(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1抗TAT抗体がアンチトロンビン側に結合してTATを認識する抗体であり、前記第2抗TAT抗体がトロンビン側に結合してTATを認識する抗体である、請求項1または2に記載のTAT測定試薬。
前記第1抗TAT抗体が、アンチトロンビン側に結合してTATを認識する抗体であって、TATに対する反応性が遊離アンチトロンビンに対する反応性の100倍以上である抗体であり、前記第2抗TAT抗体が、トロンビン側に結合してTATを認識する抗体である、請求項5または6に記載のTAT測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1に記載されたように、ラテックス凝集法によるTATの測定では、アンチトロンビン側に結合してTATを認識する抗体、およびトロンビン側に結合してTATを認識する抗体の2種類の抗体が使用される。そして、原理的にはTATが存在するときのみに両抗体が結合してラテックス凝集が起こり、TATの定量が可能となる。
しかしながら、特許文献6,7で用いられているようなTATのアンチトロンビン部分に反応してTATに対する反応がアンチトロンビンに対する反応の100倍以上のモノク
ローナル抗体を用いても、DICの治療などで用いられるアンチトロンビン製剤中の物質の影響で非特異的な反応が生じ、不正確な測定結果となることがあることが本発明者らの検討によってわかった。これはおそらくアンチトロンビン製剤中に変性したアンチトロンビンの多量体が存在することに起因すると考えられる。このようなアンチトロンビン多量体は通常のアンチトロンビンに比べよりTATを形成した際のアンチトロンビンの構造に近いと考えられ、さらに多量体を形成していることにより、TATに対する反応性がアンチトロンビンに対する反応性の100倍以上のモノクローナル抗体によって認識され、それ単独で凝集が生じ、これが非特異反応として本反応に上乗せされてしまうと考えられた。このようなアンチトロンビン多量体による非特異的反応はB/F分離が可能な測定法では生じない問題であり、本発明者が初めて発見したラテックス凝集法を用いたTAT測定試薬に特有の問題である。
なお、従来ラテックス凝集法によるTAT測定試薬におけるアンチトロンビンの影響回避法としては特許文献1、2のような方法が知られているが、アンチトロンビン製剤により非特異的凝集が引き起こされること、およびその回避策については何ら示唆されていない。
したがって、本発明の課題は、B/F分離や洗浄作業を必須としないラテックス凝集法を用いた、生体試料中のTATの測定試薬および測定方法において、アンチトロンビンの影響を回避して正確にTATの測定を行うことのできる試薬及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者は、TATのアンチトロンビン部分に反応し、TATに反応するモノクローナル抗体を吸着したラテックス粒子と抗トロンビンモノクローナル抗体を吸着したラテックス粒子を用いた凝集反応の検出値から、TATのアンチトロンビン部分に反応し、TATに反応するモノクローナル抗体を吸着したラテックス粒子のみの凝集反応の検出値を差し引くことで、アンチトロンビンの影響を回避して正確なTATの測定値が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1] 被検者由来の血液試料中のトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)をラテックス凝集法によって測定するための試薬であって、該試薬が、ラテックス粒子に結合した第1抗TAT抗体を含む第1の試薬と、それぞれラテックス粒子に結合した、第1抗TAT抗体および第2抗TAT抗体を含む第2の試薬とを含み、前記試料を第2の試薬と反応させたときに検出される値から前記試料を第1の試薬と反応させたときに検出される値を差し引くことにより、試料中に含まれるTATの値を測定することを特徴とする、TAT測定試薬。
[2] 被検者由来の血液試料中のトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)をラテックス凝集法によって測定するための試薬であって、該試薬が、ラテックス粒子に結合した第1抗TAT抗体を含む第1の試薬と、ラテックス粒子に結合した第2抗TAT抗体を含む第2の試薬とを含み、前記試料を前記第1の試薬と反応させ、次いで前記第2の試薬と反応させ、前記試料を第2の試薬と反応させたときに検出される値から前記試料を第1の試薬と反応させたときに検出される値を差し引くことにより、試料中に含まれるTATの値を測定することを特徴とする、TAT測定試薬。
[3] 前記被検者由来の血液試料が、アンチトロンビン製剤を投与された患者由来の試料である、[1]又は[2]に記載のTAT測定試薬。
[4] 前記第1抗TAT抗体がアンチトロンビン側に結合してTATを認識する抗体であり、前記第2抗TAT抗体がトロンビン側に結合してTATを認識する抗体である、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のTAT測定試薬。
