【実施例1】
【0009】
図1は実施例1の3つのジョウ4を有するチャック100を示しており、
図1Aは斜視図であり、
図1Bは断面図である。チャック100は、ボディ1の前方(図中右方向)の面に半径方向に移動する3つのジョウ4を備えている。また、ボディ1の前方の面には、治具5が取り付けられており、治具5の中央はワークを当接される密着着座5aとなっている。ボディ1は、リヤボディ2と円筒状の移動ボディ3とからなっている。リヤボディ2は、工作機械のスピンドルにより、チャック100の回転軸Cを軸心として回転する。移動ボディ3はリヤボディ2に対して回転軸Cの軸方向(以下、Z方向と称する)へ移動可能なようになっている。
【0010】
ボディ1内でZ方向に移動するプランジャ8が挿入され、移動ボディ3には半径方向に設けられたスロット3aを摺動するマスタジョウ6が設けられ、プランジャ8とマスタジョウ6が楔作用をなすべく係合されている。リヤボディ2と移動ボディ3の間には板バネ11が設けられている。両者の固定についての詳細は、後述する。板バネ11を挟んで、ジョウ4の数と同じ全部で3つのフェイスブロック7がボルト13(第1のボルト)によりリヤボディ2に締結されている。フェイスブロック7は、移動ボディ3を貫通してジョウ4に挟まれた位置に突出している。その突出した表面はZ方向に垂直な機械工作上の基準となる基準面7aである。基準面7aには、治具5を取り付けるための、ボルト孔7bを複数個設けられている。治具5は、ボルト14により、フェイスブロック7の基準面7aに固定される。
【0011】
図2は、リヤボディ2と板バネ11の斜視図である。リヤボディ2はリング状であり、等角度間隔を開けて板バネ11を取り付ける座面2a(第1の座面)を有している。座面2aには、大小の貫通孔2c、2dが穿孔されている。貫通孔2dは、座面2aにフェイスブロック7を固定するために用いられる。隣合う座面2aの間の盆地部2eは、後方(図中左方向)に向かって窪んでおり、盆地部2eの上を橋渡し状に跨いで隣合う座面2aに渡された板バネ11の変形を許容する空間を移動ボディ3との間で形成している。盆地部2eの中央には、溝2bが設けられている。溝2bには、その長さ方向に、螺子棒21が設置されている。螺子棒21は、途中で螺子の方向が変わっており、一方側は右螺子、他方側は左螺子になっている。また、リヤボディ2の外周側Pから、回転させることが可能である。螺子棒21の両側には摺動子22が螺合されており、螺子棒21を回転されることにより、互いに接近、或いは離間する。チャック100は、溝2bの位置はジョウ4の後方であり、座面2aの位置はフェイスブロック7の後方となっている。
【0012】
板バネ11は、リング形状を有している。大小1つずつ貫通孔11c、11dが半径方向に並んだ状態で、等角度間隔にされている。また、その間に1つの貫通孔11aが等角度間隔にされている。貫通孔11c、11dは、貫通孔2c、2dに対応するものである。貫通孔11aは、移動ボディ3を板バネ11に固定するために使用される。
【0013】
図3は、プランジャ8とマスタジョウ6及びジョウ4を示しており、
図3Aが斜視図、
図3Bがマスタジョウ6の断面図である。プランジャ8とマスタジョウ6は、プランジャ8の3ヶ所のウエッジ部8aに対して3個のマスタジョウ6の楔部材6aが1つずつ係合する。ウエッジ部8aは、逆T字形の溝の形状をしており、後方(図中左方向)に行くほど回転軸Cの軸心から離れるように傾斜している。マスタジョウ6の楔部材6aは、ウエッジ部8aに入り込んで摺動する。一方で、マスタジョウ6の両脇のジョウキャリア6bは、移動ボディ3の半径方向に設けられたスロット3aを摺動する。移動ボディ3に対して相対的にプランジャ8を後方に引き込むと楔作用により、マスタジョウ6は移動ボディ3により動きを規制され、スロット3aによりガイドされて半径方向に移動する。ジョウ4は、マスタジョウ6に1対1に固定されワークを把持する。
【0014】
マスタジョウ6の背面には、非貫通孔6cが穿孔されている。バネ10がコンテナ9に収容され、非貫通孔6cの中に納められている。バネ10は、スロット3aの中で、マスタジョウ6を前方(図中右方向)に押す付勢力を発揮し、マスタジョウ6の両脇のジョウキャリア6bがスロット3aの前方側の壁面に押しつけられる。静止状態にあるチャック100の回転角度位置により、各マスタジョウ6に働く重力が相違する。一方で、マスタジョウ6とスロット3aの摺動隙間がある。バネ10が無い状態では、各マスタジョウ6はチャック中心に対して互いに向きが異なる重力を受けて摺動隙間内で夫々が重力の方向に倒れる。バネ10は、ジョウ4がワークを維持する前の段階で、マスタジョウ6をスロット3aに押しつけることにより、倒れが生じないようにしている。
