特許第6687064号(P6687064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6687064溶融加工性フッ素樹脂射出成型品の検査方法及び溶融加工性フッ素樹脂射出成型品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687064
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】溶融加工性フッ素樹脂射出成型品の検査方法及び溶融加工性フッ素樹脂射出成型品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/08 20060101AFI20200413BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   G01N3/08
   B29C45/17
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-134253(P2018-134253)
(22)【出願日】2018年7月17日
(65)【公開番号】特開2020-12701(P2020-12701A)
(43)【公開日】2020年1月23日
【審査請求日】2019年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 高久
(72)【発明者】
【氏名】津田 早登
(72)【発明者】
【氏名】桑嶋 祐己
【審査官】 島田 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−030371(JP,A)
【文献】 特開2014−228290(JP,A)
【文献】 特開2010−230644(JP,A)
【文献】 特表2006−526775(JP,A)
【文献】 特開2008−180693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00−3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融加工性フッ素樹脂射出成形品を引張試験して得られた応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線から、該射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定する工程、
を含み、
前記判定工程は、前記応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線を、ひずみの大きさにより2以上の領域に分割し、ひずみが小さい領域の応力又は抗張力に対する、ひずみが大きい領域の応力又は抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程である
ことを特徴とする溶融加工性フッ素樹脂射出成形品の検査方法。
【請求項2】
前記判定工程は、前記応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線において、ひずみY%(Yは5以上、80以下の数)以下の領域の最大応力又は最大抗張力に対する、ひずみZ〜Z%(Zは、Y以上、200以下の数であり、Zは、Zを超え、300以下の数である)の領域の最低応力又は最低抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程である請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
前記判定工程は、前記応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線において、ひずみY%(Yは5以上、80以下の数)以下の領域の最大応力又は最大抗張力に対する、ひずみZ%(Zは、Y以上、300以下の数)の応力又は抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程である請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項4】
前記判定工程は、前記応力−ひずみ曲線を、ひずみX%(Xは5以上の数)毎にn個の領域に分割し、各領域において、応力の最大値SMAXと最小値SMINを算出して、
SMAX及びSMINm+1が、下記式(1)
SMAX×α≦SMINm+1 (1)
(α=0.90以上の数、m=1〜(n−1)の整数)
を満足する射出成形品を良品、満足しない射出成形品を不良品と判定する工程である請求項1記載の検査方法。
【請求項5】
前記判定工程は、前記抗張力−ひずみ曲線を、ひずみX%(Xは5以上の数)毎にn個の領域に分割し、各領域において、抗張力の最大値TMAXと最小値TMINを算出して、
TMAX及びTMINm+1が、下記式(2)
TMAX×α≦TMINm+1 (2)
(α=0.90以上の数、m=1〜(n−1)の整数)
を満足する射出成形品を良品、満足しない射出成形品を不良品と判定する工程である請求項1記載の検査方法。
【請求項6】
溶融加工性フッ素樹脂射出成形品におけるフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜のいずれかに記載の検査方法。
【請求項7】
(x)1のロット中の溶融加工性フッ素樹脂を射出成形して複数の射出成形品を得る工程、
(y)複数の射出成形品から任意に1以上の射出成形品を選択し、引張試験して得られた応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線から、該射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定する工程、
(z)不良品と判定された射出成形品と同ロットの溶融加工性フッ素樹脂から得られた射出成形品から良品を選別する工程、
を含み、
前記判定工程は、前記応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線を、ひずみの大きさにより2以上の領域に分割し、ひずみが小さい領域の応力又は抗張力に対する、ひずみが大きい領域の応力又は抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程である
