(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば親子鑑定、細菌やウイルスなどのDNAの測定において、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)を行う装置が用いられる。PCR法を行う装置においては、液体状の測定試料を一定の温度に加熱する、あるいは、周期的な温度パターンで繰り返し加熱する目的で、測定試料が収容された試料容器(PCRチューブ)を加熱するヒーターが備えられている。
測定試料を加熱する場合、PCRチューブの例えば下部のみを加熱すると、測定試料中の水分が蒸発して当該PCRチューブ内の天井面に結露してしまい、その結果、測定試料中の目的物質の濃度が変化してしまう。
このような濃度の変化を防止するため、PCRチューブの上部および下部の両方を加熱することが行われている。
【0003】
このような加熱処理を行う装置として、特許文献1には、PCRチューブを収納する測定部の蓋(リッド体)に上部ヒーター部材が内蔵されたサーマルサイクラーが開示されている。このサーマルサイクラーにおいて、上部ヒーター部材は、リッド体の裏面における、リッド体を閉状態としたときに当該上部ヒーター部材がPCRチューブの上面に対接する位置に、露出して設けられている。
【0004】
一方、近年、ライフサイエンス分野では、ポイントオブケア検査に用いることなどを目的に、加熱機構を有する吸光度測定器や蛍光測定器などの光学測定器についても、携帯可能なものとすることが求められている。
そして、このような携帯可能な光学測定器においてもリッド体にヒーターが設けられており、加熱処理直後には、PCRチューブの上部(蓋部)の温度は例えば80〜120℃と高温になるので、加熱処理直後の当該PCRチューブの蓋部に触れると火傷等を負うおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の光学測定器の具体的な構成の一例におけるリッド体の閉状態を、試料チューブが装着された状態で示す断面図、
図2は、
図1の光学測定器の、リッド体の開状態を示す断面図、
図3は、
図1の光学測定器における冷却風供給口を拡大して示す断面図、
図4は、
図1の光学測定器における整流板およびリンクアームを拡大して示す側面図である。
この光学測定器10は、例えば測定試料における測定対象物質の濃度などを吸光度として測定するための可搬式の吸光度測定器として構成することができる。測定対象物質は、例えば大腸菌、タンパク質、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅されて得られたDNAや、色素などである。
【0012】
光学測定器10には、測定試料が収容された試料チューブWが配置され、加熱処理および一定の温度条件で吸光度測定などの光学測定処理を行う光学測定部20が設けられた略直方体形の筺体11と、当該筺体11に開閉自在に取り付けられ、下方に開口するカップ状のケーシング13を有するリッド体12とよりなる。
【0013】
筺体11内には、当該筺体11における前方側(
図1において右側)の領域に試料チューブWが配置される光学測定部20が設けられている。また、筺体11の下面(
図1において下面)には筺体11を水平な支持面上に支持する支持脚17が設けられている。
【0014】
光学測定部20には、測定試料が装填された試料チューブWが挿入される、上方に開口する試料チューブ受容穴(図示せず)が形成されたチューブ支持体25が配置されている。
試料チューブ受容穴は、底部に向かって小径となる上下方向(
図1において上下方向)に伸びるテーパ状の穴である。
試料チューブ受容穴は、PCRチューブ、または、試料チューブ、例えば1.5mLの試料チューブ若しくは2.0mLの試料チューブに対応する形状および大きさとすることができる。
【0015】
チューブ支持体25を形成する材料としては、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーン樹脂若しくはアルミニウムなどの金属、ポリカーボネートなどの樹脂を用いることができる。
【0016】
光学測定部20において、試料チューブ受容穴は、例えば、筺体11の左右方向(
図1において紙面に垂直な方向)に伸びる試料チューブ配置領域に、複数、例えば4本または8本形成されている。
従って、本発明の光学測定器10においては、例えば4本または8本の試料チューブWについて一括して光学処理や加熱処理などを行うことができる。
【0017】
