(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筒内噴射式エンジンが停止する直前に再始動条件が成立した場合に、少なくとも膨張行程にある気筒への燃料噴射および点火を実行して、当該エンジンを始動させるようにしたエンジンの始動制御装置であって、
クランクシャフトが回転を停止する前に逆転動作した後に、前記気筒内へ燃料噴射弁によって燃料を噴射させるとともに、その後、点火プラグによって混合気に点火させて、スタータモータを用いずにエンジンを始動させる自立始動制御手段と、
前記逆転動作によって上昇する前記気筒内の圧力が、前記点火による混合気の着火時点で所定圧以上になるか否か判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記気筒内の圧力が前記所定圧以上でないと判定された場合に、前記自立始動制御手段によるエンジンの始動を禁止する禁止手段と、を備え、
更に、前記判定手段は、前記逆転動作後に前記クランクシャフトが再び正転動作を始めた後に、再始動条件が成立したか否かを判定し、前記禁止手段は、前記判定手段によって、前記逆転動作後に前記クランクシャフトが再び正転動作を始めた後に、再始動条件が成立したと判定された場合に、前記自立始動制御手段によるエンジンの始動を禁止することを特徴とするエンジンの始動制御装置。
筒内噴射式エンジンが停止する直前に再始動条件が成立した場合に、少なくとも膨張行程にある気筒への燃料噴射および点火を実行して、当該エンジンを始動させるようにしたエンジンの始動制御装置であって、
クランクシャフトが回転を停止する前に逆転動作した後に、前記気筒内へ燃料噴射弁によって燃料を噴射させるとともに、その後、点火プラグによって混合気に点火させて、スタータモータを用いずにエンジンを始動させる自立始動制御手段と、
前記逆転動作によって上昇する前記気筒内の圧力が、前記点火による混合気の着火時点で所定圧以上になるか否か判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記気筒内の圧力が前記所定圧以上でないと判定された場合に、前記自立始動制御手段によるエンジンの始動を禁止する禁止手段と、を備え、
更に、前記判定手段は、前記逆転動作の開始後にクランク角位置の変化が所定幅未満である期間が予め設定した時間以上になった後に、再始動条件が成立したか否かを判定し、前記禁止手段は、前記判定手段によって、前記逆転動作の開始後にクランク角位置の変化が所定幅未満である期間が予め設定した時間以上になった後に、再始動条件が成立したと判定された場合に、前記自立始動制御手段によるエンジンの始動を禁止することを特徴とするエンジンの始動制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態は一例として、本発明を車両に搭載されたガソリンエンジンに適用する場合について説明する。
【0032】
−エンジンの概要−
図1にはエンジン1の概略構成を示すが、本実施の形態のエンジン1は4気筒ガソリンエンジンであって、第1〜第4の4つの気筒2(図には1つのみ示す)のそれぞれには燃焼室11を区画するようにピストン12が収容されている。ピストン12とクランクシャフト13はコンロッド14によって連結されており、そのクランクシャフト13の回転角(クランク角)を検出するためのクランク角センサ101が設けられている。
【0033】
詳しくは、前記クランクシャフト13にはシグナルロータ17が取り付けられており、その外周面に複数の歯17aが設けられている。一方、クランク角センサ101は、例えば2つの電磁ピックアップを備えており、クランクシャフト13の回転によってシグナルロータ17の歯17aが通過する都度、それぞれの電磁ピックアップからパルス信号が出力されるようになっている。
【0034】
前記2つの電磁ピックアップのうち一方から出力される信号が、クランク角位置の変化を表すクランク信号であり、他方から出力される信号は、クランク信号と所定の位相差を有している。このため、クランク信号の立ち上がり時または立ち下がり時に、他方の電磁ピックアップからの信号がロー、ハイのいずれであるかによって、クランクシャフト13が正回転中か否か(逆転動作中か)判定することができる。
【0035】
また、図示はしないがクランクシャフト13の端部には、一体に回転するようにフライホイールが取り付けられており、その外周に形成されたリングギヤにピニオンギヤを噛み合わせて、回転させることができるようにスタータモータ18(
図1には模式的に示す)が配設されている。このスタータモータ18は、エンジン1の通常の始動の際に、後述するようにECU100からの信号を受けて動作する。
【0036】
また、シリンダブロック15の上部にはシリンダヘッド16が載置されており、各気筒2毎にインジェクタ19が配設されて、燃焼室11に臨んでいる。例えば気筒2の吸気行程でインジェクタ19から噴射された燃料は、気筒2内の吸気の流動に乗って拡散しながら混合気を形成する。こうして形成される混合気に点火するために、シリンダヘッド16には点火プラグ20も配設され、イグナイタ21からの電力の供給を受けて火花放電するようになっている。
【0037】
さらに、シリンダヘッド16には、各気筒2内の燃焼室11に連通するように吸気ポート30および排気ポート40が形成されており、それぞれの気筒2内に臨む開口部が吸気バルブ31および排気バルブ41によって開閉されるようになっている。これら吸気バルブ31および排気バルブ41を動作させる動弁系は、吸気および排気の2本のカムシャフト32,42を備え、図示しないタイミングチェーンおよびスプロケットを介して、クランクシャフト13により回転される。
