(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について
図1〜
図10に基づいて説明する。本実施形態では、本発明の燃料電池システム1を、電気自動車の一種である燃料電池自動車に適用した例について説明する。
【0013】
燃料電池システム1は、水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガス(例えば、空気)との電気化学反応を利用して電気エネルギを出力する燃料電池10を備える。本実施形態では、燃料電池10として固体高分子型の燃料電池(PEFC:Proton Exchange membrane Fuel Cell)を採用している。燃料電池10は、発電により発生した直流電流をDC−DCコンバータ51aを介して、図示しない車両走行用の電動モータや二次電池といった電気負荷に供給する。
【0014】
燃料電池10は、基本単位となるセル10aを複数積層配置したスタック構造となっている。複数のセル10aのうち、隣り合うセル10aは、互いに電気的に直列に接続されている。
【0015】
図2に示すように、セル10aは、電解質膜101の両側を一対の触媒層102a、102bで挟んで構成される膜電極接合体100、膜電極接合体100の両側に配置された一対のガス拡散層103a、103b、これらを狭持するセパレータ110を備える。
【0016】
電解質膜101は、含水性を有する炭化フッ素系や炭化水素系などの高分子材料で形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜で構成されている。また、一対の触媒層102a、102bは、それぞれ電極を構成している。具体的には、一対の触媒層102a、102bは、燃料極を構成する燃料側触媒層102a、および空気極を構成する空気側触媒層102bで構成されている。
【0017】
図3に示すように、各触媒層102a、102bは、白金粒子等の触媒作用を発揮する物質102c、当該物質102cを担持する担持カーボン102d、担持カーボン102dを被覆するアイオノマー(すなわち、電解質ポリマー)102eで構成されている。
【0018】
ガス拡散層103a、103bは、反応ガスである燃料ガスおよび酸化剤ガスを各触媒層102a、102bへ拡散させるものである。ガス拡散層103a、103bは、カーボンペーパーやカーボンクロス等のガス透過性および電子伝導性を有する多孔質部材で構成されている。
【0019】
セパレータ110は、例えば、導電性を有するカーボン製の基材で構成されている。各セパレータ110には、燃料側触媒層102aに対向する部位に、燃料ガスが流れる水素流路111が形成され、空気側触媒層102bに対向する部位に、酸化剤ガスである空気が流れる空気流路112が形成されている。
【0020】
各セル10aは、燃料ガスおよび酸化剤ガスが供給されると、以下の式1、式2に示す水素と酸素との電気化学反応により、電気エネルギを出力する。
【0021】
(燃料極側)H
2→2H
++2e
− ・・・(式1)
(空気極側)2H
++1/2O
2+2e
−→H
2O ・・・(式2)
図1に戻り、燃料電池10は、双方向に電力供給可能なDC−DCコンバータ51aを介して、各種電気負荷に電気的に接続されている。DC−DCコンバータ51aは、電圧センサ52aおよび電流センサ52bと共に、燃料電池10から各種電気負荷、あるいは、各種電気負荷から燃料電池10への電力の流れを制御する電流制御装置51を構成している。なお、本実施形態の電流制御装置51は、診断装置5の一構成要素として機能する。
【0022】
燃料電池10には、診断装置5が接続されている。この診断装置5は、燃料電池10の状態を診断する装置である。本実施形態の診断装置5は、燃料電池10の内部の乾燥度合を診断するように構成されている。なお、診断装置5の詳細については後述する。
【0023】
燃料電池10には、各セル10aの空気流路112に酸化剤ガスである空気を供給する空気入口部11a、各セル10aの空気流路112から生成水や不純物を空気と共に排出する空気出口部11bが設けられている。そして、空気入口部11aには、空気供給配管20が接続されている。また、空気出口部11bには、空気排出配管21が接続されている。
【0024】
空気供給配管20には、その最上流部に大気中から吸入した空気を燃料電池10に圧送するための空気ポンプ22が設けられている。空気ポンプ22は、空気を圧送する圧縮機構と圧縮機構を駆動する電動モータからなる電動ポンプである。
