特許第6687456号(P6687456)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6687456ガス駆動エンジンのガス消費を決定する方法及び制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687456
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】ガス駆動エンジンのガス消費を決定する方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01F 9/00 20060101AFI20200413BHJP
   F02D 19/06 20060101ALI20200413BHJP
   F02D 28/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   G01F9/00 Z
   F02D19/06 B
   F02D28/00 C
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-84225(P2016-84225)
(22)【出願日】2016年4月20日
(65)【公開番号】特開2016-206194(P2016-206194A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年11月7日
(31)【優先権主張番号】10 2015 005 043.5
(32)【優先日】2015年4月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510153962
【氏名又は名称】マン・エナジー・ソリューションズ・エスイー
【氏名又は名称原語表記】MAN ENERGY SOLUTIONS SE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ペーテルス
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター・ハイダー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・クレムザー
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/116481(WO,A1)
【文献】 米国特許第4134301(US,A)
【文献】 米国特許第7233855(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス駆動エンジン、すなわちガスで駆動されるガスエンジン又はガスで駆動される二元燃料エンジンのガス消費を決定するための方法において、
エンジンが、現在の運転条件下で運転され、前記現在の運転条件下で、前記エンジンの現在のガス消費が検出され、
目標の運転条件下で予想される前記エンジンの目標のガス消費は、前記現在のガス消費に依存して、及び、前記現在の運転条件と前記目標の運転条件との偏差に基づいて算定され
前記エンジンの前記目標のガス消費の算定が、以下の方程式
【数3】
に従って行われ、VZIELは前記エンジンの前記目標のガス消費であり、VISTは前記エンジンの前記現在のガス消費であり、Tは周囲空気温度であり、pは周囲空気圧力であり、pAGは排ガス背圧であり、pLLは過給圧であり、MZはメタン価であり、ZZPは点火タイミングであり、TLLは過給空気温度であり、Hは周囲空気湿度であり、MLはエンジン負荷であり、k1、k2、k3、k41、k42、k5、k61、k62、k7、k8は前記エンジンに依存する定数であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記目標のガス消費が、現在の周囲空気圧力と目標の周囲空気圧力との偏差に基づいて算定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記目標のガス消費が、現在の周囲空気温度と目標の周囲空気温度との偏差に基づいて算定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記目標のガス消費が、現在の排ガス背圧と目標の排ガス背圧との偏差に基づいて算定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記目標のガス消費が、現在の過給圧と目標の過給圧との偏差に基づいて算定されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記目標のガス消費が、現在のガスのメタン価と目標のガスのメタン価との偏差に基づいて算定されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記目標のガス消費が、前記エンジンの現在の点火タイミングと、前記エンジンの目標の点火タイミングとの偏差に基づいて算定されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記目標のガス消費が、現在の過給空気温度と目標の過給空気温度との偏差に基づいて算定されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記目標のガス消費が、現在の周囲空気湿度と目標の周囲空気湿度との偏差に基づいて算定されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記目標のガス消費が、現在のエンジン負荷に基づいて算定されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記定数k1、k2、k3、k41、k42、k5、k61、k62、k7、k8が、前記エンジンのλ−閉ループ制御の種類に依存することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
