(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
片持ちで支持された固定軸部に回転自在に設けられた綱車と一体的に回転するブレーキディスクを制動する浮動キャリパ型の電磁ブレーキを備えたエレベータ用の巻上機であって、
前記電磁ブレーキが、
前記巻上機の本体から前記固定軸部と平行に突設されたピンと、
前記ピンが挿入された挿入孔を有し、当該ピンの軸心方向にスライド自在に設けられたキャリパ本体と、
前記キャリパ本体に固定された第1のブレーキパッドと、
前記ブレーキディスクの外周部を挟んで前記第1のブレーキパッドと対向し、前記ブレーキディスクの制動時は、前記軸心方向と平行な第1の向きに押圧されて当該第1のブレーキパッドとで前記外周部の一部を挟持し、解除時は、前記第1の向きとは反対の第2の向きに所定距離後退されて前記外周部から離間する第2のブレーキパッドと、
前記解除時に前記キャリパ本体の前記軸心方向における位置決めをする位置決め機構と、
を有し、
当該位置決め機構が、
前記キャリパ本体を前記第1の向きに弾発付勢する弾性部材と、
前記キャリパ本体に固定された第1のブラケット部と、
当該第1のブラケット部に前記軸心方向と平行な方向に連結された第2のブラケット部と、
ストッパ部材と、
前記第2のブラケット部に取り付けられ、前記解除時に前記弾発付勢によって前記第1の向きに移動する前記キャリパ本体と共に、前記ストッパ部材に当接するまで移動する当接部材と、
を含む巻上機の設置方法であって、
前記綱車に前記主ロープを介して基本軸荷重が掛けられた際に、前記外周部が前記軸心方向と平行な第2の向きに変位する変位量に相当する厚みを有するシムを、前記第1のブラケット部と前記第2のブラケット部の間に挿入するシム挿入工程と、
前記制動時における前記当接部材と前記ストッパ部材との間の前記軸心方向に平行な隙間寸法を前記所定距離の半分の距離になるよう調整する隙間調整工程と、
巻上機の前記本体をエレベータの設置現場に据え付ける据付工程と、
前記綱車に主ロープを巻き掛け、当該主ロープの一端側にかごを、他端側に釣合おもりをそれぞれ吊り下げる、主ロープ巻き掛け工程と、
前記シムを前記第1のブラケット部と前記第2のブラケット部の間から抜き取り、両ブラケット部を密着させて再連結させるシムの抜き取り工程と、
を含むことを特徴とする巻上機の設置方法。
【背景技術】
【0002】
上記エレベータ用巻上機(以下、単に「巻上機」とも言う。)は、固定軸部がその両端で支持されているエレベータ用巻上機と比較して小型化(固定軸部の軸心方向における薄形化)に適しているため、機械室レスエレベータに多く用いられている。
【0003】
図5に、巻上機の従来構成の一例を示す。
図5(a)は、当該従来の巻上機210の概略構成を示す側面図である。
図5(b)〜
図5(d)は、後述する電磁ブレーキ216を示す側面図であり、
図5(b)は、電磁ブレーキ216が締結された状態を、
図5(c)は、電磁ブレーキ216の締結が解除された直後の状態を、
図5(d)は、電磁ブレーキ216が解放されエレベータが運転されているときの電磁ブレーキ216の状態をそれぞれ示している。
【0004】
図5(a)に示す巻上機210は、片持ちで支持された不図示の固定軸部の自由端側に綱車212が回転自在に支持されている。綱車212は不図示の内部モータにより回転駆動される。
【0005】
工場で製作された巻上機210は、例えば、機械室レスエレベータにおいては、設置現場となる昇降路の底部や昇降路の側壁などに設置される。設置後には、綱車212に主ロープが巻き掛けられ、主ロープの一端にはかごが、他端には釣合いおもりが連結される。前記内部モータにより、綱車212が回転駆動されると、かごと釣合おもりが相反する向きに昇降することとなる。
【0006】
巻上機210は、また、電磁ブレーキ216を有しており、かごが目的階に着床している間等に綱車212が不測に回転しないよう、綱車212と一体となって回転するブレーキディスク214に制動力を及ぼしている。電磁ブレーキ216は、キャリパ218でブレーキディスク214を挟んで制動する浮動キャリパ型の電磁ブレーキである。
