【文献】
WANG Siqun et al.,Peptides with selective affinity for carbon nanotubes,nature materials,2003年 2月16日,vol.2,pp.196-200
【文献】
SU Zhengding et al.,Conformational Selectivity of Peptides for Single-Walled Carbon Nanotubes,The Journal of Physical Chemistry B Letters,2006年 9月11日,vol.110,pp.23623-23627
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のペプチド、請求項2〜6のいずれか一項記載の融合タンパク質、または請求項10または11記載の多量体と、ナノ炭素化合物とを接触させることを含む、ペプチド、タンパク質または多量体とナノ炭素化合物との吸着方法。
請求項3〜6のいずれか一項記載の融合タンパク質、または請求項10または11記載の多量体を用いて、ナノ炭素化合物と標的物質とを接着させることを含む、ナノ炭素化合物および標的物質を含む複合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ペプチド)
本発明は、ペプチドを提供する。本発明のペプチドは、例えば、生物学的手法により作製することができ、また、有機化学的方法により合成することができる。本発明のペプチドは、単離および/または精製されていてもよい。本発明のペプチドは、人工ペプチドであり得る。
【0012】
本発明のペプチドは、以下からなる群より選ばれるペプチドであってもよい:
1)KVWDLRMPHIVT(配列番号1)のアミノ酸配列を含むペプチド;
2)ALSSHYIMKSHK(配列番号2)のアミノ酸配列を含むペプチド;
3)KVWPNMFANENI(配列番号3)のアミノ酸配列を含むペプチド;
4)HTLSSHYMRGGH(配列番号4)のアミノ酸配列を含むペプチド;
5)KVMPPNHMTHWA(配列番号5)のアミノ酸配列を含むペプチド;
6)KIWSVPQLLHYT(配列番号6)のアミノ酸配列を含むペプチド;
7)KIWDLWKSEGAW(配列番号7)のアミノ酸配列を含むペプチド;ならびに
8)配列番号1〜7のアミノ酸配列のいずれか一つのアミノ酸配列において1個または2個のアミノ酸残基が欠失、置換、付加または挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ、ナノ炭素化合物結合活性を有する、ペプチド。
【0013】
本発明では、ナノ炭素化合物結合活性とは、ナノ炭素化合物に結合する能力をいう。本発明では、ナノ炭素化合物とは、炭素原子とその結合からできた六角形格子構造からなるナノサイズの炭素化合物をいう。ナノ炭素化合物としては、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン、ナノダイヤモンド、およびフラーレンが挙げられる。本発明では、カーボンナノチューブが好ましい。カーボンナノチューブとしては、例えば、単層カーボンナノチューブ、および複層カーボンナノチューブが挙げられる。ナノ炭素化合物結合活性の程度は、ナノ炭素化合物に結合する能力を保持する限り特に限定されないが、例えば、元のアミノ酸配列からなるペプチドのナノ炭素化合物結合活性の約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上または同等以上であってもよい。ナノ炭素化合物結合活性の程度は、例えば、実施例2に記載されるように、ファージパニングにおいてpfu値を指標として評価することができる。
【0014】
上述した8)のペプチドにおいて、置換、付加または挿入されるアミノ酸残基は、天然タンパク質を構成する通常のL−α−アミノ酸である。このようなアミノ酸残基としては、例えば、L−アラニン(A)、L−アスパラギン(N)、L−システイン(C)、L−グルタミン(Q)、L−イソロイシン(I)、L−ロイシン(L)、L−メチオニン(M)、L−フェニルアラニン(F)、L−プロリン(P)、L−セリン(S)、L−スレオニン(T)、L−トリプトファン(W)、L−チロシン(Y)、L−バリン(V)、L−アスパラギン酸(D)、L−グルタミン酸(E)、L−アルギニン(R)、L−ヒスチジン(H)、L−リジン(K)、およびグリシン(G)が挙げられる。
【0015】
アミノ酸残基が置換により変異される場合、アミノ酸残基の置換は、保存的置換であってもよい。本明細書中で用いられる場合、用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有する塩基性アミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有する酸性アミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有する中性アミノ酸〔例、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、および非極性側鎖を有するアミノ酸(例、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)〕、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0016】
本発明のペプチドは、例えば、ナノ炭素化合物結合剤として、タンパク質の精製用タグとして、ならびに本発明の融合タンパク質、多量体または複合体の作製に有用である。
【0017】
(融合タンパク質)
本発明はまた、本発明のペプチドとタンパク質との融合タンパク質を提供する。本発明において、用語「タンパク質」は、ポリペプチドと同義の表現であり、用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は交換可能に使用される。本発明のペプチドと融合されるタンパク質としては、任意のタンパク質を用いることができ、例えば、精製が意図されるタンパク質、多量体を形成し得るタンパク質(例、内腔を有する多量体を形成し得るタンパク質)が挙げられる。タンパク質に対する本発明のペプチドの融合は、タンパク質のN末端またはC末端のいずれか一方または双方で行われる。本発明のペプチドは、ファージパニングにより得られたペプチドである。ファージパニングは、外来DNAをファージのコートタンパク質をコードする遺伝子中に挿入し、その外来DNAの産物をコートタンパク質との融合タンパク質としてファージ粒子表面に提示させる方法である。したがって、このような手法により取得された本発明のペプチドは、タンパク質と融合された状態において、その機能を発揮できることが実証されている。
【0018】
一実施形態では、本発明の融合タンパク質は、(i)ポリペプチド部分、ならびに(ii)標的物質に結合し得るペプチド部分、および(iii)本発明のペプチドの部分を含んでいてもよい。ポリペプチド部分は、上述した用語「タンパク質」と同義である。
【0019】
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、(i’)内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分、ならびに(ii)標的物質に結合し得るペプチド部分、および(iii)本発明のペプチドの部分を含んでいてもよい。
【0020】
用語「内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分」とは、内部に空間を有する多量体を、ポリペプチド部分の会合によって、形成する能力を有するポリペプチド部分をいう。このようなポリペプチド部分としては、幾つかのタンパク質が知られている。例えば、このようなポリペプチド部分としては、内腔を有する24量体を形成し得るフェリチン、および内腔を有する多量体を形成し得るフェリチン様タンパク質が挙げられる。内腔を有する多量体を形成し得るフェリチン様タンパク質としては、例えば、内腔を有する12量体を形成し得るDps(DNA−binding protein from starved cells)が挙げられる。Dpsは、分子量約18kDaの単量体単位からなる12量体を形成することにより、約5nmの直径の内腔を有する外径9nmからなるかご状構造を形成し、この内腔中に、鉄分子を酸化鉄ナノ粒子として貯蔵できる。さらに、フェリチンでは、鉄以外にも、ベリリウム、ガリウム、マンガン、リン、ウラン、鉛、コバルト、ニッケル、クロムなどの金属の酸化物、また、セレン化カドミウム、硫化亜鉛、硫化鉄、硫化カドミウムなどの半導体・磁性体などのナノ粒子を人工的に貯蔵させられることが示されており、半導体材料工学分野や医療分野での応用研究が盛んにおこなわれている(I.Yamashita et al.,Biochem Biophys.Acta,2010,vol.1800,p.846.)。内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分は、微生物、植物および動物等の任意の生物に由来する、天然に生じるタンパク質であっても、または天然に生じるタンパク質の変異体であってもよい。以下、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分を、単にポリペプチド部分と称する場合がある。内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分としては、そのN末端部およびC末端部が多量体の表面に露出し得るものが好ましい。
【0021】
内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分は、そのN末端部およびC末端部を多量体構造の表面に露出するものであっても露出しないものであってもよいが、そのN末端部およびC末端部を多量体構造の表面に露出しているものが好ましい。
