(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6687497
(24)【登録日】2020年4月6日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】結晶半導体膜製造方法、結晶半導体膜製造装置および結晶半導体膜製造装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/20 20060101AFI20200413BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20200413BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20200413BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L21/268 T
H01L29/78 627G
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-205629(P2016-205629)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-67642(P2018-67642A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮介
【審査官】
桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−108987(JP,A)
【文献】
特開2002−367923(JP,A)
【文献】
特開2003−037079(JP,A)
【文献】
特表2012−508985(JP,A)
【文献】
特開平09−063950(JP,A)
【文献】
特開平10−125599(JP,A)
【文献】
特開2014−120686(JP,A)
【文献】
特開2014−103248(JP,A)
【文献】
特開平11−283933(JP,A)
【文献】
特開平09−180997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/268
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非単結晶半導体膜に、ラインビーム形状のパルスレーザ光を相対的に走査しつつパルス毎に移動させて、照射回数n(2以上の整数)でオーバーラップ照射して結晶化を行う結晶半導体膜の製造方法であって、
前記オーバーラップ照射の照射回数nが複数回の折り返し走査とともに行われ、
前記パルスレーザ光は、走査方向のビーム断面形状に強度の均一な平坦部を有し、パルスレーザ光の照射によって結晶化した半導体膜により形成されるトランジスタの走査方向のチャネル領域サイズをbとし、
前記パルスレーザ光は、前記半導体膜上で、微細結晶が生じる照射パルスエネルギー密度よりも低く、かつ複数回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射パルスエネルギー密度Eを有し、
前記パルスレーザ光の照射回数nは、前記照射パルスエネルギー密度Eの前記パルスレーザ光のオーバーラップ照射によって結晶粒径成長が飽和する際の照射回数をn0として(n0−1)以上とし、
パルスレーザ光の走査方向におけるパルス毎の移動量cは、前記パルスレーザ光のビーム幅a以上とし、
前記パルスレーザ光の折り返し走査による前記パルスレーザ光のオーバーラップ照射では、各照射位置が互いにb/2以下の距離となるように照射することを特徴とする結晶半導体膜製造方法。
【請求項2】
前記パルスレーザ光の折り返し走査毎のパルスの移動量は、同一方向で、b/2以下とし、
前記パルスレーザ光の折り返し走査では、少なくとも走査毎のパルスの移動量の足し合わせがcに達するまで行うことを特徴とする請求項1記載の結晶半導体膜製造方法。
【請求項3】
前記折り返し走査毎のパルスの移動量をdとして、前記折り返し走査回数m(2以上の整数)がc/d以上であることを特徴とする請求項2に記載の結晶半導体膜製造方法。
【請求項4】
前記パルスレーザ光の照射回数nは、(n0−1)以上、3・n0以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶半導体膜製造方法。
【請求項5】
前記非単結晶半導体膜がSi半導体膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の結晶半導体膜製造方法。
【請求項6】
