(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
予め設定された変調方式で変調された同一搬送波周波数の放送波を複数の送信所から送信する同期放送の受信信号を直交復調したI信号およびQ信号を取得し、前記I信号の自己相関関数、および前記I信号と前記Q信号の相互相関関数を求める相関演算部と、
前記自己相関関数を実数部、前記相互相関関数を虚数部とする複素関数の振幅を表す振幅関数を求める振幅関数演算部と、
前記受信信号に含まれる振幅の最も大きい前記放送波を主要波とし、該主要波とは異なるタイミングで到来した前記放送波を遅延波とし、前記自己相関関数または前記相互相関関数あるいは前記自己相関関数と前記相互相関関数を合成した合成関数のいずれかを対象関数として、前記振幅関数が示す波形のピークを含むように設定されたピーク近傍区間での前記対象関数が示す波形の位相を、前記自己相関関数および前記相互相関関数をそれぞれ直交復調した結果を用いて求めることで、前記主要波の搬送波と前記遅延波の搬送波との位相差である搬送波位相差を求める位相差演算部と、
を備える同期放送用測定装置。
予め設定された変調方式にて変調された同一搬送波周波数の放送波を複数の送信所から送信する同期放送の放送波を受信し、該受信により得られた受信信号を直交復調することでI信号およびQ信号を生成する受信部と、
前記受信部にて生成された前記I信号および前記Q信号に基づき、前記I信号の自己相関関数、および前記I信号と前記Q信号の相互相関関数を求める相関演算部と、
前記自己相関関数を実数部、前記相互相関関数を虚数部とする複素関数の振幅を表す振幅関数を求める振幅関数演算部と、
前記受信信号に含まれる振幅の最も大きい前記放送波を主要波とし、該主要波とは異なるタイミングで到来した前記放送波を遅延波とし、前記自己相関関数または前記相互相関関数あるいは前記自己相関関数と前記相互相関関数を合成した合成関数のいずれかを対象関数として、前記振幅関数が示す波形のピークを含むように設定されたピーク近傍区間での前記対象関数が示す波形の位相を、前記自己相関関数および前記相互相関関数をそれぞれ直交復調した結果を用いて求めることで、前記主要波の搬送波と前記遅延波の搬送波との位相差である搬送波位相差を求める位相差演算部と、
前記振幅関数が示す波形のピークとなるタイミングを検出することで、前記主要波に対する前記遅延波の遅延量を求める遅延量演算部と
前記主要波の受信タイミングおよび該受信タイミングから前記遅延量演算部にて検出された遅延量だけ遅延したタイミングについて求めた前記受信信号の自己相関関数の値を用いて、前記遅延波の前記主要波に対する信号強度比を求める強度比演算部と、
前記搬送波位相差、前記遅延量、前記信号強度比を用いて、前記受信信号から前記遅延波をキャンセルした出力信号を生成するキャンセル部と、
前記遅延量演算部にて求められた遅延量の符号が正であるとして前記キャンセル部を設定した場合と、該遅延量の符号が負であるとして前記キャンセル部を設定した場合とで、前記キャンセル部から得られる出力信号の自己相関関数の極大値を比較し、該極大値がより小さくなる方の符合が正しいものとして前記遅延量の符号を判定し、該判定結果を前記キャンセル部の設定に反映させる符号判定部と、
備える同期放送用受信装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
図1に示す同期放送用受信装置1は、FM同期放送の放送波を受信する受信装置であり、受信部2と、演算部3と、キャンセラー4とを備える。
【0016】
受信部2は、アンテナ21と、局部発振器22と、移相器24と、ミキサ23、25とを備える。アンテナ21は、FM同期放送で使用する周波数帯の放送波を受信する。局部発振器22は、放送波の搬送波周波数との差が予め設定された中間周波数となるように周波数が設定された第1ローカル信号L1を生成する。ミキサ23は、アンテナ21からの信号に第1ローカル信号L1を混合することで、搬送波の周波数が中間周波数に変換された受信信号の同相成分hr(t)を表すI信号を生成する。移相器24は、局部発振器22が生成する第1ローカル信号L1の位相をπ/2だけ遅延させた第2ローカル信号L2を生成する。ミキサ25は、アンテナ21から供給される信号に第2ローカル信号L2を混合することで、搬送波の周波数が中間周波数に変換された受信信号の直交成分hi(t)を表すQ信号を生成する。なお、同期放送用受信装置1が受信する放送波は、複数の送信所からの到来波が合成されたものである。
【0017】