【0025】
そして、空気供給配管20における空気ポンプ22と燃料電池10との間には、燃料電池10に供給される空気の圧力を調整する空気調圧弁23が設けられている。空気調圧弁23は、空気供給配管20のうち空気が流通する空気流路の開度を調整する弁体と、この弁体を駆動する電動アクチュエータとから構成されている。
【0026】
また、空気排出配管21には、燃料電池10内部に存する生成水や不純物等を空気とともに外部へ排出するための電磁弁24が設けられている。電磁弁24は、空気排出配管21のうち空気が排出される空気排出路の開度を調整する弁体と、この弁体を駆動する電動アクチュエータとから構成されている。本実施形態の燃料電池システム1は、電磁弁24の絞り開度を調整することで、燃料電池10の空気極側の背圧を調整可能となっている。本実施形態では、空気ポンプ22、空気調圧弁23、および電磁弁24が、燃料電池10における酸化剤ガスのガス量を調整する酸化剤ガス量調整部を構成している。
【0027】
また、燃料電池10には、各セル10aの水素流路111に燃料ガスを供給する水素入口部12a、各セル10aの水素流路111から未反応水素等を排出させる水素出口部12bが設けられている。そして、水素入口部12aには、水素供給配管30が接続されている。また、水素出口部12bには、水素排出配管31が接続されている。
【0028】
水素供給配管30の最上流部には、高圧水素が充填された高圧水素タンク32が設けられている。そして、水素供給配管30における高圧水素タンク32と燃料電池10との間には、燃料電池10に供給される水素の圧力を調整する水素調圧弁33が設けられている。水素調圧弁33は、水素供給配管30のうち水素供給流路の開度を調整する弁体と、この弁体を駆動する電動アクチュエータとから構成されている。
【0029】
また、水素排出配管31には、微量な未反応水素等を外部へ排出するための電磁弁34が設けられている。電磁弁34は、水素排出配管31のうち水素排出流路の開度を調整する弁体と、この弁体を駆動する電動アクチュエータとから構成されている。本実施形態の燃料電池システム1は、電磁弁34の絞り開度を調整することで、燃料電池10の燃料極側の背圧を調整可能となっている。
【0030】
ここで、本実施形態の燃料電池10には、燃料電池10の温度を調整する冷却系として、不凍液等で構成される冷却水が循環する冷却水循環回路4が接続されている。冷却水循環回路4には、冷却水を循環させる水ポンプ41、燃料電池10通過後の冷却水を外気と熱交換させて放熱する放熱器42が設けられている。放熱器42は、電動ファン43によって送風される外気により冷却水を冷却する。
【0031】
また、冷却水循環回路4には、放熱器42をバイパスして水ポンプ41の入口と燃料電池10の水出口とを接続するバイパス流路44が設けられている。さらに、バイパス流路44および放熱器42の水出口のうちいずれか一方を水ポンプ41の入口に接続する三方弁45が設けられている。
【0032】
さらに、冷却水循環回路4には、燃料電池10の冷却水出口部に温度センサ46が設けられている。この温度センサ46は、燃料電池10を通過した後の冷却水の温度を検出する。
【0033】
ここで、燃料電池10を通過した後の冷却水の温度は、燃料電池10の温度と殆ど同様の温度となる。このため、本実施形態では、温度センサ46の検出値を燃料電池10の温度と見なしている。すなわち、本実施形態では、温度センサ46が燃料電池10の温度を検出する電池温度検出部を構成している。
【0034】
本実施形態の空気調圧弁23、水素調圧弁33、各電磁弁24、34、空気ポンプ22、水ポンプ41等は、診断装置5の診断制御部50の出力側に接続されており、診断制御部50からの制御信号により制御される構成となっている。
【0035】
次に、診断装置5について
図4を参照して説明する。
図4では、燃料電池10の内部構造を示すために、燃料電池10を構成するセル10aの一部を透視図で示している。
図4に示すように、診断装置5は、主たる構成要素として、診断制御部50、前述の電流制御装置51、増幅回路53、およびセルモニタ54を備えている。
【0036】
診断制御部50は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。本実施形態の診断制御部50は、交流成分ΔI付加部510、ΔIn算出部540、Zn算出部520、および診断部530を有している。