前記走査方向が、単一方向および往復方向の一方または両方であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の結晶半導体膜製造方法。
【請求項7】
非単結晶半導体膜に、ラインビーム形状のパルスレーザ光を相対的に走査しつつパルス毎に移動させて、オーバーラップ照射して結晶化を行う結晶半導体膜製造装置であって、
レーザ光を出力するレーザ光源と、
レーザ光源から出力された前記レーザ光の透過率を調整するアテニュエータと、
前記レーザ光をラインビーム形状に整形して前記非単結晶半導体膜に導く光学系と、
前記非単結晶半導体膜を支持してラインビームの短軸方向に移動させる移動装置と、
前記レーザ光源、アテニュエータおよび移動装置を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記レーザ光源の出力と前記アテニュエータの透過率の一方または両方を制御して、前記パルスレーザ光のエネルギー密度を半導体膜上で、微細結晶が生じる照射パルスエネルギー密度よりも低く、かつ複数回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射エネルギー密度Eに調整し、かつ、
前記パルスレーザ光の発振周波数と前記移動装置の移動速度を制御して、前記パルスレーザ光の走査方向におけるパルス毎の移動量cを前記パルスレーザ光のビーム幅a以上とし、
さらに、前記移動装置の移動を制御して前記パルスレーザ光の折り返し走査を行い、前記半導体膜により形成されるトランジスタの走査方向のチャネル領域サイズをbとして、前記パルスレーザ光のオーバーラップ照射によって、各照射位置が互いにb/2以下の距離になり、かつ、前記照射パルスエネルギー密度Eのパルスレーザのオーバーラップ照射によって結晶粒径成長が飽和する際の照射回数をn0として(n0−1)以上とした照射回数nで、前記パルスレーザ光の前記オーバーラップ照射を行うことを特徴とする結晶半導体膜製造装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記パルスレーザ光の折り返し走査毎のパルスの移動量は、同一方向でb/2以下とし、前記パルスレーザ光の折り返し走査では、少なくとも走査毎のパルスの移動量の足し合わせがcに達するまで前記パルスレーザ光の照射を行うことを特徴とする請求項7記載の結晶半導体膜製造装置。
【請求項9】
非単結晶半導体膜に、ラインビーム形状のパルスレーザを相対的に走査しつつパルス毎に移動させて、オーバーラップ照射して結晶化を行う結晶半導体膜製造装置を制御する制御部で実行される結晶半導体膜製造装置の制御方法であって、
レーザ光源の出力とアテニュエータの透過率の一方または両方を制御して、前記パルスレーザ光のエネルギー密度を半導体膜上で、微細結晶が生じる照射パルスエネルギー密度よりも低く、かつ複数回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射エネルギー密度Eに調整し、かつ、
前記パルスレーザ光の発振周波数と前記移動の速度を制御して、前記パルスレーザ光の走査方向におけるパルス毎の移動量cを前記パルスレーザ光のビーム幅a以上とし、
さらに、前記移動を制御して前記パルスレーザ光の折り返し走査を行い、前記半導体膜により形成されるトランジスタの走査方向のチャネル領域サイズをbとして、前記パルスレーザ光のオーバーラップ照射によって、各照射位置が互いにb/2以下の距離になり、かつ、前記照射パルスエネルギー密度Eのパルスレーザのオーバーラップ照射によって結晶粒径成長が飽和する際の照射回数をn0として(n0−1)以上とした照射回数nで、前記パルスレーザ光の前記オーバーラップ照射を行うことを特徴とする結晶半導体膜製造装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非単結晶半導体膜上に、ラインビーム形状のパルスレーザ光を複数回照射(オーバーラップ照射)しつつ相対的に移動させて結晶化を行う結晶半導体膜製造方法、結晶半導体膜製造装置および結晶半導体膜製造装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にTVやPCディスプレイで用いられている薄膜トランジスタは、アモルファス(非結晶)シリコン(以降a−シリコンという)により構成されているが、低温度でのSi結晶化プロセスとしてエキシマレーザアニール技術が実用化されており、携帯電話等の小型ディスプレイ向け用途で頻繁に利用されており、さらに大画面ディスプレイなどへの実用化がなされている。