リッド体12は、閉状態においてチューブ支持体25の試料チューブ受容穴の開口を塞ぎ、開状態において試料チューブ受容穴の開口を露出させるものである。
【0018】
リッド体12の開閉機構は、当該リッド体12を、下方に開口する姿勢が維持されたまま、前方下側(
図1において左方下側)の閉状態と、後方上側(
図1において右方上側)の開状態との間を略円軌道で自在に移動するものである。
具体的には、リッド体12には、ケーシング13の天板13aに、試料チューブ配置領域が伸びる方向に伸びるリンクプレート26が間隙を介してネジ27によって固定されている。リッド体12は、このリンクプレート26の両側面に1つずつ取り付けられた一対のリンクアーム31を備えたリンク機構を介して、筺体11に結合されている。リンクアーム31は、各々2本のリンクバー31aからなる。各リンクバー31aの基端部(筺体11側の端部)は、筺体11の上面から鉛直上方に向かって突出する突起板33に枢支軸を介して揺動自在に取り付けられており、各リンクバー31aの先端部(リッド体12側の端部)は、リッド体12の頂部の下面から鉛直下方に向かって突出する突起板35に枢支軸を介して揺動自在に取り付けられている。
リッド体12の閉状態においては、上部ヒーター部材22が試料チューブWの上面に押圧されてその上面に対接されると共に、開口端面が筺体11の上面に対接される。一方、リッド体12の完全な開状態においては、上方からの平面視において試料チューブ受容穴または試料チューブ受容穴に挿入された試料チューブWの全てが見える状態に、リッド体12が筺体11の後方側(
図1において左側)の上部領域に突出するよう設けられた接触防止用凸部19の上方に位置する。リッド体12においては閉状態、開状態および開閉動作状態のいずれにおいても、常に下方に開口する姿勢が維持されている。
なお、
図1および
図2において、18はリッド体12の閉状態を確実に維持するためのバックルである。
【0019】
光学測定器10には、光学測定部20に配置された試料チューブW内の測定試料を、一定の温度に加熱する、あるいは、あらかじめ設定された温度パターンで加熱する加熱機構が備えられている。
【0020】
加熱機構は、上部ヒーター部材22および下部ヒーター部材23を有し、試料チューブWを上下から加熱するものとされる。
具体的には、上部ヒーター部材22は、リッド体12の内部において、ケーシング13に取り付けられたリンクプレート26の下面(
図1において下面)に下方に露出するよう設けられ、当該リッド体12が閉状態とされることにより全ての試料チューブWの上面に押下ピン(図示せず)により断熱樹脂製の押圧ブロック28を介して押圧されてその上面に対接するよう配置されるものである。また、下部ヒーター部材23は、試料チューブ受容穴の下部に近接するようチューブ支持体25の下部に配置されたものである。
図1および
図2において、29Aおよび29Bは、それぞれ上部ヒーター部材22および下部ヒーター部材23の温度を検知する温度測定手段である。
【0021】
上部ヒーター部材22は、ポリイミドフィルム中にステンレス製の抵抗線によるパターンが貼り付けられてなるシート状ヒーター22aと、当該シート状ヒーター22aの裏面に積層された、シート状ヒーター22aからの熱を均質に試料チューブWに伝熱するためのアルミニウム板22bとからなる。
下部ヒーター部材23としては、ポリイミドフィルム中にステンレス製の抵抗線によるパターンが貼り付けられてなるシート状ヒーターを用いることができる。
【0022】
上部ヒーター部材22および下部ヒーター部材23は、各々独立して温度状態を制御することができる。各々のヒーターの設定温度は、35℃〜最大120℃とすることができる。
上部ヒーター部材22および下部ヒーター部材23による加熱温度としては、試料チューブWの天井面における結露を防止する観点から、上部ヒーター部材22による温度が下部ヒーター部材23による温度よりも高いことが好ましい。
具体的には、光学測定部20において試料チューブWを加熱する上部ヒーター部材22の電力は約19W、当該上部ヒーター部材22に接触される試料チューブWの蓋の温度は例えば80〜120℃とされる。
【0023】
この光学測定器10には、リッド体12の開状態において上部ヒーター部材22に外部の物体が接触することを阻害する安全機構が設けられている。
安全機構は、具体的には、リッド体12の開状態において当該リッド体12と筺体11の上面との間隙を狭める板状の接触防止部材30によって構成されている。また、接触防止用凸部19によっても構成されている。
接触防止部材30は、筺体11の上面から、開状態のリッド体12の前方側(
図1において左側)の開口端面に近接する位置まで、上下方向に伸びる状態に形成されている。