【0037】
交流成分ΔI付加部510は、DC−DCコンバータ51aを介して、燃料電池10の出力電流に対して、予め定めた基準周波数(例えば、200Hz)よりも低い低周波数の低周波信号(交流成分ΔI)を重畳させる低周波重畳部である。
【0038】
交流成分ΔI付加部510は、
図5に示す波形を有する低周波信号を燃料電池10の出力電流に重畳する。燃料電池10に対して重畳させる信号の周波数としては、1〜200Hzの低周波数の範囲内に設定されている。なお、交流成分ΔI付加部510において重畳する低周波信号は、燃料電池10の発電状態への影響を考慮して、燃料電池10の出力電流(発電電流)の10%以内とすることが望ましい。
【0039】
ΔIn算出部540は、電流センサ52bの検出電流Iに基づいて、燃料電池10に流れる総電流Iのうち低周波数の交流成分ΔInを算出する。具体的には、ΔIn算出部540は、高速フーリエ変換等の手法によって交流成分ΔInを算出する。なお、電流センサ52bは、燃料電池10に流れる総電流Iを検出する電流検出部を構成する。総電流Iは、
図5に示す燃料電池10の出力電流と、
図5に示す低周波信号とを含む電流である。
【0040】
Zn算出部520は、交流成分ΔI付加部510によって燃料電池10の出力電流に低周波信号が重畳された状態で、セルモニタ54の検出値、および電流センサ52bの検出値に基づいて、セルのインピーダンスZnを算出するインピーダンス算出部を構成する。
【0041】
具体的には、Zn算出部520は、増幅回路53で増幅された出力電圧に基づいて、セル10aから出力されるセル電圧のうち、低周波信号である交流成分ΔVをセル10a毎に算出する。本実施形態のZn算出部520は、高速フーリエ変換等の手法により交流成分ΔVを算出する。
【0042】
本実施形態のZn算出部520は、交流成分ΔVをΔIn算出部540で算出された交流成分ΔInで除算して、低周波信号に対するセル10aの低周波インピーダンスZn(=ΔV/ΔIn)をセル10a毎に算出可能となっている。なお、低周波インピーダンスZnは、インピーダンスの絶対値である。
【0043】
診断部530は、Zn算出部520で算出された低周波インピーダンスZnに基づいて、燃料電池10の内部の乾燥度合を診断する。換言すれば、診断部530は、Zn算出部520で算出された低周波インピーダンスZnに基づいて、燃料電池10の内部の含水量の適否を診断する。
【0044】
続いて、増幅回路53は、セルモニタ54に接続され、セルモニタ54から出力される電圧を増幅して、Zn算出部520に出力する回路である。セルモニタ54は、セル10aから出力されるセル電圧をセル10a毎に検出するセル電圧検出部である。このため、増幅回路53では、各セル10aから出力されるセル電圧をそれぞれ増幅することになる。
【0045】
ここで、本実施形態の診断装置5は、セルモニタ54以外にも、電流制御装置51の電圧センサ52aを有している。この電圧センサ52aは、燃料電池10全体、すなわち、複数のセル10aの積層体から出力される総電圧を検出する総電圧検出部を構成している。
【0046】
ここで、
図6は、燃料電池10に対して酸化剤ガスである空気が充分に供給されている際の空気極側における化学反応を説明するための説明図である。また、
図7は、燃料電池10への酸化剤ガスである空気の供給量が不足している際のセル10aの内部における化学反応を説明するための説明図である。なお、
図6、
図7では、下方側にセル10aの内部構成を図示し、上方側に下方側に示すセル10aの内部構成の等価回路を図示している。
【0047】
燃料電池10に対して酸化剤ガスである空気が充分に供給されている場合、
図6に示すように、空気極側では、前述の式2で示す化学反応が生ずる。この際、空気極側は、電解質膜101におけるプロトン移動抵抗Rohmに対して、電気二重層Cと酸素の拡散抵抗Z(酸素還元反応抵抗)との並列接続体が直列に接続された等価回路として表現することができる。
【0048】
燃料電池10に空気が充分に供給されている場合に燃料電池10に対して1kHz付近の高周波信号を重畳させると、セル10aの内部では、
図6の等価回路に示す一点鎖線矢印の如く、プロトン移動抵抗Rohmから電気二重層Cに流れる電流経路が形成される。
【0049】
