特許第6687466号(P6687466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687466
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】酒らしい味わいが増強された飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20200413BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20200413BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   A23L2/00 B
   A23L2/00 T
   A23L2/38 A
   C12G3/06
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-109306(P2016-109306)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-212932(P2017-212932A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2018年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】西井 まゆ佳
(72)【発明者】
【氏名】梶 悟
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 絵美
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−544255(JP,A)
【文献】 特開2016−007205(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0110519(US,A1)
【文献】 特開2013−048590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00− 35/00
C12G 3/00− 3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2,3−トリアセトキシプロパン含有量が7〜1000ppmであり、pHが2〜5であり、アルコール含有量が2.8v/v%以下である容器詰飲料。
【請求項2】
アルコール含有量が2v/v%以下である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
苦味物質を含有する、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
ナリンジン、クワシン、アブシンチンおよびその混合物からなる群より選択される苦味物質を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項5】
スクラロース、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ステビアおよびその混合物からなる群より選ばれる高甘味度甘味料を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項6】
炭酸ガスを含有する炭酸飲料である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項7】
チューハイテイスト飲料、サワーテイスト飲料またはビールテイスト飲料である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項8】
飲料の1,2,3−トリアセトキシプロパン含有量を7〜1000ppmに調整することを含む、pHが2〜5であり、アルコール含有量が2.8v/v%以下である容器詰飲料への酒感付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒らしい風味を付与した飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、ビールやカクテルなどの酒類の香味を模倣しながらアルコール(エタノール)をほとんど含まないノンアルコールビールやノンアルコールカクテルなどの、いわゆるノンアルコール飲料が人気を集めている。アルコール度数が1%未満のいわゆるノンアルコール飲料の中でも、アルコール度数が0.01%未満で、「アルコール度数0.00%」と商品に表示されるものが特に注目を集め、新しいジャンルを形成するに至っている。