【0007】
電磁ブレーキ216は、キャリパ本体220に取り付けられたブレーキパッド222と電磁アクチュエータ224の可動鉄心226に取り付けられたブレーキパッド228でブレーキディスク214を挟み込んで(
図5(b))、制動する構成を有している。電磁アクチュエータ224の電磁石(不図示)は、キャリパ本体220に内蔵されている。
【0008】
また、可動鉄心226(ブレーキパッド228)を制動時にブレーキパッド222に向かって押圧する圧縮コイルばね229が設けられている。
【0009】
かごを昇降させるため、電磁ブレーキ216による制動を解除する場合、前記電磁石のコイルに通電することで発生する磁力により、可動鉄心226が、圧縮コイルばね229の付勢力に抗して前記電磁石に吸着され、ブレーキパッド222から遠ざかる向きに変位して、制動が解除される(
図5(d))。
【0010】
電磁ブレーキ216は、また、巻上機210の本体230からブレーキディスク214の軸心方向と平行に突出して設けられた少なくとも2本のピン232(
図5では、1本のピン232のみが現れている。)を備えている。
【0011】
キャリパ本体220には、ピン232が挿入されている挿入孔220Aが開設されていて、挿入孔220Aにピン232が挿入されて、キャリパ本体220がピン232を介して、巻上機210の本体230に取り付けられている。
【0012】
ピン232は、ブレーキディスク214の制動時にブレーキディスク214からのトルクを受け止めるとともに、キャリパ本体220をブレーキディスク214の軸心と平行にスライド自在に支持する。
【0013】
キャリパ本体220には、電磁ブレーキ216が解放されているときに(エレベータの運転中に)、ブレーキディスク214と両ブレーキパッド222、228間の隙間の大きさが等しくなるように、キャリパ本体220をピン232の軸心方向における適切な位置に位置決めするための機構(以下、「位置決め機構234」と言う。)を有している。
【0014】
位置決め機構234は、キャリパ本体220に取り付けられたブラケット236、ブラケット236に開設されたねじ穴(不図示)に螺合した位置決めボルト238、ピン232の先端に設けられたストッパ240、およびリターンスプリング242を含む。リターンスプリング242は、ストッパ240とキャリパ本体220の間のピン232部分に外挿された圧縮コイルばねである。
【0015】
上記の構成からなる位置決め機構234において、電磁ブレーキ216が締結された
図5(b)に示す状態から、電磁ブレーキ216の締結が解除されると、ブレーキパッド228とブレーキディスク214との間に寸法G1の隙間C1が生じる(
図5(c))。
【0016】
すると、リターンスプリング242の付勢力によって、キャリパ本体220は、矢印Aの向きに位置決めボルト238の先端がストッパ240に当接するまでスライドして、
図5(d)に示すように位置決めされる。位置決めされた状態において、理想的には、ブレーキパッド228とブレーキディスク214の間の隙間C1の寸法G3とブレーキパッド222とブレーキディスク214の間の隙間C2の寸法G4とは等しくなる(G3=G4)。
【0017】
これによりエレベータの運転中、ブレーキディスク214は、両ブレーキパッド222,228と干渉することなく回転する。寸法G3と寸法G4を等しくするため、電磁ブレーキ216が締結された状態(
図5(b))における位置決めボルト238の先端とストッパ240の隙間C3の寸法G2が、G2=G1/2の大きさになるよう調整される。この調整は、巻上機210の工場出荷前に実施される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところが、現場に設置された巻上機210の綱車212に主ロープ(不図示)を掛けて、エレベータの試験運転を実施するとブレーキパッド228にブレーキディスク214が干渉する事態が生じる。綱車212に主ロープを掛けて、その両端の各々にかご(不図示)と釣合おもり(不図示)を吊り下げると、綱車212、ひいては固定軸部(不図示)には、その軸心と直交する方向に荷重F(かごや釣合おもり等の重量)が、本例では、上向きに掛かることとなる。前記固定軸部は片持ちで支持されているため、支持部を中心として当該固定軸部が上向きに撓み、綱車212、ひいてはブレーキディスク214が傾いて、
