(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
供試体の軸に連結されたダイナモメータと、トルク電流指令信号に応じた電力を前記ダイナモメータに供給するインバータと、前記ダイナモメータと前記供試体との間の軸トルクに応じた軸トルク検出信号を発生する軸トルク検出器と、を備える試験システムを制御対象とし、前記軸トルクに対する軸トルク指令信号と前記軸トルク検出信号との偏差を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成する試験システムの軸トルク制御器の設計方法であって、
前記軸トルク制御器は、前記軸トルク指令信号と前記軸トルク検出信号との偏差を積分し、指定値の積分ゲインを乗算することにより第1入力を算出する積分器と、前記軸トルク検出信号に基づいて第2入力を算出する非積分器と、前記第1及び第2入力に基づいて前記トルク電流指令信号を生成し、前記インバータへ入力するトルク電流指令生成器と、を備え、
前記設計方法は、
前記制御対象の前記トルク電流指令信号から前記軸トルク検出信号までの入出力特性を模した公称プラントを備える一般化プラントと、当該一般化プラントの出力に基づいて当該一般化プラントへ入力を与える制御器と、を備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすような前記制御器をコンピュータによって設計する設計工程と、
前記制御器を前記非積分器として前記軸トルク制御器に実装する実装工程と、を備え、
前記設計工程では、
前記一般化プラントに対し、
前記軸トルク指令信号に相当する第1外乱入力が入力される第1外乱入力ポートと、
前記第1外乱入力と前記公称プラントの出力との偏差入力を積分し、前記指定値の積分ゲインを乗算することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部と、
前記公称プラントの出力を前記制御器へ入力することにより当該制御器で得られる出力と前記積分操作量とを合算し、前記公称プラントへの入力を生成する合算部と、
前記偏差入力に所定の第1出力重み関数を乗算したものを第1制御量出力として出力する第1制御量出力ポートと、
前記制御器の出力に所定の第2出力重み関数を乗算したものを第2制御量出力として出力する第2制御量出力ポートと、を設定することを特徴とする試験システムの軸トルク制御器の設計方法。
制御対象の制御出力と当該制御出力に対する指令との偏差を積分し、指定値の積分ゲインを乗算することにより第1入力を算出する積分器と、前記制御出力に基づいて第2入力を算出する非積分器と、前記第1及び第2入力に基づいて前記制御入力を生成し、前記制御対象に入力する制御入力生成器と、を備えるフィードバック制御器の設計方法であって、
前記設計方法は、
前記制御対象の前記制御入力から前記制御出力までの入出力特性を模した公称プラントを備える一般化プラントと、当該一般化プラントの出力に基づいて当該一般化プラントへ入力を与える制御器と、を備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすような前記制御器をコンピュータによって設計する設計工程と、
前記制御器を前記非積分器として前記フィードバック制御器に実装する実装工程と、を備え
前記設計工程では、
前記一般化プラントに対し、
前記指令に相当する第1外乱入力が入力される第1外乱入力ポートと、
前記第1外乱入力と前記公称プラントの出力との偏差入力を積分し、前記指定値の積分ゲインを乗算することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部と、
前記公称プラントの出力を前記制御器へ入力することにより当該制御器で得られる出力と前記積分操作量とを合算し、前記公称プラントへの入力を生成する合算部と、
前記偏差入力に所定の第1出力重み関数を乗算したものを第1制御量出力として出力する第1制御量出力ポートと、
前記制御器の出力に所定の第2出力重み関数を乗算したものを第2制御量出力として出力する第2制御量出力ポートと、を設定することを特徴とするフィードバック制御器の設計方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、制御対象の制御出力をある指令値に追従させる制御器を、上述のような一般化プラントに基づく制御器設計方法によって設計する場合、一般化プラントには、指令値と、この指令値に追従させようとする信号との偏差を、積分特性を備える重み関数で重み付けしたものを出力する制御量出力ポートが設定される(例えば、非特許文献1における重み関数Ws参照)。しかしながら後に
図7を参照して説明するように、このような一般化プラントに基づいて設計される制御器に含まれる積分器のゲインは、一般化プラントにおいて規定される重み関数のゲインと一般的には一致しない。換言すれば、一般化プラントに基づく従来の制御器設計方法では、最終的に得られる制御器の積分ゲインの値を設計段階で指定することはできない。
【0007】
しかしながら制御器の応答性能は積分ゲインの値によってほぼ決定される。このため、上述のような制御器設計方法において最終的に得られる制御器の積分ゲインの値を設計段階で指定できるようにすることが求められる場合がある。
【0008】
また例えば本願出願人による特許文献1には、既存の軸トルク制御器とローパスフィルタとを組み合わせることによって構成される電気慣性制御装置が示されているが、この特許文献1に示された電気慣性制御装置では、ローパスフィルタを特徴付ける複数の制御パラメータ(a1,a2,b1等)の値を、軸トルク制御器の積分ゲインの値を用いてチューニングする必要がある。従ってこのような電気慣性制御装置に組み込まれる軸トルク制御器を一般化プラントに基づく制御器設計方法で設計する場合にも、最終的に得られる軸トルク制御器の積分ゲインの値を設計段階で指定できるようにすることが求められる。
【0009】
