(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687258
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】複合フィルムの再生方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/08 20060101AFI20200413BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
C08J11/08ZAB
C08J11/08CES
C08J3/20 ZCES
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-90260(P2018-90260)
(22)【出願日】2018年5月8日
(65)【公開番号】特開2019-196429(P2019-196429A)
(43)【公開日】2019年11月14日
【審査請求日】2018年8月4日
【審判番号】不服2019-5767(P2019-5767/J1)
【審判請求日】2019年4月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316007388
【氏名又は名称】株式会社MSC
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】麦谷 貴司
(72)【発明者】
【氏名】坂庭 貞夫
【合議体】
【審判長】
須藤 康洋
【審判官】
大畑 通隆
【審判官】
大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−105786(JP,A)
【文献】
特開2005−336217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28
C08J11/00-11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとを少なくとも張り合わせた複合フィルムを再生する複合フィルムの再生方法であって、
前記複合フィルムに相溶化剤を添加し、二軸押出機を用いて、オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度で加熱すると共に、せん断力を加えて、溶融及び混練する溶融混練工程を含み、
前記溶融混練工程では、190℃以上210℃以下の温度で加熱する
ことを特徴とする複合フィルムの再生方法。
【請求項2】
前記相溶化剤として、ステアリン酸類、ヒドロキスステアリン酸類、ベヘン酸類、モンタン酸類、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂類、エチレンプロピレンジエンゴム、及び、水素添加型ポリマーからなる群のうちの少なくとも1種を添加することを特徴とする請求項1記載の複合フィルムの再生方法。
【請求項3】
前記溶融混練工程において、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムからなる群のうちの少なくとも1種を添加して、溶融及び混練することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の複合フィルムの再生方法。
【請求項4】
前記溶融混練工程において、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、熱安定剤、無機鉱物、着色剤、及び、機能性樹脂からなる群のうちの少なくとも1種を添加して、溶融及び混練することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載の複合フィルムの再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとを少なくとも張り合わせた複合フィルムを再生する複合フィルムの再生方法及び複合フィルムの再生物に関する。
【背景技術】
【0002】
複合フィルムは、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂を主素材とし、これにナイロン(ポリアミド;PA)やポリエチレンテレフタレート(PET)等の他の合成樹脂を副素材としてラミネートコーティングを行い、熱や接着剤で張り合わせたものである。この複合フィルムは、気温差による伸縮や強度を強化したものであり、現在、食品パッケージ等に多く用いられている。しかし、この複合フィルムは、主素材と副素材の樹脂間に結合がなく、互いに相溶性を有さないので、再生しようとしても物性が低下した低品質のものしか得ることができないという問題があった。そのため、再生による再利用が難しく、産業廃棄物として廃棄されていることが多かった。
【0003】
また、近年、商品の鮮度保持のために、樹脂以外に金属や酸化チタン等を添加し、酸化劣化防止効果、吸湿防止効果、又は、遮光効果を高めたものも多く用いられている。そのため、一段と構造が複雑化し、樹脂間の相溶性がより一層阻害されてしまい、産業廃棄物が増加する要因となっている。
【0004】
そのため、単一素材よりなる架橋ポリエチレン系樹脂の再生については、再生処理による再利用が図られているが(例えば、特許文献1参照)、複合フィルムの再生については開発が進んでいないのが現実である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6150359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、高い品質を得ることができる複合フィルムの再生方法及び複合フィルムの再生物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合フィルムの再生方法は、オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとを少なくとも張り合わせた複合フィルムを再生するものであって、複合フィルムに相溶化剤を添加し、オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度で加熱すると共に、せん断力を加えて、溶融及び混練する溶融混練工程を含むものである。
【0008】