【0003】
これらのノンアルコール飲料は、アルコール(エタノール)を含まないという点ではソフトドリンクなどの通常の飲料(非アルコール飲料)と共通しているが、ビールやカクテルなどの酒類の風味に近づくように品質設計され、消費者もそのような品質を期待しているという点に大きな特徴がある。
【0004】
ところで、酒類、すなわちアルコール飲料は、アルコール(エタノール)に起因する軽快な甘い香味と若干の刺激感を含む「酒らしい風味」を有する。しかし、ノンアルコール飲料(「アルコール度数0.00%」と商品に表示されるものを含む)は、アルコール(エタノール)をほとんど含まないため、モデルとなったビールやカクテルなどの酒類よりも風味の奥行きや幅が乏しいと感じられる場合がある。一方、消費者は、アルコール(エタノール)を含まなくても、モデルとなったビールやカクテルのような、軽快な甘い香味と若干の刺激感を含む「酒らしい風味」が感じられることを期待している。
【0005】
このような状況から、アルコール度数が低いにもかかわらず、酒らしい風味を期待する消費者の嗜好を満足させる飲料の開発は、飲料メーカー各社にとって解決すべき課題となっている。
【0006】
このような問題を解決するための技術がいくつか提案されている。特許文献1には、酸味付与物質と苦味付与物質とを特定の範囲で組み合わせて添加することによって、非アルコール飲料にアルコール感を付与することが開示されている。ここで添加される酸味付与物質としては、具体的には酒石酸、乳酸、酢酸、リン酸、フマル酸等が挙げられ、飲料中の好ましい濃度範囲として、100〜5000ppmが挙げられている。
【0007】
また、特許文献2には、炭素数4または5の脂肪族アルコールと収斂味付与物質とを特定の範囲で組み合わせて添加することによって、非アルコール飲料にアルコール感を付与することが開示されている。ここでいう収斂味付与物質としては、酸味付与物質と苦味付与物質が挙げられ、更に具体的には、酸味付与物質として酒石酸、乳酸、酢酸、リン酸、フマル酸、等が挙げられ、飲料中の好ましい濃度範囲として、炭素数4または5の脂肪族アルコールの濃度1〜100mg/lに対して、酸味付与物質を20〜800mg/lとなるよう添加することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−254731号公報
【特許文献2】特開2012−060975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、アルコール含有量が低い飲料に対して酒らしい風味を付与できる技術の開発である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる課題について鋭意検討した結果、ノンアルコール飲料を始めとするアルコール含有量が少ない飲料において、1,2,3−トリアセトキシプロパンを含有させることによって酒らしい好ましい風味を付与できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の態様の発明を包含する。
(1) 1,2,3−トリアセトキシプロパン含有量が7〜1300ppmであり、pHが2〜5であり、アルコール含有量が2.8v/v%以下である容器詰飲料。
(2) アルコール含有量が2v/v%以下である、(1)に記載の飲料。
(3) 苦味物質を含有する、(1)または(2)に記載の飲料。
(4) ナリンジン、クワシン、アブシンチンおよびその混合物からなる群より選択される苦味物質を含有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の飲料。
(5) スクラロース、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ステビアおよびその混合物からなる群より選ばれる高甘味度甘味料を含有する、(1)〜(4)のいずれかに記載の飲料。
(6) 炭酸ガスを含有する炭酸飲料である、(1)〜(5)のいずれかに記載の飲料。
(7) チューハイテイスト飲料サワーテイスト飲料またはビールテイスト飲料である、(1)〜(6)のいずれかに記載の飲料。
