特許第6687307号(P6687307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687307
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】巻取装置
(51)【国際特許分類】
   A43C 11/20 20060101AFI20200413BHJP
   A43C 1/06 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   A43C11/20
   A43C1/06
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-208568(P2015-208568)
(22)【出願日】2015年10月23日
(65)【公開番号】特開2017-79831(P2017-79831A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】303011275
【氏名又は名称】株式会社ジャパーナ
(74)【代理人】
【識別番号】100129698
【弁理士】
【氏名又は名称】武川 隆宣
(72)【発明者】
【氏名】河野 文義
【審査官】 石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−000293(JP,A)
【文献】 特開2012−127434(JP,A)
【文献】 特開2007−120723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43C 1/06
A43C 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紐を巻き取るための紐巻取ドラムを備えたリールであって、上面側に前記紐巻取ドラムの内周面に沿った複数の上向きフィンを有する樹脂製のリールと、
当該リールを収納するためのリール収納部を備えたベース部材と、
前記リールを回転駆動するためのダイヤルであって、下面側に前記リールの上向きフィンと係合する複数の下向きフィンを有する樹脂製のダイヤルと、
を備え、
当該ダイヤルの下向きフィンを前記リールの上向きフィンに係合させてダイヤルの回転をリールに伝達できるロック状態と、前記下向きフィンを前記リールの上向きフィンから切り離してリールが自由に回転できる解除状態とを実現するようにした巻取装置であって、
当該巻取装置の強度、耐久性及び信頼性を低下させることなく前記フィン同士が噛み合うための厚みを薄くするために、
前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合したり係合が解除される樹脂製の係合面が、係合状態においては上下方向に外れ難いように噛み合う斜状に形成されており、
前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合する係合面の傾斜角度は、89度〜80度の範囲内であり、
さらに、
前記フィン同士のスムーズな噛み合わせを実現するために、前記下向きフィンと前記上向きフィンの噛み合う際の遊びの長さは、前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合する係合面の先端部が基端部から突出する長さより大きく、かつ、両フィンの断面は前記各係合面の反対側の斜面がなだらかな「のこぎり歯」状に形成されていることを特徴とする巻取装置。
【請求項2】
前記ダイヤルを前記ベース部材に装着するために前記ベース部材に固定される軸部材であって、前記ダイヤルを前記ベース部材に接近させたロック位置と当該ベース部材から離した解除位置との間で移動可能な状態で保持し案内することができる軸部材と、
当該軸部材の頭部を覆うようにカバーし、前記ダイヤルの上面に装着されるカバー部材と、
をさらに備え、
前記ダイヤルがロック位置から解除位置まで移動することで前記リールのロック状態から解除状態に切替可能とするとともに、
前記カバー部材の裏面と前記ダイヤルの上面との間の空間を無くし、前記リール収納部の内底面から前記カバー部材の表面までの距離を短く抑制したことを特徴とする請求項1に記載の巻取装置。
【請求項3】
前記軸部材の頭部付近を前記ダイヤルに埋没させることができる凹所をダイヤルの中心部に形成することで、前記軸部材のカバー部材方向への突出量を抑制し、
前記リール収納部の内底面から前記カバー部材の表面までの距離を短く抑制したことを特徴とする請求項2に記載の巻取装置。
【請求項4】
