(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の制振システムでは、質量体の側方にダンパーを配置しているので、装置の小型化が困難であった。また、例えば、質量体に対してダンパーを鉛直方向に配置すると、水平面において回転するような振動の場合、質量体とダンパーが一体となって回転してしまいダンパーが機能しなくなるおそれがあった。
【0005】
本発明は、装置の小型化を図りつつ、確実に制振対象物の振動を減衰させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するための本発明は、制振対象物の頂部に設けられ、前記制振対象物の振動を制御する制振システムであって、下部構造部と、前記下部構造部の上方に設けられた上部構造部と、前記上部構造部から吊られた第1質量体と、前記下部構造部に対して回動可能に連結され、前記第1質量体を鉛直方向に貫通して立設した立設部材と、前記第1質量体の上方であって、前記立設部材に設けられた第2質量体と、前記第1質量体と前記第2質量体との鉛直方向の相対変位を許容しつつ、水平方向の相対変位を拘束する連結部材と、前記立設部材の水平方向の振幅を減衰する減衰部材と、を備えることを特徴とする。
このような制振システムによれば、ダンパーの配置を立設部材の周りに集約させることができ、装置の小型化を図ることができる。また、どのような振動に対してもダンパーを機能させることができ、確実に制振対象物の振動を減衰させることができる。
【0007】
かかる制振システムであって、前記下部構造部に対して回動可能に連結され、前記第2質量体を支持する支持部材をさらに備えていてもよい。
このような制振システムによれば、第2質量体を安定して支えることができ、安全性を高めることができる。
【0008】
かかる制振システムであって、前記第1質量体と前記第2質量体を平行に保持する平行保持部材をさらに備え、前記立設部材が第2質量体を支持してもよい。
このような制振システムによれば、装置の小型化を図ることができる。
【0009】
また、かかる目的を達成するための本発明は、制振対象物の頂部に設けられ、前記制振対象物の振動を制御する制振システムであって、下部構造部と、前記下部構造部の上方に設けられた上部構造部と、前記下部構造部に回動可能に連結された支持部材と、
前記支持部材によって支持された第1質量体と、前記上部構造部に対して回動可能に連結され、前記第1質量体を鉛直方向に貫通して吊設した吊設部材と、前記第1質量体の下方であって、前記吊設部材に設けられた第2質量体と、前記第1質量体と前記第2質量体との鉛直方向の相対変位を許容しつつ、水平方向の相対変位を拘束する連結部材と、前記吊設部材の水平方向の振幅を減衰する減衰部材と、を備えることを特徴とする。
このような制振システムによれば、確実に制振対象物の振動を減衰させることができ、また、装置の小型化を図ることができる。
【0010】
かかる制振システムであって、前記上部構造部に対して回動可能に連結され、前記第2質量体を吊る吊り部材をさらに備えていてもよい。
このような制振システムによれば、第2質量体を安定して吊ることができ、安全性を高めることができる。
【0011】
かかる制振システムであって、前記第1質量体と前記第2質量体を平行に保持する平行保持部材をさらに備え、前記吊設部材が第2質量体を吊ってもよい。
このような制振システムによれば、装置の小型化を図ることができる。
【0012】
かかる制振システムであって、前記第1質量体及び前記第2質量体の一方が、前記第1質量体及び前記第2質量体の他方を挟むように設けられていることが望ましい。
このような制振システムによれば、第1質量体と第2質量体との位置関係が安定し、また、水平方向の移動を同一とすることが容易となる。
【0013】
かかる制振システムであって、前記連結部材は、前記第1質量体と前記第2質量体との鉛直方向への相対的な移動をガイドするリニアスライダーであり、前記リニアスライダーは、前記鉛直方向に複数並んで配置されていることが望ましい。
このような制振システムによれば、第1質量体と第2質量体を鉛直方向に相対変位させることができる。
【0014】
かかる制振システムであって、前記下部構造部と前記制振対象物との間に、前記下部構造部から伝達される力が所定範囲内のときは前記制振対象物に対して前記下部構造部を固定し、前記力が前記所定範囲を超えるときは前記制振対象物に対する前記下部構造部の固定を解除するトリガー機構を備えるフェールセーフ装置が設けられていることが望ましい。
