特許第6686797号(P6686797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6686797分光光度計における検出信号値の補正方法及び検出信号値の補正機能を備えた分光光度計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686797
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】分光光度計における検出信号値の補正方法及び検出信号値の補正機能を備えた分光光度計
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/02 20060101AFI20200413BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20200413BHJP
   G01J 3/36 20060101ALN20200413BHJP
   G01J 3/18 20060101ALN20200413BHJP
【FI】
   G01J3/02 C
   G01N21/27 Z
   !G01J3/36
   !G01J3/18
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-165235(P2016-165235)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2018-31712(P2018-31712A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2018年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真人
【審査官】 小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第09188486(US,B1)
【文献】 特開昭63−243822(JP,A)
【文献】 特開平06−167390(JP,A)
【文献】 特開2012−057944(JP,A)
【文献】 実開昭57−139849(JP,U)
【文献】 特開2006−201094(JP,A)
【文献】 特開平08−261825(JP,A)
【文献】 特開平07−318485(JP,A)
【文献】 特開2008−096241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 − G01J 4/04
G01J 7/00 − G01J 9/04
G01M 11/00 − G01M 11/08
G01N 21/00 − G01N 21/01
G01N 21/17 − G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短波長側の一定範囲を第1波長範囲、前記第1波長範囲よりも長波長側にある範囲を第2波長範囲とし、前記第2波長範囲の最長波長が前記第1波長範囲の最長波長の略2倍である測定波長範囲の光を回折格子で分光してフォトダイオードアレイに導く分光光度計の前記フォトダイオードアレイの検出信号値の補正方法であって、
前記フォトダイオードアレイにおいて前記第2波長範囲の光を検出する長波長側フォトダイオードの検出信号値に含まれる、前記第1波長範囲の光の2次回折光に由来する検出信号値の割合補正係数として決定する補正係数決定ステップと、
前記長波長側フォトダイオードの検出信号値に前記補正係数決定ステップで決定した前記補正係数を乗ずることによって前記第1波長範囲の光の2次回折光に由来する検出信号値を求め、前記長波長側フォトダイオードの検出信号値から前記2次回折光に由来する検出信号値を差し引くことで、前記長波長側フォトダイオードの検出信号値のうち前記第2波長範囲の光に由来する検出信号値を求める補正ステップと、を備えた補正方法。
【請求項2】
前記補正係数決定ステップは、
前記回折格子によって分光された前記測定波長範囲の光を前記フォトダイオードアレイに入射させ、前記長波長側フォトダイオードに入射する光から前記第1波長範囲の光を、前記第1波長範囲の光を透過させず前記第2波長範囲の光を透過させる2次回折光カットフィルタを用いて除去することにより、前記第2波長範囲の光に由来する前記長波長側フォトダイオードの検出信号値を測定する第1測定ステップと、
前記回折格子によって分光された前記測定波長範囲の光を前記フォトダイオードアレイに入射させ、前記2次回折光カットフィルタを用いることなく前記長波長側フォトダイオードの検出信号値を測定する第2測定ステップと、