【0022】
好ましくは、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分は、Dpsである。本発明で用いられる用語「Dps(DNA−binding protein from starved cells)」とは、上述したような、内腔を有する12量体を形成し得るタンパク質をいう。用語「Dps」には、天然に生じるDpsまたはその変異体が含まれる。天然に生じるDpsの変異体としては、天然に生じるDpsと同様に、12量体を形成したときに、そのN末端部およびC末端部が12量体の表面に露出し得るものが好ましい。なお、Dpsは、それが由来する細菌の種類によってはNapA、バクテリオフェリチン、Dlp、MrgAまたはDps様タンパク質と称呼される場合があり、また、Dpsには、DpsA、DpsB、Dps1、Dps2等のサブタイプが知られている(T.Haikarainen and A.C.Papageorgion, Cell.Mol.Life Sci.,2010 vol.67,p.341を参照)。したがって、本発明では、用語「Dps」は、これらの別名で称呼されるタンパク質も含むものとする。Dpsは、当該技術分野において周知である(例、国際公開第2012/086647号、国際公開第2013/022051号等を参照)。
【0023】
Dpsが由来し得る微生物としては、Dpsを産生する微生物である限り特に限定されないが、例えば、リステリア(Listeria)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、バチルス(Bacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ビブリオ(Vibrio)属、エスケリシア(Escherichia)属、ブルセラ(Brucella)属、ボレリア(Borrelia)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、サーモシネココッカス(Thermosynechococcus)属、およびデイノコッカス(Deinococcus)属、パイロコッカス(Pyrococcus)属、ならびにコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌が挙げられる。
リステリア属に属する細菌としては、例えば、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)が挙げられる。スタフィロコッカス属に属する細菌としては、例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus Aureus)が挙げられる。バチルス属に属する細菌としては、例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)が挙げられる。ストレプトコッカス属に属する細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス スイス(Streptococcus suis)が挙げられる。ビブリオ属に属する細菌としては、例えば、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)が挙げられる。エスケリシア属に属する細菌としては、例えば、エスケリシア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。ブルセラ属に属する細菌としては、例えば、ブルセラ・メリテンシス(Brucella Melitensis)が挙げられる。ボレリア属に属する細菌としては、例えば、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia Burgdorferi)が挙げられる。マイコバクテリウム属に属する細菌としては、例えば、マイコバクテリウム・スメグマティス(Mycobacterium smegmatis)が挙げられる。カンピロバクター属に属する細菌としては、例えば、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)が挙げられる。サーモシネココッカス属に属する細菌としては、例えば、サーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus Elongatus)が挙げられる。デイノコッカス属に属する細菌としては、例えば、デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus Radiodurans)が挙げられる。パイロコッカス(Pyrococcus)属に属する細菌としては、例えば、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)が挙げられる。コリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)が挙げられる。
好ましくは、Dpsは、リステリア・イノキュアまたはエスケリシア・コリ、あるいはコリネバクテリウム・グルタミカムに由来するDpsであり得る。
【0024】
用語「標的物質に結合し得るペプチド部分」とは、任意の標的物質に対して親和性を有するペプチドを有し、かつ当該標的物質に対して結合できる部分をいう。標的物質に対して親和性を有する種々のペプチドが知られているので、本発明では、このようなペプチドを有する部分を、上記ペプチド部分として用いることができる。標的物質に結合し得るペプチド部分は、任意の標的物質に対して親和性を有する1個のペプチドのみを有していてもよいし、あるいは任意の標的物質に対して親和性を有する同種または異種の複数(例、2個、3個、4個、5個または6個等の数個)のペプチドを有していてもよい。例えば、標的物質に結合し得るペプチド部分が、任意の標的物質に対して親和性を有する異種の複数のペプチドを有する場合、当該ペプチド部分としては、カーボンナノ材料と結合し得るP1ペプチドと、チタン材料またはシリコン材料に結合し得るR5ペプチドとの融合ペプチドであるP1R5ペプチドを用いることができる(例、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40−44を参照)。標的物質に結合し得るペプチド部分が上記のような複数のペプチドを有する場合、複数のペプチドは、当該ペプチド部分中に任意の順序で融合され得る。融合は、アミド結合を介して達成され得る。融合は、直接的なアミド結合、あるいは1個のアミノ酸残基(例、メチオニン)または数個(例えば2〜50個、好ましくは2〜30個、より好ましくは2〜20個、さらにより好ましくは2〜15個または2〜10個、最も好ましくは2、3、4または5個)のアミノ酸残基からなるペプチド(ペプチドリンカー)が介在したアミド結合により達成され得る。種々のペプチドリンカーが知られているので、本発明でも、このようなペプチドリンカーを使用することができる。
【0025】
標的物質としては、例えば、無機材料および有機材料、あるいは導体材料、半導体材料および磁性体材料が挙げられる。具体的には、このような標的物質としては、金属材料、シリコン材料、低分子化合物(例、ポルフィリン等の生体物質、放射性物質、蛍光物質、色素、薬物)、ポリマー(例、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンオキシドまたはポリ(L−乳酸)等の疎水性有機ポリマーまたは伝導性ポリマー)、タンパク質(例、オリゴペプチドまたはポリペプチド)、核酸(例、DNAまたはRNA、あるいはヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)、糖質(例、モノサッカリド、オリゴサッカリドまたはポリサッカリド)、脂質が挙げられる。
【0026】
金属材料としては、例えば、金属および金属化合物が挙げられる。金属としては、例えば、チタン、クロム、亜鉛、鉛、マンガン、カルシウム、銅、カルシウム、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、カドミウム、鉄、コバルト、金、銀、プラチナ、パラジウム、ハフニウム、テルルが挙げられる。金属化合物としては、例えば、金属の酸化物、硫化物、炭酸化物、砒化物、塩化物、フッ化物およびヨウ化物、ならびに金属間化合物が挙げられる。金属の酸化物としては、種々の酸化物が挙げられる。より具体的には、金属化合物としては、上述したようなチタンの酸化物、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化マンガン、ゼオライト、炭酸カルシウム、酸化銅、酸化マンガンカルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、チタンジルコン酸鉛、砒化ガリウム、硫化亜鉛、硫化鉛、硫化カドミウム、白金鉄、白金コバルト、カドミウムテルルが挙げられる。
【0027】
シリコン材料としては、例えば、シリコンまたはシリコン化合物が挙げられる。シリコン化合物としては、例えば、シリコンの酸化物(例、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO
2))、炭化ケイ素(SiC)、シラン(SiH
4)、シリコーンゴムが挙げられる。
【0028】
