(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6686950
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】空間温度スキャナ
(51)【国際特許分類】
G01K 7/02 20060101AFI20200413BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20200413BHJP
G01C 15/06 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
G01K7/02 E
G01C15/00 101
G01C15/06 T
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-60741(P2017-60741)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-163057(P2018-163057A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年7月19日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】矢嶌 健史
(72)【発明者】
【氏名】中山 功
【審査官】
細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−222657(JP,A)
【文献】
特開2000−310569(JP,A)
【文献】
実開平07−038930(JP,U)
【文献】
特開2002−181634(JP,A)
【文献】
特開平10−038701(JP,A)
【文献】
特開2017−020972(JP,A)
【文献】
特開2015−187798(JP,A)
【文献】
特開2011−112470(JP,A)
【文献】
特開2000−241203(JP,A)
【文献】
特開2015−178973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/00− 7/42
G01K 1/14
G01C 15/00−15/14
G01J 5/00− 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の支持部材と、
前記支持部材に直線状に複数配置される取付部と、
前記取付部に着脱可能に取り付けられる複数の熱電対ユニットと、
を備え、
前記複数の取付部の一部に前記熱電対ユニットを選択的に取り付けて温度を測定可能であり、
前記熱電対ユニットは、
前記取付部に接続されるコネクタと、
前記コネクタから突出する二線式の細線熱電対と、
を有し、
前記熱電対ユニットの細線熱電対は当該空間温度スキャナの進行方向の前方に向かって突出するように配置されていて、
前記熱電対ユニットのそれぞれに、モーションキャプチャー用の反射材を有することを特徴とする空間温度スキャナ。
【請求項2】
複数の前記支持部材を、継手、ヒンジ、またはスライドレールによって連結可能であることを特徴とする請求項1に記載の空間温度スキャナ。
【請求項3】
前記支持部材は、加速度センサーを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空間温度スキャナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間内の温度分布を測定する空間温度スキャナに関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の内部の空間の温度分布を測定する方法としては、従来から、温度計を複数設置する方法、熱容量の小さい検知板と放射温度計を用いた方法、音波や超音波の伝搬速度を用いた方法等が知られている。
【0003】
検知板および放射温度計を用いた方法としては、例えば特許文献1の空間温度測定監視システムが開示されている。特許文献1では、温度に対応する赤外線を発する複数の温度検出体を空間の所定位置に設置し、かかる温度検出体の温度を赤外線量でとらえることにより、空間の温度を検出している。
【0004】
音波や超音波の伝搬速度を用いた方法としては、例えば特許文献2の空間温度測定方法が開示されている。特許文献2では、測定対象空間の中心位置を挟んで向かい合う方向にある2つの異なる交差点のそれぞれに超音波発振器を配設し、2つの超音波発振器からの超音波の差音を検出器において検出する。そして、超音波の到達時間および音の伝搬経路差に基づいて空間温度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−38698号公報
【特許文献2】特開2010−139251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、温度計を複数設置する方法であると、温度計を室内の天井や風船等によって吊るす場合に設置が難しいという問題点がある。また検知板および放射温度計を用いた方法においても、検知体の設置が難しく、検知体が空間における空気の流れを阻害してしまうため正確な測定が難しいという問題がある。音波や超音波の伝搬速度を用いた方法においては、発信器と受信機の設置が困難であり、信号処理が難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、煩雑な装置設置作業や、複雑なデータ処理を必要とすることなく空間内の温度分布を測定することが可能な空間温度スキャナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる空間温度スキャナの代表的な構成は、棒状の支持部材と、支持部材に直線状に複数配置される取付部と、取付部に着脱可能に取り付けられる複数の熱電対ユニットと、を備え、複数の取付部の一部または全部に熱電対ユニットを選択的に取り付けて温度を測定可能であることを特徴とする。
