(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸を備える供試体と、前記軸と連結軸を介して接続されたダイナモメータと、トルク電流指令信号に応じて前記ダイナモメータに電力を供給するインバータと、前記連結軸に発生する軸トルクに応じた軸トルク検出信号を発生する軸トルクセンサと、を備えるダイナモメータシステムにおいて、前記ダイナモメータによって所定の設定慣性を有する慣性体の挙動を模擬する電気慣性制御装置であって、
上位トルク指令信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて、前記慣性体の挙動を模擬した慣性補償トルク信号を生成する慣性補償器と、
前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて、前記供試体と前記ダイナモメータとを含む機械系の共振を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成する共振抑制制御器と、
前記設定慣性の設定値及び供試体慣性の設定値の両方を取得する設定値取得部と、を備え、
前記共振抑制制御器は、前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて前記共振を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成しかつそれぞれ異なる入出力特性を有する複数の制御モジュールと、前記設定値取得部によって取得した前記設定慣性の設定値及び前記供試体慣性の設定値に基づいて前記複数の制御モジュールのうち1つを選択するセレクタと、を備え、前記セレクタによって選択された制御モジュールに前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とを入力し、当該選択された制御モジュールで生成されたトルク電流指令信号を前記インバータへ入力することを特徴とする電気慣性制御装置。
前記各制御モジュールは、前記設定慣性の値及び前記供試体慣性の値が前記関連付け手段によって関連付けられる範囲に属する場合には所定の要求制御性能以上の制御性能を安定して発揮するように設計されることを特徴とする請求項2に記載の電気慣性制御装置。
前記各制御モジュールは、前記フィードバック制御系において、前記供試体慣性摂動部によって前記供試体慣性パラメータに対し変動を与える範囲及び前記設定慣性摂動部によって前記設定慣性パラメータに対し変動を与える範囲をそれぞれ変えることによって設計された前記コントローラであることを特徴とする請求項4に記載の電気慣性制御装置。
軸を備える供試体と、前記軸と連結軸を介して接続されたダイナモメータと、トルク電流指令信号に応じて前記ダイナモメータに電力を供給するインバータと、前記連結軸に発生する軸トルクに応じた軸トルク検出信号を発生する軸トルクセンサと、を備えるダイナモメータシステムにおいて、前記ダイナモメータによって所定の設定慣性を有する慣性体の挙動を模擬する電気慣性制御装置であって、
上位トルク指令信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて、前記慣性体の挙動を模擬した慣性補償トルク信号を生成する慣性補償器と、
前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて、前記供試体と前記ダイナモメータとを含む機械系の共振を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成する共振抑制制御器と、
前記設定慣性の設定値を取得する設定値取得部と、を備え、
前記共振抑制制御器は、前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて前記共振を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成しかつそれぞれ異なる入出力特性を有する複数の制御モジュールと、前記設定値取得部によって取得した設定値に基づいて前記複数の制御モジュールのうち1つを選択するセレクタと、を備え、前記セレクタによって選択された制御モジュールに前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とを入力し、当該選択された制御モジュールで生成されたトルク電流指令信号を前記インバータへ入力し、
前記制御モジュールは、制御対象の入出力特性を模した公称プラント及び前記慣性補償器の入出力特性を模した慣性補償部を含む一般化プラントと、前記慣性補償部に含まれる設定慣性パラメータに対し変動を与える設定慣性摂動部と、前記一般化プラントからの出力に基づいて前記一般化プラントへの入力を与えるコントローラと、を備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすようにコンピュータによって設計された前記コントローラであり、
前記各制御モジュールは、前記フィードバック制御系において前記設定慣性摂動部によって前記設定慣性パラメータに対し変動を与える範囲をそれぞれ変えることによって設計された前記コントローラであることを特徴とする電気慣性制御装置。
軸を備える供試体と、前記軸と連結軸を介して接続されたダイナモメータと、トルク電流指令信号に応じて前記ダイナモメータに電力を供給するインバータと、前記連結軸に発生する軸トルクに応じた軸トルク検出信号を発生する軸トルクセンサと、を備えるダイナモメータシステムにおいて、前記ダイナモメータによって所定の設定慣性を有する慣性体の挙動を模擬する電気慣性制御装置であって、
上位トルク指令信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて、前記慣性体の挙動を模擬した慣性補償トルク信号を生成する慣性補償器と、
前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて、前記供試体と前記ダイナモメータとを含む機械系の共振を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成する共振抑制制御器と、
供試体慣性の設定値を取得する設定値取得部と、を備え、
前記共振抑制制御器は、前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とに基づいて前記共振を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成しかつそれぞれ異なる入出力特性を有する複数の制御モジュールと、前記設定値取得部によって取得した設定値に基づいて前記複数の制御モジュールのうち1つを選択するセレクタと、を備え、前記セレクタによって選択された制御モジュールに前記慣性補償トルク信号と前記軸トルク検出信号とを入力し、当該選択された制御モジュールで生成されたトルク電流指令信号を前記インバータへ入力し、
前記制御モジュールは、制御対象の入出力特性を模した公称プラントを含む一般化プラントと、前記公称プラントに含まれる供試体慣性パラメータに対し変動を与える供試体慣性摂動部と、前記一般化プラントからの出力に基づいて前記一般化プラントへの入力を与えるコントローラと、を備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすようにコンピュータによって設計された前記コントローラであり、
前記各制御モジュールは、前記フィードバック制御系において前記供試体慣性摂動部によって前記供試体慣性パラメータに対し変動を与える範囲をそれぞれ変えることによって設計された前記コントローラであることを特徴とする電気慣性制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るダイナモメータシステムSの構成を示す図である。ダイナモメータシステムSは、入力軸Wi及びこの入力軸Wiと動力伝達可能に接続された出力軸Woを備える車両のドライブトレインを供試体Wとし、この供試体Wの性能を評価するものであり、所謂ドライブトレインベンチシステムと呼称されるものである。供試体Wを搭載する完成車両では、入力軸Wiにはエンジンや駆動モータ等の動力発生源が接続され、出力軸Woには駆動輪が接続される。なお以下では、所謂後輪駆動(FR)車両に搭載されるドライブトレインを供試体Wとした場合について説明するが、本発明はこれに限らない。より具体的には、例えば1つの入力軸と、この入力軸と動力伝達可能に接続された2つの出力軸を備える、所謂前輪駆動(FF)車両に搭載されるドライブトレインを供試体としてもよい。