溶融加工性フッ素樹脂射出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶融加工性フッ素樹脂射出成型品の検査方法及び溶融加工性フッ素樹脂射出成型品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性などに優れており、代表的なエンジニアリングプラスチックスの一つとして広く利用されている。フッ素樹脂の成形方法の一つとして、射出成形が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体である熱溶融性フッ素樹脂と、ポリテトラフルオロエチレンとを含む組成物を射出圧力400kg/cm以上800kg/cm以下で射出成形することにより射出方向の投影面積1100cm以上の射出成形品を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−30371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、クラック又はデラミネーションによる不良品か否かを容易に判定することができる溶融加工性フッ素樹脂射出成型品の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、溶融加工性フッ素樹脂射出成形品を引張試験して得られた応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線から、該射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定する工程、を含むことを特徴とする溶融加工性フッ素樹脂射出成形品の検査方法を提供する。
【0007】
上記判定工程は、上記応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線を、ひずみの大きさにより2以上の領域に分割し、ひずみが小さい領域の応力又は抗張力に対する、ひずみが大きい領域の応力又は抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程であることが好ましい。
【0008】
上記判定工程は、上記応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線において、ひずみY%(Yは5以上、80以下の数)以下の領域の最大応力又は最大抗張力に対する、ひずみZ〜Z%(Zは、Y以上、200以下の数であり、Zは、Zを超え、300以下の数である)の領域の最低応力又は最低抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程であることが好ましい。
【0009】
上記判定工程は、上記応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線において、ひずみY%(Yは5以上、80以下の数)以下の領域の最大応力又は最大抗張力に対する、ひずみZ%(Zは、Y以上、300以下の数)の応力又は抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程であることが好ましい。
【0010】
上記判定工程は、上記応力−ひずみ曲線を、ひずみX%(Xは5以上の数)毎にn個の領域に分割し、各領域において、応力の最大値SMAXと最小値SMINを算出して、
SMAX及びSMINm+1が、下記式(1)
SMAX×α≦SMINm+1 (1)
(α=0.90以上の数、m=1〜n−1の整数)
を満足する射出成形品を良品、満足しない射出成形品を不良品と判定する工程であることが好ましい。
【0011】
上記判定工程は、上記抗張力−ひずみ曲線を、ひずみX%(Xは5以上の数)毎にn個の領域に分割し、各領域において、抗張力の最大値TMAXと最小値TMINを算出して、
TMAX及びTMINm+1が、下記式(2)
TMAX×α≦TMINm+1 (2)
(α=0.90以上の数、m=1〜(n−1)の整数)
を満足する射出成形品を良品、満足しない射出成形品を不良品と判定する工程であることも好ましい。
【0012】
溶融加工性フッ素樹脂射出成形品におけるフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
本開示はまた、(x)1のロット中の溶融加工性フッ素樹脂を射出成形して複数の射出成形品を得る工程、(y)複数の射出成形品から任意に1以上の射出成形品を選択し、引張試験して得られた応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線から、該射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定する工程、(z)不良品と判定された射出成形品と同ロットの溶融加工性フッ素樹脂から得られた射出成形品から良品を選別する工程、を含む溶融加工性フッ素樹脂射出成形品の製造方法をも提供する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の製造方法は、上記構成を有することにより、溶融加工性フッ素樹脂射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを容易に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】応力−ひずみ曲線の一例を示す模式図である。
図2】応力−ひずみ曲線のひずみによる分割の一例を示す模式図である。
図3】応力−ひずみ曲線のひずみによる分割の一例を示す模式図である。
図4】応力−ひずみ曲線のひずみによる分割の一例を示す模式図である。
図5】(a)及び(b)は2つの応力−ひずみ曲線から本開示の判定工程の一例を説明するための模式図である。
図6】(a)及び(b)は2つの応力−ひずみ曲線から本開示の判定工程の一例を説明するための模式図である。
図7】(a)及び(b)は2つの応力−ひずみ曲線から本開示の判定工程の一例を説明するための模式図である。
図8】本開示の検査方法の一例の流れを示すフローチャートである。
図9】実施例において、射出成型品から試験片を切り出す領域を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
溶融加工性フッ素樹脂の成形方法としては圧縮成形、射出成形等が挙げられるが、射出成形を用いた場合、得られた成形品にクラック又はデラミネーションが生じることがある。射出成型品に生じたクラック又はデラミネーションは顕微鏡観察によっても確認することもできるが、試料として厚さ20〜100ミクロンで表面が平滑で傷がない厚みが均一な断面スライスフィルムを作成する必要があり、ミクロトームのような特殊な器具を使用し出来栄えを確認しながらの作成となり、かなり手間である。また、人の目によりクラックを確認する必要があるため労力が増加する上に、射出成形品の良否に影響しない程度のクラック又はデラミネーションも存在するため射出成型品の良否判断が困難である。
本発明者等が鋭意検討したところ、引張試験による応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線を定量的に解析することによりクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定できることが見出され、本開示の検査方法の開発にいたった。