標的物質に結合し得るペプチド部分は、上述したような標的物質に対して親和性を有する限り特に限定されない。標的物質に対して親和性を有する種々のペプチドが知られており、また、開発されている。例えば、生体材料および無機材料または有機材料の複合体を作製することを目的として、無機材料または有機材料に対して結合し得るペプチドが、ファージを用いたスクリーニング等の手法により開発されている。このような手法により開発されたペプチドとしては、例えば、チタン(例、チタンの酸化物)ならびに銀(K.Sano et al.,Langmuir,2004,vol.21,p.3090.、国際公開第2005/010031号)、金(S.Brown,Nat.Biotechnol.,1997,vol.15.p.269.)、酸化亜鉛(K.Kjaergaard et al.,Appl.Environ.Microbiol.,2000,vol.66.p.10.、Umetsu et al.,Adv.Mater.,17,2571−2575(2005))、酸化ゲルマニウム(M.B.Dickerson et al.,Chem.Commun.,2004,vol.15.p.1776.)、硫化亜鉛および硫化カドミウム(C.E.Flynn et al.,J.Mater.Chem.,2003,vol.13.p.2414.)等の金属材料に結合し得るペプチド;シリコンおよびシリコンの酸化物(H.Chen et al.,Anal. Chem.,2006,vol.78,,p.4872、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40−44、K.Sano et al.,Langmuir,2004,vol.21,p.3090.、国際公開第2005/010031号)等のシリコン材料に結合し得るペプチド;カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホン(CNH)等の炭素材料に結合し得るペプチド(S.Wang et al.,Nat.Mater.,2003,vol.2,p.196.および特開2004−121154号公報);ならびに疎水性有機ポリマー等のポリマーに結合し得るペプチド(特開2008−133194号公報)が挙げられる。したがって、本発明でも、標的物質に結合し得るペプチド部分として、このようなペプチドを使用することができる。
【0029】
なお、金属に結合し得るペプチドは、金属の析出(mineralization)作用を有し得ること、および金属化合物に結合し得るペプチドは、金属化合物の析出活性を有し得ることが知られている(K.Sano et al.,Langmuir,2004,vol.21,p.3090.、M.Umetsu et al.,Adv.Mater.,2005,vol.17,p.2571.)。したがって、標的物質に結合し得るペプチド部分として、金属材料(金属または金属化合物)に結合し得るペプチドを用いる場合、金属材料に結合し得るペプチドは、このような析出活性を有し得る。
【0030】
ポリペプチド部分およびペプチド部分の融合は、アミド結合を介して達成され得る。融合は、直接的なアミド結合、あるいは1個のアミノ酸残基(例、メチオニン)または数個(例えば2〜50個、好ましくは2〜30個、より好ましくは2〜20個、さらにより好ましくは2〜15個または2〜10個、最も好ましくは2、3、4または5個)のアミノ酸残基からなるペプチド(ペプチドリンカー)が介在したアミド結合により達成され得る。種々のペプチドリンカーが知られているので、本発明でも、このようなペプチドリンカーを使用することができる。
【0031】
本発明の融合タンパク質において、ポリペプチド部分、ならびに標的物質に結合し得るペプチド部分、および本発明のペプチドの部分が融合する順序は、特に限定されず、1)ポリペプチド部分のN末端部およびC末端部がそれぞれ標的物質に結合し得るペプチド部分、および本発明のペプチドの部分のC末端部およびN末端部またはN末端部およびC末端部と融合していてもよいし、あるいは2)ポリペプチド部分のN末端部が標的物質に結合し得るペプチド部分のC末端部と融合し、かつ当該標的物質に結合し得るペプチド部分のN末端部が本発明のペプチドの部分のC末端部とさらに融合していてもよく、または3)ポリペプチド部分のC末端部が標的物質に結合し得るペプチド部分のN末端部と融合し、かつ当該標的物質に結合し得るペプチド部分のC末端部が本発明のペプチドの部分のN末端部とさらに融合していてもよい。例えば、ポリペプチド部分としてフェリチンを用いる場合、フェリチンはそのN末端部が多量体の表面上に露出され、そのC末端部は表面上に露出しないことから、好ましくは、フェリチンは、上記2)の順序で融合される。一方、ポリペプチド部分としてDpsを用いる場合、DpsはN末端部およびC末端部の両方が多量体の表面上に露出し得ることから、Dpsは、上記1)〜3)のいずれかの順序で融合され得る。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、ポリペプチド部分のN末端側およびC末端側またはC末端側およびN末端側にそれぞれ標的物質に結合し得るペプチド部分、および本発明のペプチドの部分(それぞれ、1個または複数)を有し得る。
【0033】
ポリペプチド部分のN末端側に融合されたペプチド部分は、翻訳開始コドンによりコードされるメチオニン、またはメチオニンをN末端に含む部分を、そのN末端側に有するように設計され得る。このような設計により、本発明の融合タンパク質の翻訳が促進され得る。メチオニンをN末端に含むペプチド部分は、数個(例えば2〜50個、好ましくは2〜30個、より好ましくは2〜20個、さらにより好ましくは2〜15個または2〜10個、最も好ましくは2、3、4または5個)のアミノ酸残基からなるペプチドであり得る。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、標的物質に結合し得るペプチド部分、および本発明のペプチドの部分が異なる標的物質に結合し得る。標的物質に結合し得るペプチド部分が結合する標的物質としては、例えば、無機材料および有機材料が挙げられる。より具体的には、このような標的物質としては、例えば、金属材料、シリコン材料が挙げられる。
【0035】
金属材料に結合し得るペプチド部分としては、例えば、亜鉛または亜鉛化合物(例、酸化亜鉛)等の亜鉛材料に結合し得るペプチド部分が挙げられる。亜鉛材料に結合し得るペプチド部分としては、例えば、国際公開第2012/086647号およびUmetsu et al.,Adv.Mater.,17,2571−2575(2005)に開示されるペプチドが挙げられる。
【0036】
シリコン材料に結合し得るペプチド部分としては、シリコンまたはシリコン化合物(例、シリコンの酸化物)に結合し得るペプチド部分が好ましい。このようなペプチド部分としては、例えば、国際公開第2012/086647号、国際公開第2006/126595号、およびM.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40−44に開示されるペプチドが挙げられる。
【0037】
(ポリヌクレオチド)
本発明は、本発明のペプチド、または本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよいが、DNAであることが好ましい。
【0038】
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、それが導入されるべき宿主細胞のコドン使用頻度に適合するようにコドンが変更されていてもよい。ある遺伝子を異種宿主細胞(例、微生物)で発現させる場合、コドン使用頻度の相違により、対応するtRNA分子種が十分に供給されず、翻訳効率の低下および/または不正確な翻訳(例、翻訳の停止)が生じることがある。例えば、エシェリヒア・コリでは、表1に示される低頻度コドンが知られている。
【0040】
したがって、本発明では、後述するような宿主細胞(例、微生物)のコドン使用頻度に適合するポリヌクレオチドを利用することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、アルギニン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、およびプロリン残基からなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸残基をコードするコドンが変更されたものであってもよい。より具体的には、本発明のポリヌクレオチドは、低頻度コドン(例、AGG、AGA、CGG、CGA、GGA、AUA、CUA、およびCCC)からなる群より選ばれる1種以上のコドンが変更されたものであってもよい。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、以下からなる群より選ばれる1種以上(例、1種、2種、3種、4種、または5種)のコドンの変更を含んでいてもよい:
i)Argをコードする4種のコドン(AGG、AGA、CGG、およびCGA)からなる群より選ばれる少なくとも1種のコドンの、Argをコードする別のコドン(CGU、またはCGC)への変更;
ii)Glyをコードする1種のコドン(GGA)の、別のコドン(GGG、GGU、またはGGC)への変更;
iii)Ileをコードする1種のコドン(AUA)の、別のコドン(AUU、またはAUC)への変更;
iv)Leuをコードする1種のコドン(CUA)の、別のコドン(UUG、UUA、CUG、CUU、またはCUC)への変更;ならびに
v)Proをコードする1種のコドン(CCC)の、別のコドン(CCG、CCA、またはCCU)への変更。
本発明のポリヌクレオチドがRNAの場合、上記のとおりヌクレオチド残基「U」が利用されるべきであるが、本発明のポリヌクレオチドがDNAの場合、ヌクレオチド残基「U」の代わりに「T」が利用されるべきである。
【0041】
低頻度コドンの同定は、当該分野で既知の技術を利用することにより、任意の宿主細胞の種類およびゲノム配列情報に基づいて容易に行うことができる。したがって、本発明のポリヌクレオチドは、低頻度コドンの非低頻度コドン(例、高頻度コドン)への変更を含むものであってもよい。また、低頻度コドンのみならず、生産菌株のゲノムGC含量への適合性などの要素を考慮してポリヌクレオチドを設計する方法が知られているので(Alan Villalobos et al., Gene Designer: a synthetic biology tool for constructing artificial DNA segments, BMC Bioinformatics. 2006 Jun 6;7:285.)、このような方法を利用してもよい。このように、本発明のポリヌクレオチドは、それが導入され得る任意の宿主細胞(例、後述するような微生物)の種類に応じて適宜作製できる。