前記第1測定ステップの測定値と前記第2測定ステップの測定値の比率により前記補正係数を求めるステップと、を含む請求項1に記載の補正方法。
【請求項3】
前記第1測定ステップでは、前記2次回折光カットフィルタの透過率を考慮して前記第2波長範囲の光に由来する前記長波長側フォトダイオードの検出信号値を求める請求項2に記載の補正方法。
【請求項4】
前記補正係数決定ステップは、前記第1波長範囲を含まず前記第2波長範囲を含む波長範囲の光を前記回折格子により分光して前記フォトダイオードアレイに入射させ、前記2次回折光カットフィルタを用いたときと用いないときの前記長波長側フォトダイオードの検出信号値をそれぞれ測定し、それらの測定値の比率により前記透過率を求める透過率測定ステップをさらに含む請求項3に記載の補正方法。
【請求項5】
前記分光光度計は、前記測定波長範囲の光を発する第1光源、及び前記第2波長範囲の光を発する第2光源を備えており、
前記透過率測定ステップでは前記第2光源から発せられる光を用いて前記透過率を求める請求項4に記載の補正方法。
【請求項6】
前記第1光源は重水素ランプであり、前記第2光源はハロゲンランプである請求項5に記載の補正方法。
【請求項7】
短波長側の一定範囲を第1波長範囲、前記第1波長範囲よりも長波長側にある範囲を第2波長範囲とし、前記第2波長範囲の最長波長が前記第1波長範囲の最長波長の略2倍である測定波長範囲の光を発する光源と、
前記光源からの光の光路上に配置され、試料を流通させるフローセルと、
前記フローセルを経た光を波長成分ごとに分光する回折格子と、
入射する光の光量を検出する複数のフォトダイオードを有し、前記回折格子により分光された光を波長成分ごとに検出するフォトダイオードアレイと、
前記フォトダイオードのうち前記第2波長範囲の光を検出する長波長側フォトダイオードの検出信号値に含まれる、前記第1波長範囲の光の2次回折光に由来する検出信号値の割合補正係数として保持する補正係数保持部と、
前記長波長側フォトダイオードの検出信号値に前記補正係数保持部に保持された前記補正係数を乗ずることによって前記第1波長範囲の光の2次回折光に由来する検出信号値を求め、前記長波長側フォトダイオードの検出信号値から前記2次回折光に由来する検出信号値を差し引くことで、前記長波長側フォトダイオードの検出信号値のうち前記第2波長範囲の光に由来する検出信号値を求める補正部と、を備えた分光光度計。
【請求項8】
前記回折格子と前記フォトダイオードアレイとの間に、高次回折光を除去するフィルタが配置されていない請求項に記載の分光光度計。
【請求項9】
前記測定波長範囲の光を発する第1光源、及び前記第2波長範囲の光を発する第2光源を前記光源として含む請求項又はに記載の分光光度計。
【請求項10】
前記補正係数は、前記回折格子によって分光された前記第1光源からの光を前記フォトダイオードアレイに入射させ、前記長波長側フォトダイオードに入射する光から前記第1波長範囲の光を、前記第1波長範囲の光を透過させず前記第2波長範囲の光を透過させる2次回折光カットフィルタを用いて除去することにより前記長波長側フォトダイオードで得られた第1の検出信号値と、前記回折格子によって分光された前記第1光源からの光を前記フォトダイオードアレイに入射させ、前記2次回折光カットフィルタを用いることなく前記長波長側フォトダイオードで得られた第2の検出信号値との比率であって、前記第1の検出信号値は前記2次回折光カットフィルタの透過率を考慮したものであり、
前記2次回折光カットフィルタの透過率は、前記第2光源からの光を前記回折格子により分光して前記フォトダイオードアレイに入射させ、前記2次回折光カットフィルタを用いたときと用いないときの前記長波長側フォトダイオードの検出信号値をそれぞれ測定し、それらの測定値の比率により求められたものである請求項9に記載の分光光度計。
【請求項11】
前記第1光源は重水素ランプであり、前記第2光源はハロゲンランプである請求項9又は10に記載の分光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセルからの光を回折格子を用いて波長成分ごとに分光し、分光された光をフォトダイオードアレイ(以下、PDA)を用いて波長成分ごとに検出する分光光度計とPDAの検出信号値の補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ用の検出器としてPDA分光光度計が知られている。PDA分光光度計は、試料を含む溶液を流通させるフローセルに光源から光を照射し、フローセルを透過した光又はフローセルで反射(若しくは屈折)した光を回折格子によって波長成分ごとに分光してPDAに導く。PDAには、回折格子によって分光された各波長成分の光を受光するための複数のフォトダイオードが設けられており、波長成分ごとの光を各フォトダイオードによって同時に検出してフローセルを経た光の波長スペクトルを検出することができる(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−048176号公報