本発明は、一般化プラントに基づいて設計される試験システムの軸トルク制御器又は一般的なフィードバック制御器の設計方法であって、これら制御器の積分ゲインを指定値に近づけることができる設計方法、並びにこの設計方法を用いて設計される軸トルク制御器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る設計方法は、供試体(例えば、後述の供試体W)の軸(例えば、後述の入力軸SI)に連結されたダイナモメータ(例えば、後述の入力側ダイナモメータ21)と、トルク電流指令信号に応じた電力を前記ダイナモメータに供給するインバータ(例えば、後述の入力側インバータ23)と、前記ダイナモメータと前記供試体との間の軸トルクに応じた軸トルク検出信号を発生する軸トルク検出器(例えば、後述の入力側軸トルクメータ25)と、を備える試験システム(例えば、後述の試験システム1)を制御対象とし、前記軸トルクに対する軸トルク指令信号と前記軸トルク検出信号との偏差を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成する軸トルク制御器(例えば、後述の軸トルク制御器5)を設計する方法に関する。前記軸トルク制御器は、前記軸トルク指令信号と前記軸トルク検出信号との偏差を積分し、指定値の積分ゲイン(例えば、後述の積分ゲインKi)を乗算することにより第1入力を算出する積分器(例えば、後述の積分器52)と、前記軸トルク検出信号に基づいて第2入力を算出する非積分器(例えば、後述の非積分器53)と、前記第1及び第2入力に基づいて前記トルク電流指令信号を生成し、前記インバータへ入力するトルク電流指令生成器(例えば、後述のトルク電流指令生成器54)と、を備える。前記設計方法は、前記制御対象の前記トルク電流指令信号から前記軸トルク検出信号までの入出力特性を模した公称プラント(例えば、後述の公称プラントN)を備える一般化プラント(例えば、後述の一般化プラントP)と、当該一般化プラントの出力に基づいて当該一般化プラントへ入力を与える制御器(例えば、後述のμ制御器K)と、を備えるフィードバック制御系(例えば、後述のフィードバック制御系8)において、所定の設計条件を満たすような前記制御器をコンピュータによって設計する設計工程(例えば、後述の
図6のS1、S2)と、前記制御器を前記非積分器として前記軸トルク制御器に実装する実装工程(例えば、後述の
図6のS3)と、を備える。前記設計工程では、前記一般化プラントに対し、前記軸トルク指令信号に相当する第1外乱入力(例えば、後述の第1外乱入力w1)が入力される第1外乱入力ポート(例えば、後述の第1外乱入力ポート81)と、前記第1外乱入力と前記公称プラントの出力との偏差入力を積分し、前記指定値の積分ゲインを乗算することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部(例えば、後述の積分操作量算出部90)と、前記公称プラントの出力を前記制御器へ入力することにより当該制御器で得られる出力と前記積分操作量とを合算し、前記公称プラントへの入力を生成する合算部(例えば、後述の合算部91)と、前記偏差入力に所定の第1出力重み関数(例えば、後述の第1出力重み関数Ge(s))を乗算したものを第1制御量出力(例えば、後述の第1制御量出力z1)として出力する第1制御量出力ポート(例えば、後述の第1制御量出力ポート84)と、前記制御器の出力に所定の第2出力重み関数(例えば、後述の第2出力重み関数Gip(s))を乗算したものを第2制御量出力(例えば、後述の第2制御量出力z2)として出力する第2制御量出力ポート(例えば、後述の第2制御量出力ポート85)と、を設定する。
【0011】
(2)この場合、前記第1及び第2出力重み関数は、積分特性を備えることが好ましい。
【0012】
(3)この場合、前記設計工程では、前記一般化プラントに対し、前記ダイナモメータのトルク制御誤差に相当する第2外乱入力(例えば、後述の第2外乱入力w2)が入力される第2外乱入力ポート(例えば、後述の第2外乱入力ポート82)をさらに設定し、前記公称プラントに対し、前記制御器の出力と、前記積分操作量と、前記第2外乱入力に所定の第2入力重み関数(例えば、後述の第2入力重み関数Gid(s))を乗算したものと、の和を入力することが好ましい。
【0013】
(4)この場合、前記設計工程では、前記一般化プラントに対し、前記軸トルク検出器によるトルク検出誤差に相当する第3外乱入力(例えば、後述の第3外乱入力w3)が入力される第3外乱入力ポート(例えば、後述の第3外乱入力ポート83)をさらに設定し、前記積分操作量算出部には、前記第1外乱入力に所定の第1入力重み関数(例えば、後述の第1入力重み関数Gr(s))を乗算したものから、前記公称プラントの出力と前記第3外乱入力に所定の第3入力重み関数(例えば、後述の第3入力重み関数Gn(s))を乗算したものとの和を減算したものを入力することが好ましい。
【0014】
(5)この場合、前記設計工程では、前記一般化プラントに対し、前記公称プラントの出力に所定の第3出力重み関数(例えば、後述の第3出力重み関数Gt(s))を乗算したものを第3制御量出力(例えば、後述の第3制御量出力z3)として出力する第3制御量出力ポート(例えば、後述の第3制御量出力ポート86)をさらに設定し、前記第3出力重み関数を、前記ダイナモメータと前記供試体との間におけるねじり共振周波数を含む周波数帯域において他の周波数帯域よりも大きな重みになるように設定することが好ましい。
【0015】
(6)本発明に係る設計方法は、制御対象(例えば、後述の試験システム1)の制御出力と当該制御出力に対する指令との偏差を積分し、指定値の積分ゲイン(例えば、後述の積分ゲインKi)を乗算することにより第1入力を算出する積分器(例えば、後述の積分器52)と、前記制御出力に基づいて第2入力を算出する非積分器(例えば、後述の非積分器53)と、前記第1及び第2入力に基づいて前記制御入力を生成し、前記制御対象に入力する制御入力生成器(例えば、後述のトルク電流指令生成器54)と、を備えるフィードバック制御器(例えば、後述の軸トルク制御器5)を設計する方法に関する。前記設計方法は、前記制御対象の前記制御入力から前記制御出力までの入出力特性を模した公称プラント(例えば、後述の公称プラントN)を備える一般化プラント(例えば、後述の一般化プラントP)と、当該一般化プラントの出力に基づいて当該一般化プラントへ入力を与える制御器(例えば、後述のμ制御器K)と、を備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすような前記制御器をコンピュータによって設計する設計工程(例えば、後述の
図6のS1、S2)と、前記制御器を前記非積分器として前記フィードバック制御器に実装する実装工程(例えば、後述の