【0042】
(発現ベクター)
本発明は、発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、本発明のペプチド、または本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または本発明のポリヌクレオチドを含む。
【0043】
本発明の発現ベクターは、上記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターをさらに含んでいてもよい。プロモーターとしては、例えば、任意の生物(例、微生物、動物、昆虫、および植物)由来プロモーター、ウイルス由来プロモーター、ならびに人工合成プロモーターが挙げられる。プロモーターとしてはまた、異種タンパク質生産に汎用されるプロモーターを用いてもよい。このようなプロモーターとしては、例えば、PhoAプロモーター、PhoCプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、PRプロモーター、PLプロモーター、SP6プロモーター、アラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーターが挙げられる。
【0044】
本発明の発現ベクターはまた、上記ポリヌクレオチドの下流にターミネーターをさらに含んでいてもよい。このようなターミネーターとしては、例えば、T7ターミネーター、fdファージターミネーター、T4ターミネーター、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネーター、エシェリヒア・コリtrpA遺伝子のターミネーターが挙げられる。
【0045】
本発明の発現ベクターはまた、開始コドンの上流にリボゾーム結合部位(例、シャイン・ダルガノ配列)をさらに含んでいてもよい。
【0046】
本発明の発現ベクターはまた、薬剤耐性遺伝子をコードするポリヌクレオチドをさらに含んでいてもよい。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する耐性遺伝子が挙げられる。
【0047】
本発明の発現ベクターはまた、宿主細胞に導入された場合に、宿主細胞のゲノムとの相同組換えを可能にする1以上の領域をさらに含んでいてもよい。例えば、本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含む発現単位が一対の相同領域(例、宿主ゲノム中の特定配列に対して相同なホモロジーアーム、loxP、FRT)間に位置するように設計されてもよい。発現単位とは、発現されるべき所定のポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーター(例、同種プロモーター、異種プロモーター)を含む、当該ポリヌクレオチドの転写、ひいては当該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの産生を可能にする単位をいう。発現単位は、上述したようなターミネーター、リボゾーム結合部位、および薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。
【0048】
本発明の発現ベクターとしては、例えば、宿主においてタンパク質を発現させる細胞系ベクター、およびタンパク質翻訳系を利用する無細胞系ベクターが挙げられる。発現ベクターはまた、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、組込み型(integrative)ベクター、または人工染色体であってもよい。組込み型ベクターは、その全体が宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。あるいは、組込み型ベクターは、その一部(例、上述の発現単位)のみが宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。発現ベクターはさらに、DNAベクターまたはRNAベクターであってもよい。
細胞系ベクターとしては、宿主に適した公知の発現ベクターが用いられる。このようなベクターとしては、例えば、pUC(例、pUC19、pUC18)、pSTV、pBR(例、pBR322)、pHSG(例、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398)、RSF(例、RSF1010)、pACYC(例、pACYC177、pACYC184)、pMW(例、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218)、pQE(例、pQE30)、およびその誘導体が挙げられる。
無細胞系ベクターとしては、例えば、T7またはT3プロモーターを有する発現ベクター、SP6プロモーター等を有するpEU系プラスミド等の小麦無細胞タンパク質合成用ベクター等が挙げられる。
【0049】
本発明の発現ベクターはまた、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびマルチクローニング部位、ならびに上述したエレメントを含む、タンパク質精製用ベクターであってもよい。この場合、所望のタンパク質をコードするポリヌクレオチドをマルチクローニング部位に挿入することにより、所望のタンパク質が、本発明のペプチドとの融合タンパク質として発現される。したがって、本発明のペプチドとの親和性を有するナノ炭素化合物を利用することにより、所望のタンパク質を精製することができる。マルチクローニング部位は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して5’末端側または3’末端側のいずれに存在していてもよい。
【0050】
(形質転換体)
本発明の形質転換体は、本発明のペプチド、または本発明の融合タンパク質を産生できる、または本発明のポリヌクレオチドを発現してペプチドまたは融合タンパク質を産生できる宿主細胞である。具体的には、本発明の形質転換体は、本発明のポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞である。本発明のポリヌクレオチドを含む発現単位を含む宿主細胞としては、例えば、本発明の発現ベクターが細胞質中に導入された宿主細胞、本発明の発現ベクターの全体がゲノムに挿入された宿主細胞、および本発明の発現ベクター中の発現単位がそのゲノムに挿入された宿主細胞が挙げられる。宿主細胞は、本発明のタンパク質を発現できる限り特に限定されない。宿主細胞としては、例えば、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、および微生物が挙げられるが、微生物が好ましい。微生物としては、例えば、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌等の細菌、および真菌が挙げられる。細菌は、グラム陽性菌であってもグラム陰性菌であってもよい。
【0051】
グラム陽性細菌としては、例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバシラス(Bacillus)属細菌、およびコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)等のコリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌が挙げられる。
【0052】
グラム陰性細菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア(Escherichia)属細菌、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)等のパントエア(Pantoea)属細菌、およびエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等のエンテロバクター(Enterobacter)属細菌等が挙げられる。
【0053】
真菌としては、サッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属真菌、およびシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属真菌が挙げられる。
【0054】
発現単位は、宿主細胞に対して同種であっても異種であってもよいが、好ましくは異種発現単位である。用語「異種発現単位」とは、発現単位が宿主細胞に対して異種であることを意味する。したがって、本発明では、発現単位を構成する少なくとも1つのエレメントが宿主細胞に対して異種である。宿主細胞に対して異種である、発現単位を構成するエレメントとしては、例えば、上述したエレメントが挙げられる。好ましくは、異種発現単位を構成する、本発明のペプチド、または本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、もしくはプロモーターの一方、または双方が、宿主細胞に対して異種である。
【0055】
発現単位の宿主細胞への導入(形質転換)は、例えば、発現ベクターを利用した従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、カルシウム処理された菌体を用いるコンピテント細胞法や、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、プラスミドベクター以外にもファージベクターを用いて、菌体内に感染させ導入する方法によってもよい。