【特許文献2】特開平5−133808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなPDA分光光度計では、測定波長域によっては、回折格子で分光されてPDAに入射する1次回折光に、回折格子で発生した高次回折光が重なっている場合があり、測定結果に影響を与える。そこで、そのような場合には回折格子とPDAとの間に高次の回折光を除去するためのフィルタを配置することにより、高次回折光による測定への影響を小さくしていた(特許文献2参照。)。
【0005】
しかし、回折格子とPDAとの間にフィルタを配置する場合、フィルタを保持する枠材や窓板等が必要であり、そのような枠材や窓板で反射した光が迷光となってPDAに入射し、測定に影響を与える懸念がある。
【0006】
そこで、本発明は、回折格子とPDAとの間に高次回折光を除去するフィルタを配置することなく、高次回折光による測定への影響を小さくすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
PDA分光光度計のPDAに入射する高次回折光の大部分は2次回折光であり、それ以外の高次回折光の割合は2次回折光に比べて僅かである。したがって、PDAの検出信号値から2次回折光に由来する検出信号値を除去することができれば、PDAに入射した1次回折光に由来する検出信号値に近い値を得ることができ、検出器精度の向上を図ることができる。
【0008】
ここで、ヤングの干渉条件式
dsinθ=mλ
ただし、dは格子定数、θは検出位置(°)、mは次数(整数)
からわかるように、ある波長の光の2次回折光(m=2)は、その波長の2倍の波長の光の1次回折光(m=1)と重なる。つまり200nmの2次回折光は400nmの光と同じ検出位置に来るため、重なってしまう。すなわち、ある波長範囲で発光する光源を用いた場合に、波長範囲のうち長波長側の波長範囲で短波長側の波長範囲の2次回折光が長波長側の波長範囲の光と重なって検出されるのであり、短波長側の波長範囲では、2次回折光と重なって検出されることはない。
【0009】
したがって、本発明では、第2波長範囲の最長波長が第1波長範囲の最長波長の略2倍となるように、測定波長範囲の短波長側の一定範囲を第1波長範囲、第1波長範囲よりも長波長側にある範囲を第2波長範囲と定義し、第2波長範囲の光に含まれる第1波長範囲の光の2次回折光に由来する検出信号値を除去するように補正を行なう。
【0010】
すなわち、本発明に係る補正方法は、短波長側の一定範囲を第1波長範囲、前記第1波長範囲よりも長波長側にある範囲を第2波長範囲とし、前記第2波長範囲の最長波長が前記第1波長範囲の最長波長の略2倍である測定波長範囲の光を回折格子で分光してPDAに導く分光光度計の前記PDAの検出信号値の補正方法である。当該補正方法は、
前記PDAにおいて前記第2波長範囲の光を検出する長波長側フォトダイオードの検出信号値に含まれる、前記第1波長範囲の光の2次回折光に由来する検出信号値の割合に関する補正係数を決定する補正係数決定ステップと、
前記補正係数決定ステップで決定した前記補正係数を用いて、前記長波長側フォトダイオードの検出信号値のうち前記第2波長範囲の光に由来する検出信号値を求める補正ステップと、を備えている。
【0011】
好ましい実施形態では、前記補正係数決定ステップが、
前記回折格子によって分光された前記測定波長範囲の光を前記PDA入射させ、前記長波長側フォトダイオードに入射する光から前記第1波長範囲の光を、前記第1波長範囲の光を透過させず前記第2波長範囲の光を透過させる2次回折光カットフィルタを用いて除去することにより、前記第2波長範囲の光に由来する前記長波長側フォトダイオードの検出信号値を測定する第1測定ステップと、
前記回折格子によって分光された前記測定波長範囲の光を前記PDAに入射させ、前記2次回折光カットフィルタを用いることなく前記長波長側フォトダイオードの検出信号値を測定する第2測定ステップと、
前記第1測定ステップの測定値と前記第2測定ステップの測定値の比率により前記補正係数を求めるステップと、を含んでいる。
【0012】
上記のように、2次回折光カットフィルタを使用したときと使用しないときの長波長側フォトダイオードの検出信号値を比較すれば、補正係数を求めることができる。ここで、2次回折光カットフィルタは、第1波長範囲の光を透過させず第2波長範囲の光を透過させるという性質を有するが、当該フィルタの第2波長範囲の光の透過率は100%ではない。そのため、2次回折光カットフィルタを使用したときに第2波長範囲の光もいくらか減衰している。
