特許第6687198号(P6687198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687198
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】車両ドアラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 85/26 20140101AFI20200413BHJP
   E05C 3/24 20060101ALI20200413BHJP
   E05B 79/08 20140101ALI20200413BHJP
【FI】
   E05B85/26
   E05C3/24
   E05B79/08
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-195523(P2017-195523)
(22)【出願日】2017年10月5日
(65)【公開番号】特開2019-70228(P2019-70228A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089934
【弁理士】
【氏名又は名称】新関 淳一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100092945
【弁理士】
【氏名又は名称】新関 千秋
(72)【発明者】
【氏名】蕪木 誠
(72)【発明者】
【氏名】西島 広隆
(72)【発明者】
【氏名】大川 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】張 暁明
【審査官】 桐山 愛世
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−074976(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0052336(US,A1)
【文献】 英国特許出願公開第02433768(GB,A)
【文献】 特表2008−530407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 85/26
E05B 79/08
E05C 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライカ(15)と係合してアンラッチ位置からフルラッチ余剰回転位置まで回転可能のラッチ(13)と、ラチェット軸(17)により軸止され前記ラッチ(13)の係合部(13c)に対して対峙可能のラッチ係合位置と前記係合部(13c)に対して非係合となるラッチ離脱位置とに変位可能な爪部(16a)を備えたラチェット部材(16)とを有し;
前記ラッチ(13)がアンラッチ方向へのアンラッチ戻し力が前記ラッチ係合位置の前記ラチェット部材(16)に加わると、前記ラチェット部材(16)には反ラッチ係合方向のリリース分力(19)が生じて前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置に押し出される構成とし;
前記ラチェット部材(16)の側方には、前記ラチェット部材(16)に当接することで前記リリース分力(19)による前記ラチェット部材(16)の前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置への変位をブロックしうる保持位置と、前記ラチェット部材(16)に対して離間して前記ラチェット部材(16)の前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置への変位を許容する解放位置とにピン(21)を中心に変位可能なラチェット抑え(20)を設け;
前記ラチェット部材(16)は、基部が前記ラチェット軸(17)に軸止された基端支持部(16b)と、先端には前記爪部(16a)を形成し基部を前記基端支持部(16b)の先端にピン(16e)で軸止させた先端回動部(16c)とを有し;
前記先端回動部(16c)は前記基端支持部(16b)に対して連結バネ(23)の弾力でラッチ係合方向に付勢させた構成とし;
前記ピン(21)と、前記ラチェット抑え(20)と前記ラチェット部材(16)との当接部とを結ぶラチェット保持線分(25)の延長線上に前記ピン(16e)を配置させた車両ドアラッチ装置。
【請求項2】