【0028】
ダイナモメータシステムSは、供試体Wと、入力軸Wiと入力側連結軸S1を介して接続された入力側ダイナモメータ11と、出力軸Woと吸収側連結軸S2を介して接続された吸収側ダイナモメータ12と、入力側トルク電流指令信号に応じて入力側ダイナモメータ11に電力を供給する入力側インバータ21と、吸収側トルク電流指令信号に応じて吸収側ダイナモメータ12に電力を供給する吸収側インバータ22と、各ダイナモメータ11,12の軸の角速度を検出する入力側角速度センサ31及び吸収側角速度センサ32と、各連結軸S1,S2における軸トルクを検出する入力側軸トルクセンサ41及び吸収側軸トルクセンサ42と、入力側トルク電流指令信号を生成しこれを入力側インバータ21へ入力する入力側ダイナモメータ制御装置5と、吸収側トルク電流指令信号を生成しこれを吸収側インバータ22へ入力する吸収側ダイナモメータ制御装置6と、を備える。
【0029】
入力側角速度センサ31は、入力側ダイナモメータ11の軸の単位時間当たりの回転角度を検出し、この角速度に応じた入力側角速度検出信号を発生し、入力側ダイナモメータ制御装置5へ送信する。吸収側角速度センサ32は、吸収側ダイナモメータ12の軸の単位時間当たりの回転角度を検出し、この角速度に応じた吸収側角速度検出信号を発生し、吸収側ダイナモメータ制御装置6へ送信する。
【0030】
入力側軸トルクセンサ41は、連結軸S1に発生する軸トルクを検出し、この軸トルクに応じた入力側軸トルク検出信号を入力側ダイナモメータ制御装置5へ送信する。吸収側軸トルクセンサ42は、連結軸S2に発生する軸トルクを検出し、この軸トルクに応じた吸収側軸トルク検出信号を吸収側ダイナモメータ制御装置6へ送信する。
【0031】
吸収側ダイナモメータ制御装置6は、吸収側角速度検出信号と吸収側軸トルク検出信号とを用いることにより、既知のアルゴリズムに従って吸収側トルク電流指令信号を生成し、これを吸収側インバータ22へ入力する。
【0032】
入力側ダイナモメータ制御装置5は、電気慣性制御装置であり、所定の上位トルク指令信号と入力側角速度検出信号と入力側軸トルク検出信号とを用いることにより、入力側ダイナモメータ11によって所定の設定慣性を有する慣性体の挙動を模擬するような入力側トルク電流指令信号を生成し、これを入力側インバータ21へ入力する。上述のように供試体Wを搭載する完成車両において、供試体Wの入力軸Wiにはエンジンや駆動モータ等の動力発生源が接続されることから、上記設定慣性は、この動力発生源の慣性モーメントを想定してオペレータによって設定される。以上のような電気慣性制御を実行するための入力側ダイナモメータ制御装置5の制御回路の具体的な構成については、後に
図2等を参照して説明する。
【0033】
入力側ダイナモメータ制御装置5は、図示しない上位コントローラから通信を介して送信される上位トルク指令信号と、入力側ダイナモメータ11に装備された入力側角速度センサ31及び入力側軸トルクセンサ41から送信される入力側角速度検出信号及び入力側軸トルク検出信号が入力されると、入力側トルク電流指令信号を生成し、通信を介して入力側インバータ21へ入力する。入力側ダイナモメータ11と電気的に接続されている入力側インバータ21は、入力側ダイナモメータ制御装置5から入力側トルク指令信号が入力されると、この入力側トルク電流指令信号に応じたトルクを入力側ダイナモメータ11に発生させる。なおこの際に想定される外乱要素は、入力側角速度センサ31及び入力側軸トルクセンサ41において角速度や軸トルクを計測する際に発生するノイズや、各通信経路における時間の遅れ、入力側インバータ21の制御応答等による入力側トルク電流指令信号と発生トルクとの間の非線形性のずれ等がある。なお上述の上位トルク指令信号は、上述のように入力側ダイナモメータ制御装置5とは別の上位コントローラによって生成してもよいし、入力側ダイナモメータ制御装置5の内部において上述の電気慣性制御を実行する制御回路とは別に構築されたモジュールによって生成してもよい。
【0034】
図2は、入力側ダイナモメータ制御装置5の制御回路の構成を示す図である。入力側ダイナモメータ制御装置5は、制御対象9に対し電気慣性制御を実行する電気慣性制御モジュール51と、電気慣性制御を実行するために必要となる各種設定値を取得する設定値取得部58と、を備える。
【0035】
制御対象9は、供試体Wの入力軸Wiと入力側ダイナモメータ11とを入力側連結軸S1を介して連結しかつ供試体Wの出力軸Woと吸収側ダイナモメータ12とを吸収側連結軸S2を介して連結して構成されるダイナモメータシステムSによって構成される。
【0036】
なお以下の説明では、ラプラス演算子を“s”で表記し、入力側ダイナモメータの慣性モーメントを“J
1”と表記し、入力側ダイナモメータの粘性摩擦係数を“C
j1”と表記し、供試体の慣性モーメントを“J
2”と表記し、供試体の粘性摩擦係数を“C
j2”と表記し、吸収側ダイナモメータの慣性モーメントを“J
3”と表記し、吸収側ダイナモメータの粘性摩擦係数を“C
j3”と表記する。また入力側連結軸のばね係数を“K
12”と表記し、入力側連結軸のねじれ減衰係数を“C
12”と表記し、吸収側連結軸のばね係数を“K
23”と表記し、吸収側連結軸のねじれ減衰係数を“C
23”と表記する。ここで粘性摩擦係数とは、回転体の速度に比例する摩擦係数をいう。
【0037】
また以下の説明では、図示しない上位コントローラによって生成される上位トルク指令信号を“T
*”と表記し、電気慣性制御モジュール51によって生成される入力側トルク電流指令信号を“T
1”と表記し、入力側連結軸で発生する軸トルクであって入力側軸トルクセンサの検出信号である入力側軸トルク検出信号を“T
12”と表記し、入力側ダイナモメータの軸の角速度であって入力側角速度センサの検出信号である入力側角速度検出信号を“ω
1”と表記する。
【0038】
設定値取得部58は、オペレータによる図示しない入力装置の操作に基づいて、上述の供試体慣性モーメントJ
2に対する設定値である供試体慣性設定値J
tgtと、上記電気慣性制御に係る設定慣性に対する設定値である電気慣性制御設定値J
setと、の2つの値を取得し、これら設定値J
tgt,J
setを電気慣性制御モジュール51へ送信する。
【0039】
設定値取得部58は、上記設定値J
tgt,J
setを各々に対し予め定められた設定範囲内に制限するリミッタを備える。すなわち設定値取得部58は、入力装置を介して取得される供試体慣性設定値J
tgtに対する入力値が上記設定範囲の上限値J
tgtUより大きい場合にはこの上限値J
tgtUを設定値として出力し、入力値が設定範囲の下限値J
tgtLより小さい場合にはこの下限値J
tgtLを設定値として出力し、入力値が上限値J
tgtU以下かつ下限値J
tgtL以上である場合には入力値をそのまま設定値として出力する。また設定値取得部58は、入力装置を介して取得される電気慣性制御設定値J
setに対する入力値が上記設定範囲の上限値J
setUより大きい場合にはこの上限値J
setUを設定値として出力し、入力値が設定範囲の下限値J
setLより小さい場合にはこの下限値J
setLを設定値として出力し、入力値が上限値J
setU以下かつ下限値J
setL以上である場合には入力値をそのまま設定値として出力する。
【0040】
なお以下では、オペレータによる入力装置の操作に基づいて供試体慣性設定値J
tgtの値を設定する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。ダイナモメータシステムSが、供試体慣性モーメントJ