以下に、本開示の検査方法を詳細に説明する。
【0017】
本開示の検査方法は、溶融加工性フッ素樹脂射出成形品を引張試験して得られた応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線から、該射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定する工程を含む。
【0018】
上記溶融加工性フッ素射出成型品とは、溶融加工性フッ素樹脂を射出成形して得られた成形品を意味する。
溶融加工性とは、射出成形機等の従来の加工機器を用い、溶融して加工することが可能であることを意味する。溶融加工性フッ素樹脂は、メルトフローレート(MFR)が0.01〜500g/10分であることが通常である。
本明細書において、MFRは、ASTM D 1238に準拠し、温度372℃、荷重5kgで測定して得られる値である。
【0019】
上記溶融加工性フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン[TFE]/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体[PFA]、TFE/ヘキサフルオロプロピレン[HFP]共重合体[FEP]、エチレン[Et]/TFE共重合体[ETFE]、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン[PCTFE]、クロロトリフルオロエチレン[CTFE]/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体、ポリフッ化ビニリデン[PVDF]、ポリフッ化ビニル[PVF]等が挙げられる。中でも、耐熱性の観点から、PFA、FEP、ETFE、Et/TFE/HFP共重合体、PCTFE、CTFE/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体及びPVDFからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0020】
上記PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位とPAVE単位とのモル比(TFE単位/PAVE単位)が70/30以上99.5/0.5未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.5/1.5以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFE及びPAVEのみからなる共重合体であってもよいし、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ=CZ(CF)nZ(式中、Z、Z及びZは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Zは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0021】
上記PFAは、融点が180〜340℃であることが好ましく、230〜330℃であることがより好ましく、280〜320℃であることが更に好ましい。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0022】
上記PFAは、メルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜90g/10分であることがより好ましく、1.0〜85g/10分であることが更に好ましい。
【0023】
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上97/3以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、PAVE、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0024】
上記FEPは、融点が150〜320℃であることが好ましく、200〜300℃であることがより好ましく、240〜280℃であることが更に好ましい。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0025】
上記FEPは、MFRが0.01〜100g/10分であることが好ましく、0.1〜80g/10分であることがより好ましく、1〜60g/10分であることが更に好ましく、1〜50g/10分であることが特に好ましい。
【0026】
本明細書において、フッ素樹脂を構成する各単量体単位の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0027】
上記射出成形としては特に限定されず、本開示の検査方法はどのような射出成形品にも採用可能である。本開示の検査方法は、溶融加工性フッ素樹脂を射出成形して、溶融加工性フッ素樹脂射出成形品を得る工程を含むものであってよい。
上記射出成型品の形状は特に限定されない。例えば、シート形状、円筒形状等、いかなる形状の射出成型品にも適用することができる。
試験をおこなう際、射出成型品をそのまま引張試験に供するのもよいが、実験の精度を高めるため、適宜射出成型品の一部を取り出して試験片とすることが好ましい場合がある。通常の射出成型品は、厚みの大小があったり、突起があったり、穴が開いていたり、そのままでは精度良く、また再現性良く、引張試験をおこなうことが困難な場合もある。
上記試験片として、射出成型品が標準試験片を切り出すに十分な大きさを持つものについては、標準試験片を使用することができる。標準試験片を切り出すに十分な大きさがない場合は、試験片の形状は、短冊形状や、標準試験片をダウンサイジングした形状等から選択できる。
また、射出成型品が単純なシートではなく、厚みに大小がある形状の場合、研磨、切削、切断により、あらかじめ引張試験にかかわる部分から厚みの大小を少なくすることもできる。
また、引張試験にかかわる部分を限定するために、引張試験したい部分のギリギリ外側を挟み込む冶具2組を作成し、引張試験に使用することもできる。挟み込む場所を選ぶことにより、厚みの大小がある部分や、突起の部分、穴の開いた部分などの影響を低減することができる。
また、射出成型品の突起がちょうどはまるような冶具を2組作成し引張試験をおこなうことができる。引張試験の際に、突起部分を引っ掛けるような形で引張試験をおこなうことになるため、チャック部分での試験片の滑りの影響が少なくなる。また、通常の引張試験機では、チャック部分が平たいものが多いので、試験片の固定が安定する効果が得られ、試験精度が向上する。