[5] 前記第1抗TAT抗体が、TATに対する反応性が遊離アンチトロンビンに対する反応性の100倍以上である抗体である、[4]に記載のTAT測定試薬。
[6] 被検者由来の血液試料中のトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)をラテックス凝集法によって測定する方法であって、
ラテックス粒子に結合した第1抗TAT抗体を含む第1の試薬、および、それぞれラテックス粒子に結合した第1抗TAT抗体および第2抗TAT抗体を含む第2の試薬のそれぞれに試料を反応させる工程、並びに、
試料を第2の試薬と反応させたときに検出される値から試料を第1の試薬と反応させたときに検出される値を差し引くことによりTATの値を測定する工程、
を含むことを特徴とする、TAT測定方法。
[7] 被検者由来の血液試料中のトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)をラテックス凝集法によって測定する方法であって、
試料を、ラテックス粒子に結合した第1抗TAT抗体を含む第1の試薬、次いで、ラテックス粒子に結合した第2抗TAT抗体を含む第2の試薬に反応させる工程、並びに、
試料を第2の試薬と反応させたときに検出される値から試料を第1の試薬と反応させたときに検出される値を差し引くことによりTATの値を測定する工程、
を含むことを特徴とする、TAT測定方法。
[8] 前記被検者がアンチトロンビン製剤を投与された患者である、[6]又は[7]に記載のTAT測定方法。
[9] 前記第1抗TAT抗体が、アンチトロンビン側に結合してTATを認識する抗体であって、TATに対する反応性が遊離アンチトロンビンに対する反応性の100倍以上である抗体であり、前記第2抗TAT抗体が、トロンビン側に結合してTATを認識する抗体である、[6]乃至[8]のいずれか一項に記載のTAT測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ラテックス凝集法の試薬により、生体試料中の微量なTATをアンチトロンビンの影響を回避しつつ、正確に測定(定量)することが可能である。これにより、アンチトロンビン製剤投与患者血漿でも正確にラテックス凝集法によるTAT測定が可能になり、DICの治療にも用いられるアンチトロンビン製剤の投与がなされた患者検体中のTATを正確に測定できることは診断上有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のTAT測定試薬は、
被検者由来の血液試料中のTATをラテックス凝集法によって測定するための試薬であって、該試薬がラテックス粒子に結合した第1抗TAT抗体を含む第1の試薬と、それぞれラテックス粒子に結合した第1抗TAT抗体および第2抗TAT抗体を含む第2の試薬とを含み、前記試料を第2の試薬と反応させたときに検出される値から前記試料を第1の試薬と反応させたときに検出される値を差し引くことにより、試料中に含まれるTATの値を測定することを特徴とする。
【0012】
以下に、本発明のTAT測定試薬の一例を、実施の一態様として記載するが、本願発明の範囲はこれに限定されるものではない。
本発明のTAT測定試薬は、生体試料中のTATを測定するための、2種類のTAT抗
体をそれぞれ結合させたラテックス粒子を用いた、サンドイッチ系でのラテックス凝集法による免疫測定試薬である。
【0013】
本発明に使用することができる抗体は、例えば、アンチトロンビン側に結合してTATを認識する抗体とトロンビン側に結合してTATを認識する抗体を組み合わせて使用することができる。
第1抗TAT抗体としては、アンチトロンビン側に結合してTATを認識することができる抗体であればよい。TATに対する反応性と遊離アンチトロンビンに対する反応性に少なくとも100倍以上の差を有する抗体が好ましく用いられる。第1抗TAT抗体のTATに対する反応性は遊離アンチトロンビンに対する反応性より少なくとも100倍以上であればよく、200倍以上がより好ましく、1,000倍以上であることがさらに好ましく、10,000倍以上であることが特に好ましい。交差反応性は少ないほどよいので上限は特にないが、例えば、100,000倍未満、または50,000倍未満であってもよい。
該抗体を調製するにあたっては、ヒト以外の動物に対して、遊離アンチトロンビンを免疫したものであっても、TATを免疫したものであってもよく、アンチトロンビン側に結合してTATを認識することができる抗体であれば、本発明に使用することができる。
【0014】
ここで、本発明においてアンチトロンビン側に結合するとは、試料中に最も多く存在している遊離した状態のアンチトロンビンが、遊離トロンビンと結合して複合体(TAT)を形成している状態のアンチトロンビンに結合することを意味する。従って、複合体を形成した時の構造を有するアンチトロンビンを複合体型構造アンチトロンビン、複合体を形成していない時の構造を有するアンチトロンビンを遊離型構造アンチトロンビン(遊離アンチトロンビン)と称した場合、アンチトロンビン側に結合するとは、複合体型構造アンチトロンビンに結合することを意味する。