【0038】
また、吸気カムシャフト32の近傍には、いずれかの気筒2が所定クランク角位置(例えば第1気筒2が上死点)にあるときにパルス信号(以下、カム信号という)を出力するように、カム角センサ102が設けられている。吸気カムシャフト32はクランクシャフト13の半分の速度で回転するので、クランクシャフト13が2回転(クランク角で720°変化)する毎に、カム角センサ102は少なくとも1回、カム信号を出力する。
【0039】
また、前記吸気ポート30の上流側(吸気の流れの上流側)に連通する吸気通路3には、エアフローメータ103、吸気温センサ104(エアフローメータ103に内蔵)、および、電子制御式のスロットルバルブ33が配設され、このスロットルバルブ33の下流(一例としてサージタンク)に吸気圧センサ109が配設されている。スロットルバルブ33はスロットルモータ34によって駆動され、吸気の流れを絞ってエンジン1の吸気量を調整する。
【0040】
そうしてスロットルバルブ33によって流量調整された吸気の流れが吸気ポート30から各気筒2内に流入し、インジェクタ19から噴射された燃料と混じり合って混合気を形成する。この混合気が点火プラグ20により点火されて燃焼し、これにより発生したガスが気筒2の排気行程で排気ポート40に流出する。排気ポート40の下流側(排気の流れの下流側)に連通する排気通路4には、排気浄化用の触媒43が配設され、その上流側には空燃比センサ105が配設されている。
【0041】
−ECU−
以上のように構成されたエンジン1はECU100によって制御される。ECU100は、公知の電子制御ユニット(Electronic Control Unit)からなり、図示は省略するが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびバックアップRAMなどを備えている。CPUは、ROMに記憶された制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。また、RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶し、バックアップRAMは例えばエンジン1の停止時に保存すべきデータ等を記憶する。
【0042】
そして、ECU100には、前記したクランク角センサ101、カム角センサ102、エアフローメータ103、吸気温センサ104、空燃比センサ105、吸気圧センサ109などの他に、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ106、ブレーキペダルの操作を検出するブレーキスイッチ(ブレーキSW)107、スタータモータ18を動作させるためのスタータスイッチ(スタータSW)108などが接続されている。
【0043】
そして、それらの各種センサおよびスイッチ101〜109から入力する信号に基づいてECU100は、種々の制御プログラムを実行することにより、エンジン1の運転状態を制御する。例えばECU100は、インジェクタ19による燃料噴射制御(噴射量および噴射時期の制御)、イグナイタ21による点火制御(点火プラグ20のよる点火時期の制御)、およびスロットルモータ34によるスロットル開度の制御(即ち、吸気量の制御)などを実行する。
【0044】
そのような燃料噴射制御や点火制御は各気筒2毎に好適なタイミングで行われるものであり、そのために、クランクシャフト13の2回転(クランク角で720°)を1周期とするクランクカウンタが生成される。
図2に一例を示すようにクランクカウンタは、例えば第1気筒2の上死点(#1TDC)を基準として生成され、
図2の下段に示すように時刻t0にカム信号の入力に応じてリセットされて、カウント値が零(0)になった後に、クランク信号の入力に応じてカウントアップされてゆく。
【0045】
また、ECU100は、スタータSW108がオン操作されるとスタータモータ18を動作させ、クランクシャフト13を回転させる(クランキング)とともに、始動時の燃料噴射および点火の制御を実行して、エンジン1を始動(通常の始動)させる。さらに、以下に説明するようにECU100は、車両の停止時など所定の状況下において自動的にエンジン1を停止させるとともに、その後の運転者の所定操作に応じて、スタータモータ18を用いずにエンジン1を始動(以下、自立始動ともいう)させる、アイドリングストップ制御も実行する。
【0046】
−アイドリングストップ制御−
図3にはアイドリングストップ制御ルーチンの全体的な処理の流れを示している。このルーチンは、ECU100において所定のタイミングで繰り返し実行されるものであり、まず、ステップST101において、エンジン1の運転中に所定のアイドリングストップ条件が成立したか否か判定する。そして、否定判定(NO)であればリターンする一方、肯定判定(YES)になればステップST102に進んでエンジン1の自動停止処理を実行する。
【0047】
なお、前記アイドリングストップ条件としては、一例としてエンジン1が運転中であること、アクセルオフ(アクセル開度が所定閾値以下でほぼ0)であること、ブレーキオン(ブレーキ踏力が所定の閾値以上)であること、車速が所定閾値以下であること(停止直前と考えられる場合、および実質、停止していると考えられる場合)などを含むように設定すればよい。
【0048】
前記ステップST102の自動停止処理により、インジェクタ19からの燃料噴射と点火プラグ20による点火とを停止させると、前記の