上記の冶具を作成する方法として、射出成型品の設計図を基にして切削加工する方法が例示できる。また、常温硬化性の物質(シリコン、エポキシなど)、又は、熱硬化性の物質(エポキシなど)を射出成形品の周辺に充填し、硬化させ、その後射出成形品から硬化した樹脂を取り外し、該樹脂を切削加工して完成させる方法も例示できる。熱可塑性の樹脂を、加熱して溶けた状態で射出成形品の周辺に充填し、冷却したのち、射出成形品から樹脂を取り外し、該樹脂を切削加工して完成させる方法も例示できる。
【0028】
上記応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線は、溶融加工性フッ素樹脂射出成型品を引張試験して得られる。引張試験の条件は限定されず、対象となる射出成型品に応じて適宜決定すればよい。本開示の検査方法は、溶融加工性フッ素樹脂射出成型品を引張試験して、応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線を得る工程を含むものであってよい。
【0029】
上記応力−ひずみ曲線は、通常、横軸にひずみ(%、又は、m;%である場合、変形にかかわる部分の初期の長さ、もしくはチャック間距離を100%とした時の変化割合)、縦軸に応力(通常、MPa)をとり、引張試験により生じるひずみに応じて生じる応力を示したものである。
図1は、応力−ひずみ曲線の一例を示す模式図である。
図1に示すように、通常、応力−ひずみ曲線ではひずみが大きくなるにつれて応力が増加していくが、射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品である場合、射出成型品が層状になっており、一部の層が破断することにより、ひずみの増加によって応力が低下する場合がある。そのような場合、応力が一旦低下したり、低下しない場合でもひずみに対する応力の増加量が減る、すなわち、応力−ひずみ曲線の傾きが小さくなることが本発明者等によって見出された。
従って、射出成型品の応力−ひずみ曲線から、クラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定することができる。具体的には後述する方法で判定することができるが、本開示の検査方法は下記の方法に限定されるものではなく、上記の観点に基づき不良品か否かを判定するものであれば、本開示の検査方法に含まれる。
溶融加工性フッ素樹脂射出成型品では、一部の層の破断によりいったん応力が減少し、その後増加することで最終的に応力が大きくなる場合もあり、単純に従来の引張試験で得られる統計値のみでクラック又はデラミネーションによる良品か不良品かを判断することは不可能である。本開示の新規な検査方法によれば、そのような応力−ひずみ曲線を取るものであっても、良品か不良品かを判別できる。
上記抗張力−ひずみ曲線は、通常、横軸にひずみ(%、又は、m;%である場合、上記応力−ひずみ曲線の場合と同じ)、縦軸に抗張力(通常、N〔ニュートン〕)をとり、引張試験により生じるひずみに応じて生じる抗張力を示したものである。
品質管理の場では、通常、成型品の大きさが一定なので、応力(単位面積当たりの抗張力)と抗張力は1:1に対応している。そのため、成型品の形状、引っ張る部位を限定すれば、抗張力で管理することができる。すなわち、応力−ひずみ曲線を用いた場合と同様に、抗張力−ひずみ曲線から、溶融加工性フッ素樹脂射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定することもできる。
なお、本開示の検査方法において、応力−ひずみ曲線から良品か不良品かを判定する場合は、応力とひずみとの関係から判定を行い、抗張力−ひずみ曲線から良品か不良品かを判定する場合は、抗張力とひずみとの関係から判定を行う。
また、良品か不良品かは、射出成型品の用途等によって異なるため、その用途等に適した判定基準、判定方法を選択すればよい。従って、同じ射出成型品であっても判定の基準等によって良品か不良品かが変わることもある。
【0030】
本開示の検査方法において、引張試験では、まず、射出成型品の応力値(絶対量)又は抗張力値(絶対量)を測定する。本開示の検査方法では、その応力値(絶対量)又は抗張力値(絶対量)に基づいて良品と不良品とを判定してもよいし、応力値又は抗張力値から低下率等を算出して良品と不良品とを判定してもよい。
具体的には、ひずみにより異なる2つの応力値又は抗張力値から算出された低下量、上記低下量を複数算出して低下量のひずみにより異なる2つの応力値又は抗張力値から算出された低下率、低下量等から良品、不良品を判定することができる。
また、ひずみにより異なる2以上の応力値又は抗張力値から低下量又は低下率を複数算出し、それらを総合的にみて判定してもよい。
引張試験条件は限定されず、射出成型品の形状、材料、用途等に従って適宜設定する。
【0031】
上記判定工程は、応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線を、ひずみの大きさにより2以上の領域に分割し、ひずみが小さい領域の応力又は抗張力に対する、ひずみが大きい領域の応力又は抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程であることが好ましい。
分割する領域の数は限定されないが、例えば、2〜20であってよく、2〜15であることが好ましく、2〜10であることがより好ましい。
【0032】
ひずみの大きさにより2以上の領域に分割する例としては、図2図4が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
図2では、応力−ひずみ曲線を、ひずみαを境として2つの領域に分割している。図2において、ひずみが小さい領域は、ひずみα以下の領域であり、ひずみが大きい領域とは、α以上の領域である。この場合、ひずみの最大値は、射出成型品が破断する破断点のひずみとなる。
また、図3に示すように、ひずみα以下の領域と、ひずみα〜αの2つの領域に分割する方法が挙げられる。この場合、ひずみが小さい領域は、ひずみα以下の領域であり、ひずみが大きい領域は、ひずみα〜αの領域である。
図4に示すように、ひずみα以下の領域と、ひずみα〜αの領域とに分割する方法も挙げられる。この場合、ひずみが小さい領域は、ひずみα以下の領域であり、ひずみが大きい領域は、ひずみα〜αの領域である。
抗張力−ひずみ曲線から判定を行う場合にも同様に行うことができる。
【0033】
上記「ひずみが小さい領域の応力」及び「ひずみが大きい領域の応力」としては、各領域の応力から任意のひずみを1点選択し、その点の応力を採用してもよいし、各領域の応力の平均値、積分値、最大値、最小値等を採用してもよい。
抗張力−ひずみ曲線から判定を行う場合も同様である。
【0034】
