特許第6687263号(P6687263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6687263生体情報分析装置、システム、プログラム、及び、生体情報分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687263
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】生体情報分析装置、システム、プログラム、及び、生体情報分析方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20200413BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20200413BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20200413BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   A61B5/02 310P
   A61B5/02 310J
   A61B5/02 310Z
   A61B5/11 200
   A61B5/08
   A61B5/022 400E
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-512087(P2018-512087)
(86)(22)【出願日】2017年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2017015275
(87)【国際公開番号】WO2017179694
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2018年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-82463(P2016-82463)
(32)【優先日】2016年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100138357
【弁理士】
【氏名又は名称】矢澤 広伸
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】笠井 誠朗
(72)【発明者】
【氏名】閑 絵里子
(72)【発明者】
【氏名】上野山 徹
(72)【発明者】
【氏名】尾林 慶一
(72)【発明者】
【氏名】小久保 綾子
(72)【発明者】
【氏名】太田 雄也
(72)【発明者】
【氏名】志賀 利一
(72)【発明者】
【氏名】桑原 光巨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博則
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健
(72)【発明者】
【氏名】堤 正和
【審査官】 伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−223271(JP,A)
【文献】 国際公開第97/038626(WO,A1)
【文献】 特開平08−317912(JP,A)
【文献】 特開2010−022689(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/178439(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 − 5/01
A61B 5/02 − 5/03
A61B 5/06 − 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換し、前記周波数スペクトルにおける所定の周波数成分の強度に基づいて、血圧波形計測中の体動の発生に関わる指標を抽出する指標抽出部と、
抽出された前記指標に基づく処理を行う処理部と、
を有し、
前記指標抽出部は、身体の複数の部位についてそれぞれ前記指標を算出するものであり、
前記指標の算出に用いられる周波数成分が部位ごとに異なる
ことを特徴とする生体情報分析装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記指標に基づいて、血圧波形計測中に体動が発生したか否かを判定する処理を行う
ことを特徴とする請求項に記載の生体情報分析装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、血圧波形計測中に体動が発生したと判定する
ことを特徴とする請求項に記載の生体情報分析装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、前記血圧波形の時系列データから血圧波形中の体動に起因するノイズを低減する処理を行う
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体情報分析装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、前記血圧波形の時系列データに含まれる所定の周波数成分をカット又は低減する処理を行う
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体情報分析装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、前記血圧波形の時系列データを破棄する処理を行う
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体情報分析装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、前記血圧波形の時系列データに対し、信頼性が低いことを示す情報を付加する処理を行う
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体情報分析装置。
【請求項8】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換し、前記周波数スペクトルにおける所定の周波数成分の強度に基づく指標を抽出する指標抽出部と、
抽出された前記指標に基づく処理を行う処理部と、
を有し、