以下では、到来波のうち最も振幅(即ち、受信強度)が大きいものを主要波、主要波とは異なるタイミングで受信される到来波を遅延波とよぶ。ここでの遅延波は、主要波より早いタイミングで受信されるものを含み、その場合の遅延量は負の値をとるものとする。
【0018】
演算部3は、受信部2にて生成されたI信号およびキャンセラー4の出力信号Oに基づき、I信号に含まれる遅延波の状態を表す遅延波パラメータを生成すると共に、その遅延波パラメータをキャンセラー4に供給する。遅延波パラメータには、主要波に対する遅延波の信号強度比(DU比)U、主要波に対する遅延波の遅延量DL、主要波の搬送波と遅延波の搬送波との位相差である搬送波位相差θが含まれる。
【0019】
演算部3は、CPU31と、RAM、ROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、メモリ32)と、を有する周知のマイクロコンピュータを中心に構成される。演算部3の各種機能は、CPU31がメモリ32に格納されたプログラムを実行することにより実現される。その具体的な処理内容については、後述する。なお、演算部3を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。また、演算部3の機能を実現する手法はソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の要素を、論理回路やアナログ回路等を組み合わせたハードウェアを用いて実現してもよい。
【0020】
キャンセラー4は、受信部2からのI信号、Q信号および演算部3からの遅延波パラメータU、DL、θを用いて、I信号、Q信号から遅延波をキャンセルした出力信号Oを生成する。キャンセラー4の詳細については後述する。
【0021】
[1−2.パラメータ生成処理]
演算部3のCPU31が実行するパラメータ生成処理の内容を、
図2のフローチャートを用いて説明する。本処理は、予め設定された周期で繰り返し実行される。
【0022】
本処理が起動すると、CPU31は、S110にて、受信部2から供給されるI信号を、予め設定されたサンプリング間隔で、予め設定された測定期間の間取得する。なお、サンプリング間隔は、受信信号の搬送波周波数(即ち、ここでは中間周波数)の周期の1/2以下、測定期間は、予め設定された測定可能な遅延量DLの上限値以上の長さに設定される。
【0023】
S120では、S110にて取得したデータ(以下、受信データ)に対して、エンベロープ検波を実施する。つまり、
図3にハッチングによって示したI信号の輪郭(以下、受信エンベロープ波形)を求める。なお、
図3は、(1)式を用いて算出した受信信号h(t)の例である。但し、f(t)はFM変調された主要波であり(2)式で表される。また、g(t)はf(t)を遅延させた遅延波であり(3)式で表される。また、
図3は、搬送波周波数ω
0/2π=5MHz、信号強度比U=6dB、遅延量DL=20マイクロ秒、搬送波位相差θ=120度、変調信号S(t)を1kHzの正弦波とし、主要波f(t)および遅延波g(t)の振幅はそれぞれ一定としたときの例を示す。
【0025】
S130では、受信エンベロープ波形の最大値Emaxおよび最小値Eminを抽出する。
S140では、最大値Emaxおよび最小値Eminに基づき、(4)式を用いて信号強度比Uを算出する。
【0027】
つまり、
図3に示すように、主要波と遅延波を含む放送波の受信信号h(t)は、両波の遅延差DLや搬送波位相差θに応じた振幅変動が生じる。搬送波と変調信号S(t)とは無相関であるため、受信信号h(t)の振幅、即ち受信エンベロープ波形には、信号強度比Uに応じた最大値Emaxおよび最小値Eminが現れる。なお、両波が同相となったときに振幅は最大値Emaxとなり、両波が逆相となったときに振幅は最小値Eminとなることから、(5)(6)式が得られ、これを変形することによって(4)式が得られる。
【0028】
S150では、S110にて取得した受信データを用い、(7)式を用いて受信信号h(t)の自己相関関数Auto(τ)を求める。
【0030】
なお、自己相関関数Auto(τ)の算出に用いる積分領域は大きくるすほど精度が向上するが、演算規模、演算時間が増大する。従って、積分領域は、目的とする検出精度、検出時間を考慮して適宜設定すればよい。ここで算出される自己相関関数Auto(τ)は、
図4中一点鎖線で示すように、搬送波を振幅変調したような波形となる。
【0031】
