【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されて解釈されるものではない。ここで、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0026】
1.食物繊維含量の測定方法
(1)澱粉中の食物繊維含量の測定方法
澱粉試料(粉体)中に含まれる食物繊維含量は、プロスキー法により以下の通り測定した。まず、澱粉試料1サンプルにつき、タンパク質測定用と灰分測定用の2つの500mLのトールビーカーに各澱粉(1g)を精秤し、pH6.0の0.08Mリン酸緩衝液50mLを加えて分散させた。次いで、熱安定性α−アミラーゼ(ターマミル120L、NovoNordisk社)100μLを加え、ビーカーをアルミ箔で覆い、沸騰水浴中に入れ、5分毎に攪拌しながら30分間放置した。室温まで冷却した後、0.275M水酸化ナトリウム水溶液でpH7.5±0.1に調整し、プロテアーゼ(P−5380、シグマ社)100μLを加え、ビーカーをアルミ箔で覆い、60℃水浴中で振とうしながら30分間反応させた。室温まで冷却し、0.325Mの塩酸水溶液でpH4.3±0.3に調整し、アミログルコシターゼ(A−9913、シグマ社)100μLを加え、ビーカーをアルミ箔で覆い、60℃水浴中で振とうしながら30分間反応させた。4倍容量の95%エタノールを60℃に加温して加えた後、1時間放置し、セライト(1.1g)を敷き詰めたガラスろ過器(ロート型、11G2)で吸引ろ過した。ビーカーを20mLの78%エタノールで3回、10mLの95%エタノールで2回、さらに10mLのアセトンで2回洗浄し、反応液の全量をろ過器に回収した。残留物を含むろ過器は105℃で一晩乾燥させ、放冷後、重量を測定した。ろ過器の1つは、セライトと残留物をかき取り、ケルダール法にて窒素含量を測定し、タンパク質を定量した。他方は、ろ過器ごと525℃で5時間灰化させ、灰分含量を測定した。空試験として試料を含まずに同様の操作を行い、残留物を乾燥させた残渣に空試験の結果を加味した上で、タンパク質及び灰分を除いた重量を澱粉含水物あたりの食物繊維含量とした。得られた数値から粉体水分を補正することによって澱粉絶乾物あたりの食物繊維含量を算出し、これを食物繊維含量(%)とした。
【0027】
(2)加工食品中の食物繊維含量の測定方法
加工食品中の食物繊維含量の測定は、その食品をフリーズドライ及び粉砕して得られる粉体について、上記と同様の方法で行い、食品絶乾物あたりの食物繊維含量を算出して食物繊維含量(%)とした。また、120℃・1時間レトルト処理後の澱粉懸濁液についても、加工食品と同様の方法で測定を行い、澱粉絶乾物あたりの食物繊維含量(%)を算出した。
【0028】
2.食物繊維高含有澱粉の調製及び評価(原料澱粉種による影響)
(1)原料澱粉
原料澱粉として、表1に示す通り、各種地下澱粉(3種類の甘藷澱粉、モチ種タピオカ澱粉)及び地上澱粉(トウモロコシ澱粉及びモチ種トウモロコシ澱粉)を準備した。なお、表1の糊化開始温度は、澱粉を固形分濃度6%(懸濁液30g中に絶乾物として1.8gの澱粉を含有)となるよう水と混合し、ラピッドビスコアナライザー(RVA−4、Newport Scientific Pty Ltd.)を用いて測定した値である。甘藷澱粉の糊化開始温度は、商品によって異なり、「甘藷の精」は77.6℃、「薩摩甘伝」は80.0℃、「こなみずき」は62.8℃であった。
【0029】
【表1】
【0030】
(2)澱粉の架橋処理
表1の原料澱粉試料No.1〜6を原料とし、架橋処理を行った。まず、水130部に硫酸ナトリウム20部を溶解し、そこへ各原料澱粉100部を加えてスラリーとした。このスラリーを、3%水酸化ナトリウム水溶液によりpH11.0〜pH11.7に保持・撹拌しながら、トリメタリン酸ナトリウム7.0部及びトリポリリン酸ナトリウム0.1部を加え、42℃で15時間反応させた。その後、硫酸で中和、水洗、乾燥し、粉体水分を12.0%〜12.5%に調整した。