前記指標抽出部は、前記周波数スペクトルにおける前記所定の周波数成分の強度に基づいて、前記周波数スペクトルにおける無呼吸の発生に起因する周波数成分が現れる周波数帯のスペクトルの合計値を求め、前記合計値に応じて、前記周波数帯の周波数成分が多いほど大きい値をとる無呼吸の発生レベルを表す指標を抽出する
ことを特徴とする生体情報分析装置。
【請求項9】
前記処理部は、前記指標に基づいて、前記ユーザの呼吸器及び/又は循環器の機能に関連する情報を出力する
ことを特徴とする請求項に記載の生体情報分析装置。
【請求項10】
前記処理部は、無呼吸の発生レベルが閾値より高い場合に警告を出力する処理を行う
ことを特徴とする請求項8または9に記載の生体情報分析装置。
【請求項11】
前記指標抽出部は、異なる日時に計測された血圧波形の時系列データから、異なる日時における前記指標を抽出し、
前記処理部は、前記異なる日時に計測された血圧波形の時系列データの周波数スペクトルを、それぞれ異なる日時における前記指標と関連付けて並べて出力する
ことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の生体情報分析装置。
【請求項12】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサと、
前記センサにより連続的に計測される血圧波形のデータを用いて、生体情報の分析を行う、請求項1〜11のいずれかに記載の生体情報分析装置と、
を有することを特徴とする生体情報分析システム。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の生体情報分析装置の前記指標抽出部及び前記処理部としてプロセッサを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項14】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換し、前記周波数スペクトルにおける所定の周波数成分の強度に基づいて、血圧波形計測中の体動の発生に関わる指標を抽出するステップと、
抽出された前記指標に基づく処理を行うステップと、
を有し、
前記指標を抽出するステップでは、身体の複数の部位についてそれぞれ前記指標を算出するものであり、
前記指標の算出に用いられる周波数成分が部位ごとに異なる
ことを特徴とする生体情報分析方法。
【請求項15】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換し、前記周波数スペクトルにおける所定の周波数成分の強度に基づく指標を抽出するステップと、
抽出された前記指標に基づく処理を行うステップと、
を有し、
前記指標を抽出するステップでは、前記周波数スペクトルにおける前記所定の周波数成分の強度に基づいて、前記周波数スペクトルにおける無呼吸の発生に起因する周波数成分が現れる周波数帯のスペクトルの合計値を求め、前記合計値に応じて、前記周波数帯の周波数成分が多いほど大きい値をとる無呼吸の発生レベルを表す指標を抽出する
ことを特徴とする生体情報分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測した血圧波形から有益な情報を取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
橈骨(とうこつ)動脈の内圧変化を計測し、圧脈波の形状(血圧波形)を記録する技術が知られている。特許文献1(特開2008−61824号公報)には、トノメトリ法により血圧波形を計測し、血圧波形からAI(Augmentation Index)値、脈波周期、基線変動率、鮮鋭度、ET(Ejection Time)などの情報を取得することが開示されている。また、特許文献2(特表2005−532111号公報)には、腕時計型の血圧計により血圧波形を計測し、血圧波形から平均動脈圧、平均収縮期圧、平均拡張期圧、平均収縮期圧指数、及び、平均拡張期圧指数を計算し、これらの値が基準値から逸脱した場合にアラートを出力することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−61824号公報
【特許文献2】特表2005−532111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、自由行動下における1心拍ごとの血圧波形を正確に計測可能な血圧測定デバイスの実用化に向け、鋭意開発を進めている。その開発過程における被験者実験を通じて、本発明者らは、自由行動下における1心拍ごとの連続的な血圧波形をモニタリングすることで、ユーザの身体に生じた事象に関する情報を抽出できる可能性があることを見出した。例えば、自由行動下では血圧波形計測中にユーザが身体を動かすことが当然に予定されているが、ユーザの身体の動きや姿勢の変化は血圧波形に影響を及ぼす可能性がある。また、ユーザの呼吸器や循環器の状態に変化ないし異常が発生した場合(例えば、無呼吸が発生した場合など)も血圧波形に影響を及ぼす可能性がある。しかしながら、この種の情報は、血圧波形の形状や時間的な変化を評価するだけでは抽出することが難しい。
【0005】
そこで本発明は、血圧波形の時系列データから有益な情報を抽出するための新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は以下の構成を採用する。
【0007】
本発明に係る生体情報分析装置は、ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換し、前記周波数スペクトルにおける所定の周波数成分の強度に基づく指標を抽出する指標抽出部と、抽出された前記指標に基づく処理を行う処理部と、を有することを特徴とする生体情報分析装置である。血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換すると、個々の血圧波形(原波形)の形状やその時間的な変化からは分からない特徴が表出する。したがって、本発明の構成によれば、血圧変動に関わる情報(特に、個々の血圧波形の形状やその時間的な変化をみるだけでは検出することが困難な情報)を比較的簡易な処理で抽出することができる。
【0008】