過給空気の排出に関するλ−閉ループ制御を実施する際に、k1、k2、k3はそれぞれ0であり、k41、k42、k5、k61、k62、k7、k8はそれぞれ0よりも大きく、且つ、1よりも小さいことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ウェイストゲート又は可変のタービン形状に関するλ−閉ループ制御の際、k1、k2、k3、k41、k42、k5、k61、k62、k7、k8はそれぞれ0よりも大きく、且つ、1よりも小さいことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ガス駆動エンジン、すなわちガスで駆動されるガスエンジン又はガスで駆動される二元燃料エンジンの制御装置が、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実施するための手段を備えていることを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス駆動エンジンのガス消費を決定するための方法に関する。本発明はさらに、当該方法を実施するための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル駆動エンジンに関して、ディーゼルエンジンの燃料消費、例えば船舶用ディーゼル燃焼機関等の燃料消費は、ディーゼルエンジンを運転する際の、現在の運転条件又は現在の環境条件に依存することが知られている。従って、ディーゼルエンジンに関して、現状の運転条件又は現状の環境条件の下で検出された最新の燃焼消費を、目標若しくは基準基準の運転条件又は目標若しくは基準基準の環境条件の下における、目標燃料消費又は基準基準燃料消費に換算することが知られている。
【0003】
ガス駆動エンジン、例えばガスで駆動されるガスエンジン又はガスで駆動される二元燃料エンジンに関しては、エンジン制御装置が、変動する運転条件又は環境条件、特に変動する周囲空気圧力、変動する周囲空気温度、変動する周囲空気湿度、変動するガスのメタン価、変動するエンジンの点火タイミング、変動する過給空気温度、変動する排ガス背圧を完全に補正可能とされるので、現在に至るまで、ガス駆動エンジンの燃料消費は、ガス駆動エンジンの当該運転条件又は環境条件に依存しないことを前提としてきた。
【0004】
しかしながら、実際には、ガス駆動エンジンは、上述の運転条件又は環境条件を完全に補正することができないので、ガス駆動エンジンのガス消費は、上述の運転条件又は環境条件に十分に依存していることが明らかになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況を基点として、本発明は、ガス駆動エンジンのガス消費を決定するための新しい種類の方法と、当該方法を実施するための制御装置とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本課題は、請求項1に記載の方法によって解決される。本発明によると、エンジンは現在の運転条件下で運転され、現在の運転条件下で現在のガス消費が検出され、目標の運転条件下で予想される目標のガス消費は、現在のガス消費に依存して、及び、現在の運転条件と目標の運転条件との間の偏差に依存して算出される。
【0007】
本発明は、ガス駆動エンジンの、現在の運転条件下で検出された現在のガス消費を、目標又は基準の運転条件に換算することを初めて提案するものである。つまり、本発明は、ガス駆動エンジンのガス消費が、周囲空気圧力及び/又は周囲空気温度及び/又は周囲空気湿度及び/又はガスのメタン価及び/又はエンジンの点火タイミング及び/又は過給空気温度及び/又は排ガス背圧及び/又は過給圧等の運転条件又は環境条件に十分に依存しているという認識に基づいており、本発明は、現在の運転条件下で検出された現在のガス消費を、目標又は基準の運転条件の下における目標又は基準のガス消費に換算することを提案するものである。
【0008】
本発明によって、ガス駆動エンジンの最適化された運転が可能となる。試験台で検出された現在のガス消費は、試験台で支配的な現在の運転条件から、その他の運転条件に、確実に換算され得る。
【0009】
好ましくは、目標又は基準のガス消費を算定する際、現在の周囲空気圧力と目標の周囲空気圧力との偏差及び/又は現在の周囲空気温度と目標の周囲空気温度との偏差及び/又は現在の排ガス背圧と目標の排ガス背圧との偏差及び/又は現在の過給圧と目標の過給圧との偏差及び/又は現在のガスのメタン価と目標のガスのメタン価との偏差及び/又は現在のエンジンの点火タイミングと目標のエンジンの点火タイミングとの偏差及び/又は現在の過給空気温度と目標の過給空気温度との偏差及び/又は現在の周囲空気湿度と目標の周囲空気湿度との偏差及び/又は現在のエンジン負荷が考慮される。特に優位には、上述の運転条件又は環境条件の内1つ又は複数を考慮することによって、現在の運転条件下で検出された現在のガス消費を、目標又は基準の運転条件の下における目標又は基準のガス消費に換算可能になる。
【0010】
本発明の有利なさらなる構成によると、目標又は基準のガス消費の算定は、以下の方程式[数式(1)]に従って実施される。ここで、VZIELはエンジンの目標又は基準のガス消費であり、VISTはエンジンの現在のガス消費であり、Tは周囲空気温度であり、pは周囲空気圧力であり、pAGは排ガス背圧であり、pLLは過給圧であり、MZはガスのメタン価であり、ZZPはエンジンの点火タイミングであり、TLLは過給空気温度であり、Hは周囲空気湿度であり、MLはエンジン負荷であり、k1、k2、k3、k41、k42、k5、k61、k62、k7、k8はエンジンに依存する定数である。特に優位には、これらの方程式を用いることによって、現在のガス消費を、目標又は基準のガス消費に換算可能になる。
【0011】
【数1】
【0012】
当該方法を実施するための制御装置は、請求項15に定義されている。
【0013】
本発明の好ましいさらなる構成は、下位請求項及び以下の説明から明らかになる。本発明の実施例は、図面を用いてより詳細に説明されるが、それに限定されるものではない。示されているのは以下の図である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ガス駆動エンジンのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、ガス駆動エンジン10、特にガスエンジン又は二元燃料エンジンを示している。ガス駆動エンジン10は、複数のシリンダ11を含んでおり、当該シリンダにおいて燃料のガスGが燃焼する。