プロトン移動抵抗Rohmは、燃料電池10の内部の含水量が少なくなるに伴って、その抵抗値が増大する傾向がある。このため、燃料電池10に対して空気が充分に供給されている際には、燃料電池10に対して高周波信号を重畳させた際のインピーダンスに基づいて、プロトン移動抵抗Rohmの変化、すなわち、燃料電池10の内部の乾燥度合を把握することが可能となる。
【0050】
一方、燃料電池10に空気が充分に供給されている場合に燃料電池10に対して低周波信号を重畳させると、セル10aの内部では、
図6の等価回路に示す二点鎖線矢印の如く、プロトン移動抵抗Rohmから酸素の拡散抵抗Zに流れる電流経路が形成される。
【0051】
酸素の拡散抵抗Zは、燃料電池10の内部の含水量以外の要因(例えば、酸素の供給量)によって変化する傾向がある。このため、燃料電池10に対して空気が充分に供給されている際には、燃料電池10に対して低周波信号を重畳させた際のインピーダンスに基づいて、燃料電池10の内部の乾燥度合を把握することは困難となる。
【0052】
このような理由から、従来のシステムでは、燃料電池10の乾燥度合を、燃料電池10に対して1kHz付近の高周波信号を重畳させた際のセル10aのインピーダンスに基づいて把握する構成となっていた。
【0053】
しかしながら、燃料電池10に対して1kHz付近の高周波信号を重畳させた際のセル10aのインピーダンスを測定するためには、動作周波数の高い制御機器が必要となる。例えば、200Hzを超える高周波数領域におけるインピーダンスを測定するためには、A/D変換のサンプリング周期が1msec以下で分解能が16bit以上の機器が必要となってしまう。このことは、燃料電池システムのコストを著しく増大させる要因となることから好ましくない。
【0054】
これに対して、燃料電池10に対して200Hz以下の低周波信号を重畳させた際のセル10aのインピーダンスについては、動作周波数の高い制御機器がなくとも測定することができる。例えば、20Hzの低周波数領域におけるインピーダンスを測定するためには、A/D変換のサンプリング周期が10msec以上で、分解能が16bit以下の機器にて測定することができる。
【0055】
本発明者らは、動作周波数の低い制御機器によって燃料電池10の内部の乾燥度合を把握すべく、燃料電池10に対して低周波信号を重畳させた際の燃料電池10のインピーダンスの特性について調査研究を重ねた。
【0056】
この結果、燃料電池10に対する酸化剤ガスである空気の供給量が不足した状態における低周波インピーダンスが、燃料電池10に対して高周波信号を重畳させた際のインピーダンス(以下、高周波インピーダンスとも呼ぶ。)と同様に変化することが判った。
【0057】
燃料電池10に対する酸化剤ガスである空気の供給量が不足した場合、
図7に示すように、セル10aの内部では、ポンピング水素反応が生ずる。ポンピング水素反応は、以下の式3、式4に示すように、燃料極側でイオン化したプロトン(H
+)が、空気極側に移動した後に、水素(H
2)に戻る反応である。
【0058】
(燃料極側)H
2→2H
++2e
− ・・・(式3)
(空気極側)2H
++2e
−→H
2 ・・・(式4)
このポンピング水素反応は、酸素の還元反応を伴わない反応であり、等価回路における酸素の拡散抵抗Zが無視できるレベルまで低下する。このため、燃料電池10に対する空気の供給量が不足した状態における低周波インピーダンスには、酸素の拡散抵抗Zが殆ど含まれず、プロトン移動抵抗Rohmとの相関性が高くなる。すなわち、燃料電池10に対する空気の供給量が不足した状態における低周波インピーダンスは、高周波インピーダンスと同様に変化する。
【0059】
ここで、
図8は、燃料電池10に対する空気の供給量を低下させた際のセル電圧および低周波インピーダンスの測定結果を示すグラフである。なお、
図8の上段側に示すグラフでは、燃料電池10に対する空気の供給量と水素の供給量との比である空気ストイキ比(すなわち、空燃比)の時間変化を示している。また、
図8の下段側に示すグラフでは、低周波インピーダンスを実線で示し、高周波インピーダンスを破線で示している。
【0060】
図8に示すように、空気ストイキ比を低下させると、空気ストイキ比を低下させてから所定時間が経過した後に、セル電圧がゼロに近い値まで低下する。この際、低周波インピーダンスは、酸素の拡散抵抗Zが小さくなることで、
図8の下段側のグラフに示すように、高周波インピーダンスと同様の値となるまで低下する。
【0061】