遊離型構造アンチトロンビンは、複合体型構造アンチトロンビンと異なる構造を有する。それは、遊離型構造アンチトロンビンは、遊離トロンビンと結合して複合体を形成することによってその構造が変化した状態で存在するためである。
【0015】
生体内におけるTATとTATを形成していない遊離アンチトロンビンの存在割合は健常人の測定値幅を参考として1:60,000〜1:110,000の間と考えられるが、一般的には約1:100,000で存在していると考えられる。また、敗血症や肝疾患患者においてその存在割合が変化する場合が知られているが、遊離アンチトロンビン量が少なくなる場合でも1:50,000程度であるとされている。従って、第1抗体が遊離アンチトロンビンにも反応性を示すとTATの定量が困難になる。そこで、TATを定量するには、遊離アンチトロンビンへの反応性が低い抗体を使用する必要があり、そのために、TATに対する反応性が遊離アンチトロンビンに対する反応性の100倍以上の抗体を用いる。
【0016】
本発明において、「TATに対する反応性が遊離アンチトロンビンに対する反応性の100倍以上」とは、各抗原に対する親和性の比が100倍以上である場合や、後述の、間接阻害ELISAで評価したときの、一定割合の阻害率を示すのに必要な抗原量の比が100倍以上である場合などが挙げられる。
【0017】
TATに対する反応性が、遊離アンチトロンビンに対する反応性の100倍以上である抗体(第1抗体)は後述の実施例に記載された方法で得ることができるが、以下に第1抗体を間接阻害ELISAで評価またはスクリーニングする場合について説明する。
まず、アンチトロンビン側に結合してTATを認識する抗体(第1抗体の候補抗体)を用意する。このような抗体は、後述のハイブリドーマによるモノクローナル抗体産生法等により抗体を得たのち、結合部位がアンチトロンビン側である、TATを認識する抗体を
選択すればよい。もちろん、あらかじめ、結合部位がアンチトロンビン側である、TATを認識する抗体が存在する場合はそれを以下の評価系に供すればよい。
【0018】
すなわち、候補抗体と一定量(例えば、0.1、0.5、1、5、10、50μg/mL)のTAT、又はTATの反応を阻害し得る抗原を含む溶液とを十分な時間(例えば、12時間)反応させる。次いで、前記反応液をTATを固定化した基材と一定時間反応させる。その後、洗浄操作を行った後、標識2次抗体を用いて基材上のTATに結合した抗体の量(抗体残存率)を測定する。
【0019】
例えば、まず、該抗体の反応を阻害する抗原が存在しない条件で、一定量のTATをプレート等の基材に固相する。基材に固相する抗原(TAT)の量は、当業者であれば、使用する抗原の分注量と評価対象の抗体の種類との関係を考慮して、適宜設定することができる。
該抗体の反応を阻害する抗原が存在しない条件で、各濃度(例えば0.04〜1μg/mL)の上記第1抗体の候補抗体を、上記TATを固定化した基材と一定時間反応させる。その後、洗浄操作を行った後、標識2次抗体(抗マウスIgG−HRP)を用いて、基材上のTATに結合した抗体の量を測定する。吸光度が1.0付近(表1の記載方法だと1000)となる抗体濃度を決定する。この抗体濃度を、抗原による阻害時の抗体濃度とすることができる(表3;反応時濃度(μg/mL))。
次に上記方法で決定した濃度の候補抗体と一定量(例えば、0.1、0.5、1、5、10、50μg/mL)のTATまたは遊離アンチトロンビンを含む溶液とを十分な時間(例えば、12時間)反応させる。次いで、前記反応液をTATを固定化した基材と一定時間反応させる。その後、洗浄操作を行った後、標識2次抗体(抗マウスIgG−HRP)を用いて基材上のTATに結合した抗体の量(抗体残存率)を測定する。
なお、抗体残存率は、抗原による吸収が未実施の時に得られる検出値を100%として算出できる。
【0020】
抗体の遊離アンチトロンビンに対する反応性が高い場合はTATに結合できる抗体の量が減るため、標識2次抗体によって検出される抗体の量が少なくなり(抗体残存率が低くなり)、一方、抗体が遊離アンチトロンビンに対する反応性が低い場合はTATに結合できる抗体が多く残るため、標識2次抗体によって検出される抗体の量が多くなる(抗体残存率が高くなる)。
この抗体残存率を、最初にTATと抗体とを反応させた(阻害反応をTATで行った)後に、反応液を固体化TATと反応させたときの抗体残存率と比較する。
【0021】
そして、例えば、遊離アンチトロンビンを50μg/mL加えて阻害反応させたときの抗体残存率が50%であった場合、同じ抗体残存率を示すのに必要なTATの量を上記のTATで阻害したときの結果から算出する。TATで阻害したときに、抗体残存率50%を達成するのに必要なTAT阻害抗原の量が0.50μg/mL未満であれば、TATに対する反応性が遊離アンチトロンビンに対する反応性の100倍以上とすることができる。
このようにして選択された抗体を第1抗体として選択することができる。なお、第1抗体は、モノクローナル抗体の場合、TATに対する親和性(Kd)が10
−8以下であることが好ましいが、当業者であればTATに対する親和性の値を参考としてラテックス試薬に適した抗体の選択を適宜することが可能である。
【0022】