前記指標抽出部は、前記周波数スペクトルにおける前記所定の周波数成分の強度に基づいて、血圧波形計測中の体動の発生に関わる指標を抽出するとよい。血圧波形計測中に身体のある部位を動かすと、周波数スペクトルにおける所定の周波数成分が有意に増加することが認められる。したがって、所定の周波数成分の強度を体動検出に利用することができる。このとき、前記処理部は、前記指標に基づいて、血圧波形計測中に体動が発生したか否かを判定する処理を行うとよい。また、前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、血圧波形計測中に体動が発生したと判定してもよい。このような処理により血圧波形計測中の体動発生の有無を簡易に判定できる。体動の有無に関する情報は、血圧波形の時系列データを利用する上で、非常に有益である。
【0009】
前記指標抽出部は、身体の複数の部位についてそれぞれ前記指標を算出するものであり、前記指標の算出に用いられる周波数成分が部位ごとに異なるとよい。これにより、身体の複数の部位について、血圧波形計測中の体動の有無を個別に検出することができる。
【0010】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、前記血圧波形の時系列データから血圧波形中の体動に起因するノイズを低減する処理を行うとよい。これにより、血圧波形の時系列データの信頼性を向上することができる。
【0011】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、前記血圧波形の時系列データに含まれる所定の周波数成分をカット又は低減する処理を行ってもよい。これにより、血圧波形の時系列データの信頼性を向上することができる。
【0012】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、前記血圧波形の時系列データを破棄する処理を行ってもよい。これにより、信頼性が低い可能性のある、血圧波形の時系列データを自動で破棄することができるため、生体情報の分析などの後段の処理に信頼性の低いデータが利用されることを防止できる。
【0013】
前記処理部は、前記指標が閾値より高い場合に、前記血圧波形の時系列データに対し、信頼性が低いことを示す情報を付加する処理を行ってもよい。このような信頼性情報を付加することにより、血圧波形の時系列データの信頼性を保証することができる。よって、生体情報の分析などの後段の処理に信頼性の低いデータが利用されることを防止できる。
【0014】
前記指標抽出部は、前記周波数スペクトルにおける前記所定の周波数成分の強度に基づいて、前記ユーザの呼吸器及び/又は循環器の機能に関連する指標を抽出するとよい。さらに、前記処理部は、前記指標に基づいて、前記ユーザの呼吸器及び/又は循環器の機能に関連する情報を出力するとよい。この構成によれば、血圧波形の時系列データそのものから、呼吸器や循環器の機能に関連する情報を得ることができる。
【0015】
例えば、血圧波形計測中に無呼吸が発生すると、周波数スペクトルにおける所定の周波数成分が有意に増加することを、本発明者らは見出した。したがって、前記指標抽出部は、前記指標として、無呼吸の発生レベルを表す指標を抽出してもよい。
【0016】
前記処理部は、無呼吸の発生レベルが閾値より高い場合に警告を出力する処理を行うとよい。また、前記指標抽出部は、異なる日時に計測された血圧波形の時系列データから、異なる日時における前記指標を抽出し、前記処理部は、異なる日時における前記指標に基づいて、前記ユーザの呼吸器及び/又は循環器の機能の時間的な変化を示す情報を出力するとよい。このような情報出力を行うことにより、ユーザや医師などに、無呼吸の発生に関する参考情報を提供することができる。
【0017】
本発明に係る生体情報分析システムは、ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサと、前記センサにより連続的に計測される血圧波形のデータを用いて、生体情報の分析を行う生体情報分析装置と、を有することを特徴とする生体情報分析システムである。
【0018】
なお、本発明は、上記構成ないし機能の少なくとも一部を有する生体情報分析装置ないしシステムとして捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む生体情報分析方法、又は、かかる方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、又は、そのようなプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体として捉えることもできる。上記構成及び処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、血圧波形のデータを基に新規かつ有益な情報を取得するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は生体情報分析システム10の外観の概略構成を示す図である。
図2図2は生体情報分析システム10のハードウエア構成を示すブロック図である。
図3図3は血圧測定ユニット20の構造と測定時の状態を模式的に示す断面図である。
図4図4は血圧測定ユニット20で測定される血圧波形を示す図である。
図5図5は生体情報分析装置1の処理を説明するブロック図である。
図6図6は1心拍の橈骨動脈の圧脈波の波形(血圧波形)を示す図である。
図7図7は実施例1における体動検出処理のフローチャートである。
図8図8は実施例1における血圧波形の周波数スペクトルの一例を示す図である。
図9図9は実施例2における息こらえ解放後一定区間の血圧波形データの周波数スペクトルの一例を示す図である。
図10図10は実施例2における睡眠時無呼吸検出処理のフローチャートである。
図11図11A及び図11Bは実施例2における解析結果の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。ただし、以下に記載されている各構成の説明は、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0022】
<生体情報分析システム>