【0056】
本発明のペプチド、または本発明の融合タンパク質は、本発明の形質転換体またはその培養培地から精製されてもよい。本発明の形質転換体は、ソニケーション、リゾチーム処理等の処理により、破砕されてもよい。精製方法としては、例えば、塩析法、および各種クロマトグラフィーを用いた方法が挙げられる。ナノ炭素化合物を用いたアフィニティーカラムにより、本発明のペプチド、または本発明の融合タンパク質を精製することができる。その他、イオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィー等の方法を適宜組み合わせて精製することにより、本発明のペプチド、または本発明の融合タンパク質の純度を高めることができる。
【0057】
(多量体)
本発明はまた、融合タンパク質の多量体を提供する。本発明の多量体は、内腔を有し得る。本発明の多量体を構成する融合タンパク質は、上述したとおりである。本発明の多量体は、本発明の融合タンパク質を発現させることで、自律的に形成され得る。本発明の多量体を構成する単量体単位の数は、本発明の融合タンパク質におけるポリペプチド部分の種類により決定され得る。好ましくは、本発明の多量体は、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分としてDpsを有し得ることから、12量体であり得る。本発明の多量体は、例えば、本発明のペプチド、または本発明の融合タンパク質について上述したのと同様に、本発明の形質転換体またはその培養培地から精製することができる。
【0058】
本発明の多量体は、単量体単位として、単一の融合タンパク質から構成されるホモ多量体であってもよいが、異なる複数の種類(例、2種、3種、4種、5種または6種)の融合タンパク質から構成されるヘテロ多量体であってもよい。本発明の多量体では、多量体形成の観点から、多量体を構成する融合タンパク質中のポリペプチド部分は単一のポリペプチド部分であることが好ましいが、標的物質に結合し得るペプチド部分、および本発明のペプチドの部分は、多量体を構成する融合タンパク質間で異なるものであってもよい。異なる複数の種類の融合タンパク質から構成される多量体は、例えば、異なる種類の融合タンパク質を発現する複数のベクター、または異なる種類の融合タンパク質を発現する単一のベクター(例、ポリシストロニックmRNAを発現し得るベクター)を、単一の宿主細胞に導入し、次いで、異なる種類の融合タンパク質を単一の宿主細胞中で発現させることにより、得ることができる。このような多量体はまた、単一の融合タンパク質から構成される第1の単量体と、単一の融合タンパク質(第1の多量体を構成する融合タンパク質とは異なる)から構成される第2の単量体とを、同一の媒体(例、緩衝液)中で共存させ、放置することにより、得ることができる。融合タンパク質の単量体は、例えば、本発明の多量体を、低pHの緩衝液下に放置することにより調製することができる。詳細については、例えば、B.Zheng et al.,Nanotechnology,2010,vol.21,p.445602を参照のこと。
【0059】
本発明の多量体は、内腔中に物質を含んでいてもよい。物質は、錯体または粒子(例、ナノ粒子、磁性粒子)のような形態で、本発明の多量体中に内包されていてもよい。当業者は、本発明の多量体の内腔のサイズ、および本発明の多量体における物質の取り込みに関与し得る領域(例、C末端の領域:R.M.Kramer et al.,2004,J.Am.Chem.Soc.,vol.126,p.13282を参照)中のアミノ酸残基の電荷特性等を考慮することにより、本発明の多量体に内包され得る物質を適切に選択できる。例えば、ポリペプチド部分としてDpsを有する本発明の多量体の場合、Dpsは、40〜60nm
3(直径 約5nm)の程度の内腔を有する。したがって、このような多量体に内包され得る物質のサイズは、例えば60nm
3以下、好ましくは40nm
3以下、より好ましくは20nm
3以下、さらにより好ましくは10nm
3以下、最も好ましくは5nm
3以下であり得る。また、多量体における物質の取り込みに関与し得る領域中の電荷特性(例、正または負に荷電し得る側鎖を有するアミノ酸残基の種類および数)を変化させることにより、多量体の内腔中への物質の取り込みをより促進できることが報告されているので(例、R.M.Kramer et al.,2004,J.Am.Chem.Soc.,vol.126,p.13282を参照)、本発明においても、電荷特性が変化された領域を有する融合タンパク質の多量体を用いることができる。本発明の多量体に内包され得る物質としては、例えば、上述した標的物質と同様の無機材料が挙げられる。具体的には、本発明の多量体に内包され得る物質としては、上述したような金属材料やシリコン材料が挙げられる。より具体的には、このような物質としては、酸化鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、リン、ウラン、ベリリウム、アルミニウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、パラジウム、クロム、銅、銀、ガドリウム錯体、白金コバルト、酸化シリコン、酸化コバルト、酸化インジウム、白金、金、硫化金、セレン化亜鉛、カドミウムセレンが挙げられる。
【0060】
本発明の多量体の内腔中への物質の内包は、周知の方法により行うことができ、例えば、フェリチンまたはDps等のフェリチン様タンパク質の多量体の内腔中への物質の内包方法(例、I.Yamashita et al.,Chem.,lett.,2005.vol.33,p.1158を参照)と同様にして行うことができる。具体的には、HEPES緩衝液等の緩衝液中に、本発明の多量体(または本発明の融合タンパク質)および内包されるべき物質を共存させ、次いで適切な温度(例、0〜37℃)で放置することにより、本発明の多量体の内腔中に物質を内包させることができる。
【0061】
本発明の多量体は、内腔中に物質を含む場合、異なる複数の種類(例、2種、3種、4種、5種または6種)の物質を含む、異なる複数の種類の多量体のセットとして提供されてもよい。例えば、本発明の多量体が2種の物質を含む2種の多量体のセットとして提供される場合、このようなセットは、各々別々に調製された、第1の物質を内包する第1の多量体と、第2の物質(第1の物質とは異なる)を内包する第2の多量体とを、組み合せることにより、得ることができる。上述したような融合タンパク質の多様なパターンと、内包物質の多様なパターンとを適宜組み合せることにより、非常に多様性に富む本発明の多量体を得ることができる。多量体についてはまた、国際公開第2012/086647号を参照することができる。
【0062】
(吸着方法)
本発明は、本発明のペプチド、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体と、ナノ炭素化合物とを接触させることを含む、ペプチド、タンパク質または多量体とナノ炭素化合物との吸着方法を提供する。
【0063】
本発明の吸着方法は、適切な水溶液(例、緩衝液)中で行うことができる。本発明のペプチドは、ナノ炭素化合物と強く結合することができる。本発明の融合タンパク質、および本発明の多量体もまた、本発明のペプチドを有するので、ナノ炭素化合物と強く結合することができる。したがって、本発明のペプチド、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体、およびナノ炭素化合物を用いることで、本発明の吸着方法を良好に行うことができる。ナノ炭素化合物としては、例えば、上述したものが挙げられる。
【0064】
本発明の吸着方法は、本発明のペプチド、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体をカラム等の支持体に固定して用いることにより、ナノ炭素化合物の精製に利用することができる。本発明の吸着方法はまた、ナノ炭素化合物をカラム等の支持体に固定して用いることにより、本発明のペプチド、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体の精製に利用することができる。本発明の吸着方法が、このような精製に用いられる場合、吸着物を支持体から遊離させる必要がある。この場合、遊離溶液中の塩濃度の変更、遊離剤としての本発明のペプチドまたはナノ炭素化合物の利用などにより、吸着物を支持体から遊離させることができる。
【0065】
(ナノ炭素化合物および標的物質を含む複合体およびその製造方法)
本発明はまた、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体を用いて、ナノ炭素化合物と標的物質とを接着させることを含む、ナノ炭素化合物および標的物質を含む複合体の製造方法を提供する。
【0066】
ナノ炭素化合物および標的物質を含む複合体の本発明の製造方法は、適切な水溶液(例、緩衝液)中で行うことができる。本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体は、このような方法に用いられる場合、ナノ炭素化合物に結合し得る本発明のペプチドに加えて、標的物質に結合し得るペプチド部分を有する。これにより、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体がリンカーとして作用し、ナノ炭素化合物と標的物質とを接着することができる。したがって、ナノ炭素化合物および標的物質を含む複合体として、標的物質で被膜されたナノ炭素化合物を得ることができる。ナノ炭素化合物および標的物質としては、例えば、上述した材料が挙げられる。
【0067】