このような制振システムによれば、装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、装置の小型化を図りつつ、確実に制振対象物の振動を減衰させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
===第1実施形態===
<<全体構成>>
図1は、第1実施形態の制振システム1の全体構成を示す概略説明図である。
図2Aは
図1のA−A断面図であり、
図2Bは
図1のB−B断面図であり、
図2Cは
図1のC−C断面図である。以下の説明では、鉛直方向のことをZ方向とし、Z方向と垂直な面(水平面)において直交する2方向(水平方向)のことをそれぞれX方向、Y方向として説明することがある。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の制振システム1は、TMD制振装置10とフェールセーフ装置100とを備えている。
【0019】
TMD制振装置10は、高層ビルなどの制振対象物(ここでは建物3)の頂部に設けられて、制振対象物の振動を制御する装置である。本実施形態では、TMD制振装置10は、フェールセーフ装置20を介して、建物3の頂部に設けられている。
【0020】
フェールセーフ装置100は、TMD制振装置10と建物3との間に設けられている。そして、フェールセーフ装置20は、TMD制振装置10のから伝達される力が所定範囲内のときは建物3に対してTMD制振装置10を固定する。一方、TMD制振装置10のから伝達される力が所定範囲を超えるときはTMD制振装置10の固定を解除する。
【0021】
以下、本実施形態のTMD制振装置10とフェールセーフ装置100の構成について説明する。
【0022】
<<TMD制振装置について>>
TMD制振装置10は、TMD架台11(下部構造部に相当)と、上部フレーム12(上部構造部に相当)と、第1質量体21と、吊り部材22と、第2質量体31と、立設部材32と、支持アーム33と、連結部材40と、ダンパー50とを有する。
【0023】
TMD架台11は、TMD制振装置10の最も下部に設けられた構造物である。TMD架台11は建物3の上にフェールセーフ装置20を介して設けられている。本実施形態のTMD架台11の平面形状は正方形であるが、これには限られず、円形や多角形など、他の形状でもよいでもよい。
【0024】
上部フレーム12は、TMD架台11に固定された構造物(例えば鉄骨フレーム)である、TMD架台11との間に空間を形成するようにTMD架台11の上方に設けられている。
【0025】
第1質量体21は、上部フレーム12から吊り部材22により吊られた質量体である。本実施形態の第1質量体21の外周の平面形状は正方形である。また、
図2Bに示すように、第1質量体21には、後述する立設部材32や支持アーム33を貫通させるための空間(隙間)が設けられている。また、第1質量体21の各辺の中点部分には上方に突出する突起部21Aが設けられている。なお、突起部21AはH形鋼で構成されている。
【0026】
吊り部材22は、第1質量体21を上部フレーム12から吊り下げる部材である。吊り部材22は、上端が上部フレーム12に対して回動可能に連結されており、下端が第1質量体21に対して回動可能に連結されている。吊り部材22は、第1質量体21の角部にそれぞれ(合計4本)設けられている。第1質量体21及び吊り部材22によって、振子(吊り振子)が構成されている。
【0027】
第2質量体31は、TMD架台11に対して設けられて倒立振子を形成する質量体である。本実施形態の第2質量体31の外周の平面形状は第1質量体21よりも小さい正方形である。また、第2質量体31には上方に突出する突起部31Aが設けられている(
図3A参照)。突起部31AはH形鋼で構成されおり、第2質量体31の各辺において第1質量体21の突起部21Aと対向する位置にそれぞれ設けられている。なお、本実施形態において突起部21Aと突起部31Aとの間隔は200〜300mmである。
【0028】
