特許第6687380号(P6687380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687380
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】塩味増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/40 20160101AFI20200413BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20200413BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20200413BHJP
【FI】
   A23L27/40
   A21D2/18
   A23L7/109 A
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-245742(P2015-245742)
(22)【出願日】2015年12月17日
(65)【公開番号】特開2017-108682(P2017-108682A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浦上 淳一
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−110997(JP,A)
【文献】 特開平07−075479(JP,A)
【文献】 特開2008−099629(JP,A)
【文献】 特開平10−243777(JP,A)
【文献】 特開2014−005394(JP,A)
【文献】 調理科学,1973年,6(2),10-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−7/104
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈降積が4.0mL以下であって、かつ、平均粒子径が15μm以上の膨潤抑制澱粉を有効成分として含む、穀粉を主成分とする食品の製造に使用される塩味増強剤。
【請求項2】
膨潤抑制澱粉が、少なくとも地下澱粉を原料とすることを特徴とする、請求項1に記載の塩味増強剤。
【請求項3】
膨潤抑制澱粉が、タピオカ、甘藷澱粉及び馬鈴薯澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一以上を原料とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塩味増強剤。
【請求項4】
膨潤抑制澱粉が、リン酸架橋澱粉及びリン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の塩味増強剤。
【請求項5】
穀粉を主成分とする食品が、原料粉100質量部に対して食塩0.5〜6.0質量部添加された食品である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の塩味増強剤。
【請求項6】
穀粉を主成分とする食品が、ミックス粉、食品生地、麺製品又はベーカリー製品のいずれかである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の塩味増強剤。
【請求項7】
穀粉を主成分とする食品の製造において、請求項1〜6のいずれか一項に記載の塩味増強剤を添加することを特徴とする、食品の塩味を増強する方法。
【請求項8】
原料粉100質量部のうち3〜50質量部を請求項1〜6のいずれか一項に記載の塩味増強剤とすることを特徴とする、穀粉を主成分とする食品の塩味を増強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀粉を主成分とする食品の製造の際に用いられる塩味増強剤、及び、該塩味増強剤を用いた食品の塩味を増強する方法に関する。また、本発明は、食塩使用量に比して塩味が増強された、又は、食塩使用量が通常より低減されても低減前と同等の食塩味を有する、穀粉を主成分とする食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー製品や麺製品等の穀粉を主成分とする食品には、製造原料として、食塩が使用されるものが多い。食塩は、これら食品に塩味を付与するだけでなく、それら製品製造時の生地物性に大きな影響を及ぼすため、作業性の面から、その添加量は一定の範囲に限られる。穀粉を主成分とする各種食品の製造時の一般的な食塩使用量は、小麦粉100gに対し、パン類では0.5〜3.0g(非特許文献1)、クッキー類では0.8〜2.1g(非特許文献2)、パイ生地・タルト生地では0.7〜3.0g(非特許文献2及び3)、ケーキ類では0.5〜2.0g(非特許文献3)、うどんでは2.0〜6.4g(非特許文献4)であり、これら食品には相当量の食塩が含まれるといえる。