請求項において、前記ラッチ(13)のアンラッチ戻し力が前記ラチェット部材(16)に加わると、前記ラチェット部材(16)の中央の前記ピン(16e)部分は前記リリース分力(19)の影響により前記ラチェット抑え(20)に向かって突き出る凸形に変形する構成とした車両ドアラッチ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ラチェット部材(16)の前記爪部(16a)はアンラッチ状態においては前記ラッチ(13)の外周縁(13b)に前記連結バネ(23)の弾力に抗して反ラッチ係合方向に押し戻された状態で当接する構成とした車両ドアラッチ装置。
【請求項4】
請求項において、前記ラチェット抑え(20)はカム付勢バネ(22)の弾力により前記解放位置から前記保持位置に向けて付勢され、アンラッチ状態においては前記ラチェット抑え(20)のカム面(20a)が前記カム付勢バネ(22)の弾力で前記ラチェット部材(16)に当接し前記ラチェット部材(16)を反リリース分力(19)側に押し戻すことで、前記爪部(16a)は前記連結バネ(23)の弾力に抗して反ラッチ係合方向に移動した状態で前記ラッチ(13)の前記外周縁(13b)に当接する構成とした車両ドアラッチ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、前記ラッチ(13)はラッチ軸(12)により軸支され、前記係合部(13c)は前記ラッチ軸(12)の円周方向となる爪支持面(13d)と前記爪部(16a)に圧接する押圧部(13e)とを有し、前記押圧部(13e)はフルラッチ状態において前記爪部(16a)に対して線接触する構成とした車両ドアラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドアラッチ装置に関するものであり、特に、ラチェットをラッチから離脱させるのに必要なリリース操作力を低減させた車両ドアラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の代表的な車両ドアラッチ装置では、アンラッチ位置からフルラッチ位置に回転したラッチにラチェットを係合させることで、ラッチのアンラッチ回転を阻碍して、車両ドアを閉扉状態(フルラッチ状態)に保持しており、また、開扉ハンドルからの手動リリース操作力若しくはパワーリリース機構からの電動リリース操作力により、ラチェットを反ラッチ係合方向に回転させてラチェットをラッチから離脱させることで、ラッチのアンラッチ回転を許容し、車両ドアを開扉可能状態にしている。
【0003】
フルラッチ状態のラッチは、ラッチバネの弾力や、ドアと車体との間に設けられるシール部材の反発力によりアンラッチ方向に強く付勢されるため、ラチェットに強く圧接する。また、ラチェットはラチェットバネの弾力でラッチ係合方向に付勢される。ラッチがラチェットに圧接することで生じる摩擦力や、ラチェットバネの弾力は、リリース操作力に対する抵抗力として作用するため、開扉ハンドルの操作感の低下や、パワーリリース機構の大型化の要因となる。
【0004】
特許文献1には、ラチェットをラッチから離脱させるリリース操作力を低減させた車両ドアラッチ装置について開示されている。図11は特許文献1のリリース操作力低減機構を示しており、ラッチAはラチェットBとの係合によりフルラッチ位置に保持され、ラチェットBは側方に設けたラチェット抑えCとの当接により反ラッチ係合方向への回転がブロックされている。図11のフルラッチ状態では、ラッチAからラチェットBに伝達される圧力の多くは、ラチェットBのラチェット軸Dで支受されるが、圧力の一部はラチェットBを反ラッチ係合方向に回転させるリリース分力EとしてラチェットBに作用している。
【0005】
このリリース分力Eは、ラチェットBとラッチAの係合状態を維持させる係合保持力、具体的には、ラッチAとラチェットB間に生じる摩擦力やラチェットBをラッチ係合方向に付勢するラチェットバネの弾力の合算力より強くなるように設定されている。このため、手動リリース操作力若しくは電動リリース操作力によりラチェット抑えCを時計回転させてラチェットBからラチェット抑えCを離脱させると、ラチェットBはリリース分力Eにより反ラッチ係合方向に回転し、ラッチ係合位置からラッチ離脱位置に押し出され、ラッチAとラチェットBの係合は解除され、開扉可能状態となる。
【0006】