2の値を推定する慣性モーメント推定装置を備える場合、この推定装置によって推定された値を供試体慣性設定値J
tgtとして採用してもよい。
【0041】
電気慣性制御モジュール51は、慣性補償器52と、共振抑制制御器53と、外乱オブザーバ57と、を備え、これらを用いることによって電気慣性制御を実行する。
【0042】
慣性補償器52は、上位トルク指令信号T
*と、入力側軸トルク検出信号T
12と、外乱オブザーバ57によって生成される後述の外乱補償トルク信号T
obsと、に基づいて、設定値取得部58によって取得される電気慣性制御設定値J
setを有する慣性体を模擬した慣性補償トルク信号T
refを生成する。
【0043】
慣性補償器52は、下記式(1)に基づいて、慣性補償トルク信号T
refを生成し、共振抑制制御器53へ入力する。より具体的には、慣性補償器52は、上位トルク指令信号T
*から入力側軸トルク検出信号T
12を減算することで変換前トルク信号を生成し、この変換前トルク信号に電気慣性制御設定値J
setに対する入力側ダイナモメータの慣性モーメントJ
1の比(J
1/J
set)を乗算することによって、変換後トルク信号((J
1/J
set)×(T
*−T
12))を生成する。また慣性補償器52は、この変換後トルク信号に、外乱オブザーバ57によって生成される外乱補償トルク信号T
obsと入力側軸トルク検出信号T
12とを合算することによって慣性補償トルク信号T
refを生成する。
T
ref=(J
1/J
set)×(T
*−T
12)+T
obs+T
12 (1)
【0044】
外乱オブザーバ57は、慣性補償器52を用いて得られる推定信号と入力側角速度検出信号ω
1を用いて得られる検出信号との差を用いて外乱補償トルク信号T
obsを生成し、慣性補償器52へ送信する。より具体的には、外乱オブザーバ57は、慣性補償器52における変換後トルク信号((J
1/J
set)×(T
*−T
12))を積分し、さらにこれに入力側ダイナモメータ11の慣性モーメントJ
1の逆数を乗算して得られる角速度の次元を有する角速度推定信号から、入力側角速度検出信号ω
1を減算し、さらにこの信号に入力側ダイナモメータ11の慣性モーメントJ
1と無次元のゲインgとを乗算したものを外乱補償トルク信号T
obsとし、慣性補償器52へ出力する。
【0045】
共振抑制制御器53は、慣性補償器52によって生成される慣性補償トルク信号T
refと、入力側軸トルク検出信号T
12とに基づいて、制御対象9の共振を抑制するように入力側トルク電流指令信号T
1を生成し、これを入力側インバータ21へ送信する。
【0046】
図3は、共振抑制制御器53の制御回路の構成を示す図である。共振抑制制御器53は、複数の共振抑制制御モジュール541,542,543,544,545,546と、設定値取得部58によって取得された設定値J
tgt,J
setに基づいて複数の共振抑制制御モジュール541〜546のうちの1つを選択するセレクタ55と、を備える。なお以下では、共振抑制制御器53に実装される共振抑制制御モジュールの数を6とした場合について説明するが、本発明はこれに限らない。共振抑制制御モジュールの数は少なくとも2以上であればよい。
【0047】
各共振抑制制御モジュール541〜546は、それぞれ慣性補償トルク信号T
refと入力側軸トルク検出信号T
12とに基づいて制御対象9における共振を抑制するように入力側トルク電流指令信号T
1を生成する。各共振抑制制御モジュール541〜546は、それぞれ異なる入出力特性を有する。
【0048】
各共振抑制制御モジュール541〜546は、上記のように入力側ダイナモメータ11と供試体Wと吸収側ダイナモメータ12とを連結軸S1,S2で連結して構成されるダイナモメータシステムSの機械系全体で発生し得る共振現象のうち、試験対象である供試体W固有の共振現象を除いたものを抑制するような入力側トルク電流指令信号T
1を生成する共振抑制制御機能を備える。
【0049】
ここで供試体Wは、様々なばね要素を含むドライブトレインを想定している。すなわちダイナモメータシステムSにおいて、供試体Wの剛性は、連結軸S1、S2の剛性よりも低い。このため、ダイナモメータシステムSにおいて発生する共振現象は、供試体Wに固有のものであって数Hz〜数十Hz程度の比較的低周波数側で発生する共振現象と、連結軸S1,S2に固有のものであって数百Hz以上の比較的高周波数側で発生する共振現象とに分けられる。またこの比較的高周波数側で発生する共振は、試験対象である供試体Wの特性とは無関係なダイナモメータシステムS固有の共振現象である。従ってこの高周波数側で発生する共振は、各共振抑制制御モジュール541〜546の共振抑制制御機能によって抑制することが好ましい。一方、低周波数側で発生する共振は、試験対象である供試体W固有の現象である。したがって、上記共振抑制制御機能によって、このような低周波数側で発生する共振まで抑制するのは好ましくない。ここで共振抑制制御機能を備える複数台の共振抑制制御モジュール541〜546を共振抑制制御器53に実装する理由について説明する。
【0050】
図4は、供試体慣性設定値J
tgt及び電気慣性制御設定値J
setの設定範囲と各共振抑制制御モジュール541〜546との関係を説明するための図である。上述のようにダイナモメータシステムSでは入力側ダイナモメータ11に接続される供試体Wが慣性の異なるものに交換され得ることを考慮して、オペレータは、供試体慣性設定値J
tgtを下限値J
tgtL以上かつ上限値J
tgtU以下の設定範囲内で設定可能である。またダイナモメータシステムSでは供試体Wを搭載する完成車両において入力軸Wiに接続される動力発生源の慣性モーメントを想定して、オペレータは、電気慣性制御設定値J
setを下限値J
setL以上かつ上限値J
setU以下の設定範囲内で設定可能である。このため、共振抑制制御器53には、供試体慣性設定値J
tgt及び電気慣性制御設定値J
setが
図4に示すような設定範囲内で変更された場合であっても、常に安定して共振抑制制御機能を発揮できるような汎用性が求められる。しかしながら一般的な制御器設計方法では、汎用性を高くするほどコントローラの設計は困難になる。また仮にこのような汎用性の高いコントローラを設計できたとしても、このようなコントローラでは保守的な結果しか得られず、制御応答が悪化するおそれがある。
【0051】
そこで本実施形態では、供試体慣性設定値J
tgt及び電気慣性制御設定値J
setの設定範囲を複数の小領域に分割し、各小領域で特化して複数の共振抑制制御モジュール541〜546を設計する。
【0052】
図4に示すように、本実施形態では、供試体慣性設定値J
tgtの設定範囲を、下限値J
tgtL以上かつ中間値J
tgt1未満の低慣性範囲と、中間値J
tgt1以上上限値J
tgtU以下の高慣性範囲と、の2つに分割する。ここで中間値J
tgt1は、上限値J
tgtUと下限値J
tgtLとの間に設定される。また本実施形態では、電気慣性制御設定値J
setの設定範囲を、上限値J
setU以下かつ第1中間値J
set1以上の高慣性範囲と、第1中間値J
set1未満かつ第2中間値J
set2以上の中間性範囲と、第2中間値J
set2未満かつ下限値J
setL以上の低慣性範囲と、の3つに分割する。ここで第1中間値J
set1は、上限値J
setUと下限値J
setLとの間に設定され、第2中間値J
set2は、第1中間値J
set1と下限値J
setLとの間に設定される。
【0053】
これにより供試体慣性設定値J
tgt及び電気慣性制御設定値J
setの設定範囲は、第1〜第6領域の6つの小領域に分割される。第1領域は、下限値J
tgtL≦J
tgt<中間値J
tgt1かつ上限値J
setU≧J
set≧第1中間値J
set1となる領域であり、第2領域は、下限値J
tgtL≦J
tgt<中間値J
tgt1かつ第1中間値J
set1>J
set≧第2中間値J
set2となる領域であり、第3領域は、下限値J
tgtL≦J