【0003】
一方で、食塩の過剰摂取は、高血圧を発端とし、脳卒中、心臓病、腎臓病などの命にかかわる疾患を招く恐れがあることから、我が国の厚生労働省は、2015年4月1日より、食塩摂取量の一日の目標量を、男性では9.0g未満から8.0g未満へ、女性では7.5g未満から7.0g未満へと変更している。このような状況下、食品中の食塩量低減が求められるところであるが、前述の通り、穀粉を主成分とする食品の製造においては、食塩は必須成分であり、その使用量を低減すると、例えばベーカリー生地や麺生地にべたつきが生じ、作業性が著しく悪化する。そして、そのように食塩使用量を低減して得られる食品は、塩味が薄く物足りないというだけでなく、風味や食感が大きく損なわれたものとなる。
【0004】
穀粉を主成分とする食品の食塩使用量を低減する方法は、これまでにいくつか開示されている。例えば、特許文献1は、グルコン酸のアルカリ金属塩でない有機酸のアルカリ金属塩が、食塩に代替しても焙焼製品製造時の作業性に影響を及ぼさないとの知見を得て、「グルコン酸のアルカリ金属塩を除く有機酸のアルカリ金属塩を含有するパン類およびその他の焙焼製品用食塩代替原料」を開示している。特許文献2は、食塩含量を減じた生地をいったん製造し、その生地に対し、食塩を多量に含有する小片状製パン用生地配合材を、視認できる程度に練り込むことで、パン生地全体では食塩含量が減じられているにもかかわらず塩味の感じ方が強くなるとの知見を得て、「食塩を3〜30質量%含有する小片状製パン用生地配合材」を開示している。また、特許文献3は、ナトリウム塩を含まない特定のカリウム塩の組み合わせが塩知覚を顕著に強化させるとの知見を得て、「塩化カリウム、リン酸一カリウムおよびクエン酸カリウムのブレンドを含む塩味強化組成物」などを開示している。そして、特許文献4は、メジアン径が4.9μm以下である架橋でん粉が液状飲食品において塩味増強効果を有するとの知見を得て、「メジアン径が4.9μm以下となるように物理的に微小化された架橋澱粉を有効成分とし、添加された飲食品の塩味を増強することを特徴とする塩味増強剤」を開示している。
【0005】
しかし、高血圧に起因する上記各疾患を予防すべく、食塩をはじめとするナトリウム塩の摂取を控える目的からすれば、特許文献1及び3の発明は、ナトリウム以外の塩、例えば、カリウム塩を使用せざるを得ず、ナトリウム塩にはない独特のエグ味を生じることとなる。また、特許文献2及び4の発明は、食塩を2回に分けて添加するとか、用いる架橋澱粉に高度な物理的処理を加えてあらかじめ微小化する必要があるため、工程が煩雑であって、簡便かつ実用的なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9‐238643
【特許文献2】特開2011−510679
【特許文献3】特開2015−50999
【特許文献4】特開2009−240258
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「パンの基本大図鑑」p24−25,p156−157((株)講談社、2003年3月27日第1刷発行)
【非特許文献2】「洋菓子製造の基礎と実際」p174,p184((株)光琳、平成3年11月15日発行)
【非特許文献3】「お菓子の教科書」((株)新星出版社、2011年1月15日)
【非特許文献4】「新訂めんの本」p32((株)食品産業新聞社、1991年8月20日初版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、穀粉を主成分とする食品の製造の際に用いられる塩味増強剤、及び、それを用いて穀粉を主成分とする食品の塩味を増強する方法を提供することにある。また、本発明の目的は、穀粉を主成分とする食品の塩味を増強することにより結果的に食塩使用量を減らすことができる、穀粉を主成分とする食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意研究した結果、特定の膨潤抑制澱粉が、穀粉を主成分とする食品に配合されると、意外にもその食品の塩味が増強されることを見出した。具体的には、沈降積が4.0mL以下であって、かつ、平均粒子径が15μm以上である特定の膨潤抑制澱粉を、穀粉を主成分とする食品に配合することにより、その食品中の塩味を増強することができる。
