(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回路層の前記回路パターンの端部の断面形状において、前記Cu−Sn層の端面の延長上に前記Ti含有層の端面が位置していることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【背景技術】
【0002】
LEDやパワーモジュール等の半導体装置は、導電材料からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造とされている。
風力発電、電気自動車等の電気車両などを制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子においては、発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、例えばAlN(窒化アルミ)などからなるセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を回路層として接合したパワーモジュール用基板が、従来から広く用いられている。また、セラミックス基板の他方の面に、金属板を金属層として接合することもある。
【0003】
例えば、特許文献1に示すパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面に、Cu板を接合することで回路層が形成された構造とされている。このパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面に、Cu−Mg−Tiろう材を介在させてCu板を配置し、加熱処理を行うことによりCu板が接合されている。
ところで、特許文献1に開示されたようにCu−Mg−Tiろう材を介してセラミックス基板とCu板とを接合すると、セラミックス基板の近傍には、Cu、Mg、又はTiを含む金属間化合物が形成される。
【0004】
このセラミックス基板近傍に形成される金属間化合物は硬いため、パワーモジュール用基板に冷熱サイクルが負荷された際にセラミックス基板に発生する熱応力が大きくなり、セラミックス基板にクラックが生じ易くなる問題があった。
また、セラミックス基板と回路層を接合する際に、セラミックス基板の近傍に硬い金属間化合物が形成されると、セラミックス基板と回路層との接合率が低下し、良好に接合することができないおそれがあった。
【0005】
そこで、例えば特許文献2,3には、セラミックス基板と回路層となる銅板とを、Cu−P−Sn系ろう材及びTi材を用いて接合したパワーモジュール用基板が提案されている。
これら特許文献2,3に記載された発明においては、セラミックス基板側にCu−Sn層が形成され、このCu−Sn層の上にTiを含む金属化合物層が形成されることになり、セラミックス基板の近傍に硬い金属間化合物層が配設されないことから、冷熱サイクルを負荷した際にセラミックス基板に生じる熱応力を低減でき、セラミックス基板にクラックが発生することを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、「ろう材(brazing filler material)」は必ずしも鉛を含む材料に限定されない。
図1に、本実施形態に係るパワーモジュール用基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、回路層12及び金属層13が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板10の他方側(
図1において下側)に接合層32を介して接合されたヒートシンク30と、を備えている。
【0015】
パワーモジュール用基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0016】
セラミックス基板11は、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)、Si
3N
4(窒化ケイ素)、Al
2O
3(アルミナ)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、放熱性の優れたAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0017】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、導電性を有するCu又はCu合金からなるCu板22が接合されることにより形成されている。
本実施形態において、回路層12は、
図6に示すように、セラミックス基板11の一方の面にCu−P−Sn系ろう材24、Ti材25、無酸素銅からなるCu板22を積層して加熱処理し、セラミックス基板11にCu板22を接合することで形成されている。なお、本実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材24として、Cu−P−Sn−Niろう材を用いている。
ここで、回路層12の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
【0018】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、Cu又はCu合金からなるCu板23が、Cu−P−Sn系ろう材24を介して接合されることにより形成されている。本実施形態においては、
図6に示すように、金属層13は、セラミックス基板11の他方の面にCu−P−Sn系ろう材24、Ti材25、無酸素銅からなるCu板23を積層して加熱処理し、セラミックス基板11にCu板23を接合することで形成されている。なお、本実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材24として、Cu−P−Sn−Niろう材を用いている。
ここで、金属層13の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
【0019】
