(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エレクトロクロミック層が、前記エレクトロクロミック層と前記対向電極層との間の界面領域に超化学量論的酸素の形態の前記エレクトロクロミック材料を有する、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイス前駆体。
前記対向電極層が、前記エレクトロクロミック層と前記対向電極層との間の界面領域に超化学量論的酸素の形態の前記対向電極材料を有する、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイス前駆体。
前記エレクトロクロミック材料が、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびチタンにおける1つ以上でドープされた酸化タングステンを有する、請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイス前駆体。
前記エレクトロクロミック材料は、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびチタンにおける1つ以上でドープされた酸化タングステンを有する、請求項6に記載のエレクトロクロミックデバイス前駆体。
前記エレクトロクロミック層は、300〜600nmの厚さであり、前記対向電極層は、150〜300nmの厚さである、請求項7に記載のエレクトロクロミックデバイス前駆体。
前記コントローラが、超化学量論的形態の前記エレクトロクロミック材料を成膜する様式で前記第1の成膜ステーションに前記基板を通過させるためのプログラム命令を含み、
前記超化学量論的形態の前記エレクトロクロミック材料が、前記エレクトロクロミックデバイス前駆体において前記対向電極層と共に界面領域にある、請求項9に記載の装置。
前記エレクトロクロミック材料が、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびチタンにおける1つ以上でドープされた酸化タングステンを有する、請求項13に記載の装置。
前記コントローラは、前記エレクトロクロミック層を300〜600nmの厚さに成膜し、かつ、前記対向電極層を150〜300nmの厚さで成膜するための命令を有する、請求項14に記載の装置。
前記エレクトロクロミック層が、前記エレクトロクロミック層と前記対向電極層との間の界面領域に超化学量論的酸素の形態の前記エレクトロクロミック材料を有する、請求項16から19の何れか1項に記載のエレクトロクロミックデバイスの製造方法。
前記対向電極層が、前記エレクトロクロミック層と前記対向電極層との間の界面領域に超化学量論的酸素の形態の前記対向電極材料を有する、請求項16から19の何れか1項に記載のエレクトロクロミックデバイスの製造方法。
前記エレクトロクロミック材料が、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびチタンにおける1つ以上でドープされた酸化タングステンを有する、請求項16から19の何れか1項に記載のエレクトロクロミックデバイスの製造方法。
前記対向電極材料が、タンタルでドープされたニッケルタングステン酸化物を有する、請求項16から19の何れか1項に記載のエレクトロクロミックデバイスの製造方法。
前記エレクトロクロミック材料が、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびチタンにおける1つ以上でドープされた酸化タングステンを有する、請求項24に記載のエレクトロクロミックデバイスの製造方法。
前記エレクトロクロミック層が、300〜600nmの厚さであり、前記対向電極層が、150〜300nmの厚さである、請求項25に記載のエレクトロクロミックデバイスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1Aは、従来のエレクトロクロミックデバイス積層体100を表す、概略断面図である。エレクトロクロミックデバイス100は、基材102と、導電層(CL)104と、エレクトロクロミック(EC)層106と、イオン伝導(IC)層108と、対向電極(CE)層110と、導電層(CL)112をと含む。要素104、106、108、110、および112は、集合的に、エレクトロクロミック積層体114と称する。典型的に、CL層は、透明導電性酸化物で作製され、一般的に、「TCO」層と称される。TCO層は、透明であるので、EC−IC−CE積層体の着色挙動は、TCO層を通して観察可能であり、例えば、可逆的な遮光のためにそのようなデバイスを窓に使用できるようにする。電圧源116は、エレクトロクロミック積層体114全体にわたって電位を印加するように動作可能であり、消色された状態(すなわち、透明)から着色状態へのエレクトロクロミックデバイスの遷移を生じさせる。層の順序は、基材に対して逆にされてもよい。すなわち、層は、基材、透明導電層、対向電極層、イオン伝導層、エレクトロクロミック材料層、および(もう一方の)透明導電層といった順序とすることができる。
【0021】
再度
図1Aを参照すると、エレクトロクロミック積層体を製作する従来の方法では、個々の層は、
図1Aの左側に概略的に描写されるような逐次的な形式で1層ずつ重ねて成膜する。すなわち、TCO層104を基材102上に成膜する。次いで、EC層106をTCO104上に成膜する。次いで、IC層108をEC層106上に成膜し、続いて、CE層110をIC層108上に成膜し、最後に、TCO層112をCE層110上に成膜して、エレクトロクロミックデバイス100を形成する。当然、ステップの順序を逆転させて、「逆にした」積層体を作製することができるが、従来の方法では、必然的にIC層をEC層上に成膜し、続いて、CE層をIC層上に成膜するか、またはIC層をCE層上に成膜し、次いで、EC層をIC層上に成膜することが要点である。積層体の材料層間の遷移は、急激である。
【0022】
前述した手順に関する1つの注目すべき課題は、IC層を形成するために必要な処理である。いくつかの以前の手法では、IC層は、ゾルゲルプロセスによって形成されるが、これは、EC層およびCE層を形成するために用いられるCVDまたはPVDプロセスへの統合が困難である。さらに、IC層は、ゾルゲルによって生成され、他の液体に基づくプロセスは、デバイスの品質を低下させ、例えばスクライビングによって除去する必要があり得る、欠陥を起こし易い。他の手法では、IC層を、PVDによってセラミックターゲットから成膜するが、これは、製作および使用が困難になり得る。
【0023】
図1Bは、
図1Aのエレクトロクロミック積層体、すなわち、層106(EC層)、層108(IC層)、および層110(CE層)の位置に対する材料の成分パーセントを表すグラフである。前述したように、従来のエレクトロクロミック積層体において、積層体の材料層間の遷移は、急激である。例えば、EC材料106は、異なる層として成膜され、隣接するIC層の上への組成的な滲みをほとんどまたは全く伴わない。同様に、IC材料108およびCE材料110は、組成的に異なり、隣接する層の上への滲みをほとんどまたは全く伴わない。したがって、材料は、急激な界面を伴って実質的に均一である(下記で説明されるCE材料の一定の組成を除く)。従来の発想は、3つの層のそれぞれが、異なる均一に成膜された滑らかな層として構築されて、積層体を形成すべきであるというものであった。各層間の界面は、界面において各層からの材料の混合がほとんどない、「清浄」な状態でなければならない。
【0024】
当業者は、
図1Bは、理想的な描写であり、実際には、層の界面ではある程度の材料の混合が不可避であることを認識するであろう。要するに、従来の製作方法において、そのような混合は、予期しないものであり、わずかなものである。発明者らは、界面領域が意図的にかなりの量の1つ以上のエレクトロクロミックおよび/または対向電極材料を含む、IC層としての役割を果たす界面領域を形成することができることを見出した。これは、従来の製作方法からの根本的な脱却である。
【0025】
前述したように、発明者らは、EC−IC−CE積層体の形成を、従来の手順で、すなわち、EC→IC→CEまたはCE→IC→ECで行う必要がなく、むしろ、エレクトロクロミック層および対向電極層の成膜後に、イオン伝導層としての役割を果たす界面領域を形成できることを発見した。すなわち、EC−CE(またはCE−EC)積層体が最初に形成され、次いで、これらの層の界面で層の一方または双方の成分(および/または、いくつかの実施形態では、別のエレクトロクロミック材料または対向電極材料)を使用して、IC層の少なくとも一部の機能を保有し得る界面領域がEC層とCE層との間に形成される。いくつかの実施形態では、上層を含んでもよい超化学量論的部分を含んで、ECまたはCEが形成され、次いで、リチウムに曝露され、加熱されて、イオン伝導性で実質的に電子絶縁性の領域が形成され、続いて、ECおよびCEのうちの他方が形成される。よって、イオン伝導性で実質的に電子絶縁性の領域は、ECとCEとの間の界面領域としての役割を果たす。他の実施形態において、超化学量論的部分または上層を含んで、ECまたはCEが形成され、次いで、例えば、リチウムのスパッタリングを介して、リチウムに曝露される。次いで、ECおよびCEのうちの他方がその上に形成される。第2の電極の形成は、形成された第1の電極から第2の電極に向かってリチウムフラックスを駆動する。次に、このリチウムのフラックスは、EC層とCE層との間のイオン伝導性で実質的に電子絶縁性の界面領域の形成を駆動する。界面領域は、実質的にイオン伝導性で、かつ実質的に電子絶縁性であるので、従来のIC層の少なくとも一部の機能としての役割を果たす。しかしながら、前述した界面領域は、従来認められているよりも高い漏れ電流を有する可能性があるが、それでも、デバイスは、良好な性能を示すことに留意されたい。
【0026】
一実施形態において、エレクトロクロミック層は、酸素に富む領域とともに形成され、対向電極層が成膜された後に続く処理に応じて、IC層としての役割を果たす界面領域または層に変換される。いくつかの実施形態では、(最終的に)IC層としての役割を果たす界面層をEC層とCE層との間に形成するために、酸素に富むバージョンのエレクトロクロミック材料を含む、異なる層が使用される。他の実施形態では、(最終的に)IC層としての役割を果たす界面領域をEC層とCE層との間に形成するために、酸素に富むバージョンの対向電極材料を含む、異なる層が使用される。酸素に富むCE層の全てまたは一部は、界面領域に変換される。さらに他の実施形態では、(最終的に)IC層としての役割を果たす界面領域をEC層とCE層との間に形成するために、酸素に富むバージョンの対向電極材料、および酸素に富む形態のエレクトロクロミック材料を含む、異なる層が使用される。換言すれば、酸素に富む材料の一部または全部は、IC層としての役割を果たす界面領域の前駆体としての役割を果たす。本発明の方法は、プロセスステップを低減することができるだけでなく、向上した性能特性を示すエレクトロクロミックデバイスを生成することもできる。
【0027】
前述したように、界面領域のEC層および/またはCE層の一部が、IC層の1つ以上の機能、特に、イオンに対する高伝導性および電子に対する高抵抗性を提供する材料に変換されると考えられる。界面領域のIC機能材料は、例えば、導電性カチオンの塩、例えば、リチウム塩であってもよい。
【0028】
図2A、2B、および2Cは、エレクトロクロミックデバイス積層体の3つの可能な例の組成グラフを示す(それぞれ、EC層、CE層、およびIC層としての役割を果たす界面領域を含む)。EC材料は、酸化タングステンである(ここでは、WO
3で示されるが、WO
xを含むことを意味し、xは、約2.7〜約3.5であり、一実施形態において、xは、約2.7〜約2.9である)。CE材料は、ニッケルタングステン酸化物(NiWO)であり、界面領域は、主に、若干のEC材料および/またはCE材料とともに、タングステン酸リチウムを含む(ここでは、Li
2WO
4で示される、別の実施形態において、界面領域は、約0.5〜約50(原子)%のLi
2O、約5〜約95%のLi
2WO
4、および約5〜約70%のWO
3のナノ複合材である)。より概略的には、界面領域は、必ずではないが、典型的に、異なる相および/または組成によって表される少なくとも2つの別個の成分を含む、不均一構造を有し、この相または組成は、界面領域の幅にわたって濃度が変動する。このため、IC層としての役割を果たす界面領域は、本明細書では、「勾配領域」、「不均一IC層」、または「分散IC層」と称される場合がある。
図2A、2B、および2Cにおける例証は、特定の材料に関して説明されているが、より一般的には、本発明のエレクトロクロミックデバイスのための任意の好適な材料のさまざまな組成の代表例を表している。
【0029】
図2Aは、EC材料が、IC層として機能する界面領域の有意な成分である一方で、CE材料は、有意な成分ではない、本発明のエレクトロクロミック積層体を表す。
図2Aを参照すると、原点から始まり、x軸に沿って左から右に移動すると、実質的に全てが酸化タングステンであるEC材料(WO
3)の部分が、EC層としての役割を果たすことが分かる。界面領域への遷移があり、界面領域では、その終わりまで、酸化タングステンが徐々に減少し、それに応じてタングステン酸リチウムが徐々に増加し、界面領域の端部では、ごく少量の酸化タングステンを伴う実質的に全てがタングステン酸リチウムである部分がある。EC層から界面領域への遷移は、実質的に全ての酸化タングステンおよびごく少量のタングステン酸リチウムの組成で画定されるが、この遷移が、従来のデバイスにおける遷移のように急激でないことは明らかである。この実施例では、材料がIC層の少なくとも一部の機能、例えば、イオン伝導および電子絶縁の役割を果たすのに十分な量のタングステン酸リチウムを、組成が有する場合に効果的に遷移が始まる。確実に、タングステン酸リチウムがこれらの性質を呈することが分かっているので、組成が実質的にタングステン酸リチウムであるCE層に非常に近い組成は、IC層の機能を果たす。しかし、界面領域の他の部分にもIC層機能の一部がある。発明者らは、そのような「不均一IC層」が、急激な遷移を伴う従来のデバイスと比較して、エレクトロクロミックデバイスのスイッチング特性および、可能性として、熱サイクル安定性を向上させることを見出した。CE層は、この実施例において、活性材料として主にニッケルタングステン酸化物を含有し、界面領域の縁部でのニッケルタングステン酸化物組成への比較的に急激な遷移を有する。そのような界面領域を伴う積層体を作製するための方法は、以下でさらに詳細に説明する。