図2に表れているようにクランクシャフト13の回転速度(クランク角速度であり、以下、クランク回転速度ともいう)が低下してゆく。なお、このときにスロットルバルブ33は例えばアイドリング相当、または、それよりも少し開くように制御されて、再始動のための吸気充填量の確保と振動の低減とが図られている。
【0049】
そして、ステップST103において、以下に詳述するようにクランクシャフト13の回転の停止が判定され、否定判定(NO)であれば後述のステップST108に進んで、所定の再始動条件が成立したか否か判定する。そして、ここでも否定判定(NO)すれば前記ステップST102に戻る一方、肯定判定(YES)すれば、
図4、5などを参照して後述するようにエンジン1の自立始動などの制御を行う。
【0050】
これに対し、前記のステップST103においてクランクシャフト13の回転が停止したと肯定判定(YES)すれば、ステップST104に進んで、ECU100は、所定のデータをバックアップRAMに記憶した後に、再始動条件が成立するまで待機する。すなわち、ステップST105においてエンジン1の再始動条件が成立したかどうか判定し、否定判定(NO)であればステップST106に進む。
【0051】
このステップST106では、例えば車両のイグニッションスイッチがオフされたなど、アイドリングストップ制御の終了条件が成立したか否か判定し、肯定判定(YES)であればルーチンを終了する(END)一方、否定判定(NO)すれば前記のステップST105に戻る。つまり、エンジン1の再始動条件が成立するか、或いはアイドリングストップ制御の終了条件が成立するまで待機する。
【0052】
こうして待機しているうちに、例えばブレーキペダルの踏力が緩められて、再始動条件が成立すれば、前記ステップST105において肯定判定(YES)してステップST107に進み、エンジン1の通常の再始動処理を実行する。なお、再始動条件としては前記のブレーキ操作以外にも、例えばアクセル踏み操作がなされたこと、シフトレバーの所定の操作がなされたこと、などを含むように設定すればよい。
【0053】
前記通常の再始動処理について詳細な説明は省略するが、例えばスタータモータ18を作動させてクランキングを開始するとともに、インジェクタ19による燃料の噴射を開始させ、さらに点火プラグ20による点火も開始する。これにより、いずれかの気筒2において燃焼が始まり(初爆)、エンジン回転数が所定値まで上昇すれば(始動完了)、ルーチンを終了する(END)。
【0054】
−エンジンの停止判定−
次に、前記フローのステップST103におけるクランクシャフト13の回転停止の判定について詳細に説明すると、まず、エンジン1が停止するときには、前記
図2の上段に表れているようにエンジン回転数が低下するが、このときには、同図の中段に示すようにクランク回転速度も全体として低下してゆく。また、クランク信号の入力する間隔が長くなってゆくことから、同図の下段に示すようにクランクカウンタのグラフの傾斜は徐々に緩やかになってゆく。
【0055】
このようにエンジン1の停止する過程においてクランクシャフト13の回転は、各気筒2毎の圧縮行程において上昇する筒内圧(ピストン12の受ける圧縮反力)によって減速され、図の中段に表れているように上死点(TDC)に近づくに連れて、クランク回転速度が低下する。一方、上死点を越えて膨張行程に移行すれば、今度は筒内圧によってクランクシャフト13の回転が加速されるので、その回転速度は上昇するようになる。
【0056】
すなわち、クランク回転速度は、各気筒2の上死点(#1TDC、#3TDC、#4TDC、…)の前後で低下および上昇を繰り返しながら、全体としては徐々に低下してゆく。これにより回転の勢いが弱くなってゆき、図示の例では時刻t1において第3気筒2の上死点(#3TDC)を越えた後に、時刻t3において第4気筒2の筒内圧に抗して上死点(#4TDC)を越えることができなくなる。
【0057】
このためクランクシャフト13は、前記第4気筒2の上死点の手前で一旦、停止した後に逆転動作し、その後、再び正回転の向きに少しだけ動作(再生点動作)する、という揺り戻しの期間を経て完全に停止するようになる。このとき、時刻t2の少し手前でクランクシャフト13が逆転動作した後は、クランク信号に応じてクランクカウンタが減少し、また、時刻t3において再び正回転の向きになれば、時刻t4においてクランクカウンタは増大する。
【0058】
そうして揺り戻し期間を経て停止するまでの間にクランクシャフト13の回動する角度が小さくなると、クランク角センサ101からはクランク信号が出力されなくなる。そして、時刻t4〜t5のようにクランク信号の入力しない時間が予め設定した時間Δtになると(時刻t5)、クランクシャフト13の回転が停止した(即ちエンジン1が完全に停止した)と判定される。
【0059】
−エンジンの自立始動−
次に、前記
図3のフローのステップST108において再始動条件が成立した場合(肯定判定)のエンジン1の自立始動について詳細に説明する。まず、前記のようにアイドリングストップ制御によってエンジン1が自動停止するのは通常、運転者が車両を停止させようとしているときであるが、これによりエンジン1が完全に停止する前に、運転者の心変わり(Change Of Mind:COM)によって再びエンジン1を始動させることがある。
【0060】
このときに運転者は、例えばブレーキペダルを離して、アクセルペダルを踏み込んだりするので、エンジン1の再始動条件が成立し(ステップST108でYES)、これに応じて吸気行程ないし圧縮行程にある気筒2への燃料噴射および点火が再開される。そして、これらの気筒2における混合気の燃焼によって、クランクシャフト13に回転力(燃焼トルク)を付与して、スタータモータ18を用いずにエンジン1を始動させることができる。
