(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
[無機質板]
本発明の実施形態(以下、本実施形態)に係る無機質板は、セメント成形材料で成形されたものを養生硬化、乾燥して得られたものである。この無機質板は、屋根材や外壁材など建築用のパネルとして好適に用いられる。
【0012】
無機質板の形状やサイズは、特に限定されず、使用用途などに応じて適宜調整すればよい。無機質板の表面形状は、平坦状であってもよいし、意匠性を付与する目的で、凹凸状であってもよい。また、無機質板の表面には、必要に応じて、公知の着色塗膜が形成されていてもよい。
【0013】
無機質板の曲げ強度は、好ましくは6.0MPa以上、より好ましくは6.3MPa以上である。無機質板の曲げ強度が上記範囲内であれば、機械的強度のより良好な無機質板とすることができる。無機質板の曲げ強度は、実施例と同様にして測定した値である。
【0014】
無機質板の乾燥比重は、好ましくは0.90〜0.93、より好ましくは0.91〜0.92である。無機質板の乾燥比重が上記範囲内であれば、無機質軽量板とすることができる。無機質板の乾燥比重は、実施例と同様にして測定した値である。
【0015】
無機質板の炭酸化収縮率は、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0〜0.05%である。無機質板の炭酸化収縮率が上記範囲内であれば、寸法収縮や反りがより発生しにくい無機質板とすることができる。無機質板の炭酸化収縮率は、実施例と同様にして測定した値である。
【0016】
〔セメント成形材料〕
セメント成形材料は、セメント系材料、珪酸質材料、補強繊維およびフライアッシュが少なくとも配合されたものである。
【0017】
セメント系材料、珪酸質材料、補強繊維およびフライアッシュの配合割合は、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは、セメント系材料25〜50質量%、珪酸質材料15〜40質量%、補強繊維3〜12質量%、フライアッシュ1〜20質量%である。セメント成形材料の配合割合が上記範囲内であれば、建築用のパネルとして要求される、表面地合や機械的強度などの性能を満たす無機質板とすることができる。
【0018】
セメント成形材料には、上記成分の他に、適宜、混和材料が配合されていてもよい。混和材料としては、例えば、減水剤、増粘剤、着色剤、顔料、粘度調整剤などが挙げられる。なお、セメント成形材料にポリマーと乳化剤とを配合し、逆乳化エマルジョンを調製してもよい。
【0019】
(セメント系材料)
セメント系材料としては、普通セメントを用いることができ、例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、シリカフュームセメントなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメントおよびシリカフュームセメントからなる群より選ばれる少なくとも1種以上である。ただし、セメント原材料にはあらかじめ添加剤などが含まれていてもよい。
【0020】
セメント系材料の配合割合は、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは25〜50質量%、より好ましくは30〜45質量%である。
【0021】
(珪酸質材料)
珪酸質材料としては、例えば、珪石粉、シリカ粉、シリカヒューム、シラスバルーン、パーライト、マイカ、ケイ藻土、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス粉、ケイ質粘土、ベントナイトなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは、珪石粉、シリカ粉、シリカヒューム、シラスバルーン、パーライト、マイカ、ケイ藻土、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス粉、ケイ質粘土およびベントナイトからなる群より選ばれる少なくとも1種以上である。
【0022】
珪酸質材料の配合割合は、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは15〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。
【0023】
(補強繊維)
補強繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、アセテート繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等の有機繊維;ガラス繊維;炭素繊維;セラミック繊維;金属繊維などを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、アセテート繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維および金属繊維から選ばれる群より選ばれる少なくとも1種以上である。補強繊維の繊維長は、特に限定されず、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは2〜8mmである。補強繊維の繊維径は、特に限定されず、1〜100μm、より好ましくは10〜30μmである。
【0024】
補強繊維の配合割合は、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは3〜12質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
【0025】
(フライアッシュ)
フライアッシュとしては、石炭火力発電所において微粉炭を燃焼する際、溶融した灰分が冷却されて球状となった微細粒子を電気集塵器等で捕集した副産物を用いることができる。
【0026】
フライアッシュは、ブレーン値が4000cm
2/g未満であり、好ましくは300
0cm