図8に、上記検査方法の一例の流れを示すフローチャートを示す。まず、サブステップ1(SS1)で溶融加工性フッ素樹脂の射出成型品を引張試験して応力−ひずみ曲線を得る。次に、SS2で応力−ひずみ曲線をひずみにより2以上の領域に分割する。そして、SS3でひずみが小さい領域における最大応力と、ひずみが大きい領域における最低応力を抽出する。最後に、SS4で、ひずみが小さい領域の最大応力に対する、ひずみが大きい領域の最低応力の低下量又は低下率を算出して、低下量又は低下率が小さい射出成型品を良品、大きい射出成型品を不良品と判定する。
抗張力−ひずみ曲線から判定を行う場合も、同様に実施できる。
【0035】
上記判定工程は、応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線において、ひずみY%(Yは5以上、80以下の数)以下の領域の最大応力又は最大抗張力に対する、ひずみZ〜Z%(Zは、Y以上、200以下の数であり、Zは、Zを超え、300以下の数である)の領域の最低応力又は最低抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程(以下「判定工程(1)」ともいう)であることが好ましい形態の1つである。
上記応力の低下量及び低下率は、下記式で表される。
低下量=SM1−Sm1
低下率=1−(Sm1/SM1)
式中、Sm1は、ひずみZ〜Z%の領域の最低応力であり、SM1は、ひずみY%以下の領域の最大応力である。
また、上記抗張力の低下量及び低下率は、下記式で表される。
低下量=TM1−Tm1
低下率=1−(Tm1/TM1)
式中、Tm1は、ひずみZ〜Z%の領域の最低抗張力であり、TM1は、ひずみY%以下の領域の最大抗張力である。
上記式で表される低下量又は低下率が小さければ良品、大きければ不良品と判定する。Sm1がSM1よりも大きい場合又はTm1がTM1よりも大きい場合に低下量又は低下率は負の値となるが、その場合、負の値が大きいほど低下量又は低下率は小さいと判断する。
上記Yは5以上、80以下の数であり、好ましくは、10以上、70以下の数である。より好ましくは、15以上、60以下の数である。
上記Zは、Y以上、200以下の数であり、好ましくは、40以上、160以下の数であり、より好ましくは、50以上、150以下の数である。
上記Zは、Zを超え、300以下の数であり、好ましくは、50以上、200以下の数であり、より好ましくは、60以上、160以下の数である。
上記Zは、Yに20以上加えた数であることが好ましく、25以上加えた数であることがより好ましく、30以上加えた数であることが更に好ましい。
上記Zは、Zに5以上加えた数であることが好ましく、10以上加えた数であることがより好ましい。
【0036】
図5(a)及び(b)を用いて上記判定工程(1)を具体的に説明する。まず、図5(a)及び(b)に示すようにひずみY%、Z%及びZ%を決定し、Y%以下の領域と、ひずみZ〜Z%の領域に分割する。
図5(a)の応力−ひずみ曲線において、Y%以下の領域の最大応力はSM1aであり、Z〜Z%の領域の最低応力はSm1aであり、低下量は下記式で表される。
低下量=SM1a−Sm1a
また、低下率は下記式で表される。
低下率=1−(Sm1a/SM1a)
図5(b)の応力−ひずみ曲線において、Y%以下の領域の最大応力はSM1bであり、Z〜Z%の領域の最低応力はSm1bであり、低下量及び低下率は下記式で表される。
低下量=SM1b−Sm1b
低下率=1−(Sm1b/SM1b)
抗張力−ひずみ曲線から低下量又は低下率を算出する場合も同様に行うことができる。
【0037】
上記判定工程(1)において良品、不良品を判定する具体的な低下量又は低下率は適宜決定すればよく、例えば、低下量が1.5MPa以下であれば良品と判定することもできる。また、低下率が0.3以下であれば良品と判断してよく、0.1以下であればより良品と判定することができる。
抗張力−ひずみ曲線から判定する場合も同様に適宜決定することができる。例えば、抗張力の低下量としては、抗張力を応力に換算した場合に、低下量が1.5MPa以下となる量であれば良品と判定することもできる。低下率は、応力の場合と同様に、0.3以下であれば良品と判断してよく、0.1以下であればより良品と判定することができる。
【0038】
上記判定工程は、応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線において、ひずみY%(Yは5以上、80以下の数)以下の領域の最大応力又は最大抗張力に対する、ひずみZ%(Zは、Y以上、300以下の数)の応力又は抗張力の低下量又は低下率が小さい射出成形品を良品、大きい射出成形品を不良品と判定する工程(以下「判定工程(2)」ともいう)であることも好ましい形態の1つである。
上記応力の低下量及び低下率は、下記式で表される。
低下量=SM2−Sm2
低下率=1−(Sm2/SM2)
式中、Sm2は、ひずみZ%の応力であり、SM2は、ひずみY%以下の領域の最大応力である。
上記抗張力の低下量及び低下率は、下記式で表される。
低下量=TM2−Tm2
低下率=1−(Tm2/TM2)
式中、Tm2は、ひずみZ%の抗張力であり、TM2は、ひずみY%以下の領域の最大抗張力である。
上記式で表される低下量又は低下率が小さければ良品、大きければ不良品と判定する。Sm2がSM2よりも大きい場合又はTm2がTM2よりも大きい場合に低下量又は低下率は負の値となるが、その場合、負の値が大きいほど低下量又は低下率は小さいと判断する。
上記Yは5以上、80以下の数であり、好ましくは、10以上、70以下の数であり、より好ましくは、15以上、60以下の数である。
上記Zは、Y以上、300以下の数であり、好ましくは、40以上、200以下の数であり、より好ましくは、50以上、150以下の数である。
上記Zは、Yに20以上加えた数であることが好ましく、25以上加えた数であることがより好ましく、30以上加えた数であることが更に好ましい。
【0039】
図6(a)及び(b)を用いて上記判定工程(2)を具体的に説明する。図6(a)及び(b)に示すようにひずみY%及びZ%を決定し、Y%以下の領域と、ひずみY%以上の領域に分割する。
図6(a)の応力−ひずみ曲線において、Y%以下の領域の最大応力はSM2aであり、Z%の応力はSm2aであり、低下量及び低下率は、下記式で表される。
低下量=SM2a−Sm2a
低下率=1−(Sm2a/SM2a)
図6(b)の応力−ひずみ曲線において、Y%以下の領域の最大応力はSM2bであり、Z%の応力はSm2bであり、低下量及び低下率は、下記式で表される。
低下量=SM2b−Sm2b
低下率=1−(Sm2b/SM2b)
抗張力−ひずみ曲線から低下量又は低下率を算出する場合も同様に行うことができる。
【0040】
上記判定工程(2)において良品、不良品を判定する具体的な低下量又は低下率は適宜決定すればよく、例えば、応力−ひずみ曲線から判定する場合、低下量が1.5MPa以下であれば良品と判定することもできる。また、低下率が0.3以下であれば良品と判断してよく、0.1以下であればより良品と判定することができる。