【0010】
すなわち、本発明の第一の発明は、以下の塩味増強剤を提供するものである。
1.沈降積が4.0mL以下であって、かつ、平均粒子径が15μm以上の膨潤抑制澱粉を有効成分として含む、穀粉を主成分とする食品の製造に使用される塩味増強剤。
2.膨潤抑制澱粉が、少なくとも地下澱粉を原料とすることを特徴とする、上記1に記載の塩味増強剤。
3.膨潤抑制澱粉が、タピオカ、甘藷澱粉及び馬鈴薯澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一以上を原料とすることを特徴とする、上記1又は2に記載の塩味増強剤。
4.膨潤抑制澱粉が、リン酸架橋澱粉及びリン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一以上である、上記1〜3のいずれかに記載の塩味増強剤。
5.穀粉を主成分とする食品が、原料粉100質量部に対して食塩0.5〜6.0質量部添加された食品である、上記1〜4のいずれかに記載の塩味増強剤。
6.穀粉を主成分とする食品が、ミックス粉、食品生地、麺製品又はベーカリー製品のいずれかである、上記1〜5のいずれかに記載の塩味増強剤。
【0011】
また、本発明の第二の発明は、以下の食品の塩味を増強する方法を提供するものである。
7.穀粉を主成分とする食品の製造において、上記1〜6のいずれかに記載の塩味増強剤を添加することを特徴とする、食品の塩味を増強する方法。
8.原料粉100質量部のうち3〜50質量部を上記1〜6のいずれかに記載の塩味増強剤とすることを特徴とする、穀粉を主成分とする食品の塩味を増強する方法。
【0012】
また、本発明の第三の発明は、以下の食品の製造方法を提供するものである。
9.穀粉を主成分とする食品の製造において、原料粉100質量部のうち3〜50質量部を上記1〜6のいずれかに記載の塩味増強剤とすることを特徴とする、穀粉を主成分とする食品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、穀粉を主成分とする食品の塩味を増強することができるので、それら食品の製造時に使用する食塩量の低減が可能となり、そのような減塩食品を定常的に摂取すれば、食塩の過剰摂取により誘発される高血圧を発端とする脳卒中、心臓病、腎臓病などの疾患を予防できうる。また、本発明によれば、それら食品の製造時に添加する食塩量が低減されても、作業性に何ら悪影響を及ぼすことなく、風味及び食感に優れた食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における「穀粉」とは、主に、穀類、豆類、芋類、木の実などを粉状化したものを指し、それら穀類等から取り出された澱粉も包含する。具体的には、小麦粉、コーンフラワー、米粉、タピオカ粉、馬鈴薯粉、甘藷粉、そば粉などが挙げられ、さらには小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、サトイモ澱粉に加え、それら澱粉に物理的又は化学的処理を施した加工澱粉も包含する。
【0015】
本発明における「穀粉を主成分とする食品」とは、上記穀粉に少なくとも水及び食塩を加えたものに、必要であれば適宜副原料(例えば、油脂、卵、乳、ガム類、乳化剤、膨張剤など)を加え、撹拌若しくは捏ねるなどしたバッター若しくはドウ又はそれらを加熱調理したものをいい、水分を加えて撹拌若しくは捏ねるなどする前段階の粉体ミックスも包含する。この穀粉を主成分とする食品の代表例としては、ベーカリー製品及び麺製品が挙げられる。ベーカリー製品としては、ブルマン、イギリス食パン、ワンローフ等の食パン類、バゲット、パリジャン等のフランスパン類、スイートロール、バンズ、テーブルロール等のロール類、アンパン、メロンパン等の菓子パン類、クロワッサン等のデニッシュ類のほか、イングリッシュマフィン、ベーグル、ピザ、ナン、ドーナツ、フリッター、蒸しパン、中華饅頭が挙げられ、ラスク、クルトン、パン粉等といったベーカリー製品の二次加工品も挙げられる。また、ベーカリー製品には、焼き菓子類が包含され、具体的には、クッキー、ビスケット、バターケーキ、スポンジケーキ、チーズケーキ、パイ、ショートブレッド、クラッカー、スナック菓子、プレッツェル等が包含される。麺製品としては、うどん、パスタ、蕎麦、中華麺、素麺、冷麦、冷麺、きしめん、餃子皮、ワンタン皮などが挙げられる。