本発明の複合フィルムの再生物は、オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとを少なくとも張り合わせた複合フィルムを再生することにより得られたものであり、オレフィン系樹脂と他の合成樹脂とが相溶しているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度で加熱すると共に、せん断力を加えて、溶融及び混練するようにしたので、他の合成樹脂を微細化してオレフィン系樹脂で包み込むことができ、疑似相溶性を向上させることができる。また、相溶化剤を添加するようにしたので、オレフィン系樹脂と他の合成樹脂との界面の密着性を向上させることができる。更に、オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度で加熱するので、オレフィン系樹脂が熱ダメージを受け、特性が劣化してしまうことを抑制することができる。よって、オレフィン系樹脂の特性を損なうことなく、オレフィン系樹脂と他の合成樹脂とを安定して相溶させることにより新しい特性を得ることができる。従って、高い品質を安定して有する複合フィルムの再生物を得ることができる。
【0010】
特に、加熱温度を170℃以上220℃以下とすれば、又は、相溶化剤として、ステアリン酸類、ヒドロキスステアリン酸類、ベヘン酸類、モンタン酸類、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂類、エチレンプロピレンジエンゴム、及び、水素添加型ポリマーからなる群のうちの少なくとも1種を添加するようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0011】
また、溶融混練工程において、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムからなる群のうちの少なくとも1種を添加するようにすれば、複合フィルムの吸水及び水の付着があっても、酸化マグネシウム又は酸化カルシウムにより水分子を捕獲して安定化合物に置換することができる。よって、水が気化して発泡することを抑制することができ、安全に安定して複合フィルムを再生することができる。
【0012】
更に、溶融混練工程において、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、熱安定剤、無機鉱物、着色剤、及び、機能性樹脂からなる群のうちの少なくとも1種を添加するようにすれば、複合フィルムの再生と同時に、再生物に特定の物性や機能を持たせることができる。よって、再生処理の後、特定の機能を付加する処理を行う必要がなく、製造工程を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る複合フィルムの再生方法の工程を表す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係る複合フィルムの再生方法の工程を表すものである。本実施の形態に係る複合フィルムの再生方法は、オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとを少なくとも張り合わせた複合フィルムを再生するものであり、複合フィルムを原料として、新しい材料を製造するものである。
【0016】
複合フィルムを構成するオレフィン系樹脂フィルムは、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂よりなるフィルムである。他の構成樹脂フィルムとしては、例えば、ナイロン(ポリアミド;PA)やポリエチレンテレフタレート(PET)等よりなるフィルムが挙げられる。オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとは、例えば、熱や接着剤で張り合わされている。また、複合フィルムは、例えば、樹脂フィルム以外に、アルミニウム箔等の金属箔を有していてもよく、樹脂フィルムに金属や酸化チタン等が添加されていてもよい。
【0017】
なお、複合フィルムは、未使用品(新材)でも、使用済みの廃材でもよく、新材と廃材の混合物でもよい。複合フィルムは、例えば、食品パッケージに多く用いられており、廃材はその使用済材料から得られるが、生産工程で生じる未使用の端材や成形不良品等からも得ることができる。
【0018】
本実施の形態に係る複合フィルムの再生方法では、まず、例えば、原料の複合フィルムを用意する。原料の複合フィルムは粉砕することが好ましく、例えば、平均粒径は3mm以上25mm以下、更には6mm以上10mm以下とすることが好ましい(ステップS101)。3mmよりも細かいと粉砕コストが上昇してしまうからである。また、25mmよりも大きいと生産機への供給不具合及び溶融偏析が生じてしまう場合があるからである。
【0019】
次いで、原料の複合フィルムに相溶化剤を添加し、加熱すると共にせん断力を加えて、溶融及び混練する(ステップS102;溶融混練工程)。その際の加熱温度は、オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満とする。すなわち、オレフィン系樹脂が溶融し、他の合成樹脂が溶融しない温度とする。他の合成樹脂が溶融する温度まで高くすると、オレフィン系樹脂が熱ダメージを受け、特性が劣化してしまうからである。
【0020】
また、オレフィン系樹脂とナイロンやポリエチレンテレフタレート等の他の合成樹脂とは相溶性がないので、せん断力を加えて混練することにより、他の合成樹脂を微細化してオレフィン系樹脂で包み込み、疑似相溶性を向上させることができるからである。これは、微細化することにより、粒子径が小さくなり界面積が著しく増大して、衝撃を受けた時に界面にてミクロクレーズやボイドが発生し、エネルギーを吸収することによるものと考えられる。更に、粒子間距離が著しく近くなっているので、粒子間もしくはボイド間でポリマーが塑性変形をおこし、エネルギーを吸収することによるとも考えられる。
【0021】
加熱温度は、例えば、170℃以上220℃以下とすることが好ましく、190℃以上210℃以下とすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0022】