第1抗TAT抗体として、アンチトロンビン側に結合してTATを認識することができる抗体を選択した場合、第2抗TAT抗体としては、トロンビン側に結合してTATを認識することができる抗体であればよく、トロンビンに対して特異的に反応する抗体を使用することができる。試料中において、遊離トロンビンはほとんど存在しないため、遊離ト
ロンビンに対して交差反応性を有する抗体であっても利用できることが多い。当業者であれば、適宜選択して使用することができる。
該抗体を調製するにあたっては、ヒト以外の動物に対して、遊離トロンビンを免疫したものであっても、TATを免疫したものであってもよく、トロンビン側に結合してTATを認識することができる抗体であれば、本発明に使用することができる。
ここで、本発明においてトロンビン側に結合するとは、試料中に存在している遊離した状態のトロンビンが、アンチトロンビンに結合して複合体(TAT)を形成している状態のトロンビンに結合することを意味する。従って、複合体を形成した時の構造を有するトロンビンを複合体型構造トロンビン、複合体を形成していない時の構造を有するトロンビンを遊離型構造トロンビンと称した場合、トロンビン側に結合するとは、複合体型構造トロンビンに結合することを意味する。
遊離型構造トロンビンは、複合体型構造トロンビンと異なる構造を有する可能性が考えられる。それは、遊離型構造トロンビンは、アンチトロンビンと結合して複合体を形成することによってその構造が変化した状態で存在することによる。
【0023】
第2抗TAT抗体としては、トロンビン側に結合してTATを認識する抗体であれば特に制限されない。モノクローナル抗体の場合、TATに対する親和性(Kd)が10
−8以下であることが好ましいが、当業者であればTATに対する親和性の値を参考としてラテックス試薬に適した抗体の選択を適宜することが可能である。抗体を選択する方法については、第1抗TAT抗体と同様にして作製した抗体を使用することができる。
【0024】
また、本発明に使用する抗体として、例えば、TATに特異的に結合する抗体、即ちトロンビンやアンチトロンビンには反応しないが、TATにのみ特異的に反応する抗体であって、エピトープが異なる2種類の抗体を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
上記の第1抗TAT抗体及び第2抗TAT抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれも使用することができる。これらの抗体は、当業者であれば、公知の手法に従って取得することができる。
抗体作製用に免疫原を免疫する動物としては、ヒツジ、ウマ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等が使用可能であり、特にポリクローナル抗体作製にはウサギ、ヤギなどが好ましい。また、ハイブリドーマ細胞を作製する公知の方法によりモノクローナル抗体を得ることも可能であり、この場合はマウス、ラット或いはウサギ等が好ましい。ハイブリドーマ及びモノクローナル抗体の調製は、定法、例えば、続生化学実験講座(日本生化学会編)又は免疫生化学研究法(日本生化学会編)に記載の方法に従って行うことができる。
【0026】
免疫原としては、上述したように、TATを使用してもよいし、ビトロネクチンが結合したVTATを免疫原として作製した抗体を本願発明の使用することもできる。また、第1抗体の場合はアンチトロンビンを、第2抗体の場合にはトロンビンを使用してもよい。
これらの免疫原は、生体から採取された試料を原料として精製されたTATを使用してもよいし、遊離トロンビンと遊離アンチトロンビンを混合してinvitroで合成したTATを使用してもよい。合成TATとしては、例えば、生物製剤として入手可能なトロンビンとアンチトロンビンを試験管内でインキュベートして得られるTATでもよいし、大腸菌や哺乳動物細胞、バキュロウイルスを感染させた昆虫細胞等、既知の翻訳発現系を使用して発現させたものを回収して精製したものを免疫原として使用してもよい。
また、立体構造の違いを部分的なペプチドのみで免疫させることが可能である場合、具体的に抗体の結合部位を特定して抗体を作製したい場合には第1抗体の場合はアンチトロンビン、第2抗体の場合はトロンビンの部分ペプチドを用いて作製することもできる。その場合の抗原としてのペプチド配列の選択やペプチド断片の合成方法、免疫方法は既知の方法を使用することができる。
【0027】
本発明で使用される抗体には、抗体フラグメントが含まれる。前記抗体フラグメントは、所望の抗体のフラグメントであって、しかも、もとの抗体と同じ反応性を有する抗体フラグメントである。本発明で用いることのできる抗体フラグメントには、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)
2、又はFv等が含まれる。これらのフラグメントは、例えば、抗体を常法によりタンパク質分解酵素によって消化し、続いて、タンパク質の分離・精製の常法に従って得ることができる。これらは、そのままラテックス粒子に固相して使用することができるが、Fab’フラグメントやF(ab’)
2フラグメントに調製したものをラテックス粒子に固相することができる。抗体のFcフラグメントに対する非特異反応を回避する観点から、Fab’やF(ab’)
2がより好ましい。