【0009】
上記構成では、棒状の支持部材の取付部に複数の熱電対ユニットを取り付け、かかる支持部材を空間内に配置する。これにより、複数の熱電対ユニットを一度に空間内に設置することができる。また熱電対ユニットを用いることにより、複雑なデータ処理を行うことなく空間内の温度を取得することができる。したがって、上記構成によれば、煩雑な装置設置作業や、複雑なデータ処理を必要とすることなく空間内の温度分布を測定可能となる。
【0010】
更に、上記構成では、取付部は直線状に複数配置されている。これにより、例えば、空間内のうち特に上方の温度分布を測定したい場合には支持部材の上部の取付部に熱電対ユニットを配置する等、測定位置を容易に調整することが可能となる。また空間温度をより詳細に測定したい高さに熱電対ユニットを多く配置する等、測定の自由度を高めることも可能である。
【0011】
上記熱電対ユニットは、取付部に接続されるコネクタと、コネクタから突出する二線式の細線熱電対と、を有するとよい。かかる構成によれば、コネクタを取付部に接続することにより、熱電対ユニットを支持部材に容易に取り付けることができる。また細線熱電対は熱応答性に優れているため、空間内の温度を正確且つ効率的に測定することが可能である。
【0012】
上記複数の支持部材を、継手、ヒンジ、またはスライドレールによって連結可能であるとよい。これにより、複数の支持部材を連結し、より高い位置での空間温度を測定することが可能となる。また連結可能であるということは、換言すれば分解可能ということである。したがって、支持部材を分解した状態で運搬することができ、可搬性を高めることが可能である。
【0013】
上記熱電対ユニットは、モーションキャプチャー用の反射材を有するとよい。これにより、空間内における空間温度スキャナの位置情報を取得することができる。したがって、空間内の温度分布をより容易且つ正確に測定することが可能となる。
【0014】
上記支持部材は、加速度センサーを備えるとよい。これによっても、空間内における空間温度スキャナの位置情報を取得可能であるため、空間内の温度分布をより容易且つ正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、煩雑な装置設置作業や、複雑なデータ処理を必要とすることなく空間内の温度分布を測定することが可能な空間温度スキャナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態にかかる空間温度スキャナを説明する図である。
【
図5】本実施形態にかかるスキャナを用いた空間温度の測定方法を説明する図である。
【
図6】熱電対ユニットの他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる空間温度スキャナ(以下、スキャナ100と称する)を説明する図である。
図1に示すように、本実施形態にかかるスキャナ100は、棒状の支持部材110を備え、かかる支持部材110には複数の取付部120a〜120hが直線状に配置されている。支持部材110としては、例えば塩ビ管を好適に用いることができる。なお、以下の説明では、複数の取付部120a〜120hを特に区別しない場合には、取付部120と称する。
【0019】
複数の取付部120には、複数の熱電対ユニット130が着脱可能に取り付けられ、この熱電対ユニット130において空間の温度が測定される。なお、本実施形態では、複数の取付部120の全てに熱電対ユニット130を取り付けた構成を例示しているが、これに限定するものではなく、複数の取付部120の一部に熱電対ユニット130を選択的に取り付けることも可能である。
【0020】
また本実施形態では、複数の取付部120a〜120hの間隔はそれぞれ異なっているが、これに限定するものではない。複数の取付部120a〜120hの間隔は、適宜変更することが可能であり、例えばすべて等間隔としてもよい。本実施形態では、空間の上方の領域の温度分布をより詳細に把握するために、支持部材110の上部に配置される120a〜120cの間隔を狭くし、熱電対ユニット130を密に配置可能としている。更に本実施形態では8つの取付部120を設ける構成を例示したが、これにおいても限定されず、取付部120の数は任意に変更することが可能である。
【0021】
図2は、熱電対ユニット130の詳細図である。
図2(a)および(b)に示すように、本実施形態では、熱電対ユニット130は、コネクタ132および二線式の細線熱電対134を含んで構成される。細線熱電対134はコネクタ132から突出するように配置されている。
【0022】
図2(b)に示すように、支持部材110に設けられる取付部120はソケット形状をしている。そして、このソケット形状の取付部120にコネクタ132を接続することにより、
図2(a)に示すように熱電対ユニット130が支持部材110に取り付けられ、電気的にロガー140に接続される。このように、本実施形態のスキャナ100では、熱電対ユニット130を支持部材110に容易に取り付けることができる。
【0023】
また上述したように、本実施形態では熱電対として細線熱電対134を用いている。細線熱電対134は、熱容量が小さく応答速度が速いため、熱応答性に優れる。したがって、空間温度を正確且つ効率的に測定することが可能である。また細線熱電対134は、熱応答性すなわち空間温度への追従性が高いため、補正や補償の煩雑なデータ処理を行う必要なく空間温度を取得可能である。
【0024】
図3は、
図1のスキャナ100の拡大図である。
図1の複数の取付部120には、それぞれ配線142(
図1では不図示)の一端が接続されている。
図3に示すように、配線142は、支持部材110に形成された孔110aから支持部材110の外側に露出し、他端がロガー140に接続される。これにより、熱電対ユニット130において測定された空間の温度のデータがロガー140に保存される。