また、標的物質に結合し得るペプチド部分として、析出可能な標的物質に結合し得るペプチドを利用し、かつ、析出可能な標的物質が溶解された水溶液(例、緩衝液)を用いて、ナノ炭素化合物の表面に標的物質を析出させることで、標的物質で被膜されたナノ炭素化合物を得ることもできる。
【0068】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体を介して接着された、ナノ炭素化合物および標的物質を含む複合体を提供する。本発明の複合体は、上記方法により製造することができる。本発明の複合体は、好ましくは、上述したような標的物質で被膜されたナノ炭素化合物(被膜が、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体を介してなされたもの)である。
【0069】
一実施形態では、上述の方法により製造され得る本発明の複合体は、標的物質で被覆されたナノ炭素化合物である。好ましくは、このような複合体は、標的物質で被覆されたカーボンナノチューブである。より好ましくは、このような複合体は、金属材料またはシリコン材料で被膜されたカーボンナノチューブである。このような複合体が半導体材料として利用される場合、カーボンナノチューブは、好ましくは単層カーボンナノチューブである。このような複合体が導体材料として用いられる場合、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブまたは複層カーボンナノチューブのいずれであってもよい。金属材料としては、上述したような金属および金属化合物が挙げられるが、金属化合物が好ましく、金属の酸化物(例、酸化チタン、酸化亜鉛)がより好ましい。シリコン材料としては、上述したようなシリコンまたはシリコン化合物が挙げられるが、シリコン化合物が好ましく、シリコンの酸化物がより好ましい。したがって、上記複合体の製造に用いられる、本発明の融合タンパク質、または本発明の多量体は、好ましくは、このような標的物質に結合し得るペプチド部分を有する。
【0070】
本発明の複合体は、導体または半導体、あるいは光触媒活性または電気特性等に優れたデバイスおよび材料等の開発に有用である。例えば、本発明の複合体は、光電変換素子(例、色素増感太陽電池等の太陽電池)、水素発生素子、半導体メモリ素子の作製における材料または構成要素として、有用である。
【0071】
(多孔質構造体の製造方法)
本発明はまた、以下(1)(2)を含む、多孔質構造体の製造方法を提供する:
(1)本発明の多量体を用いて、ナノ炭素化合物、標的物質および本発明の多量体を含む複合体を作製すること;および
(2)得られた複合体から本発明の多量体を除去して、ナノ炭素化合物および標的物質から構成される多孔質構造体を得ること。
【0072】
工程(1)は、適切な水溶液(例、緩衝液)中で行うことができる。本発明の多量体は、このような方法に用いられる場合、ナノ炭素化合物に結合し得る本発明のペプチドに加えて、析出可能な標的物質に結合し得るペプチド部分を有する。これにより、ナノ炭素化合物に結合した本発明の多量体における、標的物質に結合し得るペプチド部分の周辺で標的物質が析出し、ナノ炭素化合物が標的物質で覆われた凝集体(凝集体中、本発明の多量体がナノ炭素化合物の周囲に散在する)が得られる。したがって、このような凝集体を、ナノ炭素化合物、標的物質および本発明の多量体を含む複合体として得ることができる。標的物質としては、析出可能な標的物質が好ましい。本発明の多量体は、内腔中に物質を有していても有していなくてもよいが、内腔中に物質を有することが好ましい。
【0073】
一実施形態では、上述の方法により作製され得る、ナノ炭素化合物、標的物質および本発明の多量体を含む複合体は、ナノ炭素化合物が標的物質で覆われた凝集体(凝集体中、本発明の多量体がナノ炭素化合物の周囲に散在する)である。好ましくは、このような複合体は、カーボンナノチューブが標的物質で覆われた凝集体(凝集体中、本発明の多量体がカーボンナノチューブの周囲に散在する)である。より好ましくは、このような複合体は、カーボンナノチューブが金属材料またはシリコン材料で覆われた凝集体(凝集体中、本発明の多量体がカーボンナノチューブの周囲に散在する)である。このような複合体が半導体材料として利用される場合、カーボンナノチューブは、好ましくは単層カーボンナノチューブである。このような複合体が導体材料として用いられる場合、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブまたは複層カーボンナノチューブのいずれであってもよい。金属材料としては、上述したような金属および金属化合物が挙げられるが、金属化合物が好ましく、金属の酸化物(例、酸化チタン、酸化亜鉛)がより好ましい。シリコン材料としては、上述したようなシリコンまたはシリコン化合物が挙げられるが、シリコン化合物が好ましく、シリコンの酸化物がより好ましい。したがって、上記複合体の作製に用いられる、本発明の多量体は、好ましくは、このような標的物質に結合し得るペプチド部分を有する。
【0074】
工程(2)は、工程(1)で得られた複合体から本発明の多量体を除去することにより、行うことができる。本発明の多量体の除去は、本発明の多量体を分解できる任意の処理により行われる。このような処理としては、例えば、焼成、酸処理、およびアルカリ処理が挙げられる。焼成は、例えば、大気下又は不活性ガス雰囲気下、50℃〜800℃程度、10秒間〜12時間程度の条件で行うことができる。複合体の焼成は、単一の温度で1回又は温度を変化させて2回以上行うこともできる。このような除去により、ナノ炭素化合物またはカーボンナノチューブの周囲が標的物質で覆われた凝集体(凝集体中、本発明の多量体が存在していた箇所に空孔部が形成される)が得られる。したがって、このような凝集体を、ナノ炭素化合物またはカーボンナノチューブおよび標的物質から構成される多孔質構造体として得ることができる。
【0075】
以下、多孔質構造体の製造方法の理解を促すため、
図4A〜Cに示される模式図に基づいて、上述の方法により得られる多孔質構造体を説明する。なお、
図4A〜Cに示される多孔質構造体10は、あくまで模式的なものである。例えば、タンパク質を消滅し得る温度条件下で本発明の複合体を焼成することにより、本発明の多量体が存在していた部位に第1の空孔部32が形成された多孔質構造体10を得ることができる(
図4A、
図4B)。第2の空孔部は、標的物質30の析出過程および/または焼成過程において生じ得る空孔部を示している。本発明の複合体を構成する多量体の内腔中に物質(例、金属粒子36)が内包されていた場合には、第1の空孔部32中に物質(例、金属粒子36)を残存させることができる(
図4C)。本発明の多量体の内腔中に物質(例、金属粒子36)が内包されており、かつ当該物質を溶融させた場合には、第1の空孔部32の内側に当該物質からなる皮膜(例、金属皮膜36a)を形成することができる(
図4C)。このような多孔質構造体およびその製造方法については、例えば、国際公開第2013/022051号、国際公開第2012/086647号を参照することができる。このように作製された多孔質構造体は、導体または半導体、あるいは光触媒活性または電気特性等に優れたデバイスおよび素材等の開発に有用である。例えば、多孔質構造体は、光電変換素子(例、色素増感太陽電池等の太陽電池)、水素発生素子、半導体メモリ素子の作製における材料または構成要素として、有用である。
【実施例】
【0076】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
実施例1:カーボンナノチューブ(CNT)結合ペプチドのスクリーニング
CNT結合ペプチドのスクリーニングはPh.D.
TM−12 Phage Display Libraries(NEW ENGLAND BioLabs Inc.、米国)を用いた。すなわち、複層カーボンナノチューブ(MWNT)が懸濁され0.1%(v/v)のTween−20を含むTBS緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl。以下、TBS−Tと呼ぶ)200μlにM13ファージライブラリ溶液(1μlあたり10
10個のM13ファージを含む。各ファージは12個のアミノ酸からなるランダムなペプチド配列を提示する)10μlを添加し、4℃で1時間撹拌することで、MWNTにファージを吸着させた。これを50000rpmで10分間遠心分離することで、上清に含まれるMWNTに吸着しなかったファージを除去し、MWNTとファージを含む沈殿物を得た。その沈殿物を、TBS−Tにより洗浄し、再び遠心により非吸着ファージを除去することでファージ/MWNT複合体を取得した。同様の洗浄操作を、Tween−20の濃度を増加させながら繰り返すことで、MWNTに強く吸着するファージを選択した。5回目の洗浄操作の後、ファージ/MWNT複合体を0.2M glycine−HCl(pH2.2)に懸濁することでファージとMWNTを解離させ、50000rpmで10分間遠心分離することで両者を分離した。取得されたファージ懸濁液は1M Tris−HCl(pH9.1)で中和し、4℃で保存した。以上の操作を1回のパニング操作とし、取得したファージを増幅して次のパニング操作に供した。合計5回のパニング操作を実施し、MWNTに対する吸着能を持つファージを選択した。取得されたファージを単離し、その塩基配列を解読することで提示しているペプチドの配列を特定した。洗浄に用いたTBS−TのTween20濃度は1回目のスクリーニングでは0.2%(v/v)から0.5%(v/v)まで、2回目は0.3%(v/v)から1%(v/v)まで、3回目は0.5%(v/v)から3%(v/v)まで、4回目は0.7(v/v)%から5%(v/v)まで、5回目は3%(v/v)から10%(v/v)まで増加させた。
【0078】
尚、ファージの単離、力価測定、ファージDNAの回収およびファージの増幅はPh.D.
TM Phage Display Librariesに付属したプロトコールに従った(New England Biolabs,Ph.D.