前記軸部材は、当該軸部材の軸心方向と直交する方向にて軸部材の側部に形成した軸受部に一端部が軸支されたバネ部材であって、他端部が前記ダイヤルの内面に設けた係止部と常時当接するバネ部材を備え、
前記ダイヤルのロック位置と解除位置の間の位置に前記バネ部材が最も圧縮される反転位置を設定し、当該ロック位置と解除位置との間でバネ部材が圧縮される方向が切り替わるようにしたことを特徴とする請求項2又は3に記載の巻取装置。
【請求項5】
前記軸部材は、当該軸部材の中心に設けたネジ挿入孔に挿入されるネジによって前記ベース部材に固定されるものであり、当該軸部材に形成したバネ部材を軸支するための軸受部を前記軸部材の上端部付近に配置するとともに、当該軸受部の下方位置まで前記ネジの頭部が挿入されるように前記ネジ挿入孔の拡径部を形成することで、軸部材の軸心方向の長さを短くしたことを特徴とする請求項4に記載の巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紐を巻き取るための巻取装置に関するものであって、ゴルフやジョギングなどに使用する運動靴の他、ビジネスシューズ、カジュアルシューズ、子供用の靴など、各種の靴の靴紐を締め付けたり、鞄を閉じるための紐を締め付けたり、帽子の紐などを締め付けるのに適した巻取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、靴の靴紐を締め付けるのに適した巻取装置として、ダイヤル(円盤状のつまみ)を回転することによってリールに対して靴紐を巻き付けることができ、ダイヤルを引くことで、ダイヤルとリールとの係合状態を解除して靴紐の締め付けをワンタッチで解除することができる靴紐巻取装置が提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
これら従来の巻取装置においては、リールの上面に設けたフィン(ギヤ)と、ダイヤルの下面に設けたフィンとを噛み合わせることで、ダイヤルの回転をリールに伝えている。
そこで、これら従来の巻取装置においては、リールの厚み、フィン同士が噛み合ったりフィン同士の噛み合いを外すための厚み、ダイヤルの厚み、ダイヤルを固定するための軸の厚み、ダイヤルの上面を覆うカバーの厚みなどを確保する必要があり、装置全体の厚みが大きくなり、靴や鞄などの物品に装着した場合に、邪魔になったり、デザイン上の圧迫感が生じるという問題がある。
【0004】
一方、これらの巻取装置には、巻き取られた紐によってリールに大きな力が加わることがあり、フィン同士が噛み合うための厚みを薄くすると、ダイヤルとリールとの係合状態が外れてしまったり、装置の強度を確保できなくなるという問題がある。
【0005】
さらに、このような巻取装置においては、それが装着される物品の使い勝手や外観デザインを向上させるためにも、小型・軽量化とともに、強度、耐久性及び信頼性を低下させないことが求められており、これらの課題を解決することで、より多種多様な靴や鞄などの物品に巻取装置を採用し、それらの物品の価値を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−293号公報
【特許文献2】特開2010−148927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、巻取装置の厚みが大きいと、靴や鞄などの物品に装着した場合に、邪魔になったり、デザイン上の圧迫感が生じるということであり、従来の巻取装置において、フィン同士が噛み合うための厚みを薄くすると、ダイヤルとリールとの係合状態が外れてしまったり、装置の強度を確保できなくなるということである。
そして、本発明の目的は、強度、耐久性及び信頼性を低下させることなく、靴紐などのための巻取装置の小型・軽量化を図ることができ、さらには、同じ大きさの巻取装置において、強度、耐久性及び信頼性を高め、適用できる用途を拡大することができる巻取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、「紐を巻き取るための紐巻取ドラムを備えたリールであって、上面側に前記紐巻取ドラムの内周面に沿った複数の上向きフィンを有する樹脂製のリールと、当該リールを収納するためのリール収納部を備えたベース部材と、前記リールを回転駆動するためのダイヤルであって、下面側に前記リールの上向きフィンと係合する複数の下向きフィンを有する樹脂製のダイヤルと、を備え、
当該ダイヤルの下向きフィンを前記リールの上向きフィンに係合させてダイヤルの回転をリールに伝達できるロック状態と、前記下向きフィンを前記リールの上向きフィンから切り離してリールが自由に回転できる解除状態とを実現するようにした巻取装置であって、