S160では、S150で求めた自己相関関数Auto(τ)をエンベロープ検波する。具体的には、自己相関関数Auto(τ)のピーク近傍のデータを抽出し、その抽出したデータに対して周知の内挿処理を実行する。但し、自己相関関数Auto(τ)が有する遅延情報や位相情報は、時間とともに変化しており、あるデータに着目した場合、そのデータと同様の情報を有しているのは、その近傍のデータだけである。このため、ローパスフィルタの演算は、搬送波の一周期に演算区間を限定して実施する。これにより、エンベロープ検波によって得られるエンベロープ波形(以下、相関エンベロープ波形)は、
図4中実線で示すように、細かく波打ったものとなる。以下、ローパスフィルタの演算に使用される演算区間のうち、相関エンベロープ波形のピークを含む区間をピーク近傍区間という。例えば、ピークを基準とした±0.2〜0.3マイクロ秒の範囲をピーク近傍区間とする。
【0032】
S170では、ピーク近傍区間を少なくとも含む予め設定された範囲の相関エンベロープ波形を、ガウス関数で近似し、その近似したガウス関数(以下、近似関数)で、相関エンベロープ波形のピーク近傍を置換する。なお、近似関数は、ガウス関数に限るものではなく単峰性の滑らかな関数であればよい。但し、滑らかとは任意の点で微分可能であることを意味する。
【0033】
S180では、近似関数によって置換された相関エンベロープ波形がピークとなるタイミングを抽出し、これを主要波に対する遅延波の遅延量DLとする。
S190では、自己相関関数Auto(τ)を、搬送波と同じ周波数の信号であるcosω
0τ、sinω
0τを用いて直交検波演算を実行することで、同相成分Xおよび直交成分Yを求める。なお、同相成分Xは(8)式、直交成分Yは(9)式で求められる。
【0035】
S200では、S190で求めた同相成分Xおよび直交成分Yに基づき、(10)式により自己相関関数Auto(τ)の位相を求める。
【0037】
つまり、主要波と遅延波とで搬送波の位相が異なる場合、
図5に示すように、その差である搬送波位相差θに応じて、自己相関関数Auto(τ)が示す波形の相関エンベロープ波形に対する相対的な位置関係が変化する。但し、エンベロープ波形は、自己相関関数の電力を検出するものであるため、搬送波位相差θによらず一定となる。θ=0度の場合、自己相関関数Auto(τ)のピークの一つが、相関エンベロープ波形のピークと一致し、θ≠0度の場合、自己相関関数Auto(τ)のピークは、θの大きさに応じた分だけ相関エンベロープ波形のピークからずれたものとなる。
【0038】
S210では、S140で求めた信号強度比U、S180で求めた遅延量DL、S200で求めた搬送波位相差θを、過去の検出値を用いて平滑化し、その平滑化した結果を遅延波パラメータとして出力する。なお、平滑化処理としては、例えば移動平均や加重平均等を用いることができる。
【0039】
S220では、S210により得られた遅延波パラメータのうち、遅延量DLの符号を判定する遅延量符号判定処理を実行する。即ち、遇関数である自己相関関数を用いて算出される遅延量は、その符号、即ち、遅延波が主要波に対して遅延しているか先行しているかを区別することができないため、これを特定する。その詳細は後述する。
【0040】
S230では、S210により得られた遅延波パラメータおよびS220で求められた遅延量DLの符号により、キャンセラー4の設定を行なって、本処理を終了する。
[1−3.遅延量符号判定処理]
先のS220で実行する遅延量符号判定処理を、
図13を用いて説明する。
【0041】
S221では、遅延量DLは正の値、即ちDL>0とみなして、キャンセラー4を設定して、出力信号Oを取得する。このとき、キャンセラー4は、設定可能な全段を用いるのではなく、2〜3段だけを用いた簡易キャンセルを実行しても良い。
【0042】
S222では、S221で取得した出力信号Oのエンベロープ波形を求め、そのエンベロープ波形の極大値と極小値の差であるエンベロープ変動量DPを検出する。
S223では、遅延量DLは負の値、即ちDL<0とみなして、キャンセラー4を設定して、出力信号Oを取得する。このとき、S221の場合と同様に、簡易キャンセルを実行しても良い。
【0043】
S224では、S223で取得した出力信号Oのエンベロープ波形を求め、そのエンベロープ変動量DNを検出する。
S225では、S222およびS224で検出されたエンベロープ変動量DP、DNを比較し、DP≦DNであるか否かを判断する。肯定判断した場合、即ち、DL>0とみなした場合のエンベロープ変動量DPの方が小さい場合はS226、否定判断した場合、DL<0とみなした場合のエンベロープ変動量DNの方が小さい場合はS227に進む。