これらの知見を踏まえて、本実施形態の診断制御部50は、燃料電池10における空気のガス量が所定の基準ガス量以下に調整された際に、低周波インピーダンスZnに基づいて、燃料電池10を構成する各セル10aの乾燥度合を診断する構成となっている。
【0062】
ここで、本実施形態の診断制御部50は、200Hz以下の低周波インピーダンスZnを測定可能な動作周波数の低い制御機器で構成されている。なお、本実施形態では、診断制御部50において、燃料電池10における空気のガス量が所定の基準ガス量以下となるように、空気ポンプ22等を含む酸化剤ガス量調整部を制御する制御部がガス量制御部50aを構成している。
【0063】
また、本実施形態の診断制御部50は、診断部530にて燃料電池10の内部における含水量が不足したと診断された場合に、燃料電池10の含水量を回復させる含水量回復処理を実行する構成となっている。本実施形態では、診断制御部50において、含水量回復処理を実行する制御部が回復処理実行部50bを構成している。
【0064】
次に、本実施形態の燃料電池システム1の診断制御部50が実行する診断処理について、
図9のフローチャートを参照して説明する。なお、
図9に示す制御ルーチンは、燃料電池10の運転時等において、周期的または不定期に実行される。
【0065】
診断制御部50は、
図9に示すように、まず、ステップS10において、車両システム等の外部システムから燃料電池10へ要求される要求電力が基準電力以下であるか否かを判定する。基準電力は、市街地を走行している際に燃料電池10へ要求される通常要求電力よりも小さい値に設定される。基準電力は、例えば、車両のシフトレバーがPレンジに設定されている際の要求電力、信号待ち等のアイドリング時の要求電力、自動車専用道路を一定速度で走行している際の要求電力に設定されている。
【0066】
ステップS10の判定処理の結果、燃料電池10への要求電力が基準電力を上回っていると判定された場合、電力供給対象である車載機器の動作が不安定となってしまうことが懸念されることから、診断制御部50は、診断処理を終了する。
【0067】
一方、ステップS10の判定処理の結果、燃料電池10への要求電力が基準電力以下と判定された場合、診断制御部50は、ステップS12において、燃料ガスである水素の供給量を維持した状態で燃料電池10に対する空気の供給量を低減させる。なお、空気の供給量の低減は、例えば、空気ポンプ22の回転数を低下させることで実現することができる。
【0068】
続いて、診断制御部50は、ステップS14において、燃料電池10に対する空気の供給量が不足した酸素不足状態となっているか否かを判定する。本実施形態の診断制御部50は、セル電圧に基づいて、酸素不足状態となっているか否かを判定する。
【0069】
ここで、燃料電池10が酸素不足状態となると、燃料電池10の発電が阻害されることで、セル電圧がゼロに近い値まで低下する。このことを考慮して、本実施形態の診断制御部50は、セル電圧がゼロに近い値に設定された基準電圧以下となった際に酸素不足状態と判定する。
【0070】
ステップS14の判定処理の結果、燃料電池10が酸素不足状態でないと判定された場合、診断制御部50は、ステップS12に戻り、燃料電池10に対する空気の供給量の低減を継続する。
【0071】
一方、ステップS14の判定処理の結果、燃料電池10が酸素不足状態であると判定された場合、診断制御部50は、ステップS16において、低周波インピーダンスZnを測定する。具体的には、診断制御部50は、交流成分ΔI付加部510にて燃料電池10の出力電流に低周波信号を重畳させた状態で、セルモニタ54にて検出されたセル電圧、電流センサ52bの検出値に基づいて、セル10aの低周波インピーダンスZnを算出する。
【0072】
続いて、診断制御部50は、ステップS18において、低周波インピーダンスZnが予め定めた乾燥判定閾値Zthよりも大きいか否かを判定する。乾燥判定閾値Zthは、例えば、電解質膜101の乾燥時における電気的抵抗値を基準に設定されている。
【0073】
ステップS18の判定処理の結果、低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zth以下と判定された場合、燃料電池10の内部の含水量が充分に確保されていると考えられるので、診断制御部50は、診断処理を終了する。
【0074】