当該巻取装置の強度、耐久性及び信頼性を低下させることなく前記フィン同士が噛み合うための厚みを薄くするために、
前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合したり係合が解除される樹脂製の係合面が、係合状態においては上下方向に外れ難いように噛み合う斜状に形成されており、
前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合する係合面の傾斜角度は、89度〜80度の範囲内である巻取装置。」を主要な特徴とするものである。
【0009】
さらに、本発明の巻取装置は、「前記フィン同士のスムーズな噛み合わせを実現するために、前記下向きフィンと前記上向きフィンの噛み合う際の遊びの長さは、前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合する係合面の先端部が基端部から突出する長さより大きく、かつ、両フィンの断面は前記各係合面の反対側の斜面がなだらかな「のこぎり歯」状に形成されていること」を主要な特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明の巻取装置において、前記ダイヤルを前記ベース部材に装着するために前記ベース部材に固定される軸部材であって、前記ダイヤルを前記ベース部材に接近させたロック位置と当該ベース部材から離した解除位置との間で移動可能な状態で保持し案内することができる軸部材と、
当該軸部材の頭部を覆うようにカバーし、前記ダイヤルの上面に装着されるカバー部材と、
をさらに備え、
前記ダイヤルがロック位置から解除位置まで移動することで前記リールのロック状態から解除状態に切替可能とするとともに、
前記カバー部材の裏面と前記ダイヤルの上面との間の空間を無くし、前記リール収納部の内底面から前記カバー部材の表面までの距離を短く抑制したものであってもよい。
【0011】
本発明の巻取装置において、前記軸部材の頭部付近を前記ダイヤルに埋没させることができる凹所をダイヤルの中心部に形成することで、前記軸部材のカバー部材方向への突出量を抑制し、前記リール収納部の内底面から前記カバー部材の表面までの距離を短く抑制したものであってもよい。
【0012】
本発明の巻取装置において、前記軸部材は、当該軸部材の軸心方向と直交する方向にて軸部材の側部に形成した軸受部に一端部が軸支されたバネ部材であって、他端部が前記ダイヤルの内面に設けた係止部と常時当接するバネ部材を備え、
前記ダイヤルのロック位置と解除位置の間の位置に前記バネ部材が最も圧縮される反転位置を設定し、当該ロック位置と解除位置との間でバネ部材が圧縮される方向が切り替わるようにしたものであってもよい。
【0013】
本発明の巻取装置において、前記軸部材は、当該軸部材の中心に設けたネジ挿入孔に挿入されるネジによって前記ベース部材に固定されるものであり、当該軸部材に形成したバネ部材を軸支するための軸受部を前記軸部材の上端部付近に配置するとともに、当該軸受部の下方位置まで前記ネジの頭部が挿入されるように前記ネジ挿入孔の拡径部を形成することで、軸部材の軸心方向の長さを短くしたものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成した本発明の巻取装置においては、下向きフィンと上向きフィンの互いに係合する係合面が噛み合うと、その噛み合いが外れ難いため、下向きフィンと上向きフィンの係合面の高さを低くしても安定した噛み合い状態を得ることができ、ダイヤルとリールの厚みを小さくすることができる。
従って、強度、耐久性及び信頼性を低下させることなく、巻取装置の小型・軽量化を図ることができ、さらには、同じ大きさの巻取装置において、強度、耐久性及び信頼性を高め、適用できる用途を拡大することができる巻取装置を提供することができる。
【0015】
本発明の巻取装置において、下向きフィンと上向きフィンの互いに係合する係合面の傾斜角度を89度〜80度の範囲内とすることで、下向きフィンと上向きフィンの係合面の高さを低くしても安定した噛み合い状態を得ることができ、かつ、それらの噛み合いの解除もスムーズに行うことができる。
本発明の巻取装置において、前記下向きフィンと前記上向きフィンの噛み合う際の遊びの長さを、前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合する係合面の先端部が基端部から突出する長さより大きいものとすることで、下向きフィンと上向きフィンとをスムーズに噛み合わせることができ、かつ、それらの噛み合いの解除もスムーズに行うことができる。
【0016】