【0031】
(3)食物繊維含量の評価
原料澱粉及びその架橋澱粉について、上記の各測定方法に従い、レトルト処理前後の食物繊維含量をそれぞれ測定した。その結果、表2に示すように、試料No.1(糊化開始温度77.6℃の甘藷澱粉)及び試料No.2(糊化開始温度80.0℃の甘藷澱粉)を架橋処理した澱粉は、いずれも食物繊維含量が90%以上と高く、120℃・1時間のレトルト処理後にあっても、食物繊維含量が55%以上と高く維持されていた。
一方、地下澱粉であっても、糊化開始温度が低い試料No.3(糊化開始温度62.8℃の甘藷澱粉)及び試料No.4(糊化開始温度66.2℃のモチ種タピオカ澱粉)を原料として架橋処理した澱粉(比較例1及び2)は、食物繊維含量がそれぞれ25.2%、2.1%と低かった。また、地上澱粉である試料No.5(糊化開始温度92.2℃のトウモロコシ澱粉)及び試料No.6(糊化開始温度73.5℃のモチ種トウモロコシ澱粉)を原料として架橋処理した場合、本発明の食物繊維高含有澱粉は得られなかった。
【0032】
【表2】
【0033】
3.食物繊維高含有澱粉の調製及び評価(反応時間による影響)
(1)澱粉の架橋処理
試料No.1を原料とし、上記2.(2)の架橋処理条件において、反応時間を4時間〜26時間の範囲で変えて架橋処理を行った。
【0034】
(2)食物繊維含量の評価
得られた澱粉の食物繊維含量の測定結果を表3に示す。いずれの澱粉もレトルト処理前の食物繊維含量は85%以上であったが、レトルト処理後の食物繊維含量は、反応時間が6〜16時間では57〜71%、8〜15時間では65〜71%、10〜15時間では68〜71%であり、反応時間が19時間以上では55%未満であった。すなわち、食物繊維高含有澱粉であっても、その加工耐性は架橋処理の反応時間に依存し、架橋処理を長時間行うことは、加工耐性のある食物繊維高含有澱粉を得るためには好ましくないことがわかった。
【0035】
【表3】
【0036】
4.食物繊維高含有澱粉の調製及び評価(反応温度による影響)
(1)澱粉の架橋処理
試料No.1の澱粉を原料とし、上記2.(2)の架橋処理条件において、硫酸ナトリウムの添加量を15部、反応時間を12時間の一定として、37℃又は42℃で架橋処理を行った。
【0037】
(2)食物繊維含量の評価
得られた澱粉の食物繊維含量の測定結果を表4に示す。反応温度による影響はなく、42℃、37℃のいずれの反応温度によっても、レトルト処理後の食物繊維含有量は55%以上と高く維持されていた。
【0038】
【表4】
【0039】
5.食物繊維高含有澱粉の調製及び評価(架橋剤の添加量による影響)
(1)澱粉の架橋処理
試料No.1の澱粉を原料とし、上記2.(2)の架橋処理条件において、トリメタリン酸ナトリウム(架橋剤)の添加量を5.0〜10.0部、反応時間を12時間として、架橋処理を行った。
【0040】
(2)食物繊維含量の評価
得られた澱粉の食物繊維含量の測定結果を表5に示す。架橋剤を5.5部以上添加すると、レトルト処理後の澱粉中の食物繊維含量は55%以上と高く維持されていた。また、架橋剤の添加量が5〜8.5部の範囲では、架橋剤の添加量が増えるほど得られる澱粉の食物繊維含量は増大し、レトルト処理による食物繊維含量の減少率も低かった。架橋剤が8.5部及び10部で処理されたときの各澱粉中の食物繊維含量は同等であったことから、架橋剤を8.5部より多く添加しても食物繊維含量は増加しないことがわかった。
以上より、架橋剤の添加量は5.5〜8.5部の範囲にあることが好ましく、6.5〜8.5部の範囲にあれば、レトルト処理後も68.0%以上と食物繊維含量を高く維持できる、より加工耐性に優れた食物繊維高含有澱粉が得られるため、さらに好ましいといえる。
【0041】
【表5】
【0042】
6.食物繊維高含有澱粉の調製及び評価(塩の添加量による影響)
(1)澱粉の架橋処理
試料No.1の澱粉を原料とし、上記2.(2)の架橋処理条件において、硫酸ナトリウム(塩)の添加量を5.0〜27.5部、反応時間を12時間として、架橋処理を行った。