図6のS3)と、を備える。前記設計工程では、前記一般化プラントに対し、前記指令に相当する第1外乱入力(例えば、後述の第1外乱入力w1)が入力される第1外乱入力ポート(例えば、後述の第1外乱入力ポート81)と、前記第1外乱入力と前記公称プラントの出力との偏差入力を積分し、前記指定値の積分ゲインを乗算することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部(例えば、後述の積分操作量算出部90)と、前記公称プラントの出力を前記制御器へ入力することにより当該制御器で得られる出力と前記積分操作量とを合算し、前記公称プラントへの入力を生成する合算部(例えば、後述の合算部91)と、前記偏差入力に所定の第1出力重み関数(例えば、後述の第1出力重み関数Ge(s))を乗算したものを第1制御量出力(例えば、後述の第1制御量出力z1)として出力する第1制御量出力ポート(例えば、後述の第1制御量出力ポート84)と、前記制御器の出力に所定の第2出力重み関数(例えば、後述の第2出力重み関数Gip(s))を乗算したものを第2制御量出力(例えば、後述の第2制御量出力z2)として出力する第2制御量出力ポート(例えば、後述の第2制御量出力ポート85)と、を設定することを特徴とする。
【0016】
(7)本発明に係る軸トルク制御器(例えば、後述の軸トルク制御器5)は、供試体(例えば、後述の供試体W)の軸(例えば、後述の入力軸SI)に連結されたダイナモメータ(例えば、後述の入力側ダイナモメータ21)と、トルク電流指令信号に応じた電力を前記ダイナモメータに供給するインバータ(例えば、後述の入力側インバータ23)と、前記ダイナモメータと前記供試体との間の軸トルクに応じた軸トルク検出信号を発生する軸トルク検出器(例えば、後述の入力側軸トルクメータ25)と、を備える試験システム(例えば、後述の試験システム1)を制御対象とし、前記軸トルクに対する軸トルク指令信号と前記軸トルク検出信号との偏差を抑制するように前記トルク電流指令信号を生成する。前記軸トルク制御器は、前記軸トルク指令信号と前記軸トルク検出信号との偏差を積分し、指定値の積分ゲイン(例えば、後述の積分ゲインKi)を乗算することにより第1入力を算出する積分器(例えば、後述の積分器52)と、前記軸トルク検出信号に基づいて第2入力を算出する非積分器(例えば、後述の非積分器53)と、を備え、前記第1及び第2入力を合算することにより前記トルク電流指令信号を生成し、前記非積分器は、前記制御対象の前記トルク電流指令信号から前記軸トルク検出信号までの入出力特性を模した公称プラント(例えば、後述の公称プラントN)を備える一般化プラント(例えば、後述の一般化プラントP)と、当該一般化プラントの出力に基づいて当該一般化プラントへ入力を与える制御器(例えば、後述のμ制御器K)と、を備えるフィードバック制御系(例えば、後述のフィードバック制御系8)において、所定の設計条件を満たすようにコンピュータによって設計された前記制御器を備える。前記一般化プラントは、前記軸トルク指令信号に相当する第1外乱入力(例えば、後述の第1外乱入力w1)が入力される第1外乱入力ポート(例えば、後述の第1外乱入力ポート81)と、前記第1外乱入力と前記公称プラントの出力との偏差入力を積分し、前記指定値の積分ゲインを乗算することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部(例えば、後述の積分操作量算出部90)と、前記公称プラントの出力を前記制御器へ入力することにより当該制御器で得られる出力と前記積分操作量とを合算し、前記公称プラントへの入力を生成する合算部(例えば、後述の合算部91)と、前記偏差入力に所定の第1出力重み関数(例えば、後述の第1出力重み関数Ge(s))を乗算したものを第1制御量出力(例えば、後述の第1制御量出力z1)として出力する第1制御量出力ポート(例えば、後述の第1制御量出力ポート84)と、前記制御器の出力に所定の第2出力重み関数(例えば、後述の第2出力重み関数Gip(s))を乗算したものを第2制御量出力(例えば、後述の第2制御量出力z2)として出力する第2制御量出力ポート(例えば、後述の第2制御量出力ポート85)と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
(1)本発明は、ダイナモメータ、インバータ、及び軸トルク検出器を備える試験システムを制御対象とした軸トルク制御器の設計方法に関する。この軸トルク制御器は、軸トルク指令信号と軸トルク検出信号の偏差を積分し、さらに所定の指定値の積分ゲインを乗算することにより第1入力を算出する積分器と、軸トルク検出信号に基づいて第2入力を算出する非積分器と、これら第1及び第2入力に基づいてトルク電流指令信号を生成するトルク電流指令生成器と、を備える。また本発明では、制御対象の入出力特性を模した公称プラントを備える一般化プラントと、制御器と、を備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすような制御器をコンピュータによって設計する設計工程と、この設計工程を経て得られる制御器を非積分器として軸トルク制御器に実装する実装工程と、を経て軸トルク制御器を設計する。このように軸トルク制御器は、指定値の積分ゲインの下で積分演算を行う積分器を備えるが、非積分器を従来の一般化プラントに基づく設計方法によって設計すると、積分器及び非積分器を合せた軸トルク制御器全体における積分要素の積分ゲインは、上記指定値からずれてしまう場合がある。そこで本発明の設計方法では、一般化プラントに対し、軸トルク指令信号に相当する第1外乱入力が入力される第1外乱入力ポートと、第1外乱入力と公称プラントの出力との偏差入力を積分し、上記指定値の積分ゲインを乗算することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部と、公称プラントの出力を制御器へ入力することによりこの制御器で得られる出力と積分操作量とを合算し、公称プラントへの入力を生成する合算部と、偏差入力に所定の第1出力重み関数を乗算したものを第1制御量出力として出力する第1制御量出力ポートと、制御器の出力に所定の第2出力重み関数を乗算したものを第2制御量出力として出力する第2制御量出力ポートと、を設定する。このように本発明では、設計段階で一般化プラントに軸トルク制御器の積分器に相当する積分操作量算出部を予め組み込んでおくことにより、非積分器には積分要素を極力含まないようにすることができるので、軸トルク制御器全体における積分要素の積分ゲインを指定値に近づけることができる。
【0018】
(2)本発明の設計方法では、一般化プラントにおいて積分操作量算出部(軸トルク制御器における積分器に相当)への偏差入力に乗算する第1出力重み関数、及び一般化において制御器(軸トルク制御器における非積分器に相当)の出力に乗算する第2出力重み関数には、それぞれ積分特性を持たせる。これにより、本発明の設計方法を経て得られる軸トルク制御器全体における積分要素の積分ゲインを指定値に近づけることができる。