tgt<中間値J
tgt1かつ第2中間値J
set2>J
set≧下限値J
setLとなる領域であり、第4領域は、中間値J
tgt1≦J
tgt≦上限値J
tgtUかつ上限値J
setU≧J
set≧第1中間値J
set1となる領域であり、第5領域は、中間値J
tgt1≦J
tgt≦上限値J
tgtUかつ第1中間値J
set1>J
set≧第2中間値J
set2となる領域であり、第6領域は中間値J
tgt1≦J
tgt≦上限値J
tgtUかつ第2中間値J
set2>J
set≧下限値J
setLとなる領域である。
【0054】
ここで第1共振抑制制御モジュール541は、2つの設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第1領域に属する場合に、所定の要求制御性能以上の制御性能(より具体的には、所定の要求応答周波数以上の制御応答性能であり、以下同様)を安定して発揮するように設計され、第2共振抑制制御モジュール542は、2つの設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第2領域に属する場合に、所定の要求制御性能以上の制御性能を安定して発揮するように設計され、第3共振抑制制御モジュール543は、2つの設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第3領域に属する場合に、所定の要求制御性能以上の制御性能を安定して発揮するように設計され、第4共振抑制制御モジュール544は、2つの設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第4領域に属する場合に、所定の要求制御性能以上の制御性能を安定して発揮するように設計され、第5共振抑制制御モジュール545は、2つの設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第5領域に属する場合に、所定の要求制御性能以上の制御性能を安定して発揮するように設計され、第6共振抑制制御モジュール546は、2つの設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第6領域に属する場合に、所定の要求制御性能以上の制御性能を安定して発揮するように設計される。以上のように、各共振抑制制御モジュール541〜546は、要求制御性能以上の制御性能を安定して発揮する設定範囲が異なることから、それぞれ異なる入出力特性を有する。なおこれら共振抑制制御モジュール541〜546は、それぞれ後に
図5〜
図8を参照して説明する手順に従って設計されたコントローラが用いられる。
【0055】
セレクタ55は、設定値J
tgt,J
setに基づいて複数の共振抑制制御モジュール541〜546の中から1つを選択する制御モジュール選択部551と、制御モジュール選択部551によって選択されたものを制御回路に組み込むスイッチ552と、を備える。
【0056】
制御モジュール選択部551は、供試体慣性設定値J
tgt及び電気慣性制御設定値J
setの組み合わせが属する小領域と上記複数の共振抑制制御モジュール541〜546のうちの1つとを関連付ける
図4に示すような設定マップを備える。制御モジュール選択部551は、設定値取得部58によって取得される設定値J
tgt,J
setの組み合わせに基づいて設定マップを検索することによって、選択フラグFの値を設定する。選択フラグFは、共振抑制制御モジュール541〜546の数と同じ整数値を取得し得る。
【0057】
制御モジュール選択部551は、設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第1領域に属する場合には、この第1領域と関連付けられている第1共振抑制制御モジュール541を選択するべく、選択フラグFの値を“1”とする。制御モジュール選択部551は、設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第2領域に属する場合には、この第2領域と関連付けられている第2共振抑制制御モジュール542を選択するべく、選択フラグFの値を“2”とする。制御モジュール選択部551は、設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第3領域に属する場合には、この第3領域と関連付けられている第3共振抑制制御モジュール543を選択するべく、選択フラグFの値を“3”とする。制御モジュール選択部551は、設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第4領域に属する場合には、この第4領域と関連付けられている第4共振抑制制御モジュール544を選択するべく、選択フラグFの値を“4”とする。制御モジュール選択部551は、設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第5領域に属する場合には、この第5領域と関連付けられている第5共振抑制制御モジュール545を選択するべく、選択フラグFの値を“5”とする。制御モジュール選択部551は、設定値J
tgt,J
setの組み合わせが第6領域に属する場合には、この第6領域と関連付けられている第6共振抑制制御モジュール546を選択するべく、選択フラグFの値を“6”とする。
【0058】
スイッチ552は、複数の共振抑制制御モジュール541〜546の中から制御モジュール選択部551によって設定される選択フラグFの値に応じたものを1つ選択し、これを制御回路に組み込む。スイッチ552は、選択フラグFの値が“1”である場合には第1共振抑制制御モジュール541を選択し、選択フラグFの値が“2”である場合には第2共振抑制制御モジュール542を選択し、選択フラグFの値が“3”である場合には第3共振抑制制御モジュール543を選択し、選択フラグFの値が“4”である場合には第4共振抑制制御モジュール544を選択し、選択フラグFの値が“5”である場合には第5共振抑制制御モジュール545を選択し、選択フラグFの値が“6”である場合には第6共振抑制制御モジュール546を選択する。またスイッチ552は、選択した共振抑制制御モジュールに上位トルク指令信号T
*及び入力側軸トルク検出信号T
12を入力し、さらにこの共振抑制制御モジュールによって生成された入力側トルク電流指令信号T
1を入力側インバータ21へ入力する。
【0059】
第1共振抑制制御モジュール541は、選択フラグFの値が“1”である場合にオンとなり、入力信号(上位トルク指令信号T
*及び入力側軸トルク検出信号T
12)に応じた入力側トルク電流指令信号T
1を生成する。第2共振抑制制御モジュール542は、選択フラグFの値が“2”である場合にオンとなり、入力信号に応じた入力側トルク電流指令信号T
1を生成する。第3共振抑制制御モジュール543は、選択フラグFの値が“3”である場合にオンとなり、入力信号に応じた入力側トルク電流指令信号T
1を生成する。第4共振抑制制御モジュール544は、選択フラグFの値が“4”である場合にオンとなり、入力信号に応じた入力側トルク電流指令信号T
1を生成する。第5共振抑制制御モジュール545は、選択フラグFの値が“5”である場合にオンとなり、入力信号に応じた入力側トルク電流指令信号T
1を生成する。第6共振抑制制御モジュール546は、選択フラグFの値が“6”である場合にオンとなり、入力信号に応じた入力側トルク電流指令信号T
1を生成する。
【0060】
次に、以上のように第1〜第6領域毎に特化した共振抑制制御機能を発揮する共振抑制制御モジュール541〜546の設計手順について、
図5〜
図8を参照しながら説明する。
【0061】
共振抑制制御モジュール541〜546は、それぞれ、
図5に示すようなフィードバック制御系8を定義し、このフィードバック制御系8において所定の設計条件が満たされるように、H∞制御やμ設計法と呼称されるロバスト制御系設計方法によって設計されたコントローラKをデジタルシグナルプロセッサやマイクロコンピュータ等の入出力ポートを備えるハードウェアに実装して構成される。