【0013】
そこで、さらに好ましい実施形態では、前記第1測定ステップにおいて、前記2次回折光カットフィルタの透過率を考慮して前記第2波長範囲の光に由来する前記長波長側フォトダイオードの検出信号値を求める。これにより、2次回折光カットフィルタを使用したときの第2波長範囲の光の減衰量も考慮して補正係数を決定することができるため、検出信号値の補正をより正確に行なうことができる。
【0014】
2次回折光カットフィルタの透過率を考慮するためには、2次回折光カットフィルタの透過率を知っておく必要がある。2次回折光カットフィルタの透過率として、第2波長範囲全体で一律と仮定して、その代表値や平均値を用いることもできるが、検出信号値の補正のより高い精度を求める場合には、各波長成分の正確な透過率を求める必要がある。
【0015】
そこで、さらに好ましい実施形態では、前記補正係数決定ステップが、前記第1波長範囲を含まず前記第2波長範囲を含む波長範囲の光を前記回折格子により分光して前記PDAに入射させ、前記2次回折光カットフィルタを用いたときと用いないときの前記長波長側フォトダイオードの検出信号値をそれぞれ測定し、それらの測定値の比率により前記透過率を求める透過率測定ステップをさらに含んでいる。これにより、2次回折光カットフィルタの、第2波長範囲内にある各波長成分の正確な透過率が得られ、そのような正確な透過率を考慮した検出信号値の正確な補正を行なうことができるようになる。
【0016】
本発明に係る分光光度計は、上述の補正方法を用いてPDAの検出信号値の補正を行なう機能を備えたものである。
【0017】
すなわち、本発明に係る分光光度計は、短波長側の一定範囲を第1波長範囲、前記第1波長範囲よりも長波長側にある範囲を第2波長範囲とし、前記第2波長範囲の最長波長が前記第1波長範囲の最長波長の略2倍である測定波長範囲の光を発する光源と、
前記光源からの光の光路上に配置され、試料を流通させるフローセルと、
前記フローセルを経た光を波長成分ごとに分光する回折格子と、
入射する光の光量を検出する複数のフォトダイオードを有し、前記回折格子により分光された光を波長成分ごとに検出するPDAと、
前記フォトダイオードのうち前記第2波長範囲の光を検出する長波長側フォトダイオードの検出信号値に含まれる、前記第1波長範囲の光の2次回折光に由来する検出信号値の割合に関する補正係数を保持する補正係数保持部と、
前記補正係数保持部に保持された前記補正係数を用い、前記長波長側フォトダイオードの検出信号値から前記第2波長範囲の光に由来する検出信号値を求める補正部と、を備えている。
【0018】
したがって、本発明に係る分光光度計では、回折格子とPDAとの間に、高次回折光を除去するフィルタが不要である。
【0019】
好ましい実施形態では、前記測定波長範囲の光を発する第1光源、及び前記第2波長範囲の光を発する第2光源を前記光源として含んでいる。上記補正方法で用いる2次回折光カットフィルタの透過率を求める透過率測定ステップでは、第1波長範囲を含まず第2波長範囲を含む波長範囲の光を用いる。したがって、検出器に第2波長範囲の光を発する第2光源が設けられていれば、上記透過率測定ステップを実行することができる。
【0020】
前記第1光源と前記第2光源の組合せの一例として、重水素ランプとハロゲンランプの組合せが挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る補正方法は、PDAにおいて第2波長範囲の光を検出する長波長側フォトダイオードの検出信号値に含まれる、第1波長範囲の光の2次回折光に由来する検出信号値の割合に関する補正係数を決定し、その補正係数を用いることによって長波長側フォトダイオードの検出信号値のうち第2波長範囲の光に由来する検出信号値を求めるため、長波長側フォトダイオードの検出信号値として、2次回折光に由来する検出信号値を除去した検出信号値を得ることができる。これにより、高次回折光を除去するフィルタを用いることなく、高次回折光による測定結果への影響を小さくすることができる。
【0022】
本発明に係る分光光度計は、上記補正方法を用いてPDAの検出信号値の補正を行なう機能を備えているので、高次回折光を除去するフィルタが配置されていなくても、高次回折光の影響が排除された高精度な検出信号を得ることができる。したがって、回折格子とPDAとの間に、高次回折光を除去するフィルタを配置する必要がなく、かかるフィルタの枠材や窓板で光が反射して迷光となることも防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】分光光度計の一実施例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を用いて分光光度計の一実施例について説明する。なお、ここで説明する分光光度計は本発明が適用可能な分光光度計の構成の一例に過ぎず、光源や光学系の種類や配置は必要に応じて変更することができる。