(8) 飲料の1,2,3−トリアセトキシプロパン含有量を7〜1300ppmに調整することを含む、pHが2〜5であり、アルコール含有量が2.8v/v%以下である容器詰飲料への酒感付与方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、飲料においてアルコールを含有していない、あるいはアルコール含有量が少ないにもかかわらず、酒らしい好ましい風味(本明細書においては、単に「酒感」ということもある)を有する飲料を得ることができる。また、本発明は、従来の酒感付与技術と組み合わせて使用してもその効果を十分に発揮することができ、大変好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、アルコール含有量が2.8v/v%以下であるアルコール含有量が少ない飲料に関する。
【0014】
本発明に係る飲料はpHが2.0〜5.0であり、好ましい態様においてpHは2.4〜4.5であり、pHを2.9〜4.0としてもよい。好ましい態様において、本発明の飲料は、酸味料などによって飲料のpHを酸性側に調整するとチューハイテイスト飲料などとして好適な飲料となる。
【0015】
1,2,3−トリアセトキシプロパン(トリアセチン)
本発明の飲料は、7〜1300ppmの1,2,3−トリアセトキシプロパンを含有する。1,2,3−トリアセトキシプロパンとは、下式に示すグリセリンと酢酸のトリエステルであり、トリアセチン(Triacetin)とも呼ばれる。日本を始め欧米など多くの国で食品添加物としての使用が認められている。本発明において1,2,3−トリアセトキシプロパンは、化学合成によって製造したものを使用してもよいし、天然物由来の1,2,3−トリアセトキシプロパンを使用してもよい。1,2,3−トリアセトキシプロパンは、ニシキギの種子などに含まれていることが知られている。
【0016】
本発明においては、飲料の1,2,3−トリアセトキシプロパン含有量を7〜1300ppmとするが、20〜1200ppmが好ましく、70〜1100ppmがより好ましく、110〜1000ppmがさらに好ましく、200〜900ppmとしてもよい。
【0017】
【化1】
【0018】
飲料中の1,2,3−トリアセトキシプロパンは、公知の方法を使用して定量することができる。具体的には、ガスクロマトグラフィ(GC)やHPLC、LC/MSなどを用いて分析することができ、例えば、次の方法によってLC/MSの分析することができる。
【0019】
<LC/MS分析条件>
使用機器:Agilent 1290 Infinity series
使用カラム:Phenomenex KINETEX 1.3 μm, C18, 100Å, 2.1×50 mm
移動相 A:0.1%ギ酸水溶液
B:アセトニトリル
13%(0〜2 min)→50%B(2.1〜3min)、初期移動相による平衡化2.0 min
Flow:0.6mL/min
カラム温度:40℃ 注入量:2μL
検出器(MS):Thermo Scientific Q Exactive
アルコール含有量
本発明に係る飲料は、アルコールを含有していないか、あるいはアルコール含有量が2.8v/v%以下である。アルコール含有量が2.5v/v%以下でもよく、より好ましくはアルコール含有量が2.0v/v%以下であり、さらに好ましくはアルコール含有量が1.5v/v%以下や1.0v/v%未満である。なお、本明細書においてアルコール含有量が一定濃度以下(未満)と記載した場合、アルコール非含有の態様(アルコール含有量が0v/v%の態様)を含むものとして記載される。
【0020】
本発明において、特に断りがない限り、飲料の「アルコール」とは、化学的な意味での「アルコール類(炭化水素の水素基をヒドロキシ基で置換した物質)」の中でも炭素数が2個のエタノール(エチルアルコール、COH)のことを意味する。また、アルコール含有量とは、飲料中のエタノールの容量%(v/v%)のことをいう。
飲料のアルコール含有量は、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)に記載の方法によって測定することができる。具体的には、ショ糖などの糖類を添加したものと添加していないもののそれぞれについて、以下の方法で測定することができる。
【0021】
(ショ糖等の糖類を添加していない試料の場合) 試料100〜150mLを、メスフラスコを用いて15℃において正確に採取する。これを300〜500mL容のフラスコに移し、メスフラスコをそれぞれ15mLの水で2回洗浄し、洗浄液もフラスコ内に移す。試料の採取に用いたメスフラスコを受器として直火蒸留を行い、採取量の70%以上が留出した後、留液に水を加えて15℃において原容に戻し、よく振り混ぜて分析サンプルとする。
【0022】