【0019】
(3)本発明の設計方法では、一般化プラントに対し、ダイナモメータのトルク制御誤差に相当する第2外乱入力が入力される第2外乱入力ポートを設定し、公称プラントに対し、制御器の出力と、積分操作量と、上記第2外乱入力に所定の第2入力重み関数を乗算したものと、の和を入力する。これにより、積分要素の積分ゲインを指定値に近づけ、かつダイナモメータのトルク制御誤差に対しロバスト性の高い軸トルク制御器を設計することができる。
【0020】
(4)本発明の設計方法では、一般化プラントに対し、軸トルク検出器によるトルク検出誤差に相当する第3外乱入力が入力される第3外乱入力ポートを設定し、積分操作量算出部には、第1外乱入力に第1入力重み関数を乗算したものから、公称プラントの出力と第3外乱入力に第3入力重み関数を乗算したものとの和を減算したものを入力する。これにより、積分要素の積分ゲインを指定値に近づけ、かつ軸トルク検出器のトルク検出誤差に対しロバスト性の高い軸トルク制御器を設計することができる。
【0021】
(5)本発明の設計方法では、一般化プラントに対し、公称プラントの出力に第3出力重み関数を乗算したものを第3制御量出力として出力する第3制御量出力ポートを設定し、この第3出力重み関数をダイナモメータと供試体との間におけるねじり共振周波数を含む周波数帯域において他の周波数帯域よりも大きな重みになるように設定する。これにより、積分要素の積分ゲインを指定値に近づけ、かつダイナモメータと供試体との間におけるねじり共振を抑制する機能を備える軸トルク制御器を設計することができる。
【0022】
(6)本発明は、制御対象の制御出力とこの制御出力に対する指令との偏差を積分し、指令値の積分ゲインを乗算することにより第1入力を算出する積分器と、制御出力に基づいて第2入力を算出する非積分器と、第1及び第2入力に基づいて制御入力を生成し、制御対象に入力する制御入力生成器と、を備えるフィードバック制御器の設計方法に関する。また本発明では、制御対象の入出力特性を模した公称プラントを備える一般化プラントと、制御器と、を備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすような制御器をコンピュータによって設計する設計工程と、この設計工程を経て得られる制御器を非積分器としてフィードバック制御器に実装する実装工程と、を経てフィードバック制御器を設計する。このようにフィードバック制御器は、指定値の積分ゲインの下で積分演算を行う積分器を備えるが、非積分器を従来の一般化プラントに基づく設計方法によって設計すると、積分器及び非積分器を合せたフィードバック制御器全体における積分要素の積分ゲインは、上記指定値からずれてしまう場合がある。そこで本発明の設計方法では、一般化プラントに対し、指令に相当する第1外乱入力が入力される第1外乱入力ポートと、第1外乱入力と公称プラントの出力との偏差入力を積分し、上記指定値の積分ゲインを乗算することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部と、公称プラントの出力を制御器へ入力することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部と、公称プラントの出力を制御器へ入力することによりこの積分器で得られる出力と積分操作量とを合算し、公称プラントへの入力を生成する合算部と、偏差入力に所定の第1出力重み関数を乗算したものを第1制御量出力として出力する第1制御量出力ポートと、制御器の出力に所定の第2出力重み関数を乗算したものを第2制御量出力として出力する第2制御量出力ポートと、を設定する。このように本発明では、設計段階で一般化プラントにフォードバック制御器の積分器に相当する積分操作量算出部を予め組み込んでおくことにより、非積分器には積分要素を極力含まないようにすることができるので、フィードバック制御器全体における積分要素の積分ゲインを指定値に近づけることができる。
【0023】
(7)本発明の試験システムの軸トルク制御器は、上記(1)の設計方法に係る一般化プラントを用いて設計された非積分器を備える。よって本発明によれば、非積分器には積分要素を極力含まないようにすることができるので、軸トルク制御器全体における積分要素の積分ゲインを指定値に近づけることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る軸トルク制御器5を備えるドライブトレインの試験システム1の構成を示す図である。なお
図1には、FF駆動方式の車両のドライブトレインを供試体Wとし、この供試体Wの性能を評価する試験システム1の例を示すが、本発明はこれに限るものではない。供試体Wは、例えばFR駆動方式の車両のドライブトレインとしてもよい。
【0026】
供試体Wは、車両用のドライブトレインであり、完成車に搭載した状態では図示しないエンジンが接続される入力軸SIと、ドライブシャフトである左右の出力軸SO1,SO2と、入力軸SIに入力された動力を増幅して出力軸SO1,SO2に伝達するトルクコンバータTCと、入力軸SIに入力された動力を変速して出力軸SO1,SO2に伝達する変速機TMと、を備える。
【0027】
試験システム1は、供試体Wの入力軸SI側に設けられた入力側ダイナモメータ21、入力側インバータ23、入力側軸トルクメータ25、入力側エンコーダ26、及び軸トルク制御器5と、供試体Wの出力軸SO1,SO2側に設けられた第1出力側ダイナモメータ31、第2出力側ダイナモメータ32、第1出力側インバータ33、第2出力側インバータ34、第1出力側軸トルクメータ35、第1出力側エンコーダ36、第2出力側軸トルクメータ37、第2出力側エンコーダ38、及び出力側制御装置6と、を備える。
【0028】
入力側ダイナモメータ21の出力軸Sの先端側は、供試体Wの入力軸SIに連結されている。入力側インバータ23は、軸トルク制御器5において生成される入力側トルク電流指令信号が入力されると、この入力側トルク電流指令信号に応じた電力を入力側ダイナモメータ21に供給する。これにより入力側ダイナモメータ21は、入力側トルク電流指令信号に応じたトルクを発生する。
【0029】