【0016】
エンジン10のシリンダ11においてガスGを燃焼させるために、シリンダ11には、さらに過給空気LLが供給される。ガスGがエンジン10のシリンダ11内で燃焼する際に、排ガスAGが生じる。
【0017】
排ガスターボチャージャ12が、エンジン10と協働している。エンジン10のシリンダ11でガスGが燃焼する際に生じる排ガスAGは、排ガスターボチャージャ12のタービン13に供給される。その際に得られるエネルギーは、排ガスターボチャージャ12の圧縮機14内で、エンジン10のシリンダ11に供給されるべき過給空気LLを圧縮するために用いられる。
【0018】
ガス駆動エンジン10、すなわちガスで駆動されるガスエンジン又はガスで駆動される二元燃料エンジンのガス消費は、様々な環境条件又は運転条件に依存すること、すなわち周囲空気圧力及び/又は周囲空気温度及び/又は周囲空気湿度及び/又はガスのメタン価及び/又はエンジンの点火タイミング及び/又は過給空気温度及び/又は過給圧及び/又は排ガス背圧に依存することが、本発明の認識である。
【0019】
本発明では、エンジン10の最新の現在の運転条件下で検出された現在のガス消費を、目標の運転条件又は基準の運転条件下で予想される目標のガス消費又は基準のガス消費に換算すること、すなわち、現在のガス消費が検出された際の現在の運転条件と、目標のガス消費又は基準のガス消費を算定する際の目標の運転条件又は基準の運転条件との偏差に依存して換算することが提案される。以下において、明快にすべく、目標のガス消費及び目標の運転条件という概念のみを用いることにする。
【0020】
図1は、複数のセンサ15、16、17、18、19、20、21を示しており、当該センサを用いて、現在の運転条件が測定技術的に検出され得る。センサ15は現在の過給空気圧力を検出し、センサ16は現在の過給空気温度を検出する。センサ17は、ガスGの現在のメタン価を検出する。センサ18は、排ガスターボチャージャ12のタービン13の下流で、現在の排ガス背圧を検出する。センサ19、20、21は、現在の周囲空気温度と、現在の周囲空気圧力と、現在の周囲空気湿度とを検出する。センサ15、16、17、18、19、20、21によって測定技術的に検出された現在の運転条件は、制御装置22に供給され得る。エンジン10はさらに、制御装置22に、当該エンジンの現在の点火タイミングに関するデータを供給する。
【0021】
制御装置22は、センサ15〜21によって測定技術的に検出された現在の運転条件と、現在の運転条件下で検出された現在のガス消費からの、これに関する目標の運転条件との内1つ又は複数に基づいて、目標の運転条件下での目標のガス消費を、その時々の現在の運転条件とその時々の目標の運転条件との偏差に依存して検出する。
【0022】
目標のガス消費の算定は、好ましくは、以下の方程式[数式(2)]に従って実施される。ここで、VZIELはエンジンの目標のガス消費であり、VISTはエンジンの現在のガス消費であり、TU−ISTは現在の周囲空気温度であり、TU−ZIELは目標の周囲空気温度であり、pU−ISTは現在の周囲空気圧力であり、pU−SOLLは目標の周囲空気圧力であり、pAG−ISTは現在の排ガス背圧であり、pAG−ZIELは目標の排ガス背圧であり、pLL−ISTは現在の過給圧であり、pLL−ZIELは目標の過給圧であり、MZISTは現在のメタン価であり、MZZIELは目標のメタン価であり、ZZPISTは現在の点火タイミングであり、ZZPZIELは目標の点火タイミングであり、TLL−ISTは現在の過給空気温度であり、TLL−ZIELは目標の過給空気温度であり、HU−ISTは現在の周囲空気湿度であり、HU−ZIELは目標の周囲空気湿度であり、MLISTは現在のエンジン負荷であり、k1、k2、k3、k41、k42、k5、k61、k62、k7、k8はエンジンに依存する定数である。
【0023】
【数2】
【0024】
定数k1、k2、k3、k41、k42、k5、k61、k62、k7、k8は、特にガス駆動エンジン10のλ−閉ループ制御の種類に依存する。
【0025】
ガス駆動エンジン10のλ−閉ループ制御の際、過給空気の排出に関しては、k1=0、k2=0、k3=0、0<k41<1、0<k42<1、0<k5<1、0<k61<1、0<k62<1、0<k7<1、0<k8<1が有効である。
【0026】
ガス駆動エンジン10のλ−閉ループ制御の際、ウェイストゲート又は可変のタービン形状に関してはそれぞれ、0<k1<1、0<k2<1、0<k3<1、0<k41<1、0<k42<1、0<k5<1、0<k61<1、0<k62<1、0<k7<1、0<k8<1が有効である。
【0027】
本発明によって、現在の運転条件下で検出された現在のガス消費を、目標の運転条件下での目標のガス消費に、確実且つ容易に換算することが可能になる。
【0028】
本発明によって、特に、試験台で検出される現在のガス消費に関して、基準のガス消費を、試験台において支配的な現在の運転条件と対応する基準の運転条件とに依存して検出することが可能になる。従って、異なる試験台において、支配的な現在の運転条件が補正され得る。例えば異なる現在のメタン価及び/又は異なる現在の点火タイミング及び/又は異なる周囲空気の条件及び/又はその他の運転条件である。それによって、試験台で検出される一連の測定実験データの質が向上し得る。
【0029】
好ましくは、考慮される現在の運転条件は、その時々の、測定技術的に検出された運転条件である。それによって、現在のガス消費の、目標のガス消費又は基準のガス消費への換算が、容易且つ確実に実施され得る。
【符号の説明】
【0030】
10 エンジン
11 シリンダ
12 排ガスターボチャージャ
13 タービン
14 圧縮機
15 センサ
16 センサ
17 センサ
18 センサ
19 センサ
20 センサ
21 センサ
22 制御装置
AG 排ガス
G ガス
LL 過給空気
図1