(ショ糖等の糖類を添加した試料の場合) 水蒸気蒸留法によって分析サンプルを調製する。すなわち、メスフラスコを用いて試料100〜150mLを15℃において正確に採取する。これを500mL容二連フラスコに移し、メスフラスコをそれぞれ15mLの水で2回洗浄し、洗浄液もフラスコ内に移す。試料の採取に用いたメスフラスコを受器として水蒸気蒸留を行い、採取量の98%以上が留出した後、留液に水を加えて15℃において原容に戻し、よく振り混ぜて分析サンプルとする。
【0023】
以上のようにして調製した分析サンプルの15℃における密度を振動式密度計で測定し、前記国税庁所定分析法の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)および比重(15/15℃)換算表」を用いて換算することにより、飲料のアルコール度数を求めることができる。例えば、振動式密度計として、京都電子工業株式会社製の振動式密度計DA−310を用いることができる。
【0024】
苦味物質
本発明に係る飲料は、飲料に苦味物質が配合されていてもよい。本発明者らによる検討によると、1,2,3−トリアセトキシプロパンによる飲料への酒感付与または増強効果は、苦味物質を含有することにより飲料にさらに酒感を付与することが可能になる。
【0025】
ここで、苦味物質とは、飲料に配合することによって味覚に苦味を知覚せしめる物質をいい、配合された飲料に軽快な甘い香味と若干の刺激感を含む酒らしい風味を付与することができる。本発明においては、苦味物質として、天然物由来のものを用いることもできるし、市販される食品添加物(苦味料など)を配合することもできる。具体的には、例えば、アブシンチン、ナリンジン、クワシン、ホップ由来成分、イソα酸、カフェインなどを挙げることができるが、アブシンチン、ナリンジン及びクワシンを好ましく用いることができる。ナリンジン(naringin)は、ナリンギンともいい、分子式C273214で表される物質である。主にミカン科グレープフルーツ(Citrus paradisi MACF.)の果皮、果汁又は種子より、水又は室温時エタノール若しくはメタノールで抽出し、分離して得られる。クワシン(quassin)は、クアシンともいい、分子式C2228で表される物質であり、ジャマイカカッシア(Quassia excelsa SW.)抽出物の主な有効成分のひとつである。ジャマイカカッシア抽出物はカッシアエキスともカッシアともいい、ニガキ科ジャマイカカッシアの幹枝又は樹皮より水で抽出して得られる。アブシンチン(Absinthin)は、ニガヨモギ(Artemisia absinthium)に含まれる天然有機化合物であり、リキュールアブサン(absinthe)の特徴的な味の元となることが知られている。これらの苦味物質は、1種又は2種以上の苦味物質を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
本発明において配合できる苦味物質の種類と濃度は特に制限されないが、ともに配合されるプロパノールの種類と濃度に応じて調整することができる。苦味物質の濃度は、例えば、0.03〜100ppmとすることができ、好ましくは0.05〜30ppm、より好ましくは0.1〜30ppmとしてもよい。本発明の飲料においては、比較的低濃度の苦味物質であっても1,2,3−トリアセトキシプロパンとの併用による相乗効果によって、酒らしい風味を飲料の付与することができるため、当該飲料の設計品質を大きく損なうことがない点が極めて優れた特徴である。なお、複数の苦味物質を併用する場合は、苦味物質の合計量を上述の範囲にすることが好ましい。
【0027】
飲料中の苦味物質は、公知の方法を使用して定量することができる。例えば、ナリンジン及びクワシンは、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)などを用いて分析することができる。
【0028】
高甘味度甘味料
好ましい態様において本発明の飲料には、高甘味度甘味料を配合してもよい。本発明における高甘味度甘味料とは、ショ糖に比べて強い甘味を有する天然甘味料および合成甘味料をいい、食品や飲料に配合されるものであれば特に限定されない。
【0029】
そのような高甘味度甘味料としては、ペプチド系甘味料、例えばアスパルテーム、アリテーム、ネオテーム、グリチルリチン等;配糖体系甘味料、例えばステビア甘味料(ステビア抽出物およびステビアを酵素処理してブドウ糖を付加した酵素処理ステビアおよびステビアの甘味成分の中で最も甘味質のよいレバウディオサイドAを含む)、カンゾウ抽出物等;蔗糖誘導体、例えばスクラロース等;合成甘味料、例えばアセスルファムカリウム(「アセスルファムK」ともいう)、サッカリン、ネオヘスペリジン−ジヒドロカルコン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を適宜使用することができる。好ましくは、高甘味度甘味料は、スクラロース、アセスルファムK、ステビアおよびアスパルテームからなる群より選ばれる1種又は2種以上のものである。
