【実施例】
【0025】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、実施例に用いた膨潤抑制澱粉は、以下の参考例の手順に従い調製し、得られた各膨潤抑制澱粉の原料種、使用した架橋剤、沈降積及び平均粒子径は表1に示す。また、実施例中、「部」は質量部を示す。
【0026】
[参考例1]
水130部に硫酸ナトリウム20部を溶解した溶液に、馬鈴薯澱粉100部を分散させたスラリーを5点調製した。これら各スラリーに、pH11〜12のアルカリ条件下でトリメタリン酸ナトリウム0.4部、0.45部、0.5部、0.55部、1部をそれぞれ加え、40℃で10時間反応させて架橋処理を行った。反応後の各スラリーを硫酸で中和した後、水洗、脱水及び乾燥を経て、沈降積5.0mL、4.0mL、3.0mL、2.0mL、0.8mLの各リン酸架橋馬鈴薯澱粉を得た(試料番号1〜5)。得られたリン酸架橋馬鈴薯澱粉の平均粒子径は、いずれも40μmであった。
[参考例2]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉を米澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.8mL、かつ、平均粒子径3μmのリン酸架橋米澱粉を得た(試料番号6)。
[参考例3]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉をタピオカ澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.6mL、かつ、平均粒子径15μmのリン酸架橋タピオカ澱粉を得た(試料番号7)。
[参考例4]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉をトウモロコシ澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.6mL、かつ、平均粒子径15μmのリン酸架橋トウモロコシ澱粉を得た(試料番号8)。
[参考例5]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉を甘薯澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.5mL、かつ、平均粒子径17μmのリン酸架橋甘薯澱粉を得た(試料番号9)。
[参考例6]
参考例1における原料の馬鈴薯澱粉を小麦澱粉に替え、トリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、沈降積0.5mL、平均粒子径は20μmのリン酸架橋小麦澱粉を得た(試料番号10)。
[参考例7]
参考例1における架橋剤のトリメタリン酸ナトリウムの添加量を1部とし、別途、トリポリリン酸ナトリウム0.1部を添加し、反応時間を20時間とすることにより、沈降積0.8mL、かつ、平均粒子径40μmのリン酸モノエステル化リン酸架橋馬鈴薯澱粉を得た(試料番号11)。
【0027】
【表1】
【0028】
(塩味の評価)
膨潤抑制澱粉を配合しない、穀粉を主成分とする食品を対照区とし、膨潤抑制澱粉を配合した、穀粉を主成分とする食品の塩味について官能評価を行った。官能評価は、表2に示す塩味の評価基準を用い、訓練された7名のパネラーに各々点数を付けさせ、その平均点を評価点とした。
【0029】
【表2】
【0030】
(食感の評価)
膨潤抑制澱粉を配合しない、穀粉を主成分とする食品を対照区とし、膨潤抑制澱粉を配合した、穀粉を主成分とする食品の食感について官能評価を行った。官能評価は、表3に示す食感の評価基準を用い、訓練された7名のパネラーに各々点数を付けさせ、その平均点を評価点とした。
【0031】
【表3】
【0032】
(総合評価)
穀粉を主成分とする食品の総合評価は、塩味及び食感の各評価点をもとに、表4に示す基準に従って行った。
【0033】
【表4】
【0034】
(食パン1)
表5の配合(強力粉及び膨潤抑制澱粉の具体的な配合割合は、表6に示す。)及び表7に示す中種法の手順に従い、食パンを作製した。なお、膨潤抑制澱粉は、試料番号5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒子径40μm)を用いた。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
【表7】
【0038】
得られた食パンの塩味及び食感について評価した結果を表8に示す。実施例1〜7及び比較例2では、対照区と比べて塩味の評価点が高く、塩味増強効果が確認された。一方で、比較例1は、対照区と塩味の評価点は同等であり、塩味増強効果は確認できなかった。すなわち、原料粉100質量部のうち、本発明の膨潤抑制澱粉を3質量部以上含むと、塩味増強効果が得られることが確認できた。原料粉100質量部のうち、本発明の膨潤抑制澱粉を55質量部含む比較例2では、対照区と比較して塩味は増強されるものの、食感が粉っぽくなっていた。また、得られた食パンの体積は小さく、好ましい品質のパンが得られなかった。
【0039】
【表8】
【0040】
(食パン試験2)
試料番号1〜5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8〜5.0mL、平均粒径40μm)、試料番号11のリン酸モノエステル化リン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒径40μm)及び未加工の馬鈴薯澱粉を用いて、実施例4(穀粉のうち15%が膨潤抑制澱粉)の配合及び表7の作製手順に従い、比較例3〜4及び実施例8〜12の各食パンを作製した。得られた食パンの塩味及び食感について評価した結果を表9に示す。