図1は、本発明の一実施形態に係る生体情報分析システム10の外観の概略構成を示す図である。図1は生体情報分析システム10を左手首に装着した状態を示している。生体情報分析システム10は、本体部11と、本体部11に固定されたベルト12と、を備える。生体情報分析システム10は、いわゆるウェアラブル型のデバイスであり、本体部11が手首内側の皮膚に接触し、かつ、皮下に存在する橈骨動脈TDの上に本体部11が配置されるように、装着される。なお、本実施形態では橈骨動脈TD上に装置を装着する構成としたが、他の表在動脈上に装着する構成でもよい。
【0023】
図2は、生体情報分析システム10のハードウエア構成を示すブロック図である。生体情報分析システム10は、概略、測定ユニット2と生体情報分析装置1を有する。測定ユニット2は、生体情報の分析に利用する情報を測定により取得するデバイスであり、血圧測定ユニット20、体動測定ユニット21、環境測定ユニット22を含む。ただし、測定ユニット2の構成は図2のものに限られない。例えば、血圧や体動以外の生体情報(体温、血糖、脳波など)を測定するユニットを追加してもよい。あるいは、後述する実施例で利用しないユニットは必須の構成ではないので、生体情報分析システム10に搭載しなくてもよい。生体情報分析装置1は、測定ユニット2から得られる情報を基に生体情報の分析を行うデバイスであり、制御ユニット23、入力ユニット24、出力ユニット25、通信ユニット26、記憶ユニット27を含む。各ユニット20〜27は、ローカルバスその他の信号線を介して信号がやり取りできるよう、互いに接続されている。また生体情報分析システム10は、不図示の電源(バッテリ)を有する。
【0024】
血圧測定ユニット20は、トノメトリ法により橈骨動脈TDの圧脈波を測定するユニットである。トノメトリ法は、皮膚の上から動脈を適切な圧力で押圧して動脈TDに扁平部を形成し、動脈内圧と外圧をバランスさせて、圧力センサにより非侵襲的に圧脈波を計測する方法である。
【0025】
体動測定ユニット21は、3軸加速度センサを含み、このセンサによりユーザの身体の動き(体動)を測定するユニットである。体動測定ユニット21は、当該3軸加速度センサの出力を、制御ユニット23が読み取り可能な形式に変換する回路を含んでいてもよい。
【0026】
環境測定ユニット22は、ユーザの心身の状態(特に血圧)に影響を与え得る環境情報を測定するユニットである。環境測定ユニット22は、例えば、気温センサ、湿度センサ、照度センサ、高度センサ、位置センサなどを含むことができる。環境測定ユニット22は、これらのセンサなどの出力を、制御ユニット23が読み取り可能な形式に変換する回路を含んでいてもよい。
【0027】
制御ユニット23は、生体情報分析システム10の各部の制御、測定ユニット2からのデータの取り込み、取り込んだデータの記録ユニット27への格納、データの処理・分析、データの入出力などの各種処理を担うユニットである。制御ユニット23は、ハードウェアプロセッサ(以下、CPUと呼ぶ)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random
Access Memory)、などを含む。後述する制御ユニット23の処理は、CPUがROM又は記憶ユニット27に記憶されているプログラムを読み込み実行することにより実現される。RAMは、制御ユニット23が各種処理を行う際のワークメモリとして機能する。なお、本実施形態では、測定ユニット2からのデータの取り込み、及び、記憶ユニット27へのデータの格納を制御ユニット23が実行する構成としたが、測定ユニット2から記憶ユニット27へ直接データが格納(書き込み)されるように構成してもよい。
【0028】
実施形態の各構成要素、例えば、測定ユニット、指標抽出部、処理部、判断部、リスクデータベース、入力ユニット、出力ユニット及び、症例データベース等は、生体情報分析システム10にハードウエアで実装されてもよい。指標抽出部、処理部、及び判断部は、記憶ユニット27に格納された実行可能なプログラムを受信して実行してもよい。指標抽出部、処理部、及び判断部は、必要に応じて血圧測定ユニット20、体動測定ユニット21、環境測定ユニット22、入力ユニット24、出力ユニット25、通信ユニット26、記憶ユニット27等からデータを受信してもよい。リスクデータベース及び症例データベース等のデータベースは、記憶ユニット27等で実装され、データを検索や蓄積が容易にできるよう整理された情報を格納してもよい。ここで、例えば、生体情報分析システム10の構造や動作等については、特願2016−082069号に開示される。その内容は、引用により本明細書に組み込まれる。また、血圧測定ユニットの構造や動作等については、特開2016−087003号公報に開示される。その内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0029】
入力ユニット24は、ユーザに対し操作インタフェースを提供するユニットである。例えば、操作ボタン、スイッチ、タッチパネルなどを用いることができる。
【0030】
出力ユニット25は、ユーザに対し情報出力を行うインタフェースを提供するユニットである。例えば、画像により情報を出力する表示装置(液晶ディスプレイなど)、音声により情報を出力する音声出力装置やブザー、光の明滅により情報を出力するLED、振動により情報を出力する振動装置などを用いることができる。
【0031】
通信ユニット26は、他のデバイスとの間でデータ通信を行うユニットである。データ通信方式は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)などどのような方式でもよい。
【0032】
記憶ユニット27は、データの記憶及び読み出しが可能な記憶媒体であり、制御ユニット23で実行されるプログラム、各測定ユニットから得られた測定データ、測定データを処理することで得られた各種のデータなどを記憶する。記憶ユニット27は、記憶対象となる情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積する媒体である。例えばフラッシュメモリが用いられる。記憶ユニット27は、メモリカード等の可搬型のものであってもよいし、生体情報分析システム10に内蔵されていてもよい。
【0033】