このレーザアニール法では、高いパルスエネルギーを持つエキシマレーザを、非単結晶半導体膜の同一位置に複数回照射(オーバーラップ照射)されるように、所定のピッチでパルスレーザ光を走査方向に移動させている。非単結晶半導体膜に照射することで、光エネルギーを吸収した半導体が溶融または半溶融状態になり、その後急速に冷却され凝固する際に結晶化する。この際には、広い領域を処理するために、ラインビーム形状に整形したパルスレーザ光を相対的に短軸方向に走査しながら照射する。
【0003】
特許文献1で提案された照射方法では、非単結晶半導体膜に、ラインビーム形状としたパルスレーザ光を相対的に走査しつつ、パルス毎に移動させ、照射回数nでオーバーラップ照射して結晶化を行っている。この照射方法では、薄膜半導体内のチャネル領域にレーザパルスの継ぎ目の本数が多いと結晶化後のトランジスタの性能が安定するため、特許文献1ではパルス毎の移動量cがb/2以下であれば薄膜半導体の性能のばらつきは効果的に低減されるとしている。
また、特許文献1で示されているように、照射回数が一定回数を超えると結晶粒径が飽和するため、照射回数は、照射パルスエネルギー密度Eのパルスレーザ光の照射によって結晶粒径成長が飽和する際の照射回数をn0として(n0−1)以上としている。
このように適切なパルス毎の移動量及び適切な照射回数を選ぶことができ、非単結晶半導体膜を効率よく処理することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−108987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のレーザ単結晶化方法では、シリコン基板上の電極にダメージが入りやすいなどの問題がある。これは、パルスビームを短時間でn回照射するため、電極へのダメージは、オーバーラップ照射時の熱の影響に依るものではないかと考えられる。このことから、繰り返し周波数を下げることで電極へのダメージは避けることができるが、繰り返し周波数を落とすと、基板1枚当りの処理時間が長くなり効率が悪くなる。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、処理時間を長くすることなく、繰り返し周波数を下げる必要なく、半導体基板にダメージを与えずに処理することができる結晶半導体膜製造方法、結晶半導体膜製造装置および結晶半導体膜製造装置の制御方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の結晶半導体膜製造方法のうち、第1の本発明は、非単結晶半導体膜に、ラインビーム形状のパルスレーザ光を相対的に走査しつつパルス毎に移動させて、照射回数n(2以上の整数)でオーバーラップ照射して結晶化を行う結晶半導体膜の製造方法であって、
前記オーバーラップ照射の照射回数nが複数回の折り返し走査とともに行われ、
前記パルスレーザ光は、走査方向のビーム断面形状に強度の均一な平坦部を有し、パルスレーザ光の照射によって結晶化した半導体膜により形成されるトランジスタの走査方向のチャネル領域サイズをbとし、
前記パルスレーザ光は、前記半導体膜上で、微細結晶が生じる照射パルスエネルギー密度よりも低く、かつ複数回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射パルスエネルギー密度Eを有し、
前記パルスレーザ光の照射回数nは、前記照射パルスエネルギー密度Eの前記パルスレーザ光のオーバーラップ照射によって結晶粒径成長が飽和する際の照射回数をn0として(n0−1)以上とし、
パルスレーザ光の走査方向におけるパルス毎の移動量cは、前記パルスレーザ光のビーム幅a以上とし、
前記パルスレーザ光の折り返し走査による前記パルスレーザ光のオーバーラップ照射では、各照射位置が互いにb/2以下の距離となるように照射することを特徴とする。
【0008】
第2の本発明の結晶半導体膜製造方法は、前記本発明において、前記パルスレーザ光の折り返し走査毎のパルスの移動量は、同一方向で、b/2以下とし、前記パルスレーザ光の折り返し走査では、少なくとも走査毎のパルスの移動量の足し合わせがcに達するまで行うことを特徴とする。
【0009】
第3の本発明の結晶半導体膜製造方法は、前記本発明において、前記折り返し走査毎のパルスの移動量をdとして、前記折り返し走査回数m(2以上の整数)がc/d以上であることを特徴とする。
【0010】
第4の本発明の結晶半導体膜製造方法は、前記本発明において、前記パルスレーザ光の照射回数nは、(n0−1)以上、3・n0以下であることを特徴とする。
【0011】