図5(d)に一点鎖線で示すように変位(本例では、ブレーキパッド228に近づく向きに変位)する。これによって、ブレーキディスク214がブレーキパッド228に干渉してしまうこととなる。
【0020】
このため、従来、前記試験運転の際に、位置決めボルト238によるキャリパ本体220のピン232の軸心方向における位置調整が行われる。具体的には、電磁ブレーキ216が解放された
図5(d)に示す状態で、位置決めボルト238を回して、隙間C1と隙間C2の寸法G3と寸法G4が等しくなるよう、キャリパ本体220を前記軸心方向にスライドさせる。
【0021】
しかしながら、昇降路といった狭小な場所で隙間C1、C2を目視で確認することは困難なため、ブレーキディスク214とブレーキパッド222、228の擦過音を頼りに調整しているのが現状であり、非常に手間を要している。
【0022】
上記した課題は、機械室レスエレベータに設置される巻上機に限らず、昇降路上部に設けられた機械室に設置される巻上機にも共通する。
【0023】
本発明は、上記した課題に鑑み、可能な限り、設置時におけるキャリパ本体の上述したような位置調整(再調整)を可能な限り不要にできるエレベータ用巻上機および巻上機の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の目的を達成するため、本発明に係るエレベータ用巻上機は、片持ちで支持された固定軸部に、かごおよび釣合おもりを吊り下げる主ロープが巻き掛けられる綱車が、回転自在に設けられた構成のエレベータ用巻上機であって、前記綱車と一体的に回転するブレーキディスクと前記ブレーキディスクを制動する浮動キャリパ型の電磁ブレーキとを備え、前記電磁ブレーキは、前記巻上機の本体から前記固定軸部と平行に突設されたピンと、前記ピンが挿入された挿入孔を有し、当該ピンの軸心方向にスライド自在に設けられたキャリパ本体と、前記キャリパ本体に固定された第1のブレーキパッドと、前記ブレーキディスクの外周部を挟んで前記第1のブレーキパッドと対向し、前記ブレーキディスクの制動時は、前記軸心方向と平行な第1の向きに押圧されて当該第1のブレーキパッドとで前記外周部の一部を挟持し、解除時は、前記第1の向きとは反対の第2の向きに所定距離後退されて前記外周部から離間する第2のブレーキパッドと、前記解除時に前記キャリパ本体の前記軸心方向における位置決めをする位置決め機構と、を有し、当該位置決め機構が、前記キャリパ本体を前記第1の向きに弾発付勢する弾性部材と、前記キャリパ本体に固定された第1のブラケット部と、当該第1のブラケット部に前記軸心方向と平行な方向に連結された第2のブラケット部と、前記綱車に前記主ロープを介して基本軸荷重が掛けられた際に、前記外周部が前記軸心方向と平行な第2の向きに変位する変位量に相当する厚みを有し、前記第1のブラケット部と前記第2のブラケット部の間に抜き取り可能な状態で挿入されたシムと、ストッパ部材と、前記制動時における前記ストッパ部材との間の前記軸心方向と平行な隙間寸法が前記所定距離の半分の距離に調整されて前記第2のブラケット部に取り付けられ、前記解除時に前記弾発付勢によって前記第1の向きに移動する前記キャリパ本体と共に、前記ストッパ部材に当接するまで移動する当接部材と、を含むことを特徴とする。
【0025】