本発明の巻取装置において、カバー部材の裏面と前記ダイヤルの上面との間の空間を無くすことで、前記リール収納部の内底面から前記カバー部材の表面までの距離を短く抑制し、巻取装置の小型・軽量化を図ることができ、さらには、同じ大きさの巻取装置において、強度、耐久性及び信頼性を高め、適用できる用途を拡大することができる巻取装置を提供することができる。
【0017】
本発明の巻取装置において、前記軸部材の頭部付近を前記ダイヤルに埋没させることができる凹所をダイヤルの中心部に形成することで、前記軸部材のカバー部材方向への突出量を抑制し、前記リール収納部の内底面から前記カバー部材の表面までの距離を短く抑制し、巻取装置の小型・軽量化を図ることができ、さらには、同じ大きさの巻取装置において、強度、耐久性及び信頼性を高め、適用できる用途を拡大することができる巻取装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明の巻取装置において、前記軸部材の軸受部にバネ部材を軸支し、その他端部が前記ダイヤルの内面の係止部と常時当接する構成を採用し、前記ダイヤルのロック位置と解除位置の間の位置に前記バネ部材が最も圧縮される反転位置を設定し、当該ロック位置と解除位置との間でバネ部材が圧縮される方向が切り替わるようにすることで、小型、軽量でかつ耐久性と操作性に優れた巻取装置を得ることができる。
【0019】
さらに、本発明の巻取装置において、前記軸部材を、当該軸部材の中心に設けたネジ挿入孔に挿入されるネジによって前記ベース部材に固定されるものとし、当該軸部材に形成したバネ部材を軸支するための軸受部を前記軸部材の上端部付近に配置するとともに、当該軸受部の下方位置まで前記ネジの頭部が挿入されるように前記ネジ挿入孔の拡径部を形成することで、軸部材の軸心方向の長さを短くし、巻取装置の小型・軽量化を図ることができ、さらには、同じ大きさの巻取装置において、強度、耐久性及び信頼性を高め、適用できる用途を拡大することができる巻取装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(A)〜(E)は本発明を具体化した靴紐巻取装置とその一部を拡大して示すものであり、(A)及び(B)は図2(A)のX−X線断面図であって、(A)はハンドルがロック位置にある状態を示す断面図、(B)はハンドルが解除位置にある状態を示す断面図、(C)は下向きフィンと上向きフィンが互いに係合している状態を示す断面図、(D)は下向きフィンと上向きフィンの遊びを示す拡大断面図、(E)は互いに噛み合っている下向きフィンと上向きフィンを示す拡大断面図である。
図2図2(A)〜(F)は本発明を具体化した靴紐巻取装置を示し、(A)は巻取装置の平面図、(B)は巻取装置の側面図、(C)は巻取装置の正面図、(D)は巻取装置の平面側の斜視図、(E)は巻取装置の底面図、(F)は巻取装置の底面側の斜視図である。
図3図3は本発明を具体化した靴紐巻取装置を装着した靴を示す側面図である。
図4図4は本発明を具体化した靴紐巻取装置を分解してその構成部品を示す斜視図である。
図5図5(A)〜(F)は本発明を具体化した靴紐巻取装置のベース部材を示し、(A)はベース部材の平面図、(B)はベース部材の側面図、(C)はベース部材の正面図、(D)はベース部材の平面側の斜視図、(E)はベース部材の底面図、(F)はベース部材の底面側の斜視図である。
図6図6(A)〜(G)は本発明を具体化した靴紐巻取装置のリールを示し、(A)はリールの平面図、(B)はリールの側面図、(C)はリールの正面図、(D)はリールの平面側の斜視図、(E)はリールの底面図、(F)及び(G)はリールの底面側の斜視図である。
図7図7(A)〜(G)は本発明を具体化した靴紐巻取装置のダイヤルと一体化してその下面部を構成するストッパー部材を示し、(A)はストッパー部材の平面図、(B)はストッパー部材の側面図、(C)はストッパー部材の正面図、(D)はストッパー部材の平面側の斜視図、(E)はストッパー部材の底面図、(F)及び(G)はストッパー部材の底面側の斜視図である。
図8図8(A)〜(F)は本発明を具体化した靴紐巻取装置のダイヤルを示し、(A)はダイヤルの平面図、(B)はダイヤルの側面図、(C)はダイヤルの正面図、(D)はダイヤルの底面側の斜視図、(E)はダイヤルの底面図、(F)はダイヤルの平面側の斜視図である。
図9図9(A)〜(E)は本発明を具体化した靴紐巻取装置の軸部材を示し、(A)は軸部材の平面図、(B)は軸部材の側面図、(C)は軸部材の正面図、(D)は軸部材の底面側の斜視図、(E)は軸部材の平面側の斜視図である。