【0028】
本発明で使用する抗体は、まず、ハイブリドーマによるモノクローナル抗体産生法などによりTAT抗体(候補抗体)を得て、その後、TAT抗体(候補抗体)の中から、上記のような手法及び基準で、第1抗体および第2抗体を選択することにより得ることができる。
【0029】
第1抗体と第2抗体の組み合わせはラテックス凝集法においてTATの測定が可能であれば特に制限されないが、血漿などの生体試料中に含まれるマトリクス(バックグラウンド)の影響が最少の抗体組み合わせを選出することが好ましい。
TAT測定試薬に求められる感度は、健常人と患者とを明確に区別できる基準値、或いはその2倍の濃度を測定できることが必要であるため、本発明の試薬は生体試料中の10〜15ng/mLのTATを定量できる試薬であることが好ましく、3〜4ng/mLのTATを定量できる試薬であることがより好ましく、1ng/mL程度の濃度でも定量できる試薬であることがさらに好ましい。
【0030】
上記の第1抗TAT抗体および第2抗TAT抗体を結合させるラテックス粒子はラテックス凝集反応に使用し得るものであれば特に制限されないが、平均粒子径が0.05μm〜0.5μmであることが好ましく、0.2〜0.4μmであることがより好ましい。
使用するラテックス粒子の種類は、1種類のラテックス粒子のみを使用してもよいし、複数種のラテックス粒子を使用してもよい。例えば、粒子径の異なるラテックス粒子を組み合わせて使用することができる。ラテックス粒子は単一粒径で製造することは実質的に困難であることから、粒子全体の平均粒子径として規定される。従って、平均粒子径0.05μm〜0.5μmという場合、当該範囲に含まれないラテックス粒子を含む場合であっても、本発明に該当する場合がある。当業者にとって、粒径が異なるラテックス粒子が含まれることは常識の範囲内であり、当業者であれば、その粒径の分布に大きく偏りの無い粒子群を含む溶液を使用してラテックス試薬の構築することが可能である。
なお、この平均粒子径は、公知の方法で測定することが可能であり、例えば、透過型電子顕微鏡装置を用いた画像解析により算出される。
【0031】
本発明に係るラテックス粒子としては、通常この分野で用いられているものであれば特に限定はされないが、例えば、スチレン、塩化ビニル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のビニル系モノマーを重合させてなる単一重合体(例えば、ポリスチレン、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体等)からなる粒子、ブタジエン系共重合体(例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等)からなる粒子、それ以外の共重合体(例えば、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体等)からなる粒子を挙げられる。官能基としてカルボキシル基、1級アミノ基、カルバモイル基(−CONH
2)、水酸基、アルデヒド基等を有し、かつ、基体が上記有機系微粒子からなる粒子を挙げられる。
【0032】
ラテックス粒子に抗体を固相する方法としては、公知の方法に準じて行えばよく、例えば、抗体とラテックス粒子とを緩衝液中で懸濁させ、25℃で1時間反応させた後、遠心分離、ブロッキング処理等、通常この分野で行われる処理により得ることができる。また、抗体とラテックス粒子とを化学結合により固相する方法や、ビオチン−アビジン反応により抗体を固相する方法も選択できる。
ラテックス粒子に抗体を結合させる際には、抗体が、上記のTATに対する反応性および特異性を維持できる条件で行う。抗体とラテックス粒子をどのように固相させて試薬の調製を行うかは、当業者であれば適宜設計することができる。
【0033】
本発明のTAT測定法は、ラテックス粒子に結合した、アンチトロンビン側に結合してTATを認識する抗体であってTATに対する反応性が遊離アンチトロンビンに対する反応性の100倍以上である抗体(第1抗TAT抗体)を含む第1の試薬に試料を反応させる工程(第1工程)、ラテックス粒子に結合した前記第1抗TAT抗体、およびラテックス粒子に結合した、トロンビン側に結合してTATを認識する抗体(第2抗TAT抗体)を含む第2の試薬に試料を反応させる工程(第2工程)、並びに試料を第2の試薬と反応させたときに検出される値から試料を第1の試薬と反応させたときに検出される値を差し引くことによりTATの値を測定する工程(第3工程)、を含む。
【0034】
なお、試料を独立の反応系で第1の試薬および第2の試薬それぞれに反応させる場合は、第1工程と第2工程はいずれを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。この場合は、第2の試薬は、2種類のラテックス粒子にそれぞれ2種類の抗体を結合させたものでもよいし、1種類のラテックス粒子に2種類の抗体を結合させたものでもよい。
それぞれ独立の反応系で検出された、試料を第2の試薬と反応させたときの検出値から試料を第1の試薬と反応させたときの検出値を差し引き、得られた値に基づいてTATの値が算出される。これにより、アンチトロンビンによる非特異凝集の影響が除かれたTATの正確な量を測定することができる。