【0061】
すなわち、例えば
図2を参照して上述した時刻t0〜t1のように或る程度、エンジン回転数が高くて、クランクシャフト13の回転の勢いが強いとき、即ちクランクシャフト13やフライホイールなどの回転部分の運動エネルギが大きいときに、再始動条件が成立すれば、例えば圧縮行程にある気筒2のインジェクタ19に燃料を噴射させ、これにより混合気が形成されるのを待って、上死点近傍において点火プラグ20により点火すればよい。
【0062】
但し、前記の時刻t0〜t1の期間の終盤では、かなりエンジン回転数が低くなっているので、圧縮行程にある気筒2が上死点(
図2では第3気筒2の上死点:#3TDC)を越えるとは限らない。そこで、この第3気筒2が上死点(#3TDC)を越えて膨張行程に移行してから、インジェクタ19により燃料を噴射させ、これにより形成される混合気に点火する。こうすれば、より確実に正転の向きの燃焼トルクが得られ、エンジン1の始動が可能になる。
【0063】
一方、例えば時刻t1以降で再始動条件が成立した場合は、エンジン回転数が低くなり過ぎており、そのときに圧縮行程にある第4気筒2は上死点(#4TDC)を越えることができない。この場合、上述したようにクランクシャフト13は、上死点の手前で一旦、停止した後に逆転動作するので、圧縮行程にある第4気筒2では、一例を
図4の上段に破線のグラフで示すようにピストン12が上死点の手前で一旦、停止し(
図4の時刻t1)、その後、下降を始めるようになる。
【0064】
このときに膨張行程にある第3気筒2のピストン12は、同図に実線のグラフで示すように下死点(BDC)の手前で一旦、停止し、その後のクランクシャフト13の逆転動作によって上昇する。そこで、この逆転動作によってピストン12が上死点寄りの所定範囲A(例えばATDC0〜50°CAくらい)内に戻ってきて、筒内圧が十分に高くなったときに、第3気筒2のインジェクタ19を動作させて(
図4の時刻t2)、燃料を噴射させる。
【0065】
こうして噴射された燃料噴霧によって第3気筒2内で混合気が形成されるのを待って、即ち所定の点火ディレー時間が経過するまで待機してから、当該第3気筒2の点火プラグ20により混合気に点火して(
図4の時刻t3)燃焼させる。これにより、膨張行程にある第3気筒2の筒内圧、即ち圧縮反力に加えて、混合気の燃焼による圧力がピストン12に作用し、クランクシャフト13の回転力に変換されるようになる。
【0066】
つまり、クランクシャフト13の逆転動作によって膨張行程にある気筒2(以下、簡略に膨張行程気筒2ともいう)のピストン12が上死点に近づくほど、圧縮反力および燃焼トルクは大きくなるので、予め実験などによってクランク角位置と圧縮反力および燃焼トルクの大きさとの関係を調べて、始動に十分なトルクが得られるような所定範囲Aを設定しておく。そして、この所定範囲Aまで戻ったときに燃料を噴射させるのである。
【0067】
但し、前記のようにクランクシャフト13の逆転動作によって膨張行程気筒2ピストン12が上死点に近づき、一旦、停止する位置にはばらつきがある。これは主として、クランクシャフト13などが有する運動エネルギのばらつき、および、気筒2内の吸気充填量のばらつきによるものであり、また、エンジン1のフリクションのばらつきの影響もある。このため、前記のように燃料を噴射して混合気に点火しても、十分なトルクが得られず自立始動に失敗することがあった。
【0068】
すなわち、前記のように膨張行程気筒2内に燃料を噴射してから点火するまでには、混合気形成のための待ち時間(点火ディレー時間)が必要であり、さらに、点火された混合気が着火するまでの遅れもある。このため、
図4の下段に実線のグラフで示すように、ピストン12が所定範囲A内に戻ったときに燃料を噴射しても、その後の混合気の着火までの間にクランクシャフト13が再び正転動作することによって、所定範囲Aから出てしまうこともあるからである。
【0069】
こうようにして所定範囲A外で混合気が着火する場合に、前記のような理由で自立始動に失敗することがあり、この場合はスタータモータ18による始動(スタータ始動)に切り替えることになる。しかしながら、この場合には例えばクランクシャフト13の回転が完全に停止して、始動に失敗したと判定した上でスタータモータ18を動作させることになり、運転者が再始動にもたつきを感じるおそれがあった。
【0070】
そこで、本実施の形態では、前記のようにクランクシャフト13が逆転動作するときの膨張行程気筒2における筒内圧の上昇に着目し、この筒内圧が所定以上に高い状態で混合気が着火することになるか否か予測(判定)する。そして、筒内圧の高い状態で混合気が着火するのであれば、自立始動の制御を行う一方、そうでなければ自立始動は禁止して、速やかにスタータ始動に切り替えるようにしている。以下、
図5のフローチャートを参照して始動制御の手順を具体的に説明する。
【0071】
−自立始動ルーチン−
図5に示す始動制御ルーチンは、
図3のステップST108において再始動条件が成立したときに開始され、まず、ステップST201では、クランクシャフト13が逆転動作をする前の正回転中であるか否か判定する。これは、
図2を参照して上述したようにクランクカウンタの値、即ちクランク角センサ101から入力するクランク信号の変化によって判定すればよい。
【0072】
そして、否定判定(NO)すれば後述のステップST206に進む一方、肯定判定(YES)すればステップST202に進んで、今度は、エンジン回転数が所定の閾値以下になっていて、次の上死点を越えない可能性があるか否か判定する。この閾値は、クランクシャフト13など回転部分の運動エネルギ、および気筒2の筒内圧やフリクションなどを考慮して、次の上死点を越えるようなエンジン回転数を予め実験などによって設定すればよい。