図10図10(A)〜(F)は本発明を具体化した靴紐巻取装置のカバー部材を示し、(A)はカバー部材の平面図、(B)はカバー部材の側面図、(C)はカバー部材の正面図、(D)はカバー部材の平面側の斜視図、(E)はカバー部材の底面図、(F)はカバー部材の底面側の斜視図である。
図11図11は本発明を具体化した靴紐巻取装置のダイヤルの下面にストッパー部材を装着して一体化した状態を示すダイヤルの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、「紐を巻き取るための紐巻取ドラムを備えたリールであって、上面側に前記紐巻取ドラムの内周面に沿った複数の上向きフィンを有する樹脂製のリールと、当該リールを収納するためのリール収納部を備えたベース部材と、前記リールを回転駆動するためのダイヤルであって、下面側に前記リールの上向きフィンと係合する複数の下向きフィンを有する樹脂製のダイヤルと、を備え、
当該ダイヤルの下向きフィンを前記リールの上向きフィンに係合させてダイヤルの回転をリールに伝達できるロック状態と、前記下向きフィンを前記リールの上向きフィンから切り離してリールが自由に回転できる解除状態とを実現するようにした巻取装置であって、
当該巻取装置の強度、耐久性及び信頼性を低下させることなく前記フィン同士が噛み合うための厚みを薄くするために、
前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合したり係合が解除される樹脂製の係合面が、係合状態においては上下方向に外れ難いように噛み合う斜状に形成されており、
前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合する係合面の傾斜角度は、89度〜80度の範囲内であり、
さらに、前記フィン同士のスムーズな噛み合わせを実現するために、前記下向きフィンと前記上向きフィンの噛み合う際の遊びの長さは、前記下向きフィンと前記上向きフィンの互いに係合する係合面の先端部が基端部から突出する長さより大きく、かつ、両フィンの断面は前記各係合面の反対側の斜面がなだらかな「のこぎり歯」状に形成されている巻取装置」であって、以下において説明する実施形態などにより好適に具体化することができる。
【0022】
以下、本発明の巻取装置を運動靴の靴紐を巻き取るための巻取装置について具体化した一実施形態について説明する。
図3は、本発明の一実施形態の靴紐巻取装置1を足の甲の外側上面と対応する位置に装備した靴Sを示し、この靴Sは、樹脂被覆された金属製のワイヤーからなる靴紐2によって靴Sの甲部を締め付けることができるようになっている。
【0023】
靴紐巻取装置1は、図1図10に示すように、ベース部材3と、前記靴紐2を巻き取るためのリール4と、リールの回転及び停止を制御するためのストッパー部材5と、前記リール4を回転駆動するためのダイヤル6と、前記ダイヤル6と前記ストッパー部材5とを前記ベース部材3に装着するために前記ベース部材3に対して回転自在に固定される軸部材7と、当該軸部材7にて一端部が軸支されたバネ部材8などから構成されている。
前記ストッパー部材5は、図11に示すように、前記ダイヤル6の下側に装着されて当該ダイヤル6と一体化し、ダイヤル6の下面部を構成するようになっている。
【0024】
前記ベース部材3は、薄板状のフランジ31が、前記リール4を回転可能に収納するための有底円筒状のリール収納部32の底部周囲に突出するように形成されることで全体が一体成形されており、当該フランジ31が、前記靴Sに縫い付け固定されることで靴紐巻取装置1を靴Sに固定することができるようになっている。
【0025】
前記リール収納部32は、その底部中央に前記リール4を軸支するための回転軸33が突設されており、また、当該リール収納部32の内周面に沿ってギヤ34が環状に形成されている。
このギヤ34は、前記ストッパー部材5に形成した4本の細長い板状の爪51と協働してラチェット機構を構成し、靴紐2を巻き付ける方向(正回転)にのみ前記爪51が移動できるように、断面が「のこぎり歯」状に形成されている。
【0026】
さらに、前記ベース部材3には、前記リール収納部32の内底部に開口する靴紐引出口35が2ヶ所形成され、前記リール4に巻き付けられた靴紐2を前記リール収納部32から外部に引き出すことができるようになっている。
【0027】
前記リール4は、靴紐2を巻き取るための靴紐巻取ドラム41と、前記靴紐巻取ドラム41の内側に配置された回転軸部42と、前記靴紐巻取ドラム41の内周面と前記回転軸部42の外周面とを連結する環状部43と、前記靴紐巻取ドラム41と前記回転軸部42と前記環状部43とによって形成される環状の溝部44とを備えている。