【0030】
例えば、
図2Aのニッケルタングステン酸化物CE層は、約20%のタングステン酸リチウムを有するものとして表されていることに留意されたい。理論に拘束されることを望むものではないが、ニッケルタングステン酸化物のCE層は、タングステン酸リチウムのシェルまたはマトリクスによって囲まれた酸化ニッケルコアまたは粒子として存在し、これが適度に良好なイオン伝導性をCE層に与え、それによって、エレクトロクロミック積層体の動作中のCE層のエレクトロクロミック遷移に役立つと考えられる。CE層中のタングステン酸リチウムの正確な化学量論は、実施形態によって大幅に異なり得る。いくつかの実施形態において、CE層には若干の酸化タングステンも存在し得る。また、リチウムイオンは、IC層としての役割を果たす界面領域を介して、EC層およびCE層を往復するので、例えば、
図2Aで描写されるように、EC層にはかなりの量のタングステン酸リチウムが存在し得る。
【0031】
図2Bは、CE材料が、IC層として機能する界面領域の有意な成分である一方で、EC材料は、有意な成分ではない、本発明のエレクトロクロミック積層体を表す。
図2Bを参照すると、原点から始まり、x軸に沿って左から右に移動すると、この場合、実質的に全てが酸化タングステンであるEC材料が、EC層としての役割を果たすことが分かる。界面領域への急激な遷移があり、界面領域では、あったとしてもごくわずかの酸化タングステンがしかないが、大量のタングステン酸リチウムおよび少なくとも若干のニッケルタングステン酸化物(CE材料)がある。界面領域の組成は、x軸に沿って変化し、タングステン酸リチウムが漸進的に減少し、それに応じてニッケルタングステン酸化物が増加する。界面領域からCE層への遷移は、恣意的に、約80%のニッケルタングステン酸化物および約20%のタングステン酸リチウムの組成で画定されるが、これは、遷移が勾配組成で起こった場合の一例に過ぎない。界面領域は、積層体を通してさらに進行して、組成の変化が全くまたはほとんど起こらなくなったときが終端であるとみなしてもよい。加えて、遷移は、組成が十分な量のニッケルタングステン酸化物を有した場合に効果的に終了し、よって、その材料は、異なるIC層が役割を果たす少なくとも一部の機能をそれ以上果たさなくなる。確実に、組成が80%のニッケルタングステン酸化物である画定されたCE層に非常に近い組成は、CE層の機能を果たす。同様に、タングステン酸リチウムが実質的な成分であるEC層に非常に近い界面領域の組成は、イオン伝導性で電子絶縁性の材料としての役割を果たす。
【0032】
図2Cは、EC材料およびCE材料の双方が、IC層として機能する界面領域の有意な成分である、本発明のエレクトロクロミック積層体を表す。
図2Cを参照すると、原点から始まり、x軸に沿って左から右に移動すると、実質的に全てが酸化タングステンであるEC材料(WO
3)の部分が、EC層としての役割を果たすことが分かる。界面領域への遷移があり、界面領域では、酸化タングステンが徐々に減少し、それに応じてタングステン酸リチウムが徐々に増加する。この実施例では、界面領域として画定された部分の約1/3から、ニッケルタングステン酸化物の対向電極材料の量も増加する。界面領域として画定された部分の約半分には、それぞれ約10%の酸化タングステンおよびニッケルタングステン酸化物、ならびに80%のタングステン酸リチウムがある。この実施例において、EC層とIC層との間、またはIC層とCE層との間にはいかなる急激な遷移もなく、むしろ、CE材料およびEC材料の双方の連続する勾配組成を有する界面領域がある。この実施例において、タングステン酸リチウム成分は、界面領域を約半分進んだ所でピークに達し、よって、この領域は、界面領域の最も強力な電子絶縁であると思われる。
【0033】
発明の概要で前述したように、EC層およびCE層は、いくらかの電気抵抗をEC層およびCE層に与える材料成分を含んでもよい。3つの領域の全てに少なくとも若干の量またがっている、
図2A〜2Cで説明されるタングステン酸リチウムは、電気抵抗をEC層およびCE層に与えるそのような材料の一例である。
【0034】
図2A〜2Cは、本発明のエレクトロクロミックデバイスのIC層としての役割を果たす界面領域の勾配組成の限定的でない例を3つだけ表している。当業者は、本発明の範囲を逸脱せずに、数多くの変形例が可能であることを理解するであろう。
図2A〜2Cの例のそれぞれでは、2つの材料成分だけしかなく、成分の1つはごくわずかである、少なくとも1つの層がある。本発明は、この方法に限定されない。したがって、本発明の一実施形態は、エレクトロクロミック層と、IC層としての役割を果たす界面領域と、対向電極層とを含むエレクトロクロミックデバイスであり、このデバイスの前述した2つの層のそれぞれおよび1つの領域の少なくとも1つの材料成分は、少なくとも約25重量%、別の実施形態では、少なくとも約15重量%、別の実施形態では、少なくとも約10重量%、別の実施形態では、少なくとも約5重量%、さらに別の実施形態では、約2重量%が、エレクトロクロミック層、界面領域、および対向電極層のそれぞれに存在する。
【0035】
界面領域におけるエレクトロクロミック材料および/または対向電極材料の量はかなり多く、一実施形態では、界面領域の50重量%にもなり得る。しかしながら、多くの実施形態では、イオン伝導性で電子絶縁性の材料が、典型的に、主要な成分である一方で、界面領域の残部が、エレクトロクロミック材料および/または対向電極材料である。一実施形態では、界面領域が約60重量%〜約95重量%のイオン伝導性で電子絶縁性の材料を含む一方で、界面領域の残部がエレクトロクロミック材料および/または対向電極材料である。一実施形態では、界面領域が約70重量%〜約95重量%のイオン伝導性で電子絶縁性の材料を含む一方で、界面領域の残部がエレクトロクロミック材料および/または対向電極材料である。一実施形態では、界面領域が約80重量%〜約95重量%のイオン伝導性で電子絶縁性の材料を含む一方で、界面領域の残部がエレクトロクロミック材料および/または対向電極材料である。
【0036】
いくつかの実施形態において、本明細書で説明されるデバイスの界面領域は、比較的に明瞭であり、すなわち、界面領域がある程度の量のエレクトロクロミック材料および/または対向電極材料を含有する場合であっても、例えば顕微鏡によって分析したときに、隣接する層に比較的に識別し易い境界がある。そのような実施形態では、界面領域の厚さを測定することができる。界面領域がEC層および/またはCE層の酸素に富む(超化学量論的)領域から形成される実施形態において、界面領域が形成された層(単一または複数)と比較した、界面領域の厚さの比率は、界面領域を特徴付けるための1つの測定基準である。例えば、エレクトロクロミック層は、酸素に富む上層とともに成膜される。EC層は、層の中に、またはより広範な領域の中に、単一の金属酸化物または均一もしくは不均一に混合された2つ以上の金属酸化物を含み得る。EC層は、550nmの厚さであり、酸素に富む層(または領域)を含む。約150nmのEC層が界面領域に変換された場合は、ECの約27%(すなわち、150nm÷550nm)が界面領域に変換される。別の実施例において、EC層は、酸素に富む第1の金属酸化物領域(または層)と、第2の金属酸化物層(または領域)とを含む。全てまたは一部の酸素に富む金属酸化物層が界面領域に変換された場合は、界面領域の厚さを、(界面領域の形成前の)第1および第2の金属酸化物層の総厚さで割ったものが、界面領域の測定基準である。一実施形態において、界面領域は、約0.5%〜約50%の、別の一実施形態では、約1%〜約30%の、別の実施形態では、約2%〜約10%の、さらに別の実施形態では、約3%〜約7%の厚さの、界面領域を形成するために使用される前駆体領域(酸素に富む部分を含むECおよび/またはCE)を含む。
【0037】
発明者らは、IC層としての役割を果たす勾配組成が多く利益をもたらすことを発見した。理論に拘束されることを望むものではないが、そのような勾配領域を有することによって、エレクトロクロミック遷移の効率が飛躍的に向上すると考えられている。以下により詳しく説明するように、他の利益がある。
【0038】
理論に拘束されることを望むものではないが、以下の機構の1つ以上が、界面領域中のIC機能材料へのEC材料および/またはCE材料の転換に影響を及ぼし得る。しかしながら、本発明の性能または適用は、これらの機構のいずれにも限定されない。これらの機構のそれぞれは、積層体の製作中にIC層材料が決して成膜されないプロセスと一致する。本明細書の他の場所で明らかにされているように、本発明の装置は、IC層のための材料を含む別のターゲットを有する必要はない。
【0039】
第1の機構において、エレクトロクロミック材料または対向電極材料の直接リチウム化は、界面領域のIC材料(例えば、タングステン酸リチウム)を生成する。以下でより詳細に説明するが、種々の実施形態は、EC層およびCE層の形成の間で、作製プロセスのある時点で、活性層の1つの直接リチウム化を用いる。この作業は、リチウムへのEC層またはCE層(どちらか最初に形成された層)の曝露を伴う。この機構によれば、EC層またはCE層を通過するリチウムフラックスは、リチウム塩等の、イオン伝導性で電子抵抗性の材料を生成する。このリチウムのフラックスを駆動するために、加熱または他のエネルギーを適用することができる。この説明した機構は、第2の層(CE層またはEC層)の形成前に、第1の形成された層(EC層またはCE層)の頂部、すなわち、曝露した部分を変換する。
【0040】
したがって、一実施形態は、エレクトロクロミックデバイスを製作する方法であり、該方法は、(a)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層、または対向電極材料を含む対向電極層のいずれかを形成することと、(b)エレクトロクロミック層または対向電極層の上に中間層を形成することであって、酸素に富む形態のエレクトロクロミック材料、対向電極材料、および付加的な材料のうちの少なくとも1つを含み、付加的な材料は、異なるエレクトロクロミック材料または対向電極材料を含み、実質的に、電子絶縁性ではない中間層を形成することと、(c)中間層をリチウムに曝露することと、(d)中間層の少なくとも一部を、中間層の領域と同じ領域にあり、電子絶縁性でイオン伝導性の材料および中間層の材料を含む領域に変換するために、形成された積層体を加熱することと、を含む。領域は、電子絶縁性でイオン伝導性の材料および中間層の材料の不均一混合物を含むことができる。例えば、言及した付加的な材料は、単一の金属酸化物ではなく、混合した金属酸化物をエレクトロクロミック層および/または対向電極層に使用することが望ましい場合があるという事実に関連する。本発明の方法およびデバイスに従う混合した金属酸化物の性質は、以下でさらに詳細に説明する。
【0041】
一実施形態では、最初に、エレクトロクロミック層が形成される。一実施形態において、エレクトロクロミック層は、酸化タングステンが成膜される。一実施形態において、酸化タングステンを成膜することは、タングステンターゲットと、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のArを含む第1のスパッタガスとを使用して、約350nm〜約450nmの厚さに達するようにスパッタリングすることと、エレクトロクロミック層の形成中に、少なくとも断続的に約150℃〜約450℃に加熱することと、を含む。一実施形態において、エレクトロクロミック層は、実質的に多結晶WO
3である。
【0042】
一実施形態において、中間層は、超化学量論的酸素の形態のWO
3である。一実施形態において、超化学量論的酸化タングステンは、加熱せずに、タングステンターゲットと、約70%〜100%のO
2および0%〜約30%のArを含む第2のスパッタガスとによるスパッタリングを介して、約10nm〜約200nmの厚さに達するように成膜される。
【0043】
一実施形態において、(c)は、少なくともブラインド電荷が満たされるまで、リチウムを中間層上スパッタリングすることを含み、(d)は、積層体を、約100℃〜約450℃に加熱することを含む。別の実施形態において、(d)は、積層体を、約2分〜約30分間、約200℃〜約350℃に加熱することを含む。前述した2つの実施形態のいずれかにおいて、(d)は、不活性雰囲気下および/または酸化雰囲気下で行うことができる。不活性雰囲気の例としては、アルゴン、窒素等が挙げられ、酸化雰囲気としては、酸素および他の酸化剤が挙げられる。
【0044】
いくつかの実施形態では、EC材料またはCE材料の2つの層ではなく、化学量論的酸素に近い、または化学量論的酸素である、単一の層が使用され、この層は、酸素が超化学量論的である少なくとも一部分を有する。一実施形態では、傾斜層が使用され、この層は、層が少なくとも超化学量論的酸素の上方部分を伴う、変動する組成を有する。したがって、別の実施形態は、エレクトロクロミックデバイスを製作する方法であり、該方法は、(a)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層、または対向電極材料を含む対向電極層のいずれかを形成することであって、層の領域と同じ領域にあり、その上方領域の中に超化学量論的酸素部分を含む層を形成することと、(b)超化学量論的酸素部分をリチウムに曝露することと、(c)加熱して、超化学量論的酸素部分の少なくとも一部を、超化学量論的酸素部分の領域と同じ領域にあり、電子絶縁性でイオン伝導性の材料および超化学量論的酸素部分の材料を含む領域に変換することと、を含む。一実施形態において、領域は、電子絶縁性でイオン伝導性の材料および超化学量論的酸素部分の材料の不均一混合物を含む。
【0045】
一実施形態において、(a)は、酸化タングステンを成膜することによって、エレクトロクロミック層を形成することを含む。一実施形態において、酸化タングステンを成膜することは、タングステンターゲットと、スパッタガスであって、エレクトロクロミック層のスパッタリングの開始時に、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のArを含み、エレクトロクロミック層のスパッタリングの終了時に、約70%〜100%のO