体動測定ユニット21、環境測定ユニット22、制御ユニット23、入力ユニット24、出力ユニット25、記憶ユニット27の一部又は全部を、本体部11とは別のデバイスで構成してもよい。すなわち、血圧測定ユニット20とその制御を行う回路を内蔵する本体部11が手首に装着可能な形態であれば、それ以外のユニットの構造については自由に設計できる。この場合、本体部11は通信ユニット26を介して別のユニットと連携する。例えば、制御ユニット23や入力ユニット24や出力ユニット25の機能をスマートフォンのアプリで構成したり、体動測定ユニット21や環境測定ユニット22の機能を有する活動量計から必要なデータを取得する等、さまざまな構成が考えられる。また、血圧以外の生体情報を測定するセンサを設けてもよい。例えば、睡眠センサ、パルスオキシメーター(SpO2センサ)、呼吸センサ(フローセンサ)、血糖値センサなどを組み合わせてもよい。
【0034】
なお、本実施形態では、血圧を測定するセンサ(血圧測定ユニット20)と血圧波形データの分析処理を行う構成(制御ユニット23等)を1つの装置内に設けたが、それらを別体の構成としてもよい。本実施形態では、生体情報の分析処理を行う構成(制御ユニット23等)を生体情報分析装置と呼び、測定ユニットと生体情報分析装置の組み合わせで構成される装置を生体情報分析システムと呼ぶ。しかし、名称は便宜的なものであり、測定ユニットと生体情報の分析処理を行う構成の全体を生体情報分析装置と呼んでもよいし、他の名称を用いてもよい。
【0035】
<血圧波形の測定>
図3は血圧測定ユニット20の構造と測定時の状態を模式的に示す断面図である。血圧測定ユニット20は、圧力センサ30と、圧力センサ30を手首に対して押圧するための押圧機構31と、を備える。圧力センサ30は、複数の圧力検出素子300を有している。圧力検出素子300は、圧力を検出して電気信号に変換する素子であり、例えばピエゾ抵抗効果を利用した素子などを好ましく用いることができる。押圧機構31は、例えば、空気袋とこの空気袋の内圧を調整するポンプとにより構成される。制御ユニット23がポンプを制御し空気袋の内圧を高めると、空気袋の膨張により圧力センサ30が皮膚表面に押し当てられる。なお、押圧機構31は、圧力センサ30の皮膚表面に対する押圧力を調整可能であれば何でもよく、空気袋を用いたものに限定されない。
【0036】
生体情報分析システム10を手首に装着し起動すると、制御ユニット23が血圧測定ユニット20の押圧機構31を制御し、圧力センサ30の押圧力を適切な状態(トノメトリ状態)に維持する。そして、圧力センサ30で検知された圧力信号が制御ユニット23に順次取り込まれる。圧力センサ30より得られる圧力信号は、圧力検出素子300が出力するアナログの物理量(例えば電圧値)を、公知の技術のA/D変換回路等を通してデジタル化して生成される。当該アナログの物理量は、圧力検出素子300の種類に応じて、電流値や抵抗値など好適なアナログ値が採用されてよい。当該A/D変換等の信号処理は、血圧測定ユニット20の中に所定の回路を設けて行ってもよいし、血圧測定ユニット20と制御ユニット23の間に設けたその他のユニット(図示せず)で行ってもよい。制御ユニット23に取り込まれた当該圧力信号は、橈骨動脈TDの内圧の瞬時値に相当する。したがって、1心拍の血圧波形を把握することが可能な時間粒度及び連続性で圧力信号を取り込むことにより、血圧波形の時系列データを取得することができる。制御ユニット23は、圧力センサ30より順次取り込んだ圧力信号をその測定時刻の情報とともに記憶ユニット27に格納する。制御ユニット23は、取り込んだ圧力信号をそのまま記憶ユニット27に格納してもよいし、当該圧力信号に対して必要な信号処理を施した後で記憶ユニット27に格納してもよい。必要な信号処理は、例えば、圧力信号の振幅が血圧値(例えば上腕血圧)と一致するように圧力信号を較正する処理、圧力信号のノイズを低減ないし除去する処理などを含んでもよい。
【0037】
図4は、血圧測定ユニット20で測定される血圧波形を示す。横軸が時間、縦軸が血圧である。サンプリング周波数は任意に設定できるが、1心拍の波形の形状的な特徴を再現するため、100Hz以上に設定することが好ましい。1心拍の周期は概ね1秒程度であるから、1心拍の波形について約100点以上のデータ点が取得されることとなる。
【0038】
本実施形態の血圧測定ユニット20は以下のような利点を有する。
【0039】
1心拍ごとの血圧波形を計測することができる。これにより例えば、血圧波形の形状的な特徴に基づき、血圧や心臓の状態、心血管リスクなどに関連する様々な指標を得ることができる。また、血圧の瞬時値を監視することができるため、血圧サージ(血圧値の急激な上昇)を即座に検出したり、極めて短い時間(1〜数回の心拍)だけに現れる血圧変動や血圧波形の乱れでも漏れなく検出することが可能となる。
【0040】
なお、携帯型血圧計としては、手首や上腕に装着しオシロメトリック法により血圧を測定するタイプの血圧計が実用化されている。しかし、従来の携帯型血圧計では、数秒から十数秒間の複数心拍分のカフ内圧の変動から血圧の平均値を測定することしかできず、本実施形態の血圧測定ユニット20のように1心拍ごとの血圧波形の時系列データを得ることはできない。
【0041】
血圧波形の時系列データを記録可能である。血圧波形の時系列データを取得することにより、例えば、血圧波形の時間的な変化に関わる特徴を捉えたり、時系列データを周波数解析して特定の周波数成分を抽出したりすることで、血圧や心臓の状態、心血管リスクなどに関連する様々な指標を得ることができる。
【0042】
携帯型(ウェアラブル型)の装置構成としたので、ユーザに与える測定負担が小さく、長時間の連続的な測定や、さらには24時間の血圧の監視なども比較的容易である。また、携帯型のため、安静時の血圧だけでなく、自由行動下(例えば日常生活や運動中)の血圧変化も測定可能である。これにより例えば、日常生活における行動(睡眠、食事、通勤、仕事、服薬など)や運動が血圧に与える影響を把握することが可能となる。
【0043】
従来製品は、血圧測定ユニットに対し腕及び手首を固定し、安静状態にて計測するタイプの装置であり、本実施形態の生体情報分析システム10のように日常生活や運動中の血圧変化を測定することはできない。
【0044】
他のセンサとの組み合わせや連携が容易である。例えば、他のセンサにより得られる情報(体動、気温等の環境情報、SpO2や呼吸等の他の生体情報など)との因果関係の評価や複合的な評価を行うことができる。
【0045】
<生体情報分析装置>