【0028】
前記回転軸部42の内面側には、前記ベース部材3の前記回転軸33が挿入され、リール収納部32内にてリール4が回転可能となっている。
前記リール4の前記溝部44は、ベース部材3の底部に面する側(下側)に配置され、前記靴紐巻取ドラム41の外周面側から前記溝部44内に導入される靴紐2の先端部を挟み込んで当該溝部44内に保持するための係止突起45を当該溝部44内に2個設けたものとなっている。
【0029】
前記リール4の上側には、前記靴紐巻取ドラム41の内周面に沿って複数の上向きフィン46が形成されており、前記ダイヤル6の下面部を構成する前記ストッパー部材5の下側に形成された下向きフィン52と噛合することで、前記ダイヤル6の回転を前記リール4に伝達できるようになっている。
本発明の靴紐巻取装置1において、図1(D)及び(E)に示すように、前記下向きフィン52と上向きフィン46の互いに係合する係合面fの傾斜角度θを89度〜80度の範囲内とすることで、即ち、前記下向きフィン52と前記上向きフィン46の互いに係合する係合面fが、上下方向に外れ難いように噛み合う斜状に形成されることで、前記下向きフィン52と前記上向きフィン46の係合面fの高さを低くしても安定した噛み合い状態を得ることができ、かつ、それらの噛み合いの解除もスムーズに行うことができる。
【0030】
本発明の靴紐巻取装置1において、前記下向きフィン52と前記上向きフィン46の噛み合う際の遊びの長さt1を、前記下向きフィン52と前記上向きフィン46の互いに係合する係合面fの先端部が基端部から突出する長さt2より大きいものとすることで、下向きフィン52と上向きフィン46とをスムーズに噛み合わせることができ、かつ、それらの噛み合いの解除もスムーズに行うことができる。
一例として、前記両フィン46,52の高さが1.55mmで、遊びの長さt1が0.29mmである場合、傾斜角度θが89度〜80度の範囲内であれば、前記長さt2が0.027〜0.273mmとなり、遊びの長さt1を超えることがない。
しかし、傾斜角度θを79度にすると、前記長さt2が0.301mmとなり、遊びの長さt1を超え、前記フィン46,52同士のスムーズな噛み合いに支障が生じるおそれがある。
【0031】
前記ストッパー部材5は、その四隅に突設した取付用爪部53が前記ダイヤル6に透設した係合穴61に係合することで、前記ダイヤル6の内側(下側)に嵌合してダイヤル6と一体化するものであり、前記リール4と前記ダイヤル6との間に介在してダイヤル6の回転をリール4に伝達できるロック状態と、リール4が自由に回転できるようにダイヤル6からリール4を切り離した解除状態とを実現することができるようになっている。
前記ストッパー部材5に形成された4本の爪51は、細長い板状であって、互いに90度離間して形成されており、その先端部と、先端部から若干基端部寄りの位置の外面に形成された突部51aが、前記リール収納部32の内周面に形成されたギヤ34と係合するようになっている。
【0032】
また、図11に示すように、前記爪51の中央部から基部の外面が外方へ湾曲することを防ぐように、爪51の外面の中央部から基部が当接する壁部66が前記ダイヤル6の下面に4箇所突出形成されている。これにより、ダイヤル6が靴紐2を緩める方向へ付勢され、爪51の先端部及び突部51aがギヤ34と強く当接しても、爪51が外方へ折れ曲がることがなく、靴紐2が締められた状態を維持できる。
さらに、前記ストッパー部材5の中央部に形成された軸穴54の周囲上面側には、前記軸部材7の頭部付近(後記するフランジ72の付近)を埋没させることができる凹所56が形成されており、ダイヤル6の厚みを減少できるようになっている。
【0033】
前記軸部材7は、一体化した前記ダイヤル6とストッパー部材5とを前記ベース部材3に対して回転自在に装着するために、ネジ9によって前記ベース部材3に固定されるものであって、一体化した前記ダイヤル6とストッパー部材5とを前記ベース部材3に接近させたロック位置と当該ベース部材3から離した解除位置との間で移動可能な状態で保持し案内することができるようになっている。
【0034】
前記軸部材7は、四角柱状に形成されており、その軸心方向と直交する方向にて当該軸部材7の上端部付近において、対向する2つの側部を切り欠いて形成した軸受部71に対し、前記バネ部材8に形成した直線状の一端部(軸部81)が挿入されることで、当該バネ部材8を回動可能に軸支するようになっている。
【0035】
さらに、前記軸部材7が四角柱状であるため、前記軸受部71の強度を高め、前記軸部材7の小型化にも資することができる。