特許文献1の構成では、ラチェット抑えCとラチェットBとの間に生じる摩擦力が、リリース操作力に対する抵抗力として作用するが、この抵抗力は、従来装置におけるリリース操作力に対する抵抗力、即ち、ラッチがラチェットに圧接することで生じる摩擦力や、ラチェットバネの弾力からもたらされる抵抗力より相当に低減され、その分、リリース操作力も相当に低減できることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】DE102007045228A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11の構成では、ラッチAからの圧力がラチェットBを介してラチェット抑えCにも少なからず伝達されることになる。これは、リリース分力Eとは区別できる圧力であるから、ラチェット抑えCとラチェットBとの間には余分な摩擦が発生し、リリース操作力の低減量は減少してしまうことになる。つまり、ラチェット抑えCには、可能の限り、リリース分力E以外の圧力を作用させない工夫が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって、本発明は、ストライカ15と係合してアンラッチ位置からフルラッチ余剰回転位置まで回転可能のラッチ13と、ラチェット軸17により軸止され前記ラッチ13の係合部13cに対して対峙可能のラッチ係合位置と前記係合部13cに対して非係合となるラッチ離脱位置とに変位可能な爪部16aを備えたラチェット部材16とを有し;前記ラッチ13がアンラッチ方向へのアンラッチ戻し力が前記ラッチ係合位置の前記ラチェット部材16に加わると、前記ラチェット部材16には反ラッチ係合方向のリリース分力19が生じて前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置に押し出される構成とし;前記ラチェット部材16の側方には、前記ラチェット部材16に当接することで前記リリース分力19による前記ラチェット部材16の前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置への変位をブロックしうる保持位置と、前記ラチェット部材16に対して離間して前記ラチェット部材16の前記ラッチ係合位置から前記ラッチ離脱位置への変位を許容する解放位置とにピン21を中心に変位可能なラチェット抑え20を設け;前記ラチェット部材16は、基部が前記ラチェット軸17に軸止された基端支持部16bと、先端には前記爪部16aを形成し基部を前記基端支持部16bの先端にピン16eで軸止させた先端回動部16cとを有し;前記先端回動部16cは前記基端支持部16bに対して連結バネ23の弾力でラッチ係合方向に付勢させた構成とし;前記ピン21と、前記ラチェット抑え20と前記ラチェット部材16との当接部とを結ぶラチェット保持線分25の延長線上に前記ピン16eを配置させた車両ドアラッチ装置としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1および請求項2に掛かる発明では、ラチェット部材16を基端支持部16bと先端回動部16cとに分割することで、爪部16aを備えた先端回動部16cを独立して回転させることができるため、爪部16aのラッチ係合位置への変位、また、ラッチ離脱位置への変位を速やかに行える。また、ラチェット保持線分25の延長線上にピン16eを配置したので、本発明の請求項2に掛かる発明と同様に、ラッチ13を支えるための荷重がラチェット抑え20に加わることを極力回避でき、ラチェット抑え20を回転させるリリース操作力の一層の低減が期待できる。
本発明の請求項および請求項に掛かる発明では、爪部16aを備えた先端回動部16cを独立して回転させることができるため、爪部16aのラッチ係合位置への変位、また、ラッチ離脱位置への変位を速やかに行えるとともに、実施化においても円滑な作動が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係わる車両ドアラッチ装置のアンラッチ状態における正面図である。
図2】フルラッチ状態における車両ドアラッチ装置の正面図である。
図3】リリース操作力によりラチェット抑えをフルラッチ保持位置から解放位置に反時計回転させた状態を示す車両ドアラッチ装置の正面図である。
図4】ラチェット抑えが解放位置に移動したことによりラチェット部材が反ラッチ係合方向に移動して、ラチェット部材がラッチから離脱した状態を示す車両ドアラッチ装置の正面図である。
図5】ラチェット部材がラッチから離脱したことによりラッチがアンラッチ位置に変位した状態を示す車両ドアラッチ装置の正面図である。
図6】各種バネ弾力及びリリース分力を示した正面図である。
図7】ラチェット部材の分解斜視図である。
図8】本発明の第2実施例に基づく車両ドアラッチ装置のフルラッチ状態の正面図である。
図9】本発明の第2実施例に基づく車両ドアラッチ装置における開扉操作の初期段階を示す正面図である。
図10】本発明の第2実施例に基づく車両ドアラッチ装置においてラチェット部材がラッチから離脱した直後を示す正面図である。