【0015】
図4は、移動ボディ3と、マスタジョウ6と、ジョウ4と、フェイスブロック7及び治具5を示しており、
図4Aは斜視図である。また、
図4Bは移動ボディ3の背面図である。移動ボディ3に等角度間隔にジョウ4の数と同じ全部で3つの貫通孔3cが設けられており、貫通孔3cの前方(
図4Aにおいて右方向)側の壁面3dは、フェイスブロック7の外周面7cとの間で微小隙間が開けられて、移動ボディ3をZ方向に摺動可能とする摺動面になっている。フェイスブロック7の基準面7aには、治具5を取り付けるための、ボルト孔7bが設けられている。また、中央の貫通孔7dは、図示しない工作機械のスピンドルに対して直接的にあるいは、スピンドルに固定されたバックプレートに対してフェイスブロック7を固定するボルト13を収容する。Y字状の治具5は、等角度間隔の3つの腕5bと、中央に密着着座5aを有している。腕5bには、貫通孔5cが複数設けられており、ボルト14によりフェイスブロック7の基準面7aに固定される。
【0016】
移動ボディ3の背面には、等角度間隔にジョウ4の数と同じ全部で3つの座面3b(第2の座面)が設けられている(
図4Aでは一部断面として1つのみ示した)。座面3bは、マスタジョウ6の背後であり、リヤボディ2の座面2aの個数と同じく3箇所に設けられる(3個はマスタジョウ6の個数でもある)。座面3bは、同周上の他の箇所3fに比べて、後方側(
図4Aにおいて左方向)に突出している。座面3b以外の箇所で平面状の板バネ11が干渉しないようにするためである。座面3bには、板バネ11の貫通孔11aを介してボルト16(第2のボルト)が締結される孔3eが設けられている。
【0017】
図1及び
図2を参照すると、板バネ11は貫通孔11aの位置で、当該貫通孔11aにボルト16が挿入され、移動ボディ3の座面3bに対してボルト16により締結されている。板バネ11は、貫通孔11aの両脇隣にある貫通孔11c、11dの位置で、貫通孔11dにはボルト12が挿入され、若しくは貫通孔11cにはボルト13が挿入され、図示しない工作機械のスピンドル或いはリヤボディ2の座面2aに対してボルト12若しくはボルト13により締結されている。さらに、フェイスブロック7が座面2aに対してボルト13により締結されている。フェイスブロック7は、途中に揺動するような箇所が無く、剛構造により工作機械のスピンドルに接続されているため、精度の高い基準面7aを治具5に対して提供できる。
【0018】
そして、板バネ11はリング状であるので(
図2参照)、リヤボディ2、移動ボディ3、リヤボディ2、移動ボディ3の順番に、円周方向に一周する円周上で互い違いに固定するようになっている。このように、間隔を開けて設けられた座面2aの間を板バネ11が橋渡し状に配置され、其々の座面2aに対してボルト13により板バネ11が締結される。隣り合う座面2aの間で板バネ11が、移動ボディ3の座面3bに対してボルト16により締結される。
【0019】
チャック100は、3つのジョウ4を備えているが、移動ボディ3側の板バネ11の固定箇所は、ジョウ4の数と同じ3箇所で良いことになり、かつ板バネ11の強度を高めることが出来る。例えば、2つのジョウ4を備えるチャックであれば、板バネ11の固定箇所は2箇所で有り、4つのジョウ4を備えるチャックであれば、板バネ11の締結箇所は4箇所で有る。
【0020】
図1を参照して固定状態を説明すると、まず、リヤボディ2はスピンドル或いはバックプレートに対して、ボルト13により(フェイスブロック7を挟んで)締結されている。板バネ11はリヤボディ2とフェイスブロック7に挟まれてボルト12により締結されている。移動ボディ3は板バネ11にボルト16により締結されている。よって、移動ボディ3はスピンドルに対して間接的に固定されている。板バネ11は、各ボルト13、12、16によって締結された状態であるので回転軸Cの廻りに剛性が高く、Z方向にのみ弾性変形してリヤボディ2に対して相対的に移動ボディ3の揺動を許容する。
【0021】
次に、チャック100の動作の説明を行う。
ワークを把持する際には、まずワークを密着着座5aに当接する。シリンダ17を駆動させてプランジャ8をZ方向後方へ移動させる。プランジャ8には、マスタジョウ6がウエッジ部8aを介して接続されており、プランジャ8のZ方向後方移動は、マスタジョウ6に加えられる。
【0022】