また、図9(E)に示すように、前記軸部材7の前記軸受部71は、その中央部付近が軸部材7の軸心に沿って透設したネジ挿入孔73と連通することで、前記軸部材7の小型化が図られている。
【0036】
前記バネ部材8は、全体が略U字形に湾曲形成されており、湾曲した他端側のバネ部82が、一体化した前記ダイヤル6とストッパー部材5の内面に設けた係止部62に常時当接するようになっている。
前記バネ部材8の他端部(バネ部82)が当接する前記係止部62は、前記ダイヤル6とストッパー部材5の境界部分に楔状に形成したバネ収納空間63の外端最狭部に設けられている。
【0037】
そして、この一体化した前記ダイヤル6とストッパー部材5がロック位置から解除位置まで上下方向に移動することで、リール4をロック状態から解除状態に切替可能としている。
さらに、当該ロック位置と解除位置との間の位置に前記バネ部材8のバネ部82が最も軸部材7側に圧縮される反転位置が存在するように設定されている。
【0038】
前記ダイヤル6の上側には、円盤状のカバー部材10が隙間無く密着するように嵌合し、靴紐巻取装置1の厚みを減少させるとともに、靴紐巻取装置1内部にゴミなどが入り込まないようになっている。
なお、カバー部材10の中央部には透孔11が形成されており、この透孔11を介してカバー部材10の内側(下側)のネジ9を操作してベース部材3からリール4、ダイヤル6、軸部材7を取り外せるようになっている。
さらに、前記カバー部材10の下面において、前記透孔11の周囲には環状溝12が形成されており、そこに前記軸部材7の上端部が入り込むことで、前記カバー部材10の厚みが増さないようになっている。
【0039】
前記靴紐巻取装置1とともに使用する樹脂及び金属の複合材からなるワイヤー状の靴紐2としては、直径0.11〜0.13mmのステンレス製の素線を49本撚り合わせたワイヤーロープにスウェージングマシンにて加工を加え、ナイロン樹脂にて被覆したものを好適に用いることができる。
【0040】
次に、上記にて説明した靴紐巻取装置1の各部品を組み付けて製造する方法について説明する。
まず、靴紐巻取装置1のベース部材3にリール4を装着するため、2ヶ所の靴紐引出口35にそれぞれ靴紐2の先端を挿入し、リール収納部32側からその靴紐2の両端部を引き出す。
そして、リール4に6ヶ所設けたワイヤー挿通孔47に靴紐2の先端を縫うようにして順次挿通することで、靴紐2の両端をリール4に固定し、リール4をリール収納部32内に配置する。
【0041】
次に、ストッパー部材5をダイヤル6の内側(下側)に嵌合することで、ストッパー部材5をダイヤル6と一体化させ、それらに軸部材7及びバネ部材8を組み付ける。
【0042】
この場合、前記バネ部材8は、前記軸部材7が前記ダイヤル6に形成された略四角形状の軸穴64とストッパー部材5に形成された略四角形状の軸穴54に挿入されるのであるが、当該バネ部材8のバネ部82がダイヤル6の軸穴64を拡げた拡張部64aから前記バネ収納空間に挿入され、さらに当該バネ部82がバネ収納空間63の内端側から外端最狭部側へ回動するように案内されて前記ダイヤル6に組み付けられる。
なお、軸部材7の上端部に形成したフランジ72がダイヤル6の軸穴64の縁に形成した係止段部65に当接するため、ダイヤル6が軸部材7から外れることはない。
【0043】
前記バネ部材8のバネ部82がバネ収納空間63の内端側から外端最狭部側へ回動するように案内されるのは、ストッパー部材5の軸穴54の縁に上側(ダイヤル側)を向いた斜面55が形成されているためである。
【0044】
上記手順にてストッパー部材5、ダイヤル6、軸部材7及びバネ部材8を組み付けた後、ネジ9を軸部材7の軸心に沿って透設したネジ挿入孔73に挿通し、軸部材7などをベース部材3に装着する。
このとき、前記軸受部71の下方位置まで前記ネジ9の頭部が挿入されるように、前記ネジ挿入孔73の拡径部73aを形成することで、軸部材7の軸心方向の長さを短くし、靴紐巻取装置1の厚みを減少させるようにしている。即ち、靴紐巻取装置1を薄型のコンパクトな形態とすることができる。
【0045】
最後にカバー部材10をダイヤル6の上面に嵌め込むことで、靴紐巻取装置1を組み付けることができる。
メンテナンス又は修理のために靴紐巻取装置1を分解する際には、カバー部材10の透孔11からネジ回しを挿入し、ネジ9を外すことで、組み付けられたストッパー部材5、ダイヤル6、軸部材7及びバネ部材8をベース部材3から取り外すことができる。
【0046】
なお、本実施形態の靴紐巻取装置1において各部材を構成する材料としては、強度、耐久性、弾力性などを考慮し、一例として以下のものを用いたが、これらの材料に限定されるものではない。
ベース部材3・・・ナイロン