相溶化剤は、オレフィン系樹脂と他の合成樹脂との界面の密着性を向上させ、相溶性を高めるものである。相溶化剤としては、例えば、ステアリン酸類、ヒドロキスステアリン酸類、ベヘン酸類、モンタン酸類、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂類、エチレンプロピレンジエンゴム、及び、水素添加型ポリマーからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。特に、ステアリン酸類は、様々な樹脂との界面活性効果及び相溶性に優れる上、比較的安価で入手しやすく、樹脂加工分野にて長年使用されている実績がある。また、ヒドロキスステアリン酸類、ベヘン酸類、及び、モンタン酸類は、更に卓越した界面活性効果、滑性、相溶性、及び、耐熱性等の特性を有する。更に、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂類は、疎水性のPPセグメントと親水性の無水カルボン酸のセグメントを有しており、PPセグメントはオレフィン系樹脂と親和性があり、無水カルボン酸のセグメントはナイロンなどの高極性の樹脂と親和性があるので、オレフィン系樹脂とナイロンやポリエチレンテレフタレート等の他の合成樹脂との相溶性を高めることができる。
【0023】
相溶化剤の添加量は、例えば、原料の複合フィルム100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。添加量が少なすぎるとオレフィン系樹脂と他の合成樹脂や混合物とを十分に相溶させることができず、添加量が多すぎるとコストが上昇してしまうと共に、相溶化剤自体の特性が表れ目的とするオレフィン類の物性から乖離してしまうからである。
【0024】
溶融混練工程では、また、原料の複合フィルムに、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムのうちの少なくとも一方を含む発泡防止剤を添加することが好ましい。原料に廃棄物を用いる場合には屋外で保管されていることも多く、雨水や結露などにより水の付着や材質により吸水が起きていることがある。水が付着していても、材料特性による吸水が生じていても、酸化マグネシウム又は酸化カルシウムにより水分子を捕獲して安定化合物に置換することができるので、水が気化して発泡することを抑制することができるからである。
【0025】
なお、酸化マグネシウム、又は、酸化カルシウムをそれぞれ単体で用いるようにしてもよいが、両方添加した方がより高い効果を得ることができる場合もある。その時の酸化マグネシウムと酸化カルシウムとの比率は、目的に応じて調整することが好ましい。発泡防止剤の添加量は、樹脂の吸水率、付着水分量により理論的に算出可能である、例えば酸化カルシウム用いて、原料の複合フィルムの吸水率が1%であれば、原料の複合フィルム100質量部に対して3質量部以上5質量部以下とすることが好ましい。添加量が少なすぎると発泡を十分に抑制することができず、添加量が多すぎると価格が高くなり、また、再生物の特性が添加物の影響を受けるので目標とする物性と乖離してしまうからである。
【0026】
溶融混練工程では、更に、原料の複合フィルムに、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、熱安定剤、無機鉱物、着色剤、及び、機能性樹脂からなる群のうちの少なくとも1種を添加してもよい。複合フィルムの再生と同時に、再生物に特定の物性や機能を持たせることができるからである。
【0027】
なお、溶融混練工程では、例えば、高混練分散操作が可能な機器を用いることが好ましい。高混練分散機としては、例えば、ロールミル、バンバリーミキサー、ニーダー、二軸押出機が挙げられるが、二軸押出機を用いるようにすればより好ましい。連続生産することができ、かつ、セグメント化されたスクリューの組み合わせにより材料に応じた相溶性を高めることができるからである。
【0028】
これにより得られた複合フィルムの再生物は、オレフィン系樹脂と他の合成樹脂とが相溶しており、高い品質を安定して得ることができる。
【0029】
このように、本実施の形態によれば、オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度で加熱すると共に、せん断力を加えて、溶融及び混練するようにしたので、他の合成樹脂を微細化してオレフィン系樹脂で包み込むことができ、疑似相溶性を向上させることができる。また、相溶化剤を添加するようにしたので、オレフィン系樹脂と他の合成樹脂との界面の密着性を向上させることができる。更に、オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度で加熱するので、オレフィン系樹脂が熱ダメージを受け、特性が劣化してしまうことを抑制することができる。よって、オレフィン系樹脂の特性を損なうことなく、オレフィン系樹脂と他の合成樹脂とを安定して相溶させることにより新しい特性を得ることができる。従って、高い品質を安定して有する複合フィルムの再生物を得ることができる。
【0030】
特に、加熱温度を170℃以上220℃以下とすれば、又は、相溶化剤として、ステアリン酸類、ヒドロキスステアリン酸類、ベヘン酸類、モンタン酸類、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂類、エチレンプロピレンジエンゴム、及び、水素添加型ポリマーからなる群のうちの少なくとも1種を添加するようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0031】
また、溶融混練工程において、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムからなる群のうちの少なくとも1種を添加するようにすれば、複合フィルムの吸水及び水の付着があっても、酸化マグネシウム又は酸化カルシウムにより水分子を捕獲して安定化合物に置換することができる。よって、水が気化して発泡することを抑制することができ、安全に安定して複合フィルムを再生することができる。
【0032】
更に、溶融混練工程において、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、熱安定剤、無機鉱物、着色剤、及び、機能性樹脂からなる群のうちの少なくとも1種を添加するようにすれば、複合フィルムの再生と同時に、再生物に特定の物性や機能を持たせることができる。よって、再生処理の後、特定の機能を付加する処理を行う必要がなく、製造工程を簡素化することができる。
【0033】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、また、他の構成要素を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
複合フィルムの再生に用いることができる。