【0073】
こうしてステップST202において否定判定(NO)すればステップST203へ進み、その後に上死点を迎える気筒2から順に燃料噴射および点火を再開して、ルーチンを終了する(エンド)。一方、エンジン回転数が閾値以下になっていて肯定判定(YES)すれば、次の上死点を越えない可能性があるので、ステップST204へ進んで圧縮行程にある気筒2が実際に上死点を越えたか否か判定し、否定判定(NO)すれば一旦、ルーチンを終了する(エンド)
その後、圧縮行程にある気筒2が上死点を越えて、ステップST204で肯定判定(YES)すればステップST205に進み、正回転時の自立始動のための燃料噴射および点火の制御を行う。すなわち、まず、そのように上死点を越えて膨張行程に移行した気筒(膨張行程気筒)2の吸気量を算出し、これに対して目標空燃比(理論空燃比よりもリッチにするのが好ましい)になるように、膨張行程気筒2のインジェクタ19によって燃料を噴射させる。
【0074】
その後、所定の点火ディレー時間(例えば数十ミリ秒くらい)が経過するのを待って点火プラグ20に通電し、混合気に点火することで、クランクシャフト13の回転(正回転)を助勢し、その後は上死点を迎える気筒2から順に燃料噴射および点火を再開して、ルーチンを終了する(エンド)。なお、前記の点火ディレー時間は、燃料噴霧が蒸発して混合気が形成されるまでの時間に相当し、予め実験などによって設定されている。
【0075】
一方、前記のステップST201で否定判定(NO)、即ちクランクシャフト13が逆転動作していると判定して進んだステップST206では、この逆転動作によって膨張行程気筒2が上死点寄りの所定範囲A(
図4を参照)内にまで戻ってきたか否か判定する。そして、所定範囲A内に戻っていると肯定判定(YES)すれば後述のステップST208に進む一方、戻っていないと否定判定(NO)すればステップST207に進む。
【0076】
すなわち、
図2を参照して上述したようにクランクシャフト13は、圧縮行程にある気筒2の筒内圧を受けて、上死点の手前で一旦、停止した後に逆転動作する。これにより、膨張行程気筒2においてピストン12が上死点に向かって上昇するので、このピストン12が上死点寄りの所定範囲A内に戻っているか否かは、クランク信号の変化によって判定することができる。
【0077】
詳しくは、エンジン1の停止直前の各気筒2の膨張行程におけるクランク角位置の変化を
図6に示すと、まず、クランクシャフト13が正回転中であれば、点火順に上死点(例えば#2TDC、#1TDC、#3TDC、…)を越えて膨張行程に移行した各気筒2のクランク角位置は、0°CA(上死点)から180°CA(下死点)まで変化する。そして、クランク回転速度の低下に伴い、クランク信号の入力する間隔が長くなってゆくと、クランク角位置の変化を表すグラフの傾きは徐々に緩やかになってゆく(〜時刻t1)。
【0078】
また、そうして各気筒2が上死点を越えるときにクランク回転速度は一旦、落ち込んでから上昇するようになるが、図には一点鎖線で示すように全体としては徐々に低下してゆき、クランクシャフト13などの運動エネルギが小さくなってゆく。そして、時刻t1で最後の上死点(
図6の例では#3TDC)を越えて、膨張行程に移行した気筒2(図の例では第4気筒2)では、下死点の手前でクランクシャフト13が一旦、停止し(時刻t2)、それから逆転動作を始めるようになる。
【0079】
このクランクシャフト13の逆転動作によって膨張行程気筒2(図の例では第4気筒2)では、ピストン12が上死点に向かって上昇するようになり、
図6においては膨張行程気筒2のクランク角位置が0°CAに向かって(図の下に向かって)変化する。このとき、図示のようにクランク角位置が所定範囲A外にあれば、前記のステップST206において否定判定(NO)して、ステップST207に進む。
【0080】
すなわち、膨張行程気筒2が所定範囲A内に戻ってきていないと判定したときには、逆転動作の前に再始動条件が成立していても、所定範囲A内に戻る(時刻t3)までの間は自立始動を行わず、待機することになる。そして、この間、ステップST207において自立始動を禁止する第1の条件が成立しているか否か判定する。この第1の条件として具体的には、以下の(1)〜(4)などが挙げられる。
【0081】
(1)逆転動作中のクランク回転速度の絶対値の最大値が所定値以下であること、
(2)逆転動作によって所定範囲A内に戻らないと推定されること、
(3)逆転動作の前の最後の上死点におけるクランク回転速度が所定回転速度以下であること、
(4)膨張行程気筒のIVC(吸気バルブ31の閉時期)における吸気圧が所定値以下 であること。
【0082】
以下、前記(1)〜(4)の条件についてそれぞれ説明すると、まず、前記のようにクランクシャフト13が逆転動作するときには、その開始から暫くの間(
図6の時刻t2〜)、圧縮行程にある気筒2のピストン12に作用する筒内圧によって、クランク回転速度の絶対値が大きくなる。そして、
図7に点Pとして示すように、クランク回転速度のピーク(絶対値の最大値)に達した後に、今度は膨張行程気筒2のピストン12が筒内圧を受けることによって、クランク回転速度の絶対値は小さくなってゆく。
【0083】
このように変化するクランク回転速度の絶対値は逆転動作の勢いを表しており、
図7では実線のグラフに表れているように、その最大値が所定値α以上(