【0044】
S226では、遅延波は主要波に対して遅延しているものとして遅延量DLの符号を正に設定して本処理を終了する。
S227では、遅延波は主要波に対して先行しているものとして遅延量DLの符号を負に設定して本処理を終了する。
【0045】
[1−4.キャンセラー]
キャンセラー4は、
図1に示すように、遅延線41、42と、複素乗算部43と、加算器44とを備える。
【0046】
加算器44は、N個の複素乗算器M
1〜M
Nの各出力とキャンセラー4への入力となるI
0+jQ
0とを加算した結果を、出力信号Oとして生成する。
つまり、キャンセラー4は、(14)式を、h(t)を複素数の形式にして具体化したものであり、h(t)がI
0+jQ
0、h(t−nDL)がI
n+jQ
nに相当する。
【0047】
遅延線41、42は、いずれも直列接続されたN個の遅延器D
1〜D
Nにより構成されており、遅延線41はI信号を、遅延線42はQ信号を順次遅延させる。但し、各遅延器D
n(n=1、2、…、N)は、いずれも同じ遅延量に設定され、しかも遅延量を可変設定できるように構成されている。
【0048】
複素乗算部43は、各遅延線41、42を構成する遅延器の数に1を加えたN+1個の複素乗算器M
0〜M
Nで構成されている。具体的には、遅延線41を構成する1段目の遅延器D
1の入力をI
0、k(k=1〜N)段目の遅延器D
kの出力をI
k、遅延線42を構成する1段目の遅延器D
1の入力をQ
0、k段目の遅延器D
kの出力をQ
kとして、n(n=0〜N)段目の複素乗算器M
nは(11)式で示す演算を実行する。
【0050】
加算器44は、N+1個の複素乗算器M
0〜M
Nの各出力R
0〜R
Nを加算した結果を、出力信号Oとして生成する。
つまり、(1)式に示した受信信号h(t)を複素表示すると(12)式となり、これを変形すると(13)式が得られる。この(13)式の右辺第2項に、(13)式のtをt−DLで置換した式を代入する。その結果として得られる式に、(13)式のtをt−2DLで置換した式を代入する。その結果として得られる式に、(13)式のtをt−3DLで置換した式を代入する。以下同様に繰り返すことによって、(14)式が得られる。
【0052】
キャンセラー4は、この式を具体化したものであり、h(t−nDL)がI
n+jQ
nに相当する。(14)式からわかるように、段数Nを増やすほど、より遅延波が抑制された出力信号Oが得られることになる。
【0053】
[1−
5.シミュレーション]
遅延量DLと搬送波位相差θについてシミュレーションを行なった結果を、
図6に示す。具体的には、遅延量DL、搬送波位相差θ、変調信号S(t)の周波数を変数として、これら変数を各々ランダムに変化させた受信信号h(t)について、演算部3で求められた検出値DL、θの誤差をグラフ化したものである。但し、S210での平滑化処理は実施していないものとする。ここでは100組のランダムなパラメータの組み合わせを用いた。また、シミュレーションでは、自己相関関数Auto(τ)の積分領域を2msに設定した。
【0054】
図6中の実線は、計測された検出誤差の累積分布、破線は、検出誤差分布の標準偏差を用いた正規確率分布関数(累積値)、一点鎖線は、その確率密度関数である。
図6(a)から求められる遅延の検出誤差の平均値は0.2ナノ秒、標準偏差は8.8ナノ秒である。
図6(b)から求められる位相の検出誤差の平均値は0.6度、標準偏差は15.6度である。
【0055】
図
3中の実線は、キャンセラー4によって遅延波がキャンセルされた出力信号Oのエンベロープ波形を、シミュレーションで求めた結果である。受信信号h(t)のエンベロープ波形と比較して、変動が大幅に低減されていることがわかる。
【0056】
[1−
6.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1A)同期放送用受信装置1では、FM同期放送の受信状況を表す遅延波パラメータU、DL、θを定量的に測定できるため、同放送の受信条件改善を図る上で有用な技術情報を取得するこができる。
(1B)同期放送用受信装置1では、演算部3にて求められた遅延波パラメータU、DL、θを用いてキャンセラー4を設定し、I信号、R信号から遅延波をキャンセルした出力信号Oを求めているため、FM同期放送の干渉発生地域においても、品質のよい音声を再生することができる。また、FM同期放送のみならず、マルチパス障害が発生する地域で使用するFM放送の受信装置としても用いることができる。