また、上記の目的を達成するため、本発明に係る巻上機の設置方法は、片持ちで支持された固定軸部に回転自在に設けられた綱車と一体的に回転するブレーキディスクを制動する浮動キャリパ型の電磁ブレーキを備えたエレベータ用の巻上機であって、前記電磁ブレーキが、前記巻上機の本体から前記固定軸部と平行に突設されたピンと、前記ピンが挿入された挿入孔を有し、当該ピンの軸心方向にスライド自在に設けられたキャリパ本体と、前記キャリパ本体に固定された第1のブレーキパッドと、前記ブレーキディスクの外周部を挟んで前記第1のブレーキパッドと対向し、前記ブレーキディスクの制動時は、前記軸心方向と平行な第1の向きに押圧されて当該第1のブレーキパッドとで前記外周部の一部を挟持し、解除時は、前記第1の向きとは反対の第2の向きに所定距離後退されて前記外周部から離間する第2のブレーキパッドと、前記解除時に前記キャリパ本体の前記軸心方向における位置決めをする位置決め機構と、を有し、当該位置決め機構が、前記キャリパ本体を前記第1の向きに弾発付勢する弾性部材と、前記キャリパ本体に固定された第1のブラケット部と、当該第1のブラケット部に前記軸心方向と平行な方向に連結された第2のブラケット部と、ストッパ部材と、前記第2のブラケット部に取り付けられ、前記解除時に前記弾発付勢によって前記第1の向きに移動する前記キャリパ本体と共に、前記ストッパ部材に当接するまで移動する当接部材と、を含む巻上機の設置方法であって、前記綱車に前記主ロープを介して基本軸荷重が掛けられた際に、前記外周部が前記軸心方向と平行な第2の向きに変位する変位量に相当する厚みを有するシムを、前記第1のブラケット部と前記第2のブラケット部の間に挿入するシム挿入工程と、前記制動時における前記当接部材と前記ストッパ部材との間の前記軸心方向に平行な隙間寸法を前記所定距離の半分の距離になるよう調整する隙間調整工程と、巻上機の前記本体をエレベータの設置現場に据え付ける据付工程と、前記綱車に主ロープを巻き掛け、当該主ロープの一端側にかごを、他端側に釣合おもりをそれぞれ吊り下げる、主ロープ巻き掛け工程と、前記シムを前記第1のブラケット部と前記第2のブラケット部の間から抜き取り、両ブラケット部を密着させて再連結させるシムの抜き取り工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
上記の構成からなるエレベータ用巻上機によれば、当該巻取機を現場に据え付けて、前記綱車に主ロープを巻き掛け、当該主ロープにかごと釣合おもりを吊るした状態で、上記の厚みを有するシムを前記第1のブラケット部と前記第2のブラケット部の間から抜き取り、当該両ブラケット部を密着させて再連結させると、前記第2のブラケット部に取り付けられた当接部材の前記制動時における前記ストッパ部材との間の前記軸心方向と平行な隙間寸法が前記所定距離の略半分の距離に調整された状態となる。すなわち、本発明に係るエレベータ用巻上機によれば、シムの抜き取り等といった作業だけで、現場に設置した状態での当接部材とストッパとの隙間寸法が適切な大きさになるため、設置現場において従来行われているキャリパ本体の上述したような位置調整(再調整)が可能な限り不要となる。
【0027】
また、上記の工程を含む巻上機の設置方法によれば、上記の厚みを有するシムが前記第1のブラケットと前記第2のブラケット部の間に挿入された状態において、前記制動時における前記当接部材と前記ストッパ部材との間の前記軸心方向に平行な隙間寸法が前記所定距離の半分の距離になるよう調整された上で、本体がエレベータの設置現場に据え付けられて、前記綱車に主ロープが巻き掛けられ、当該主ロープの一端側にかごが、他端側に釣合おもりがそれぞれ吊り下げられた後、前記第1のブラケット部と前記第2のブラケット部の間から前記シム抜き取られ、両ブラケット部が密着されて再連結されるため、上記エレベータ用巻上機の上述したのと同様の効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るエレベータ用巻上機の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、実施形態に係るエレベータ用巻上機(以下、単に「巻上機」と言う。)10の概略構成を示す正面図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるS・S線に沿って一部を切断した断面図である。なお、