支持アーム33は、TMD架台11から第1質量体21を貫通して第2質量体31を支持する支持部材である。支持アーム33は、下端がTMD架台11に対して回動可能に連結されており、上端が第2質量体31に対して回動可能に連結されている。支持アーム33は、第2質量体31の角部にそれぞれ(合計4本)設けられている。この4本の支持アーム33によって、第2質量体31を安定して支えることができ、安全性を高めることができる。
【0029】
立設部材32は、第2質量体31の中央部分において、TMD架台11から第1質量体21を貫通して立設している。立設部材32は、下端がTMD架台11に対して回動可能に連結されており、上端が第2質量体31に対して回動可能に連結されている。なお、支持アーム33とともに立設部材32も第2質量体31を支持してもよいし、立設部材32が第2質量体31を支持せずに支持アーム33のみで第2質量体31を支持してもよい。
【0030】
第2質量体31、立設部材32、及び、支持アーム33によって、倒立振子が構成されている。なお、第1質量体21及び第2質量体31の振動を安定させるため、第2質量体31は第1質量体21よりも質量が小さくなるように構成されている。
【0031】
図1に示すように、第1質量体21は第2質量体31よりも低い位置に配置されており、第2質量体31は第1質量体21よりも高い位置に配置されている。これは、制振システム1(TMD制振装置10)の高さを抑えながら、吊り部材22及び立設部材32(支持アーム33)の長さLをできるだけ長くするためである。
【0032】
また、
図2Aに示すように、上から見たとき、第1質量体21は、第2質量体31を囲繞している。つまり、第1質量体21は、第2質量体31の外側に配置されており、第2質量体31を外側から挟んでいる。これにより、不安定な倒立振子を第1質量体21の内側に配置できる。また、連結部材40を第2質量体31の周囲に配置しやすくなるため、第2質量体31の水平方向の移動を第1質量体21と同一とすることが容易となる。また、第2質量体31の質量が第1質量体21の質量よりも小さくなるように構成しやすい。
【0033】
連結部材40は、第1質量体21と第2質量体31とを連結する部材である。言い換えると、連結部材40は、第1質量体21及び吊り部材22で構成された振子(吊り振子)と、第2質量体31、立設部材32、及び、支持アーム33で構成された振子(倒立振子)とを連結する部材である。連結部材40は、第1質量体21と第2質量体31との水平方向の相対変位を拘束する。これにより、第1質量体21及び第2質量体31の水平方向の変位は同じになる。第1質量体21及び第2質量体31が水平方向に変位すると、第1質量体21は鉛直方向上側に変位するのに対し、第2質量体31は鉛直方向下側に変位する。このため、連結部材40は、第1質量体21と第2質量体31との鉛直方向の相対変位を許容しつつ、第1質量体21と第2質量体31との水平方向の相対変位を拘束する。
【0034】
図3A及び
図3Bは、連結部材40の構成の一例を示す図である。
図3Aは側面図であり、
図3Bは平面図である。なお、
図3は、
図1及び
図2におけるX方向の一端側(図の左側)に配置された連結部材40の構成を示しているが、他の連結部材40も同様の構成である。
図3A及び
図3Bに示すように、連結部材40は、第1質量体21の突起部21Aと第2質量体の突起部31Aとの間に設けられている。
【0035】
本実施形態の連結部材40は、第1質量体21と第2質量体31とのZ方向(鉛直方向)への相対的な移動をガイドする転がり型のリニアスライダーである。連結部材40は、突起部21Aと突起部31Aとの間においてZ方向に2つ並んで設けられている(2連のリニアスライダーである)。Z方向に並ぶ連結部材40の中心位置の間隔は約600mm程度である。また、第1質量体21の上面と第2質量体の下面との間隔は1000mm以上である。
【0036】
連結部材40はレール41と、凹部42と、球体43と、弾性体44と、皿ばね45と、取り付けボルト46を有している。
【0037】
レール41は、突起部21Aから突起部31Aに向けて突出するように(凸状に)突起部21Aの側面に設けられている。また、レール41はZ方向(鉛直方向)に沿って設けられている。
【0038】
凹部42は、突起部21Aの側面に弾性体44を介して設けられている。また、凹部42は、レール41の凸状の部分に嵌合可能な形状(凹状)に設けられており、球体43を介してレール41と嵌合している。
【0039】
弾性体44は、寸法差や作動時の変化に対応するための部材である。本実施形態では、弾性体44は厚さ3〜5mmのゴムで形成されている。ただし、これには限られず別の材料を用いてもよい。