【0030】
高甘味度甘味料は、ショ糖に比べて非常に強い甘味を有する一方で、ショ糖とは異なる甘味質や好ましくない呈味が感じられることが問題となることがある。例えば、スクラロースやアスパルテームは、後味に後をひく甘さが残ることやボディ感が不足しがちであることが指摘されている。アセスルファムKは後味に苦味が感じられることやボディ感が不足しがちであることが指摘されている。しかしながら本発明によれば、このような高甘味度甘味料の好ましくない後味を改善することができる。例えば、スクラロースやアスパルテームの後をひく甘さの残存感やアセスルファムKの後味の苦味を、本発明の薬品的な味や後味の残存感を打ち消す効果によって、緩和することができる。
【0031】
高甘味度甘味料の本発明の飲料に配合することができる量は、当該飲料の目的とする設計品質に応じて特に限定されずに決めることができるが、具体的には、1〜900ppmとすることが好ましく、5〜700ppmがより好ましく、10〜500ppmがさらに好ましい。尚、当該含有量は、高甘味度甘味料の総量である。
【0032】
また、高甘味度甘味料がスクラロースである場合は、本発明の飲料中の濃度は、1〜400ppmであることが好ましく、5〜400ppmであることがより好ましく、10〜300ppmであることがさらに好ましい。
【0033】
高甘味度甘味料がアセスルファムKである場合は、本発明の飲料中の濃度は、1〜500ppmであることが好ましく、10〜500ppmであることがより好ましく、50〜400ppmであることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の飲料に配合された高甘味度甘味料の濃度は、HPLC法などの公知の方法により測定することができる。例えば、スクラロースおよびアセスルファムKについては、下記の条件で分析および定量することができる。
【0035】
<スクラロースのHPLC分析条件>
使用機器:Agilent Technologies社 1290 Infinity LC システム
使用カラム:Agilent Technologies社 Zorbax Eclipse Plus RRHD C18 1.8μm 2.1 x 150 mm
移動相:
A)5mM酢酸アンモニウム水溶液
B)5mM酢酸アンモニウムアセトニトリル溶液
0.0分(60%B)→15.0分(95%B)、初期移動相による平衡化7分
流速:0.2mL/min
カラム温度:40℃
注入量:1.0μL
検出器:AB Sciex社 4000 Q TRAP(ESI negative、MRMモード、m/z 395.2→359.2)
<アセスルファムKのHPLC分析条件>
使用機器:Agilent Technologies社 1290 Infinity LC システム
使用カラム:Imtakt Cadenza CD-C18 4.6 x 150 mm
移動相:アセトニトリル/10mMギ酸アンモニウム(13/87)
流速:1.0mL/min
カラム温度:37℃
注入量:1.0μL
検出器:Dionex社 Corona Ultra
本発明の飲料は、高甘味度甘味料ではない甘味料を含有してもよい。本発明の飲料は、天然甘味料や人工甘味料を1または複数使用することができ、その種類は特に制限されない。果糖やぶどう糖、液糖を配合してもよい。
【0036】
(果汁)
本発明の容器詰飲料は、果汁を含有してもよい。 本発明に用いることのできる果汁は特に制限されず、1または複数の果汁を用いてもよい。好適な果汁としては、例えば、柑橘類果実(例えば、レモン、グレープフルーツ(ホワイト種、ルビー種)、ライム、オレンジ類、うんしゅうみかん、タンゴール、なつみかん、甘夏、はっさく、ひゅうがなつ、シイクワシャー、すだち、ゆず、かぼす、だいだい、いよかん、ぽんかん、きんかん、さんぼうかん、オロブランコ、ぶんたん)、核果類果実(例えば、あんず、さくらんぼ、うめ、すもも類、もも類)、漿果類果実(例えば、マスカット、リースリング、デラウエア、巨峰、ピオーネ)を挙げることができる。本発明は、飲料において酒感を付与するものであるが、本発明の飲料に果汁を配合する場合は、グレープフルーツ(ホワイト種、ルビー種)などの柑橘類の果汁を配合すると好ましい。