図1(b)は、
図1(a)に対し2倍の尺度で描いている。また、
図1(b)において、S・S線よりも背景部分についての図示は、主ロープRを除き省略している。
【0030】
巻上機10は、本体12に対し、エレベータを構成するかごおよび釣合おもり(いずれも不図示)を吊り下げる主ロープRが巻き掛けられる綱車14が回転自在に設けられた構成を有している。
【0031】
巻上機10は、本体12から水平方向に延出された固定軸部16を有する。
図1(b)から分かるように、固定軸部16は、その基端部が本体12によって片持ちで支持された片持ちの固定軸部である。本体12と固定軸部16とは、例えば、鋳造などによって一体成形されている。
【0032】
固定軸部16には、軸受18を介して、回転部材20が回転自在に軸支されている。
回転部材20は、その軸心方向に、綱車14が嵌入された綱車嵌入部22、径方向に張り出したブレーキディスク部24、および後述する内部モータ34の磁石ロータ30を構成するロータ部26を、この順に有している。
【0033】
ロータ部26の外周面には、永久磁石28が設けられていて、ロータ部26と永久磁石28とで磁石ロータ30が構成されている。
【0034】
磁石ロータ30の周方向には、磁石ロータ30と径方向に隙間を空けて、複数の巻線32が本体12に固定されて列設されており、巻線32と磁石ロータ30とを含むインナーロータ型の内部モータ34が構成されている。なお、内部ロータは、ロータ部の径の大きさや、永久磁石、巻線の配置等を変更することにより、アウターロータ型のモータとしても構わない。
【0035】
内部モータ34が起動されると、ロータ部26、ひいてはロータ部26と一体的に構成されたブレーキディスク部24および綱車嵌入部22が回転する。
【0036】
綱車嵌入部22には、環状をした綱車14が嵌め込まれている。綱車14は、不図示のボルト等によって綱車嵌入部22に固定されており、綱車嵌入部22(回転部材20)と一体的に回転する。すなわち、綱車14は、固定軸部16に軸受18および回転部材20を介して回転自在に設けられている。
【0037】
巻上機10の本体12には、電磁ブレーキ36が複数台(本例では3台)取り付けられている。電磁ブレーキ36は、キャリパ38でブレーキディスク部24を挟んで制動する浮動キャリパ型かつ無励磁作動型の電磁ブレーキである。3台の電磁ブレーキ36は、いずれも同様の構成のものである。なお、
図1(a)では、3台の電磁ブレーキ36のブレーキディスク部24の周方向における配置関係のみを一点鎖線で表している。
【0038】
図1(a)に示すように、電磁ブレーキ36は、ブレーキディスク部24外周部における、主ロープRが綱車14に巻き掛けられる側(換言すると、主ロープRが綱車14から導出される側とは反対側)に設けられている。
【0039】
以下、ブレーキディスク部24の外周部の周方向に列設された3台の電磁ブレーキ36の内、真ん中に配された電磁ブレーキ36を代表に、主に
図2、
図3(a)を参照しながら説明する。
【0040】
電磁ブレーキ36は、キャリパ本体40に固定されたブレーキパッド42と電磁アクチュエータ44の可動鉄心46に取り付けられたブレーキパッド48でブレーキディスク部24外周部を挟み込んで(
図4(a))、制動する構成を有している。電磁アクチュエータ44の電磁石50は、キャリパ本体40に内蔵されている。
【0041】
また、可動鉄心46(ブレーキパッド48)を制動時にブレーキパッド42に向かって押圧する圧縮コイルばね52が設けられている。
【0042】
かごを昇降させるため、電磁ブレーキ36による制動を解除する場合、電磁石50のコイルに通電することで発生する磁力により、可動鉄心46が、圧縮コイルばね52の付勢力に抗して電磁石50に吸着され、ブレーキパッド42から遠ざかる向きに変位して、制動が解除される(
図4(b))。
【0043】
電磁ブレーキ36は、また、巻上機10の本体12から固定軸部16(