入力側軸トルクメータ25は、入力側ダイナモメータ21の出力軸Sと供試体Wの入力軸SIとの間の軸トルクに応じた入力側軸トルク検出信号を生成し、軸トルク制御器5へ入力する。入力側エンコーダ26は、入力側ダイナモメータ21の出力軸Sの回転速度(軸の単位時間当たりの回転数)を検出し、この回転速度に応じた入力側速度検出信号を生成し、軸トルク制御器5へ入力する。
【0030】
軸トルク制御器5は、入力側軸トルクメータ25による入力側軸トルク検出信号と、入力側軸トルクメータ25によって検出される軸トルクに対する指令信号に相当する上位軸トルク指令信号と、に基づいて入力側トルク電流指令信号を生成し、この入力側トルク電流指令信号を入力側インバータ23へ入力するフィードバック制御器である。なお上位軸トルク指令信号は、供試体Wに対する試験の内容に応じて図示しない上位コントローラにおいて生成される。これにより軸トルク制御器5は、供試体Wが搭載される完成車におけるエンジンを模擬した駆動トルクを入力側ダイナモメータ21に発生させ、供試体Wの入力軸SIを駆動する。
【0031】
軸トルク制御器5は、上位軸トルク指令信号と入力側軸トルク検出信号との軸トルク偏差(上位軸トルク指令信号−入力側軸トルク検出信号)を抑制するように入力側トルク電流指令信号を生成する軸トルク偏差抑制機能と、出力軸Sと入力軸SIとの間におけるねじり共振を抑制する共振抑制機能との両方の機能を少なくとも備える。これら軸トルク偏差抑制機能及び共振抑制機能を備える軸トルク制御器5は、後に
図2〜
図6等を参照して説明する手順に従って設計されたものが用いられる。
【0032】
第1出力側ダイナモメータ31の出力軸は、供試体Wの出力軸SO1に連結されている。第1出力側インバータ33は、出力側制御装置6によって生成される第1出力側トルク電流指令信号が入力されると、この第1出力側トルク電流指令信号に応じた電力を第1出力側ダイナモメータ31に供給する。これにより第1出力側ダイナモメータ31は、第1出力側トルク電流指令信号に応じたトルクを発生する。第1出力側軸トルクメータ35は、第1出力側ダイナモメータ31の出力軸と供試体Wの出力軸SO1との間の軸トルクに応じた第1出力側軸トルク検出信号を生成し、出力側制御装置6へ入力する。第1出力側エンコーダ36は、第1出力側ダイナモメータ31の出力軸の回転速度を検出し、この回転速度に応じた第1出力側速度検出信号を生成し、出力側制御装置6へ入力する。
【0033】
第2出力側ダイナモメータ32の出力軸は、供試体Wの出力軸SO2に連結されている。第2出力側インバータ34は、出力側制御装置6によって生成される第2出力側トルク電流指令信号が入力されると、この第2出力側トルク電流指令信号に応じた電力を第2出力側ダイナモメータ32に供給する。これにより第2出力側ダイナモメータ32は、第2出力側トルク電流指令信号に応じたトルクを発生する。第2出力側軸トルクメータ37は、第2出力側ダイナモメータ32の出力軸と供試体Wの出力軸SO2との間の軸トルクに応じた第2出力側軸トルク検出信号を生成し、出力側制御装置6へ入力する。第2出力側エンコーダ38は、第2出力側ダイナモメータ32の出力軸の回転速度を検出し、この回転速度に応じた第2出力側速度検出信号を生成し、出力側制御装置6へ入力する。
【0034】
出力側制御装置6は、第1出力側軸トルクメータ35による第1出力側軸トルク検出信号、第1出力側エンコーダ36による第1出力側速度検出信号、第2出力側軸トルクメータ37による第2出力側軸トルク検出信号、及び第2出力側エンコーダ38による第2出力側速度検出信号等の入力信号を用いることにより、第1出力側トルク電流指令信号及び第2出力側トルク電流指令信号を生成し、これらを第1出力側インバータ33及び第2出力側インバータ34へ入力する。これにより出力側制御装置6は、供試体Wが搭載される完成車におけるタイヤ慣性や車体慣性を模擬した負荷やその他供試体Wにかかる負荷を、第1出力側ダイナモメータ31及び第2出力側ダイナモメータ32を介して出力軸SO1,SO2に付与する。
【0035】
試験システム1では、軸トルク制御器5によって供試体Wの入力軸SIを駆動すると同時に、出力側制御装置6によって供試体Wの出力軸SO1,SO2にタイヤ慣性や車体慣性を模擬した負荷やその他供試体Wにかかる負荷を付与することにより、実車の走行状態に近い状態の下で供試体Wの耐久性能や品質等を評価する。
【0036】
次に、以上のような軸トルク偏差抑制機能及び共振抑制機能を備える軸トルク制御器5を設計する手順について、図面を参照しながら説明する。なお以下では、試験システム1のうち供試体Wの入力軸SI側の構成に着目して説明することから、入力側ダイナモメータ21を単にダイナモメータ21といい、入力側インバータ23を単にインバータ23といい、入力側軸トルクメータ25を単に軸トルクメータ25といい、入力側軸トルク検出信号を単に軸トルク検出信号といい、入力側エンコーダ26を単にエンコーダ26といい、入力側速度検出信号を単に速度検出信号といい、入力側トルク電流指令信号を単にトルク電流指令信号という。
【0037】
図2は、軸トルク制御器5の制御回路の構成を示す図である。軸トルク制御器5は、上位軸トルク指令信号と軸トルク検出信号との偏差を算出する偏差演算部51と、偏差演算部51によって算出される偏差に基づいて第1入力を算出する積分器52と、軸トルク検出信号に基づいて第2入力を算出する非積分器53と、第1及び第2入力に基づいてトルク電流指令信号を生成し、インバータ23へ入力するトルク電流指令生成器54と、を備える。
【0038】
偏差演算部51は、上位軸トルク指令信号から軸トルク検出信号を減算することにより偏差を算出する。積分器52は、偏差を積分する積分演算部521と、この積分演算521の出力に、指定値の積分ゲインKiを乗算することにより第1入力を算出する積分ゲイン乗算部522と、を備える。非積分器52は、後に
図3〜
図6等を参照して説明する手順に従って設計されるμ制御器Kが用いられる。トルク電流指令生成器54は、第1入力と第2入力とを合算することにより、トルク電流指令信号を生成する。軸トルク制御器5は、以上のような機能を備える偏差演算部51、積分器52、非積分器53、及びトルク電流指令生成部54を、
図2の回路図に示すような組み合わせでデジタルシグナルプロセッサやマイクロコンピュータ等の入出力ポートを備えるハードウェアに実装することによって構成される。
【0039】