【0062】
図5のフィードバック制御系8は、制御対象9の入出力特性を模した公称プラントN1及び上述の慣性補償器52の入出力特性を模した慣性補償部N2を含む一般化プラントPと、一般化プラントPに対し変動を与える摂動部Δと、一般化プラントPに対し入出力を与えるコントローラKと、を組み合わせることによって構成される。
【0063】
一般化プラントPには、第1外乱入力w1、第2外乱入力w2、及び第3外乱入力w3で構成される入力と、第1評価出力z1、第2評価出力z2、及び第3評価出力z3で構成される出力とが定義されている。以下では、第1外乱入力w1、第2外乱入力w2、及び第3外乱入力w3を成分とするベクトル量をwと表記し、第1評価出力z1、第2評価出力z2、及び第3評価出力z3を成分とするベクトル量をzと表記する。
【0064】
一般化プラントPとコントローラKとの間には、慣性補償トルク信号(
図2中T
ref参照)に相当する第1観測出力y1及び入力側軸トルク検出信号(
図2中T
12参照)に相当する第2観測出力y2と、入力側トルク電流指令信号(
図2中T
1参照)に相当する制御入力uとが定義されている。
【0065】
また一般化プラントPと摂動部Δとの間には、第1変動入力η1及び第2変動入力η2で構成される入力と、第1変動出力ξ1及び第2変動出力ξ2で構成される出力とが定義されている。摂動部Δは、一般化プラントPの公称プラントN1から出力される第1変動入力η1に基づいて第1変動出力ξ1を生成し、この第1変動出力ξ1を公称プラントN1へ与える第1摂動部ΔP1と、一般化プラントPの慣性補償部N2から出力される第2変動入力η2に基づいて第2変動出力ξ2を生成し、この第2変動出力ξ2を慣性補償部N2へ与える第2摂動部ΔP2と、を備える。
【0066】
図6は、一般化プラントP及び摂動部Δの構成を示す図である。一般化プラントPは、公称プラントN1と、慣性補償部N2と、複数の重み関数W1(s),W2(s)と、を組み合わせて構成される。摂動部Δは、公称プラントN1に含まれるモデルパラメータに対し変動を与える第1摂動部ΔP1と、慣性補償部N2に含まれるモデルパラメータに対し変動を与える第2摂動部ΔP2と、を備える。
【0067】
図6の一般化プラントPには、第1外乱入力w1、第2外乱入力w2、第3外乱入力w3、第1評価出力z1、第2評価出力z2、第3評価出力z3、制御入力u、第1観測出力y1、第2観測出力y2、第1変動入力η1、第2変動入力η2、第1変動出力ξ1、及び第2変動出力ξ2から成る複数の入出力信号が定義されている。これら入出力信号と
図1及び
図2のダイナモメータシステムSとの対応関係は以下の通りである。
【0068】
第1外乱入力w1は、一般化プラントPへの入力信号であり、コントローラKから出力される制御入力uに対する外乱に相当する。第2外乱入力w2は、一般化プラントPへの入力信号であり、慣性補償部N2に入力される上位トルク指令信号に相当する。第3外乱入力w3は、一般化プラントPへの入力信号であり、コントローラKに入力される入力側軸トルク検出信号に対する外乱に相当する。
【0069】
制御入力uは、コントローラKから一般化プラントPへの入力信号であり、入力側トルク電流指令信号に相当する。この制御入力uと第1外乱入力w1とを合算したものは、公称プラントN1に入力される。第1観測出力y1は、一般化プラントPからコントローラKへの入力信号であり、慣性補償部N2から出力される慣性補償トルク信号に相当する。第2観測出力y2は、一般化プラントPからコントローラKへの入力信号であり、入力側軸トルク検出信号に相当する。この第2観測出力y2には、公称プラントN1から出力される入力側軸トルク検出信号に相当する第3評価出力z3と第3外乱入力w3とを合算したものに値“1”を乗じたものが用いられる。
【0070】
第1評価出力z1は、一般化プラントPの出力信号であり、重み付きのコントローラKの入出力差分に相当する。この第1評価出力z1には、コントローラKへ入力される第1観測出力y1からコントローラKから出力される制御入力uを減算して得られる差分を、予め設定された第1重み関数W1(s)で重み付けしたものが用いられる。
第2評価出力z2は、一般化プラントPの出力信号であり、重み付きのコントローラKの出力に相当する。この第2評価出力z2には、コントローラKから出力される制御入力uを、予め設定された第2重み関数W2(s)で重み付けしたものが用いられる。
第3評価出力z3は、一般化プラントPの出力信号であり、重み付きの入力側軸トルク検出信号に相当する。この第3評価出力z3には、公称プラントN1から出力される入力側軸トルク検出信号が用いられる。
【0071】
図7は、公称プラントN1の構成を示す図である。公称プラントN1は、
図1のダイナモメータシステムSにおいて、入力側トルク電流指令信号T
1に応じたダイナモトルクから入力側軸トルク検出信号T
12に応じた軸トルクまでの入出力特性を模した入出力特性を備える。
【0072】
図7に示すように、公称プラントN1には、入力側ダイナモメータと供試体と吸収側ダイナモメータとを直列に接続して構成されるダイナモメータシステムSを多慣性系の運動方程式でモデル化することによって構築されたものが用いられる。
図7には、公称プラントN1を、例えば慣性モーメントJ
1及び粘性摩擦係数C
j1を有する第1慣性体と、所定の第1公称慣性モーメントJ
2n及び粘性摩擦係数C
j2を有する第2慣性体と、慣性モーメントJ
3及び粘性摩擦係数C
j3を有する第3慣性体とを、ばね係数K
12及びねじれ減衰係数C
12を有する第1軸体及びばね係数K
23及びねじれ減衰係数C
23を有する第2軸体で直列に連結して構成される3慣性系の運動方程式に基づいて構築した場合を示す。
【0073】
ここで公称プラントN1において、慣性モーメントJ
1,J
3、粘性摩擦係数C
j1,C
j2,C
j3、ばね係数K
12,K
23、及びねじれ減衰係数C
12,C
23の具体的な値は、予め定められた値が用いられる。また第1公称慣性モーメントJ
2nの具体的な値は、後に詳細に説明するように、設計しようとする共振抑制制御モジュール541〜546毎に定められた値が用いられる。
【0074】
第1摂動部ΔP1は、公称プラントN1の入出力特性を定める複数のモデルパラメータ(J
1,J
2n,J
3,C
j1,C
j2,C
j3,K
12,K
23,C
12,C
23)のうちの1つである第1公称慣性モーメントJ
2nに対し変動を与える。より具体的には、公称プラントN1は、入力側連結軸に入力されるトルクに相当する第1変動入力η1に第1公称慣性モーメントJ
2nの逆数を乗算する公称値乗算部81と、第1摂動部ΔP1の出力信号に相当する第1変動出力ξ1と公称値乗算部81の出力信号とを合算する合算部82と、を備える。
【0075】
第1摂動部ΔP1は、公称値乗算部81に対する第1変動入力η1が入力されると、第1変動出力ξ1を生成し、合算部82へ入力する。これにより第1摂動部ΔP1は、第1公称慣性モーメントJ
2nの逆数に対し加法的変動を与える。すなわち、第1摂動部ΔP1において既知のアルゴリズムによって生成される有界変動をd1とすると、実対象の慣性モーメントJ
2n〜は、下記式(2)によって表される。
1/J
2n〜=1/J
2n+d1 (2)
【0076】
図6に戻り、慣性補償部N2の構成について説明する。慣性補償部N2は、
図2の入力側ダイナモメータ制御装置5の慣性補償器52において、上位トルク指令信号T
*及び入力側軸トルク検出信号T
12から慣性補償トルク信号T
refまでの入出力特性を模した入出力特性を備える。
【0077】
図6に示すように、慣性補償部N2は、第2外乱入力w2から第2観測出力y2を減算することによりトルク偏差信号を生成する減算部91と、減算部91によって生成されるトルク偏差信号に入力側ダイナモメータの慣性モーメントJ
1と所定の第2公称慣性モーメントJ
set_nとの慣性比(J
1/J
set_n)を乗算することにより、第2変動入力η2を生成する慣性比乗算部92と、第2摂動部ΔP2の出力信号に相当する第2変動出力ξ2と第2変動入力η2とを合算する合算部93と、を備える。