図5は、生体情報分析装置1の処理を説明するブロック図である。図5に示すように、生体情報分析装置1は、指標抽出部50と処理部51を有している。本実施形態では、制御ユニット23が必要なプログラムを実行することによって、指標抽出部50及び処理部51の処理が実現されてもよい。当該プログラムは、記憶ユニット27に記憶されていてもよい。制御ユニット23が必要なプログラムを実行する際は、ROM又は記憶ユニット27に記憶された、対象となるプログラムをRAMに展開する。そして、制御ユニット23は、RAMに展開された当該プログラムをCPUにより解釈及び実行して、各構成要素を制御する。ただし、指標抽出部50及び処理部51の処理の一部又は全部をASICやFPGAなどの回路で構成してもよい。あるいは、指標抽出部50及び処理部51の処理の一部又は全部を、本体部11とは別体のコンピュータ(例えば、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ、クラウドサーバなど)で実現してもよい。
【0046】
指標抽出部50は、血圧測定ユニット20により連続的に計測される血圧波形の時系列データを記憶ユニット27から取得する。指標抽出部50は、取得した血圧波形の時系列データから血圧波形の特徴に関わる指標を抽出する。ここで、血圧波形の特徴とは、1心拍の血圧波形の形状的な特徴、血圧波形の時間的な変化、血圧波形の周波数成分などを含む。しかし、血圧波形の特徴はこれらには限られない。抽出された指標は、処理部51へ出力される。血圧波形の特徴及び指標については様々なものがあり、処理部51による処理の目的に応じて、抽出する特徴及び指標は適宜設計ないし選択することができる。本実施形態の血圧波形の測定データから抽出可能な特徴及び指標については後ほど詳しく説明する。
【0047】
指標抽出部50は、指標を求める際に、血圧波形の測定データに加えて、体動測定ユニット21の測定データ及び/又は環境測定ユニット22の測定データを用いることもできる。また、図示しないが、睡眠センサ、SpO2センサ、呼吸センサ(フローセンサ)、血糖値センサなどの測定データを組み合わせてもよい。複数種類のセンサにより得られる複数種類の測定データを複合的に分析することによって、血圧波形のより高度な情報分析が可能となる。例えば、安静時と動作時、気温が高い時と低い時、睡眠が浅い時と深い時、呼吸時と無呼吸時というように、ユーザの状態ごとに血圧波形のデータを分類することができる。あるいは、体動、活動量や活動強度、気温の変化、無呼吸、呼吸の仕方などが血圧に与える影響を抽出するなど、各測定データの因果関係や相関などを評価することもできる。なお、無呼吸には、閉塞性無呼吸、中枢性無呼吸、混合性無呼吸などが含まれる。
【0048】
処理部51は、指標抽出部50によって抽出された指標を受信する。処理部51は、受信した指標に基づく処理を行う。指標に基づく処理には、様々なものが想定できる。例えば、抽出された指標の値や変化などをユーザや医師、保健師などに提示し、健康管理や治療や保健指導などへの活用を促してもよい。
【0049】
<血圧波形から取得される情報>
図6は1心拍の橈骨動脈の圧脈波の波形(血圧波形)を示している。横軸は時間t[msec]であり、縦軸は血圧BP[mmHg]である。
【0050】
血圧波形は、心臓が収縮し血液を送り出すことで発生する「駆出波」と、駆出波が末梢血管や動脈の分岐部で反射することにより発生する「反射波」との合成波となる。1心拍の血圧波形から抽出可能な特徴点の一例を以下に示す。
【0051】
・点F1は、圧脈波の立ち上がり点である。点F1は、心臓の駆出開始点、つまり大動脈弁の開放点に対応する。
・点F2は、駆出波の振幅(圧力)が最大となる点(第1ピーク)である。
・点F3は、反射波の重畳により、駆出波の立下りの途中で現れる変曲点である。
・点F4は、駆出波と反射波の間に現れる極小点であり、切痕とも呼ばれる。これは大動脈弁の閉鎖点に対応する。
・点F5は、点F4の後に現れる反射波のピーク(第2ピーク)である。
・点F6は、1心拍の終点であり、次の心拍の駆出開始点つまり次の心拍の始点に対応する。
【0052】
指標抽出部50は、上記特徴点の検出にどのようなアルゴリズムを用いてもよい。例えば、指標抽出部50が演算して、血圧波形のn次微分波形を求め、そのゼロクロス点を検出することにより、血圧波形の特徴点(変曲点)を抽出してもよい(点F1、F2、F4、F5、F6については1次微分波形から、点F3については2次微分波形又は4次微分波形から検出可能である。)。あるいは、指標抽出部50は、特徴点が予め配置された波形パターンを記憶ユニット27から読み出し、当該波形パターンを対象となる血圧波形にフィッティングすることにより、各特徴点の位置を特定してもよい。
【0053】
上記特徴点F1〜F6の時刻t及び圧力BPに基づき、指標抽出部50が演算して、1心拍の血圧波形から様々な情報(値、特徴量、指標など)を得ることができる。以下、血圧波形から取得可能な情報の代表的なものを例示する。ただし、txとBPxはそれぞれ特徴点Fxの時刻と血圧を表す。
【0054】
・脈波間隔(心拍周期)TA=t6−t1
・心拍数PR=1/TA
・脈波立上り時間UT=t2−t1
・収縮期TS=t4−t1
・拡張期TD=t6−t4
・反射波遅延時間=t3−t1
・最高血圧(収縮期血圧)SBP=BP2
・最低血圧(拡張期血圧)DBP=BP1
・平均血圧MAP=t1〜t6の血圧波形の面積/心拍周期TA
・収縮期の平均血圧=t1〜t4の血圧波形の面積/収縮期TS
・拡張期の平均血圧=t4〜t6の血圧波形の面積/拡張期TD
・脈圧PP=最高血圧SBP−最低血圧DBP
・収縮後期圧SBP2=BP3
・AI(Augmentation Index)=(収縮後期圧SBP2−最低血圧DBP)/脈圧PP
【0055】
これらの情報(値、特徴量、指標)の基本統計量も指標として用いることができる。基本統計量は、例えば、代表値(平均値、中央値、最頻値、最大値、最小値など)、散布度(分散、標準偏差、変動係数など)を含む。また、これらの情報(値、特徴値、指標)の時間的な変化も指標として用いることができる。
【0056】
また、指標抽出部50は、複数の拍情報を演算することでBRS(血圧調整能)という指標を得ることもできる。これは、血圧を一定に調整しようとする能力を表す指標である。算出方法は例えばSpontaneous sequence法などがある。これは、連続して3拍以上にわたり最高血圧SBPと脈波間隔TAとが同期して上昇、または下降するシーケンスのみを抽出し、最高血圧SBPと脈波間隔TAを2次元平面上にプロットし、回帰直線を最小二乗法により求めたときの傾きをBRSとして定義する方法である。