また以上のように構成された試験システム1において、後述のμ制御器Kが実装された軸トルク制御器5は、図示しない上位コントローラから通信を介して送信される上位軸トルク指令信号と、軸トルクメータ25から送信される軸トルク検出信号とが入力されると、トルク電流指令信号を生成し、通信を介してインバータ23へ入力する。ダイナモメータ21と電気的に接続されているインバータ23は、軸トルク制御器5からトルク電流指令信号が入力されると、このトルク電流指令信号に応じたトルクをダイナモメータ21に発生させる。なおこの際に想定される外乱要素は、軸トルクメータ25において軸トルクを計測する際に発生するノイズや、各通信経路における時間の遅れ、インバータ23の制御応答等によるトルク電流指令信号とダイナモメータ21における発生トルクとの間の非線形性のずれ等がある。なお上述の上位軸トルク指令信号は、上述のように軸トルク制御器5とは別の上位コントローラによって生成してもよいし、軸トルク制御器5の内部においてμ制御器K等とは別に構築されたモジュールによって生成してもよい。
【0040】
図3は、軸トルク制御器5の非積分器53を設計する際に用いられるフィードバック制御系8の構成を示す図である。
図3のフィードバック制御系は、試験システム1の入出力特性を模した公称プラントNを備える一般化プラントPと、この一般化プラントPの出力に基づいてこの一般化プラントPに対し入力を与えるμ制御器Kと、を組み合わせることによって構成される。
【0041】
一般化プラントPには、第1外乱入力w1、第2外乱入力w2、及び第3外乱入力w3で構成される入力と、第1制御量出力z1、第2制御量出力z2、第3制御量出力z3、及び第4制御量出力z4で構成される出力とが定義されている。また一般化プラントPとμ制御器Kとの間には、軸トルク検出信号に相当する観測出力yと、トルク電流指令信号に相当する制御入力uと、が定義されている。
【0042】
図4は、非積分器53を設計する際に用いられる一般化プラントPの構成を示す図である。一般化プラントPは、第1外乱入力w1が入力される第1外乱入力ポート81と、第2外乱入力w2が入力される第2外乱入力ポート82と、第3外乱入力w3が入力される第3外乱入力ポート83と、第1制御量出力z1を出力する第1制御量出力ポート84と、第2制御量出力z2を出力する第2制御量出力ポート85と、第3制御量出力z3を出力する第3制御量出力ポート86と、第4制御量出力z4を出力する第4制御量出力ポート87と、制御入力uが入力される制御入力ポート88と、観測出力yを出力する観測出力ポート89と、制御対象である試験システム1の入出力特性を模した公称プラントNと、軸トルク制御器5の積分器52の入出力特性を模した積分操作量算出部90と、軸トルク制御器5のトルク電流指令生成器54の入出力特性を模した合算部91と、軸トルク制御器5の偏差演算部51の入出力特性を模した減算部94と、複数の重み関数Gid(s),Gr(s),Gn(s),Ge(s),Gip(s),Gir(s),Gt(s)と、を備える。
【0043】
公称プラントNは、
図1を参照して説明した試験システム1における入力の1つであるダイナモトルクi1から、試験システム1における出力の1つである伝達トルクt1までの特性を模した入出力特性を備える。
【0044】
ダイナモトルクi1は、試験システム1において、インバータ23に入力されるトルク電流指令信号に基づいて、ダイナモメータ21において発生するトルクに相当する。伝達トルクt1は、試験システム1において、ダイナモメータ21の出力軸Sから供試体Wの入力軸SIへ伝達するトルク、換言すれば出力軸Sと入力軸SIとの間における軸トルクに相当する。なおこの伝達トルクt1は、試験システム1では軸トルクメータ25によって検出される。
【0045】
図5は、公称プラントNの構成を示す図である。
図5に示すように、公称プラントNは、例えば供試体慣性モーメントJw、及びダイナモ慣性モーメントJ1を有する2つの慣性体を、ねじり剛性K1を有する軸体で直列に連結して構成される2慣性系の運動方程式(下記式(1−1)〜(1−3)参照)に基づいて構築される。なお本実施形態では、試験システム1において、出力側ダイナモメータ31,32により出力軸SO1,SO2を介して供試体Wに入力される供試体トルクを無視する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。
【数1】
【0046】
図5及び以下の説明において、“s”はラプラス演算子である。供試体慣性モーメントJwは、試験システム1において供試体Wの慣性モーメントに相当する。ダイナモ慣性モーメントJ1は、試験システム1においてダイナモメータ21の慣性モーメントに相当する。ねじり剛性K1は、試験システム1において供試体Wとダイナモメータ21とを連結する装置のねじり剛性に相当する。また
図5において伝達関数Gtm(s)は、試験システム1において、軸トルクメータ25の応答特性に相当する。また上記式(1−1)〜(1−3)において“ω
1”は、ダイナモメータ21の出力軸Sの回転速度に相当し、“ω
w”は、供試体Wの入力軸SIの回転速度に相当する。
【0047】
公称モデルNは、
図5及び上記式(1−1)〜(1−3)に示すような運動方程式を用いることにより、ダイナモトルクi1に基づいて、伝達トルクt1を生成する。
【0048】
図4に戻り、一般化プラントPには、第1外乱入力w1、第2外乱入力w2、第3外乱入力w3、第1制御量出力z1、第2制御量出力z2、第3制御量出力z3、第4制御量出力z4、制御入力u、及び観測出力yから成る複数の入出力信号が定義されている。これら入出力信号と、
図1の試験システム1との対応関係は以下の通りである。
【0049】
第2外乱入力w2は、第2外乱入力ポート82を介して一般化プラントPへ入力される入力信号である。第2外乱入力w2は、試験システム1においてインバータ23及びダイナモメータ21のトルク制御誤差(トルク電流指令信号とダイナモトルクi1との間のずれ)に相当する外乱入力である。一般化プラントPでは、このような第2外乱入力w2を第2外乱入力ポート82へ入力することにより、トルク制御誤差による影響が評価される。一般化プラントPにおいて、第2外乱入力w2を第2入力重み関数Gid(s)によって重み付けされた信号と後述の合算部91の出力信号とを合算して得られる信号は、ダイナモトルクi1として公称プラントNに入力される。この第2入力重み関数Gid(s)は、インバータ23及びダイナモメータ21におけるトルク制御誤差の周波数特性に応じて設定される。インバータ23の制御応答には上限があることから、トルク制御誤差は、高周波数帯域において大きくなる特性がある。そこで第2入力重み関数Gid(s)は、トルク制御誤差が大きくなる傾向がある高周波数帯域では、低周波数帯域よりも大きな重みになるように設定される。