【0016】
本発明における「膨潤抑制澱粉」とは、澱粉を加熱した際に澱粉粒の膨張、すなわち、澱粉粒の糊化が抑制される澱粉のことを指す。本発明で使用する膨潤抑制澱粉は、沈降積が4.0mL以下であって、かつ、平均粒子径が15μm以上であればよい。なお、膨潤抑制澱粉の具体例としては、リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、高アミロースコーンスターチ、老化澱粉、湿熱処理澱粉が挙げられる。そして、沈降積が4.0mL以下であって、かつ、平均粒子径が15μm以上となる膨潤抑制澱粉を得るには、平均粒子径が15μm以上の澱粉を原料とし、後述する条件下において架橋処理などの処理を施せばよい。
【0017】
ここで、平均粒子径が15μm以上の原料澱粉としては、地下茎又は根に含まれる澱粉(地下澱粉と呼ぶ)の場合、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、葛澱粉、蕨澱粉などが挙げられ、種子に含まれる澱粉(地上澱粉と呼ぶ)の場合、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉などが挙げられる。本発明の塩味増強効果を得るには、地下澱粉を原料とした膨潤抑制澱粉を用いるのが好ましく、その地下澱粉の中でもタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉及び甘薯澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一以上を原料とした膨潤抑制澱粉を用いるのがより好ましく、甘藷澱粉を原料とした膨潤抑制澱粉を用いるのがさらに好ましい。
【0018】
ここで、本発明における「平均粒子径」とは、澱粉試料を、レーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(MT3300EX−II、日機装株式会社)により測定可能な濃度範囲となるようイオン交換水に分散し、その懸濁液の粒度分布を当該測定装置により測定して得られるD50値(メジアン径)をいう。なお、澱粉の屈折率は1.81、イオン交換水の屈折率は1.3333として粒子径を算出した。
【0019】
本発明における「沈降積」とは、澱粉の膨潤し易さの指標であって、以下の方法によって測定された値をいう。まず、澱粉試料0.15g(固形物換算)を試験管に計量し、あらかじめ調製しておいた試薬(塩化アンモニウム26質量%、塩化亜鉛10質量%、水64%により調製)15mLを注ぎ込む。次に、卓上バイブレーターを用いて、試験管中の澱粉試料を均一に分散させ、直ちに沸騰浴中に固定して10分間加熱後、25〜35℃まで冷却する。そして、この試験管中の澱粉試料を、卓上バイブレーターを用いて再度分散させ、10mL容量メスシリンダーに10mL流し込み、25℃にて20時間静置後、その沈殿物の目盛値を読み取る。
【0020】
本発明の膨潤抑制澱粉は、沈降積が4.0mL以下であることが必須であって、好ましくは3.0mL以下、より好ましくは2.0mL以下、さらに好ましくは1.0mL以下である。このような膨潤抑制澱粉を得る方法としては、例えば、澱粉の架橋処理が挙げられる。架橋剤としてトリメタリン酸ナトリウムを使用する場合は、原料澱粉に対して1%〜8%を、オキシ塩化リンを使用する場合は、原料澱粉に対して0.01%〜0.1%を添加し、定法(必要であれば、特表2002−503959参照)により反応させれば、本発明の膨潤抑制澱粉を得ることができる。少なくとも上記各架橋剤を反応させて得られる澱粉は、リン酸架橋澱粉である。リン酸架橋澱粉には、上記各架橋剤にトリポリリン酸ナトリウム0.01〜0.1%を同時に反応させて得られるリン酸モノエステル化リン酸架橋デンプンも含まれる。
【0021】
本発明の沈降積が4.0mL以下の膨潤抑制澱粉を得るためのその他方法としては、澱粉の湿熱処理や老化処理が挙げられる。具体的には、澱粉を100℃前後の飽和水蒸気の存在下で10〜180分間加熱処理する(湿熱処理)とか、水分含量40〜50%の澱粉を80〜120℃のエクストルーダーで加熱糊化後に水冷及び5℃冷蔵庫で冷却し、60℃で熱風乾燥粉砕する(老化処理)などして得られる。