【0078】
ここで慣性補償部N2において、慣性モーメントJ
1の具体的な値は、公称プラントN1と同様に予め定められた値が用いられる。また第2公称慣性モーメントJ
set_nの具体的な値は、後に詳細に説明するように、設計しようとする共振抑制制御モジュール541〜546毎に定められた値が用いられる。
【0079】
第2摂動部ΔP2は、慣性補償部N2の入出力特性を定める複数のモデルパラメータのうちの1つである第2公称慣性モーメントJ
set_nに対し変動を与える。より具体的には、第2摂動部ΔP2は、慣性比乗算部92から出力される第2変動入力η2が入力されると、第2変動出力ξ2を生成し、合算部93へ入力する。これにより第2摂動部ΔP2は、第2公称慣性モーメントJ
set_nの逆数に対し乗法的変動を与える。すなわち、第2摂動部ΔP2において既知のアルゴリズムによって生成される有界変動をd2とすると、実対象の慣性モーメントJ
set_n〜は、下記式(3)によって表される。
J
1/J
set_n〜=(1+d2)×J
1/J
set_n (3)
【0080】
図8は、以上のようなフィードバック制御系8を用いて各共振抑制制御モジュール541〜546を設計する方法の具体的な手順を示すフローチャートである。
【0081】
始めにS1では、オペレータは、コンピュータを用いることによって
図5〜
図7に示すように公称プラントN1、慣性補償部N2、第1摂動部ΔP1、第2摂動部ΔP2、及び重み関数W1(s),W2(s)を設定する。
【0082】
次にS2では、オペレータは、第1公称慣性モーメントJ
2n及び第2公称慣性モーメントJ
set_nの値を、設計しようとする共振抑制制御モジュール541〜546に応じた値に設定する。
【0083】
より具体的には、設定値J
tgt,J
setの設定範囲のうち第1領域(
図4参照)と関連付けられている第1共振抑制制御モジュール541を設計する場合、第1公称慣性モーメントJ
2nの値は、例えば、供試体慣性設定値J
tgtの下限値J
tgtLと中間値J
tgt1との間に定められた低慣性設定値J
tgt_n1に設定され、第2公称慣性モーメントJ
set_nの値は、例えば、電気慣性制御設定値J
setの上限値J
setUと第1中間値J
set1との間に定められた高慣性設定値J
set_n1に設定される(
図4参照)。
【0084】
また設定値J
tgt,J
setの設定範囲のうち第2領域(
図4参照)と関連付けられている第2共振抑制制御モジュール542を設計する場合、第1公称慣性モーメントJ
2nの値は、例えば、供試体慣性設定値J
tgtの下限値J
tgtLと中間値J
tgt1との間に定められた低慣性設定値J
tgt_n1に設定され、第2公称慣性モーメントJ
set_nの値は、例えば、電気慣性制御設定値J
setの第1中間値J
set1と第2中間値J
set2との間に定められた中慣性設定値J
set_n2に設定される(
図4参照)。
【0085】
また設定値J
tgt,J
setの設定範囲のうち第3領域(
図4参照)と関連付けられている第3共振抑制制御モジュール543を設計する場合、第1公称慣性モーメントJ
2nの値は、例えば、供試体慣性設定値J
tgtの下限値J
tgtLと中間値J
tgt1との間に定められた低慣性設定値J
tgt_n1に設定され、第2公称慣性モーメントJ
set_nの値は、例えば、電気慣性制御設定値J
setの第2中間値J
set2と下限値J
setLとの間に定められた低慣性設定値J
set_n3に設定される(
図4参照)。
【0086】
また設定値J
tgt,J
setの設定範囲のうち第4領域(
図4参照)と関連付けられている第4共振抑制制御モジュール544を設計する場合、第1公称慣性モーメントJ
2nの値は、例えば、供試体慣性設定値J
tgtの中間値J
tgt1と上限値J
tgtUとの間に定められた高慣性設定値J
tgt_n2に設定され、第2公称慣性モーメントJ
set_nの値は、例えば、電気慣性制御設定値J
setの上限値J
setUと第1中間値J
set1との間に定められた高慣性設定値J
set_n1に設定される(
図4参照)。
【0087】
また設定値J
tgt,J
setの設定範囲のうち第5領域(
図4参照)と関連付けられている第5共振抑制制御モジュール545を設計する場合、第1公称慣性モーメントJ
2nの値は、例えば、供試体慣性設定値J
tgtの中間値J
tgt1と上限値J
tgtUとの間に定められた高慣性設定値J
tgt_n2に設定され、第2公称慣性モーメントJ
set_nの値は、例えば、電気慣性制御設定値J
setの第1中間値J
set1と第2中間値J
set2との間に定められた中慣性設定値J
set_n2に設定される(
図4参照)。
【0088】
また設定値J
tgt,J
setの設定範囲のうち第6領域(
図4参照)と関連付けられている第6共振抑制制御モジュール546を設計する場合、第1公称慣性モーメントJ
2nの値は、例えば、供試体慣性設定値J
tgtの中間値J
tgt1と上限値J
tgtUとの間に定められた高慣性設定値J
tgt_n2に設定され、第2公称慣性モーメントJ
set_nの値は、例えば、電気慣性制御設定値J
setの第2中間値J
set2と下限値J
setLとの間に定められた低慣性設定値J
set_n3に設定される(
図4参照)。
【0089】
次にS3では、オペレータは、第1摂動部ΔP1及び第2摂動部ΔP2によって第1公称慣性モーメントJ
2n及び第2公称慣性モーメントJ
set_nに与える変動範囲を、設計しようとする共振抑制制御モジュール541〜546に応じた範囲に設定する。
【0090】
より具体的には、第1領域と関連付けられる第1共振抑制制御モジュール541を設計する場合、上記式(2)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
2n〜が、下限値J
tgtL以上かつ中間値J
tgt1未満の低慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第1摂動部ΔP1によって生成される有界変動d1を設定する。またこの場合、上記式(3)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
set_n〜が、上限値J
setU以下かつ第1中間値J
set1以上の高慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第2摂動部ΔP2によって生成される有界変動d2を設定する。
【0091】
また第2領域と関連付けられる第2共振抑制制御モジュール542を設計する場合、上記式(2)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
2n〜が、下限値J
tgtL以上かつ中間値J
tgt1未満の低慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第1摂動部ΔP1によって生成される有界変動d1を設定する。またこの場合、上記式(3)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
set_n〜が、第1中間値J
set1未満かつ第2中間値J
set2以上の中慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第2摂動部ΔP2によって生成される有界変動d2を設定する。
【0092】
また第3領域と関連付けられる第3共振抑制制御モジュール543を設計する場合、上記式(2)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
2n〜が、下限値J
tgtL以上かつ中間値J
tgt1未満の低慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第1摂動部ΔP1によって生成される有界変動d1を設定する。またこの場合、上記式(3)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