【0037】
(その他の成分)
本発明の飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料と同様、各種添加剤等を配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、酸味料、香料、ビタミン類、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を挙げることができる。
【0038】
飲料の種類は特に限定されないが、アルコールを含有しない、またはアルコール含有量が2.8v/v%以下であり、チューハイテイスト飲料、サワーテイスト飲料、カクテルテイスト飲料、ワインテイスト飲料、ビールテイスト飲料などに本発明を適用できる。チューハイやサワーとは、ウオツカや焼酎を含有し、製品によっては、果汁や甘味料等も含有し、アルコール含有量が1〜10v/v%程度のアルコール炭酸飲料のことである。
【0039】
本発明の飲料は、炭酸ガスを含有させて炭酸飲料とすることができる。本発明を炭酸飲料に適用すると、酒らしい香気と炭酸ガスの発泡感とがあいまってチューハイテイストの爽快感を楽しむことができるため、炭酸飲料は本発明のより好ましい態様の一つである。
【0040】
本発明の炭酸飲料は、液温が20℃の際に、炭酸ガス圧は、0.6〜4.0kgf/cmが好ましく、1.0〜3.5kgf/cmがより好ましく、1.2〜3.0kgf/cmがより好ましい。さらに好ましい態様において本発明の飲料は2.8kgf/cm以下の炭酸ガス圧を有する。本発明において、炭酸ガス圧は、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA−500Aを用いて測定することができる。試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。本願明細書において、特に記載が無い限り、炭酸ガス圧は、液温が20℃の際の、上記の測定方法で測定した炭酸ガス圧の値を指す。
【0041】
本発明の飲料は、容器詰め飲料である。容器詰め飲料の容器は特に制限されないが、例えば、ペットボトルなどの樹脂製容器、ガラス瓶などのガラス容器、アルミ缶やスチール缶などの金属製容器、通常、飲料に用いられる容器をいずれも用いることができる。
【0042】
飲料の呈味改善方法
さらに別の観点からは、本発明は、飲料の呈味を向上する方法である。具体的には、本発明は、アルコール含有量が2.8v/v%以下の飲料において、特定量の1,2,3−トリアセトキシプロパンを配合して飲料に酒感を付与する技術に関する。
【0043】
本発明の方法により、アルコール含有量が2.8v/v%以下の飲料において、設計品質に与える影響を最小限に抑制しながら好ましい酒感を飲料に付与することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の内容を、具体的な実験例を参照しつつ詳細に説明するが、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。また、特に記載しない限り、本明細書において数値範囲はその端点を含むものとして記載される。本明細書において「ppm」(parts per million)は重量/容量であり、特に記載しない場合は、%などの濃度は重量基準である。
【0045】
実験1:1,2,3−トリアセトキシプロパンによる飲料の酒感向上
チューハイテイスト飲料における1,2,3−トリアセトキシプロパン含有量の効果を調べた。具体的には、アルコール含有量が0〜3v/v%の飲料に対して0〜1500ppmの1,2,3−トリアセトキシプロパンを配合し、ショ糖4%水溶液と同じ甘味(甘味度4)となるようにアセスルファムカリウムとスクラロースを配合した(アセスルファムカリウム/スクラロースの重量比:約3.0)。各種サンプルに酸味料を加えてpHを約3.0に調製して容器詰飲料を製造した。
【0046】
調製した飲料サンプルについて、訓練された6名の専門パネラーによる官能評価を行い、1,2,3−トリアセトキシプロパンによる酒感付与効果を調べた。飲料の酒感(お酒っぽさ)については、下記の基準に基づいて5段階で評価してスコアの平均値を求めた。
<飲料の酒感>
1:酒感が感じられない
2:酒感がやや感じられる
3:酒感が感じられる
4:より酒感が感じられる
5:特に酒感が感じられる
下表においては、官能評価した飲料サンプルの評点と1,2,3−トリアセトキシプロパン無添加の対照サンプルの評点の差(Δ)に基づいて、下記の基準により酒感増強または付与効果の大きさを示した。