【0022】
なお、膨潤抑制澱粉が、エーテル化処理又はエステル化処理が施されたものである場合、本発明の効果はやや劣ったものとなる。また、原料澱粉の平均粒子径が15μm以上であっても、物理的処理などにより微細化されて最終的に得られる膨潤抑制澱粉の平均粒子径が15μm未満となる場合は、本発明の効果は得られない。
【0023】
本発明における「原料粉」とは、前述した穀粉及び膨潤抑制澱粉を合わせたものを指し、食塩、砂糖、脱脂粉乳などの粉体は含まない。
【0024】
本発明によれば、穀粉を主成分とする食品の塩味を増強することができるので、それら食品の製造時に使用する食塩量の低減が可能となる。また、それら食品に使用する食塩量が低減されても、食品製造時の作業性に何ら悪影響を及ぼすことがないので、食感に優れた、穀粉を主成分とする食品を提供することができる。さらに、本発明によれば、塩味を増強することができるだけでなく、食品製造時に使用される原料、例えば、穀粉、乳製品、油脂類、香料、香辛料、洋酒類、レーズンその他の乾燥果実類、抹茶、ココアパウダー等由来の好ましい風味を増強することができるので、風味に優れた、穀粉を主成分とする食品を提供することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、実施例に用いた膨潤抑制澱粉は、以下の参考例の手順に従い調製し、得られた各膨潤抑制澱粉の原料種、使用した架橋剤、沈降積及び平均粒子径は表1に示す。また、実施例中、「部」は質量部を示す。
【0026】
[参考例1]
水130部に硫酸ナトリウム20部を溶解した溶液に、馬鈴薯澱粉100部を分散させたスラリーを5点調製した。これら各スラリーに、pH11〜12のアルカリ条件下でトリメタリン酸ナトリウム0.4部、0.45部、0.5部、0.55部、1部をそれぞれ加え、40℃で10時間反応させて架橋処理を行った。反応後の各スラリーを硫酸で中和した後、水洗、脱水及び乾燥を経て、沈降積5.0mL、4.0mL、3.0mL、2.0mL、0.8mLの各リン酸架橋馬鈴薯澱粉を得た(試料番号1〜5)。得られたリン酸架橋馬鈴薯澱粉の平均粒子径は、いずれも40μmであった。
[参考例2]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉を米澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.8mL、かつ、平均粒子径3μmのリン酸架橋米澱粉を得た(試料番号6)。
[参考例3]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉をタピオカ澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.6mL、かつ、平均粒子径15μmのリン酸架橋タピオカ澱粉を得た(試料番号7)。
[参考例4]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉をトウモロコシ澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.6mL、かつ、平均粒子径15μmのリン酸架橋トウモロコシ澱粉を得た(試料番号8)。
[参考例5]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉を甘薯澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.5mL、かつ、平均粒子径17μmのリン酸架橋甘薯澱粉を得た(試料番号9)。
[参考例6]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉を小麦澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.5mL、平均粒子径は20μmのリン酸架橋小麦澱粉を得た(試料番号10)。
[参考例7]
参考例1における架橋剤のトリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、別途、トリポリリン酸ナトリウム0.1部を添加し、反応時間を20時間とすることにより、沈降積0.8mL、かつ、平均粒子径40μmのリン酸モノエステル化リン酸架橋馬鈴薯澱粉を得た(試料番号11)。