【0043】
(2)食物繊維含量の評価
得られた澱粉の食物繊維含量の測定結果を表6に示す。塩を7.5部以上添加すると、レトルト処理後にあっても、食物繊維含量が55%以上と高く維持されていた。
また、塩の添加量が5〜25部の範囲では、塩の添加量が増えるにつれ、レトルト処理後にあっても食物繊維含量が高く維持される澱粉が得られていた。塩の添加量を25部及び27.5部として架橋処理した各澱粉の食物繊維含量は同等であり、塩を25部より多く添加しても食物繊維含量の増大は見られなかった。
以上より、塩の添加量は7.5〜25.0部が好ましく、さらに15.0〜25.0部では、レトルト処理後にあっても食物繊維含量が68%以上と高く維持できることから、より好ましいといえる。
【0044】
【表6】
【0045】
7.食物繊維高含有澱粉の調製及び評価(塩の種類による影響)
(1)澱粉の架橋処理
試料No.1の澱粉を原料とし、上記2.(2)の架橋処理条件において反応時間を12時間、塩の添加量は15.0部の一定として、塩の種類を変えて架橋処理を施した。
【0046】
(2)食物繊維含量の評価
得られた澱粉の食物繊維含量の測定結果を表7に示す。硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム及び塩化ナトリウムの混合塩、のいずれを用いても、得られる澱粉は、そのレトルト処理後の食物繊維有量が55%以上と高く維持されていた。また、硫酸ナトリウムに比べて塩化ナトリウムを用いたほうが、レトルト処理後にあっても食物繊維含量が高く維持される傾向にあった。但し、塩化ナトリウムを使用する場合、製造設備の防錆処理が必要となって製造コストが高くなるため、コストの観点を考慮すれば、硫酸ナトリウムを用いるほうが好ましいともいえる。
【0047】
【表7】
【0048】
8.食物繊維高含有澱粉の調製及び評価(トリポリリン酸ナトリウムの有無による影響)
(1)澱粉の架橋処理
試料No.1の澱粉を原料とし、上記2.(2)の架橋処理条件において反応時間を12時間とし、トリポリリン酸ナトリウム(STTP)を添加しないで架橋処理を行った。
【0049】
(2)食物繊維含量の評価
得られた澱粉の食物繊維含量の測定結果を表8に示す。トリポリリン酸ナトリウムを添加せずとも、得られる澱粉の食物繊維含量に違いはなく、トリポリリン酸ナトリウムを添加したときと同様、レトルト処理後にあっても食物繊維有量が55%以上と高く維持される澱粉が得られた。
【0050】
【表8】
【0051】
9.その他
糊化開始温度71.9℃のタピオカ澱粉を原料とし、上記2.(2)の架橋処理条件において、硫酸ナトリウム20部を塩化ナトリウム15部とし、また反応時間は12時間として、架橋処理を行った。得られた澱粉(実施例27)の食物繊維含量を測定したところ、93.1%であった。また、レトルト処理後の食物繊維含量は57.1%であった。よって、原料澱粉が、地下澱粉であるタピオカ澱粉であって、糊化開始温度が70℃以上である場合、上述した適切な条件の範囲内で架橋処理することにより、加工耐性に優れた食物繊維高含有澱粉が得られることが確認された。
【0052】
10.加工食品における評価(麺)
(1)麺の製造
実施例7、実施例27及び比較例5の各澱粉を用い、表9の配合及び表10の工程に従って茹で麺を作製した。
【0053】
【表9】
【0054】
【表10】
【0055】
(2)麺製造時の加工耐性
上記各麺の、茹でる前後における食物繊維含量を測定した。表11にその結果を示す。実施例7又は実施例27の本発明の食物繊維高含有澱粉を用いた場合、麺を茹でた後においても、麺を茹でる前の食物繊維含量の96%以上が残存していた。一方、実施例7と同じ糊化開始温度が70℃以上である甘藷澱粉を原料とし、異なる条件で製造された澱粉(比較例5の澱粉)を用いた場合、その茹で麺の食物繊維残存率は74.0%と低かった。
【0056】
(3)麺における官能評価