set_n〜が、第2中間値J
set2未満かつ下限値J
setL以上の低慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第2摂動部ΔP2によって生成される有界変動d2を設定する。
【0093】
また第4領域と関連付けられる第4共振抑制制御モジュール544を設計する場合、上記式(2)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
2n〜が、中間値J
tgt1以上かつ上限値J
tgtU以下の高慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第1摂動部ΔP1によって生成される有界変動d1を設定する。またこの場合、上記式(3)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
set_n〜が、上限値J
setU以下かつ第1中間値J
set1以上の高慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第2摂動部ΔP2によって生成される有界変動d2を設定する。
【0094】
また第5領域と関連付けられる第5共振抑制制御モジュール545を設計する場合、上記式(2)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
2n〜が、中間値J
tgt1以上かつ上限値J
tgtU以下の高慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第1摂動部ΔP1によって生成される有界変動d1を設定する。またこの場合、上記式(3)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
set_n〜が、第1中間値J
set1未満かつ第2中間値J
set2以上の中慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第2摂動部ΔP2によって生成される有界変動d2を設定する。
【0095】
また第6領域と関連付けられる第6共振抑制制御モジュール546を設計する場合、上記式(2)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
2n〜が、中間値J
tgt1以上かつ上限値J
tgtU以下の高慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第1摂動部ΔP1によって生成される有界変動d1を設定する。またこの場合、上記式(3)で与えられる実対象の慣性モーメントJ
set_n〜が、第2中間値J
set2未満かつ下限値J
setL以上の低慣性範囲を包含する範囲にわたって変動するように第2摂動部ΔP2によって生成される有界変動d2を設定する。
【0096】
S4では、オペレータは、以上のようにして構築された公称プラントN1、慣性補償部N2、第1摂動部ΔP1、第2摂動部ΔP2、及びコントローラKを組み合わせて構成されるフィードバック制御系8において、ロバスト安定性が実現するように定められた所定の設計条件が満たされるように、コンピュータによってコントローラKを設計する。より具体的には、このようなコントローラKは、例えばコンピュータ上でD−Kイタレーション法に基づく反復演算を行うことによって導出される。
【0097】
S5では、S4において設計されたコントローラKをデジタルシグナルプロセッサに実装することによって共振抑制制御モジュール541〜546を設計する。
【0098】
次に、以上のような複数の共振抑制制御モジュール541〜546を搭載する本実施形態に係る入力側ダイナモメータ制御装置5の共振抑制効果を検証するために行ったシミュレーションの結果について、
図9及び
図10を参照しながら説明する。
【0099】
このシミュレーションでは、入力側ダイナモメータ制御装置5を用いて加振制御を行った。より具体的には、この加振制御では、入力側ダイナモメータ制御装置5へ入力する上位トルク指令信号を加振するとともに、この上位トルク指令信号の加振周波数を、所定時間かけて共振周波数を含む所定の範囲内で変化させた。またこのシミュレーションでは、供試体慣性設定値J
tgtを、低慣性範囲(J
tgtL〜J
tgt1)内に定められたa1,a2,a3及び高慣性範囲(J
tgt1〜J
tgtU)内に定められたa4,a5の5点(a1<a2<a3<a4<a5)で変化させ、電気慣性制御設定値J
setを、低慣性範囲(J
set2〜J
setL)内に定められたb1、b2、中慣性範囲(J
set1〜J
set2)内に定められたb3、及び高慣性範囲(J
setU〜J
set1)内に定められたb4,b5の5点(b1<b2<b3<b4<b5)で変化させ、各々の組み合わせで加振制御を行った。
【0100】
図9は、上記加振制御の実行時における入力側トルク電流指令信号及び入力側軸トルク検出信号の時間変化を示す図である。
図9において横軸は時間であり、縦軸はトルクである。
図10は、上記加振制御の実行時における軸速度及び電気慣性制御が理想的に機能している場合における軸速度の応答を示す図である。
図10において横軸は時間であり、縦軸は速度である。なお
図10では、理想的な軸速度の応答を破線で示す。
【0101】
供試体慣性設定値J
tgtをa1,a2,a3としかつ電気慣性制御設定値J
setをb1,b2とした場合、第3領域と関連付けられた第3共振抑制制御モジュール543が制御回路に組み込まれる。供試体慣性設定値J
tgtをa1,a2,a3としかつ電気慣性制御設定値J
setをb3とした場合、第2領域と関連付けられた第2共振抑制制御モジュール542が制御回路に組み込まれる。供試体慣性設定値J
tgtをa1,a2,a3としかつ電気慣性制御設定値J
setをb4,b5とした場合、第1領域と関連付けられた第1共振抑制制御モジュール541が制御回路に組み込まれる。
【0102】
供試体慣性設定値J
tgtをa4,a5としかつ電気慣性制御設定値J
setをb1,b2とした場合、第6領域と関連付けられた第6共振抑制制御モジュール546が制御回路に組み込まれる。供試体慣性設定値J
tgtをa4,a5としかつ電気慣性制御設定値J
setをb3とした場合、第5領域と関連付けられた第5共振抑制制御モジュール545が制御回路に組み込まれる。供試体慣性設定値J
tgtをa4,a5としかつ電気慣性制御設定値J
setをb4,b5とした場合、第4領域と関連付けられた第4共振抑制制御モジュール544が制御回路に組み込まれる。
【0103】
共振抑制制御を行わない場合、加振制御における加振周波数を、共振周波数を含む範囲内で変化させると、入力側トルク電流指令信号や入力側軸トルク検出信号の振幅が大きく増加するおそれがある。これに対し本実施形態に係る入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、
図9に示すように、設定値J
tgt,J
setを設定範囲内でどのように変化させても、入力側トルク電流指令信号及び入力側軸トルク検出信号の振幅が大きく増加することはない。すなわち入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、複数の共振抑制制御モジュール541〜546の中から適したモジュールを設定値J
tgt,J
setの組み合わせに応じて選択することにより、設定値J
tgt,J
setをどのように設定しても常に適切な共振抑制制御機能を発揮することができる。
【0104】
また本実施形態に係る入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、
図10に示すように、設定値J
tgt,J
setを設定範囲内でどのように変化させても、軸速度を理想的な軸速度に近づけることができる。すなわち入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、複数の共振抑制制御モジュール541〜546の中から適したモジュールを設定値J