図1(b))の軸心方向と平行に突出して設けられた少なくとも2本のピン54、56(
図2(a))を備えている。
【0044】
キャリパ本体40には、ピン54、56が挿入されている挿入孔40Aが開設されている(ピン56に対応する挿入孔の図示は省略)。挿入孔40Aにピン54(56)が挿入されて、キャリパ本体40がピン54、56の軸心方向にスライド自在な状態で、巻上機10の本体12に取り付けられている。
【0045】
ピン54、56は、ブレーキディスク部24の制動時にブレーキディスク部24からのトルクを受け止めるとともに、キャリパ本体40をブレーキディスク部24の軸心と平行にスライド自在に支持する。
【0046】
キャリパ本体40には、電磁ブレーキ36が解放されているときに(エレベータの運転中に)、ブレーキディスク部24と両ブレーキパッド42、48間の隙間の大きさが等しくなるように、キャリパ本体40をピン54,56の軸心方向における適切な位置に位置決めするための機構(以下、「位置決め機構58」と言う。)を有している。
【0047】
位置決め機構58は、キャリパ本体40に取り付けられたブラケット60を有している。
ブラケット60は、一対のアングル材62a、62bからなる第1ブラケット部62と、第1ブラケット部62に、ピン54,56の軸心方向と平行な方向に連結された方形のプレート材からなる第2ブラケット部64を含む。
【0048】
アングル材62a、62bの一端部がキャリパ本体40に固定されている。アングル材62a、62bの他端部には、その厚み方向に貫通する雌ねじ(不図示)が形成されている。第2ブラケット部64は、アングル材62a、62b各々の前記雌ねじに螺合した、連結部材である連結ボルト66a、66bによって、アングル材62a、62b(第1ブラケット部62)に連結されている。連結ボルト66a、66bは、ばね座金付きボルトである。なお、
図3、
図4において連結ボルト66a、66bの図示は省略している。
【0049】
第1ブラケット部62であるアングル材62a、62b各々と第2ブラケット部64の間にはそれぞれシム68a、68bが挿入されている。シム68a、68bは、同様の構成なので、区別する必要のない場合は、アルファベットの添え字を省略する。シム68は、厚みが一様な、例えば、ステンレス鋼板からなり、
図2(c)に示すように、細長い「U」字状をしたスリットを有する。連結ボルト66a、66bは、シム68a、68b各々の前記スリットを貫通して、アングル材62a、62bと第2ブラケット部64を連結している。シム68a、68bの役割については後述する。
【0050】
位置決め機構58は、また、プレート材からなる第2ブラケット部64の厚み方向に形成された一対の雌ねじ(いずれも不図示)の各々に螺入された、当接部材である位置決めボルト70a、70bを有する。本例では、位置決めボルト70a、70bに六角穴付き止めねじが用いられる。位置決めボルト70a、70bの各々には、緩み止めナット72a、72bがそれぞれ螺合している。なお、
図3、
図4において、緩み止めナット72a、72bの図示は省略し、位置決めボルト70aは、
図2とは異なる態様で描いている(位置決めボルト70bは、
図3、
図4には現れていない。)。位置決めボルト70a、70b各々と、緩み止めナット72a、72b各々は、それぞれ同様の構成なので、区別する必要のない場合は、アルファベットの添え字を省略する。
【0051】
両ピン54、56の先端には、共通するストッパ74が固定されている。ストッパ74は、プレート材からなる。
【0052】
キャリパ本体40とストッパ74の間のピン54部分、ピン56部分にそれぞれリターンスプリング76、78が外挿されている。リターンスプリング76、78は圧縮コイルばねであり、常に、キャリパ本体40を、ピン54、56の軸心方向と平行に、
図3、
図4の紙面に向かって右向きに弾発付勢している。
【0053】
続いて、上記の構成からなる位置決め機構58におけるシム68a、68bの役割等について
図3、