抗張力−ひずみ曲線から判定する場合も同様に適宜決定することができる。例えば、抗張力の低下量としては、抗張力を応力に換算した場合に、低下量が1.5MPa以下となる量であれば良品と判定することもできる。低下率は、応力の場合と同様に、0.3以下であれば良品と判断してよく、0.1以下であればより良品と判定することができる。
【0041】
上記判定工程はまた、上記応力−ひずみ曲線を、ひずみX%(Xは5以上の数)毎にn個の領域に分割し、各領域において、応力の最大値SMAXと最小値SMINを算出して、
SMAX及びSMINm+1が、下記式(1)
SMAX×α≦SMINm+1 (1)
(α=0.90以上の数、m=1〜(n−1)の整数)
を満足する射出成形品を良品、満足しない射出成形品を不良品と判定する工程(以下「判定工程(3)」ともいう)であることも好ましい形態の一つである。
上記式(1)は、SMAXはX%毎にn個に分割された領域をひずみが小さい領域から順にm=1、2、3・・・の領域とした場合に、m=2の領域における応力の最低値SMINが、m=1の領域における応力の最大値SMAXに0.9を乗じた値より大きい場合、m=1の場合に式(1)を満足することとなる。
例えば、nが3の場合には、mが1及び2の場合について式(1)を満足すればよく、nが4の場合には、mが1、2及び3の場合に式(1)を満足すればよい。
【0042】
上記式(1)おけるXは適宜決定すればよく、例えば、5〜50であってよく、5〜30であることが好ましく、10〜20であることがより好ましい。
応力−ひずみ曲線が降伏点を有する場合には、Xが降伏点におけるひずみより大きいことが好ましい。例えば、降伏点がひずみ5%に存在する場合、Xは5を超える数であることが好ましい。
【0043】
上記式(1)におけるnは適宜決定すればよく、X×n(%)が、応力−ひずみ曲線における破断点のひずみ(%)より小さければよい。nは多い方がより詳細な判定をすることができる。
【0044】
上記式(1)におけるαは0.90以上であればよく、適宜決定することができるが、0.92以上が好ましく、0.95以上がより好ましい。αの最大値は1.00であってよい。
【0045】
図7(a)及び(b)を用いて上記判定工程(3)を具体的に説明する。図7(a)及び(b)に示すようにX%毎にひずみを分割した場合(図7中、XはX、X=2X、X=3X、X=4Xである)、ひずみ0〜Xがm=1の領域、X〜Xがm=2の領域、X〜Xがm=3の領域、X〜Xがm=4の領域となり、m=2の領域における最低応力SMINが、m=1の領域における最大応力SMAXに0.9を乗じた数よりも大きければよい。m=2〜4の領域においても同様に式(1)を満足すれば良品と判定し、いずれか1つの領域でも式(1)を満足しなければ不良品と判定する。
図7(a)の応力−ひずみ曲線では、m=1〜4の全ての領域で式(1)を満足するため、射出成型品を良品と判定する。図7(b)の応力−ひずみ曲線では、m=1〜4の全てで式(1)を満足しないため、不良品と判定する。
【0046】
上記判定工程はまた、上記抗張力−ひずみ曲線を、ひずみX%(Xは5以上の数)毎にn個の領域に分割し、各領域において、抗張力の最大値TMAXと最小値TMINを算出して、
TMAX及びTMINm+1が、下記式(2)
TMAX×α≦TMINm+1 (2)
(α=0.90以上の数、m=1〜(n−1)の整数)
を満足する射出成形品を良品、満足しない射出成形品を不良品と判定する工程(以下「判定工程(4)」ともいう)であることも好ましい形態の一つである。
上記式(2)は、TMAXはX%毎にn個に分割された領域をひずみが小さい領域から順にm=1、2、3・・・の領域とした場合に、m=2の領域における抗張力の最低値TMINが、m=1の領域における抗張力の最大値TMAXに0.9を乗じた値より大きい場合、m=1の場合に式(2)を満足することとなる。
例えば、nが3の場合には、mが1及び2の場合について式(2)を満足すればよく、nが4の場合には、mが1、2及び3の場合に式(2)を満足すればよい。
【0047】
上記式(2)おけるXは適宜決定すればよく、例えば、5〜50であってよく、5〜30であることが好ましく、10〜20であることがより好ましい。
抗張力−ひずみ曲線が降伏点を有する場合には、Xが降伏点におけるひずみより大きいことが好ましい。例えば、降伏点がひずみ5%に存在する場合、Xは5を超える数であることが好ましい。
【0048】
上記式(2)におけるnは適宜決定すればよく、X×n(%)が、抗張力−ひずみ曲線における破断点のひずみ(%)より小さければよい。nは多い方がより詳細な判定をすることができる。
【0049】
上記式(2)におけるαは0.90以上であればよく、適宜決定することができるが、0.92以上が好ましく、0.95以上がより好ましい。αの最大値は1.00であってよい。
【0050】
本開示の検査方法は、溶融加工性フッ素樹脂射出成型品の良否を容易に判定することができるため、溶融加工性フッ素樹脂の射出成型における成形条件の調整に役立つ。また、射出成形品の製造における良品又は不良品の選別、成形品の受入検査等に用いることができる。
【0051】
本開示の溶融加工性フッ素樹脂射出成形品の製造方法は、(x)1のロット中の溶融加工性フッ素樹脂を射出成形して複数の射出成形品を得る工程、(y)複数の射出成形品から任意に1の射出成形品を選択し、引張試験して得られた応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線から、該射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かを判定する工程、(z)不良品と判定された射出成形品と同ロットの溶融加工性フッ素樹脂から得られた射出成形品から良品を選別する工程、を含む。
本開示の製造方法により、溶融加工性フッ素樹脂射出成型品のクラック又はデラミネーションによる良否を容易に判断することができ、生産性を向上させることができる。
【0052】
上記工程(x)では、1のロット中の溶融加工性フッ素樹脂を射出成形して複数の射出成形品を得る工程である。同一ロットの溶融加工性フッ素樹脂から得られた射出成型品は、類似の性能を有している可能性が高い。後述する工程(y)は、溶融加工性フッ素樹脂のロットを単位として行うのが適当である。
【0053】
上記工程(y)では、複数の射出成形品から任意に1以上の射出成形品を選択する。選択する射出成型品は1つであってもよいし、2以上であってもよい。
引張試験して得られた応力−ひずみ曲線又は抗張力−ひずみ曲線から、該射出成型品がクラック又はデラミネーションによる不良品か否かの判定は、上述した本開示の検査方法における判定工程と同様に行うことができる。
【0054】