図2に、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面の概略説明図を示す。セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面には、
図2に示すように、セラミックス基板11側に位置するCu−Sn層14と、Tiを含有するTi含有層15とが積層された構造とされている。本実施形態では、Ti含有層15は、Ti及びPを含有する第1金属間化合物層16と、Ti層18と、CuとTiを含有する第2金属間化合物層17と、が積層された構造とされている。Cu−Sn層14ではSnがCu中に固溶している。第1金属間化合物層16は主にTiとPとで構成され、Ti層18は主にTiで構成され、第2金属間化合物層17は主にCuとTiで構成されるが、これらの層はその他の元素を含んでも良い。
【0020】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。
【0021】
ヒートシンク30は、前述のパワーモジュール用基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク30は、Cu又はCu合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク30には、冷却用の流体が流れるための流路31が設けられている。なお、本実施形態においては、ヒートシンク30と金属層13とが、はんだ材からなる接合層32を介して接合されている。
【0022】
そして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10の回路層12には、エッチング処理することによって回路パターンが形成されている。
この回路層12の回路パターンの端部の断面形状においては、セラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面とがなす角度θが80°以上100°以下の範囲内とされている。また、Cu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さL(回路層12の端面から突出するCu−Sn層14及びTi含有層15の長さの最大値)が2μm以上15μm以下の範囲内とされている。
ここで、回路パターンの端部とは、回路パターンに含まれる配線の一端部である。回路パターンの端部の断面形状とは、セラミックス基板11の表面に垂直であり、回路パターンの端部における配線の伸長方向に平行な断面における回路パターンの端部の形状である。角度θを求める際、当該断面におけるセラミックス基板11とCu−Sn層14との接合端と、接合端から水平方向に20μmまでの範囲内におけるセラミックス基板11表面の凹凸の最高点と最低点との中点とを結ぶ直線をセラミックス基板11の表面と定義する。最大突出長さLは、上記断面における回路層12の端面のTi含有層15側端から、回路層12の端面から突出したCu−Sn層14の端面及びTi含有層15の端面までの、セラミックス基板11の表面に平行な方向における長さの最大値である。角度θ及び最大突出長さLを上記範囲内とすることによる後述の効果を得るために、回路パターンに含まれる少なくとも1つの配線の一端部において角度θ及び最大突出長さLが上記範囲に含まれることが好ましく、両端部において角度θ及び最大突出長さLが上記範囲に含まれることがより好ましく、回路パターンの全ての配線の両端部において角度θ及び最大突出長さLが上記範囲に含まれることがさらに好ましい。
【0023】
回路層12の回路パターンの端部の断面形状の具体例について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0024】
図3(a)においては、回路パターンの端部においてセラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面とがなす角度θがほぼ90°(88°≦θ≦92°)とされ、Cu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さLが15μm以内とされている。なお、
図3(b−1)は、SEMによる観察画像であり、
図3(b−2)は
図3(b−1)の回路パターン端部付近を拡大したものである。
図3(b−2)からわかるように、回路層12の端面から突出した部分においても、Ti含有層15が観察される。
【0025】
図3(c)においては、回路パターンの端部においてセラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面とがなす角度θが90°を超えて100°以下の範囲とされ、Cu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さLが15μm以内とされている。また、Cu−Sn層14の端面の延長上にTi含有層15の端面が位置している。
【0026】
図4(a)においては、回路パターンの端部においてセラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面とがなす角度θが90°を超えて100°以下の範囲とされ、Cu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さLが15μm以内とされている。また、Ti含有層15の端面が、Cu−Sn層14の端面よりも外側(回路層12の端面から離間する方向)に突出している。
【0027】
図4(b)においては、回路パターンの端部においてセラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面とがなす角度θが80°以上90°未満の範囲とされ、Cu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さLが15μm以内とされている。また、Ti含有層15の端面が、Cu−Sn層14の端面よりも外側に突出している。
【0028】
図4(c)においては、回路パターンの端部においてセラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面とがなす角度θが90°を超えて100°以下の範囲とされ、Cu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さLが15μm以内とされている。また、Cu−Sn層14の端面が、Ti含有層15の端面よりも外側に突出している。