【0041】
【表9】
【0042】
実施例8〜12の食パンは、対照区と比べて塩味及び食感の評価点が高かった。よって、平均粒子径が40μm前後であって、かつ、沈降積が4.0mL以下の膨潤抑制澱粉を用いることにより、塩味が増強され、かつ、食感に優れた食パンが得られることが確認できた。
【0043】
(食パン試験3)
原料澱粉として米、タピオカ、甘藷、小麦及び馬鈴薯澱粉を用いて調製した試料番号5〜10の各リン酸架橋澱粉を用いて、実施例4(穀粉のうち15%が膨潤抑制澱粉)の配合及び表7の作製手順に従い、比較例5及び実施例13〜17の食パンを作製した。得られた食パンの塩味及び食感について評価した結果を表10に示す。
【0044】
【表10】
【0045】
実施例13〜17は、対照区と比べて塩味及び食感の評価点が高かった。よって、沈降積が0.5〜0.8mLであって、かつ、平均粒子径が15μm以上の膨潤抑制澱粉を用いることにより、塩味が増強され、かつ、食感の良い食パンが得られることが確認された。特に、タピオカ澱粉、甘薯澱粉、馬鈴薯澱粉といった地下澱粉を原料とする、沈降積が0.5〜0.8mLであって、かつ、平均粒子径が15μm以上の膨潤抑制澱粉(それぞれ試料番号7、9、5)を用いることにより、塩味が増強され、かつ、食感の好ましい食パンが得られることが確認された。一方、平均粒子径が3μmの米澱粉を原料とする膨潤抑制澱粉(試料番号6)を用いた比較例5では、塩味及び食感ともに対照区と同等の評価結果であり、塩味増強効果は確認できず、食感の改善もみられなかった。
【0046】
(抹茶ロールパン試験)
表11に示す配合及び表12に示す中種法の手順に従い、抹茶ロールパンを作製した。膨潤抑制澱粉としては、試料番号5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒子径40μm)を用いた。得られた抹茶ロールパンの塩味、風味及び食感について評価した結果を表13に示す。なお、風味の評価は、表2の塩味の評価基準を準用して行い、パネラー7名の平均点を評価点とした。
【0047】
【表11】
【0048】
【表12】
【0049】
【表13】
【0050】
膨潤抑制澱粉としては、試料番号5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒子径40μm)を用いた実施例19の抹茶ロールパンは、対照区と比べて塩味が増強されているだけでなく、食感及び抹茶風味がより引き立っていた。
【0051】
(チーズ風味パウンドケーキ試験)
表14に示す配合及び表15に示す製造手順に従い、チーズパウンドケーキを作製した。膨潤抑制澱粉としては、試料番号5のリン酸架橋馬鈴薯澱粉(沈降積0.8mL、平均粒子径40μm)を用いた。その結果、比対照区の風味の評価点が3.0に対し、実施例20の風味の評価点は4.7であり、本発明により得られるチーズパウンドケーキは、対照区に比べてチーズ風味がより引き立っていた。
【0052】
【表14】
【0053】
【表15】
【0054】
以上より、塩味だけでなく原料に由来する風味も引き立つことが確認できた。そこで、ココアスポンジケーキを作製して風味を確認したところ、対照区に比べてココア風味がより引き立っており、本発明によれば、塩味だけでなく原料由来の好ましい風味も増強できることが確認された。
【0055】
(茹でうどん試験1)
表16の配合及び表17の製造手順に従って、比較例6及び実施例21〜23の茹でうどんを作製した。膨潤抑制澱粉としては、試料番号9のリン酸架橋甘薯澱粉(沈降積0.5mL、平均粒子径17μm)を用いた。比較例6及び実施例21の食塩使用量は対照区4と同量であり、実施例22及び23の食塩使用量は、それぞれ対照区4の75%及び50%である。得られた麺の塩味及び製麺性について評価した結果は、表18に示す。
【0056】
【表16】
【0057】
【表17】
【0058】
【表18】
【0059】
ここで、製麺性とは、麺生地のまとまりやすさ、麺生地の圧延や製麺のしやすさ、茹で工程における保形性維持等の、茹でうどんの製造適性全般のことをいう。製麺性の評価は、原料粉として小麦粉のみを使用して作製した対照区4の製麺性と同等である場合を○、(1)生地のまとまりやすさ、(2)圧延及び製麺のしやすさ及び(3)茹で工程における保形成の維持、の少なくともいずれかに問題がある場合を×とした。実施例21の麺は、対照区4及び比較例6の麺に比べて塩味が増強されていた。また、実施例23は、食塩使用量を対照区4の50%としているにもかかわらず、対照区4と同等の塩味を感じることが確認できた。
【0060】
(茹でうどん試験2)
表19の配合及び表17の製造手順に従って、実施例24〜29及び比較例7の茹でうどんを作製した。膨潤抑制澱粉として、試料番号9のリン酸架橋甘薯澱粉(沈降積0.5mL、平均粒子径17μm)を用いた。得られた麺の塩味及び製麺性について評価した結果は、表20に示す。
【0061】
【表19】
【0062】
原料粉100質量部のうち、50質量部を膨潤抑制澱粉としても、製麺性に影響せずに麺の塩味を増強できることがわかった。ただし、膨潤抑制澱粉の配合量が50質量部を超えると、塩味増強効果は十分に得られるが、製麺性が著しく悪化し、得られた麺の食感は良いものとはいえなかった。
【0063】
【表20】