2および0%〜約30%のArを含む、スパッタガスとを使用して、スパッタリングすることと、エレクトロクロミック層の形成の開始時に、少なくとも断続的に約200℃〜約350℃に加熱するが、エレクトロクロミック層の少なくとも最終部分の成膜中は加熱しないことと、を含む。
【0046】
一実施形態において、(b)は、少なくともブラインド電荷が満たされるまで、リチウムを中間層の上にスパッタリング、または別様に提供することを含み、(c)は、積層体を、約100℃〜約450℃に加熱することを含む。別の実施形態において、(c)は、積層体を、約2分〜約30分間、約200℃〜約350℃に加熱することを含む。前述した2つの実施形態のいずれかにおいて、(c)は、不活性雰囲気下および/または酸化雰囲気下で行うことができる。不活性雰囲気の例としては、アルゴン、窒素等が挙げられ、酸化雰囲気としては、酸素および他の酸化剤が挙げられる。
【0047】
前述した2つの方法のいずれかにおいて、すなわち、超化学量論的酸素の中間層または超化学量論的酸素の上方領域を伴う単一の層のいずれかを有するエレクトロクロミック材料を使用する方法では、さらなる処理として、対向電極層を領域上に形成することを含む。一実施形態において、対向電極層は、約150nm〜約300nmの厚さのNiWOを含む。一実施形態において、NiWOは、実質的に非晶質である。さらなる処理として、対向電極層が実質的に消色するまで、リチウムを対向電極層にスパッタリングするか、または別様に提供することと、対向電極層を消色するために必要とされる量に基づいて約5%〜約15%過剰な付加的な量のリチウムを、対向電極層上にスパッタリングすることとを含むことができる。インジウムスズ酸化物等の透明伝導性酸化物層を、対向電極層の上に成膜することができる。
【0048】
一実施形態において、このようにして形成された積層体は、透明伝導性酸化物を成膜する前または成膜した後に、透明伝導性酸化物を成膜する前または成膜した後に、約10分〜約30分間Ar下で、次いで約1分〜約15分間O
2下で、約150℃〜約450℃に加熱される。この処理の後に、積層体は、約20分〜約40分間空気下で、約250℃〜約350℃に加熱することによってさらに処理される。エレクトロクロミックデバイスの初期活性化サイクルの一部として、エレクトロクロミック層と対向電極層との間に電流を流すことも行うことができる。
【0049】
界面領域の形成機構を再度参照すると、第2の機構において、EC層またはCE層の双方が形成された後に、および/またはリチウム化された第1の層の上への第2の層の形成中に、EC層またはCE層の一方から他方に拡散するリチウムは、IC機能材料を有する界面領域へのEC層および/またはCE層のうちの1つの一部の変換を引き起こす。リチウム拡散は、第2の層が全て形成された後に、または第2の層の一部だけが形成された後に起こり得る。さらに、リチウムの拡散、およびそれに伴うIC機能材料への変換は、第1または第2の成膜された層のいずれかにおいて、またはEC層またはCE層のいずれかにおいて行われる。一実施例において、EC層は、最初に形成され、次いで、リチウム化される。その後にCE層がEC層の上に成膜されるにつれて、一部のリチウムがその下にあるEC層からCE層に向かって、および/またはその中に拡散し、IC機能材料を含有する界面領域への転換を引き起こす。別の実施例では、EC層が(随意に、酸素に富む上方領域とともに)最初に形成され、次いで、CE層が形成されて、リチウム化される。その後、CE層からの一部のリチウムが、EC層の中に拡散し、IC機能材料を有する界面領域を形成する。さらに別の実施例において、EC層は、前述した第1の機構により、最初に成膜され、次いでリチウム化されて、いくらかのIC機能材料を生成する。次いで、CE層が形成されたときに、一部のリチウムがその下のEC層からCE層に向かって拡散して、いくらかのIC材料をCE層の界面領域に生成する。このようにして、IC機能材料は、名目上、CE層およびEC層の界面に近接したCE層およびEC層の双方に存在する。
【0050】
したがって、別の実施形態は、エレクトロクロミックデバイスを製作する方法であり、該方法は、(a)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層、または対向電極材料を含む対向電極層のいずれかを形成することと、(b)エレクトロクロミック層または対向電極層の上に中間層を形成することであって、酸素に富む形態のエレクトロクロミック材料、対向電極材料、および付加的な材料のうちの少なくとも1つを含み、付加的な材料は、異なるエレクトロクロミック材料または対向電極材料を含み、実質的に電子絶縁性でない中間層を形成することと、(c)中間層をリチウムに曝露することと、(d)エレクトロクロミック層および対向電極層のうちの他方を、中間層の上に成膜し、それによって、中間層の少なくとも一部を、中間層の領域と同じ領域にあり、電子絶縁性でイオン伝導性の材料および中間層の材料を含む領域に変換することと、を含む。一実施形態において、領域は、電子絶縁性でイオン伝導性の材料および中間層材料の不均一混合物を含む。
【0051】
一実施形態において、エレクトロクロミック層は、最初に形成されて、酸化タングステンを成膜することを含む。一実施形態において、酸化タングステンを成膜することは、タングステンターゲットと、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のArを含む第1のスパッタガスとを使用して、約350nm〜約450nmの厚さに達するようにスパッタリングすることと、エレクトロクロミック層の形成中に、少なくとも断続的に約150℃〜約450℃に加熱することと、を含む。一実施形態において、エレクトロクロミック層は、実質的に多結晶WO
3である。この実施形態において、中間層は、WO
3の超化学量論的酸素の形態であり、例えば、一実施形態において、(b)は、加熱せずに、タングステンターゲットと、約70%〜100%のO
2および0%〜約30%のArを含む第2のスパッタガスとを使用して、約10nm〜約200nmの厚さに達するようにWO
3をスパッタリングすることを含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、EC材料またはCE材料の2つの層ではなく、化学量論的酸素に近い、または化学量論的酸素である、単一の層が使用され、この層は、酸素が超化学量論的である少なくとも一部分を有する。一実施形態では、傾斜層が使用され、この層は、少なくとも超化学量論的酸素の上方部分を有する。したがって、別の実施形態は、エレクトロクロミックデバイスを製作する方法であり、該方法は、(a)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層、または対向電極材料を含む対向電極層のいずれかを形成することであって、層前記層の領域と同じ領域にあり、その上方領域の中に超化学量論的酸素部分を含む層を形成することと、(b)超化学量論的酸素部分をリチウムに曝露することと、(c)エレクトロクロミック層および対向電極層のうちの他方を、超化学量論的酸素部分の上に成膜し、それによって、超化学量論的酸素部分の領域と同じ領域にあり、イオン伝導性で電子絶縁性の材料および超化学量論的酸素部分の材料を含む領域に変換することと、一実施形態において、領域は、電子絶縁性でイオン伝導性の材料および超化学量論的酸素部分の材料の不均一混合物を含む。
【0053】
一実施形態において、エレクトロクロミック層は、最初に形成される。このような一実施形態において、エレクトロクロミック層は、酸化タングステンを成膜することを含む。一実施形態において、酸化タングステンを成膜することは、タングステンターゲットと、スパッタガスであって、エレクトロクロミック層のスパッタリングの開始時に、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のArを含み、エレクトロクロミック層のスパッタリングの終了時に、約70%〜100%のO
2および0%〜約30%のArを含む、スパッタガスとを使用して、スパッタリングすることと、エレクトロクロミック層の形成の開始時に、少なくとも断続的に約200℃〜約350℃に加熱するが、エレクトロクロミック層の少なくとも最終部分の成膜中は加熱しないことと、を含む。このEC層は、実質的に多結晶であってもよい。
【0054】
前述した2つの方法のいずれかにおいて、すなわち、超化学量論的酸素の中間層または超化学量的酸素の上方領域を伴う単一の層のいずれかを有するエレクトロクロミック材料を使用する方法において、中間層または超化学量論的酸素部分のいずれかをリチウムに曝露することは、リチウムを、前述した層または部分の上にスパッタリング、または別様に提供することができる。エレクトロクロミック層および対向電極層のうちの他方を成膜することは、対向電極層を中間層上または超化学量論的酸素部分上に形成することを含む。一実施形態において、対向電極層は、約150nm〜約300nmの厚さのNiWOを含む。一実施形態において、NiWOは、実質的に非晶質である。さらなる処理として、対向電極層が実質的に消色するまで、リチウムを対向電極層にスパッタリングするか、または別様に提供することと、対向電極層を消色するために必要とされる量に基づいて約5%〜約15%過剰な付加的な量のリチウムを、対向電極層上にスパッタリングすることとを含むことができる。インジウムスズ酸化物等の透明伝導性酸化物層を、対向電極層の上に成膜することができる。
【0055】
一実施形態において、このようにして形成された積層体は、透明伝導性酸化物を成膜する前または成膜した後に、約10分〜約30分間Ar下で、次いで約1分〜約15分間O
2下で、約150℃〜約450℃に加熱される。この処理の後に、積層体は、約20分〜約40分間空気下で、約250℃〜約350℃に加熱することによってさらに処理される。エレクトロクロミックデバイスの初期活性化サイクルの一部として、エレクトロクロミック層と対向電極層との間に電流を流すことも行うことができる。
【0056】
第3の機構において、EC層およびCE層は、完成まで(または少なくとも、第2の形成された層が部分的に完成するまで)形成される。次いで、デバイス構造が加熱され、この加熱は、界面領域の材料の少なくとも一部をIC機能材料(例えば、リチウム塩)に変換する。例えば、本明細書でさらに説明される多段階熱化学的調整(MTCC)の一部としての加熱は、成膜中または成膜が完了した後に行われてもよい。一実施形態において、加熱は、透明導電性酸化物が積層体の上に形成された後に行われる。別の実施形態において、加熱は、第2の層が部分的または全体的に完了した後だが、透明導電性酸化物がそこに適用される前に、適用される。一部の場合において、加熱は、転換の直接かつ主要な原因となる。他の場合において、加熱は、主に、第2の機構で説明したIC機能材料領域を作成する、リチウムイオンの拡散またはフラックスを促進する。
【0057】
最後に、第4の機構において、EC層とCE層との間に流れる電流は、界面領域のIC機能材料へのエレクトロクロミック材料および対向電極材料のうちの少なくとも1つの転換を駆動する。これは、例えば、電流の流れと関連するイオンフラックスは非常に大きいので、界面領域のIC材料へのEC材料および/またはCE材料の化学的転換を駆動することにより起こり得る。例えば、以下で説明するように、EC層中の酸化タングステンを通る大きいリチウムフラックスは、IC材料としての役割を果たすタングステン酸リチウムを生成し得る。リチウムフラックスは、例えば、新たに形成されたデバイスの初期活性化サイクル中に導入されてもよい。一実施形態では、化学的転換を駆動するために、加熱の代わりに、初期活性化サイクルにおける電流の流れが使用される。しかしながら、これは、駆動するための他の機会である必要はなく、変換を生じさせるためには、高イオンフラックスがより適切である場合がある。より一般的には、イオン伝導性で電子絶縁性の界面領域への材料の変換を駆動する、エネルギーの形態、例えば、熱および/または電流の印加である。振動エネルギー、放射エネルギー、音響エネルギー、機械エネルギー等の、他のエネルギー形態を使用することができる。本明細書で説明される方法は、前述した機構の任意の1つ以上に頼らずに、当業者によって行うことができる。
【0058】
図3Aは、本発明の方法に従うプロセスフロー300である。具体的には、EC層が(CL、例えば、TCO上に)成膜される(305参照)。次いで、CE層が成膜される(310参照)。次いで、EC層およびCE層が成膜された後、EC層とCE層との間にIC層としての役割を果たす界面領域が形成される(315参照)。本発明の一実施形態は、ステップ305および310を逆にした、類似した方法(図示せず)である。この方法は、いくつかの実施形態において、界面領域を作製するためにEC層およびCE層のうちの1つの少なくとも一部を使用して、IC層として機能する界面領域がEC層およびCE層の後に形成されることを要旨としている。このために、このようにして形成される界面領域は、あるときには、「内因性」IC層と称される。他の実施形態では、例えば酸素に富むバージョンのEC材料またはCE材料を使用して、EC層とCE層との間に異なる層が形成され、この層は、ここでもEC層およびCE層の形成後に、その全部または一部が界面領域に変換される。EC−CE積層体が形成された後に界面領域を形成するための種々の方法は、下記で説明する。
【0059】
したがって、前述したように、本発明の一態様は、エレクトロクロミックデバイスを製作する方法であり、該方法は、エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を形成することと、最初にエレクトロクロミック層と対向電極層との間にイオン伝導性で電子絶縁性の層を提供せずに、エレクトロクロミック層と接触した状態で対向電極層を形成することであって、対向電極材料を含む対向電極層を形成することと、エレクトロクロミック層と対向電極層との間に界面領域を形成することと、を含み、該界面領域は、実質的にイオン伝導性であり、かつ実質的に電子絶縁性である。界面領域は、EC層、CE層、または双方の成分材料を含有することができる。界面領域は、以下により詳しく説明するように、多数の方法で形成することができる。
【0060】
図3Bは、プロセスフロー320であり、