表11に、各澱粉の麺における官能評価結果を示す。以降、官能評価は、よく訓練されたパネラー10名による絶対評価で行った。食感については、「粉っぽい」(0点)、「その食品として自然な食感である」(1点)、「その食品として好ましい食感である」(2点)のいずれかを、風味については、「やや異味を感じる」(0点)、「その食品として自然な風味である」(1点)、「その食品として好ましい風味である」(2点)のいずれかを各パネラーに選択させた。食感及び風味のいずれの評価項目についても、パネラー10名の合計点が10点以上であれば食品形態として問題ないと判断した。実施例28及び実施例29は、食感及び風味のいずれもが10点以上であり、麺として違和感はなく自然であった。特に、糊化開始温度が70℃以上である甘藷澱粉を原料とする食物繊維高含有澱粉を用いて得られた実施例28の麺は、タピオカ澱粉を原料とする食物繊維高含有澱粉を用いて得られた実施例29の麺と比べ、食感及び風味の評価が高かった。
【0057】
【表11】
【0058】
11.加工食品における評価(ベーカリー製品)
(1) 食パンの製造
実施例7、実施例27及び比較例5の各澱粉を用い、表12の配合及び表13の工程に従い、実施例30、実施例31及び比較例14の各食パンを作製した。
【0059】
【表12】
【0060】
【表13】
【0061】
(2)食パン製造時の加工耐性
表14に食パンの評価結果を示す。本発明の食物繊維高含有澱粉を用いた場合、食パン生地を焼成した後においても食物繊維は90%以上と高い割合で残存していた(実施例30及び31)。一方、糊化開始温度が70℃以上である甘藷澱粉を原料としても、異なる条件により製造された澱粉を用いて作製した食パンの食物繊維残存率は、49.0%と低かった(比較例14)。
【0062】
(3)食パンにおける官能評価
表14に、各澱粉の食パンにおける官能評価結果を示す。実施例30及び実施例31は、食感及び風味のいずれもが10点以上であり、食パンとして違和感なく自然であった。特に、実施例30の食パンは、タピオカ澱粉を原料とする食物繊維高含有澱粉を用いて作製した実施例31の食パンと比べ、食感及び風味の評価が高かった。
【0063】
【表14】
【0064】
12.ヒトにおける生理効果
本発明の食物繊維高含有澱粉のヒトにおける生理効果を調べた。具体的には、甘藷澱粉(表1の試料No.1)と本発明の食物繊維高含有甘藷澱粉(実施例7)とを各被験者にそれぞれ摂取させ、血糖値の経時変化を比較した。
【0065】
(1)試験サンプルの調製
前記澱粉30g(乾燥重量)と水150mlの澱粉懸濁液をビーカーに入れ、これを沸騰水浴中で撹拌しながら5分間加熱した。その後、直ちにビーカーを流水で室温まで冷却し、試験サンプルとした。なお、試験サンプルはヒト試験の1時間前に調製した。
【0066】
(2)ヒト試験
健常人男女9名を被験者とし、被験者には試験開始12時間前より絶食させた。試験サンプル摂取直前に各被験者の血液を採取し、その後、被験者に試験サンプルと水150mlを摂取させた。試験サンプルを摂取してから、15、30、45、60、90及び120分後に各被験者の血液を採取した。採取した血液を遠心分離して血清を取り出し、血糖値測定キット(グルコースCIIテストワコー、和光純薬工業株式会社)にてグルコースを定量した。
【0067】
(3)結果
被験者9名の血糖値の平均値±標準誤差を
図1に示す。統計解析は対応のあるt検定を用い、有意水準は両側検定で5%未満を有意とした。サンプル摂取30分後の血糖値は、原料甘藷澱粉(試料No.1)を摂取した場合は40.3mg/dl、本発明の食物繊維高含有澱粉(実施例7)を摂取した場合は13.7mg/dlであり、有意差があった。以上より、本発明の食物繊維高含有澱粉は、通常の澱粉と比べて摂取後の血糖値上昇が非常に緩やかであるので、加工食品中のデンプン質原料を本発明の食物繊維高含有澱粉に一部又は全部置き換えることにより、その加工食品を摂取した後の血糖値の上昇を抑制することができる。すなわち、本発明の食物繊維高含有澱粉は、血糖値上昇抑制用食品組成物として利用できる。