【0057】
(1C)同期放送用受信装置1では、キャンセラー4に使用する遅延波パラメータU、DL、θは、検出値をそのまま用いるのではなく、平滑化処理されたものを用いているため、ノイズ等の影響により一時的に不正確な検出値が求められたとしても、その影響が出力信号Oに現れることを抑制することができる。
【0058】
(1D)同期放送用受信装置1では、I信号に対する演算のみで目的の遅延波パラメータU、DL、θを求めているため、特別な測定機器を必要とすることなく、例えば、市販のFM受信機とパーソナルコンピュータとによって簡易かつ安価に装置を構成することができる。なお、遅延波パラメータU、DL、θを求める際に、I信号の代わりにQ信号を用いてもよい。
【0059】
(1E)同期放送用受信装置1では、遅延波パラメータU、DL、θを測定する際に、特別な測定信号を用いることなく一般的な放送番組の受信信号を用いているため、常時パラメータを更新することができる。その結果、環境の変化を速やかにキャンセラー4に反映させることができ、遅延波のキャンセルを常に精度よく行なうことができる。
【0060】
[2.第2実施形態]
[2−1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0061】
前述した第1実施形態では、I信号から遅延波パラメータを生成している。これに対し、第2実施形態では、I信号およびQ信号から遅延波パラメータを生成している点で第1実施形態と相違する。
【0062】
[2−2.構成]
図7に示す同期放送用受信装置1aは、受信部2と、演算部3aと、キャンセラー4とを備える。
【0063】
演算部3aは、受信部2にて生成されたI信号およびQ信号およびキャンセラー4の出力信号Oに基づき、遅延波パラメータU、DL、θを生成してキャンセラー4に供給する。演算部3aは、演算部3と同様に、CPU31と、メモリ32とを有する周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、実行する処理の内容が一部異なる。その詳細については後述する。
【0064】
[2−3.パラメータ生成処理]
演算部3aのCPU31が実行するパラメータ生成処理の内容を、
図8のフローチャートを用いて説明する。本処理は、同期放送用受信装置1aが動作している間、予め設定された周期で繰り返し実行される。
【0065】
本処理が起動すると、CPU31は、S310にて、受信部2aから出力されるI信号およびQ信号を、予め設定されたサンプリング間隔で、予め設定された測定期間の間取得する。なお、サンプリング間隔および測定期間の設定は第1実施形態の場合と同様である。
【0066】
なお、I信号であるhr(t)は(15)式、Q信号であるhi(t)は(16)式で表される。
【0068】
S320では、I信号の自己相関関数Auto(τ)およびI信号とQ信号の相互相関関数Cros(τ)を(17)および(18)式により算出する。
【0070】
図9に示すように、自己相関関数Auto(τ)は、搬送波cosω
0tを振幅変調したような波形となり、相互相関関数Cros(τ)は、搬送波sinω
0tを振幅変調したような波形となる。但し、
図9において(a)は、主要波と遅延波の搬送波の位相が一致している場合、即ちθ=0度の場合を示し、(b)は、両搬送波の位相が不一致である場合、ここではθ=120度の場合を示す。
【0071】
S330では、自己相関関数Auto(τ)を実数部、相互相関関数Cros(τ)を虚数部とみなした複素数の振幅の絶対値を表す振幅関数P(τ)を(19)式により算出する。
【0073】
振幅関数P(τ)の波形は、
図9に示すように、自己相関関数Auto(τ)および相互相関関数Cros(τ)が示す波形のエンベロープ波形(以下、相関エンベロープ波形)となる。
【0074】
S340では、振幅関数P(τ)に基づき、相関エンベロープ波形がピークとなるタイミングを抽出し、これを主要波に対する遅延波の遅延量DLとする。なお、ピークとなるタイミングを抽出する際に、第1実施形態の場合と同様、ピーク近傍区間を含む所定範囲を近似関数で置換したエンベロープ波形を用いてもよい。
【0075】
S350では、自己相関関数Auto(τ)の直交成分Xa、Ya、相互相関関数Cros(τ)の直交成分Xc、Ycを、(20)〜(23)式により算出する。
【0077】