図3Aに関連して説明される方法に従うプロセスフローを示し、具体的には、EC層を成膜し、次いで、CE層を成膜し、最終的に、IC層として機能する界面領域をEC層とCE層との間に形成するためのプロセスフローである。さらに具体的には、この実施形態において、EC層は、特定の組成および構成で、種々の量の酸素を伴うWO
3を含み、CE層は、NiWOを含み、界面領域は、Li
2WO
4を含み、また、インジウムスズ酸化物およびフッ素化酸化スズ等のTCO材料が使用される。エレクトロクロミックデバイスの層は、固体材料の観点から以下で説明されることに留意されたい。固体材料は、信頼性、安定した特性およびプロセスパラメータ、ならびにデバイス性能といった理由で、望ましい。例示的な固体エレクトロクロミックデバイス、それらを作製するための方法および装置、そのようなデバイスを伴うエレクトロクロミック窓を作製する方法は、Kozlowski他による「Fabrication of Low Defectivity Electrochromic Devices」という名称の米国特許出願第12/645,111号、およびWang他による「Electrochromic Devices」という名称の米国特許出願第12/645,159号で説明されており、どちらも全ての目的に対して参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態において、本発明のエレクトロクロミックデバイスは、全固体であり、制御された周囲環境における積層体の1つ以上の層の成膜を可能にする装置で作製される。すなわち、装置を出ずに、かつ、例えば成膜ステップ中に真空を中断せずに、層が成膜される装置では、それによって、混入物を減少させ、最終的にはデバイス性能を低下させる。特定の実施形態において、本発明の装置は、従来の装置では必要とされる、IC層を成膜するための別のターゲットを必要としない。当業者が理解するように、本発明は、これらの材料および方法に限定されないが、一定の実施形態において、(以下で説明する)エレクトロクロミック積層体および前駆体積層体を構成する全ての材料は、無機、固体(すなわち、固体状態である)、または無機および固体の双方である。
【0061】
有機材料は、例えば窓への適用に関連して紫外線光および熱に曝露されたときに、経時的に劣化する傾向があるので、無機材料が、より長期間にわたって機能することができる信頼性のあるエレクトロクロミック積層体の利点を提供する。固体材料は、液体材料がしばしば起こすような、格納および漏出の問題を有しないという利点も提供する。積層体の層の任意の1つ以上は、若干の有機材料を含有し得るが、数多くの実装例において、層の1つ以上は、有機物質をほとんどまたは全く含有しないことを理解されたい。1つ以上の層に少量が存在し得る液体についても同じことが言える。また、固体材料は、ゾルゲルまたは化学気相蒸着を用いる一定のプロセス等の、液体成分を用いたプロセスによって成膜、または別様に形成され得ることも理解されたい。
【0062】
再度
図3Bを参照すると、最初にWO
3のEC層が成膜される(325参照)。
図4A〜4Cは、本発明の特定の方法に従う、具体的には、プロセスフロー320に従う、エレクトロクロミックデバイスの形成を表す概略断面図である。具体的には、
図4A〜4Cは、WO
3を含むEC層をどのようにして積層体の一部として形成することができるのかを示す3つの限定的でない実施例を示し、IC層としての役割を果たす界面領域は、積層体の他の層が成膜された後に形成される。
図4A〜4Cのそれぞれにおいて、基材402、第1のTCO層404、CE層410、および第2のTCO層412は、本質的に同じである。また、3つの実施形態のそれぞれにおいて、積層体は、IC層を伴わずに形成され、次いで、積層体は、積層体内、すなわち、EC層とCE層との間に、IC層としての役割を果たす界面領域を形成するためにさらに処理される。
【0063】
図4A〜4Cのそれぞれを参照すると、層状構造400、403、および409がそれぞれ表されている。これらの層状構造のそれぞれは、例えばガラスである、基材402を含む。好適な光学的性質、電気的性質、熱的性質、および機械的性質を有するあらゆる材料が、基材402として使用されてもよい。そのような基材としては、例えば、ガラス、プラスチック、鏡材料が挙げられる。好適なプラスチック基材としては、例えば、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、SAN(スチレンアクリロニトリル共重合体)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられ、プラスチックは、高温処理条件に耐えることが可能であることが好ましい。プラスチック基材が使用される場合は、好ましくは、例えば、プラスチックグレージング技術でよく知られているような、ダイヤモンド様保護被覆、シリカ/シリコーン耐摩耗被覆等の、硬質被覆を使用してバリア保護または摩耗保護される。好適なガラスとしては、透明ガラス、または、ソーダ石灰フロートガラスを含む、着色ソーダ石灰ガラスが挙げられる。ガラスは、強化されたものであっても、強化されていないものであってもよい。いくつかの実施形態において、ガラス基材等の市販の基材は、透明導電層被覆を含む。そのようなガラスの例としては、Pilkington of Toledo,OhioによってTEC Glass(商標)の商標で、ならびにPPG Industries of Pittsburgh,PennsylvaniaによってSUNGATE(商標)300およびSUNGATE(商標)500の商標で販売されている、導電層被覆ガラスが挙げられる。TEC Glass(商標)は、フッ素化酸化スズ導電層で被覆したガラスである。
【0064】
いくつかの実施形態において、基材402の光透過率(すなわち、入射した光またはスペクトルに対する、透過した光またはスペクトルの比率)は、約90%〜95%、例えば、約90%〜92%である。基材は、任意の厚さであってもよいが、エレクトロクロミックデバイスを支持するのに好適な機械的性質を有することを条件とする。基材402は、任意のサイズであってもよいが、いくつかの実施形態では、約0.01mm〜10mmの厚さ、好ましくは、約3mm〜9mmの厚さである。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態において、基材は、建築用ガラスである。建築用ガラスは、建築材料として使用されるガラスである。建築用ガラスは、典型的に、商業建築物で使用されるが、住宅建築物で使用される場合もあり、また典型的に、必ずではないが、屋外の環境から屋内の環境を隔離する。一定の実施形態において、建築用ガラスは、少なくとも20インチ×20インチ(508mm×508mm)であり、例えば、約72インチ×120インチ(約1828mm×3048mm)の大きさにもなり得る。建築用ガラスは、典型的に、少なくとも約2mmの厚さである。約3.2mm未満の厚さである建築用ガラスは、強化することができない。建築用ガラスを基材として用いる本発明のいくつかの実施形態において、基材は、エレクトロクロミック積層体が基材上に製作された後であっても強化され得る。建築用ガラスを基材として用いる本発明のいくつかの実施形態において、基材は、スズフロートラインからのソーダ石灰ガラスである。建築用ガラス基材の可視スペクトルを通じての透過パーセント(すなわち、可視スペクトルにわたる統合伝送)は、一般的に、中間色基材の場合には80%を超えるが、有色基材の場合にはより低くなり得る。好ましくは、可視スペクトルを通じての基材の透過パーセントは、少なくとも約90%、例えば、約90%〜92%である。可視スペクトルとは、典型的な人間の眼が応答するスペクトルであり、一般的に、約380nm(紫色)〜約780nm(赤色)である。一部の場合において、ガラスは、約10nm〜約30nmの表面粗度を有する。一実施形態において、基材402は、ナトリウムイオンがエレクトロクロミックデバイスに拡散することを防止するために、ナトリウム拡散バリヤ(図示せず)を有するソーダガラスである。この説明のために、そのような構成を「基材402」と称する。
【0066】
再度層状構造400、403、および409を参照すると、基材402の上には、最初に、例えば、特に導電性で透明なフッ素化酸化スズまたは他の好適な材料で作製される、TCO層404が成膜される。透明導電性酸化物は、金属酸化物および1つ以上の金属でドープされた金属酸化物を含む。そのような金属酸化物およびドープ金属酸化物の例としては、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、ドープ酸化インジウム、酸化スズ、ドープ酸化スズ、酸化亜鉛、アルミニウム亜鉛酸化物、ドープ酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ドープ酸化ルテニウム等が挙げられる。一実施形態において、この第2のTCO層は、約20nm〜約1200nmの厚さであり、別の実施形態では、約100nm〜約600nmの厚さであり、別の実施形態では、約350nmの厚さである。TCO層は、層が比較的に大きい範囲にわたるので、適切なシート抵抗(R
s)を有するべきである。いくつかの実施形態において、TCO層のシート抵抗は、1平方あたり約5〜約30オームである。いくつかの実施形態において、TCO層のシート抵抗は、1平方あたり約15オームである。概して、2つの導電層のそれぞれのシート抵抗がほぼ同じであることが望ましい。一実施形態において、2つの層、例えば404および412は、それぞれ、1平方あたり約10〜15オームのシート抵抗を有する。
【0067】
層状構造400、403、および409のそれぞれは、積層体414a、414b、および414cを含み、それぞれ、基材402の上の第1のTCO層404と、CE層410と、第2のTCO層412とを含む。層状構造400、403、および409のそれぞれの差は、EC層がどのように形成されたかということであり、よって、各シナリオにおいて、結果として生じる界面領域の形態に影響を及ぼす。
【0068】
図3Bのプロセスフロー325と一致して、積層体414a、414b、および414cのそれぞれは、第1のTCO層404の上に成膜されるエレクトロクロミック層を含む。エレクトロクロミック層は、金属酸化物を含む、多数の異なるエレクトロクロミック材料の任意の1つ以上を含有してもよい。そのような金属酸化物としては、酸化タングステン(WO
3)、酸化モリブデン(MoO
3)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化チタン(TiO
2)、酸化銅(CuO)、酸化イリジウム(Ir
2O
3)、酸化クロム(Cr
2O
3)、酸化マンガン(Mn
2O
3)、酸化バナジウム(V
2O
5)、酸化ニッケル(Ni
2O
3)、酸化コバルト(Co
2O
3)等が挙げられる。いくつかの実施形態において、金属酸化物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、モリブデン、ニオブ、バナジウム、チタン、および/もしくは他の好適な金属、または金属を含有する化合物等の、1つ以上のドーパントでドープされる。一定の実施形態では、混合酸化物(例えば、W−Mo酸化物、W−V酸化物)も使用され、すなわち、エレクトロクロミック層は、前述した金属酸化物の2つ以上を含む。金属酸化物を含むエレクトロクロミック層は、対向電極層から移動したイオンを受容することが可能である。
【0069】
いくつかの実施形態では、酸化タングステンまたはドープ酸化タングステンが、エレクトロクロミック層に使用される。本発明の一実施形態において、エレクトロクロミック層は、実質的に、WO
xで作製され、「x」は、エレクトロクロミック層におけるタングステンに対する酸素の原子比率を指し、xは、2.7〜3.5である。準化学量論的酸化タングステンだけがエレクトロクロミズムを呈することが示唆されており、すなわち、化学量論的酸化タングステンWO
3は、エレクトロクロミズムを呈しない。より具体的な実施形態では、xが3.0未満であり、かつ少なくとも約2.7未満であるWO
xが、エレクトロクロミック層に使用される。別の実施形態において、エレクトロクロミック層はWO
xであり、xは、約2.7〜約2.9である。ラザフォード後方散乱分光法(RBS)等の手法は、タングステンに結合したもの、およびタングステンに結合しなかったものを含む、酸素原子の総数を確認することができる。いくつかの事例において、xが3以上である酸化タングステン層は、おそらく準化学量論的酸化タングステンととともに、結合していない過剰な酸素のため、エレクトロクロミズムを呈する。別の実施形態において、酸化タングステン層は、化学量論的以上の酸素を有し、ここで、xは、3.0〜約3.5である。本発明のいくつかの実施形態において、EC層の少なくとも一部分は、過剰な酸素を有する。このEC層のより高度に酸素化した領域は、IC層としての役割を果たすイオン伝導性で電子遮断性の領域の形成のための前駆体として使用される。他の実施形態では、少なくとも部分的なイオン伝導性で電子絶縁性の界面領域への最終的な変換に関して、高度に酸素化したEC材料の異なる層が、EC層とCE層との間に形成される。
【0070】
一定の実施形態において、酸化タングステンは、結晶、ナノ結晶、または非晶質である。いくつかの実施形態において、酸化タングステンは、実質的にナノ結晶であり、透過電子顕微鏡法(TEM)によって特徴付けたときに、平均で約5nm〜50nm(または約5nm〜20nm)の粒度である。酸化タングステンの形態または微細構造は、X線回折(XRD)および/または制限視野電子回折(SAED)等の電子解析を使用して、ナノ結晶を特徴付けてもよい。例えば、ナノ結晶エレクトロクロミック酸化タングステンは、XRDによる特徴によって特徴付けられてもよく、約10nm〜100nm(例えば、約55nm)の結晶サイズである。さらに、ナノ結晶酸化タングステンは、例えば、数個(約5〜20)の酸化タングステン単位格子程度の、制限された長距離秩序を呈しうる。
【0071】
したがって、便宜上、
図3Bのプロセスフロー320の残りは、
図4Aで表される、EC層406の形成を含む第1の実施形態に関してさらに説明する。次いで、
図4Bおよび4Cで表される第2および第3の実施形態は、それぞれ、それぞれのEC層の形成および形態、ならびに/または微細構造に特に重点を置いて、その後に説明する。