【0025】
この実施例において、測定波長範囲のうち短波長側の一定範囲を第1波長範囲、第1波長範囲よりも長波長側にある範囲を第2波長範囲と定義する。第2波長範囲の最長波長は第1波長範囲の最長波長の略2倍である。この実施例の分光光度計は、測定波長範囲(第1波長範囲及び第2波長範囲)の光を発する第1光源2と、第2波長範囲の光を発する第2光源4を備えている。この実施例では、第1光源2として200nm〜800nmの光を発する重水素ランプを用い、第2光源4として400nm〜800nmの光を発するハロゲンランプを用いている。すなわち、この実施例の測定波長範囲は200nm〜800nmである。
【0026】
第1光源2で発せられた光と第2光源4で発せられた光はハーフミラーによって合成され、測定光として集光レンズ8を介してフローセル10に照射される。フローセル10を経た光は、入口スリット12を介してミラー14、回折格子16及びPDA18を有する検出部に導入される。入口スリット12を介して検出部に導入された測定光は、ミラー14で反射して回折格子16に導かれて波長成分ごとに分光される。回折格子16で分光された各波長成分の光は、各波長成分の光を検出するように配列されたPDA18の所定のフォトダイオードに入射し、検出される。
【0027】
PDA18の各フォトダイオードの検出信号は演算処理装置20に取り込まれる。演算処理装置20は、演算部22、補正係数保持部24及び補正部26を備えている。演算処理装置20は、例えば専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータにより実現され、演算部22及び補正部26はそのようなコンピュータの記憶装置に記憶されたプログラムが演算素子によって実行されることによって得られる機能であり、補正係数保持部24はそのようなコンピュータの記憶装置の一部の領域によって実現される機能である。
【0028】
演算部22は、PDA18から取り込んだ検出信号に基づいて、フローセル10を流れる試料溶液の吸光度スペクトル等を演算により求めるように構成されている。ここで、PDA18の検出信号値には、回折格子16で分光された各波長成分の1次回折光に由来する検出信号値のほかに、回折格子16で発生した高次の回折光に由来する検出信号値が含まれている。そこで、PDA18から取り込んだ検出信号値から高次の回折光に由来する検出信号値を除去するための補正を行ない、演算部22は補正後の検出信号値に基づいて吸光度スペクトル等を求めるように構成されている。
【0029】
補正部26は、次式を用いて、PDA18から取り込んだ検出信号値の補正を行なうように構成されている。
I'λ=Iλ−K×Iλ (1)
【0030】
上記(1)式において、Iλは波長λの光を検出するフォトダイオードの検出信号値、I'λは波長λの光を受光するフォトダイオードの補正後の検出信号値、Kは補正係数である。補正係数Kは、各フォトダイオードの検出信号値における2次回折光に由来する検出信号値の割合を示す係数であって、予め測定により求められた実測値である。補正係数Kは補正係数保持部24に保持されている。
【0031】
補正部26により補正された検出信号値に基づいた吸光度スペクトル等の演算がなされるため、この実施例の分光光度計は、回折格子16とPDA18との間に高次回折光を除去するためのフィルタが存在しない。したがって、そのようなフィルタを保持する枠材や窓板等も不要となり、それらの部材で反射した光が迷光となってPDA18に入射することがなくなるので、迷光が低減され、検出感度が向上する。
【0032】
次に、上記分光光度計を用いて補正係数Kを決定する方法について、以下に説明する。
【0033】
既述のように、PDA18に入射する高次回折光の大部分は2次回折光であり、それ以外の高次回折光の割合は2次回折光に比べて僅かである。したがって、PDA18の検出信号値から2次回折光に由来する検出信号値を除去すれば、PDAに入射した1次回折光に由来する検出信号値に近い値を得ることができる。
【0034】
ここで、PDA18に入射する波長λの光の1次回折光に重なって入射するのは、波長がλ/2の光の2次回折光であることがわかっている。したがって、波長λの光を検出するフォトダイオードの検出信号値Iλは、波長λの光の1次回折光に由来する検出信号値I'λと波長λ/2の光の2次回折光に由来する検出信号値Iiiλ/2を用いて次式のように表すことができる。