S360では、S350で求めた各直交成分Xa、Ya、Xc、Ycに基づき、主要波と遅延波の搬送波位相差θを(24)式を用いて算出する。なお、搬送波位相差θの算出には、(24)式の代わりに、自己相関関数Auto(τ)および相互相関関数Cros(τ)のうちいずれか一方の直交成分のみを用いる(25)式または(26)式を用いてもよい。また、直交成分Xa、Ya、Xc、Ycを用いることなく、遅延量DLから(27)式を用いて求めてもよい。
【0079】
S370では、送信信号をf(t)としたときの受信信号の自己相関関数Mes(τ)である(28)式を用いて、τ=0およびτ=DLにおける受信信号の自己相関関数Mes(τ)を算出する。但し、(28)式において、*マークは複素共役を表す。
【0081】
具体的には、Mes(DL)は(29)式、Mes(0)は(30)式を用いて算出する。これら(29)(30)式は、遅延量DLが送信信号の自己相関関数Mes(τ)を求める際の相関区間より十分に大きいこと、即ち、Auto(DL)=0およびAuto(2DL)=0であると仮定して、(28)式から求めたものである。
【0083】
S380では、(31)式を用いて信号強度比Uを算出する。但し、aは(32)式で求められる値である。
【0085】
なお、(31)式は、(32)式に(29)(30)式を代入し、Uについて解くことで得られる。
ここで、遅延波が1波の場合、受信側で計算される自己相関関数Mes(DL)は、主要波と遅延波が等レベルのとき、即ちD=0dBのときにMes(0)の1/2となるが、それ以外では1/2未満となる。つまり、(32)式により0<a≦1/2となり、その結果、(31)式は常に実数となる。なお、(32)式に(29)(30)式を代入した式はUについての2次方程式となるため、解は2つ存在する。しかし、(33)式で表されるもう一方の解は、1より大きな値となることから求める解ではない。何故ならば、Uは受信信号中で最大強度となる主要波に対する遅延波の強度であるので、1を超えることはないからである。
【0087】
S390では、S340で求めた遅延量DL、S360で求めた搬送波位相差θ、S380で求めた信号強度比Uを、先のS210での処理と同様に、過去の検出値を用いて平滑化したものを遅延波パラメータとして出力する。
【0088】
S400では、S390により得られた遅延波パラメータのうち、遅延量DLの符号を判定する遅延量符号判定処理を実行する。その詳細は後述する。
S410では、S390により得られた遅延波パラメータおよびS400にて判定された遅延量の符号により、キャンセラー4を設定して、本処理を終了する。
【0089】
[2−4.遅延量符号判定処理]
先のS400で実行する遅延量符号判定処理を、
図14を用いて説明する。
S401では、S221と同様に、遅延量DLは正の値、即ちDL>0とみなして、キャンセラー4を設定し、出力信号Oを取得する。このとき、簡易キャンセルを実行してもよい。
【0090】
S402では、S401で取得した出力信号Oの自己相関関数を求め、その極大値PPを検出する。
S403では、S223と同様に、遅延量DLは負の値、即ちDL<0とみなして、キャンセラー4を設定し、出力信号Oを取得する。このとき、簡易キャンセルを実行してもよい。
【0091】
S404では、S403で取得した出力信号Oの自己相関関数を求め、その極大値PNを検出する。
S405では、S402およびS404で検出された極大値PP、PNを比較し、PP≦PNであるか否かを判断する。肯定判断した場合、即ち、DL>0とみなした場合の極大値PPの方が小さい場合はS406、否定判断した場合、DL<0とみなした場合の極大値PNの方が小さい場合はS407に進む。
【0092】
S406では、遅延波は主要波に対して遅延しているものとして遅延量DLの符号を正に設定して本処理を終了する。
S407では、遅延波は主要波に対して先行しているものとして遅延量DLの符号を負に設定して本処理を終了する。
【0093】
[2−5.複数遅延波の場合]
複数の遅延波が存在する場合、相関関数は、各遅延量に応じた位置でピークを生じる。従って、各ピーク位置において、上述の処理を行なうことにより、各遅延波の遅延量DL、搬送波位相差θを独立に求めることができる。しかし、信号強度比Uについては、遅延波が1波であることを前提とした(28)式を用いているため、これを適用することができない。例えば、遅延波が2波である場合には、受信側で計算される自己相関関数Mes(τ)は、(34)式で表される。但し、各遅延波を識別子k(k=1、2、…)で識別するものとして、各遅延波の信号強度比をU
k、遅延量をDL
kで表すものとする。
【0095】