【0072】
図3Bに関して述べたように、EC層が成膜される(325参照)。第1の実施形態(
図4Aで表される)において、WO
3を含む実質的に均一なEC層406は、積層体414aの一部として形成され、EC層は、CE層410と直接接触している。一実施形態において、前述したように、EC層は、WO
3を含む。一実施形態において、加熱は、WO
3の少なくとも一部分の成膜中に適用される。特定の一実施形態では、スパッタターゲットを複数回通過させて、WO
3の一部分が各通過時に成膜され、次の層406のWO
3の部分を成膜する前にWO
3を調節するために、各成膜通過の後に、例えば基材402に加熱が適用される。他の実施形態において、WO
3層は、成膜中に継続的に加熱されてもよく、成膜は、スパッタターゲットによる複数回の通過ではなく、連続する様式で行うことができる。一実施形態において、EC層は、約300nm〜約600nmの厚さである。前述したように、EC層の厚さは、所望の結果およびIC層の形成方法に依存する。
【0073】
図4Aと関連して説明される実施形態において、EC層は、約500nm〜約600nmの厚さのWO
3であり、タングステンターゲットと、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のArを含むスパッタガスとを使用してスパッタリングされ、WO
3がその上に成膜される基材は、EC層の形成中に、少なくとも断続的に約150℃〜約450℃に加熱される。特定の実施形態において、EC層は、約550nmの厚さのWO
3であり、タングステンターゲットを使用してスパッタリングされ、スパッタガスは、約50%〜約60%のO
2および約40%〜約50%のArを含み、WO
3がその上に成膜される基材は、エレクトロクロミック層の形成中に、少なくとも断続的に約250℃〜約350℃に加熱される。これらの実施形態において、WO
3層は、実質的に均一である。一実施形態において、WO
3は、実質的に多結晶である。成膜中に、少なくとも断続的にWO
3を加熱することが、WO
3の多結晶形態の形成に役立つと考えられる。
【0074】
前述したように、数多くの材料がEC層に好適である。一般的に、エレクトロクロミック材料において、エレクトロクロミック材料の着色(または、任意の光学的性質、例えば、吸光度、反射率、および透過率の変化)は、材料への可逆的なイオン挿入(例えば、インターカレーション)および対応する電荷平衡電子の注入によって引き起こされる。典型的に、光学遷移の原因となる若干のイオンが、エレクトロクロミック材料に不可逆的に結合する。本明細書で説明されるように、不可逆的に結合したイオンの一部もしくは全部は、材料中の「ブラインド電荷」に補うために使用される。大部分のエレクトロクロミック材料において、好適なイオンとしては、リチウムイオン(Li
+)および水素イオン(H
+)(すなわち、陽子)が挙げられる。しかしながら、一部の場合では、他のイオンが好適となる。そのようなイオンとしては、例えば、ジュウテリウムイオン(D
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、カルシウムイオン(Ca
++)、バリウムイオン(Ba
++)、ストロンチウムイオン(Sr
++)、およびマグネシウムイオン(Mg
++)が挙げられる。本明細書で説明される種々の実施形態では、エレクトロクロミック現象を生じさせるために、リチウムイオンが使用される。酸化タングステン(WO
3−y(0<y≦約0.3)へのリチウムイオンのインターカレーションは、酸化タングステンを透明(消色状態)から青色(着色状態)に変化させる。ECが酸化タングステンを含む、または酸化タングステンである典型的なプロセスにおいて、リチウムは、例えば、ブラインド電荷(
図6および
図7を参照して以下で詳細に論じる)を満たすために、例えばスパッタリングを介して、EC層406上に成膜される(
図3Bのプロセスフローの330を参照されたい)。一実施形態において、リチウム化は、成膜ステップ間で真空が中断されない、一体型成膜システムで行われる。いくつかの実施形態において、リチウムは、この段階で添加するのではなく、対向電極層の成膜後に添加することができ、他の実施形態では、リチウムは、TCOが成膜された後に添加される。
【0075】
再度
図4Aを参照すると、次に、CE層410が、EC層406上に成膜される。いくつかの実施形態において、対向電極層410は、無機および/または固体である。対向電極層は、エレクトロクロミックデバイスが消色状態であるときにイオンの貯蔵部としての役割を果たすことが可能である、多数の異なる材料の1つ以上を含み得る。例えば適切な電位の印加によって開始されるエレクトロクロミック遷移の間に、対向電極層は、それが保持するイオンの一部または全部をエレクトロクロミック層に移動させ、エレクトロクロミック層を着色状態に変化させる。並行して、NiOおよび/またはNiWOの場合、対向電極層は、イオンの喪失によって着色する。
【0076】
いくつかの実施形態において、対向電極のための好適な材料としては、酸化ニッケル(NiO)、ニッケルタングステン酸化物(NiWO)、ニッケルバナジウム酸化物、ニッケルクロム酸化物、ニッケルアルミニウム酸化物、ニッケルマンガン酸化物、ニッケルマグネシウム酸化物、酸化クロム(Cr
2O
3)、酸化マンガン(MnO
2)、およびプルシアンブルーが挙げられる。光学的に不活性な対向電極は、セリウムチタン酸化物(CeO
2−TiO
2)、セリウムジルコニウム酸化物(CeO
2−ZrO
2)、酸化ニッケル(NiO)、ニッケルタングステン酸化物(NiWO)、酸化バナジウム(V
2O
5)、および酸化物の混合物(例えば、Ni
2O
3およびWO
3の混合物)を含む。また、例えばタンタルおよびタングステンを含むドーパントでドープされた、これらの酸化物の配合物が使用されてもよい。対向電極層410は、エレクトロクロミック材料が消色状態であるときにエレクトロクロミック材料においてエレクトロクロミック現象を生じさせるために使用されるイオンを含有しているので、対向電極は、好ましくは、これらのイオンを大量に保持するときに高い透過率および中間色を有する。対向電極の形態は、結晶、ナノ結晶、または非晶質であってもよい。
【0077】
対向電極層がニッケルタングステン酸化物であるいくつかの実施形態において、対向電極材料は、非晶質であるか実質的に非晶質である。実質的に非晶質なニッケルタングステン酸化物の対向電極は、それらの結晶質の対照物と比較して、いくつかの条件下でより良好に機能することが見出された。ニッケルタングステン酸化物の非晶質状態は、下記で説明する一定の処理条件の使用を通して得られ得る。いかなる理論または機構にも拘束されることを望むものではないが、非晶質ニッケルタングステン酸化物は、スパッタリングプロセスにおいて、比較的により高いエネルギーの原子によって生成されると考えられる。より高いエネルギーの原子は、例えば、より高いターゲット電力、より低いチャンバ圧力(すなわち、より高い真空)、および供給源から基材までのより短い距離を伴うスパッタリングプロセスで得られる。説明したプロセスの下で、UV/熱への曝露下でのより良好な安定性を伴う、より高密度の膜が生成される。
【0078】
一定の実施形態において、ニッケルタングステン酸化物中に存在するニッケルの量は、ニッケルタングステン酸化物の最高で約90重量%でとなり得る。具体的な実施形態において、ニッケルタングステン酸化物におけるタングステンに対するニッケルの質量比は、約4:6〜6:4であり、一例では、1:1である。一実施形態において、NiWOは、約15%(原子)〜約60%のNi、および約10%〜約40%のWである。別の実施形態において、NiWOは、約30%(原子)〜約45%のNi、および約15%〜約35%のWである。別の実施形態において、NiWOは、約30%(原子)〜約45%のNi、および約20%〜約30%のWである。一実施形態において、NiWOは、約42%(原子)のNiおよび約14%のWである。
【0079】
一実施形態において、CE層410は、前述したように、NiWOである(
図3Bの335を参照されたい)。一実施形態において、CE層は、約150nm〜約300nmの厚さであり、別の実施形態では、約200nm〜約250nmの厚さであり、別の実施形態では、約230nmの厚さである。
【0080】
典型的なプロセスでは、CE層が消色されるまで、リチウムもCE層に添加される。着色状態と消色状態との間の遷移に対する参照は、限定的なものではなく、多数の実装され得るエレクトロクロミック遷移の中の一例を提案したに過ぎない。本明細書で別途指定されない限り、消色−着色間の遷移に対する参照が成されたときはいつでも、対応するデバイスまたはプロセスは、そのような非反射−反射、透明−不透明等の、他の光学的な状態の遷移を包含する。さらに、「消色される」という用語は、例えば、無着色、透明、または半透明といった、光学的に中間の状態を指す。さらに、本明細書で別途指定されない限り、エレクトロクロミック遷移の「色」は、任意の特定の波長または波長範囲に限定されない。当業者によって理解されるように、適切なエレクトロクロミックおよび対向電極材料の選択は、関連する光学遷移を左右する。
【0081】
特定の実施形態において、リチウムは、例えば、スパッタリングを介して、NiWOのCE層に添加される(
図3Bの340を参照されたい)。特定の実施形態では、NiWOを完全に消色するのに十分なリチウムが導入された後に、付加的な量のリチウムが添加される(
図3Bの345を参照されたい)(このプロセスは随意であり、一実施形態において、過剰なリチウムは、プロセスのこの段階では添加されない)。一実施形態において、この付加的な量は、対向電極層を消色するために必要とされる量に基づいて、約5%〜約15%過剰である。別の実施形態において、CE層に添加される過剰なリチウムは、対向電極層を消色するために必要とされる量に基づいて、約10%過剰である。CE層410が成膜され、リチウムで消色され、付加的なリチウムが添加された後に、第2のTCO層412が対向電極層の上に成膜される(
図3Bの350を参照されたい)。一実施形態において、透明伝導性酸化物は、インジウムスズ酸化物を含み、別の実施形態において、TCO層は、インジウムスズ酸化物である。一実施形態において、この第2のTCO層は、約20nm〜約1200nmの厚さであり、別の実施形態では、約100nm〜約600nmの厚さであり、別の実施形態では、約350nmの厚さである。
【0082】
再度
図4Aを参照すると、層状構造400は、完成すると熱化学的調整を受けて、(リチウム拡散または他の機構により、既に変換されていなければ)積層体414aの少なくとも一部がIC層に変換される。積層体414aは、EC層406とCE層410との間に、まだイオン伝導性で電子絶縁性の層(または領域)を有していないので、エレクトロクロミックデバイスではなく前駆体である。この特定の実施例では、機能的エレクトロクロミックデバイス401を作製するために、2ステップのプロセスで、EC層406の一部分がIC層408に変換される。
図3Bを参照すると、層状構造400は、MTCCを受ける(355参照)。一実施形態において、積層体は、最初に、約10分〜約30分間不活性雰囲気(例えば、アルゴン)下で、次いで約1分〜約15分間O
2下で、約150℃〜約450℃に加熱される。別の実施形態において、積層体は、約15分間不活性雰囲気下で、次いで、約5分間O
2下で、約250℃に加熱される。次に、層状構造400は、空気下で加熱を受ける。一実施形態において、積層体は、約20分〜約40分間空気下で、約250℃〜約350℃に加熱される。別の実施形態において、積層体は、約30分間空気下で、約300℃に加熱される。MTCCを実装するために必要なエネルギーは、放射熱エネルギーである必要はない。例えば、一実施形態では、MTCCを実行するために紫外線放射が使用される。本発明の範囲を逸脱することなく、他のエネルギー源も使用され得る。
【0083】
多段階熱化学的調整の後に、プロセスフロー320が完了し、機能的エレクトロクロミックデバイスが作成される。前述したように、また、理論に拘束されることを望むものではないが、積層体414aのリチウムは、EC層406および/またはCE層410の一部分と結合して、IC層として機能する界面領域408を形成すると考えられる。界面領域408は、主にタングステン酸リチウム(Li
2WO
4)であると考えられ、これは、従来のIC層材料と比較して、良好なイオン伝導性および電子絶縁性を有することが知られている。前述のように、この現象がどのようにして起こるのか、まだ正確に知られていない。イオン伝導性で電子絶縁性の領域408をEC層とCE層との間に形成するために、多段階熱化学的調整中に行わなければならない化学反応があるが、例えば前述のようにCE層に添加された過剰なリチウムによって提供される、積層体を通して移動する初期のリチウムフラックスが、IC層408を形成する役割を果たすとも考えられる。イオン伝導性で電子絶縁性の領域の厚さは、用いられる材料および層を形成するためのプロセス条件に応じて変動し得る。いくつかの実施形態において、界面領域408は、約10nm〜約150nmの厚さであり、別の実施形態では、約20nm〜約100nmの厚さであり、他の実施形態では、約30nm〜約50nmの厚さである。
【0084】
前述のように、EC層を作製するための数多くの好適な材料がある。このように、前述した方法で、例えばリチウムまたは他の好適なイオンを使用して、酸素に富むEC材料から出発する、IC層として機能する他の界面領域を作製することができる。この目的に好適なEC材料としては、SiO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、TiO
2、ZrO
2、およびCeO
2が挙げられるが、これらに限定されない。リチウムイオンが使用される特定の実施形態では、ケイ酸リチウム、ケイ酸リチウムアルミニウム、ホウ酸リチウムアルミニウム、フッ化リチウムアルミニウム、ホウ酸リチウム、窒化リチウム、ケイ酸リチウムジルコニウム、ニオブ酸リチウム、ホウケイ酸リチウム、リンケイ酸リチウム、およびその他のそのようなリチウムに基づくセラミック材料、シリカ、またはリチウム酸化ケイ素を含む酸化ケイ素等が挙げられるが、これらに限定されない、イオン伝導性材料を、IC層として機能する界面領域として作製することができる。
【0085】