図7では下側)であれば、ピストン12が膨張行程気筒2内の吸気を十分に圧縮できるので、筒内圧が所定以上に高くなると考えられる。一方、同図に破線のグラフで示すようにクランク回転速度の絶対値のピークが所定値α未満(
図7では上側)であれば、ピストン12が吸気を十分に圧縮できないと考えられる。
【0084】
言い換えると、クランクシャフト13の逆転動作によって膨張行程気筒2が所定範囲A内に戻ったときに燃料を噴射し、その後、混合気に点火して着火させる時点における筒内圧が所定圧以上になるように、予め実験などによってクランク回転速度の絶対値を求めておき、これを前記の所定値αとして設定する。そして、前記の条件(1)が成立すれば自立始動に失敗する可能性が高いので、これを禁止するのである。
【0085】
また、そのようにクランクシャフト13が逆転動作するときの膨張行程気筒2におけるクランク角位置およびクランク回転速度の変化に基づいて、図示はしないが、所定範囲A内に戻る前にクランクシャフト13の逆転動作が停止してしまい、所定範囲A内に戻れないことも、即ち前記の条件(2)についても判定することができる。そのためには、逆転動作中のクランク角位置およびクランク回転速度に関連して所定範囲A内に戻る条件を、予め実験などによって求めて設定しておけばよい。
【0086】
さらに、前記のように逆転動作を始めるときのクランク角位置にも、クランクシャフト13の動作(この場合は正転動作)の勢いが反映されるので、これに基づいて前記(1)(2)のような判定を行うことも可能である。すなわち、一例を
図8に実線のグラフで示すように、クランクシャフト13の逆転動作が下死点寄り(図の上寄り)の所定範囲B(例えばBBDC0〜50°CAくらい)内で始まれば(時刻t2)、その後の逆転動作によって筒内圧は十分に高くなると考えられる。
【0087】
これは、逆転動作の開始が前記の所定範囲B内にあるとすれば、圧縮行程にある気筒2がかなり上死点寄りにあることから、そのピストン12に作用する筒内圧(圧縮反力)がかなり大きくなって、これにより逆転動作するクランク回転速度の絶対値が大きくなるからである。このことから、クランク回転速度の絶対値のピークが前記の所定値α(前記の
図7を参照)以上になり、また、逆転動作の終了時点で所定範囲A内に戻ると判定することができる。
【0088】
一方、同図に破線のグラフで示すように逆転動作の開始が所定範囲B外である場合は、前記のように所定範囲B内にある場合と比べて、圧縮行程にある気筒2のピストン12が受ける筒内圧(圧縮反力)が小さくなる。よって、その分、逆転動作するクランク回転速度の絶対値が小さくなって、その絶対値のピークが所定値α未満になったり、所定範囲A内に戻らなかったりするからである。そのような所定範囲Bについても予め実験などによって設定しておけばよい。
【0089】
さらにまた、前記のようにクランクシャフト13の逆転動作の勢いが不足していることは、逆転動作に移行する直前に乗り越えた上死点(最後の上死点)におけるクランク回転速度やエンジン回転数から判定することもできる。
図6を参照して上述したように、最後の上死点を越えたとき(
図6では時刻t1)のクランク回転速度(および
図6などに一点鎖線で示すエンジン回転数)は、クランクシャフト13など回転部分の運動エネルギを表しているからである。
【0090】
よって、前記したように混合気が着火する時点の筒内圧が所定圧以上になるよう、予め実験などによって必要なクランク回転速度(またはエンジン回転数)を求めて、所定回転速度として設定しておく。そして、最後の上死点におけるクランク回転速度が所定回転速度以下であれば、即ち前記の条件(3)が成立すれば、自立始動に失敗する可能性が高いので、これを禁止するのである。
【0091】
加えて、そのように混合気が着火する時点の筒内圧が所定圧以上になるか否かは、吸気行程において気筒2内に充填される吸気の量によっても左右される。すなわち、一例として
図9に示すようにエンジン1が停止する過程では、クランク回転速度の低下に伴い、スロットルバルブ33よりも下流の吸気通路3における吸気圧が徐々に高く(吸気負圧が小さく)なってゆく。
【0092】
但し、エンジン1の自動停止のタイミングは種々、異なるので、前記のように徐々に高くなる吸気圧の値にはばらつきが生じており、この結果として膨張行程気筒2(図の例では第4気筒2)の吸気バルブ31が閉じるタイミング(IVC)における吸気圧がばらつくことから、これに応じて当該膨張行程気筒2内に充填される吸気の量にもばらつきが生じる。
【0093】
すなわち、
図9には実線のグラフで示すように、IVCの吸気圧が所定吸気圧βよりも高ければ、膨張行程気筒2への吸気の充填量が十分に多くなると考えられる。よって、前述したように逆転動作によって所定範囲A内に戻るとともに、その逆転動作中のクランク回転速度の絶対値が所定以上に大きくなれば、即ち前記の条件(1)(2)がいずれも成立しなければ、混合気の着火時点において筒内圧は所定圧以上になると判定できる。
【0094】
一方、同図に破線のグラフで示すようにIVCの吸気圧が所定吸気圧β以下であると、膨張行程気筒2への吸気の充填量が少なくなって、その分、筒内圧が低くなってしまう。よって、前記の条件(1)(2)がいずれも成立しないとしても、混合気の着火時点における筒内圧は所定圧未満になると考えられる。そこで、このような吸気圧を予め実験などによって調べて、前記所定吸気圧βとして設定しておき、前記の条件(4)について判定するのである。
【0095】