図4を主とし、適宜
図2を参照しながら説明する。なお、位置決め機構58の基本的な動作は、位置決め機構234(
図5)と同様なので、前述した動作を前提に以下説明する。
【0054】
図3(a)は、工場において、巻上機10を組み立てた後、電磁ブレーキ36における位置決めボルト70a、70bの先端とストッパ74の間の隙間を調整する工程(隙間調整工程)を示している。
【0055】
従来と異なるのは、ブラケットを二分割して、第1ブラケット部62(アングル材62a、62b)と第2ブラケット部64の間にシム68を挿入している点である。すなわち、シム挿入工程を経て、隙間調整工程が実行される。
【0056】
隙間調整工程は、工場で実施されるため、綱車14に主ロープRが巻き掛けられていない状態、すなわち、綱車14に径方向の外力が作用していない状態でなされる。
【0057】
位置決めボルト70を回して、位置決めボルト70の先端とストッパ74の間の隙間Cbの寸法GbがGaの半分(Gb=Ga/2)になるように調整する(位置決めする)。Gbは、電磁ブレーキ36の締結が解除されたときの、可動鉄心46が電磁石50に吸着されて移動するときの変位量である。
【0058】
位置決めボルト70の調整が終わると、緩み止めナット72(
図2)を締め、位置決めボルト70が第2ブラケット部64に対し、その軸心方向に勝手に変位しないようにする。
【0059】
位置決めボルト70の上記した調整がなされた巻上機10は、エレベータの設置現場に持ち込まれて、設置される。
【0060】
図3(b)は、巻上機10を設置現場の所定位置に据え付けた後(据付工程)、綱車14に主ロープRが巻き掛けられ、主ロープRにかごと釣合おもりが吊り下げられた状態を示している(主ロープRの巻き掛け工程)。
【0061】
前述したように、かごと釣合おもりが吊り下げられた主ロープRが綱車14に巻き掛けられた状態では、ブレーキディスク部24が傾いて、ブレーキディスク部24外周部のブレーキパッド42、48で挟持される部分は、本例では、ブレーキパッド48側に(矢印Bの向きに)変位する。なお、当該変位は、ブレーキディスク部24の傾きに起因するものであるが、その傾きは極めて小さいので、傾きは無いとして、ブレーキディスク部24の軸心方向(水平方向)の変位量(距離)を考慮すれば足りる。
図3(b)、
図4(a)、
図4(b)において、ブレーキディスク部24は、上記変位後の状態を一点鎖線で描いている。
【0062】
前記変位量をdとすると、ブレーキディスク部24を挟持しているキャリパ38は前記変位量d分、同じ向きに変位するため、
図3(b)の状態における隙間Cbの寸法は、「Gb+d」となる。
【0063】
変位量dは、綱車14に対しその軸心方向に直交する向きに所定の荷重を掛けて測定しておく。所定の荷重は、かごの重量、釣合おもりの重量、主ロープの重量、および想定される乗客の重量の合計である。本明細書において、前記重量の合計を「基本軸荷重」とする。上記想定される乗客の重量には、例えば、定員の半分の乗客の重量が用いられる。
【0064】
シム68は、変位量dと等しい厚みtとする(t=d)。図では、便宜上、誇張して描いているが、t(=d)は、1/10mmオーダーの大きさである(例えば、0.1mm程度)。
【0065】
主ロープRの巻き掛け工程が終了すると、シム68a、68bをブラケット60から抜き取る(シム68の抜き取り工程)。具体的には、連結ボルト66a、66bを弛め、シム68a、68bの一端部をつまんで、前記「U」字状のスリットの開口部から連結ボルト66a、66bの軸部が相対的に抜け出るように抜き去る。シム68a、68bを抜き去ると、連結ボルト66a、66bを締め付けて(再連結)、第1ブラケット部62と第2ブラケット部64を密着させる。すなわち、第1ブラケット部62と第2ブラケット部64は、シム68a、68bが抜き去られた後で、両ブラケット部62、64を密着させて再連結可能なように連結されている。
【0066】
シム68の抜き取り工程が終了すると、隙間Cbの寸法は、シム68の厚みt(=d)分小さくなって、Gb(=Ga/2)となる(