<酒感増強効果>
◎:評点の差が2.0以上(酒感増強または付与効果が大きい)
○:評点の差が1.0以上2.0未満(酒感増強または付与効果がある)
×:評点の差が1.0未満(酒感増強または付与効果がほとんどない)
また、飲料製品においては飲みやすさも重視されるため、下記の基準に基づいて、それぞれの飲料サンプルの飲みやすさを評価した。さらに、酒感増強または付与効果と飲みやすさの評価結果から、飲料サンプルを総合評価した。
<飲みやすさ>
○:飲みやすい
△:やや飲みにくい
×:飲みにくい
<総合評価>
◎:「酒感増強または付与効果◎かつ飲みやすさが○」
○:「酒感増強または付与効果◎かつ飲みやすさ△」または「酒感増強または付与効果○かつ飲みやすさ△〜○」
×:「酒感増強または付与効果×」または「飲みやすさ×」
評価結果から明らかなように、本発明に基づいて、アルコールを含有していないか、あるいはアルコール含有量が2v/v%飲料に1,2,3−トリアセトキシプロパンを含有させると、飲みやすさを維持しながら、酒らしい風味を飲料に増強または付与することができた。
【0047】
【表1A】
【0048】
【表1B】
【0049】
実験2:苦味物質を含有する飲料における酒感向上
苦味物質であるクワシン、ナリンジン、アブシンチンを含有する飲料に対して50ppmの1,2,3−トリアセトキシプロパンを配合し、実施例1と同様にして容器詰飲料を製造した(飲料のpH:約3.0、アルコール含有量:0v/v%)。
【0050】
実験1と同様にして飲料サンプルを官能評価した結果を下表に示す。苦味物質(クワシン、ナリンジン、アブシンチン)を含む飲料に1,2,3−トリアセトキシプロパンを配合すると、飲料の酒感(お酒っぽさ)をさらに増強または付与できることが明らかになった。例えば、1,2,3−トリアセトキシプロパンを含有するだけでなくクワシン含有量が0.05〜0.5ppm含有すると、より飲料の酒感を増強することが分かった。さらに、クワシン含有量が、0.05〜0.1ppm含有すると、飲みやすさを維持しながらより飲料の酒感を増強できることが分かった。また、1,2,3−トリアセトキシプロパンを含有するだけでなくナリンジン含有量が0.1〜30ppm含有すると、飲みやすさを維持しながらより飲料の酒感を増強できることが分かった。また、1,2,3−トリアセトキシプロパンを含有するだけでなくアブシンチン含有量が0.03〜0.6ppm含有すると、飲みやすさを維持しながらより飲料の酒感を増強できることが分かった。同様に、他の苦味物質として、ホップ由来成分やイソα酸を0.03〜100ppm含有する飲料であれば、本発明により、ビールテイスト飲料が実現できる、と考える。
【0051】
【表2】
【0052】
実験3:炭酸飲料における酒感向上
ノンアルコールの炭酸飲料における1,2,3−トリアセトキシプロパン添加の効果を調べた。具体的には、100ppmの1,2,3−トリアセトキシプロパンを配合し、実験1と同様にして容器詰飲料を製造した(アルコール含有量:0v/v%、炭酸ガス圧:2.0kgf/cm)。ただし、飲料のpHについては、酸味料を調整して約3.2と約3.6の2水準を作成し、また、1ml/Lのレモンフレーバーまたはブドウフレーバーを配合した飲料サンプルも製造した。
【0053】
実験1と同様にして飲料サンプルを官能評価した結果を下表に示す。表から明らかなように、炭酸飲料であっても本発明の効果が発揮されることが明らかになった。また、飲料にフレーバーを添加した場合や飲料のpHを変えた場合でも、本発明によって飲料に酒感を付与することができた。特に、炭酸飲料となると、アルコールを含有していないにも関わらず、チューハイテイストの酒感が増した。同様に、アルコールを含有し、アルコール含有量が2.8v/v%以下であっても、同様に、チューハイテイストの酒感が増す、と考える。
【0054】
【表3】
【0055】
実験4:アルコール含有飲料における酒感向上
アルコール含有飲料における1,2,3−トリアセトキシプロパン添加の効果を確認した。具体的には、アルコール含有量が2.5v/v%および2.8v/v%の飲料に100〜1000ppmの1,2,3−トリアセトキシプロパンを配合し、実験1と同様にして容器詰飲料を製造した(pHは3.0)。
【0056】
実験1と同様にして飲料サンプルを官能評価した結果を下表に示す。表から明らかなように、アルコール含有量が2.5v/v%や2.8v/v%であっても本発明の効果が発揮されることが明らかになった。
【0057】
【表4】