ここで、(29)(30)式を導入したときと同様に、各遅延波の遅延差は送信信号自信のもつ相関区間より十分に大きいと仮定する。即ち、全ての遅延波の組について、(35)式が成立すると仮定すると、自己相関関数Mes(0)、Mes(DL
1)、Mes(DL
1)は、それぞれ(36)〜(38)式で近似される。但し、i≠jとする。
【0097】
(36)〜(38)式からAuto(0)を消去することで、(39)式に示すU
1、U
2の連立方程式が得られる。
【0099】
(39)式に示す連立方程式を解くことによって、各遅延波の信号強度比U
1、U
2を求めることができる。
以上、遅延波が2波の場合について説明したが、同様に計算することによって、遅延波がN波の場合は、(40)式に示すN次の連立方程式が得られ、これを解くことによって、各遅延波の信号強度比U
1、U
2、…U
Nを求めることができる。
【0101】
[2−6.シミュレーション]
第1実施形態におけるシミュレーションと同様の条件にて、演算部3aで求められた遅延量DL、搬送波位相差θ、信号強度比Uの検出値の誤差を求めた結果を、
図10および
図11(a)に示す。これらの結果から、第1実施形態の場合と比較して、検出精度が向上していることがわかる。
【0102】
更に、演算部3aで求められた各パラメータDL、θ、Uに基づき、キャンセラー4を設定して遅延波をキャンセルした場合における、出力信号Oの残余リプルを求めた結果を、
図11(b)に示す。但し、ここでは、キャンセラーの段数をN=4としている。図中のドットは、キャンセラー4が出力する出力信号Oに残留する遅延成分であり、図中の直線は、パラメータに検出誤差のない理想的な場合の残留成分、即ち、(14)式の右辺第5項以下を合計することで得られる値である。
【0103】
[2−7.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1A)〜(1E)に加えに加え、以下の効果が得られる。
【0104】
(2A)同期放送用受信装置1aは、変調方式に依存しない手法で遅延波パラメータU、DL、θを検出しているため、FM変調に限らず、様々な変調方式の同期放送に適用することができる。
【0105】
(2B)同期放送用受信装置1aでは、振幅関数P(τ)を用いて相関エンベロープ波形を求めているため、遅延波パラメータの検出および遅延波の抑制を、より精度よく実現することができる。
【0106】
[3.他の実施形態]
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0107】
(3A)上記実施形態では、同期放送用受信装置1、1aとして構成した例について説明したが、キャンセラー4を省略し、遅延波パラメータの計測のみを実施する同期放送用測定装置として構成してもよい。
【0108】
(3B)上記実施形態では、遅延波が一つである場合について説明したが、これに限定されるものではない。複数の遅延波が存在する場合、相関エンベロープ波形、即ち振幅関数の波形は、
図12に示すように、各遅延波の遅延量に応じた位置でピークを生じる。従って、各ピークにおいて、同様の処理を行うことによって、遅延波毎に遅延波パラメータU、DL、θを独立に求めることができる。ただし、この場合、各遅延波の遅延差は、自己相関関数Auto(τ)や相互相関関数Cros(τ)を求める際に用いる積分区間より十分に大きいことが必要である。即ち、各遅延波の遅延量をDL
1、DL
2、…DL
Kとすると、すべての遅延波の組についてAuto(DL
i−DL
k)<<1(但し、i、k=1、2、…K、i≠k)が成立することが必要である。
【0109】
(3C)上記実施形態では、S221、S223、S401、S403において、キャンセラー4を利用して出力信号Oを取得しているが、これに限るものではない。例えば、キャンセラー4を用いることなく、演算回路3、3aでの演算によって出力信号Oに相当する演算結果を得るように構成してもよい。
【0110】
(3D)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【0111】
(3E)上述した同期放送用受信装置や同期放送用測定装置の他、当該同期放送用受信装置や同期放送用測定装置を構成要素とするシステム、当該同期放送装用受信装置や同期放送用測定装置の演算部および同期放送用受信装置のキャンセラーとしてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、遅延波パラメータの測定方法など、種々の形態で本発明を実現することもできる。