【0035】
一方、他の態様として、試料をまず第1抗TAT抗体を結合したラテックス粒子と反応させて検出値を測定し、次いで、同じ反応系に第2抗TAT抗体を結合したラテックス粒子を加えて、試料を第1抗TAT抗体及び第2抗TAT抗体と反応させて検出値を測定し、後者から前者を差し引き、得られた値に基づいてTATの値を算出することも可能である。
【0036】
本発明の試薬に適用することのできる被検試料は、TATを含有する可能性のある被検試料である限り、特に限定されるものではないが、生体試料であることが好ましく、哺乳動物由来の試料であることがより好ましく、ヒト由来の試料であることが更に好ましい。生体由来の試料としては、血清、血漿が特に好適に使用できる。好ましくは、アンチトロンビン製剤を投与された被検者由来の血液試料であって、更に好ましくはアンチトロンビン製剤を投与された被検者由来の血漿である。
アンチトロンビン製剤としては、献血ノンスロン(登録商標)500注射用、献血ノンスロン(登録商標)1500注射用(日本製薬)、アンスロビン(登録商標)P500注射用、アンスロビン(登録商標)P1500注射用(化学及血清療法研究所)、ノイアート(登録商標)静注用500単位、ノイアート(登録商標)静注用1500単位(日本血液製剤機構)、アコアラン(登録商標)静注用600(協和発酵キリン)が例示される。
【0037】
反応温度は10〜50℃であることが好ましく、20〜40℃であることがより好ましい。反応時間は適宜決定することができ、例えば汎用自動分析機では10〜15分間の反応時間で測定することができる。なお、当業者であれば、光学機器あるいは汎用自動分析機を用いた分析において、公知の方法に従って、反応温度、反応時間、測定波長、測定時間、試薬構成、ラテックス濃度、ラテックス固定化する抗体濃度、各種添加剤濃度を適宜
決定することができる。
【0038】
本発明に用いられるラテックス粒子の濃度は、ラテックス凝集法による免疫学的測定試薬に適用できる濃度であれば特に限定されるものではないが、TATを測定するために必要な反応時のラテックス粒子の濃度は0.005w/v%〜0.2w/v%が好ましく、0.01w/v%〜0.1w/v%であることがより好ましい。
【0039】
本発明の試薬は、抗体を固定化したラテックス粒子以外にも、ラテックス凝集法による免疫学的測定試薬に添加可能な添加剤、例えば、緩衝液、凝集促進剤、非特異反応抑制剤、増感剤などを更に含有することができる。本発明の試薬に添加可能な増感剤としては、アルギン酸ナトリウムやアルギン酸プロピレングリコールなどが挙げられる。また、本発明の試薬に添加可能な凝集促進剤としては、水溶性高分子やタンパク質が好適に用いられる。例えば、デキストランやデキストラン硫酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子や、ウシ血清アルブミンなどのアルブミン類、γ−グロブリンなどのグロブリン類が挙げられる。
【0040】
前記緩衝液としては、例えば、pH5.8〜6.6に緩衝能を有する緩衝液を使用することができる。6.0〜6.4であることがより好ましく、6.1〜6.3であることがさらに好ましく、6.15〜6.25であることが特に好ましい。1試薬系であれば、試薬のpHが上記範囲に調整されていればよいし、2試薬系であれば、混合したときにpHが上記範囲になるように構成されていればよい。例えば、緩衝液成分を主体とした試薬1と、抗体を固相したラテックス粒子を含む試薬2から構成される場合に、試薬1のpHが上記範囲に調整されており、両試薬を混合したときに、混合液のpHが上記範囲になるような態様が挙げられる。
pHはpH調節剤によって調節されてもよいが、緩衝液により調整されることが好ましい。トリス緩衝液、ビス−トリス緩衝液、リン酸緩衝液、又はグッド緩衝液などが好適に使用され、反応時の緩衝液濃度は10〜500mmol/Lであることが好ましく、20〜200mmol/Lであることがより好ましい。
【0041】
本発明の試薬に添加可能な非特異反応抑制剤としては、非特異反応の原因物質に対する抗体やレセプター、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液又はグッド緩衝液などの緩衝液類、EDTA、CyDTA、DTPA、EGTA、NTA、NTPなどのキレート剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムなどの塩類、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、アルキルモノグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルグリコシドなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0042】