リール4、ストッパー部材5、軸部材7・・・POM(ポリアセタール)
ダイヤル6・・・ナイロンとその周囲にTPE(熱可塑性エラストマー)
バネ部材8・・・ステンレス鋼
ネジ9・・・炭素鋼
カバー部材10・・・ABS樹脂
【0047】
上記のように構成された靴紐巻取装置1の使用方法について説明する。
靴Sを履いた後に、靴紐2を締め付けるには、靴紐巻取装置1のダイヤル6を前記ベース部材3に接近させたロック位置、即ち、上向きフィン46と下向きフィン52が係合している状態にてダイヤル6を回転操作し、靴紐2をリール4に巻き付ける。
この場合、ストッパー部材5の爪51の先端部及び突部51aがギヤ34に当接することで、靴紐2が緩む方向にリール4が回転することはない。
【0048】
また、ロック位置と解除位置の間の位置に前記バネ部材8が最も圧縮される反転位置を設定してあるため、ダイヤル6がロック位置にある状態では、バネ部材8が図1(A)に示す状態となっており、ダイヤル6をロック位置に保持する。
この時、バネ部材8は、軸部材7を持ち上げダイヤル6を下に押さえる方向を向いている。
【0049】
次に、靴紐2の締め付けを緩めるには、上向きフィン46と下向きフィン52との係合状態を解除する必要があり、靴紐巻取装置1のダイヤル6を上側へ引く。
【0050】
この時、バネ部材8は圧縮され、その反発力に抗してさらに上側にダイヤル6を引くことで、前記バネ部材8が最も圧縮される反転位置を越え、当該ロック位置と解除位置との間でバネ部材8が圧縮される方向が切り替わることにより、ダイヤル6をベース部材3から離した解除位置に移動させる(図1(B)に示す状態)。
前記バネ部材8の他端部(バネ部82)は、前記ダイヤル6の内面に設けた係止部62と常時当接しており、部品の摩耗を防ぐことができる。
【0051】
このように、バネ部材8がロック位置と解除位置との間で明確に切り替わるため、操作性に優れるばかりか、前記ダイヤル6位置の状態を把握することも容易である。
上記のように前記ダイヤル6がロック位置から解除位置に移動すると、リール4の上向きフィン46とストッパー部材5の下向きフィン52との噛合がスムーズに解除され、リール4が自由に回転できるようになり、靴紐2が緩められる。
【0052】
逆に、前記ダイヤル6を解除位置からロック位置に移動させるように下方へ押さえ付けると、前記バネ部材8が最も圧縮される反転位置を逆向きに越え、リール4の上向きフィン46とストッパー部材5の下向きフィン52とが再び噛合することとなるため、リール4に靴紐2を巻き取って靴紐2を締め付けることが可能となる。
【0053】
なお、本明細書中において、「ダイヤル」とは、リール4を回転駆動するための操作部として機能するものであれば特に形状が限定されるものではなく、多角形状のものであってもよい。
【0054】
本発明は靴紐2を締め付けるための靴紐巻取装置1に限定されるものではなく、鞄や帽子など、他の物品の紐を締め付けるための巻取装置に具体化して実施してもよい。
【0055】
さらに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で巻取装置の各部の材質、形状、寸法、角度、設置位置、大きさ、数などを適宜変更して実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、小型・軽量であって、耐久性、信頼性及び操作性に優れ、物品を使用する際の邪魔になったり、物品の外観デザインを害することなく多種多様な物品に手軽に用いることができる靴紐巻取装置として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 靴紐巻取装置
2 靴紐
3 ベース部材
31 フランジ
32 リール収納部
33 回転軸
34 ギヤ
35 靴紐引出口
4 リール
41 靴紐巻取ドラム
42 回転軸部
43 環状部
44 溝部
45 係止突起
46 上向きフィン
47 ワイヤー挿通孔
5 ストッパー部材
51 爪
51a 突部
52 下向きフィン
53 取付用爪部
54 軸穴
55 斜面
56 凹所
6 ダイヤル
61 係合穴
62 係止部
63 バネ収納空間
64 軸穴
64a 拡張部
65 係止段部
66 壁部
7 軸部材
71 軸受部
72 フランジ
73 ネジ挿入孔
73a 拡径部
8 バネ部材
81 軸部(一端部)
82 バネ部(他端部)
9 ネジ
10 カバー部材
11 透孔
12 環状溝
f 係合面
S 靴
t1 遊びの長さ
t2 係合面の先端部が基端部から突出する長さ
θ 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11