接触防止部材30を構成する材料としては、例えばステンレス鋼(SUS)板やアルミニウム板、ポリカーボネート板などを用いることができる。
【0024】
そして、光学測定部20には、上部ヒーター部材22やこれに加熱された試料チューブWなどを循環冷却風によって急速に冷却する冷却機構が設けられている。
冷却機構は、筺体11内に設けられた冷却ファン16と、筺体11における、リッド体12の閉状態において当該リッド体12に対向する面に開口された、リッド体12の内部に冷却風を供給する冷却風供給口14と、当該冷却風供給口14からの冷却風を上部ヒーター部材22に向かう状態とする整流板36とを有する。また、吸気口15Aが筺体11の後方側(
図1において右側)に開口されると共に、リッド体12のケーシング13の移動方向の後方側に排気口15Bが開口されている。
【0025】
冷却風供給口14は、例えば筺体11の天板11aに開口された、一対のリンクアーム31が離間する方向すなわち試料チューブ配置領域が伸びる方向に伸びるスリットよりなるものとすることができる。
冷却風供給口14を構成するスリットは、当該スリットから供給される冷却風が整流板36に向かう状態とされるよう、このスリットの少なくとも一つの長手方向(
図1において紙面と垂直な方向)の側面が、筐体11の天板11aに対して傾斜したものとされている。スリットの側面がこのような傾斜を有することにより、整流板36がスリットの真上にない場合にも冷却風を整流板36に容易に導くことができる。
冷却風供給口14を構成するスリットの側面の傾斜角度αは、例えば30〜45°とされることが好ましい。
【0026】
整流板36は、試料チューブ配置領域が伸びる方向(
図1において紙面に垂直な方向)に伸びる板状部36Aと、当該板状部36Aにおける上部ヒーター部材22に対応する領域における上部および下部に、当該板状部36Aと連続し、端部に向かうに従って上部ヒーター部材22に接近するよう傾いた状態に突出する上部ウィング36Bおよび下部ウィング36Cとを有する形状のものである。
【0027】
光学測定器10の各部の寸法の一例を挙げると、筺体11は、横幅(
図1において紙面に垂直な方向の長さ)が312mm、縦幅(
図1において左右方向の長さ)が190mm、リッド体12を閉状態としたときの高さ(
図1において上下方向の長さ)が92mm、重さが2kgである。また、リッド体12は、横幅(
図1において紙面に垂直な方向の長さ)が141mm、縦幅(
図1において左右方向の長さ)が105mm、高さ(
図1において上下方向の長さ)が35mmである。筺体11の上面からリッド体12の上面までの高さは、リッド体12の閉状態において35mm、リッド体12の開状態において53mmである。
リンクアーム31は、これを構成する一方のリンクバー31aの外端から他方のリンクバー31aの外端までの幅が30mm、1つのリンクバー31aの長さが47mm、高さが、リッド体12が閉状態において43mm、開状態において25〜28mmである。
リンクプレート26は、長さ(
図1において紙面に垂直な方向の長さ)が122mmである。
整流板36は、上部ウィング36Bおよび下部ウィング36Cの長さ(
図1において紙面に垂直な方向の長さ)が70mm、板状部36A、上部ウィング36Bおよび下部ウィング36Cを合計した幅(
図1において左右方向の長さ)が約30mm、厚みが1.5mmである。
冷却風供給口14を構成するスリットは、長さ(
図1において紙面に垂直な方向の長さ)が17.5mm、幅(
図1において左右方向の長さ)が4mmである。
【0028】
光学測定器10においては、まず、リッド体12が開状態とされた状態において試料チューブ受容穴に試料チューブWを挿入し、次いで、リッド体12を閉状態としてバックル18を係止することにより上部ヒーター部材22が試料チューブWの上面に対接される。この状態において適宜の加熱処理を行った後、リッド体12が閉状態とされたまま冷却処理を行う。具体的には、吸気口15Aから吸気された冷却風は、冷却ファン16、スリットよりなる冷却風供給口14、整流板36と接触防止部材30との隙間をこの順に介して上部ヒーター部材22に供給されてこれを冷却する。その後、冷却風は、リンクプレート26とリッド体12のケーシング13の天板13aとの隙間、整流板36と天板13aとの隙間をこの順に介して排気口15Bから光学測定器10の後方側すなわち操作者がいる前方側と反対側に排気される。その後、バックル18を開け、リッド体12を後方上側の接触防止用凸部19の上方に略円軌道で筺体11の上面から離間するよう移動させて開状態とさせる。このリッド体12の開状態においては、吸気口15Aから吸気された冷却風は、冷却ファン16、スリットよりなる冷却風供給口14をこの順に介して上部ヒーター部材22に供給されてこれを冷却する。その後、冷却風は、リンクプレート26とリッド体12のケーシング13の天板13aとの隙間、整流板36と天板13aとの隙間をこの順に介して排気口15Bから光学測定器10の後方側に排気される。この状態において冷却された試料チューブWを安全に抜くことができる。