前記の条件(1)〜(4)の少なくとも1つが成立していれば、ステップST207において肯定判定(YES)して、後述のステップST209に進む一方、いずれの条件も成立していなければ、ステップST207において否定判定(NO)して一旦、ルーチンを終了する(エンド)。つまり、第1の禁止条件が成立していなければ、前記のステップST201,ST206,ST207の手順を繰り返しながら、自立始動を待機することになる。
【0096】
そうして自立始動の開始を待機している間に膨張行程気筒2のクランク角位置が所定範囲Aにまで戻ってくれば、前記のステップST206で肯定判定(YES)してステップST208に進み、今度は自立始動の第2の禁止条件について判定する。この第2の禁止条件は、膨張行程気筒2が十分に上死点寄りに戻っているにもかかわらず、自立始動を禁止する条件であり、具体的には以下の(5)〜(7)などが挙げられる。
【0097】
(5)クランクシャフト13が再正転動作を始めた後に再始動条件が成立したこと、
(6)クランクシャフト13の逆転動作中にクランク信号の入力しない期間が予め設定した時間以上になった後で、再始動条件が成立したこと、
(7)クランクシャフト13の動作が所定時間以上、停止した後に、再始動条件が成立したこと。
【0098】
以下、前記(5)〜(7)の条件についてそれぞれ説明する。まず、
図10に実線のグラフで示すように、膨張行程気筒2のクランク角位置(ピストン12の位置)は、クランクシャフト13の逆転動作(時刻t2〜t3)によって上死点側(図の下側)に変化した後に、時刻t3からはクランクシャフト13の再正転動作によって、再び下死点側(図の上側)に変化するようになる。
【0099】
このようにクランクシャフト13が再正転動作を始めると、膨張行程気筒2の筒内圧は低下してゆくので、その後に再始動条件が成立した場合は、燃料噴射および点火の時間を考慮して、混合気の着火時点における筒内圧が所定圧未満になると考えられる。よって、前記のようなクランクシャフト13の再正転動作をクランク信号によって判定し、その後に再始動条件が成立すれば、即ち前記の条件(5)が成立すれば、自立始動に失敗する可能性が高いので、これを禁止するのである。
【0100】
ところで、前記のようなクランク角位置の変化を検出するためのクランク信号は、クランク角センサ109の分解能に応じて所定クランク角Δθ(例えば5〜10°CA)毎に発生する。このため、前記のように逆転動作から再正転動作に切り替わるときには暫くの間、ECU100にクランク信号が入力しなくなるが、前記
図10の実線のグラフのようにクランク角位置の変化が速い場合は、クランク信号の入力しない期間が短いので、不具合は生じない。
【0101】
一方、クランクシャフト13の逆転動作がかなり遅くなっていて、
図10に破線のグラフで示すようにクランク角位置の変化が遅い場合には、クランク角位置の変化が前記所定クランク角Δθ未満で、クランク信号の入力しない期間が長くなってしまう(この期間の長さを
図10に符号Dとして示す)。このため、前記のようにクランクシャフト13の再正転動作をクランク信号によって判定しようとしても、この判定が遅れてしまうおそれがある。
【0102】
そこで、前記クランク信号の入力しない期間Dが予め設定した時間以上に長くなったときには、クランクシャフト13が一旦、停止した後に再正転動作に移行しつつあると推定する。そして、その後に再始動条件が成立した場合には、やはり自立始動に失敗する可能性が高いので、前記の条件(6)が成立すれば自立始動を禁止する。なお、前記の期間Dは、クランク信号の入力しない期間ではなく、クランク角位置の変化が所定幅未満である期間としてもよい。
【0103】
さらにまた、図示はしないが、前記のようにクランクシャフト13が逆転動作した後に、再正転動作をせずに動作が停止する場合があり、また、逆転動作もせずにクランクシャフト13の動作が停止する場合もある。こうしてクランクシャフト13の動作が停止した後、所定時間は膨張行程気筒2においてピストン12との隙間のオイルが保持され、筒内圧が維持されるが、その後はオイルが流下してしまい、速やかに筒内圧は低下する。
【0104】
つまり、クランクシャフト13の動作が停止してから所定時間以上、経過した後に再始動条件が成立した場合についても、その後の燃料噴射や点火の時間を考慮すれば、混合気の着火時点における筒内圧は所定圧未満になると考えられる。よって、前記の条件(7)のようにクランクシャフト13の動作が所定時間以上、停止した後に再始動条件が成立した場合も、自立始動を禁止するのである。
【0105】
前記の条件(5)〜(7)の少なくとも1つが成立していれば、ステップST208において肯定判定(YES)してステップST209に進み、スタータモータ18を動作させるとともに、圧縮行程にある気筒2への燃料噴射および点火を実行して、エンジンを始動させ(スタータ始動処理)、ルーチンを終了する(エンド)。つまり、前記第1および第2の少なくとも一方の禁止条件が成立しているときには、自立始動に失敗する前にスタータ始動に切り替えるのである。
【0106】
一方、(5)〜(7)のいずれの条件も成立しておらず、ステップST208において否定判定(NO)すれば、ステップST210に進んで、逆転時の自立始動の処理を行う。すなわち、ステップST205と同様に膨張行程気筒2の吸気量に対して目標空燃比になるように、インジェクタ19によって燃料を噴射させた後に、所定の点火ディレー時間が経過すれば点火プラグ20に通電し、混合気に点火する。これによりクランクシャフト13に回転力を付与した後は、上死点を迎える気筒2から順に燃料噴射および点火を再開して、ルーチンを終了する(エンド)。
【0107】
前記