一方、ステップS18の判定処理の結果、低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zthよりも大きいと判定された場合、診断制御部50は、ステップS20において、燃料電池10の内部の含水量が不足した含水量不足状態と診断する。そして、診断制御部50は、ステップS22において、燃料電池10の内部の含水量を回復させる含水量回復処理を実行する。
【0075】
本実施形態の含水量回復処理の詳細については、
図10に示すフローチャートを参照して説明する。なお、
図10に示すフローチャートは、
図9のステップS22に示す含水量回復処理の流れを示している。
【0076】
図10に示すように、診断制御部50は、まず、ステップS100において、燃料電池10の温度を低下させる。診断制御部50は、例えば、水ポンプ41の回転数を増加させ、燃料電池10の内部を循環する冷却水の循環量を増加させることで、燃料電池10の温度を低下させる。燃料電池10の温度が低下すると、燃料電池10の内部に存在する空気の飽和蒸気圧が低下し、空気中の水分が凝縮し易くなることで、燃料電池10の内部の含水量が増加する。すなわち、燃料電池10の温度を低下させると、燃料電池10の内部の含水量が回復することになる。
【0077】
続いて、診断制御部50は、ステップS110において、
図9に示すステップS16と同様に低周波インピーダンスZnを測定する。そして、診断制御部50は、ステップS120において、
図9に示すステップS18と同様に低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zthよりも大きいか否かを判定する。
【0078】
ステップS120の判定処理の結果、低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zth以下と判定された場合、燃料電池10の内部の含水量が回復していると考えられるので、診断制御部50は、含水量回復処理を終了する。
【0079】
一方、ステップS120の判定処理の結果、低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zthよりも大きいと判定された場合、診断制御部50は、ステップS130において、燃料電池10における空気極側の背圧を増大させる。診断制御部50は、例えば、電磁弁24の絞り開度を小さくすることで、燃料電池10における空気極側の背圧を増大させる。燃料電池10における空気極側の背圧側が増大すると、燃料電池10の内部に存在する空気の蒸気圧が上昇し、空気中の水分が凝縮し易くなることで、燃料電池10の内部の含水量が増加する。すなわち、燃料電池10における空気極側の背圧側を増大させると、燃料電池10の内部の含水量が回復することになる。
【0080】
続いて、診断制御部50は、ステップS140において、
図9に示すステップS16と同様に低周波インピーダンスZnを測定する。そして、診断制御部50は、ステップS150において、
図9に示すステップS18と同様に低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zthよりも大きいか否かを判定する。
【0081】
ステップS150の判定処理の結果、低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zth以下と判定された場合、燃料電池10の内部の含水量が回復していると考えられるので、診断制御部50は、含水量回復処理を終了する。
【0082】
一方、ステップS150の判定処理の結果、低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zthよりも大きいと判定された場合、診断制御部50は、ステップS160において、燃料電池10に対する空気の供給量を減少させる。診断制御部50は、例えば、空気ポンプ22の回転数を下げることで、燃料電池10に対する空気の供給量を減少させる。燃料電池10に対する空気の供給量が減少すると、燃料電池10の内部の水が空気流れ下流側に偏ってしまうことが抑制される。この結果、燃料電池10の一部に滞留した水が、全体に広がり易くなることで、燃料電池10の内部の乾燥が抑制される。
【0083】
続いて、診断制御部50は、ステップS170において、
図9に示すステップS16と同様に低周波インピーダンスZnを測定する。そして、診断制御部50は、ステップS180において、