【0025】
図4は、
図1のスキャナ100の分解図である。
図1のスキャナ100は、分解すると
図4に示すようになる。詳細には、支持部材110は、上側支持部材112および下側支持部材114によって構成される。上側支持部材112および下側支持部材114は、それぞれ連結部112a・114aを有する。そして、これらの連結部112a・114において上側支持部材112および下側支持部材114を連結することにより、
図1に示す一体の支持部材110となる。
【0026】
上記構成によれば、複数の支持部材である上側支持部材112および下側支持部材114を連結することにより、より高い位置における空間温度を測定することができる。また支持部材110を上側支持部材112および下側支持部材114に分解することにより、運搬が容易となる。したがって、可搬性を高めることが可能となる。なお、本実施形態では、連結部112a・114aを雄ネジおよび雌ネジによる継手とする構成を例示したが、これに限定するものではない。例えば、他の連結方法としては、差し込み継手、分離せずに折りたたみ可能なヒンジ、または分離せずに伸縮可能なスライドレール等を用いることも可能である。
【0027】
図5は、本実施形態にかかるスキャナ100を用いた空間温度の測定方法を説明する図である。空間温度の測定を行う際には、まず棒状の支持部材110の取付部120に複数の熱電対ユニット130を取り付ける。そして、作業者(不図示)は、支持部材110を把持しながら空間102内を移動する。これにより、複数の熱電対ユニット130において空間温度が測定され、そのデータがロガー140に保存される。そして、空間温度のデータを蓄積することにより、
図5に示す32℃ゾーンや18℃ゾーンのように断面での温度分布を取得することができる。
【0028】
上記説明したように、本実施形態のスキャナ100によれば、複数の装置を測定箇所に設置することなく、スキャナ100を持った作業者が空間内を移動することにより空間温度を測定することができる。したがって、従来作業者の負担になっていた装置の取付作業を排除することができ、測定作業を容易に行うことが可能である。
【0029】
また本実施形態のスキャナ100では、支持部材110の高さ方向に複数の熱電対ユニット130を着脱可能である。したがって、温度を測定したい高さに応じて熱電対ユニット130を付け替えることができる。更に、本実施形態では熱電対ユニット130を用いて空間温度を測定することにより、複雑なデータ処理を行うことなく空間温度を取得することができる。
【0030】
なお、本実施形態では作業者が移動しながら空間温度を測定する方法を例示したが、これに限定するものではなく、スキャナ100を定点に設置した状態で空間温度を測定することも可能である。図面には図示していないが、例えば支持部材110の下端に車輪を取り付ける構成とすれば、作業者がより容易にスキャナ100を移動させることができ、測定高さも安定するので、作業効率を高めることができる。スキャナ100を定点に設置する場合には、支持部材110の下端に台座を取り付ける構成としてもよい。
【0031】
好ましくは、熱電対ユニット130の細線熱電対134は、線径が25μm以下であるとよく、長さは100mm以上であるとよい。これにより、作業員が移動しながら測定する際の空間温度への追従性を良好に確保することができる。またロガー140へのデータの保存間隔、すなわち空間温度の測定間隔は100msec以下とすることが望ましい。
【0032】
図6は、熱電対ユニット130の他の例を説明する図である。なお、先に説明した熱電対ユニット130と共通する構成要素については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
図6(a)に示すように、熱電対ユニット130aは、コネクタ132の側面に貼付されたモーションキャプチャー用の反射材136を更に有する。
【0033】
図6(b)は、空間102をモーションキャプチャー用カメラで撮影している様子を模式的に示している。上述したように熱電対ユニット130aがモーションキャプチャー用の反射材を備えることにより、作業者が空間内を移動している様子をキャプチャー用カメラ(不図示)で撮影すると、
図6(b)の楕円E内に示すように熱電対ユニット130aが配置されている位置に輝点(黒点で図示)が観察される。これにより、空間102内におけるスキャナ100の位置情報を取得することができる。
【0034】
上記構成によれば、キャプチャー用カメラによって撮影された位置情報のログと、熱電対ユニット130によって測定された空間温度情報のログとをマッチングすることにより、空間内の温度分布を容易且つ正確に把握することができる。そして、例えば空間の室内写真に温度分布を重畳して表示することにより、
図5(b)に示すように、空間温度を視覚的に把握することが可能となる。
【0035】
なお、上記構成では、モーションキャプチャー用の反射材136を用いた位置情報の取得方法について説明したが、これに限定するものではない。例えば、支持部材110に加速度センサー(不図示)を取り付ける構成としても、支持部材110の位置情報を取得し、上記と同様の効果を得ることが可能である。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、空間内の温度分布を測定する空間温度スキャナとして利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
100…スキャナ、102…空間、110…支持部材、110a…孔、112…上側支持部材、112a…連結部、114…下側支持部材、114a…連結部、120…取付部、120a〜120h…取付部、130…熱電対ユニット、130a…熱電対ユニット、132…コネクタ、134…細線熱電対、140…ロガー、142…配線