【0040】
皿ばね45は、部品の緩みやがたつきを調整するための部材である。
【0041】
取り付けボルト46は、凹部42を突起部21Aの側面に取り付けるための部材である。
【0042】
以上の構成により、レール41と凹部42は、球体43を介して嵌合しており、球体43の転がりによってZ方向に相対移動可能である(Z方向に直線運動可能である)。換言すると、突起部21A(第1質量体21)と突起部31A(第2質量体31)とがZ方向に相対変位可能である。一方、レール41と凹部42が嵌合しているので凹部42とレール41は水平方向には相対移動できない。換言すると、突起部21A(第1質量体21)と突起部31A(第2質量体31)は水平方向に相対変位できない。このように、連結部材40は、第1質量体21と第2質量体31の水平方向(X方向及びY方向)への相対変位を拘束するとともに、鉛直方向(Z方向)への相対変位を許容する。本実施形態では、連結部材40をZ方向に2つ並べて設けているので、より確実に、第1質量体21と第2質量体31をZ方向のみに相対変位させることができる。但し、これには限られず、Z方向に連結部材40を1つのみ配置してもよいし、3つ以上配置してもよい。
【0043】
また、連結部材40は、上記の構造には限られるものではなく、第1質量体21と第2質量体31との鉛直方向の相対変位を許容しつつ、第1質量体21と第2質量体31との水平方向の相対変位を拘束する部材であれば、他の部材でも良い。例えば、鉛プラグ入り天然積層ゴム(LRB)や高減衰積層ゴムなどのように、減衰機能を備えたものでも良い。また、例えば、カムフォロワーで構成してもよい。
【0044】
ダンパー50は、2つの部材間の振動を減衰させる部材であり、本実施形態のダンパー50はオイルを用いたオイルダンパーである。本実施形態において、ダンパー50は、立設部材32のダンパー取付け部32A(球座)とTMD架台11の突起部11Aとの間に水平方向に配置されている。また、ダンパー50は、
図2Cに示すように、立設部材32を中心としてX方向及びY方向の両側にそれぞれ(合計4つ)設けられている。換言すると、本実施形態では、4つのダンパー50の接続先を立設部材32に集約している。これにより、コンパクト化(小型化)が可能である。
【0045】
なお、ダンパー50は、オイルダンパーに限られるものではなく、例えば、減衰こま(RDT)などでも良い。
【0046】
<<フェールセーフ装置について>>
本実施形態のフェールセーフ装置100は、制振対象物(建物3)とTMD制振装置10との間に設けられている。より具体的には、建物3の頂部と、TMD制振装置10のTMD架台11との間に設けられている。そして、フェールセーフ装置100は、TMD制振装置10の鉛直荷重を建物3に伝達する役割と、TMD制振装置10と建物3との間の水平方向制御力を伝達する役割を担っている。
【0047】
図1に示すようにフェールセーフ装置100は、FS架台110、積層ゴム120、トリガー機構130を備えている。
【0048】
FS架台110は、フェールセーフ装置100用の架台であり、建物3の頂部に固定されている。なお、FS架台110とTMD制振装置10のTMD架台11との間はリニアスライダー(不図示)が設けられており、FS架台110とTMD架台11とは水平方向に相対変位可能となっている。
【0049】
積層ゴム120は、円形のゴム層と内部鋼板を交互に積層した円柱形の部材であり、2つの部材間に設けられて、これらの2つの部材が相対変位した際に、2つの部材の位置関係を復元させるものである。積層ゴム120は、FS架台110とTMD架台11との間に設けられている。そして、積層ゴム120は、TMD架台11(換言するとTMD制振装置10)をFS架台110(換言すると制振対象物)に対して相対変位可能に支持するとともに、TMD架台11とFS架台110との相対的な位置関係を復元させる。すなわち、積層ゴム120は、支承機構及び復元機構を有している。
【0050】
本実施形態のトリガー機構130は、オイルダンパーに似た形状をした摩擦トリガーであり、一端はTMD架台11に固定され、他端はFS架台110に固定されている。
【0051】
図4A、及び、
図4Bはトリガー機構130の構成の一例を示す説明図である。なお、
図4Bは
図4AのA−A断面図である。
【0052】