図9に示すステップS18と同様に低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zthよりも大きいか否かを判定する。
【0084】
ステップS180の判定処理の結果、低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zth以下と判定された場合、燃料電池10の内部の含水量が回復していると考えられるので、診断制御部50は、含水量回復処理を終了する。
【0085】
一方、ステップS180の判定処理の結果、低周波インピーダンスZnが乾燥判定閾値Zthよりも大きいと判定された場合、診断制御部50は、ステップS100に戻り、含水量回復処理を継続する。なお、含水量回復処理を継続しても、燃料電池10の内部の含水量が回復しない場合は、含水量回復処理を終了すると共に、燃料電池10の運転を停止させることが望ましい。
【0086】
以上説明した本実施形態の燃料電池システム1は、酸化剤ガスである空気が不足した状態において燃料電池10の低周波インピーダンスを測定し、当該低周波インピーダンスに基づいて、固体高分子型の燃料電池10の内部の乾燥度合を把握する構成となっている。
【0087】
これによれば、動作周波数の高い制御機器がなくとも、動作周波数の低い制御機器によって固体高分子型の燃料電池10の内部の乾燥度合を把握することができる。このことは、燃料電池システム1のコスト抑制に大きく寄与する。
【0088】
また、本実施形態の燃料電池システム1は、燃料電池10への要求電力が小さい場合に、空気の供給量を減少させつつ、燃料電池10の低周波インピーダンスを測定する構成となっている。これによれば、燃料電池10の乾燥度合を把握するための処理を実行する際に、燃料電池10の出力不足に伴う電力供給対象の作動が不安定となる等の不具合を抑制することができる。
【0089】
さらに、本実施形態の燃料電池システム1は、燃料電池10の含水量が不足した含水量不足状態となった際に含水量回復処理を実行する構成となっている。これによれば、燃料電池10の含水量不足に伴う燃料電池10の劣化等の不具合を回避することができる。
【0090】
ここで、本実施形態の燃料電池システム1では、燃料電池10の内部の含水量を回復させる処理として、燃料電池10の温度低下、燃料電池10における空気極側の背圧増大、および燃料電池10への空気の供給量減少を実施している。
【0091】
燃料電池10の温度低下は、燃料電池10における空気極側の背圧増大や、燃料電池10への空気の供給量減少と異なり、水素および空気といった反応ガスの供給量が変化しないので、電力供給対象の作動が不安定になり難い。
【0092】
また、燃料電池10における空気極側の背圧増大は、燃料電池10への空気の供給量減少と異なり、水素および空気といった反応ガスの供給量が減少しないので、燃料電池10への空気の供給量減少に比べて、電力供給対象の作動が不安定になり難い。
【0093】
これらを考慮して、本実施形態の燃料電池システム1は、含水量回復処理において、燃料電池10の温度低下、燃料電池10における空気極側の背圧増大、燃料電池10への空気の供給量減少の順に実施する構成となっている。これによれば、含水量回復処理を実行することによって、電力供給対象の作動が不安定となる等の不具合を抑制することができる。
【0094】
(他の実施形態)
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0095】
上述の実施形態では、本発明の燃料電池システム1を燃料電池自動車に適用した例について説明したが、これに限定されない。本発明の燃料電池システム1は、燃料電池自動車に限らず、例えば、家屋や工場等に供される定置型の発電装置にも適用することができる。
【0096】
上述の実施形態では、Zn算出部520において、燃料電池10を流れる総電流Iを検出する電流センサ52bの検出値、およびセルモニタ54の検出値に基づいて、インピーダンスZnを算出する例について説明したが、これに限定されない。
【0097】
燃料電池システム1は、セル10aの面内の局所電流を検出可能な局所電流センサの検出値、およびセルモニタ54の検出値に基づいて、インピーダンスZnを算出する構成となっていてもよい。
【0098】
ここで、セル10aの面内では、空気流路112の空気流れ上流側の部位、すなわち、空気流路112の入口側の部位が最も乾燥し易い傾向がある。このことを考慮すると、局所電流センサは、少なくとも空気流路112の空気流れ上流側の部位を流れる局所電流を検出する構成とすることが望ましい。