第5の本発明の結晶半導体膜製造方法は、前記本発明において、前記非単結晶半導体膜がSi半導体膜であることを特徴とする。
【0012】
第6の本発明の結晶半導体膜製造方法は、前記本発明において、前記走査方向が、単一方向および往復方向の一方または両方であることを特徴とする。
【0013】
第7の本発明の結晶半導体膜製造装置は、非単結晶半導体膜に、ラインビーム形状のパルスレーザ光を相対的に走査しつつパルス毎に移動させて、オーバーラップ照射して結晶化を行う結晶半導体膜製造装置であって、
レーザ光を出力するレーザ光源と、
レーザ光源から出力された前記レーザ光の透過率を調整するアテニュエータと、
前記レーザ光をラインビーム形状に整形して前記非単結晶半導体膜に導く光学系と、
前記非単結晶半導体膜を支持してラインビームの短軸方向に移動させる移動装置と、
前記レーザ光源、アテニュエータおよび移動装置を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記レーザ光源の出力と前記アテニュエータの透過率の一方または両方を制御して、前記パルスレーザ光のエネルギー密度を前記半導体膜上で、微細結晶が生じる照射パルスエネルギー密度よりも低く、かつ複数回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射パルスエネルギー密度Eに調整し、かつ、
前記パルスレーザ光の発振周波数と前記移動装置の移動速度を制御して、前記パルスレーザ光の走査方向におけるパルス毎の移動量cを前記パルスレーザ光のビーム幅a以上とし、
さらに、前記移動装置の移動を制御して前記パルスレーザ光の折り返し走査を行い、前記半導体膜により形成されるトランジスタの走査方向のチャネル領域サイズをbとして、前記パルスレーザ光のオーバーラップ照射によって、各照射位置が互いにb/2以下の距離になり、かつ、前記照射パルスエネルギー密度Eのパルスレーザ光のオーバーラップ照射によって結晶粒径成長が飽和する際の照射回数をn0として(n0−1)以上とした照射回数nで、前記パルスレーザ光の前記オーバーラップ照射を行うことを特徴とする。
【0014】
第8の本発明の結晶半導体膜製造装置は、前記本発明において、前記制御部は、前記パルスレーザ光の折り返し走査毎のパルスの移動量は、同一方向でb/2以下とし、前記パルスレーザ光の折り返し走査では、少なくとも走査毎のパルスの移動量の足し合わせがcに達するまで前記パルスレーザ光の照射を行うことを特徴とする。
【0015】
第9の本発明の結晶半導体膜製造装置の制御方法は、非単結晶半導体膜に、ラインビーム形状のパルスレーザ光を相対的に走査しつつパルス毎に移動させて、オーバーラップ照射して結晶化を行う結晶半導体膜製造装置を制御する制御部で実行される結晶半導体膜製造装置の制御方法であって、
レーザ光源の出力とアテニュエータの透過率の一方または両方を制御して、前記パルスレーザ光のエネルギー密度を前記半導体膜上で、微細結晶が生じる照射パルスエネルギー密度よりも低く、かつ複数回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射パルスエネルギー密度Eに調整し、かつ、
前記パルスレーザ光の発振周波数と前記移動の速度を制御して、前記パルスレーザ光の走査方向におけるパルス毎の移動量cを前記パルスレーザ光のビーム幅a以上とし、
さらに、前記移動を制御して前記パルスレーザ光の折り返し走査を行い、前記半導体膜により形成されるトランジスタの走査方向のチャネル領域サイズをbとして、前記パルスレーザ光のオーバーラップ照射によって、各照射位置が互いにb/2以下の距離になり、かつ、前記照射パルスエネルギー密度Eのパルスレーザ光のオーバーラップ照射によって結晶粒径成長が飽和する際の照射回数をn0として(n0−1)以上とした照射回数nで、前記パルスレーザ光の前記オーバーラップ照射を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、処理時間を長くすることなく、半導体膜へのダメージを低減して非単結晶半導体を効率よく単結晶化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態におけるレーザ処理装置の構成を示す概略図である。
【
図2】同じく、短軸方向断面のビームプロファイルを示す図である。
【
図3】同じく、照射パルスエネルギー密度とレーザパルス光の照射による結晶粒径の大きさの関係を示す図である。
【
図4】同じく、照射ショット数と結晶粒径の関係を示す図である。
【
図5】同じく、繰り返し走査によるラインビーム照射の状態を説明する図である。
【