トリガー機構130は、板材131、圧接板材132、摩擦材133、座金134、皿ばね135、ボルト136、及びナット137を備えている。
【0053】
板材131は、トリガー機構130において長手方向の一端側(図では左側)に設けられている。板材131は、長手方向に垂直な断面がH型の鋼材である(
図4B参照)。また、板材131には、長手方向に沿った長穴131aが設けられている(
図4A参照)。
【0054】
圧接板材132は、トリガー機構130において長手方向の他端側(図では右側)に設けられている。圧接板材132は、
図4Bに示すように、長手方向に垂直な断面がU字型の形状をしており、U字の底部で板材131を挟むように当該板材131の両側に配置されている。また、圧接板材132には後述するボルト136を通す貫通孔(不図示)が形成されている。
【0055】
摩擦材133は、所定の摩擦係数のものであり、板材131と圧接板材132との間に設けられている。
【0056】
そして、
図4Bに示すように、板材131と、圧接板材132を、座金134及び皿ばね135を介して、ボルト136及びナット137で両側から締め付けている。
【0057】
図1のように配置されたトリガー機構130は、TMD架台11から伝達される力(せん断力)が所定範囲内では作動しない。すなわち、TMD架台11(換言するとTMD制振装置10)はFS架台110(換言すると建物3)に固定された状態となっている。また、トリガー機構130は、TMD架台11から伝わる力(せん断力)が所定範囲内を超えると作動する。すなわち、TMD架台11は、固定が解除されてFS架台110に対して相対変位可能になる。
【0058】
このようにトリガー機構130は、両端(長手方向の一端と他端)に加えられる力が所定範囲(摩擦材133の摩擦係数に応じた値)以下では作動しないが、その範囲を超えると作動する。上記の所定範囲はトリガー機構130(摩擦トリガー)の摩擦係数に応じて定まる。よって、フェールセーフ装置100の動作の開始が適宜のタイミングとなるようにトリガー機構130の摩擦係数を設定すればよい。
【0059】
なお、トリガー機構130は、本実施形態のように摩擦を用いた構成(摩擦トリガー)には限られず、他の構成であってもよい。例えば、TMD架台11から伝達される力が所定範囲を超えると作動する滑り支承や、ピンが破断して作動するピントリガーなどを用いてもよい。
【0060】
また、前述の実施形態ではトリガー荷重を超えるまでTMD架台11を固定していたが、完全に固定していなくてもよく、弾性固定や半固定でもよい。例えば、トリガー機構130として、リリーフ型オイルダンパーを用いてもよい。この場合、リリーフ荷重まではオリフィスによって速度の2乗に比例する特性を用いて出来るだけ大きな減衰特性を有し、リリーフ後は減衰特性が出来るだけ小さくなるものを用いればよい。
【0061】
<<TMD制振装置の動作について>>
図5は、第1実施形態のTMD制振装置10の動作の概略説明図であり、
図6は、第1実施形態のTMD制振装置10のモデル説明図である。
【0062】
地震などにより水平方向の振動が発生すると、第1質量体21と第2質量体31とは、連結部材40で連結されているため、一体となって水平方向に移動する。
【0063】
第1質量体21の質量をm1、第2質量体31の質量をm2、吊り部材22及び立設部材32の長さをL、第1質量体21及び第2質量体31の振れ角度をθとすると、このモデルの周期T(装置周期)は、次式の通りである。
【0064】
T=2π√{(L/g)×(m1+m2)/(m1−m2)×cosθ}・・式(1)
ここで、前述の通り、第2質量体31は第1質量体21よりも質量が小さく構成されているので、m1−m2>0である。
【0065】
式(1)より、周期Tは、吊り部材22や立設部材32の長さLだけでなく、第1質量体21及び第2質量体31の質量にも依存する。制振対象物を制振するためには、この周期Tを、制振対象物の固有周期に同調させる必要がある。
【0066】
また、
図5に示すように、第1質量体21と第2質量体31が水平方向に変位すると、第1質量体21と第2質量体31は鉛直方向に相対変位する。また、第1質量体21と第2質量体31が水平方向に変位すると、立設部材32が傾くことにより、ダンパー50のストロークが伸縮することになる。これにより、ダンパー50は、減衰力を発生する。
【0067】
