に硬化剤と反応させて半硬化物(Bステージ)にする際の、硬化反応の進行度を制御しやすくなる。
【0045】
次に硬化剤である式(2)で表されるシクロヘキサントリカルボン酸無水物と、式(3)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸無水物との混合物を70〜120℃に加熱して溶融状態にしてから、既出の溶融したエポキシ化合物に添加し混合する。そして、エポキシ化合物と硬化剤を十分に溶融混合して均一化し、透明の混合物とする。
【0046】
(工程2:半硬化物への硬化条件)
本発明に係る製造方法においては、エポキシ化合物と硬化剤を溶融混合して透明の混合物となってから、その後の一定の条件下で加熱して硬化反応を行い、Bステージの半硬化物とする。エポキシ化合物と硬化剤を前硬化させて半硬化物とするための硬化条件は、具体的には、(i)75〜85℃で、かつ、1.5〜2.4時間で反応させる、(ii)65〜74℃で、かつ、3.5〜6.5時間で反応させる、及び、(iii)55〜64℃で、かつ、7〜17時間で反応させる、のいずれかであることが好ましい。
上記反応条件とすることで、本発明の半硬化物は室温(例えば25℃)での粉砕時にべたつきがなくタブレット成形しやすい。さらに得られた半硬化物は、その後にトランスファー成形する際に、再溶融可能でかつ流動性に優れるため、成形加工性に優れたものとなる。
【0047】
なお、エポキシ化合物と硬化剤が混合されて透明の混合物となってからの、その後の加熱混合反応は発熱反応であることから、発熱による反応の暴走を防ぐため、薄膜状にして反応を行うことが好ましい。
【0048】
このようにして得られた半硬化物は、室温(例えば25℃)で、公知の方法によって、粉砕および打錠することによって、タブレットとすればよい。
【0049】
以上のような本発明の樹脂組成物からなる半硬化物は、室温(例えば25℃)で粉砕可能であり、その粉砕物はべたつきがなくブロッキングが抑えられているため、ハンドリング性に優れ、タブレット成形しやすい。
さらに、本発明の半硬化物は150℃での溶融粘度が2〜18Pa・sであるため、重合状態が制御されており、その後のトランスファー成形の際に、再溶融可能であり、さらに流動性が高く良好な成形性を発揮することができる。
【0050】
(後硬化反応)
本発明の半硬化物はトランスファー成形においてはタブレットに成形したのち、後硬化反応を行う。この際、本発明の半硬化物は硬化反応の進行度が適切であるため、トランスファー成形において再溶融することが可能であり、さらに再溶融した際に流動性が高いため、成形加工性に優れる。
トランスファー成形の再溶融時の温度は、140〜190℃が好ましく、より好ましくは150〜180℃である。
本発明の半硬化物は、当該温度で再溶融させてトランスファー成形により移送し、LED等の光電子変換素子等に実装し、後硬化を行う。後硬化反応の反応条件は、例えば、120〜150℃で0.5〜3時間熱硬化させる。
【0051】
本発明に係る半硬化物を後硬化させた最終硬化物は、厚さ0.5mmのフィルム状とした際に、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。最終硬化物の全光線透過率が85%以上であることで、本発明の半硬化物の最終硬化物は光電変換素子の封止に適した無色透明性を得ることができる。
こうして得られた半硬化物を後硬化させた最終硬化物は、透明性が高く、また耐熱性に優れるため、LED等の光電子変換素子の封入樹脂として最適である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0053】
(異性体比率の測定方法)
1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物異性体比率は、HPLC分析およびHPLC分取を行い、HPLC分取後の各成分について、NMRを使用して生成物の分析および同定を行い求めた。測定条件は以下の通りである。
【0054】
(1)HPLC分析
装置:agilent製 HP1100(B)
カラム:YMC−Pack CN 120Å S−5μm 4.6mm×150mm
移動相:ノルマルヘキサン/テトラヒドロフラン=90/10
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/min
試料溶液:約7000ppmアセトニトリル溶液
注入量:5μL
【0055】
(2)HPLC分取
装置:(株)島津製作所製 LC−6A
カラム:CAPCELL PAK CN 120Å 5μm 20mm×250mm
移動相:ノルマルヘキサン/テトラヒドロフラン=95/5
カラム温度:室温
流量:10mL/min
試料溶液:8mg/mLアセトニトリル溶液
注入量:1mL
分取領域:カット1:Rt=17分〜19分 カット2:Rt=19分30秒〜24分 (Rtはリテンションタイムを示す)