プランジャ8のZ方向後方移動がさらに進むと、ウエッジ部8aの楔作用によって、マスタジョウ6が回転軸Cの軸心に向かって半径方向に移動してワークに接触する。板バネ11の弾性により、ワークは緩く把持されているが、板バネ11は、回転軸Cの廻りについては、剛性が高くZ方向にのみ移動ボディ3の揺動を許容するものであるため、把握精度は高い状態で維持されている。
【0023】
板バネ11はさらに変位されるが、曲げ変形はZ方向のみである。密着着座5aに対して当接したワークはジョウ4により、密着着座5aに押しつけられ、板バネ11の弾性により、ワークに仮に傾きがあったとしても密着着座5aに対して密着する。そして、さらにジョウ4の把握力を高めて最終的に把持する。この際、プランジャ8を後方に移動しようとシリンダ17の推力Fをさらにかけると、マスタジョウ6がプランジャ8により引き込まれ移動ボディ3の座面3bはZ方向に変位する。これにより板バネ11に曲げがかかるが、板バネ11は薄いので軸方向には剛性が低く撓みやすい。しかし、回転軸Cの回転方向や半径方向では薄さは影響せず変位しにくい。よって、軸方向は変位するにもかかわらずその他の方向は剛性高く固定されている。
【0024】
図5は、ワークを当接した後、さらにプランジャ8をZ方向後方へ移動させて、ワークを最終的に把握させたときの状態を示しており、
図5Aはチャック100を正面から見た図(ワークWは断面としてある)、
図5B、
図5Cは、移動ボディ3とフェイスブロック7の一部断面を示している。尚、
図5B、
図5Cにおいては、移動ボディ3とフェイスブロック7との間に設けられた極小隙間sを極端に大きく描いて、移動ボディ3とフェイスブロック7の働きを理解しやすくしている。フェイスブロック7は、移動ボディ3の表面側に設けられた貫通孔3cの壁面3dを摺動する。この摺動は、移動ボディ3を軸方向に動作可能とする一方で他の向きに移動することを規制する。移動ボディ3の壁面3dとフェイスブロック7の外周面7cとの間の極小隙間sに関しては、ジョウ4がワークを把握すると移動ボディ3のスロット3aにマスタジョウ6からモーメント荷重がかかり、移動ボディ3の貫通穴3cが半径方向外方に弾性変形することによりフェイスブロック7と接触する(
図5A)。周囲3か所のフェイスブロック7で接触が起こり、移動ボディはフェイスブロック7に固定される。また、
図1に示したように、3か所のフェイスブロック7の基準面7aに対して、3つの腕5bを持つ治具5を固定することにより、フェイスブロック7の剛性がより向上する作用も期待できる。
また、実施例では、ウエッジ部8aの楔作用によって、マスタジョウ6を移動させるチャックを示したが、他の態様でマスタジョウを移動させるチャックにも適用できる。例えば、特開平6−277910号に示されるようなレバー式チャックに対しても適用可能である。
また、マスタジョウ6が直接プランジャ8と係合せず、プランジャ8との間に他の部材、例えば、クサビ形状の増力機構などを介してマスタジョウ6を駆動させるタイプのチャックに対しても同様に適用可能である。
【実施例2】
【0025】
実施例1の説明においては、摺動子22は実施例の説明として必須ではないので、摺動子22と板バネ11の関係を説明しなかった。実施例2として、摺動子22により板バネ11のバネ定数を任意に変化させて利用する例を説明する。
【0026】
図6は、
図1におけるX−X断面を示すものである。X−X断面は、溝2bに沿って切断して、リヤボディ2の外周側から見た図である。
図6Aは摺動子22を2つ設けた場合、
図6Bは摺動子22を1つ設けた場合の例を示している。
【0027】
図6Aにおいて、溝2bには、その長さ方向に、螺子棒21が設置されている。螺子棒21は、途中で螺子の方向が変わっており、一方側は右螺子、他方側は左螺子になっている。螺子棒21の両側には摺動子22が螺合されており、右螺子の螺子棒21には右螺子の摺動子22が、左螺子の螺子棒21には左螺子の摺動子22が夫々螺合されている。螺子棒21を回転させることにより、摺動子22は、互いに接近、或いは離間する。
【0028】
板バネ11は、隣合う座面2aの間で、1つの座面3bからの荷重を支えている。シリンダ17の推力Fにより、移動ボディ3をZ方向に移動させる力が加わると、板バネ11は、盆地部2eの空間内に変形する。板バネ11がZ方向に変位すると、板バネ11は摺動子22に接触する。板バネ11と摺動子22との間は、無負荷状態時は0.01〜0.2mm程度の隙間が設けてある。螺子棒21を回転させることにより、摺動子22を互いに接近、或いは離間することで板バネ11が摺動子22に接触した際のバネ定数を任意に変化させることが出来る。尚、摺動子22の背面側はリヤボディ2に接触して、板バネ11からの圧縮力をリヤボディ2に移すようにしている。