【0027】
【表1】
【0028】
(塩味の評価)
膨潤抑制澱粉を配合しない、穀粉を主成分とする食品を対照区とし、膨潤抑制澱粉を配合した、穀粉を主成分とする食品の塩味について官能評価を行った。官能評価は、表2に示す塩味の評価基準を用い、訓練された7名のパネラーに各々点数を付けさせ、その平均点を評価点とした。
【0029】
【表2】
【0030】
(食感の評価)
膨潤抑制澱粉を配合しない、穀粉を主成分とする食品を対照区とし、膨潤抑制澱粉を配合した、穀粉を主成分とする食品の食感について官能評価を行った。官能評価は、表3に示す食感の評価基準を用い、訓練された7名のパネラーに各々点数を付けさせ、その平均点を評価点とした。
【0031】
【表3】
【0032】
(総合評価)
穀粉を主成分とする食品の総合評価は、塩味及び食感の各評価点をもとに、表4に示す基準に従って行った。
【0033】
【表4】
【0034】
(食パン1)
表5の配合(強力粉及び膨潤抑制澱粉の具体的な配合割合は、表6に示す。)及び表7に示す中種法の手順に従い、食パンを作製した。なお、膨潤抑制澱粉は、試料番号5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒子径40μm)を用いた。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
【表7】
【0038】
得られた食パンの塩味及び食感について評価した結果を表8に示す。実施例1〜7及び比較例2では、対照区と比べて塩味の評価点が高く、塩味増強効果が確認された。一方で、比較例1は、対照区と塩味の評価点は同等であり、塩味増強効果は確認できなかった。すなわち、原料粉100質量部のうち、本発明の膨潤抑制澱粉を3質量部以上含むと、塩味増強効果が得られることが確認できた。原料粉100質量部のうち、本発明の膨潤抑制澱粉を55質量部含む比較例2では、対照区と比較して塩味は増強されるものの、食感が粉っぽくなっていた。また、得られた食パンの体積は小さく、好ましい品質のパンが得られなかった。
【0039】
【表8】
【0040】
(食パン試験2)
試料番号1〜5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8〜5.0mL、平均粒径40μm)、試料番号11のリン酸モノエステル化リン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒径40μm)及び未加工の馬鈴薯澱粉を用いて、実施例4(穀粉のうち15%が膨潤抑制澱粉)の配合及び表7の作製手順に従い、比較例3〜4及び実施例8〜12の各食パンを作製した。得られた食パンの塩味及び食感について評価した結果を表9に示す。
【0041】
【表9】
【0042】
実施例8〜12の食パンは、対照区と比べて塩味及び食感の評価点が高かった。よって、平均粒子径が40μm前後であって、かつ、沈降積が4.0mL以下の膨潤抑制澱粉を用いることにより、塩味が増強され、かつ、食感に優れた食パンが得られることが確認できた。
【0043】
(食パン試験3)
原料澱粉として米、タピオカ、甘藷、小麦及び馬鈴薯澱粉を用いて調製した試料番号5〜10の各リン酸架橋澱粉を用いて、実施例4(穀粉のうち15%が膨潤抑制澱粉)の配合及び表7の作製手順に従い、比較例5及び実施例13〜17の食パンを作製した。得られた食パンの塩味及び食感について評価した結果を表10に示す。
【0044】
【表10】
【0045】
実施例13〜17は、対照区と比べて塩味及び食感の評価点が高かった。よって、沈降積が0.5〜0.8mLであって、かつ、平均粒子径が15μm以上の膨潤抑制澱粉を用いることにより、塩味が増強され、かつ、食感の良い食パンが得られることが確認された。特に、タピオカ澱粉、甘薯澱粉、馬鈴薯澱粉といった地下澱粉を原料とする、沈降積が0.5〜0.8mLであって、かつ、平均粒子径が15μm以上の膨潤抑制澱粉(それぞれ試料番号7、9、5)を用いることにより、塩味が増強され、かつ、食感の好ましい食パンが得られることが確認された。一方、平均粒子径が3μmの米澱粉を原料とする膨潤抑制澱粉(試料番号6)を用いた比較例5では、塩味及び食感ともに対照区と同等の評価結果であり、塩味増強効果は確認できず、食感の改善もみられなかった。