図6】同じく、繰り返し走査による照射状態を抽出して説明する図である。
【
図7】従来のオーバーラップ照射の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
レーザ処理装置1は、処理室2を備えており、処理室2内に走査装置3が設けられている。走査装置3上には、半導体膜を支持する基台4が設置されており、基台4は走査装置3によってX方向(走査方向)に移動可能とされており、基台4は、さらにY方向への移動や回転が可能となったものであってもよい。また、処理室2には、外部からラインビームを導入する導入窓6が設けられている。この実施形態では、レーザ処理装置1は、本発明の結晶半導体膜製造装置に相当し、走査装置3は、本発明の移動装置に相当する。
【0019】
レーザ光照射処理時には、基台4上にガラス基板100aなどに非晶質のシリコン膜100bなどを形成した半導体基板100が設置される。シリコン膜100bは、本発明の非単結晶半導体膜に相当する。ただし、本発明としては、非単結晶半導体膜は非晶質のものに限定されるものではなく、単結晶でない結晶膜であってもよく、さらにシリコン膜以外であってもよい。さらに、非単結晶半導体膜が設けられている基板が、ガラス基板に限定されるものではなく、例えば、プラスチック基板に半導体膜を形成したものなどとしてもよい。
本実施形態のレーザ処理装置は、非晶質膜をレーザ処理により結晶化するレーザアニール処理に関するものとして説明するが、本願発明としてはレーザ処理の内容がこれに限定されるものではなく、例えば、非単結晶の半導体膜を単結晶化したり、結晶半導体膜の改質を行ったりするものであってよい。
【0020】
処理室2の外部には、レーザ光源10が設置されている。レーザ光源10は、パルス発振レーザ光、連続発振レーザ光のいずれのレーザ光を出力するものであってもよい。連続発振レーザ光は、パルス化する手段を介することでパルス光を得ることができる。
この実施形態では、レーザ光源10においてパルス状のレーザ光15が出力されるものとする。
【0021】
レーザ光15は、必要に応じてアテニュエータ11でエネルギー密度が調整され、反射ミラー12a、ホモジナイザ12b、反射ミラー12c、集光レンズ12dなどを含む光学系12でラインビーム形状への整形や偏向などがなされる。なお、光学系12を構成する光学部材は上記に限定されるものではなく、各種レンズ、ミラー、導波部などを備えることができる。上記光学系12によってビーム断面形状がライン形状とされたラインビーム150が得られる。ラインビーム150のサイズは特に限定されるものではないが、半導体膜上における形状として、例えば短軸幅100μm〜500μm、長軸幅370〜1300mmを例示することができる。
【0022】
レーザ処理装置1には、走査装置3の移動、アテニュエータ11の透過率調整、レーザ光源10の出力、出力周波数などを制御する制御部7を備えている。制御部7は、図示しない、CPUやCPUに所定の動作を実行させるプログラム、動作パラメータなどを格納した記憶部などにより構成することができる。
【0023】
次に、レーザ処理装置1の動作について説明する。
レーザ光源10は、制御部7の制御によって所定の繰り返し周波数でパルス発振されて、所定出力でレーザ光15が出力される。レーザ光15は、例えば、波長400nm以下、パルス半値幅が200n秒以下のものが例示される。ただし、本発明としてはこれらに限定されるものではない。
【0024】
レーザ光15は、制御部7により制御されるアテニュエータ11によってパルスエネルギー密度が調整される。アテニュエータ11は、所定の減衰率に設定されて、シリコン膜100bへの照射面上で結晶化に最適な照射パルスエネルギー密度が得られるように、減衰率が調整される。エネルギー密度は、微細結晶が生じる照射パルスエネルギー密度よりも低く、かつ複数回の照射によって結晶粒径成長が飽和する照射パルスエネルギー密度Eとする。
例えば、非晶質のシリコン膜100bを結晶化するなどの場合、その照射面上において、エネルギー密度が250〜500mJ/cm
2となるように調整することができる。
【0025】
アテニュエータ11を透過したレーザ光15は、光学系12でラインビーム形状に整形かつ短軸幅を集光してラインビーム150となる。ラインビーム150は、例えば、シリコン膜100b上で、上記したように、例えば、短軸幅100μm〜500μm、長軸幅370〜1300mmとなるように整形される。ただし、本発明としてはラインビームの大きさが特定のものに限定されるものではない。
【0026】
ラインビーム150は、