TM Phage Display Libraries Instruction Manual)。
ファージの単離や力価測定を行うために、このファージ溶液をEscherichia coli JM109に感染させプラークを形成させた。具体的には、濁度0.1まで、37℃で培養されたE.coli JM109に、適当に希釈されたファージ液を0.01ml加えた。その溶液を溶解させたTOP Agar(Bacto−tryptone 10.0g/l、Bacto−yeast extract 5.0g/l、NaCl 5.0g/l、agarose 7.0g/l)3mlに加え、LB/ITPG/Xgal寒天培地にまき37℃で一晩放置した。その後、形成された青色プラークに含まれるファージからDNAを回収し、配列を決定すると共に、1ml LB培地(Bacto−tryptone 1.0g/l、Bacto−yeast extract 0.5g/l、NaCl 0.5g/l)を加え、TOP Agarごと全プラークを削り取って15ml遠沈管に回収した。その懸濁液を5000rpmで15分間遠心分離することで、ファージが含まれる上清を回収した。
【0079】
ファージDNAを回収するために、JM109が播種されたLB培地1mlに爪楊枝を用いてファージの青色プラークからファージを播種した。37℃で5時間培養した後、ヨウ素溶液(10mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA、4M NaI)を用いてDNAを回収し、配列(5’−CCCTCATAGTTAGCGTAACG−3’)を用いてペプチドライブラリーをコードする塩基配列を解読した。
【0080】
その全プラークから回収されたファージ液に含まれるファージを増幅するために、ファージ液をJM109が播種されたLB培地20mlに加え、37℃で5時間培養した。培養後、50ml遠沈管に回収し、10000rpmで10分間遠心分離し、上清を回収した。この溶液18mlにPEG/NaCl溶液(20容量% PEG8000、2.5M NaCl)3mlを加え、4℃で一晩静置した。放置後、10000rpmで10分間遠心分離し、沈殿を回収した。この沈殿をTBT01緩衝液0.7mlに懸濁した後、PEG/NaCl溶液を0.3ml加え、4℃で1時間静置した。その後、10000rpmで10分間遠心分離し、沈殿をTBSA(50mM TrisHCl、pH8.0、150mM NaCl)1mlに懸濁した。その後10000rpmで1分間遠心分離し、ファージが含まれる上清を回収し、これを増幅されたファージ溶液として目的ファージのスクリーニングやファージの力価評価などに用いた。
【0081】
5回のパニングサイクル終了後、7つのCNT結合ペプチドDM6(KVWDLRMPHIVT(配列番号1))、DM11(ALSSHYIMKSHK(配列番号2))、DM8(KVWPNMFANENI(配列番号3))、DM10(HTLSSHYMRGGH(配列番号4))、DM7(KVMPPNHMTHWA(配列番号5))、DM4(KIWSVPQLLHYT(配列番号6))、DM5(KIWDLWKSEGAW(配列番号7))を提示したファージを取得することができた。
【0082】
実施例2:CNT結合ペプチドのCNTへの結合能力評価
取得されたCNT結合ペプチドのCNTへの結合能力を評価すべく、各CNT結合ペプチドを提示したファージとCNTを混合し、CNTに吸着したファージの量をpfu(plaque−forming unit)にて測定した。
【0083】
はじめに対照サンプルとなる既知のCNT結合ペプチドを提示したファージとして、B1ペプチド(HWKHPWGAWDTL(配列番号15)、Wang et al.,Nat.Mater.,2003,vol.2,p.196.)を提示したファージを作製した。ファージライブラリーに含まれるM13ファージのDNAを鋳型として、5’−GCGcggccgAAACTGTTGAAAGTTG−3’(配列番号8)と、5’−GCGcggccgACCTCCACCGAGAGTGTCCCATGCACCCCATGGATGCTTCCAGTGAGAGTGAGAATAGAAAGG−3’(配列番号9)を用いてPCRを行った(小文字斜体は制限酵素EagIの認識配列、19〜54位のヌクレオチド残基で表される塩基配列は、B1ペプチドをコードする)。得られた各PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとEagIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。そのDNAを、形質転換能を持たせたEscherichia coli JM109(タカラバイオ、日本)に導入し、これをLBXIプレート(10g/l Bacto−typtone、5g/l Bacto−yeast extract、5g/l NaCl、1mM IPTG、40mg/l X−gal、15g/l agar)で培養し、青白判定を行うことで溶原菌を取得した。取得された溶原菌からファージを増幅し、以下の実験に用いた。
【0084】
ファージパニングによって得られたCNT結合ペプチド候補(M4からM11と命名)およびCNTへの吸着性が知られているB1ペプチドをそれぞれ提示したM13ファージについて、pfu(plaque−forming unit)を指標としたCNT吸着能の評価をそれぞれ行った。すなわち、CNT懸濁液50μlを450μlのTBS−T(3%(v/v)Tween−20)で希釈した。CNT希釈液に取得された各ファージ10
11個を添加し、4℃で1時間撹拌することで、ファージをCNTに吸着させた。これを50000rpmで10分間遠心分離することでCNTに吸着していない非吸着ファージを除去した。取得された沈殿物を、TBS−T(3%(v/v) Tween−20)により洗浄し、再び遠心により非吸着ファージを分離することでファージ/CNT複合体を取得した。洗浄操作を計5回行った後、ファージ/CNT複合体を0.2M glycine−HCl(pH2.2)に懸濁することでファージとCNTに解離させ、超遠心により両者を分離した。取得されたファージ懸濁液は1M Tris−HCl(pH9.1)で中和した。取得したファージは適当に希釈し、JM109と共に溶解させたTOP Agar(Bacto−tryptone 10.0g/l、Bacto−yeast extract 5.0g/l、NaCl 5.0g/l、agarose 7.0g/l)3mlに加え、LB/ITPG/Xgal寒天培地にまき37℃で一晩放置することでプラークを形成させた。形成されたプラークの数を計測することで、単位溶液あたりのpfuを求めた。
【0085】
その結果、今回取得されたファージは、いずれも高いCNT結合能力を示し、特にM6とM11ペプチドを提示したファージはB1ペプチドを提示したファージと比較して4倍高いpfuの値を示した。すなわち、今回得られたこれらのペプチドはCNT吸着能を持ち、従来のCNT結合ペプチドB1よりもその吸着力は強いことが示唆された(
図1)。
【0086】
実施例3:CNT結合ペプチドを提示したカゴ状タンパク質の構築
CNT結合ペプチド(DM6,DM8,DM10,あるいはDM11)がC末端に融合されたListeria innocuaの金属内包性カゴ状タンパク質Dps(それぞれDps−DM6,Dps−DM8,Dps−DM10,あるいはDps−DM11と呼ぶ)を下記の手順により構築した。Dpsは12量体からなるタンパク質超分子であり、今回各サブユニットにCNT結合ペプチドを遺伝的に融合させることで高いCNT認識能力をもち、ナノ材料の創生に利用できる機能性タンパク質の構築が期待できた。
【0087】
はじめに、L.innocuaのDps遺伝子が搭載されたpET20(K.Iwahori et al.,Chem.lett.,2007,vol.19,p.3105を参照)を鋳型DNAとして、5’−tttGGATCCGAATTCGAGCTCCGTCG−3’(配列番号10)と以下のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして組み合わせてPCRを実施した。Dps−DM6構築には5’−tttGGATCCttaAGTCACAATATGCGGCATCCTCAGATCCCACACCTTttctaatggagcttttccaag−3’(配列番号11)、Dps−DM8構築には5’−tttGGATCCttaAATATTCTCATTAGCAAACATATTAGGCCAAACCTTttctaatggagcttttccaag−3’(配列番号12)。Dps−DM10構築には5’−tttGGATCCttaATGCCCCCCCCGCATATAATGAGAACTAAGAGTATGttctaatggagcttttccaag−3’(配列番号13)。Dps−DM11構築には5’−tttGGATCCttaCTTATGCGACTTCATAATATAATGAGAAGAAAGCGCttctaatggagcttttccaag−3’(配列番号14)をそれぞれ使用した。
【0088】
得られた各PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとBamHIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。セルフライゲーションされたPCR産物をECOS
TM Competent E.coli BL21(DE3)(ニッポンジーン社、日本)に形質転換し、C末端にCNT結合ペプチドが融合されたDpsをコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−Dps−DM6、pET20−Dps−DM8、pET20−Dps−DM10、pET20−Dps−DM11)を保持したBL21(DE3)を構築した。その形質転換株からWizard Plus Minipreps System(Promega社、USA)を使って各ベクターを精製し、搭載された変異Dps遺伝子配列を確認した。SDS−PAGE解析により、各変異Dpsの発現を確認でき、タンパク質発現用株を得ることができた。
【0089】
実施例4:CNT結合ペプチドを提示したカゴ状タンパク質の精製
発現プラスミド(pET20−Dps−DM6、pET20−Dps−DM8、pET20−Dps−DM10、pET20−Dps−DM11)のいずれかを保持したBL21(DE3)を50mLのLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)にて37℃で振とう培養した。培養開始24時間後、得られた菌体を遠心分離(6000rpm、5分間)により回収し、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 10mLで懸濁した。次に、その懸濁液にInsonator201M(KUBOTA社、日本)を使い超音波パルス(130W)を5分間与えることで、菌体を破砕した。その溶液を6000rpmで5分間、遠心分離し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を6500rpmで5分間、遠心分離し、再度、上清を回収(約10mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で粗い粒子を除去し、タンパク質粗抽出液を得た。