本実施形態のTMD制振装置10では、第2質量体31とTMD架台11との間に第1質量体21を貫通する立設部材32が設けられており、この立設部材32を中心としてX方向の両側及びY方向の両側にそれぞれ(合計4つの)ダンパー50が設けられている。これにより、振動がどの方向に発生しても建物3(制振対象物)の振動を減衰させることができる。
【0068】
また、仮に、第1質量体21と第2質量体31との間にZ方向(鉛直方向)沿ったダンパーを設けると、例えば、水平面で回転するような振動が発生した場合、第1質量体21と第2質量体31とダンパーとが一体となって回転し、建物3の振動を減衰させることができないおそれがある。これに対し、本実施形態では、水平方向にダンパー50を設けているので、水平面で回転するような振動が発生した場合においても確実に建物3の振動を減衰させることができる。
【0069】
また、本実施形態では4つのダンパー50を質量体(第1質量体21及び第2質量体31)の下に配置しており、振子の可動範囲の外側にダンパーを配置しなくてもよい。さらに、各ダンパー50の接続先を一つ(立設部材32)に集約することができる。これにより、TMD制振装置10の装置の小型化を図ることができる。また、本実施形態ではダンパー50は、立設部材32のうちの比較的低い位置(立設部材32の鉛直方向の中心よりも下)に設けられている、これにより、吊り振子、及び、倒立振子の設計最大ストロークに対して、必要なダンパーストロークが小さくなり、装置の小型化を図ることができる。
【0070】
<<制振システムの設計について>>
本実施形態の制振システム1では、吊り振子と倒立振子を用いたTMD制振装置10にフェールセーフ装置100を組み合わせている。これにより、制振システム1(より具体的にはTMD制振装置10)の小型化を図ることができる。以下、この理由について説明する。
【0071】
図7A〜
図7Fは、制振システムの設計についての概略説明図である。
【0072】
図7Aは、質量Mの吊り振子が設けられた一般的なTMD制振装置の概念図である。この場合の振動の周期は、振子の長さで決まる。この長さをLとすると、周期Tは次式の通りである。
【0073】
T=2π√{(L/g)×cosθ}・・・・・・・・・・・・式(2)
式(2)より、この場合の周期Tは吊り振子の長さLにのみ依存することになる。このため、制振対象物となる建物の固有周期が長い場合、長さLを長くする必要がある。例えば、振子の最大振れ角度を30度とし、周期Tを5秒とした場合、振子の長さLは6.2m必要になる。この場合、大地震時にTMDの質量体の揺れ(振幅)は最大±2mに達する。よって、TMD制振装置はその振幅に対応する大きさにする必要がある。
【0074】
ただし、設計で想定した地震動を超える大地震動が発生した場合、TMD制振装置が損傷したり、建物が損傷したりするなどのおそれがある。
【0075】
図7Bは、
図7AのTMD制振装置の下にフェールセーフ装置を設けた場合の概念図である。ここでは、地震動の大きさを設計地震動(±2m)の1.5倍(すなわち±3m)としている。
【0076】
この場合、TMD制振装置の質量体の振幅が最大値(2m)を超えそうになると、フェールセーフ装置が作動する。フェールセーフ装置が作動するとTMD制振装置の質量体の動きが最大振幅2m以下に制限され、代わりにフェールセーフ装置が水平方向に変位する。
【0077】
図7Cは、
図7Bの改良版の概念図である。ここでは、TMD制振装置の質量体の振幅が±1mを超えそうになるとフェールセーフ装置が作動するようにしている。これにより、TMD制振装置の動きを制限するようにできる。なお、
図7Bと同等の性能を発揮するには、
図7Bの場合よりもフェールセーフ装置の動きが大きくなる。具体的には、
図7Bでは、TMD制振装置の動きが±2m、フェールセーフ装置の動きが±1mであったのに対し、
図7Cの構成では、TMD制振装置の動きが±1m、フェールセーフ装置の動きが±2mとなる。
【0078】
このようにフェールセーフ装置の設定により、TMD制振装置の水平方向(X方向、Y方向)の幅を小さくすることができる。ただし、この場合、TMD制振装置の高さは小さくならない。これは、振子式の場合、前述の式(2)より周期Tが振子の長さで決定されるからである。
【0079】