【0050】
第3外乱入力w3は、第3外乱入力ポート83を介して一般化プラントPへ入力される入力信号である。第3外乱入力w3は、試験システム1において軸トルクメータ25によるトルク検出誤差(軸トルク検出信号と伝達トルクt1とのずれ)に相当する外乱入力である。一般化プラントPでは、このような第3外乱入力w3を第3外乱入力ポート83へ入力することにより、トルク検出誤差による影響が評価される。一般化プラントPにおいて、第3外乱入力w3を第3入力重み関数Gn(s)によって重み付けされた信号と公称プラントNから出力される伝達トルクt1とを合算して得られる信号は、観測出力yとして観測出力ポート89から出力される。この第3外乱入力w3は、軸トルクメータ25によるトルク検出誤差の周波数特性に応じて設定される。より具体的には、トルク検出誤差が大きくなる傾向がある高周波数帯域では、トルク検出誤差が小さくなる傾向がある低周波数帯域よりも大きな重みになるように設定される。
【0051】
第1外乱入力w1は、第1外乱入力ポート81を介して一般化プラントPへ入力される入力信号である。第1外乱入力w1は、試験システム1において上位軸トルク指令信号に相当する外乱入力である。一般化プラントPでは、このような第1外乱入力w1を第1外乱入力ポート81へ入力することにより、上位軸トルク指令信号による影響が評価される。一般化プラントPにおいて、第1外乱入力w1を第1入力重み関数Gr(s)によって重み付けされた信号は、後述の減算部94に入力される。この第1入力重み関数Gr(s)は、例えば定数に設定される。
【0052】
観測出力yは、一般化プラントPから観測出力ポート89へ出力され、μ制御器Kへ入力される信号であり、試験システム1の軸トルク制御器5において非積分器53へ入力される軸トルク検出信号に相当する。この観測出力yは、上述のように第3外乱入力w3を第3入力重み関数Gn(s)によって重み付けされたものと、公称プラントNから出力される伝達トルクt1とを合算することによって算出される。
【0053】
制御入力uは、μ制御器Kから出力され、制御入力ポート88を介して一般化プラントPへ入力される信号であり、試験システム1の軸トルク検出器5において非積分器53から出力される第2入力に相当する。一般化プラントPにおいて、制御入力ポート88を介して入力される制御入力uは、後述の合算部91に入力される。
【0054】
減算部94は、軸トルク制御器5において偏差演算部51に相当する。減算部94は、第1外乱入力w1を第1入力重み関数Gr(s)で重み付けした信号から、観測出力yを減算することによって偏差入力を算出し、積分操作量算出部90へ入力する。
【0055】
積分操作量算出部90は、軸トルク制御器5において積分器52に相当する。積分操作量算出部90は、減算部94によって算出される偏差入力を積分するとともに、軸トルク制御器5の積分ゲイン乗算部522と同じ指定値の積分ゲインKiを乗算することによって積分操作量を算出し、合算部91へ入力する。
【0056】
合算部91は、軸トルク制御器5においてトルク電流指令生成器54に相当する。合算部91は、上述のようにトルク検出誤差を含む観測出力yをμ制御器Kへ入力することによりこのμ制御器で得られる制御入力uと、積分操作量算出部90によって算出される積分操作量とを合算することにより、公称プラントNへの入力信号を生成する。この合算部91の出力信号は、試験システム1において軸トルク制御器5によって生成されるトルク電流指令信号に相当する。上述のように合算部91の出力信号と第2外乱入力w2を第2入力重み関数Gid(s)で重み付けした信号とを合算したものは、ダイナモトルクi1として公称プラントNに入力される。
【0057】
第1制御量出力z1は、第1制御量出力ポート84を介して一般化プラントPから出力される出力信号である。第1制御量出力z1は、軸トルク制御器5において積分器52に入力される偏差入力(上位軸トルク指令信号−軸トルク検出信号)に相当する。一般化プラントPにおいて、第1制御量出力z1は、積分操作量算出部90に入力される偏差入力に第1出力重み関数Ge(s)を乗算することによって算出される。一般化プラントPでは、このような第1制御量出力z1を第1制御量出力ポート84から出力することにより、積分器52への偏差入力を評価することができる。この第1出力重み関数Ge(s)は、軸トルク偏差抑制機能を備える軸トルク制御器5が得られるように、積分特性を有するように設定される。
【0058】
第2制御量出力z2は、第2制御量出力ポート85を介して一般化プラントPから出力される出力信号である。第2制御量出力z2は、軸トルク制御器5において非積分器53から出力される第2入力に相当する。一般化プラントPにおいて、第2制御量出力z2は、μ制御器Kから出力される制御入力uに第2出力重み関数Gip(s)を乗算することによって算出される。一般化プラントPでは、このような第2制御量出力z2を第2制御量出力ポート85から出力することにより、非積分器53からの第2入力を評価することができる。この第2出力重み関数Gip(s)は、μ制御器Kが非積分器53として組み込まれた軸トルク制御器5全体における積分要素の積分ゲインが、積分器52の積分ゲインKiと等しくなるように、積分特性を有するように設定される。
【0059】
第3制御量出力z3は、第3制御量出力ポート86を介して一般化プラントPから出力される出力信号である。第3制御量出力z3は、試験システム1において伝達トルクt1に相当する。一般化プラントPにおいて、第3制御量出力z3は、公称プラントNから出力される伝達トルクt1に第3出力重み関数Gt(s)を乗算することによって算出される。一般化プラントPでは、このような第3制御量出力z3を第3制御量出力ポート86から出力することにより、伝達トルクt1を評価することができる。この第3出力重み関数Gt(s)は、共振抑制機能を備える軸トルク制御器5が得られるように、供試体Wとダイナモメータ21とを連結する装置における共振特性に基づいて設定される。より具体的には、第3出力重み関数Gt(s)は、供試体Wとダイナモメータ21とを連結する装置におけるねじり共振周波数帯域において、他の周波数帯域よりも大きな重みになるように設定される。
【0060】