2/g未満である。ブレーン値が4000cm
2/gを超えると、得られる無機質板の地合が悪化しやすくなる。さらに、セメント成形材料が粘着剤や分散剤を含み、セメント成形材料が押出成形により成形される場合、物理的又は化学的吸着によってメチルセルロースや分散剤が十分に作用せず、押出成形時に流れ難くなり、得られる無機質板の地合が不良となりやすい。ここで、ブレーン値は実施例に記載の方法により測定された値である。
【0027】
フライアッシュの主成分はシリカ(SiO
2)とアルミナ(Al
2O
3)であり、この2つの無機質成分で例えば全体の70〜80質量%を占める。その他、典型的には少量の酸化第二鉄(Fe
2O
3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)等を含有している。
【0028】
フライアッシュの化学成分は、ブレーン値が上述した範囲内であれば特に限定されず、フライアッシュの総質量に対して、好ましくは、SiO
2が50〜70質量%、Al
2O
3が16〜20質量%、Fe
2O
3が5〜6質量%、CaOが1〜3質量%である。フライアッシュの品質は、ブレーン値が上述した範囲内であれば特に限定されず、例えば、JISA 6201−2008(コンクリート用フライアッシュ)に規定されているフライアッシュI種、II種、III種、IV種のいずれかに該当する品質であってもよいし、コストの観点から、SiO
2の割合が50質量%未満であってもよい。
【0029】
フライアッシュの配合割合は、セメント成形材料の総質量に対して1〜20質量%、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは5〜20質量%である。フライアッシュの配合割合が20質量%を超えると、得られる無機質板の強度実現性が低くなりやすく、表面地合が不良となりやすい。フライアッシュの配合割合が1質量%未満であると、得られる無機質板の炭酸化による寸法変化や反りの発生を抑制することができない。すなわち、フライアッシュの配合割合を上記範囲内とすれば、例えば、建築用のパネルに要求される性能面での悪影響がほとんどなく、無機質板の寸法収縮や反りの原因となる炭酸化を大幅に抑制することができる。さらに、安価なフライアッシュを使用することで、製造コストを増加させることなく、経年劣化する塗膜保護と異なり、効果持続性が向上する。
【0030】
フライアッシュの強熱減量は、特に限定されず、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。フライアッシュの強熱減量が上記範囲内であれば、表面地合がより良好な無機質板とすることができる。なお、強熱減量は、実施例と同様にして測定した値である。
【0031】
フライアッシュの平均粒径は、特に限定されず、好ましくは15〜25μmである。平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での平均粒径を意味する。
【0032】
セメント成形材料には、軽量骨材が配合されるのが好ましい。これにより、得られる無機質板の軽量化を図ることができ、また、寸法安定性がよく、耐候性の高い無機質板とすることができる。軽量骨材としては、例えば、パーライト、焼成バーミキュライト、フライアッシュバルーン、合成樹脂ビーズ、合成樹脂発泡体などを用いることができる。軽量骨材の配合量は、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは0.1〜1.5質量%である。
【0033】
セメント成形材料には、増量材が配合されるのが好ましい。これにより、反応性を向上することができる。増量材としては、無機質板の粉砕品などを用いることができる。増量材の配合量は、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは10〜20質量%である。
【0034】
セメント成形材料には、増粘剤が配合されるのが好ましい。これにより、粘度を調整して成形しやすいセメント成形材料とすることができる。増粘剤としては、セメント系の材料に通常用いられる増粘剤であればよく、例えば、メチルセルロースなどのセルロース系増粘剤、水溶性の増粘剤などを用いることができる。増粘剤の配合量は、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは0.5〜3質量%である。また、セメント成形材料に分散剤および増粘剤が配合されている場合、分散剤および増粘剤の合計量が、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは0.5〜3質量%である。
【0035】
セメント成形材料には、分散剤が配合されるのが好ましい。これにより、セメント分散性の高い材料を得ることができる。分散剤は、セメント系の材料に通常用いられる界面活性剤などであってよい。分散剤としては、AE減水剤などを用いることができる。分散剤は、標準形、遅延形、促進形のいずれであってもよい。分散剤の配合量は、セメント成形材料の総質量に対して、好ましくは0.5〜3質量%である。
【0036】
[無機質板の製造方法]
無機質板の製造方法は、セメント成形材料を調製する工程(a)と、セメント成形材料を成形して成形体を得る工程(b)と、得られた成形体を硬化する工程(c)とを含む。特に、本実施形態に係る無機質板を製造する方法として、セメント成形材料を押出成形して成形体を得、この成形体をオートクレーブ養生して無機質板を得ることが好ましい。押出成形により無機質板を製造すると、セメント成形材料の押出が滑らかになって表面地合がより良好な無機質板とすることができる。
【0037】
〔工程(a)〕
工程(a)では、セメント系材料、珪酸質材料、補強繊維、フライアッシュおよび必要に応じて上述した混和材料を混合してセメント成形材料を得る。次いで、得られたセメント成形材料と水とを混合して均一攪拌することによって、液状物または粘性の高い流動体とする。水の添加量は、セメント成形材料の総質量に対して、分散性と成形性の観点から、好ましくは10〜100質量%である。