図7Dは、TMD制振装置を吊り振子と倒立振子で構成した場合の概念図である。前述したように、吊り振子と倒立振子は水平方向に一体となって移動する。吊り振子の質量はm1であり、倒立振子の質量はm2である。なお、m1>m2であり、m1とm2の合計値(m1+m2)は、
図7A〜7Cにおける質量体の質量Mと等しい。すなわち、
図7A〜
図7Cの場合とTMDの質量効果が同じである。また、吊り振子の吊り長さと倒立振子の倒立長さは等しい(長さLである)。この
図7Dでは、
図7Aと同様に、地震動を設定しており、TMD制振装置の動きは±2mとなる。
【0080】
図7Eは、
図7DのTMD制振装置にフェールセーフ装置を設けた場合の概念図である。
【0081】
ここでは、
図7Bと同様に、地震動の大きさを設計地震動(±2m)の1.5倍(±3m)としている。このため、
図7Bと同様にフェールセーフ装置を設置している。この制振システムでは、
図7Bと同様に、TMD制振装置の質量体(ここでは吊り振子と倒立振子)の振幅が最大値(2m)を超えそうになると、フェールセーフ装置が作動する。フェールセーフ装置が動作するとTMD制振装置の質量体の動きが最大振幅2m以下に制限され、代わりにフェールセーフ装置が水平方向に変位する。図では、フェールセーフ装置が水平方向に1m変位しており、TMD制振装置とフェールセーフ装置との水平方向へ変位の合計が3mとなっている。
【0082】
図7Fは、
図7Eの改良版の概念図を示す図である。ここでは、
図7Cと同様に、TMD制振装置の質量体の振幅が±1mを超えそうになるとフェールセーフ装置が作動するようにしている。これにより、TMD制振装置の動きを制限するようにでき
図7Eの場合よりも装置の幅を小さくできる。また、吊り振子の質量をm1´とし、倒立振子の質量をm2´としている。なお、m1´+m2´=m1+m2=Mであり、
図7A〜
図7Eの場合と質量効果は等しい。
図7Fの振動系(吊り振子と倒立振子)の周期Tは、前述の式(1)により建物3の固有周期と等しく設定される(
図7Eと
図7Fで周期Tが等しい)。この場合、m1´とm2´の設定によって振子の長さLを短くすることができる。本実施形態(
図7F)では、振子の長さを長さL´(<L)としている。
【0083】
具体的には、m1を0.8n(kg)、m2を0.2n(kg)とし、式(1)中のL×(m1+m2)/(m1−m2)を所定値(例えば1)にする場合、Lは0.6となる。なお、nはゼロでない定数である。これに対し、m1´を0.7n(kg)、m2´を0.3n(kg)とし、式(1)中のL×(m1+m2)/(m1−m2)を1にする場合、L´は0.4となり上述のL(=0.6)よりも小さくなる。
【0084】
このように、吊り振子の質量m1´をm1よりも小さくし、倒立振子の質量m2´をm2よりも大きく(ただし、m1´よりも小さく)し、その合計値m1´+m2´をm1+m2と等しくとすることで、L´をLよりも短く設定することができる。
【0085】
また、
図7Eの場合と
図7D、
図7Eの場合において各振子の振れ角度は等しい。このため、長さLを短く設定することにより、振子の振幅や高さを小さくでき、装置の小型化を図ることが出来る。なお、本実施形態では、TMD制震装置を構成する吊り振子の吊り長さと倒立振子の倒立長さを同じ値に設定していたが、吊り長さと倒立長さが異なっていてもよい。この場合も、フェールセーフ装置を設けることで吊り長さを短く、又は、倒立長さを短くすることができる。
【0086】
このように、吊り振子と倒立振子を備えたTMD制振装置をフェールセーフ付き制振構造とすることにより、装置の幅だけてなく、高さも小さくすることができ、装置の小型化を図ることができる。
【0087】
===第2実施形態===
図8Aは、第2実施形態の制振システム1の全体構成を示す概略説明図である。また、
図8Bは、平行リンク34の配置を説明するための平面図である。
図8Bでは第2質量体31を透過して上から第1質量体21´を見た状態を示している。なお、第1実施形態と同一構成の部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0088】
図8Aに示すように、第2実施形態の制振システム1のTMD制振装置10には、支持アーム33が設けられていない。すなわち、第2実施形態では、立設部材32のみで(一点で)第2質量体31を支持している。ただし、この場合、立設部材32が第2質量体31に対して回動可能に設けられているので、第2質量体31が水平バランスを崩すおそれがある。そこで、第2実施形態では、平行リンク34(平行保持部材に相当)を設けている。なお、第2実施形態では、支持アーム33を用いないため、