【0090】
続いて、そのタンパク質粗抽出液をそのタンパク質溶液からイオン交換クロマトグラフィーを用いて、目的タンパク質画分を精製した。すなわち、そのタンパク質粗抽出液を50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiLoard 26/10 Q−Sepharose High Performanceカラム(GE healthcare社、USA)に注入した。そして、流速2.0ml/分、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、分離精製を行い、各蛋白質に相当する画分を回収した。その後、限外ろ過膜(VIVASPIN20、10,000 MWCO PES,Sartorius AG)を用いて濃縮し、タンパク質溶液の溶媒を水あるいは50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。溶液中のタンパク質濃度はLowry法により決定した。
【0091】
実施例5:CNT結合ペプチドを提示したカゴ状タンパク質の形状評価
各CNT結合ペプチドが、カゴ状タンパク質の多量体を形作る自己組織化能力を阻害しないことを確かめるために、各CNT結合ペプチドを提示したカゴ状タンパク質をTEM解析した。3%リンタングステン酸(PTA)染色されたサンプルをTEM解析した。
【0092】
その結果、Dps−DM6,Dps−DM8,Dps−DM10,およびDps−DM11は、直径9nmのカゴ状をしており、CNT結合ペプチドが融合されたDpsサブユニットは自己組織化し、12量体を形成していることが示唆された(
図2)。Dpsでは各サブユニットのC末端は12量体の外部表面に提示されている。今回、各CNT結合ペプチドはDpsサブユニットのC末端に融合されているため、各ペプチドはカゴ状タンパク質の表面に提示されており、遊離CNTと作用できることが期待できる。
【0093】
実施例6:CNT結合ペプチドを提示したカゴ状タンパク質と単層CNTの複合体形成(1)
CNTペプチドを提示したDpsとしてDps−DM6あるいはDps−DM8と単層CNTとを含むリン酸カリウム緩衝液(50mM リン酸カリウム(pH6.0)、0.6mg/mLのCNTペプチドを提示したDps、0.2mg/mL CNTを各々終濃度で含む)を調製した。調製された溶液に、Digital Sonifier 450(Branson社、USA)を用いて氷上で、3秒間隔で1秒間の超音波パルス処理(200W、Duty 20%)を合計5分間行った。超音波パルス処理されたCNTペプチドを提示したDps−CNT混合溶液を遠心分離(15000rpm、5分間)して、多数のCDT多量体がCNTに結合したCNT/CNTペプチドを提示したDps複合体を得た。結果を
図3に示す。
【0094】
結果として、CNTペプチドを提示したDpsとCNTとの複合体(CNT/CNTペプチドを提示したDps複合体)が得られていることが確認できた。
【0095】
実施例7:比較実験に向けた既知CNT結合ペプチドを提示したカゴ状タンパク質の構築
今回取得されたCNT結合ペプチドと既知のCNT結合ペプチドの性能を比較すべく、複層CNT結合ペプチド(HWKHPWGAWDTL(配列番号15)、Wang et al.,Nat.Mater.2003,vol.2,196)、UW−1(LLADTTHHRPWT(配列番号16)、Su et al.,J.Phys.Chem.B,2006,vol.110,p.23623)、UW−4(CGIHPWTKC(配列番号17)、Su et al.,J.Phys.Chem.B,2006,vol.110,p.23623)がC末端に融合されたListeria innocuaの金属内包性カゴ状タンパク質Dps(それぞれDC2,DC3,あるいはDC4と呼ぶ)を下記の手順により構築した。
【0096】
はじめに、L.innocuaのDps遺伝子が搭載されたpET20(K.Iwahori et al.,Chem.lett.,2007,vol.19,p.3105を参照)を鋳型DNAとして、5’−tttGGATCCGAATTCGAGCTCCGTCG−3’(配列番号10)と以下のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして組み合わせてPCRを実施した。DC2構築には5’−TTTGGATCCTTATAATGTATCCCATGCACCCCATGGATGTTTCCAATGTTCTAATGGAGCTTTTCCAAG−3’(配列番号18)、DC3構築には5’−TTTGGATCCTTATGTCCATGGACGATGATGTGTTGTATCTGCCAGCAGTTCTAATGGAGCTTTTCCAAG−3’(配列番号19)、DC4構築には5’−TTTGGATCCTTAACATTTTGTCCATGGATGAATACCACATTCTAATGGAGCTTTTCCAAG−3’(配列番号20)をそれぞれ使用した。
【0097】
得られた各PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとBamHIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。セルフライゲーションされたPCR産物をECOS
TM Competent E.coli BL21(DE3)(ニッポンジーン社、日本)に形質転換し、C末端にCNT結合ペプチドが融合されたDpsをコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−DC2、pET20−DC3、pET20−DC4)を保持したBL21(DE3)を構築した。その形質転換株からWizard Plus Minipreps System(Promega社、USA)を使って各ベクターを精製し、搭載された変異Dps遺伝子配列を確認した。SDS−PAGE解析により、各変異Dpsの発現を確認したところ、タンパク質発現用株を得ることができた。
【0098】
実施例8:CNT結合ペプチドを提示したカゴ状タンパク質の精製
発現プラスミド(pET20−DC2、pET20−DC3、あるいはpET20−DC4)のいずれかを保持したBL21(DE3)を50mLのLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)にて37℃で振とう培養した。培養開始24時間後、得られた菌体を遠心分離(6000rpm、5分間)により回収し、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 10mLで懸濁した。次に、その懸濁液にInsonator201M(KUBOTA社、日本)を使い超音波パルス(130W)を5分間与えることで、菌体を破砕した。その溶液を6000rpmで5分間、遠心分離し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を6500rpmで5分間、遠心分離し、再度、上清を回収(約10mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で粗い粒子を除去し、タンパク質粗抽出液を得た。
【0099】
続いて、そのタンパク質粗抽出液をそのタンパク質溶液からイオン交換クロマトグラフィーを用いて、目的タンパク質画分を精製した。すなわち、そのタンパク質粗抽出液を50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiLoard 26/10 Q−Sepharose High Performanceカラム(GE healthcare社、USA)に注入した。そして、流速2.0ml/分、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、分離精製を行い、各蛋白質に相当する画分を回収した。その後、限外ろ過膜(VIVASPIN20、10,000 MWCO PES,Sartorius AG)を用いて濃縮し、タンパク質溶液の溶媒を水あるいは50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。溶液中のタンパク質濃度はLowry法により決定した。
【0100】
その結果、DC3とDC4は可溶画分に分取することはできた。しかし、DC2のタンパク質発現は確認できたものの、多くは不溶画分に分画され、透過型電子顕微鏡ではカゴ状を形成しておらず、複層CNT結合ペプチド(HWKHPWGAWDTL(配列番号15))の提示がDpsのカゴ状形成を阻害し、タンパク質の正常な立体構造形成を阻害する可能性が示唆された。
【0101】
実施例9:CNT結合ペプチドを提示したカゴ状タンパク質とCNTの複合体形成(2)
CNTペプチドを提示したDpsとしてDps−DM6、Dps−DM8、DC3あるいはDC4とCNTとを含むリン酸カリウム緩衝液(50mM リン酸カリウム(pH6.0)、0.6mg/mLのCNTペプチドを提示したDps、0.2mg/mL CNTを各々終濃度で含む)を調製した。調製された溶液に、Digital Sonifier 450(Branson社、USA)を用いて氷上で、3秒間隔で1秒間の超音波パルス処理(200W、Duty 20%)を合計5分間行った。超音波パルス処理されたCNTペプチドを提示したDps−CNT混合溶液を遠心分離(15000rpm、5分間)して、透過型電子顕微鏡にて吸着を確認した。今回CNTサンプルとして、シグマアルドリッチ社(米国)から販売されている単層CNT(製品番号698695)、単層CNT(製品番号773735)、あるいはKH Chemicals(韓国)から販売されている単層CNTを各々用いた。
【0102】
結果として、DM6やDM8を提示したDpsはいずれのCNTとも複合体を形成したが、DC3やDC4は一部のCNTとしか複合体を形成できなった(表2)。表中の○はタンパク質発現及びCNTへの吸着が確認されたサンプル、×はタンパク質発現又はCNTへの吸着のいずれかが確認されなかったサンプルを示す。このことは、今回取得されたペプチドが従来のペプチドは吸着できないCNTへも吸着できることを示す。
【0103】
【表2】