図11】従来のリリース操作力低減機構を示した公知例図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、アンラッチ状態(開扉状態)の車両ドアラッチ装置10の正面を示しており、車両ドアラッチ装置10のベースプレート11には、ラッチ軸12によりラッチ13が軸止されている。ラッチ13はラッチバネ14(弾力方向を示す矢印による図示)により開扉方向(アンラッチ方向・反時計回転方向)に付勢されている。通常、ベースプレート11は車両ドア(図示なし)に固定される。
【0013】
車両ドアが十分な手動閉扉力により閉扉方向に移動すると、車体(図示ない)に固定されたストライカ15は、ベースプレート11に形成した水平方向のストライカ進入路11a内に相対的に進入して、ラッチ13のU型のストライカ係合溝13aに当接し、ラッチ13をラッチバネ14の弾力に抗して閉扉方向(フルラッチ方向・時計回転方向)に回転させる。
【0014】
ベースプレート11の下部側にはラチェット部材16がラチェット軸17により軸止される。ラチェット部材16はラチェットバネ18(弾力方向を示す矢印による図示)によりラッチ係合方向に付勢される。ラチェット部材16の先端の爪部16aは、図1のアンラッチ状態では、ラチェットバネ18の弾力によりラッチ13の外周縁13bに当接している。
【0015】
ラッチ13がストライカ15との当接により、図2のフルラッチ位置(正確には、フルラッチ位置を超えてフルラッチ余剰回転位置)まで回転すると、爪部16aはラッチ13の係合部13cと対峙するラッチ係合位置にラチェットバネ18の弾力で変位する。ラッチ13はアンラッチ位置からフルラッチ余剰回転位置まで時計回転した後、ラッチバネ14の弾力及びドアと車体との間に設けられるシール部材(図示省略)の反発力によりアンラッチ方向に戻され、係合部13cは爪部16aに圧接する。ラッチ13をアンラッチ方向に押し戻すこれらの力は、アンラッチ戻し力と呼称する。この圧接によりラッチ13からラチェット部材16に伝わる圧力の多くはラチェット軸17により支受されるが、圧力の一部はラチェット部材16を反ラッチ係合方向に押し出すリリース分力19(図6参照)としてラチェット部材16に作用するように設定する。
【0016】
リリース分力19は、ラチェットバネ18の弾力や係合部13cと爪部16aとの間に生じる摩擦力に抗してラチェット部材16を反ラッチ係合方向に押し出しうる強さに設定される。従って、ラチェット部材16はラチェットバネ18の弾力でラッチ係合位置に変位可能ではあるが、その後、単独ではラッチ13をフルラッチ位置に保持することはできない設定となる。
【0017】
ラチェット部材16の側方にはラチェット抑え20が配置される。ラチェット抑え20はピン21によりベースプレート11に軸止される。ラチェット抑え20の外周はラチェット部材16に当接可能のカム面20aに形成される。ラチェット抑え20はカム付勢バネ22(弾力方向を示す矢印による図示)の弾力で時計回転方向に付勢される。
【0018】
ラチェット抑え20は解放位置(図3)と、フルラッチ保持位置(図2図6)との間を回転可能である。ラチェット抑え20には開扉ハンドルからの手動リリース操作力若しくはパワーリリース機構からの電動リリース操作力が伝達され、リリース操作力によりカム付勢バネ22に抗してフルラッチ保持位置から解放位置に向けて反時計回転する。ラチェット部材16と対峙するカム面20aは、解放位置からフルラッチ保持位置に回転するに従って径大になっており、かつ、フルラッチ保持位置でのカム面20aは、好適には、ピン21を中心とする円弧面に形成する。
【0019】
ラチェット抑え20が図2図6)のフルラッチ保持位置にあると、カム面20aはラチェット部材16に当接してラチェット部材16の反ラッチ係合方向への変位をブロックする。このとき、ラチェット部材16が接触するカム面20aはピン21を中心とする円弧面であるため、ラチェット部材16からラチェット抑え20に伝達される圧力(リリース分力19と同義)がラチェット抑え20に回転力をもたらすことはない。
【0020】
ラチェット抑え20がリリース操作力により図3の解放位置に移動すると、カム面20aはラチェット部材16から離間して、ラチェット部材16の反ラッチ係合方向への変位を許容し、爪部16aは係合部13cから外れてラッチ13はアンラッチとなり、車両ドアは開扉可能となる。なお、実際には、ラチェット抑え20が解放位置に向けて移動すると、ラチェット部材16はラチェット抑え20の移動に追従するように反ラッチ係合方向に押し出されるため、図3のように、ラチェット抑え20とラチェット部材16との間に大きな間隙が生じることはない。
【0021】