【0056】
(3)NMR測定
2次元NMR解析により平面構造を決定し、デカップリング法(「有機化合物のスペクトルによる同定法 R.M.silverstein B.C.Bassler 東京化学同人」参照)でプロトン間の結合定数(J値)を決定することによって、アクシャルとエクアトリアルプロトンを決定し立体構造を推定した。
【0057】
装置:日本電子(株)製 JNM−ALPHA−400(400MHz)
溶媒:カット1:重アセトン、重DMSO(デカップリング
1H−NMR) カット2:重アセトン
プローブ:TH5(5mmφ)
手法:1次元NMR;
1H−NMR、
13C−NMR、DEPT135、デカップリング
1H−NMR、2次元NMR;HHCOSY、HMQC、HMBC、NOESY
【0058】
[実施例1]
(原料混合物の調製)
エポキシ化合物としてトリグリシジルイソシアヌレート(日産化学工業(株)製TEPIC−S エポキシ当量100)100gを120℃に加熱して溶融させた。溶解したトリグリシジルイソシアヌレートを80℃になるまで放冷した。そこに80℃に加温した1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物(三菱ガス化学(株)製、商品名:H−TMAn)59.6gと80℃に加温したヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化(株)製リカシッドHH)14.9gを加えて原料混合物を得た。
なお、エポキシ化合物のエポキシ当量(X)に対する、シクロヘキサントリカルボン酸無水物の反応性基の当量(Y)とシクロヘキサンジカルボン酸無水物の反応性基の当量(Z)との合計当量の比((Y+Z)/X)は、0.7であった。
また、硬化剤として使用した1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物のシス体:トランス体の比率は、39:61であった。
【0059】
(半硬化物の調製)
得られた原料混合物を撹拌し、混合物が透明になったのを確認後、ステンレスバットに薄く流し延べ、反応温度80℃で、1.5時間強制循環式恒温機内にて反応させて、半硬化物1を得た。
【0060】
(半硬化物の粉砕性評価)
得られた半硬化物1を室温(25℃)に冷却し、メノウ製の乳鉢と乳棒により粉砕した。べたつきやブロッキングが発生せずに粉砕可能なものを○、べたつきはないものの粉砕中にブロッキングが発生するものを△、べたつきがあるものを×とした。結果を下記の表1に示した。
【0061】
(軟化点温度の測定)
得られた半硬化物1について、JIS K 7234(エポキシ樹脂の軟化点試験方法)に基づいて軟化点温度を測定した。測定装置は軟化点試験器(西日本試験機製、型番:A−311a)を使用した。試料を5℃/minで昇温し、試料が軟化して伸び、底板に触れた時の温度を軟化点温度として計測した。結果を下記の表1に示した。
【0062】
(溶融粘度の測定)
溶融粘度は、JIS K 7210に基づいて、島津製作所製高化式フローテスターにて、試験温度150℃で測定した。結果を下記の表1に示した。
【0063】
(半硬化物の後硬化反応)
粉砕性の評価を行った半硬化物1について、直径50mmのアルミニウム製カップに充填した。これを強制循環式恒温機に入れて、150℃で1時間、後硬化反応を行い、厚さ0.5mmの最終硬化物1を得た。
【0064】
(最終硬化物の透明性評価)
得られた最終硬化物1について、厚さ0.5mmの試料を、JIS K 7361に基づき、島津製作所製UV3100PCを用いて、全光線透過率を測定した。結果を下記の表1に示した。
【0065】
[実施例2〜10、比較例1〜4]
実施例1の半硬化物を合成する際の反応温度および反応時間を表1に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様に行った。得られた半硬化物の評価結果を下記の表1に示した。
また、粉砕試験後の半硬化物について、実施例1と同様に後硬化反応を行い、得られた最終硬化物について、実施例1と同様に透明性評価を行った。得られた最終硬化物の評価を下記の表1に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1から、本発明の実施例の半硬化物は適切な硬化度であるため、室温(25℃)での粉砕試験において、べたつきが発生せずタブレット成形性に優れる。さらに本発明の実施例の半硬化物は、その後の硬化反応が進行し、得られた最終硬化物は透明性に優れたものとなった。
これに対して、比較例1、3、4の半硬化物は軟化点温度、溶融粘度が低いため、室温(25℃)での粉砕性が悪くタブレット成形性に劣る。比較例2の半硬化物は溶融粘度が高すぎるため、室温(25℃)での粉砕性は優れるものの、最終硬化物の透明性が劣るものであった。