【0029】
ここで、
図3(a)、
図3(c)に示す形状においては、Cu−Sn層14の端面の延長上にTi含有層15の端面が位置しており、これらの界面に電荷が集中しにくく、部分放電特性及び耐電圧特性の悪化を十分に抑制することができる。
なお、
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)のような形状であっても、セラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面とがなす角度θが80°以上100°以下の範囲内、且つCu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さLが2μm以上15μm以下の範囲内とされていれば、部分放電特性及び耐電圧特性の悪化を抑制する効果を奏することができる。
角度θは85°以上95°以下が好ましく、88°以上92°以下がより好ましいが、これに限定されない。また、最大突出長さLは10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましいが、これに限定されない。
【0030】
次に、本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法について、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0031】
(積層工程S01)
まず、
図6に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図6において上面)に、Cu−P−Sn系ろう材24、Ti材25、及び回路層12となるCu板22を順に積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(
図6において下面)に、Cu−P−Sn系ろう材24、Ti材25、及び金属層13となるCu板23を順に積層する(
図6(a))。すなわち、セラミックス基板11とCu板22及びCu板23の間において、セラミックス基板11側にCu−P−Sn系ろう材24を配置し、Cu板22,23側にTi材25を配置している。なお、Ti材25とCu板22、23との接合面は、予め平滑な面とされている。
【0032】
本実施形態においては、Cu−P−Sn系ろう材24の組成は、Cu−6.3mass%P−9.3mass%Sn−7mass%Niとされており、その固相線温度(溶融開始温度)は600℃とされている。また、本実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材24として箔材を用い、その厚さは、5μm以上150μm以下の範囲内とされている。
【0033】
また、Ti材25の厚さは、0.4μm以上5μm以下の範囲内とされている。ここで、Ti材25は、厚さが0.4μm以上1μm未満の場合には蒸着やスパッタによって成膜することが好ましく、厚さが1μm以上5μm以下の場合には箔材を用いることが好ましい。なお、Ti材25の厚さの下限は0.4μm以上とすることが好ましく0.5μm以上とすることがさらに好ましい。Ti材25の厚さの上限は1.5μm以下とすることが好ましく、0.7μm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態においては、Ti材25として、厚さ1μm、純度99.8mass%のTi箔を用いる。
【0034】
(加熱処理工程S02)
次に、Cu板22、Ti材25、Cu−P−Sn系ろう材24、セラミックス基板11、Cu−P−Sn系ろう材24、Ti材25、及びCu板23を、積層方向に加圧(圧力1kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(0.10MPa以上3.43MPa以下))した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱する(
図6(b))。ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は560℃以上650℃以下の範囲内に、加熱時間は30分以上360分以下の範囲に設定している。
【0035】
この加熱処理工程S02においては、Ti材25とCu板22、23とが固相拡散接合によって接合されるとともに、Cu−P−Sn系ろう材24が溶融して液相を形成し、この液相が凝固することにより、Cu−P−Sn系ろう材24を介して、セラミックス基板11とTi材25とが接合される。このとき、回路層12及び金属層13とセラミックス基板11との接合界面に、Cu−Sn層14及びTi含有層15が形成される。
これにより、セラミックス基板11の一方の面に回路層12が形成されるとともに、他方の面に金属層13が形成される。
【0036】
(回路パターン形成工程S03)
次に、回路層12に対してエッチング処理を行い、回路パターンを形成する。
本実施形態では、まず、回路層の上にレジスト膜を成膜し、Cu又はCu合金からなる回路層12をエッチングする(Cuエッチング工程S31)。このCuエッチング工程S31においては、例えば、塩化第二鉄、塩化第二銅、硫酸等を含むエッチング剤を用いることが好ましい。なお、本実施形態では、Cuエッチング工程S31においては、スプレーエッチング法を用いている(
図6(c))。
【0037】
上述のCuエッチング工程S31の後に、Ti含有層15をエッチングする(Tiエッチング工程S32)。このTiエッチング工程S32においては、例えば、過酸化水素水に有機酸アンモニウムを添加したエッチング剤を用いることが好ましい。例えば、エッチング剤として、昭和電工社製ソルファイン(SE−TW−10)を用いることができる。
なお、エッチングの条件として、液温は70℃〜80℃、時間は5分〜20分とするとよい。なお、本実施形態では、Tiエッチング工程S32においては、浸漬エッチング法を用いている(
図6(d))。
【0038】