【0046】
(抹茶ロールパン試験)
表11に示す配合及び表12に示す中種法の手順に従い、抹茶ロールパンを作製した。膨潤抑制澱粉としては、試料番号5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒子径40μm)を用いた。得られた抹茶ロールパンの塩味、風味及び食感について評価した結果を表13に示す。なお、風味の評価は、表2の塩味の評価基準を準用して行い、パネラー7名の平均点を評価点とした。
【0047】
【表11】
【0048】
【表12】
【0049】
【表13】
【0050】
膨潤抑制澱粉としては、試料番号5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒子径40μm)を用いた実施例19の抹茶ロールパンは、対照区と比べて塩味が増強されているだけでなく、食感及び抹茶風味がより引き立っていた。
【0051】
(チーズ風味パウンドケーキ試験)
表14に示す配合及び表15に示す製造手順に従い、チーズパウンドケーキを作製した。膨潤抑制澱粉としては、試料番号5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒子径40μm)を用いた。その結果、比対照区の風味の評価点が3.0に対し、実施例20の風味の評価点は4.7であり、本発明により得られるチーズパウンドケーキは、対照区に比べてチーズ風味がより引き立っていた。
【0052】
【表14】
【0053】
【表15】
【0054】
以上より、塩味だけでなく原料に由来する風味も引き立つことが確認できた。そこで、ココアスポンジケーキを作製して風味を確認したところ、対照区に比べてココア風味がより引き立っており、本発明によれば、塩味だけでなく原料由来の好ましい風味も増強できることが確認された。
【0055】
(茹でうどん試験1)
表16の配合及び表17の製造手順に従って、比較例6及び実施例21〜23の茹でうどんを作製した。膨潤抑制澱粉としては、試料番号9のリン酸架橋甘薯澱粉(沈降積0.5mL、平均粒子径17μm)を用いた。比較例6及び実施例21の食塩使用量は対照区4と同量であり、実施例22及び23の食塩使用量は、それぞれ対照区4の75%及び50%である。得られた麺の塩味及び製麺性について評価した結果は、表18に示す。
【0056】
【表16】
【0057】
【表17】
【0058】
【表18】
【0059】
ここで、製麺性とは、麺生地のまとまりやすさ、麺生地の圧延や製麺のしやすさ、茹で工程における保形性維持等の、茹でうどんの製造適性全般のことをいう。製麺性の評価は、原料粉として小麦粉のみを使用して作製した対照区4の製麺性と同等である場合を○、(1)生地のまとまりやすさ、(2)圧延及び製麺のしやすさ及び(3)茹で工程における保形成の維持、の少なくともいずれかに問題がある場合を×とした。実施例21の麺は、対照区4及び比較例6の麺に比べて塩味が増強されていた。また、実施例23は、食塩使用量を対照区4の50%としているにもかかわらず、対照区4と同等の塩味を感じることが確認できた。
【0060】
(茹でうどん試験2)
表19の配合及び表17の製造手順に従って、実施例24〜29及び比較例7の茹でうどんを作製した。膨潤抑制澱粉として、試料番号9のリン酸架橋甘薯澱粉(沈降積0.5mL、平均粒子径17μm)を用いた。得られた麺の塩味及び製麺性について評価した結果は、表20に示す。
【0061】
【表19】
【0062】
原料粉100質量部のうち、50質量部を膨潤抑制澱粉としても、製麺性に影響せずに麺の塩味を増強できることがわかった。ただし、膨潤抑制澱粉の配合量が50質量部を超えると、塩味増強効果は十分に得られるが、製麺性が著しく悪化し、得られた麺の食感は良いものとはいえなかった。
【0063】
【表20】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、穀粉を主成分とする食品の塩味を効果的に増強することができるので、結果的に、その食品を製造する際に使用する食塩量を低減することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
本発明によれば、食品中の食塩使用量を減らすことができるので、食塩過剰摂取による高血圧を発端とした脳卒中、心臓病、腎臓病などの命にかかわる疾患を予防することができる点において、産業上の利用可能性を有する。