図8Bに示すように、第2実施形態の第1質量体21´には、支持アーム33を貫通させる空間が設けられていない。
【0089】
平行リンク34は、第1質量体21´の水平面と第2質量体31の水平面を平行に保持するための部材である。平行リンク34は、
図8Bに示すように、第1質量体21´と第2質量体31の間に四角形をなすようにX方向、Y方向のそれぞれに(各辺に)配設されている。
【0090】
図9は平行リンク34の概略説明図である。
図9に示すように、平行リンク34は、第1アーム341、第2アーム342、第3アーム343、第4アーム344、及び中間軸345を備えている。
【0091】
第1アーム341及び第2アーム342の一端(上端)は、水平方向(例えばX方向)に間隔をあけて第2質量体31の下面に回動可能に接続されており第1アーム341及び第2アーム342の他端(下端)は、中間軸345に回動可能に接続されている。
【0092】
また、第3アーム343及び第4アーム344の一端(下端)は、水平方向(例えばX方向)に間隔をあけて第1質量体21´の上面に回動可能に接続されており、第3アーム343及び第4アーム344の他端(上端)は、中間軸345に回動可能に接続されている。
【0093】
これにより、第1アーム341と第2アーム342が平行で、第3アーム343と第4アーム344が平行な平行リンク34が構成されている。
【0094】
仮に、
図9の平行リンク34において、第1質量体21´と第2質量体31との間に図の矢印aの圧縮力(第1アーム341の一端と第3アーム343の一端とが近接するような力)が加わるとする。すると、中間軸345が第1アーム341と第3アーム343によって図の矢印bの方向に押される。これにより第2アーム342の他端と第4アーム344の他端が図の矢印bの方向に引っ張られるので、第2アーム342と第4アーム344との間に図の破線矢印cの方向の力が働く。これにより、第1アーム341と第2アーム342が平行で、第3アーム343と第4アーム344が平行になる。第1質量体21´と第2質量体31とが離間する場合の動作についても同様である。
【0095】
このように、第2実施形態では第1質量体21´と第2質量体31との間に平行リンク34を設けているので、平行リンク34で第1質量体21´と第2質量体31とを平行に保持することができる。これにより、第2質量体31を立設部材32のみで支持することが可能である。
【0096】
この第2実施形態においても、振動がどの方向に発生しても建物3(制振対象物)の振動を減衰させることができ、また、装置の小型化を図ることができる。
【0097】
===その他の実施形態===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0098】
<TMD制振装置について>
TMD制振装置の構造は前述した実施形態には限られない。例えば、第1実施形態及び第2実施形態のTMD制振装置10の外枠(TMD架台11、上部フレーム12)以外の構成の上下を反転させた構成としてもよい。すなわち、第1質量体21を倒立振子とし第2質量体31を吊り振子としてもよい。そして、上部フレーム12と第2質量体31の間に立設部材32と同様の部材(吊設部材に相当)を設け、その部材と上部フレーム12の突起部(下方に突起させた部分)との間に水平方向にダンパー50を配置してもよい。なお、この場合、第1質量体21とTMD架台11との間には支持アーム33と同様の支持部材を設けて第1質量体21を支持する必要がある。また、吊り部材22に相当する部材は設けてもよいし、当該部材を設けずに第2実施形態のように平行リンク34を設けてもよい。
【0099】
また、前述の実施形態では、第1質量体21が第2質量体31を囲繞していた。但し、第2質量体31が第1質量体21を囲繞しても良い。この場合、第1質量体21が第2質量体31の内側に位置するため、吊り部材22の間隔を狭くできる。
【0100】
<フェールセーフ装置について>
前述の実施形態では、TMD制振装置10と建物3との間にフェールセーフ装置100を設けていたが、これには限られず、フェールセーフ装置100を設けていなくてもよい。この場合、TMD制振装置10のTMD架台11及び上部フレーム12が建物3の頂部に固定されることになる。