そして、Tiエッチング工程S32の後に、Cu−Sn層14をエッチングする(Cu−Snエッチング工程S33)。このCu−Snエッチング工程S33においては、例えば、ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液を用いることができる。エッチングの条件として、液温は25℃(常温)、時間は10分〜20分とするとよい。なお、本実施形態では、Cu−Snエッチング工程S33においては、浸漬エッチング法を用いている(
図6(e))。
【0039】
この回路パターン形成工程S03により、回路層12に回路パターンが形成されるとともに、回路パターンの端部の断面形状において、セラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面がなす角度θが80°以上100°以下の範囲内とされ、Cu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さLが2μm以上15μm以下の範囲内とされる。なお、エッチングによって最大突出長さLを2μm未満とすることは困難である。
以上のような工程によって、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0040】
(ヒートシンク接合工程S04)
そして、
図7に示すように、このパワーモジュール用基板10の金属層13の下面に、接合層32としてはんだ材を介してヒートシンク30を接合する(
図7(a))。
【0041】
(半導体素子接合工程S05)
次に、
図7に示すように、パワーモジュール用基板10の回路層12の上面に、はんだ材を介して半導体素子3を接合する(
図7(b)、(c))。
これにより、
図1に示すパワーモジュール1が製造される。
【0042】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10によれば、Cu又はCu合金からなる回路層12に回路パターンが形成されており、この回路層12の回路パターンの端部の断面形状において、セラミックス基板11の表面とCu−Sn層14の端面とがなす角度θが80°以上100°以下の範囲内とされているので、回路パターンの端部に鋭角形状となる箇所が形成されず、電荷が集中することを抑制できる。これにより、部分放電特性及び耐電圧特性の悪化を抑制することが可能となる。
【0043】
また、Cu−Sn層14又はTi含有層15の回路層12の端面からの最大突出長さLが2μm以上15μm以下の範囲内とされているので、突出部分の先端に電荷が集中することを抑制することができ、部分放電特性及び耐電圧特性の悪化を抑制することが可能となる。
【0044】
さらに、本実施形態では、
図3(c)に示すように、回路層12の回路パターンの端部の断面形状において、Cu−Sn層14の端面の延長上にTi含有層15の端面が位置している場合には、Cu−Sn層14とTi含有層15とが滑らかに接続されることになり、Cu−Sn層14とTi含有層15との界面において電荷が集中することを抑制でき、部分放電特性及び耐電圧特性の悪化をさらに抑制することが可能となる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、セラミックス基板の他方の面に、Cu又はCu合金からなる金属層を形成したもので説明したが、これに限定されることはなく、金属層を形成しなくてもよいし、Al又はAl合金からなる金属層を形成してもよい。
【0046】
具体的には、
図8に示すように、セラミックス基板11の一方の面にCu又はCu合金からなる回路層12を形成し、セラミックス基板11の他方の面にAl又はAl合金からなる金属層113を形成したパワーモジュール用基板110であってもよい。このパワーモジュール用基板110に、流路131を備えるヒートシンク130と半導体素子3とを接合することによって、
図8に示すパワーモジュール101が構成される。
【0047】
なお、このパワーモジュール用基板110においては、セラミックス基板11の一方の面にCu−P−Sn系ろう材及びTi材を用いて銅板を接合して回路層12を形成する工程と、セラミックス基板11の他方の面にろう材を用いてAl又はAl合金からなるAl板を接合する工程とを同時に行うことができる。さらに、Al製のヒートシンク130を用いる場合には、金属層113とヒートシンク130とをろう付けする工程も同時に行うことができる。
【0048】
また、ヒートシンクの材質や構造は、本実施形態に限定されることはなく、適宜設計変更してもよいし、ヒートシンクを有していなくてもよい。
さらに、本実施形態では、パワーモジュール用基板とヒートシンクとをはんだ材を用いて接合する構成として説明したが、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの間にグリースを介してネジ止めなどによって固定する構成とされても良い。
【0049】
また、Cuエッチング工程S31、Tiエッチング工程S32、Cu−Snエッチング工程S33において、それぞれ使用されるエッチング剤は、本実施形態において例示したものに限定されることはなく、回路層の材質及び構造、Ti含有層の材質及び構造、Cu−Sn層の材質及び構造等によって、それぞれに適したエッチング剤を選択して使用することが好ましい。
【0050】
また、上記実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材の箔材を用いたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、粉末やペーストを用いることもできる。
さらに、上記実施形態ではCu−P−Sn系ろう材として、Cu−P−Sn−Niろう材やCu−P−Snろう材を用いるものとして説明したが、その他のCu−P−Sn系ろう材を用いてもよい。
【0051】
ここで、Cu−P−Sn系ろう材のPの含有量は、3mass%以上10mass%以下とされていることが好ましい。
Pは、ろう材の溶融開始温度を低下させる作用効果を有する元素である。また、このPは、Pが酸化することで発生するP酸化物により、ろう材表面を覆うことでろう材の酸化を防止するとともに、溶融したろう材の表面を流動性の良いP酸化物が覆うことでろう材の濡れ性を向上させる作用効果を有する元素である。