λ≒I'λ+Iiiλ/2 (2)
【0035】
ここで、
(Iiiλ/2)/Iλ=K (3)
とすると、上記(2)式は(1)式と同じ式となる。すなわち、Kは、波長λの光を検出するフォトダイオードの検出信号値Iλにおける波長λ/2の光の2次回折光に由来する検出信号値Iiiλ/2の割合を表わす係数である。
【0036】
Kを求めるために、第1光源2と第2光源4をそれぞれ別個に点灯させてPDA18の検出信号値を測定する。以下、それぞれの光源を用いて測定について説明する。
【0037】
<第1光源:重水素ランプ>
重水素ランプである第1光源2のみを点灯させてPDA18の検出信号値を測定する。重水素ランプは200nm〜800nmの波長の光を発する。2次回折光はその2倍の波長の1次回折光と重なって検出されるため、重水素ランプを用いた場合には、200nm〜400nm(第1波長範囲)の光には2次回折光が重ならないが、400nm〜800nm(第2波長範囲)の光に200nm〜400nm(第1波長範囲)の2次回折光が重なる。
【0038】
したがって、200nm≦λ<400nmの範囲では、2次回折光に由来する検出信号値は0であるから、上記(3)式は
λ≒I'λ+0
となり、K=0となる。
【0039】
一方で、400nm≦λ≦800nmの範囲については、波長200nm〜400nm(第1波長範囲)の光を透過させず、400nm〜800nm(第2波長範囲)の光を透過させる2次回折光カットフィルタを用いた場合と用いない場合とで、検出信号値を比較して補正係数Kを決定する。
【0040】
まず、2次回折光カットフィルタを用いないで検出信号値Iを測定する。測定された検出信号値Iは、2次回折光に由来する検出信号値I1iiλ/2を含んでいるため、
≒I'+I1iiλ/2
=I'+K×I (4)
と表すことができる。
【0041】
次に、2次回折光カットフィルタを用いて検出信号値I1λ(filter)を測定する。測定された検出信号値I1λ(filter)は、2次回折光に由来する検出信号値を含んでいないため、この検出信号は1次回折光に由来する検出信号値I'のみを含むものであるといえる。ただし、2次回折光カットフィルタの400nm〜800nm(第2波長範囲)における透過率Tを考慮すれば、
1λ(filter)=T×I' (5)
と表すことができる。
したがって、上記(4)、(5)式より、補正係数Kは、
K=1−I1λ(filter)/(T×I) (6)
と表すことができる。
【0042】
ここで、2次回折光カットフィルタの透過率Tを考慮しないのであれば、上記式(6)のTを1とすることによってKを求めることができる。また、この第2波長範囲における2次回折光カットフィルタの透過率Tが一様なものであると仮定して、その代表値や平均値(例えば0.97)等を用いてもよい。透過率Tを考慮しない(T=1とする)場合やTの代表値等を用いる場合には、以下に説明する第2光源4(ハロゲンランプ)を用いた測定は不要である。
【0043】
<第2光源:ハロゲンランプ>
次に、上記(5)式における透過率Tを正確に求めるために、第2光源4を点灯させ、上記の2次回折光カットフィルタを用いた場合と用いない場合とで、検出信号値の測定を行なう。ハロゲンランプである第2光源4は、400nm〜800nm(第2波長範囲)の光を発する。第2光源4のみを点灯させた場合には波長200nm〜400nm(第1波長範囲)の光が存在しないため、この第2波長範囲の光を検出するフォトダイオードに2次回折光が入射しない。
【0044】
まず、2次回折光カットフィルタを用いないで検出信号値Iを測定する。測定された検出信号値Iは、2次回折光に由来する検出信号値を含んでいないため、
=I' (7)
と表すことができる。
【0045】
次に、2次回折光カットフィルタを用いて検出信号値I2λ(filter)を測定する。測定された検出信号値I2λ(filter)は、
2λ(filter)=T×I' (8)
と表すことができる。
【0046】
上記(7)、(8)式より、
T=I2λ(filter)/I (9)
としてTを求めることができる。上記(9)式により得られたTを上記(6)式に適用することにより、2次回折光カットフィルタの透過率Tを考慮した正確な補正係数Kを得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
2 第1光源
4 第2光源
6 ハーフミラー
8 集光レンズ
10 フローセル
12 入口スリット
14 ミラー
16 回折格子
18 フォトダイオードアレイ(PDA)
20 演算処理装置
22 演算部
24 補正係数保持部
26 補正部
図1