第4制御量出力z4は、第4制御量出力ポート87を介して一般化プラントPから出力される出力信号である。第4制御量出力z4は、試験システム1において軸トルク制御器5から出力されるトルク電流指令信号に相当する。一般化プラントPにおいて、第4制御量出力z4は、合算部91の出力信号に第4出力重み関数Gir(s)を乗算することによって算出される。一般化プラントPでは、このような第4制御量出力z4を第4制御量出力ポート87から出力することにより、軸トルク制御器5のトルク電流指令信号を評価することができる。この第4出力重み関数Gir(s)は、例えば、高周波数帯域において低周波数帯域よりも大きな重みになるように設定される。
【0061】
図6は、一般化プラントPに基づいて軸トルク制御器5を設計する手順を示すフローチャートである。
【0062】
始めにS1では、コンピュータを用いて、公称プラントNと、各種入力(w1〜w3,u)と、各種出力(z1〜z4,y)と、各種ポート81〜89と、重み関数Gid(s),Gr(s),Gn(s),Ge(s),Gip(s),Gir(s),Gt(s)と、積分操作量算出部90と、合算部91と、減算部94と、を設定することにより、
図3及び
図4を参照して説明したような一般化プラントPを構築する。
【0063】
次にS2では、一般化プラントPとμ制御器Kとを組み合わせて構成されるフィードバック制御系8において、ロバスト安定性が実現するように定められた所定の設計条件が満たされるように、コンピュータによってμ制御器Kを設計する。より具体的には、このようなμ制御器Kは、例えばコンピュータ上でD−Kイタレーション法に基づく反復演算を行うことによって導出される。
【0064】
次にS3では、S2で得られたμ制御器Kを非積分器53とし、偏差演算部51と、積分器52と、非積分器53と、トルク電流指令生成部54と、を
図2の回路図に示すような組み合わせで入出力ポートを備えるハードウェアに実装することによって、軸トルク制御器5を設計する。
【0065】
次に、本実施形態の設計方法に基づいて設計される軸トルク制御器5の特性について、比較例の軸トルク制御器の特性と比較しながら説明する。ここで比較例の軸トルク制御器とは、非特許文献1に記載された制御器設計方法に基づいて設計されたものをいう。なおこの比較例の軸トルク制御器に軸トルク偏差抑制機能を持たせるため、一般化プラントには、積分特性を備える重み関数によって重み付けした軸トルク偏差を出力する制御量出力ポートを設定した。
【0066】
図7は、各軸トルク制御器における軸トルク偏差に対するトルク電流指令信号の特性を示すボード線図である。
図7において太線は比較例の軸トルク制御器の特性を示す。また
図7において太破線は軸トルク制御器に対し要求される理想的な積分器の特性を示す。また
図7において細線は、
図2の積分器52の積分ゲインKi及び
図4の一般化プラントPの積分ゲインKiの指定値を、太破線で示す理想的な積分器の積分ゲインの値と等しく設定した上で、
図2〜
図6を参照して説明した手順に従って設計された本実施形態に係る軸トルク制御器5の特性を示す。
【0067】
上述のように非特許文献1に記載された制御器設計方法では、最終的に得られる軸トルク制御器の積分ゲインの値を設計段階で指定することができない。このため、
図7に示すように比較例の軸トルク制御器の積分ゲインは、理想的な積分器の積分ゲインと一致しない。
【0068】
これに対し本実施形態の設計方法では、設計段階で積分器52の積分ゲインKi及び一般化プラントPの積分ゲインKiの指定値を理想的な積分器の積分ゲインの値と等しくすることにより、最終的に得られる軸トルク制御器5の積分ゲインの値を設計段階で設定した指定値に近づけることができる。このため
図7に示すように、本実施形態の設計方法によれば、軸トルク制御器5の積分ゲインの値を理想的な積分器の積分ゲインの値に近づけることができる。
【0069】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0070】
例えば上記実施形態では、本発明に係る軸トルク制御器の設計方法を、車両のドライブトレインを供試体Wとしたドライブトレインの試験システム1において、供試体Wの入力軸SIに接続される入力側ダイナモメータ21を制御する軸トルク制御器5に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明に係る軸トルク制御器の設計方法は、ドライブトレインの試験システム1において、供試体Wの出力軸SO1に接続される第1出力側ダイナモメータ31や出力軸SO2に接続される第2出力側ダイナモメータ32を制御する軸トルク制御器に適用してもよい。
【0071】
また上記実施形態では、本発明に係る軸トルク制御器の設計方法を、車両のドライブトレインを供試体Wとしたドライブトレインの試験システム1を制御対象とする軸トルク制御器に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明に係る軸トルク制御器の設計方法は、車両のエンジンを供試体としたエンジンの試験システム(所謂、エンジンベンチシステム)を制御対象とする軸トルク制御器に適用してもよい。
【0072】
また上記実施形態では、本発明に係るフィードバック制御器の設計方法を、試験システム1を制御対象とした軸トルク制御器に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明に係るフィードバック制御器の設計方法は、何らかの制御入力が入力されると何らかの制御出力を発生するものを制御対象としたフィードバック制御器であって、制御対象の制御出力とこの制御出力に対する指令との偏差を積分し、指定値の積分ゲインを乗算することにより第1入力を算出する積分器と、制御対象の制御出力に基づいて第2入力を算出する非積分器と、第1及び第2入力に基づいて制御入力を生成し、制御対象に入力する制御入力生成器と、を備えるフィードバック制御器に適用してもよい。
【解決手段】設計方法は、公称プラントNを備える一般化プラントP及びμ制御器Kを備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすようなμ制御器Kをコンピュータによって設計する設計工程を備える。設計工程では、第1外乱入力ポート81と、第1外乱入力と公称プラントNの出力との偏差入力を積分し、指定値の積分ゲインKiを乗算することにより積分操作量を算出する積分操作量算出部90と、μ制御器Kの出力と積分操作量とを合算し公称プラントNへの入力を生成する合算部91と、偏差入力に第1出力重み関数Ge(s)を乗算したものを第1制御量出力z1として出力する第1制御量出力ポート84と、μ制御器Kの出力に第2出力重み関数Gip(s)を乗算したものを第2制御量出力z2として出力する第2制御量出力ポート85と、を設定する。