tgt,J
setの組み合わせに応じて選択することにより、設定値J
tgt,J
setをどのように設定しても常に適切な共振抑制制御機能を発揮しつつ、精度良く電気慣性制御を実現できる。
【0105】
本実施形態に係る入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、以下の効果を奏する。
(1)入力側ダイナモメータ制御装置5では、慣性補償器52によって上位トルク指令信号T
*と入力側軸トルク検出信号T
12とに基づいて、設定慣性を有する慣性体の挙動を模擬した慣性補償トルク信号T
refを生成する。慣性補償器52では、このように入力側軸トルク検出信号T
12を直接フィードバックして慣性補償トルク信号T
refを生成することにより、入力側ダイナモメータ11では設定慣性を有する慣性体の挙動を精度良く模擬することが可能となる。また入力側ダイナモメータ制御装置5の共振抑制制御器53は、慣性補償器52によって得られる慣性補償トルク信号T
refと入力側軸トルク検出信号T
12とを用いることによって、供試体Wと入力側ダイナモメータ11とを含む機械系の共振を抑制するように入力側トルク電流指令信号T
1を生成する。これにより入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、上記機械系における共振現象による不安定化を防止しながら、制御応答を高帯域まで拡げることが可能となる。
【0106】
また共振抑制制御器53は、共振抑制制御機能を有しかつそれぞれ異なる入出力特性を有する複数の共振抑制制御モジュール541〜546と、設定値取得部58によって取得した設定値J
tgt,J
setに基づいて複数の共振抑制制御モジュール541〜546のうち1つを選択するセレクタ55と、を備え、このセレクタ55によって選択された共振抑制制御モジュールに慣性補償トルク信号T
refと入力側軸トルク検出信号T
12とを入力し、この選択された共振抑制制御モジュールで生成された入力側トルク電流指令信号T
1を入力側インバータ21へ入力する。換言すれば、共振抑制制御器53では、共振抑制制御機能を有する複数の共振抑制制御モジュール541〜546を予め準備しておき、これら複数の共振抑制制御モジュール541〜546の中から設定値J
tgt,J
setに応じて選択したものを制御回路に組み込む。したがって入力側ダイナモメータ制御装置5では、それぞれ汎用性は低いが制御応答は高い複数の共振抑制制御モジュール541〜546を設計しておき、これら複数の共振抑制制御モジュール541〜546の中から設定値J
tgt,J
setに応じたものを組み込むことができるので、供試体Wや設定慣性が変更された場合であっても制御応答の高い電気慣性制御を行うことができる。
【0107】
(2)入力側ダイナモメータ制御装置5において、設定値取得部58は、設定値J
tgt,J
setの両方を取得し、セレクタ55は、設定値J
tgt,J
setの組み合わせが制御モジュール選択部551によって関連付けられる共振抑制制御モジュールを選択する。したがって入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、設定値J
tgt,J
setに応じた適切な共振抑制制御モジュールを組み込み、制御応答の高い電気慣性制御を行うことができる。
【0108】
(3)入力側ダイナモメータ制御装置5において、各共振抑制制御モジュール541〜546は、設定値J
tgt,J
setが制御モジュール選択部551によって関連付けられる範囲に属する場合には、所定の要求制御性能以上の制御性能を安定して発揮するように設計される。よって入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、供試体Wや設定慣性が変更された場合であっても制御応答の高い電気慣性制御を行うことができる。
【0109】
(4)入力側ダイナモメータ制御装置5において、共振抑制制御モジュールには、公称プラントN1及び慣性補償部N2を含む一般化プラントPと、第1摂動部ΔP1と、第2摂動部ΔP2と、一般化プラントPに対するコントローラKと、を備えるフィードバック制御系8において、所定の設計条件を満たすようにコンピュータによって設計されたコントローラKが用いられる。入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、以上のような一般化プラントPに基づく設計方法によって設計されたコントローラKを、共振抑制制御を実現するための共振抑制制御モジュールとして利用することにより、制御応答の高い電気慣性制御を行うことができる。
【0110】
(5)入力側ダイナモメータ制御装置5において、各共振抑制制御モジュール541〜546には、フィードバック制御系8において、第1摂動部ΔP1によって第1公称慣性モーメントJ
2nに対し変動を与える範囲及び第2摂動部ΔP2によって第2公称慣性モーメントJ
set_nに対し変動を与える範囲をそれぞれ変えることによって設計されたコントローラKが用いられる。したがって入力側ダイナモメータ制御装置5によれば、設定値J
tgt,J
setに応じた適切な共振抑制制御モジュールを組み込み、制御応答の高い電気慣性制御を行うことができる。
【0111】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0112】
例えば上記実施形態では、設定値取得部58によって供試体慣性設定値J
tgt及び電気慣性制御設定値J
setの両方を取得し、これら設定値J
tgt,J
setの組み合わせに基づいて1つの共振抑制制御モジュールを選択する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。設定値取得部では、供試体慣性設定値J
tgt及び電気慣性制御設定値J
setの何れかのみを取得し、この取得した設定値に基づいて1つの共振抑制制御モジュールを選択してもよい。
【0113】
また上記実施形態では、
図4に示す設定マップによって設定値J
tgt,J
setの組み合わせと共振抑制制御モジュール541〜546のうちの1つとを関連付けたが、関連付け手段の形式はこれに限らない。関連付け手段の形式は、
図4に示すようなマップに限らず、テーブル、演算式、及びニューラルネットワーク等を用いてもよい。
【0114】
また上記実施形態では、本発明の電気慣性制御装置を、ドライブトレインである供試体Wの入力軸Wiに接続された入力側ダイナモメータ11を制御する入力側ダイナモメータ制御装置5に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の電気慣性制御装置は、供試体Wの出力軸Woに接続された吸収側ダイナモメータ12を制御する吸収側ダイナモメータ制御装置6に適用することもできる。上述のように電気慣性制御装置を入力側ダイナモメータ11に適用した場合、設定慣性は、供試体Wを搭載する完成車両において入力軸Wiに接続されるエンジンや駆動モータ等の動力発生源の慣性モーメントに相当する。これに対し電気慣性制御装置を吸収側ダイナモメータ制御装置6に適用した場合、設定慣性は、供試体Wを搭載する完成車両において、出力軸Woに作用する車重に相当する。また本発明の電気慣性制御装置は、入力側ダイナモメータ制御装置5及び吸収側ダイナモメータ制御装置6の両方に適用してもよい。
【0115】
また上記実施形態では、本発明の電気慣性制御装置を、ドライブトレインベンチシステムに適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の電気慣性制御装置は、ドライブトレインベンチシステムに限らずエンジンベンチシステム等、他のダイナモメータシステムに適用することもできる。
に基づいて複数の共振抑制制御モジュール541〜546のうち1つを選択するセレクタ55と、を備え、セレクタ55によって選択された共振抑制制御モジュールに慣性補償トルク信号T