前述したように、一実施形態において、イオン伝導性領域の前駆体は、本明細書で説明されるように、リチウム化およびMTCCを介して、イオン伝導性で電子絶縁性の領域に転換される、酸素に富む(超化学量論的)層である。理論に拘束されることを望むものではないが、リチウム化に応じて、過剰な酸素が酸化リチウムを形成し、さらに、タングステン酸リチウム(Li
2WO
4)、モリブデン酸リチウム(Li
2MoO
4)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、チタン酸リチウム(Li
2TiO
3)、ジルコニウム酸リチウム(Li
2ZrO
3)等の、リチウム塩、すなわち、リチウム電解質を形成すると考えられる。一実施形態において、界面領域は、酸化タングステン(WO
3+x、0≦x≦1.5)、酸化モリブデン(MoO
3+x、0≦x≦1.5)、酸化ニオブ(Nb
2O
5+x、0≦x≦2)、酸化チタン(TiO
2+x、0≦x≦1.5)、酸化タンタル(Ta
2O
5+x、0≦x≦2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2+x、0≦x≦1.5)、および酸化セリウム(CeO
2+x、0≦x≦1.5)のうちの少なくとも1つを含む。
【0086】
しかしながら、低欠陥性で製作することができ、対向電極層410とエレクトロクロミック層406との間のイオンの通過は可能にするが、電子の通過は実質的に阻止することを可能にするのであれば、あらゆる材料をイオン伝導性の界面領域に使用してもよい。材料は、イオンに対して実質的に伝導性であり、電子に対して実質的に抵抗性であることを特徴としてもよい。一実施形態において、イオン伝導体材料は、約10
−10ジーメンス/cm(またはオーム
−1cm
−1)〜約10
−3ジーメンス/cmのイオン伝導性、および10
5オーム・cmを超える電子抵抗を有する。別の実施形態において、イオン伝導体材料は、約10
−8ジーメンス/cm〜約10
−3ジーメンス/cmのイオン伝導性、および10
10オーム・cmを超える電子抵抗を有する。イオン伝導層は、一般的に、漏れ電流を阻止する(例えば、多くても約15μA/cm
2の漏れ電流を提供する)はずであるが、本明細書で説明されるように製作されるいくつかのデバイスは、例えば約40μΑ/cm
2〜約150μΑ/cm
2という驚くべき高い漏れ電流を有し、さらに、デバイス全体にわたって良好な色変化および効率的な動作を提供することを見出した。
【0087】
前述のように、積層体の形成後に、EC層とCE層との間にイオン伝導性で電子絶縁性の領域を作成する、少なくとも2つの他の方法がある。これらの付加的な実施形態は、酸化タングステンがEC層に使用される特定の実施例に関して、下記で説明する。また、前述のように、IC層の性質を伴う界面領域は、例えばリチウム拡散または熱がEC層および/またはCE層の一部を界面領域に変換するときに、積層体の製作中に原位置で形成され得る。
【0088】
概して、そのプロセスの後にイオン伝導性領域を作成することには一定の利益がある。最初に、イオン伝導性材料は、EC層およびCE層の成膜およびリチウム化中に起こる、苛酷な処理のいくつかから保護され得る。例えば、プラズマ処理によるこれらの層の成膜は、しばしば、積層体の近位で、しばしば約15〜20ボルトの大きい電圧降下を伴う。そのような大きい電圧は、敏感なイオン伝導性材料に損傷を与えるか、またはそれを破壊する可能性がある。IC材料の形成をプロセスの後に移行することによって、材料は、潜在的に損傷を与える電圧極値に曝露されない。第2に、プロセスの後の方でIC材料を形成することによって、EC層およびCE層双方の完成前には不可能である、いくつかのプロセス条件に対して良好な制御を有し得る。これらの条件としては、電極間のリチウム拡散および電流の流れが挙げられる。プロセスの後の方でこれらの、および他の条件を制御することで、IC材料の物理的および化学的性質を特定の適用に合わせるためのさらなる柔軟性を提供する。したがって、本発明の利益の全てが、IC層としての機能を果たす一意の界面領域に起因しているというわけではなく、すなわち、製造およびその他による利益もある。
【0089】
本明細書で説明される実施形態のいくつかに従って形成されるイオン伝導性材料は、IC層を形成するための従来の方法(例えば、IC材料ターゲットからのPVD)を使用して製作されたデバイスと比較したときに、優れた性能を有することが観察された。例えば、本デバイスのスイッチング速度は、非常に速く、従来のデバイスが20〜25分以上であることに比較して、終了状態の約80%を達成するまでに、10分未満であり、一実施例では、約8分であることが見出された。いくつかの事例において、本明細書で説明されるデバイスは、従来のデバイスよりも数桁程度良好なスイッチング速度を有する。これは、おそらく、例えばECと界面領域との間の、および/またはCEと界面領域との間の、界面領域および/または勾配界面に配置される、より多量の容易に移動可能なリチウムに起因する。そのようなリチウムは、界面領域に存在するIC相とともに混在するEC相および/またはCE相にあり得る。また、おそらく、界面領域に存在するIC材料の比較的に薄い層またはネットワークにも起因する。この見解の裏付けとして、本明細書の教示に従って製作されるいくつかのデバイスが、高い漏れ電流を有すること、さらに驚くべきことに、良好な色変化および良好な有効性を呈することが観察された。一部の場合では、確実に機能するデバイスの漏れ電流密度が、少なくとも約100μΑ/cm
2であることが見出された。
【0090】
次に
図4Bを参照すると、第2の実施形態において、最初に配置された積層体414bのEC材料は、実際は2つの層である。すなわち、
図4Aの層406に類似しているが、約350nm〜約450nmの厚さであり、タングステンターゲットと、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のAr含む第1のスパッタガスとを使用してスパッタリングされる、第1のWO
3層406、および約100nm〜約200nmの厚さであり、タングステンターゲットと、約70%〜100%のO
2および0%〜約30%のArを含む第2のスパッタガスとを使用してスパッタリングされる、第2のWO
3層405である。この実施形態において、熱は、第1のWO
3層406の成膜中に、基材402を、少なくとも断続的に約150℃〜約450℃に加熱することによって印加されるが、第2のWO
3層405の成膜中には印加されないか、または実質的に印加されない。より具体的な実施形態において、層406は、約400nmの厚さであり、第1のスパッタガスは、約50%〜約60%のO
2および約40%〜約50%のArを含み、第2のWO
3層405は、約150nmの厚さであり、第2のスパッタガスは、実質的に純O
2である。この実施形態において、熱は、第1のWO
3層406の成膜中に、少なくとも断続的に約200℃〜約350℃に印加されるが、第2のWO
3層405の成膜中には、印加されないか、または実質的に印加されない。このようにして、第1のWO
3層は、実質的に多結晶であるが、第2のWO
3層は、必ずしもそうではない。
【0091】
再度
図4Bを参照すると、
図3Bおよび
図4Aに関連して前述したように、積層体は、ブラインド電荷をほぼまたは実質的に満たすようにEC層406および405をリチウム化し、CE層410を成膜し、CE層を消色状態までリチウム化し、付加的なリチウムを添加し、そして、第2のTCO層412を成膜することによって完成され、層状の積層体403が完成する。層状の積層体407、すなわち、イオン伝導性で電子絶縁性の領域408aを含む機能エレクトロクロミックデバイスを提供するために、類似した熱化学的調整が、層状の積層体403に行われる。理論に拘束されることを望むものではないが、この実施例では、WO
3の酸素に富む層405が、主に、界面領域408aを形成するための前駆体材料源としての役割を果たすと考えられる。この実施例では、酸素に富むWO
3層全体が、界面領域408aに変換されるように表されているが、常に当てはまるわけではない。いくつかの実施形態では、酸素に富む層の一部分だけが変換されて、IC層の機能を果たす界面領域を形成する。
【0092】
次に
図4Cを参照すると、第3の実施形態において、層状の積層体409は、WO
3の勾配組成を有し、かつ積層体414cの一部として形成される、EC層406aを含み、この勾配組成は、様々なレベルの酸素を含む。1つの限定的でない実施例において、EC−CE層(410)の界面でのEC層406a中の酸素濃度は、例えば、TCO層404とEC層406aとの界面での濃度よりも高い。
【0093】
一実施形態において、EC層406aは、勾配組成のWO
3層であり、約500nm〜約600nmの厚さであり、タングステンターゲットと、スパッタガスであって、エレクトロクロミック層のスパッタリングの開始時に、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のArを含み、エレクトロクロミック層のスパッタリングの終了時に、約70%〜100%のO
2および0%〜約30%のArを含む、スパッタガスを使用して、スパッタリングされ、熱は、EC層406aの形成の開始時に、例えば基材402に、少なくとも断続的に約150℃〜約450℃に印加されるが、EC層406aの少なくとも最終部分の成膜中には、印加されないか、または実質的に印加されない。より具体的な実施形態において、勾配組成のWO
3層は、約550nmの厚さであり、スパッタガスは、エレクトロクロミック層のスパッタリングの開始時に、約50%〜約60%のO
2および約40%〜50%のArを含み、スパッタガスは、エレクトロクロミック層のスパッタリング終了時に、実質的に純O
2であり、熱は、エレクトロクロミック層の形成の開始時に、例えば基材402に、少なくとも断続的に約200℃〜約350℃に印加されるが、エレクトロクロミック層の少なくとも最終部分の成膜中には、印加されないか、または実質的に印加されない。一実施形態において、熱は、成膜の開始時に、説明された温度範囲で印加され、徐々に印加を減少させ、EC層の約半分が成膜された時点で熱の印加を止める一方で、スパッタガスの組成は、EC層の成膜中に実質的に線形速度で、約50%〜約60%のO
2および約40%〜約50%のアルゴンから、最終的には実質的に純O
2に調整される。
【0094】
より一般的には、界面領域は、必ずではないが、典型的に、異なる相および/または組成によって表される少なくとも2つの別個の成分を含む、不均一構造を有する。さらに、界面領域は、イオン伝導性材料およびエレクトロクロミック材料(例えば、タングステン酸リチウムおよび酸化タングステンの混合物)等の勾配をこれらの2つ以上の別個の成分に含んでもよい。勾配は、例えば、可変組成微細構造、比抵抗、ドーパント濃度(例えば、酸素濃度)、化学量論、密度、および/または粒度状態を提供し得る。勾配は、線状遷移、シグモイド遷移、ガウス遷移等を含む、多数の異なる遷移形態を有してもよい。一実施例において、エレクトロクロミック層は、超化学量論的酸化タングステン領域に遷移する、酸化タングステン領域を含む。超化学量論的酸化物領域の一部または全部が、界面領域に変換される。最終構造において、酸化タングステン領域は、実質的に多結晶であり、微細構造は、界面領域で実質的に非晶質に遷移する。別の実施例において、エレクトロクロミック層は、ニオブ(超化学量論的)酸化物領域に遷移する、酸化タングステン領域を含む。酸化ニオブ領域の一部または全部は、界面領域に変換される。最終構造において、酸化タングステン領域は、実質的に多結晶であり、微細構造は、界面領域で実質的に非晶質に遷移する。
【0095】
再度
図4Cを参照すると、
図3Bおよび4Aに関連して前述したように、積層体は、ブラインド電荷をほぼまたは実質的に満たすようにEC層406aをリチウム化し、CE層410を成膜し、CE層を消色状態までリチウム化し、付加的なリチウムを添加し、そして、第2のTCO層412を成膜することによって完成され、層状の積層体409が完成する。層状の積層体411、すなわち、イオン伝導性で電子絶縁性の領域408bと、機能エレクトロクロミックデバイス411のEC層としての役割を果たす元の勾配EC層406aの少なくとも一部分とを含む、機能エレクトロクロミックデバイスを提供するために、類似した多段階熱化学的調整が、層状の積層体409に行われる。理論に拘束されることを望むものではないが、この実施例では、WO
3の傾斜層の一番上の酸素に富む部分が、主に、勾配界面領域408bを形成すると考えられる。理論に拘束されることを望むものではないが、界面領域の形成は、自己制限性で、かつ積層体中の酸素、リチウム、エレクトロクロミック材料、および/または対向電極材料の相対量に依存することがあり得る。
【0096】
本明細書で説明される種々の実施形態において、エレクトロクロミック積層体は、一定の処理段階中に加熱されない、または実質的に加熱されないものとして説明されている。一実施形態において、積層体は、加熱ステップの後に、(例えば、ヒートシンクを使用して)能動的または受動的に冷却される。本発明の装置は、能動的または受動的冷却構成要素を含み、例えば、能動的冷却は、流体循環を介して冷却されるプラテン、(例えば、膨張によって)冷却したガスへの曝露を介した冷却、冷蔵ユニット等を含むことができる。受動的冷却構成要素は、金属塊等のヒートシンクを含むことができるか、または、熱への曝露から基材を除去する。
【0097】
本発明の別の態様は、エレクトロクロミックデバイスを製作する方法であり、該方法は、(a)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層、または対向電極材料を含む対向電極層のいずれかを形成することと、(b)エレクトロクロミック層または対向電極層の上に中間層を形成することであって、酸素に富む形態のエレクトロクロミック材料、対向電極材料、および付加的な材料のうちの少なくとも1つを含み、付加的な材料は、異なるエレクトロクロミック材料および/または対向電極材料を含み、実質的に電子絶縁性ではない中間層を形成することと、(c)エレクトロクロミック層および対向電極層のうちの他方を形成することと、(d)中間層の少なくとも一部分が、実質的に電子絶縁性になることを可能にすることと、を含む。一実施形態において、エレクトロクロミック材料は、WO