【0099】
上述の実施形態では、診断処理において、燃料電池10へ要求される要求電力が基準電力以下となった際に、燃料電池10に対する空気の供給量を低減させる例について説明したが、これに限定されない。
【0100】
診断処理は、例えば、車両のシフトレバーがPレンジに設定されている場合、信号待ち等のアイドリング状態となっている場合、自動車専用道路を一定速度で走行している場合等に、燃料電池10に対する空気の供給量を低減させるようになっていてもよい。
【0101】
なお、診断処理では、燃料電池10へ要求される要求電力が低下する際に、燃料電池10に対する空気の供給量を低減させることが望ましいが、これに限定されない。診断処理は、燃料電池10へ要求される要求電力に関わらず、所定のタイミングで、燃料電池10に対する空気の供給量を低減させるようになっていてもよい。
【0102】
上述の実施形態では、診断処理において、燃料電池10に対する空気の供給量を低減させた後に、低周波インピーダンスZnを測定する例について説明したが、これに限定されない。診断処理は、車両システム等の外部システムからの要求によって、燃料電池10に対する空気の供給量が低下したタイミングで、低周波インピーダンスZnを測定するようになっていてもよい。
【0103】
上述の実施形態では、含水量回復処理において、燃料電池10の温度低下、燃料電池10における空気極側の背圧増大、燃料電池10への空気の供給量減少といった異なる処理を実行する例について説明したが、これに限定されない。
【0104】
燃料電池システム1は、燃料電池10の温度低下、燃料電池10における空気極側の背圧増大、燃料電池10への空気の供給量減少のうち、一部の処理だけを実行する構成となっていてもよい。
【0105】
ここで、燃料電池10では、空気極側から燃料極側に水分が透過し、当該水分が燃料極側で滞留することがあり、燃料電池10における燃料極側の背圧を増大させると、燃料極側に滞留している水分が電解質膜101に流れ易くなる。このため、燃料電池システム1は、燃料電池10における燃料極側の背圧を増大させる処理を含水量回復処理として実行するように構成されていてもよい。
【0106】
また、上述の実施形態の如く、燃料電池10の内部の含水量が不足した含水量不足状態と診断されると、含水量回復処理を実行することが望ましいが、これに限定されない。燃料電池システム1は、燃料電池10の内部の含水量が不足した含水量不足状態と診断された際に、含水量回復処理ではなく、例えば、含水量不足状態をユーザ等に報知する処理を実行する構成となっていてもよい。
【0107】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0108】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0109】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0110】
(まとめ)
上述の実施形態の一部または全部で示された第1の観点によれば、燃料電池システムは、燃料電池の内部の酸化剤ガスのガス量が基準ガス量以下に調整された際に、燃料電池の低周波インピーダンスに基づいて、燃料電池の内部における乾燥度合を診断する。
【0111】
また、第2の観点によれば、燃料電池システムは、酸化剤ガス量調整部を制御するガス量制御部を備える。そして、ガス量制御部は、燃料電池へ要求される要求電力が所定の基準電力以下となる際に、酸化剤ガスのガス量が基準ガス量以下に調整されるように酸化剤ガス量調整部を制御する構成となっている。このように、燃料電池へ要求される要求電力が小さい場合に、燃料電池を酸化剤ガスが不足した状態にすることで、燃料電池の出力不足に伴って電力供給対象の作動が不安定となる等の不具合を抑制することができる。
【0112】
また、第3の観点によれば、燃料電池システムは、燃料電池の内部の含水量を回復させる含水量回復処理を実行する回復処理実行部を備える。そして、回復処理実行部は、診断部にて燃料電池の含水量が不足した含水量不足状態と診断された場合に、含水量回復処理を実行する構成となっている。このように、燃料電池の含水量が不足した含水量不足状態となった際に含水量回復処理を実行する構成とすれば、燃料電池の含水量不足に伴う燃料電池の劣化等の不具合を回避することができる。