【0057】
以上述べたように、本実施形態の生体情報分析システム10を利用すれば血圧波形のデータから様々な情報を取得することができる。ただし、生体情報分析システム10に対し上述した全ての情報を取得する機能を実装する必要はない。生体情報分析システム10の構成、利用者、利用目的、利用場所などに応じて、必要な情報を取得する機能のみを実装すればよい。また、各機能をプログラムモジュール(アプリケーションソフト)として提供し、生体情報分析システム10に必要なプログラムモジュールをインストールすることで、機能追加を行えるような仕組みにしてもよい。
【0058】
以下、生体情報分析システム10の具体的な応用について、いくつかの実施例を例示的に説明する。
【0059】
<実施例1>
本実施例は、血圧波形の時系列データを用いて、測定中のユーザの体動を検出する例である。
【0060】
従来のトノメトリ法の血圧計は、安静状態での計測が前提であり、測定中にユーザが動くことは想定されていなかった。これに対し、本実施例のような携帯型の装置の場合、測定中にユーザが動く可能性を想定しなければならない。測定中にユーザが動くと、それがノイズとなって血圧波形に混入する。したがって、ユーザの体動を検出した場合は、そのときに計測した血圧波形のデータを破棄する(信頼性が低いため)、ユーザの体動に起因するノイズを低減する(ノイズ除去、又は、血圧波形のデータの補正)、血圧波形のデータに対し信頼性が低い旨のメタ情報を付加する、などの処理が有効である。以下、具体的な構成及び処理を説明する。
【0061】
図7に、本実施例の体動検出処理のフローチャートの一例を示す。まず、指標抽出部50が、記憶ユニット27から血圧波形のデータを読み込む(ステップ900)。例えば、数分間〜数時間程度の長さの時系列データが読み込まれる。指標抽出部50は、血圧波形のデータに対し周波数変換(例えば高速フーリエ変換)を施し、血圧波形の周波数スペクトルのデータを得る(ステップ901)。
【0062】
図8に血圧波形の周波数スペクトルの一例を示す。横軸が周波数、縦軸が強度(振幅)である。ここで、約3.3〜3.6Hzの周波数帯において明りょうなスペクトルピークが現れていることがわかる。本発明者らの実験の結果、次のような傾向があることがわかった。
(1)測定中にユーザが身体を動かすと、所定の周波数成分が有意に増加する。
(2)どの周波数帯の成分が増加するのかは、動かした部位に依存する(図8は指を動かした例である)。
【0063】
そこで、指標抽出部50は、「身体の部位」と「周波数帯」と「閾値」が対応付けられた設定テーブル90を参照し、「部位」ごとに、対応する「周波数帯」のスペクトル強度を算出する(ステップ902)。この特定の周波数帯のスペクトル強度を、測定中の体動の発生に関わる指標として用いることができる。本実施例では設定テーブル90は記憶ユニット27に格納されているが、設定テーブル90は生体情報分析装置1の外部のストレージやサーバ(例えば、クラウドサーバ、オンラインストレージなど)に存在してもよい。
【0064】
処理部51は、ステップS902で算出されたスペクトル強度を「閾値」と比較する(ステップ903)。処理部51は、スペクトル強度が閾値より大きい場合には、測定中にその部位の動きが発生していたと判定し、所定の処理を実行する(ステップ904)。
【0065】
所定の処理とは、血圧波形のデータの破棄、ユーザの体動に起因するノイズの低減(ノイズ除去、又は、血圧波形のデータの補正)、血圧波形のデータに対し信頼性が低いことを示すメタ情報の付加、などの処理である。いずれの処理を実行するかはユーザに設定させてもよい。また処理部51は複数の処理を実行してもよい。ノイズ除去又は血圧波形のデータの補正に有効な方法として、フィルタ処理が挙げられる。例えば、図8のように約3.3〜3.6Hzの周波数帯に体動成分が現れる部位の場合は、約3.3〜3.6Hzの周波数成分をカット又は低減するフィルタ(ハイパス、ローパス、バンドパス等)を用いるとよい。
【0066】
指標抽出部50は、設定テーブル90の設定にしたがい指標の算出に用いる周波数帯(周波数成分)を部位ごとに変えながら、ステップ902〜ステップ904の処理を繰り返す(ステップ905、906)。これにより、測定中の体動の発生に関わる指標が部位ごとに算出され、体動ありと判定された場合は処理部51によってノイズ低減などの必要な処理が実行される。その後、処理部51は、周波数スペクトルに対し逆変換を施し、補正後の血圧波形データを得る(ステップ907)。
【0067】
以上述べた構成によれば、血圧波形の時系列データに基づいて、測定中の体動を検出することができる。また、体動を検出した場合に、血圧波形データの破棄、ノイズ低減、信頼性情報の付加などの対処を自動で実行することができ、血圧波形データの信頼性を向上することができる。なお、体動の発生については、体動測定ユニット21で得られる情報を用いて検出してもよい。ただし、体動測定ユニット21では、指の動きや、体動測定ユニット21が装着されていない側の手足の動きなどは検出することができない。これに対し、血圧波形データによる体動検出の方が死角(検出できない動き)が少ないという利点がある。
【0068】
本実施例では、所定の周波数成分のスペクトル強度が閾値より大きかった場合(つまり、体動ありと判定した場合)のみ、フィルタ処理等を行う構成とした。これの変形例として、例えば、スペクトル強度が閾値より大きいか否かにかかわらず(つまりスペクトル強度と閾値の比較処理を行わず)、体動成分が現れ得る周波数帯に対し常にフィルタ処理を行う構成としてもよい。ただし、体動がないとときでも一律にフィルタをかけると、必要な情報(血圧波形の信号成分)まで損なわれる可能性がある。したがって、本実施例のように、体動ありと判定した場合にのみフィルタをかける方が、好ましい処理である。
【0069】
<実施例2>
本実施例は、血圧波形の時系列データを用いて、無呼吸の発生を検出する例である。
【0070】
睡眠時無呼吸症候群の判定には、PSG検査が行われるのが一般的である。しかし、PSG検査はコストがかかるとともに、医療機関に泊りがけで検査を行う必要があり拘束時間が長い。また、頭、顔、身体の必要な部位にテープで電極を貼り付け、睡眠の状態を記録するため、被検者は不快であるとともに負担が大きい。
【0071】