ラテックス粒子の凝集の度合いは、例えば吸光度を用いて測定し、予め求めておいた標準品の検量線からその濃度を求めることにより、検体中のTAT濃度を定量することができる。本発明では、ダブルカイネティック法を使用し、試料と第1の試薬混合時に生じる吸光度変化量とさらに第2の試薬を添加した後に生じた吸光度変化量とから、目的とする成分の量と比例関係を有する吸光度変化量を求め、予め標準液を用いた検量線から、目的とする成分の量を測定することができる。なお、吸光度の測定波長は、通常は340nm〜1000nm、好ましくは500nm〜900nmで測定すればよい。ラテックス凝集反応を測光する時間は、ラテックス凝集反応が生じている時間を時間当たりの変化速度、あるいは一定時間の変化量によって測光することができる。例えば、吸光度を測定する場合、ラテックス凝集反応が始まってから30秒後から5分後の時間当たりの吸光度変化速
度、あるいは一定時間の吸光度変化量によって測光することができる。
【0043】
本発明の試薬は、標準物質として使用し得るTATを含んでもよい。TATは生体から精製されたTATでもよいし、遺伝子組み換えなどで合成されたTATでもよい。合成TATとしては、例えば、生物製剤として入手可能なトロンビンとアンチトロンビンを試験管内でインキュベートして得ることができる。また、大腸菌や哺乳動物細胞、バキュロウイルスを感染させた昆虫細胞等において、既知の翻訳発現系を使用して発現させたものを回収して精製したものを混合してTATを合成することもできる。
【実施例】
【0044】
実施例1 合成TATの調製
市販のヒトトロンビン製剤(日本血液製剤機構製)とアンチトロンビン製剤(日本血液製剤機構製)をPBS(ダルベッコPBS(−)粉末「ニッスイ(日水製薬株式会社製)」、を9.6g/Lで溶解)で希釈し、1:3のモル比で混合後、37℃で30分間反応させた。30分後、DFP(フルオロリン酸ジイソプロピル、和光純薬社製)を0.75mMになるように添加し反応を停止した。
得られた反応物には未反応のトロンビン、アンチトロンビンが含まれるため、予め500mMのNaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で平衡化したHiload 26/60 Superdex 200 HR(GEヘルスケア社製)によって精製した。
TAT画分はSDS−PAGEで確認した後、回収した。得られたTATは0.5%のBSAを含む生理食塩水で希釈し、CLEIA試薬(ステイシア(登録商標) CLEIA
TAT、LSIメディエンス社製)を用いて値付けした。これを合成TATとして使用した。
【0045】
実施例2 抗TAT抗体の調製
細胞融合法は、安藤民衛・岩崎辰夫/著「単クローン抗体/ハイブリドーマとELISA」(講談社)に従って実施した。
実施例1で調製した合成TAT 50μgをフロインド完全アジュバント(DIFCO社製)と混合し、投与抗原とした。
BALB/cマウス(メス、4週令)に2週間間隔で3回投与し、4回目の投与は半量の25μgを静注した。
1週間後、脾臓よりリンパ球を分離し、ミエローマ細胞P3x63−Ag.8と混合した後、ポリエチレングリコール(PEG4000、メルク社製)を用いて細胞融合を実施した。
HAT選択培地によりハイブリドーマを選択し、1週間後目的の抗体を産生しているハイブリドーマを合成TATに対する結合活性を指標にスクリーニングした。すなわち、0.05M炭酸緩衝液(pH9.5)で合成TATをそれぞれ0.2μg/mLに希釈し、イムノプレート(Maxisorp、NUNC社製)に50μL/ウェル添加した。4℃、Over Nightで反応後、0.05% Tween−20を含むPBSで3回洗浄し、1.0%BSAを含むPBSを各ウェルに100μL添加しブロッキングを行った。
次に、培養上清各ウェルに50μL添加し、37℃で1時間反応させた後、0.05%
Tween−20を含むPBSで3回洗浄した。ペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリン抗体(Dako社製)を、0.05% Tween−20を含むPBSで1000倍に希釈し、各ウェルに50μL添加した。
37℃、1時間反応後、同様に5回洗浄しo−フェニレンジアミン溶液(和光純薬社製)を各ウェル50μL添加した。室温で5〜10分間反応後、2N硫酸溶液で反応を停止した。
プレート分光光度計(EL312e、BIO−TEK INSTRUMENTS社製)
で492nmの吸光度を測定した。合成TATとの反応が良好な抗体を産生している細胞を選択し、限界希釈法によりクローニングを行った。10日後、スクリーニングを行い、合成TATと反応する抗体を産生するハイブリドーマを取得した。
【0046】
実施例3 抗トロンビン抗体の調製
実施例2と同様の方法で免疫抗原をトロンビンとして、抗トロンビン抗体を得た。トロンビンに対して特異的に反応する抗体を選択し、このうちの1クローンを抗トロンビン抗体(T−1)として使用した。
【0047】
実施例4 間接阻害ELISAによる抗体特異性の評価
間接阻害ELISA法によって、各抗体の反応性の評価を行った。間接阻害ELISA法による反応系の模式図を
図2に示す。
評価しようとする0.04〜0.4μg/mLの濃度のTATを認識する抗体(抗TAT抗体)候補を阻害抗原(プロトロンビン(エンザイムリサーチ社製)、トロンビン、アンチトロンビン、合成TAT)と混合し、インキュベートした。一部阻害された該抗体候補を一次抗体として、96ウェルプレートに固相化した合成TATと結合させた。さらにペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリン抗体(Dako社製)を二次抗体として結合させ、発色基質を添加し吸光度を測定した。また、発色の変化率から、抗体の残存率を計算した。