Pの含有量が3mass%未満では、ろう材の溶融開始温度を低下させる効果が十分に得られずろう材の溶融開始温度が上昇したり、ろう材の流動性が不足し、セラミックス基板と回路層との接合性が低下したりするおそれがある。また、Pの含有量が10mass%超では、脆い金属間化合物が多く形成され、セラミックス基板と回路層との接合性や接合信頼性が低下するおそれがある。
このような理由からCu−P−Sn系ろう材に含まれるPの含有量は、3mass%以上10mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0052】
また、Cu−P−Sn系ろう材のSnの含有量は、0.5mass%以上25mass%以下とされていることが好ましい。
Snは、ろう材の溶融開始温度を低下させる作用効果を有する元素である。Snの含有量が0.5mass%以上では、ろう材の溶融開始温度を確実に低くすることができる。
また、Snの含有量が25mass%以下では、ろう材の低温脆化を抑制することができ、セラミックス基板と回路層との接合信頼性を向上させることができる。
このような理由からCu−P−Sn系ろう材におけるSnの含有量は、0.5mass%以上25mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0053】
また、Cu−P−Sn系ろう材は、Ni、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上を2mass%以上20mass%以下含有していても良い。
Ni、Cr、Fe、Mnは、セラミックス基板とろう材との界面にPを含有する金属間化合物が形成されることを抑制する作用効果を有する元素である。
Ni、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上の含有量が2mass%以上では、セラミックス基板とろう材との接合界面にPを含有する金属間化合物が形成されることを抑制することができ、セラミックス基板と回路層との接合信頼性が向上する。また、Ni、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上の含有量が20mass%以下では、ろう材の溶融開始温度が上昇することを抑制し、ろう材の流動性が低下することを抑え、セラミックス基板と回路層との接合性を向上させることができる。
このような理由からCu−P−Sn系ろう材にNi、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上を含有させる場合、その含有量は2mass%以上20mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【実施例】
【0054】
<実施例>
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
上述の実施形態で説明した手順により、表1及び表2に示すセラミックス基板(50mm×60mm×厚さ0.635mm(AlN),50mm×60mm×厚さ0.32mm(Si
3N
4))の一方の面及び他方の面に、表1及び表2に示すCu板(46mm×56mm×厚さ0.3mm)を接合し、回路層及び金属層を形成した。Cu板として、無酸素銅(表1、2の「OFC」)又はタフピッチ銅(表1、2の「タフピッチ」)を用いた。厚さ25μmのCu−P−Sn系ろう材を用いた。
そして、回路層に対して上記実施形態に記載したエッチング処理を行うことにより、配線間距離が500μmの回路パターンを形成した。詳細には、Cuエッチング工程S31においては、エッチング剤として塩化鉄を用い、液温50〜70℃で、5〜15分間スプレーエッチングを行った。Tiエッチング工程S32においては、エッチング剤として昭和電工社製ソルファイン(SE−TW−10)を用い、エッチング剤の液温を70〜80℃として5〜20分間浸漬エッチングを行った。Cu−Snエッチング工程S33においては、エッチング剤として濃度1mol/dm
3のペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液を用い、エッチング剤の液温を25℃として10〜20分間浸漬エッチングを行った。
【0055】
そして、得られたパワーモジュール用基板について、回路パターンの端部の断面観察を行い、セラミックス基板の表面とCu−Sn層の端面とがなす角度θ、Cu−Sn層又はTi含有層の回路層の端面からの最大突出長さLを測定した。なお、表1及び表2に記載した形態は、図面のうち、どの形態であるかを示している。
断面観察は、回路層の断面(セラミックス基板の表面に垂直且つ回路パターンの端部における配線の伸長方向に平行な断面)をクロスセクションポリッシャ(日本電子株式会社製SM−09010)を用いて、イオン加速電圧:5kV、加工時間:14時間、遮蔽板からの突出量:100μmでイオンエッチングした後に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて回路パターンの端部を観察した。
【0056】
また、得られたパワーモジュール用基板について、耐電特性の評価として、各パワーモジュール用基板を絶縁油(3M社製フロリナートFC−770)に浸漬して、5秒間で0.5kV昇圧し、その後、30秒保持するサイクルを繰り返し、保持中に放電電荷量が10pCを超した時の電圧を部分放電開始電圧とし、部分放電特性を評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
セラミックス基板としてAlNを用いた表1の結果において、セラミックス基板の表面とCu−Sn層の端面とがなす角度θが80°以上100°以下の範囲内であり、Cu−Sn層又はTi含有層の前記回路層の端面からの最大突出長さLが2μm以上15μm以下の範囲内であった本発明例では、部分放電開始電圧が高く、部分放電特性及び耐電圧特性のよいパワーモジュール用基板が得られることが分かった。
セラミックス基板としてSi
3N
4を用いた、表2の結果においても、AlNを用いた場合と同様であった。