3である。別の実施形態において、(a)は、タングステンターゲットと、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のArを含む第1のスパッタガスとを使用して、約350nm〜約450nmの厚さに達するようにWO
3をスパッタリングすることと、エレクトロクロミック層の形成中に、少なくとも断続的に約150℃〜約450℃に加熱することと、を含む。別の実施形態において、(b)は、加熱せずに、タングステンターゲットと、約70%〜100%のO
2および0%〜約30%のArを含む第2のスパッタガスとを使用して、約100nm〜約200nmの厚さに達するようにWO
3をスパッタリングすることを含む。さらに別の実施形態において、本方法は、ブラインド電荷がほぼまたは実質的に満たされるまで、リチウムを中間層の上にスパッタリングすることをさらに含む。一実施形態において、対向電極層は、約150nm〜約300nmの厚さのNiWOを含む。別の実施形態において、リチウムは、対向電極層が消色されるまで、対向電極層の上にスパッタリングされる。別の実施形態では、対向電極層を消色するために必要とされる量に基づいて約5%〜約15%過剰な付加的な量のリチウムを、対向電極層上にスパッタリングする。別の実施形態では、透明伝導性酸化物層が、対向電極層の上に成膜される。一実施形態において、透明伝導性酸化物は、インジウムスズ酸化物を含み、別の実施形態において、透明伝導性酸化物は、インジウムスズ酸化物である。別の実施形態において、前述した実施形態によって形成された積層体は、約10分〜約30分間Ar下で、次いで約1分〜約15分間O
2下で、約150℃〜約450℃に加熱され、そして、約20分〜約40分間空気下で、約250℃〜約350℃に加熱される。
【0098】
別の実施形態において、(a)は、式MO
xの第1のエレクトロクロミック材料をスパッタリングすることを含み(式中、Mは、金属またはメタロイド元素であり、xは、Mに対する化学量論的酸素の比率を示す)、(b)は、中間層として、式NO
yの第2のエレクトロクロミック材料をスパッタリングすることを含む(式中、Nは、同じもしくは異なる金属、または半金属元素であり、yは、Nに対する化学量論的酸素量の比率を示す)。一実施形態において、Mは、タングステンであり、Nは、タングステンである。別の実施形態において、Mは、タングステンであり、Nは、ニオブ、シリコーン、タンタル、チタン、ジルコニウム、およびセリウムから成る群から選択される。
【0099】
本発明の別の実施形態は、エレクトロクロミックデバイスであり、該エレクトロクロミックデバイスは、(a)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層と、(b)対向電極材料を含む対向電極層と、(c)エレクトロクロミック層と対向電極層との間の界面領域と、を含み、界面領域は、電子絶縁性でイオン伝導性の材料、ならびにエレクトロクロミック材料、対向電極材料、および付加的な材料のうちの少なくとも1つを含み、付加的な材料は、異なるエレクトロクロミック材料または対向電極材料を含む。
【0100】
一実施形態において、電子絶縁性でイオン伝導性の材料、ならびにエレクトロクロミック材料、対向電極材料、および付加的な材料のうちの少なくとも1つは、界面領域内に実質的に一様に分布する。別の実施形態において、電子絶縁性でイオン伝導性の材料、ならびにエレクトロクロミック材料、対向電極材料、および付加的な材料のうちの少なくとも1つは、層に対して垂直な方向に組成勾配を含む。2つの前述した実施形態のいずれかに従う別の実施形態において、電子絶縁性でイオン伝導性の材料は、タングステン酸リチウムを含み、エレクトロクロミック材料は、酸化タングステンを含み、対向電極材料は、ニッケルタングステン酸化物を含む。前述した実施形態の具体的な実装では、いかなる付加的な材料もない。一実施形態において、エレクトロクロミック層は、約300nm〜約500nmの厚さであり、界面領域は、約10nm〜約150nmの厚さであり、対向電極層は、約150nm〜約300nmの厚さである。別の実施形態において、エレクトロクロミック層は、約400nm〜約500nmの厚さであり、界面領域は、約20nm〜約100nmの厚さであり、対向電極層は、約150nm〜約250nmnmの厚さである。さらに別の実施形態において、エレクトロクロミック層は、約400nm〜約450nmの厚さであり、界面領域は、約30nm〜約50nmの厚さであり、対向電極層は、約200nm〜約250nmnmの厚さである。
【0101】
別の実施形態は、エレクトロクロミックデバイスを製作する方法であて、該方法は、約40%〜約80%のO
2および約20%〜約60%のArを含むスパッタガスで、約500nm〜約600nmの厚さまでWO
3を生成するように、タングステンターゲットをスパッタリングすることであって、WO
3がその上に成膜される基材は、エレクトロクロミック層の形成中に、少なくとも断続的に約150℃〜約450℃に加熱される、成膜することと、ブラインド電荷が満たされるまで、リチウムをエレクトロクロミック層の上にスパッタリングすることと、最初にイオン伝導性で電子絶縁性の層をエレクトロクロミック層と対向電極層との間に提供せずに、エレクトロクロミック層上に対向電極層を成膜することであって、対向電極層は、NiWOを含む、成膜することと、対向電極層が実質的に消色されるまで、リチウムを対向電極層の上にスパッタリングすることと、エレクトロクロミック層と対向電極層との間に界面領域を形成することであって、実質的にイオン伝導性で、かつ実質的に電子絶縁性である界面領域を形成することと、を含む。一実施形態において、界面領域を形成することは、積層体単独の、または基材、伝導層、および/もしくはカプセル化層を伴ったMTCCを含む。
【0102】
本発明のエレクトロクロミックデバイスは、例えば、一定の光学性質を改善する、耐湿性または耐スクラッチ性を提供する、エレクトロクロミックデバイスを密閉する等のために、1つ以上の不活性層等の1つ以上の付加的な層(図示せず)を含むことができる。必ずではないが、典型的に、キャッピング層は、エレクトロクロミック積層体上に成膜される。いくつかの実施形態において、キャッピング層は、SiAlOである。いくつかの実施形態において、キャッピング層は、スパッタリングによって成膜される。一実施形態において、キャッピング層の厚さは、約30nm〜約100nmである。
【0103】
前述した論議から、本発明のエレクトロクロミックデバイスは、例えば、酸素およびアルゴンスパッタガスとともに、タングステンターゲット、ニッケルターゲット、およびリチウムターゲットを有する、単一のチャンバ装置、例えばスパッタツールで作製することができることを認識されたい。前述したように、従来の異なるIC層の目的に役立つように形成される界面領域の性質のため、IC層をスパッタリングするための別のターゲットは不要である。発明者らは、例えば高スループットの様式で、本発明のエレクトロクロミックデバイスを製作することに特に関心があり、したがって、基材が一体型成膜システムを通過するにつれて、逐次的に本発明のエレクトロクロミックデバイスを製作することができる装置を有することが望ましい。例えば、発明者らは、エレクトロクロミックデバイスを窓に、特に(前掲の)建築用ガラススケール窓上に製作することに特に関心がある。
【0104】
したがって、本発明の別の態様は、エレクトロクロミックデバイスを製作するための装置であり、該装置は、(i)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を成膜するように構成される、材料源を含む第1の成膜ステーション、および(ii)対向電極材料を含む対向電極層を成膜するように構成される、第2の成膜ステーションを含む、一体型成膜システムと、積層体を基材上に逐次的に成膜する様式で、第1および第2の成膜ステーションに基材を通過させるためのプログラム命令を含むコントローラであって、該積層体は、エレクトロクロミック層と対向電極層との間に挟まれる中間層を有する、コントローラと、を含み、第1の成膜ステーションおよび第2の成膜ステーションの一方または双方は、エレクトロクロミック層または対向電極層の上に中間層を成膜するように構成され、中間層は、酸素に富む形態のエレクトロクロミック材料または対向電極材料を含み、第1および第2の成膜ステーションは、直列に相互接続され、基材を外部環境に曝露せずに、一方のステーションから次のステーションまで基材を通過させるように動作可能である。一実施形態において、本発明の装置は、真空を中断せずに一方のステーションから次のステーションまで基材を通過させるように動作可能であり、また、リチウム含有材料源からのリチウムをエレクトロクロミックデバイスの1つ以上の層上に成膜するように動作可能な、1つ以上のリチウム化ステーションを含んでもよい。一実施形態において、本発明の装置は、エレクトロクロミック積層体を建築用ガラス基材上に成膜するように動作可能である。
【0105】
一実施形態において、本装置は、真空を中断せずに一方のステーションから次のステーションまで基材を通過させるように動作可能である。別の実施形態において、本一体型成膜システムは、リチウム含有材料源からのリチウムをエレクトロクロミック層、中間層、および対向電極層のうちの1つ以上に成膜するように動作可能な、1つ以上のリチウム化ステーションをさらに含む。さらに別の実施形態において、本一体型成膜システムは、積層体を建築用ガラス基材上に成膜するように動作可能である。別の実施形態において、本一体型成膜システムは、建築用ガラス基材を一体型成膜システムに通過させる間、垂直配向に保持するように動作可能な、基材保持具および搬送機構をさらに含む。別の実施形態において、本装置は、基材を外部環境と一体型成膜システムとの間に通過させるための、1つ以上のロードロックをさらに含む。別の実施形態において、本装置は、1つ以上のリチウム成膜ステーションが、第1の成膜ステーションおよび第2の成膜ステーションのうちの少なくとも1つから分離することを可能にするように動作可能な、少なくとも1つのスリット弁をさらに含む。一実施形態において、本一体型成膜システムは、基材を加熱するように構成される、1つ以上のヒーターを含む。
【0106】
図5は、より詳細な内部の切欠図を伴う斜視図で、一体型成膜システム500の簡略表現を表す。この実施例において、システム500は、モジュール式であり、入口ロードロック502および出口ロードロック504は、成膜モジュール506に接続される。例えば、建築用ガラス基材525を装填するための入口ポート510がある(ロードロック504は、対応する出口ポートを有する)。基材525は、パレット520によって支持され、トラック515に沿って進行する。この実施例において、パレット520は、吊り下げによりトラック515によって支持されるが、パレット520はまた、装置500の底部の近くに位置するトラックの上、または例えば、装置500の頂部と底部との間の中途にあるトラックの上で支持することもできる。パレット520は、システム500を通して前方および/または後方に(両側矢印によって指示されるように)平行移動することができる。例えば、リチウムの成膜中に、所望のリチウム化を達成するために、基材をリチウムターゲット530の前で前方および後方に移動させて、複数回通過させてもよい。この機能は、リチウムターゲットに限定されず、例えば、タングステンターゲットを基材に複数回通過させるか、または基材をタングステンターゲットの前に前進/後退運動により通過させて、例えば、エレクトロクロミック層を成膜してもよい。パレット520および基材525は、実質的に垂直配向である。実質的に垂直配向に限定していないが、垂直配向は、例えばスパッタリングによる原子の凝集によって発生し得る粒子状物質が重力に負けて、したがって基材525上に沈着しなくなる傾向があるので、欠陥の防止に役立ち得る。また、建築用ガラス基材は、大型になる傾向があるので、基材が一体型成膜のステーションを横断するときにそれを垂直に配向することは、より薄い高温ガラスで起こるたるみ対する懸念が少なくなり、より薄いガラス基材の被覆を可能にする。
【0107】
ここでは円筒ターゲットであるターゲット530は、成膜が行われる基材表面に対して実質的に平行に、かつその前に配向される(便宜上、ここでは他のスパッタ手段は表されない)。基材525は、成膜中にターゲット530を通り過ぎて平行移動させることができ、および/またはターゲット530を、基材525の前を移動させることができる。ターゲット530の運動経路は、基材525の経路に沿った平行移動に限定されない。ターゲット530は、その長さを通る軸に沿って回転させる、基材の経路に沿って(前方および/または後方に)平行移動させる、基材の経路に垂直な経路に沿って平行移動させる、基材525に平行な面の中を円形の経路で移動させる等を行ってもよい。ターゲット530は、円筒である必要はなく、平面とするか、または所望の性質を伴う所望の層の成膜に必要なあらゆる形状とすることができる。また、各成膜ステーションには2つ以上のターゲットがあってもよく、および/または所望のプロセスに応じてターゲットをステーションからステーションまで移動させてもよい。本発明の一体型成膜システムの種々のステーションは、モジュール式であってもよいが、接続したときに、システム内の種々のステーションで基材を処理するために、制御された周囲環境が確立されて、維持される連続システムを形成する。
【0108】
一体型成膜システム500を使用してどのようにエレクトロクロミック材料が成膜されるのかという、より詳細な態様は、前掲した、米国特許出願第12/645,111号および第12/645,159号で説明されている。
【0109】
一体型成膜システム500は、システム内の制御された周囲環境を確立して、維持する、種々の真空ポンプ、ガス入口、圧力センサ等も有する。これらの構成要素は、図示されないが、当業者には理解されるであろう。システム500は、例えば、