上記工程(z)は、不良品と判定された射出成形品と同ロットの溶融加工性フッ素樹脂から得られた射出成形品から良品を選別する工程を含む。上記選別の方法は特に限定されない。また、同ロット中の溶融加工性フッ素樹脂から得られた射出成型品から非破壊で良品を選別することができない場合には、同ロットの溶融加工性フッ素樹脂から得られた射出成型品を全て除去する方法も挙げられる。
【0055】
本開示の製造方法は、クラック又はデラミネーションによる不良品を除外した溶融加工性フッ素樹脂射出成形品を製造することができる。
【実施例】
【0056】
つぎに本開示の検査方法及び製造方法を実施例により説明するが、本開示の検査方法及び製造方法は下記実施例に限定されるものではない。
【0057】
本実施例では、以下の溶融加工性フッ素樹脂を用いた。
溶融加工性フッ素樹脂1:TFE/PPVE共重合体、TFE/PPVE=98.5/1.5(モル比)、MFR:15.2g/10分
【0058】
本実施例で用いた溶融加工性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D 1238に準拠し、温度372℃、荷重5kgで測定した。
【0059】
製造例1
溶融加工性フッ素樹脂1を、射出成型機MDX75XA(宇部興産機械株式会社製)を用い、製造条件を射出速度50mm/s、ヘッダー温度375℃、金型温度180℃として、4個の射出成型品(30mm×60mm×厚さ1.0mm)を得た。
【0060】
製造例2
射出速度を40mm/sに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、4個の射出成型品を得た。
【0061】
製造例3
射出速度を30mm/sに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、4個の射出成型品を得た。
【0062】
製造例4
射出速度を20mm/sに変更したこと、以外は、製造例1と同様にして、4個の射出成型品を得た。
【0063】
製造例5
ヘッダー温度を370℃に変更した以外は、製造例4と同様にして、4個の射出成型品を得た。
【0064】
製造例6
射出速度を10mm/sに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、4個の射出成型品を得た。
【0065】
引張試験
製造例1で得られた射出成型品を下記条件で引張試験して応力−ひずみ曲線を得た。
製造例4で得られた射出成型品を下記条件で引張試験して応力−ひずみ曲線を得た。
[引張試験条件]
ASTM D1708の試験片形状で、引張速度50mm/秒、室温で測定をおこなった。図9は、射出成型品から試験片を切り出す領域を示した模式図である。試験片は、図9に示す射出成型品90の点線で囲んだ領域91から切り出して作製した。図9における92はゲート部分を示す。
【0066】
実施例1−1
応力−ひずみ曲線を、ひずみ20%以下の領域A1と、ひずみ50〜60%の領域B1に分割し、A1の領域における最大応力と、B1の領域における最低応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例2で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が0%以下であった。そのためすべての射出成型品を良品と判定した。
【0067】
実施例1−2
応力−ひずみ曲線を、ひずみ20%以下の領域A2と、ひずみ60〜70%の領域B2に分割し、A2の領域における最大応力と、B2の領域における最低応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が0%以下であった。そのためすべての射出成型品を良品と判定した。
【0068】
実施例1−3
応力−ひずみ曲線を、ひずみ20%以下の領域A3と、ひずみ100〜110%の領域B3に分割し、A3の領域における最大応力と、B3の領域における最低応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えていたので、全ての射出成型品を不良品と判定した。
【0069】
実施例1−4
応力−ひずみ曲線を、ひずみ20%以下の領域A4と、ひずみ150〜160%の領域B4に分割し、A4の領域における最大応力と、B4の領域における最低応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えていたので、全ての射出成型品を不良品と判定した。
【0070】
実施例1−5
応力−ひずみ曲線を、ひずみ60%以下の領域A5と、ひずみ50〜60%の領域B5に分割し、A5の領域における最大応力と、B5の領域における最低応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率がいずれの測定値も9%よりも低かったので、全ての射出成型品を良品と判定した。
【0071】
実施例1−6
応力−ひずみ曲線を、ひずみ60%以下の領域A6と、ひずみ60〜70%の領域B6に分割し、A6の領域における最大応力と、B6の領域における最低応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率がいずれの測定値も9%よりも低かったので、全ての射出成型品を良品と判定した。
【0072】
実施例1−7
応力−ひずみ曲線を、ひずみ60%以下の領域A7と、ひずみ100〜110%の領域B7に分割し、A7の領域における最大応力と、B7の領域における最低応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えていたので、全ての射出成型品を不良品と判定した。
【0073】
実施例1−8
応力−ひずみ曲線を、ひずみ60%以下の領域A8と、ひずみ150〜160%の領域B8に分割し、A8の領域における最大応力と、B8の領域における最低応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対する最低応力の低下率が10%を超えていたので、全ての射出成型品を不良品と判定した
【0074】
実施例2−1
応力−ひずみ曲線を、ひずみ20%以下の領域C1と、ひずみ20%以上の領域D1とに分割し、領域C1における最大応力を抽出した。また、領域D1の中からひずみ50%における応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ50%における応力がいずれも9%を下回ったため、全ての射出成型品をクラック又はデラミネーションによる良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ50%における応力の低下率がいずれの測定値も9%よりも低かったので、全ての射出成型品を良品と判定した。
【0075】
実施例2−2