つぎに、特許文献1に開示された発明に対して大きく改良した構成について説明する。本発明におけるラチェット部材16は、図7の分解斜視図からも容易に理解できるように、基端支持部16bと先端回動部16cとに分割形成される。基端支持部16bの基部はラチェット軸17に軸止され、基端支持部16bの回動端部には二叉部16d図7を形成する。先端回動部16cの先端には爪部16aが設けられている。先端回動部16cの基部はピン16eで二叉部16dに軸止され、先端回動部16cは基端支持部16bに対して一定範囲で回動可能になっている。また、先端回動部16cと基端支持部16bとの間には引張連結バネ23が掛け渡されて(図6)、先端回動部16cはピン16eを中心に時計回転方向(ラッチ係合方向)に付勢され、基端支持部16bはラチェット軸17を中心に反時計回転方向に付勢される。
【0022】
引張連結バネ23を備えたラチェット部材16を、ベースプレート11に組み付ける前の単体部品として考察すると、引張連結バネ23の弾力で先端回動部16cは基端支持部16bに対してピン16eを中心に右転方向に付勢され、基端支持部16bはラチェット軸17を中心に左転方向に付勢されるため、基端支持部16bと先端回動部16cの連結部(ピン16e)は左方に突き出た凸形状(横向き山型形状)を呈することになる(図4の状態を参照)。そして、その突き出す延長上にラチェット抑え20が配備されることになる。この配置構造により、ラッチ13のアンラッチ戻し力により発生するリリース分力19はラチェット抑え20で効率よく支えることができるとともに、リリース分力19とは区別される圧力、つまり、ラッチ13を支えるための荷重は殆どラチェット抑え20には作用しない。従って、ラチェット抑え20を図2のフルラッチ保持位置から図3に示した解放位置に回転させる際に生じるラチェット部材16との間の摩擦力は、従来装置に比較して効果的に低減でき、ラチェット抑え20を回転させるリリース操作力の一層の低減が期待できる。
【0023】
つまり、本発明では、ラッチ13を支えるための荷重は、爪部16aからラチェット軸17の軸芯より若干左方に至るラッチ荷重線分24に沿ってラチェット軸17により支受され、また、ラッチ13を支えるための荷重により生じるリリース分力19は、ラッチ荷重線分24と実質的に直交するラチェット保持線分25に沿ってラチェット抑え20で支受されるため、余剰な摩擦の発生を回避でき、リリース操作力を低減できる。
【0024】
なお、引張連結バネ23は先端回動部16cと基端支持部16bとを連結するだけであるため、ラチェット部材16に作用するラチェットバネ18の弾力に影響は与えない。
【0025】
本発明によるドアラッチ装置10の閉扉動作および開扉動作について順次説明する。
図1のアンラッチ状態では、ラチェット部材16の爪部16aはラチェットバネ18および引張連結バネ23の弾力でラッチ13の外周縁13bに当接している。また、ラチェット抑え20はカム付勢バネ22の弾力で時計回転して、カム面20aがラチェット部材16に当接し、基端支持部16bと先端回動部16cの連結部を反リリース分力19方向に押し込んでいる。
【0026】
このアンラッチ状態で、車両ドアが十分な手動閉扉力により閉扉方向に移動すると、ストライカ15はラッチ13のストライカ係合溝13aに当接し、ラッチ13をラッチバネ14の弾力に抗してフルラッチ方向に回転させる。ラッチ13がフルラッチ余剰回転位置まで回転すると、ラチェット部材16の爪部16aはラッチ13の係合部13cと対峙可能なラッチ係合位置に変位する。このとき、ラチェット部材16全体がラチェットバネ18の弾力でラッチ係合方向に付勢されていること、引張連結バネ23の弾力により先端回動部16cが単独でラッチ係合方向に付勢されていること、更には、ラチェット抑え20がカム付勢バネ22の弾力でラチェット部材16をラッチ係合方向に押し込んでいることにより、爪部16aのラッチ係合位置への変位は速やかに完了し、図2のフルラッチ状態となる。
【0027】
図2のフルラッチ状態では、ラチェット抑え20はカム付勢バネ22の弾力でフルラッチ保持位置に保持されている。このため、ラチェット部材16にリリース分力19が作用しても、ラチェット部材16はピン21を中心とする円弧のカム面20aに当接することで、ラチェット部材16の反ラッチ係合方向への変位はブロックされ、フルラッチ状態は問題なく維持される。
【0028】
開扉するときは、ラチェット抑え20に開扉ハンドルからの手動リリース操作力若しくはパワーリリース機構からの電動リリース操作力を伝達して、ラチェット抑え20をフルラッチ保持位置から解放位置に向けて反時計回転させる。すると、図3のように、ラチェット部材16はラチェット抑え20によるブロックから解放される。