図5においてLCDおよびキーボード535によって表される、コンピュータシステムまたは他のコントローラを介して制御される。当業者は、本発明の実施形態が、1つ以上のコンピュータシステムに記憶された、またはそれを通して転送されるデータを伴う種々のプロセスを用い得ることを認識するであろう。本発明の実施形態は、これらの動作を行うためのそのようなコンピュータおよびマイクロコントローラにも関する。これらの装置およびプロセスは、本発明の方法のエレクトロクロミック材料を成膜するために用いられてもよく、また、そのような材料を実装するように設計された装置であってもよい。本発明の制御装置は、必要とされる目的のために特別に構築されてもよく、またはコンピュータプログラムおよび/もしくはコンピュータに記憶されたデータ構造によって選択的に起動または再構成される、汎用コンピュータであってもよい。本明細書で提示されるプロセスは、本質的に、任意の特定のコンピュータまたは他の装置に関連しない。具体的には、種々の汎用機械が、本明細書の教示に従って書かれたプログラムで使用されてもよく、または必要とされる方法およびプロセスを行うおよび/もしくは制御するために、より特殊化した装置を構築することがより好都合であり得る。
【0110】
前述した説明、特に
図3A〜3Bから、本発明の方法によれば、エレクトロクロミックデバイスを作製することができるだけでなく、例えば本明細書で説明されるように、一部の場合において、以降の処理によってエレクトロクロミックデバイスに変換することができる、層状の積層体、例えば400、403、および409を事前に作成することもできる。機能エレクトロクロミックデバイスではないが、EC層とCE層との間にイオン伝導性で電子絶縁性の領域を有しないことにより、そのような「エレクトロクロミックデバイス前駆体」が、特に有用性のあるものになり得る。これは、特に、デバイス前駆体が本明細書で説明されるように高純度で一体型処理装置において製造させる場合に当てはまり、材料層は、例えば真空が決して中断されることのない、制御された周囲環境下で全てが成膜される。このようにして、高純度で低欠陥の材料が積み重ねられ、一体型システムを出る前に、最終的に、例えば、最後のTCO層によって、および/またはキャッピング層によって本質的に「密閉」される。
【0111】
前述した本発明のエレクトロクロミックデバイスと同様に、エレクトロクロミックデバイス前駆体は、例えば、一定の光学性質を改善する、耐湿性または耐スクラッチ性を提供する、エレクトロクロミックデバイス前駆体を密閉する等のために、1つ以上の不活性層等の1つ以上の付加的な層(図示せず)を含むことができる。一実施形態において、キャッピング層は、前駆体積層体のTCO層上に成膜される。いくつかの実施形態において、キャッピング層は、SiAlOである。いくつかの実施形態において、キャッピング層は、スパッタリングによって成膜する。一実施形態において、キャッピング層の厚さは、約30nm〜約100nmである。キャップ層を定位置に伴う以降の処理は、環境からの混入を伴わずに、すなわち、キャッピング層の付加的な保護を伴って、IC層を形成する。
【0112】
積層体構造内部が外部環境から保護されており、また、前駆体積層体を機能デバイスに変換するための最後の調整ステップには、それほど厳しい純度条件が必要ではないので、機能エレクトロクロミックデバイスへの変換は、所望であれば、一体型システムの外側で生じさせることができる。そのような積層エレクトロクロミックデバイス前駆体は、例えば、必要なときにだけエレクトロクロミックデバイスに変換するため、寿命がより長くなることや、例えば、変換パラメータが改善されたとき、もしくは最終製品のニーズおよび従うべき品質標準に応じて変換するために、異なる変換チャンバおよび/または顧客の場所に送られるときに貯蔵して、使用することができる、単一の前駆体積層体を有することによる柔軟性、といった利点を有することができる。また、そのような前駆体積層体は、試験目的、例えば、品質制御または研究努力に有用である。
【0113】
故に、本発明の一実施形態は、エレクトロクロミックデバイス前駆体であり、該前駆体は、(a)基材と、(b)基材上の第1の透明伝導性酸化物層と、(c)第1の透明伝導性酸化物層上の積層体であって、該積層体が、(i)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層、および(ii)対向電極材料を含む対向電極層を含み、該積層体が、エレクトロクロミック層と対向電極層との間にイオン伝導性で電子絶縁性の領域を含まない、積層体と、(d)積層体の上の第2の透明伝導性酸化物層と、を含む。一実施形態において、エレクトロクロミック層は、酸化タングステンを含み、対向電極層は、ニッケルタングステン酸化物を含む。一実施形態において、積層体およびエレクトロクロミック層のうちの少なくとも1つは、リチウムを含有する。別の実施形態において、エレクトロクロミック層は、少なくとも対向電極層との界面に超化学量論的酸素含量を伴う、酸化タングステンである。別の実施形態において、積層体は、対向電極層とエレクトロクロミック層との間にIC前駆体層を含み、IC前駆体層は、エレクトロクロミック層の含量よりも多い酸素含量を伴う、酸化タングステンを含む。EC層とCE層との間にIC前駆体層がない一実施形態において、エレクトロクロミック層は、約500nm〜約600nmの厚さであり、対向電極層は、約150nm〜約300nmの厚さである。EC層とCE層との間にIC前駆体層がある別の実施形態において、エレクトロクロミック層は、約350nm〜約400nmの厚さであり、IC前駆体層は、約20nm〜約100nmの厚さであり、対向電極層は、約150nm〜約300nmの厚さである。一実施形態において、本明細書で説明される前駆体デバイスは、機能エレクトロクロミックデバイスに変換するために、加熱に曝露される。一実施形態において、加熱は、MTCCの一部である。
【0114】
別の実施形態は、エレクトロクロミックデバイスであり、該エレクトロクロミックデバイスは、(a)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層と、(b)対向電極材料を含む対向電極層と、を含み、本デバイスは、エレクトロクロミック層と対向電極層との間に電子絶縁性でイオン伝導性の材料の組成的に均一な層を含有しない。一実施形態において、エレクトロクロミック材料は、酸化タングステンであり、対向電極材料は、ニッケルタングステン酸化物であり、エレクトロクロミック層と対向電極層との間には、タングステン酸リチウムと、酸化タングステンおよびニッケルタングステン酸化物のうちの少なくとも1つとの混合物を含む界面領域がある。別の実施形態において、エレクトロクロミック層は、約300nm〜約500nmの厚さであり、界面領域は、約10nm〜約150nmの厚さであり、対向電極層は、約150nm〜約300nmの厚さである。
【実施例】
【0115】
図6は、本発明のエレクトロクロミックデバイスを製作するためのプロトコルとして使用される、プロセスフローのグラフである。y軸の単位は、光学密度であり、x軸の単位は、時間/プロセスフローである。この実施例において、エレクトロクロミックデバイスは、
図4Aに関連して説明したものに類似して製作され、基材は、第1のTCOとして、フッ素化酸化スズを有するガラスであり、EC層は、マトリクス中に過剰な酸素を伴うWO
3(例えば、タングステンターゲットと、約60%のO
2および約40%のArのスパッタガスとを使用してスパッタリングしたもの)であり、CE層は、EC層の上に形成されて、NiWOで作製され、第2のTCOは、インジウムスズ酸化物(ITO)である。リチウムは、エレクトロクロミック遷移のためのイオン源として使用される。
【0116】
光学密度は、エレクトロクロミックデバイスの製作における終了点を判定するために使用する。グラフの原点から始まり、光学密度は、EC層のWO
3が基材上に成膜される(ガラス+TCO)につれて測定される。ガラス基材の光学密度は、約0.07(吸光度単位)の基準光学密度値を有する。酸化タングステンは、実質的に透明であるが、一部の可視光を吸収するので、光学密度は、EC層が構築されるにつれてその地点から増加する。前述した約550nmの厚さという所望の厚さの酸化タングステン層の場合、光学密度は、約0.2まで上昇する。酸化タングステンのEC層の成膜後に、リチウムは、「Li」で表される第1の期間によって示されるように、EC層上にスパッタリングされる。この期間中に、光学密度は、曲線に沿ってさらに約0.4まで増加し、これは、酸化タングステンのブラインド電荷が満足されたことを示し、リチウムが添加されるにつれて、酸化タングステンが着色する。「NiWO」で表される期間は、NiWO層の成膜を示し、その間、NiWOが着色されるので、光学密度が増加する。光学密度は、NiWO成膜中に、約230nmの厚さのNiWO層の添加に対して、約0.4から約0.9までさらに増加する。NiWO層が成膜されるときに、一部のリチウムがEC層からCE層に拡散し得ることに留意されたい。これは、NiWOの成膜中に、または少なくとも成膜の初期段階中に、光学密度を比較的低い値に維持する役割を果たす。
【0117】
「Li」で表される第2の期間は、NiWOのEC層へのリチウムの添加を示す。NiWOのリチウム化がNiWOを消色するので、光学密度は、この段階中に約0.9から約0.4に減少する。リチウム化は、NiWOが消色されるまで行われ、約0.4という極小値の光学密度を含む。WO
3層がさらにリチウム化されて、光学密度を補償するので、光学密度は、約0.4で最低値になる。次に、「過剰Li」という期間によって示されるように、付加的なリチウムがNiWO層の上にスパッタリングされる。この実施例では、NiWOを消色するために添加されたリチウムと比較して、約10%の付加的なリチウムである。光学密度は、この段階中にわずかに増加する。次に、グラフにおいて「ITO」で示されるように、インジウムスズ酸化物のTCOが添加される。光学密度は、インジウムスズ酸化物層の形成中に、再度、約0.6までわずかに上昇し続ける。次に、「MSTCC」で表される期間によって示されるように、デバイスは、約15分間Ar下で、次いで、約5分間O
2下で、約250℃に加熱される。次いで、デバイスは、約30分間空気下で、約300℃でアニールされる。この間に、光学密度は、約0.4まで減少する。したがって、光学密度は、本発明のデバイスを製作するための、例えば、成膜された材料および形態に基づいて層の厚さを判定するための、ならびに特に、ブラインド電荷を満たすための、および/または消色状態に到達させるための種々の層へのリチウムを滴定するための有用なツールである。
【0118】
図7は、
図6に関連して説明されるプロトコルと一致する、本発明の方法を使用して製作されるエレクトロクロミックデバイス700の断面のTEMを示す。デバイス700は、エレクトロクロミック積層体714がその上に形成される、ガラス基材702を有する。基材702は、第1のTCOとしての役割を果たす、ITO層704を有する。酸化タングステンEC層706は、TCO704上に成膜される。層706、すなわち、
図6に関連して前述したように酸素およびアルゴンとともにタングステンをスパッタリングすることによって形成したWO
3を、約550nmの厚さに形成した。リチウムをEC層に添加した。次いで、NiWOのCE層710を、約230nmの厚さに添加し、続いて、リチウムを添加して消色し、次いで、約10%過剰なリチウムを添加した。最後に、インジウムスズ酸化物層712を成膜し、積層体には、
図4Aに関連して前述したように多段階熱化学的調整を受けさせた。MSTCCの後、TEMで撮影した。示されるように、イオン伝導性で電子絶縁性の新しい領域708が形成されている。
【0119】
図7は、種々の層に関する5つの制限視野電子回折(SAED)パターンも示す。最初に、704aは、ITO層が高結晶質であることを示している。パターン706aは、EC層がポリ結晶質であることを示している。パターン708aは、IC層が実質的に非晶質であることを示している。パターン710aは、CE層が多結晶であることを示している。最後に、パターン712aは、インジウムスズ酸化物のTCO層が高結晶質であることを示している。
【0120】
図8Aから
図8Cは、走査透過電子顕微鏡法(STEM)によって分析した、本発明のデバイス800の断面である。この実施例において、デバイス800は、
図4Bに関連して説明されるプロトコルと一致する、本発明の方法を使用して製作した。デバイス800は、ガラス基材(参照番号なし)上に形成されたエレクトロクロミック積層体である。ガラス基材上には、フッ素化酸化スズ層804があり、この層は、第1のTCO(あるときには、透明電子伝導体について「TEC」層と呼ばれる)としての役割を果たす。酸化タングステンEC層806は、TCO804上に成膜した。この実施例において、層806、すなわち、
図6に関連して前述したように酸素およびアルゴンとともにタングステンをスパッタリングすることによって形成したWO
3を、約400nmの厚さに形成し、次いで、酸素に富む前駆体層805を、約150nmの厚さに成膜した。リチウムを層805に添加した。次いで、NiWOのCE層810を、約230nmの厚さに添加し、続いて、リチウムを添加して消色し、次いで、約10%過剰なリチウムを添加した。最後に、インジウムスズ酸化物層812を成膜し、積層体には、
図4Bに関連して前述したように多段階熱化学的調整を受けさせた。MSTCCの後、STEMで撮影した。示されるように、イオン伝導性で電子絶縁性である、新しい領域808が形成されている。この実施例と、
図4Bに関連して説明される実施形態との違いは、
図4Bの類似する層405とは異なり、ここでは、酸素に富む層805が、一部分だけ界面領域808に変換されたことであるこの場合、酸素に富む前駆体層405の150nmのうちの約40nmだけが、イオン伝導層としての役割を果たす領域に変換された。
【0121】
図8Bおよび8Cは、STEMによって分析した、本発明のデバイス800(
図8C)と、多段階熱化学的調整前のデバイス前駆体(
図8B)との「前後」比較を示す。この実施例では、層804〜810(CE〜EC)だけを表している。層には、いくつかの例外を除いて、
図8Aと同じように番号が付されている。
図8Bの破線は、EC層806と酸素に富む層805との界面(
図8Cにおいてより鮮明である)をおおよそ画定するために使用される。再度
図8Bを参照すると、少なくともそこには、808aで示されるように、酸素に富む層805とCE層810との界面に凝集した(約10〜15nmの厚さの領域)リチウムがあるように見える。MTCCの後(
図8C)に、界面領域808が形成されたことは明らかである。
【0122】
前述した本発明は、理解を容易にするためにいくらか詳細に説明してきたが、説明された実施形態は、例示的なものであり、限定するものではないとみなされるべきである。当業者には、添付の特許請求の範囲内で一定の変更および修正を行うことができることが明らかになるであろう。