【0029】
図7は、板バネ11の状態の変位を模式的に示している。
図7Aは無負荷の状態、
図7Bは板バネ11に摺動子22が接触していない状態、
図7Cは板バネ11に摺動子22が接触した状態である。使い方の一例を示すと、まずワークを密着着座5aに当接させる際に、
図7Bに示される状態を利用する。板バネ11は、座面2aと座面2aの間の距離の全長を使って抗力を発揮する。ジョウ4がさらに把持力を強めると、隣り合う座面2aの間を橋渡し状に配置された板バネ11が変形する過程で、板バネ11は摺動子22に接触する。摺動子22は、その背面をリヤボディ2がバックアップしているため、板バネ11が変形する長さが短く変更される。摺動子22と摺動子22の間の短く変更された距離を使って抗力を発揮する。
【0030】
バネ定数を小さくすると同じシリンダ17の推力においても移動ボディ3がZ方向に移動する距離が大きくなる。そうするとジョウ4がワークを密着着座5aに押付ける力は大きくなる。バネ定数を大きくすると押付力は小さくなる。押付力を大きくするとワークをしっかり固定できる。押付力を小さくするとワーク歪を抑制できる。ワークの加工に応じて調整する。
【0031】
図6に戻り、
図6Bにおいて、螺子棒21は
図6Aの半分程度の長さで有り、途中で螺子の方向が変わることもなく、1つの螺子棒21が螺合されている。螺子棒21を回転されることにより、摺動子22は、座面3bに対して接近、或いは離間する。
【0032】
螺子棒21を回転させることにより、摺動子22が座面3bに対して接近、或いは離間するため、摺動子22と座面2aとの間にある板バネ11の長さが変化する。この結果、
図7において示した原理に準拠して、板バネ11が摺動子22に接触した際のバネ定数を任意に変化させることが可能であり、かつ摺動子22の位置により、押付力の調整が可能である。
【実施例3】
【0033】
図8に実施例3のチャック300を示す。実施例1、2と同じ構成については、同一の引用符号が付されている。実施例2においては、螺子棒21をリヤボディ2の外周面から回転させることにより、摺動子22の位置を変更して板バネ11のバネ定数を変化させた。実施例3では、移動ボディ3の前面側(
図8Aの右側)から調整子51を操作することにより、摺動子51bの位置を変更してバネ定数を変化させる。
【0034】
図8Aにおいて、移動ボディ3の前面側に等角度間隔に設けられた複数(実施例では3つ)のメンテナンス孔56が設けられている。メンテナンス孔56は、通常は封止ボルト52が調整子51の雌ネジ孔51dへ螺合されており、封止されている状態である。
図8Bにおいて、メンテナンス孔56から、封止ボルト52を取り出すと、調整子51の操作端51aが現れる。封止ボルト52は、切削粉の侵入を防ぐものである。操作端51aは六角レンチ55を受ける雌溝であり、移動ボディ3と板バネ11の間に存在する調整子51を回転操作することができる。雌ネジ孔51dは、操作端51aの奥側に設けられている。調整子51は、移動ボディ3を貫通して板バネ11に正対している。調整子51は、
図8Dに示すように、板バネ11に正対する側に摺動子51bを有しており、板バネ11が変形する過程で摺動子51bが板バネ11に接触する。移動ボディ3側には、摺動子51bが揺動するためのリセス53aが設けられている。調整子51を回転操作すると、摺動子51bが板バネ11に接触する位置が変わり、板バネ11のバネ定数を変化させることができる。尚、摺動子51bの背面側は移動ボディ3に接触して、板バネ11からの押付力を移動ボディ3に移すようにしている。
【0035】
調整子51の回転角度が離散的に変更しやすいように、リセス53a側には等角度間隔にラッチングノッチ53bが設けられ、調整子51にはラッチングノッチ53bに対して弾性的に進退する爪51cが設けられている。
そして、六角レンチ55を用いて調整子51の回転角度を調整した後に、封止ボルト52を締め付けることで、調整子51の固定を行うことができる。
また、前述の実施例では、封止ボルト52を締め付けることで調整子51の固定をおこなっているが、調整子51を固定する他の実施例として、移動ボディ3の側面から調整子51の側面に到る雌ネジ孔を設け、当該雌ネジ孔にボルトを螺入することにより固定しても良い。
【0036】
実施例3によれば、殆どの工作機械において露出することが多い移動ボディ3の前面側から、摺動子51bの位置を変更して板バネ11のバネ定数を変化させることができるという効果がある。また、実施例2のようにリヤボディ2に螺子棒21と摺動子22を設けるよりも、部品点数が少なくでき、コストを下げることができると言う効果もある。