図2の短軸方向断面ビームプロファイルに示すように、最大エネルギー強度に対し、90%以上となる平坦部150aと、長軸方向の両端部に位置し、前記平坦部150aよりも小さいエネルギー強度を有し、外側に向けて次第にエネルギー強度が低下するスティープネス部150bとを有している。スティープネス部150bは、最大強度の10%〜90%の範囲の領域とすることができる。前記平坦部150aの幅がビーム幅aとして示される。
【0027】
図3は、照射パルスエネルギー密度とレーザパルス光の照射による結晶粒径の大きさの関係を示す図である。照射パルスエネルギー密度が低い領域では、照射パルスエネルギー密度が増すに連れて結晶粒径が大きくなっている。例えば、その途中の照射パルスエネルギー密度E1よりも照射パルスエネルギー密度が大きくなると結晶粒径が急激に大きくなる。一方、照射パルスエネルギー密度がある程度に迄大きくなると、それ以上に照射パルスエネルギー密度が大きくなっても結晶粒径の増大は殆どなく、ある照射パルスエネルギー密度E2を越えると、結晶粒径が急激に小さくなって微結晶化が生じる。したがって上記照射パルスエネルギー密度Eは、E≦E2で示すことができる。
【0028】
照射パルスエネルギー密度を上記Eの値に設定して、シリコン膜100bに照射する際には、ある回数以上に照射回数を設定しても、結晶粒径成長が飽和する。結晶粒径成長の飽和は、例えば、SEM写真により判定することができる。
図4は、照射パルスエネルギー密度Eで照射した際に、照射回数に対する結晶粒径の関係を示す図である。ある照射回数までは、照射回数が増加するに連れて結晶粒径が大きくなるが、ある照射回数になると結晶粒径成長はそれ以上には進行せず飽和する。この照射回数が照射回数n0として示される。
【0029】
本実施形態では、実際の繰り返し走査による照射回数nは、前記照射回数n0に対し、(n0−1)以上とし、好適には3・n0以下に設定する。照射回数nは、一定回数以上照射すると結晶粒径が飽和する。結晶粒径が飽和しない回数の結晶粒径の成長が十分になされず、異なる粒径の結晶が混在し、電子移動度のバラツキが生じるため、照射回数nは、結晶粒径成長が飽和する際の照射回数のn0以上が望ましいが、n0−1回を許容範囲とする。3・n0回以上では、回数が多くなりすぎて効率が悪くなる。これにより、非単結晶半導体であるシリコン膜100bを効果的かつ効率的に結晶化することが可能になる。
【0030】
ただし、本発明では、複数回の折り返し走査とともにn回の照射が行われる。この際に、上記パルスレーザ光の照射によって単結晶化された結晶半導体膜では、所定の間隔で薄膜半導体が形成される。薄膜半導体では、それぞれ所定のチャネル領域幅bを有しており、該間隔は、好適には1mm以下に設定される。
【0031】
シリコン膜100b上における薄膜半導体200の配列予定状態を
図5、7に示す。各薄膜半導体200では、ソース201、ドレイン202、ソース、ドレイン間に位置するチャネル部203を有しており、該チャネル部203のパルスレーザ光の走査方向の大きさが、チャネル領域幅bとなっている。この形態では、チャネル領域幅bは、チャネル領域サイズbに相当する。従来の方法によって、上記シリコン膜100bに対しパルス毎の移動量cによってラインビーム150を照射、移動させると、一走査でのパルス毎の移動に応じて結晶化半導体膜上にビームの継ぎ目30Aが現れる(
図7(A)、(B))。
【0032】
図7(A)では、チャネル部203に形成される継ぎ目30Aは、パルス毎の移動量cがチャネル領域幅bよりも小さく(c<b/2)、チャネル部203に2本以上の継ぎ目30Aが形成されている。
図7(B)では、チャネル部203に形成される継ぎ目30Aは、パルス毎の移動量aがb以上であるため、チャネル部203に形成される継ぎ目30Aは、1本を超えることはない。
【0033】
図7(A)のように、一走査において、チャネル部203に対し複数回ラインビーム150がオーバーラップ照射されると、シリコン膜100bに対するダメージが大きくなる。一方、
図7(B)のように、一走査で、チャネル部203に対する照射は1回以内になるため、上記したダメージは回避することができるものの、照射回数が不足して単結晶化が十分になされない。
【0034】
本実施形態では、パルスレーザ光の一走査におけるパルス毎の移動量cは、パルスレーザ光のビーム幅a以上として、照射領域が実質的に重ならないようにして、シリコン膜100bに対するダメージを回避する。さらに、チャネル部203に対しては、ラインビーム150の繰り返し走査による照射によって、それまでの走査のラインビーム150の照射領域に、新たな走査でパルスレーザ光の照射領域をn回重ねてオーバーラップ照射を行う。この照射では、一方向の走査でオーバーラップする場合と同様の作用が得られる。各回の走査では、前回の走査と比べて照射位置を移動させることで、それぞれの照射で継ぎ目が現れる。