図5のフローのステップST210を実行することによってECU100は、クランクシャフト13が逆転動作した後に、気筒2内へインジェクタ19によって燃料を噴射させるとともに、その後、点火プラグ20によって混合気に点火させて、スタータモータ18を用いずにエンジン1を始動させる自立始動制御手段を構成する。この自立始動制御手段は、逆転動作によって膨張行程気筒2のクランク角位置が上死点近傍の所定範囲A内に戻るまでは(ステップST206でNO)、自立始動の開始を待機する。
【0108】
また、ECU100は、同ステップST207,ST208を実行することによって、逆転動作によって上昇する筒内圧が混合気の着火時点で所定圧以上になるか否か判定する判定手段を構成し、これらステップST207,ST208からステップST209へ進むことによって、筒内圧が所定圧以上でないと判定された場合にエンジンの自立始動を禁止する禁止手段を構成する。
【0109】
さらに、前記のステップST209を実行することによってECU100は、前記のように禁止手段によってエンジン1の自立始動が禁止された場合に、スタータモータ18を動作させるとともに、吸気行程や圧縮行程にある気筒2への燃料噴射および点火を実行して、エンジン1を始動させるスタータ始動制御手段を構成する。
【0110】
以上、説明したように本実施の形態では、まず、アイドリングストップ制御によってエンジン1を自動停止させる過程で再始動条件が成立したとき、このときに圧縮行程にある気筒2が上死点を越えて膨張行程に移行すれば、当該気筒2への燃料噴射および点火によってクランクシャフト13に燃焼トルクを付与し、エンジン1をスムーズに自立始動させることができる。
【0111】
すなわち、仮に圧縮行程にある気筒2に燃料を噴射してしまうと、この気筒2の上死点を越えられずにクランクシャフト13が逆転動作した場合に、混合気の燃焼によって逆転の向きの燃焼トルクが発生するおそれがあるが、前記のように気筒2が膨張行程に移行してから燃料噴射を行うようにすれば、確実に正転の向きの燃焼トルクが得られるからである。
【0112】
一方、前記圧縮行程にある気筒2が上死点を越えられずに、クランクシャフト13が逆転動作した場合、或いは、クランクシャフト13が逆転動作を始めた後に再始動条件が成立した場合は、その逆転動作によってピストン12が上死点側に移動する膨張行程気筒2に燃料噴射および点火を行って、クランクシャフト13に正転の向きの燃焼トルクを付与するようにしている。
【0113】
この際、クランクシャフト13の逆転動作による膨張行程気筒2の筒内圧の上昇に着目し、筒内圧が所定圧以上に高い状態で混合気が着火すると判定すれば、エンジン1を自立始動させる一方、混合気の着火時点において筒内圧が所定圧未満であると判定すれば、自立始動を禁止するようにしている。これにより、自立始動に失敗する前にスタータ始動に切り替えることができ、運転者がもたつきを感じることを抑制できる。
【0114】
−他の実施の形態−
以上、説明した実施の形態は例示に過ぎず、本発明の構成や用途などについて限定するものではない。例えば前記実施の形態では、エンジン1の停止直前にクランクシャフト13が逆転動作しているときなどに、膨張行程気筒2のクランク角位置やクランク回転速度の変化、さらには逆転動作の前の吸気圧などに基づいて、混合気の着火時点の筒内圧が所定圧以上になるか否か、即ち第1および第2の禁止条件の成立について判定するようにしているが、その第1および第2の禁止条件は上述した条件(1)〜(7)には限定されない。
【0115】
すなわち、例えば前記第1の条件として前記の条件(1)〜(4)のうちの任意の1つ、2つまたは3つの条件を選択し、これらの少なくとも1つが成立していれば第1の禁止条件が成立しているとする一方、いずれの条件も成立していなければ、第1の禁止条件が成立していないとしてもよい。また、条件(1)〜(4)のうちの任意の2つまたは3つ以上が成立していれば、第1の禁止条件が成立しているとしてもよい。
【0116】
同様に前記第2の条件としても前記の条件(5)〜(7)のうちの任意の1つまたは2つの条件を選択し、これらの少なくとも1つが成立していれば第2の禁止条件が成立しているとする一方、いずれの条件も成立していなければ、第2の禁止条件が成立していないとしてもよい。また、条件(5)〜(7)のうちの任意の2つ以上が成立していれば、第2の禁止条件が成立しているとしてもよい。
【0117】
さらに、前記のように膨張行程気筒2のクランク角位置やクランク回転速度の変化などに基づいて、混合気の着火時点の筒内圧が所定圧以上になるか否か判定(予測)する必要もない。すなわち、例えば少なくとも1つの気筒2の筒内圧を計測するように筒内圧センサを配設し、その出力信号に基づいて混合気の着火時点での筒内圧を推定して、この筒内圧が所定圧以上であるか否か判定するようにしてもよい。
【0118】
また、前記実施の形態ではアイドリングストップ条件として、車速が所定閾値以下であること(停止直前と考えられる場合、および実質、停止していると考えられる場合)などを含むように設定しているが、これにも限定されず、車両の走行中にエンジン1を自動で停止させ、再始動する場合(いわゆるフリーラン制御など)にも、本発明を適用することができる。
【0119】
また、前記実施の形態では、車両に搭載された筒内噴射式の4気筒ガソリンエンジン1に本発明を適用した場合について説明しており、インジェクタとしては筒内噴射用のインジェクタ19のみであるが、これにも限定されない。エンジンは例えば3気筒、5気筒、6気筒、8気筒などであってもよいし、筒内噴射用のインジェクタ19以外にポート噴射用のインジェクタも備えていてもよい。さらにガソリンエンジンにも限定されず、例えば筒内噴射式のアルコールエンジンやガスエンジンなどであってもよい。