【0038】
〔工程(b)〕
工程(b)では、工程(a)で調製したセメント成形材料を成形して成形体を得る。
【0039】
成形方法としては、特に限定されず、例えば、押出法、抄造法、注型法などが挙げられ、これはプレスなどと組み合わせてもよい。なかでも、押出法が好ましい。押出法により成形されて得られた無機質板は、例えば、一般的な抄造法により成形されて得られた無機質板と比べて、脱水時の水抜け穴が発生しにくいため、耐久性に優れる。
【0040】
押出法では、例えば、セメント成形材料を押出機に投入し、真空脱気した後、口金から押し出してセメント成形材料を成形する。ただし、この状態では成形体は完全に硬化しておらず、いわゆるグリーンシートの状態となっている。得られたグリーンシートは、必要に応じて、コンベアなどの搬送によりプレス機に送られ、プレス成形される。
【0041】
口金の形状は、特に限定されず、無機質板の形状等に応じて適宜選択すればよい。真空脱気する際の真空度は、好ましくは79〜95kPaである。
【0042】
プレス成形する方法としては、例えば、ホットプレスなどが挙げられる。ホットプレスにより、離型性よく、セメント成形材料を成形することができる。すなわち、室温でプレスした場合、プレス型にセメント成形材料が付着して、後残りする場合があるが、熱をかけてプレスすることにより、セメント成形材料の付着を低減し、成形後の材料を容易に離型させることができる。また、ホットプレスでは、離型剤を使用しなくても容易にセメント成形材料を離型することができる。なお、さらなる離型性を得るために離型剤を使用してもよい。離型剤を使用する場合は、プレス型に塗布してもよいし、セメント成形材料の表面に噴き付けるなどしてもよい。
【0043】
〔工程(c)〕
工程(c)では、例えば、得られた成形体に、一次養生が施され、ある程度の強度が確保されてから、二次養生(オートクレーブ養生)が施される。これにより、表面地合や強度などの性能を確保しつつ、寸法収縮や反りが発生しにくい無機質板が作製される。
【0044】
一次養生としては、セメント成形材料の材質や成形方法などにより適宜調整すればよく、例えば、常温養生や蒸気養生などが挙げられる。具体的には、一次養生は、例えば、常圧下、40〜90℃の温度で4〜12時間行われるのが好ましい。
【0045】
オートクレーブ養生は、一次養生の条件、セメント成形材料の材質、成形方法などにより適宜調整すればよく、例えば、5065〜8104hPa(5〜8気圧)下、160〜180℃の温度で4〜12時間行われるのが好ましい。
【0046】
無機質板は、各種の塗装、焼付、加工(切削や接着など)が施されてもよい。さらに、得られた無機質板は、必要に応じて、ジェットゾーンドライヤーなどを用いて、含水率が調製されてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0048】
〔実施例1〜3、比較例1〜4〕
セメント系材料としてセメント、珪酸質材料として珪石粉、フライアッシュ、補強繊維、軽量骨材、増量材、増粘剤および分散剤を表1に示す配合割合で混合したセメント成形材料に、水をセメント成形材料の総質量に対して28質量%加えて流動体を得た。得られた流動体を押出機に投入し、口金部材から押出し、グリーンシートを得た。このグリーンシートに、常圧下、65℃の温度で15時間の条件で一次養生を施した後、170℃の温度で12時間の条件でオートクレーブ養生を施し、無機質板を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
フライアッシュAないしCについて、下記測定方法により性状を分析した。その結果を表2に示す。
【0051】
(ブレーン値の測定)
フライアッシュのブレーン値は、セメントの物理試験方法(JIS R 5201)に定められるブレーン空気透過装置を用いて、測定した。
【0052】
(強熱減量の測定)
フライアッシュの強熱減量は、「コンクリート用フライアッシュの強熱減量の測定方法」(JIS A 6201)に準拠して測定した。
【0053】
【表2】
【0054】
得られた無機質板について、表面地合、曲げ強度、炭酸化収縮率および総合評価を下記評価方法により行った。その結果を表3に示す。
【0055】
(表面地合の評価)
無機質板を目視により下記の5段階で評価した。
5点:表面に凹凸や亀裂が確認できなかった。
4点:表面に僅かな凹凸が確認できた。
3点:表面に凹凸が確認できた。
2点:表面に僅かな亀裂が確認できた。
1点:表面に大きな亀裂が確認できた。
【0056】
(曲げ強度の評価)
無機質板の曲げ強度は、JIS A 1408に準拠して測定した。
【0057】
(乾燥比重の測定)
乾燥比重は、105℃で24時間乾燥後の比重を算出した。
【0058】
(炭酸化収縮率の評価)
炭酸化収縮率は、無機質板(40mm×40mm×160mmt)を用い、炭酸化の促進処理前と促進処理後の一辺の寸法(長さ)を測定して、下記式(1)より算出した。炭酸化の促進処理は、温度30℃、湿度60%、CO
2ガス濃度5%の雰囲気中で42日間放置することにより行った。
【0059】
炭酸化収縮率(%)=[{促進処理前の長さ(mm)−促進処理後の長さ(mm)}/{促進処理前の長さ(mm)}]×100・・・(1)
【0060】
【表3】
【0061】
実施例1〜3では、フライアッシュは、ブレーン値が4000cm
2/g未満であり、かつセメント成形材料の総質量に対して1〜20質量%配合されているので、総合評価が「○」または「◎」であった。すなわち、実施例で得られた無機質板は、表面地合や機械的強度などの性能を確保しつつ、寸法収縮や反りが発生しにくい無機質板であった。
【0062】
一方、比較例1〜4では、フライアッシュは、ブレーン値が4000cm
2/g未満であり、かつセメント成形材料の総質量に対して1〜20質量%配合されていることを満たさないので、総合評価が「△」または「×」であった。すなわち、比較例で得られた無機質板は、表面地合や機械的強度などの性能を確保しつつ、寸法収縮や反りが発生しにくい無機質板ではなかった。