【0035】
図5は、前回の走査で、ラインビーム150の照射によってビーム継ぎ目30Aが形成され、次の走査で、ラインビーム150の照射によってビーム継ぎ目30Bが形成された状態を示している。ビーム継ぎ目30A、30B間の間隔は、b/2以下にしており、チャネル部203には、2回以上の継ぎ目が形成される。走査間の隣接するビーム継ぎ目は、連続する走査の間で形成されることが必要とされるものではなく、複数回の走査によって、最終的に隣接するビーム継ぎ目の間隔が上記条件を満たしていればよい。
【0036】
図6(A)(B)は、ラインビームのみを取り出して説明する図である。
図6(A)は、一つの走査でパルスレーザ光P1が照射されたシリコン膜100b上の照射状態を示している。この際のパルス移動量cは、ビーム幅a以上になっている。
図6(B)は、次の走査においてパルスレーザ光P2が照射されたシリコン膜100b上の照射状態を示している。この例では、次回の走査でのパルス間の移動量は、前回走査のパル移動量と同じになっており、走査毎のパルス移動量dで、照射位置が変更されて走査がなされている。この際の走査毎のパルス移動量dは、図示していないが、チャネル領域サイズbの1/2以下になっている。
【0037】
上記のように、本実施形態では、照射位置が互いにb/2以下になるように繰り返し走査を行う。繰り返し走査は、同じ方向に基台4を移動させるものとして、走査毎のパルス移動量dの足し合わせが、少なくともcに達するまで折り返し走査を続けることができる。したがって折り返し走査回数mは、パルス毎の移動量cを走査毎のパルス移動量dで割った回数以上必要となる。この場合、チャネル領域内のパルスの継ぎ目は、走査毎のパルスの移動量dの間隔で並ぶことになる。なお、走査毎のパルスレーザ光の移動量は同一とする他、パルス毎に異なるようにしてもよい。
また、繰り返し走査では、単一の方向への移動の他、往復動を含むものであってもよい。往復動を行う場合、照射後の継ぎ目位置の間隔が、最終的に、それぞれb/2以下となり、かつ同一位置にn回の照射が行われていればよい。
【0038】
なお、この実施形態では、ソース201およびドレイン202に沿った方向でチャネル部203のチャネル領域幅を本発明のチャネル領域サイズとしたが、薄膜半導体200が別方向に形成され、ソース201とドレイン202間のチャネル部203の大きさをチャネル領域サイズbとしてラインビームを照射するものに適用するものであってもよい。
【実施例1】
【0039】
以下に、本発明の一実施例を説明する。
アモルファスSiを非単結晶半導体膜として、パルスレーザ光の繰り返し周波数を50Hzと300Hzで通常のオーバーラップ走査方式と折り返し走査(同一方向)方式の4通りで照射を行った。以下に照射条件を示し、照射結果を表1に示す。
エキシマレーザ:波長308nm、繰り返し周波数50Hz、300Hz
ビームサイズ:ビーム長730mm×ビーム幅0.17mm
ビーム幅は、最大エネルギー強度90%以上の平坦部の幅とした。
アモルファスSi膜厚:40nm
移動速度 :6mm/sec
【0040】
表1に示すように、試験No.1、3は、従来の方法によるものであり、試験No.2、4は、本実施形態によるものである。
試験No.3の場合、単位面積当たりの投入パワーが大きいために電極にダメージが入りやすくなったと考えられる。試験No.1の場合、試験No.3と比べ、投入パワーが小さいため、結晶粒径成長が飽和する照射エネルギー密度から電極に、クラックが入りダメージとなる照射エネルギー密度までのエネルギー密度マージンは広くなるが、1枚当りの処理時間は試験No.3と比べて6倍となる。試験No.4のように、周波数を下げずに折り返し走査でのオーバーラップ照射を行った結果、単位面積当たりの投入パワーが下がったため電極へのダメージを避けられかつ処理時間を短く保ったまま、効率良くアニール処理することができた。
【0041】
【表1】
【0042】
以上、本発明について上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 レーザ処理装置
2 処理室
3 走査装置
4 基台
6 導入窓
7 制御部
10 レーザ光源
12 光学系
12a 反射ミラー
12b ホモジナイザ
12c 反射ミラー
12d 集光レンズ
30A ビーム継ぎ目
30B ビーム継ぎ目
100 半導体基板
150 パルスレーザ光
200 薄膜半導体
201 ソース
202 ドレイン
203 チャネル部