図4(a))。シム68の抜き取り工程の終了によって、巻上機10の設置が完了する。
【0067】
エレベータを運転するため、電磁ブレーキ36を解放すると、すなわち、電磁石50のコイルに通電して磁力を発生させ、可動鉄心46を吸着すると、ブレーキパッド48とブレーキディスク部24との間に、瞬間的に寸法Ga分の隙間が生じる。
【0068】
すると、リターンスプリング76、78の付勢力によって、キャリパ38は、
図4の紙面に対し右向きに位置決めボルト70の先端がストッパ74に当接するまで、すなわち、寸法Gb(=Ga/2)に相当する距離スライドして、
図4(b)に示すように位置決めされる。位置決めされた状態において、ブレーキパッド42とブレーキディスク部24の間の隙間Cdの寸法とブレーキパッド48とブレーキディスク部24の間の隙間Ceの寸法は、いずれもGb(=Ga/2)となり等しくなる。
【0069】
以上、説明したように、実施形態に係る巻上機10によれば、工場出荷前に装着したシム68を、エレベータの設置現場に据え付けた巻上機10から抜き取るだけで、電磁ブレーキ36解放中におけるキャリパ38のピン54,56の軸心方向の位置決めが適正になされることとなる。すなわち、エレベータの設置現場における位置決めボルト70a、70bによる隙間Cbの調整が可能な限り不要になる。
【0070】
なお、巻上機10の目立つところに「綱車に主ロープを掛け終わったら、シムを取り外してください。」といった趣旨の表示(シールの貼付け等)がなされている。
【0071】
主ロープを掛け終わる前、すなわち、綱車に基本軸荷重に近い荷重が掛かる前に、シムを取り外すと良くない理由は以下の通りである。
【0072】
例えば、
図3(a)における寸法Gbがシム68の厚みtよりも小さい場合、綱車14に荷重を掛ける前に、シム68を抜き取ってしまうと、位置決めボルト70の先端がストッパ74に当たってしまう。そうすると、工場から設置現場までの搬送中に、工場出荷前にした調整が、ストッパ74の変形等によって、狂ってしまうおそれがあるからである。
【0073】
そこで、設置現場において、綱車14に主ロープRを掛けて、かごおよび釣合おもりを吊り下げ、ブレーキディスク部24の外周部が上述したように変位し、これに伴い、キャリパ本体40も移動して隙間Cbに余裕ができた段階で、シム68を抜き取ることとしている。
【0074】
シム68は、言うまでもなく、巻上機10が用いられるエレベータに対応する基本軸荷重に応じた厚みtのものが準備される。巻上機10の使用が予定されるエレベータの仕様(基本軸荷重)毎に、上記変位量dを測定しておき、これに対応する厚みのシムを準備しておく(シムの準備工程)。そして、巻上機10を用いるエレベータ(仕様)が決まると、準備した複数の厚みのシムの中から、適切なシムを選択して用いるのである(シムの選択工程)。
【0075】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下のような形態としても構わない。
【0076】
(1)上記実施形態において変位量dは、綱車14に基本軸荷重を実際にかけ、測定により求めたが、これに限らず、力学計算により求めたり、あるいは、コンピュータによるシミュレーションにより求めても構わない。
【0077】
(2)上記実施形態における機械室レスエレベータは、主ロープの両端にかごと釣合おもりを固定(連結)したタイプのエレベータであったが、巻上機10は、主ロープでかごシーブとおもりシーブとを懸架し、当該主ロープの両端を昇降路上部に固定したタイプの機械室エレベータにも用いられる。
【0078】
(3)上記実施形態に係る巻上機10は、機械室レスエレベータに限らず、昇降路上部に機械室を設けたエレベータにも用いられる。この場合、前記機械室には、
図1(a)に示す天地を逆にして設置される。
【0079】
(4)上記実施形態に係る巻上機10では、電磁ブレーキ36を3台用いたが、台数はこれに限らない。例えば、2台でも4台でも構わない。