【0029】
図3のように、ラチェット部材16がラチェット抑え20から解放されると、ラチェット部材16はリリース分力19により反ラッチ係合方向に押し出され、また、ラチェット部材16の先端回動部16cは引張連結バネ23の弾力でピン16eを中心に右転する。このため、基端支持部16bと先端回動部16cの連結部(ピン16e)は、ラチェット抑え20の離間に追従して左方に突き出て、ラチェット部材16は凸形状に屈曲し、図4のように、爪部16aはいち早くラッチ13の係合部13cの軌跡上から離脱し、ラッチ13はアンラッチ回転する。この開扉操作の際、ラチェット抑え20は、爪部16aからラチェット軸17の軸芯より若干左方に至るラッチ荷重線分24に対して、実質的に直交するラチェット保持線分25に沿って配置されているため、ラッチ13を支えるための荷重がラチェット抑え20に加わることを極力回避でき、ラチェット抑え20を回転させるリリース操作力を軽減できる。
【0030】
なお、爪部16aが係合部13cから離脱する際、ラッチ13の強いアンラッチ戻し力により、爪部16aは係合部13cから外方に弾き出されるように移動するため、いったんラッチ13から離れた後、アンラッチ回転したラッチ13の外周縁13bにラチェットバネ18の弾力により再当接することになる。また、爪部16aがラッチ13に再当接するときラチェット部材16は引張連結バネ23の弾力で屈曲状態に保たれている。更に、爪部16aがラッチ13から離間する距離や、離間するタイミングや、外周縁13bに再当接するタイミング等は、ラッチ13のアンラッチ戻し力の強さや、各種バネの強さ等の設定により調節可能で、実際の車両ドアに応じて適切に調整設定する。
【0031】
ラッチ13が図5のアンラッチ位置に回転すると、開扉可能状態になる。図5では、ラチェット抑え20を解放位置に留めた状態を示しているが、実際には、ラッチ13がアンラッチ位置に至る前にラチェット抑え20はリリース操作力から解放され、カム付勢バネ22の弾力で時計回転方向に戻される。
【0032】
リリース操作力からの解放によりラチェット抑え20がカム付勢バネ22の弾力で時計回転方向に戻されると、ラチェット抑え20のカム面20aはラチェット部材16に当接し、ラチェット部材16を反リリース分力19方向に押し戻すことになる。その結果、ラチェット部材16は図5のように左方に突き出た凸形状から、図1の略直線状の状態に戻され、アンラッチが終了する。
【0033】
図8〜10には、ラチェット部材16の爪部16aと、ラッチ13の係合部13cとの噛み合い状態を変更した第2実施例を示してある。図1〜7の第1実施例では、爪部16aは係合部13cに対して面接触させているが、第2実施例では、点接触(線接触)させてある。第2実施例の係合部13cは凹みが少なくなっており、また、第2実施例の爪部16aは、爪幅(ピン16eの円周方向の幅)が拡幅している。
【0034】
第2実施例の係合部13cはラッチ軸12の円周方向となる爪支持面13dと、爪部16aに圧接する押圧部13eとを備えている。押圧部13eは爪部16aに対して線接触できるように係合部13cの、ラッチ軸12の放射方向における外端角部に形成される。
【0035】
第2実施例では、ラチェットバネ18の弾力でラッチ係合方向に移動する爪部16aは、図8のように、その角部16fが爪支持面13dに当接する。この当接により、ラチェット部材16のラッチ係合方向への移動位置(ラッチ係合位置・噛合位置)が精密に保たれる。ラッチ係合位置に保持されたラチェット部材16の爪部16aには、フルラッチ余剰回転位置まで時計回転した後、アンラッチ戻し力によりアンラッチ方向に戻されたラッチ13(係合部13c)の押圧部13eが当接する。この当接は線接触であるため、爪部16aが係合部13cから離脱する際の動作が円滑になり、速やかな係合解除が期待できる。
【符号の説明】
【0036】
10…車両ドアラッチ装置、11…ベースプレート、11a…ストライカ進入路、12…ラッチ軸、13…ラッチ、13a…ストライカ係合溝、13b…外周縁、13c…係合部、13d…爪支持面、13e…押圧部、14…ラッチバネ、15…ストライカ、16…ラチェット部材、16a…爪部、16b…基端支持部、16c…先端回動部、16d…二叉部、16e…ピン、16f…角部、17…ラチェット軸、18…ラチェットバネ、19…リリース分力、20…ラチェット抑え、20a…カム面、21…ピン、22…カム付勢バネ、23…引張連結バネ、24…ラッチ荷重線分、25…ラチェット保持線分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11