特定の抗体(TAT−5)について、各阻害抗原を用いた時の吸光度を表1に、吸光度から計算された抗体の残存率を表2に示した。
例えば、TATの阻害抗原濃度が10μg/mLの時の残存率は、285/1066×100=26.7(%)となる。各抗体の各抗原濃度について残存率を算出した。なお、表中において、Pro−Tはプロトロンビンを、Tはトロンビンを、ATはアンチトロンビンを示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
また、アンチトロンビン 50 μg/mLで阻害をかけた時の残存率と同等の阻害率となるTAT抗原量を算出し比較することで、アンチトロンビンに対するTATの反応性差(倍率)を求めた。この違いが大きければ、アンチトロンビンと比較しTATに対する特異性が強いこと意味する。計算はTATの阻害曲線(阻害抗原添加濃度対数-残存率%)を描き、スプライン関数を用いておこなった。
例えば、TAT−5の場合、アンチトロンビン 50 μg/mLの残存率は、74.0%でありその残存率と同様となるTAT抗原量は1.144 μg/mLである。すなわち、反応性の差は50/1.144=44倍となる。(
図3)。
【0051】
その他、抗体クローン27種類について上記倍率の計算を行った。添加TATとアンチトロンビンの量の違い(倍率)が100倍以上となる抗体は13種類、1000倍以上となる抗体は7種類、10000倍以上となる抗体は2種類存在した。5種類の抗体について、表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例5 アンチトロンビン製剤添加血漿における効果
試薬1:100mM Bis−tris(同仁化学社製) pH6.2、700mM NaCl(和光純薬社製)、0.05% エマルゲン150(花王社製)、0.20% アルギン酸ナトリウム(和光純薬社製)、0.15% BSA(シグマアルドリッチ社製)を試薬1として用いた。
試薬2:TATに対する反応性がアンチトロンビンに対する反応性の100倍以上であるTATのアンチトロンビン側に反応するマウスモノクローナル抗体(TAT−1)を吸着したポリスチレンラテックス粒子と、抗トロンビンマウスモノクローナル抗体を吸着したポリスチレンラテックス粒子を、各抗体感作粒子が700nmにおける吸光度が1.0になるように0.05%アジ化ナトリウム溶液で希釈し混合したもの(試薬2A)、もしくはTATに対する反応性がアンチトロンビンに対する反応性の100倍以上であるTATのアンチトロンビン側に反応するマウスモノクローナル抗体を吸着したポリスチレンラテックス粒子のみを700nmにおける吸光度が1.0になるように0.05%アジ化ナトリウム溶液で希釈し混合したもの(試薬2B)をそれぞれ試薬2として用いた。
サンプル:アンチトロンビン製剤としてノイアート静注用500単位(日本血液製剤機構社製)を0.33または0.66単位/mLになるように添加した正常ヒトプール血漿またはアンチトロンビン製剤未添加の正常ヒトプール血漿をそれぞれ測定した。
測定機器:STACIA(LSIメディエンス社製)
パラメータ:サンプル量12μL、試薬1 90μL、試薬2 90μL、主波長700nmに設定し、試薬2添加後の1分当たりの吸光度変化量をΔAbs/minとして測定した。
【0054】
結果・考察
結果を表4および
図4に示す。試薬2Aのみの結果ではアンチトロンビン製剤の濃度依存的な凝集が生じたが、試薬2Bの結果を差し引くことでその影響が大幅に軽減され、アンチトロンビン製剤の影響を受けることなくTATを定量できることがわかった。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例6 非特異凝集を生じる実検体における効果
試薬1:実施例5と同様
試薬2:実施例5の試薬2A、2Bを用いた。
対照法:B/F分離を行うステイシアCLEIA TAT(LSIメディエンス社製)を対照法として測定した。
サンプル:非特異が反応が認められたことから、アンチトロンビン製剤が投与されたと推定されるクエン酸Na血漿2検体(非特異1、2)と通常のクエン酸Na血漿2検体(通常1、2)を用いた。
標準品:TATキャリブレーター(LSIメディエンス)により値付けを行った。
測定機器・パラメータ:実施例5と同様に行った。試薬2Aのみの結果から算出したΔAbs/minと(試薬2A−試薬2B)の結果から算出したΔAbs/minそれぞれの結果からTAT濃度を算出した。
【0057】
結果・考察
結果を
図5に示す。非特異1、2について試薬2Aのみの結果では対照法と大きな乖離を生じたが、試薬2Bの結果を差し引くことで対照法と近い測定値となった。また、非特異反応のない検体については差し引きの有無で測定値に変化はなく対照法と測定値が一致していた。したがって、本発明の方法により、簡便にアンチトロンビン製剤の影響を受け
ることなくTATを定量できることがわかった。