本発明者らが、被検者実験において、無呼吸状態に相当するバルサルバ試験を実施し、息こらえ解放後一定区間の血圧波形データを周波数解析したところ、図9のような結果を得た。図9は、息こらえ解放後一定区間(無呼吸から回復した直後の状態に相当)の血圧波形データの周波数スペクトルである。息こらえ解放後一定区間の血圧波形データでは、約2.2〜3.0Hzの周波数帯にピークが認められる。これらのピークは息こらえ、すなわち無呼吸の発生に起因する周波数成分の可能性があると推測できる。このような知見に基づき、血圧波形の時系列データから無呼吸の発生の程度ないし傾向(以下、無呼吸の発生レベルという)を簡便に確認する手法を提案する。
【0072】
図10に、本実施例の無呼吸検出処理のフローチャートの一例を示す。まず、指標抽出部50が、記憶ユニット27から血圧波形のデータを読み込む(ステップ1200)。例えば、数十分間〜数時間程度(あるいは一晩)の長さの時系列データが読み込まれる。指標抽出部50は、血圧波形のデータに対し周波数変換(例えば高速フーリエ変換)を施し、血圧波形の周波数スペクトルのデータを得る(ステップ1201)。
【0073】
次に、指標抽出部50は、下記式により、無呼吸の発生に起因する周波数成分が現れる周波数帯[hmin,hmax](例えば、hmin=2.2Hz、hmax=3.0Hz)のスペクトルX(h)合計値Sを計算し、Sの大きさに応じて無呼吸レベルLを求める(ステップ1202)。無呼吸レベルLは、上記周波数帯の周波数成分が多いほど大きい値をとり、無呼吸の発生レベルを表す指標として用いることができる。
【数1】
【0074】
その後、処理部51が、血圧波形の周波数解析結果(スペクトルのグラフ)と無呼吸レベルLを表示装置又はプリンタに出力する(ステップ1203)。図11A図11Bは解析結果の表示例である。図11Aの表示例では、所定期間の血圧波形の時系列データの周波数スペクトル(横軸:周波数、縦軸:強度)と、無呼吸レベルLの値とが表示されている。また、理解を容易にするために、無呼吸の発生に起因する周波数成分が現れる周波数帯が網掛けで示されている。一方、図11Bの表示例では、無呼吸レベルLの時間的な変化が示されている。例えば、指標抽出部50が、異なる日時(2016年4月1日と2016年4月5日)に計測された血圧波形の時系列データをそれぞれ周波数解析して、各日時の周波数スペクトル及び無呼吸レベルLを計算することで、図11Bのような情報提示を行うことができる。また、処理部51は、時間の経過とともに無呼吸レベルLが小さく変化していた場合に無呼吸の状態が改善した旨を出力し、逆の場合に無呼吸の状態が悪化した旨を出力してもよい。このように血圧波形の周波数解析結果を可視化し、ユーザ本人や医師に提示することで、無呼吸の発生の程度や傾向を簡便に確認することができる。また、過去の解析結果と比較することで、改善傾向にあるのか悪化傾向にあるのかを確認したり、薬効効果等を把握したりできる。
【0075】
処理部51は、ユーザの無呼吸レベルLが1以上の場合に、警告を出力してもよい。さらに、ユーザの睡眠中、所定の時間間隔(例えば5分に1回など)で本実施例の無呼吸検出処理を実施し、無呼吸の発生を検知した場合にユーザに警告を出力してもよい。これにより、無呼吸が発生する危険な時間帯を把握することができる。
【0076】
なお、本実施例では呼吸器の機能に関連する指標として、無呼吸の発生レベルを表す指標を計算したが、同様の手法により、呼吸器の機能に関連する他の指標や循環器の機能に関する指標を計算してもよい。また、本実施例では、指標が閾値より高い場合に警告を出力する例を説明したが、指標が小さいほど呼吸器や循環器の機能に関わるリスクが高い場合には、指標が閾値より低い場合に警告を出力するようにしてもよい。
【0077】
なお、上述した実施形態及び実施例の構成は本発明の一具体例を示したものにすぎず、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。本発明はその技術思想を逸脱しない範囲において、種々の具体的構成を採り得るものである。
【0078】
本明細書に開示された技術思想は以下のような発明として特定することもできる。
【0079】
(付記1)
生体情報分析装置であって、
ハードウェアプロセッサと、プログラムを記憶するメモリとを有し、
前記ハードウェアプロセッサは、前記プログラムにより、
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換し、前記周波数スペクトルにおける所定の周波数成分の強度に基づく指標を抽出し、
抽出された前記指標に基づく処理を行う
ことを特徴とする生体情報分析装置。
【0080】
(付記2)
生体情報分析システムであって、
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサと、ハードウェアプロセッサと、プログラムを記憶するメモリと、を有し、
前記ハードウェアプロセッサは、前記プログラムにより、
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換し、前記周波数スペクトルにおける所定の周波数成分の強度に基づく指標を抽出し、
抽出された前記指標に基づく処理を行う
ことを特徴とする生体情報分析システム。
【0081】
(付記3)
生体情報分析方法であって、
少なくとも1つのハードウェアプロセッサによって、ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形の時系列データを周波数スペクトルに変換し、前記周波数スペクトルにおける所定の周波数成分の強度に基づく指標を抽出するステップと、
少なくとも1つのハードウェアプロセッサによって、抽出された前記指標に基づく処理を行うステップと、
を含むことを特徴とする生体情報分析方法。
【符号の説明】
【0082】
1:生体情報分析装置、2:測定ユニット
10:生体情報分析システム、11:本体部、12:ベルト
20:血圧測定ユニット、21:体動測定ユニット、22:環境測定ユニット、23:制御ユニット、24:入力ユニット、25:出力ユニット、26:通信ユニット、27:記憶ユニット
30:圧力センサ、31:押圧機構、300:圧力検出素子
50:指標抽出部、51:処理部
90:設定テーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11