このように、リッド体12の閉状態および開状態のいずれの場合においても、冷却風は上部ヒーター部材22に接触するように流れる。
【0029】
以上の光学測定器10においては、リッド体12の内部に冷却風を供給する冷却風供給口14が設けられると共に、当該冷却風供給口14からの冷却風をリッド体12内に設けられた上部ヒーター部材22に向かう状態とする整流板36が設けられている。従って、上部ヒーター部材22を使用して測定試料を加熱後に冷却する際に、冷却風供給口14からの冷却風の風向きが当該上部ヒーター部材22に当たるよう調整されるので、当該上部ヒーター部材22が効率よく冷却される。これに伴い、リッド体12の閉状態においては試料チューブWの蓋の温度も早期に低下させることができ、試料チューブWの取り出しなどにおいて指で触ったときにも火傷を負うことが抑止される。
また、上部ヒーター部材22の冷却時間が短縮されることにより、加熱処理のタクトタイムを向上させることができる。
さらに、整流板36が一対のリンクアーム31の間に設けられている構成によれば、リンクアーム31と一体的に動作されることとなり、光学測定器10自体の省スペース化を図ることができる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明の光学測定器は、光学測定部とは別個に、これと独立して動作される加熱処理部が1つの筺体に共通して設けられた構成のものとされていてもよい。この場合、光学測定部と加熱処理部とは例えばリッド体の開閉方向と垂直な方向(
図1において紙面と垂直な方向)に離間して設けられ、光学測定部および加熱処理部に対して各々整流板が設けられたリッド体が配置される。このような加熱処理部は、例えば加熱処理のみを行う前処理部として用いる。
このような光学測定器において、前処理部の上部ヒーター部材の加熱温度は例えば120℃、下部ヒーター部材の加熱温度は例えば98℃とされ、光学測定部の上部ヒーター部材の加熱温度は例えば80℃、下部ヒーター部材の加熱温度は例えば63℃とされる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1〕
図1に示される光学測定器を作製した。光学測定器の各寸法は以下の通りとした。これを光学測定器〔1〕とする。
<筺体>
・横幅:312mm、縦幅:190mm、リッド体を閉状態としたときの高さ:92mm、重さ:2kg
<リッド体>
・横幅:141mm、縦幅:105mm、閉状態における高さ:35mm、開状態における高さ;53mm
<リンクアーム>
・幅:30mm、長さ:47mm、リッド体の閉状態における高さ:28mm、リッド体の開状態における高さ:43mm
<リンクプレート>
・長さ:122mm
<整流板>
・上部ウィングおよび下部ウィングの長さ:70mm、幅:30mm、厚み:1.5mm
<スリット>
・長さ:17.5mm、幅:4mm
<上部ヒーター部材>
・電力:19W
【0033】
上記の光学測定器〔1〕に試料チューブ(PCRチューブ)をセットしてヒーター(熱電対)の温度が120℃となるまで昇温し、700秒間以上120℃に保った後、冷却ファンを作動させてしてヒーターを冷却する加熱−冷却実験を行った。結果を
図5に曲線aとして示す。
【0034】
〔比較例1〕
実施例1に用いた光学測定器において、整流板が設けられていないこと以外は同様の比較用の光学測定器〔2〕を作製した。
この光学測定器〔2〕を用いて、上記の光学測定器〔1〕と同様にして加熱−冷却実験を行った。結果を
図5に曲線bとして示す。
【0035】
図5のグラフから明らかなように、リッド体の上部ヒーター部材の温度が120℃から40℃に低下するまでの時間は、整流板を設けない比較例1に係る光学測定器〔2〕においては1020秒間であるのに対し、整流板を設けた本発明の実施例1に係る光学測定器〔1〕においては630秒間であり、約40%短縮されることが確認された。
比較例1に係る光学測定器〔2〕においては、整流板が設けられていないことによって、供給された冷却風が上部ヒーター部材の上方空間に滞留してしまい、上部ヒーター部材が冷却されるまでに長時間を要するものと考えられる。