応力−ひずみ曲線を、ひずみ20%以下の領域C2と、ひずみ20%以上の領域D2とに分割し、領域C2における最大応力を抽出した。また、領域D2の中からひずみ60%における応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ60%における応力の低下率が10%を超えているものがあった。低下率が10%を超えているものは、クラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ60%における応力の低下率がいずれの測定値も9%よりも低かったので、全ての射出成型品を良品と判定した。
【0076】
実施例2−3
応力−ひずみ曲線を、ひずみ20%以下の領域C3と、ひずみ20%以上の領域D3とに分割し、領域C3における最大応力を抽出した。また、領域D3の中からひずみ100%における応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ100%における応力の低下率が10%を超えており、全ての射出成型品をクラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ100%における応力の低下率が9%よりも大きいものがあった。低下率が9%よりも大きい射出成型品を不良品と判定した。
【0077】
実施例2−4
応力−ひずみ曲線を、ひずみ20%以下の領域C4と、ひずみ20%以上の領域D4とに分割し、領域C4における最大応力を抽出した。また、領域D4の中からひずみ150%における応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ150%における応力の低下率が10%を超えており、全ての射出成型品をクラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ150%における応力の低下率が9%よりも大きいものがあった。低下率が9%よりも大きいものを不良品と判定した。
【0078】
実施例2−5
応力−ひずみ曲線を、ひずみ60%以下の領域C5と、ひずみ60%以上の領域D5とに分割し、領域C5における最大応力を抽出した。また、領域D5の中からひずみ60%における応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ60%における応力の低下率が10%を超えており、全ての射出成型品をクラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ60%における応力の低下率がいずれも9%よりも小さかったので、全ての射出成型品を良品と判定した。
【0079】
実施例2−6
応力−ひずみ曲線を、ひずみ60%以下の領域C6と、ひずみ60%以上の領域D6とに分割し、領域C6における最大応力を抽出した。また、領域D6の中からひずみ100%における応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ100%における応力の低下率が10%を超えており、全ての射出成型品をクラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
【0080】
実施例2−7
応力−ひずみ曲線を、ひずみ60%以下の領域C7と、ひずみ60%以上の領域D7とに分割し、領域C7における最大応力を抽出した。また、領域D7の中からひずみ150%における応力を抽出した。
製造例1で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ150%における応力の低下率が10%を超えており、全ての射出成型品をクラック又はデラミネーションによる不良品と判定した。
また、製造例4で得られた4個の射出成型品は、上記最大応力に対するひずみ150%における応力の低下率がいずれも9%よりも大きかったので、全ての射出成型品を不良品と判定した
【0081】
実施例3−1
製造例1〜6で得られた成形品を各4個用いて引張試験を行い、応力−ひずみ曲線を得た。応力−ひずみ曲線を、ひずみ10%毎に、10個の領域に分割し、ひずみが小さい順に領域m=1〜9とした。
各領域毎に最大応力及び最低応力を抽出して、
下記式:
SMAX×α≦SMINm+1
(α=0.93、m=1〜9の整数)
を満足するか否かを調べた。
下記表1に、各製造例毎に、m=1〜9の場合のSMINm+1/SMAXを示す。表1では、αが0.92以下となる場合に欄をグレーにして表示している。
表1中、mは1の場合、(1−SMIN/SMAX)×100の値であり、mは2の場合、(1−SMIN/SMAX)×100の値である。
製造例1で得られた4個のうち2個の射出成型品は、m=1〜4で上記式を満足し、m=5で上記式を満足しなくなるので、不良品と判定した。また、他の2個の射出成型品は、m=1〜5で上記式を満足し、m=6で上記式を満足しなくなるので、不良品と判定した。
製造例2で得られた4個のうち1個の射出成型品は、上記式を満たさなくなるのはm=5であるので、不良品と判定した。また、m=1〜5で上記式を満足し、m=6で上記式を満足しなくなる射出成型品を不良品と判定した。m=1〜7で上記式を満足し、m=8で上記式を満足しなくなる射出成型品を不良品と判定した。また、m=1〜9で上記式を満足する1個の射出成型品を良品と判定した。
製造例3で得られた4個のうち1個の射出成型品は、上記式を満たさなくなるのはm=6であるので、不良品と判定した。また、m=1〜5で上記式を満足し、m=6で上記式を満足しなくなる射出成型品を不良品と判定した。m=1〜6で上記式を満足し、m=7で上記式を満足しなくなる射出成型品を不良品と判定した。また、m=1〜8で上記式を満足する2個の射出成型品を良品と判定した。
製造例4で得られた4個の射出成型品は、m=8まで上記式を満たすので、全てを良品と判定した。
製造例5で得られた4個のうち1個の射出成型品は、上記式を満たさなくなるのはm=6であるので、不良品と判定した。3個の射出成型品は、上記式を満たさなくなるのはm=7であるので、不良品と判定した。
製造例6で得られた4個のうち3個の射出成型品は、m=1ですでに上記式を満たさないので、全ての射出成型品を不良品と判定した。製造例6で得られた1個の射出成型品は、m=9まで上記式を満たすので、良品と判定した。
上に述べる結果を応用し、最初に上記式を満たさなくなった領域のmの数を点数とすることで、欠陥の少なさの指標にできる。製造例1〜6で得られた射出成型品は、例えば、下記点数となる。
製造例1:5点(m=1〜4で上記式を満足するもの)
製造例2:5点(m=1〜4で上記式を満足するもの)
製造例3:6点(m=1〜5で上記式を満足するもの)
製造例4:9点(m=1〜8で上記式を満足するもの)
製造例5:6点(m=1〜5で上記式を満足するもの)
製造例6:1点(m=1で既に上記式を満足しないもの)
【0082】
【表1】
【符号の説明】
【0083】
90:射出成型品
91:試験片を切り出した領域
92:ゲート部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9